君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

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011 誰かを探して、誰かは出会う

深見ヒカリたちが半ば無理矢理カードファイト部…もといチーム“シックザール”に入れられてから二日がたった、6月17日の話。

 

 

チームに入った…とは言うものの、今のところ特に活動する予定はまだ無いらしい。

 

 

あの後学校の廊下で会うこともあったが、二人は

 

 

「色々計画中っすよ」

 

「楽しみにしていなさい?」

 

 

そう言ってニヤニヤするばかりだった。

 

 

放課後になり多くの生徒が下校する中、ヒカリはあることに気がついた。

 

 

(…………青葉クン…もう帰ったのかな…)

 

 

普段ならしつこいくらい帰り道で「ヴァンガードをしよう」と言ってくる…ユウトの姿が見えなかった。

 

 

 

 

(………私も帰ろ………)

 

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

「…っく…ターンエンド…」

 

「僕のターンっすね?スタンド&ドロー!!」

 

 

 

ヒカリがちょうど家を出た頃、喫茶ふろんてぃあの中では俺、青葉ユウトと舞原ジュリアンによるカードファイトが行われていた。

 

 

 

「君の手札はもうバレてるっすよ!………魔神侯爵アモン“Я”から“エコー・オブ・ネメシス”にライドっす!」

 

 

「エコー・オブ・ネメシス?」

 

 

初めて見るユニットだったが、テキストはすぐに読めた。

 

そして分かってしまった。

 

 

 

ーーあ、死んだ…とーー

 

 

「ネメシスの後ろに“ドリーン・ザ・スラスター”をコールっす」

 

 

俺とジュリアンのダメージは互いに5点。

 

 

「そしてネメシスの右隣に“媚態のサキュバス”をコールしてスキル発動……一枚分ソウルチャージっす…ドリーンのスキルでドリーンにパワー+3000」

 

 

山札からソウルにヒールトリガーらしきユニットが飲み込まれる。

 

前のターン…俺はテンペストボルトドラゴンのスキルで“全ての”リアガードを退却させていた。

 

本当はそのターンで決めるつもりでした。はい。

 

 

 

 

「エコー・オブ・ネメシスのスキル…ソウルの“アモンの眷族 ヘルズ・トリック”でソウルブラスト…2枚分ソウルチャージして、ドリーンは自身のスキルでさらに

パワー+6000っすよ」

 

 

今、俺の手札には完全ガードが2枚、グレード3のテンペストボルトドラゴンが1枚、グレード2のサンダーブームドラゴンが1枚…最後にクリティカルトリガーのイエロージャムカーバンクルが2枚あった。

 

そしてリアガードの前列に、テンペストボルトのスキル発動後にコールした抹消者 スパークレイン・ドラゴンが2枚…

 

 

「“グウィン・ザ・リッパー”をコールっす、スキルでCB2!“抹消者 スパークレイン・ドラゴン”を退却っす!」

 

 

いや…1枚ある。

 

 

 

「さあ!行くっすよ!!リアガードのグウィンでリアガードのスパークレイン・ドラゴンにアタックっす!」

 

「…………ノーガードだ」

 

ああ…インターセプトで守ることもできなくなった。

 

 

 

「その様子だともう分かってるっすよね?ネメシスのスキル!!ソウルが………10枚以上あるっすからパワー+10000,そして!グレード1以上のユニットはガードに使えないっす!!………ドリーンのブースト、ネメシスでヴァンガードにアタック!パワーは36000っすよ!」

 

 

「………ノーガードです」

 

ああ、守れない。

 

 

「ドライブチェック!………アモンの眷族 フェイト・コレクター!クリティカルトリガーっす!効果は全てヴァンガードに!セカンドチェック……同じくクリティカル、効果の対象も同じくっすよ!!」

 

 

 

 

「ダ、ダブクリ……」

 

 

 

こうして、ヒールトリガーが出ることもなく俺は負けてしまった。

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

俺はジュリアンとのフェイトを終えて、喫茶ふろんてぃあのチーズケーキを食べていた。

 

いつ食べてもここのケーキは美味い。

 

………なのに何でいつも閑古鳥が絶叫しているのだろうか。

 

 

 

 

「どうしたら強くなれんのかなぁ…」

 

 

 

俺はそっとため息をつく。

 

 

 

「と、いってもそろそろ初心者の壁は越えられると思うっすよ」

 

「そうか?」

 

 

ジュリアンはレアチーズケーキ(4皿目)を食べていた手を止めた。

 

 

 

「“シールド値”の要求も意識できているみたいっすから」

 

 

確かに最近は相手のVのパワーを考えて、ユニットのパワーを上げるようにはしている。

 

 

 

「後は取り敢えず手札の公開、非公開を意識することっすね」

 

 

「そういえば、さっき“手札がバレてる”って言ってたな」

 

 

「そう、あの時、青葉くんの手札は全てドライブチェックで公開済みのカードのみだった……」

 

 

 

「え、本当に!?」

 

そう言えばそうだったかもしれない。

「だから僕はあの時“エコー・オブ・ネメシス”を使ったっす、もうガード出来なくなるって分かってたっすから」

 

 

 

なるほど…手札…か、色々考えることができたな。

 

 

「あとはデッキの構築っす」

 

 

「そうかもな」

 

 

俺がそう言った瞬間、ジュリアンの身体中から殺気のような物が吹き出した気がする。

 

「“そうかもな”じゃないっす!!なんで“抹消者 テンペストボルト・ドラゴン”と“抹消者 エレクトリックシェイパー・ドラゴン”が同じデッキに入ってるんすか!?信じられないっす!スキル意味なしっす!!」

 

 

 

ああ、なるほどそう言うことか。

 

 

確かに俺のデッキには“ブレイクライド”によって “退却させたユニットの後列を追加で退却させる”エレクトリックシェイパーと“リミットブレイク”によって“全てのファイターのリアガードを全て退却させる”テンペストボルト・ドラゴンが両方とも入っている。

 

 

何故かって?決まっているさ、何故なら

 

 

 

「俺、今、あんましお金持ってないからさ…」

 

「……すいませんっす」

 

 

まあ本当はデッキ構築とか考えずにカードの見た目で買ってしまったんだが、それはそれで金の無駄遣いだと怒られそうだ。

 

 

「…………別に怒らないっすよ、楽しみ方は人それぞれっすから」

 

 

「え?」

 

 

「何でもないっす……でもそうっすね、軸が決まっていない…何がしたいのか分からないデッキにはなってるっす」

 

「何がしたい…か?」

 

 

「そう、基本的にデッキを作る時は一番使いたい、ライドしたいグレード3のユニットを選んでおくといいデッキが作りやすいっすよ」

 

 

確かに…今まで俺は兄貴から貰ったデッキに闇雲にカードを投入しているだけだった。

 

 

 

「そこで」

 

「?」

 

 

 

ジュリアンが言葉をためる。

 

 

 

 

「僕、今からカード持ってくるんで!一緒にデッキを作るっす!!もちろん作ったデッキは差し上げるっすよ!!」

 

 

 

「そんな!それはさすがに悪い…」

 

「問答無用!実際にやってみることが大事っす…と、言うわけで…有言実行!善は急げっす!」

 

 

 

そう言ってジュリアンは立ち去っていった。

 

カードゲームは無駄に高価だと俺は思う。

 

そんなカードを人から貰うのは…なおのこと気が引ける………ってヒカリもこんな気分だったのか…?

 

 

 

「なぁ………青葉よ」

 

 

 

 

ふと横を見ると店長が立っていた。

 

 

「今の長髪の彼………」

 

 

「ああ!あいつはジュリアンって名前で」

 

 

「いや…名前もいいんだけどよ?」

 

「?」

 

 

「あのまま帰って来なかったら…青葉…金払ってくれるよな?」

 

 

 

 

ジュリアンがさっきまでいた席にはかなりの数の皿が並んでいる。

一瞬、ここは食べ放題の店かと思うほどだ。

 

 

 

 

「…………」

 

「…………青葉」

 

 

 

いや、各々自腹だから…自腹の約束しているし……

 

 

 

「帰って………来ますよ、俺は信じている」

 

 

 

大丈夫、心配なんていらないだろ…………って言えるほどまだあいつのことよく知らないんだよな…俺。

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、俺は信じていたよ」

 

 

「?何の話っすか?」

 

 

「何でもないさ」

 

 

今、俺の目の前には大量のヴァンガードカードが置かれている。

 

これらは全てジュリアンがついさっき店に持ち込んだものだ。

 

 

「しかしこれは凄まじい数だな」

 

「ここにあるのはグレード3だけ、他のカードはここにあるっすよ」

 

ジュリアンが店に持ってきたキャリーバッグをぽんぽんと叩く。

 

 

「さあ!好きなカードを選ぶっす、やっぱり“なるかみ“のカードがいいっすか…?この機会に他のクランを使ってみるのもいいっすよ!」

 

「選べって言われても…な」

 

 

 

いったい何枚あるんだこれ。

 

まさか…今発売されている全てのグレード3ってことは無いよな。

 

「…どうしたものか」

 

 

 

そうして俺がカードの山を眺めていると…………というか途方に暮れている時だった。

 

 

 

ふいに花の香りがした。

 

 

 

空気が変わる。

 

 

「まあ………すごい枚数のカードですね」

 

 

俺は声の方向を見る。

 

まず目に入ったのはとても綺麗な長い黒髪だった。

 

 

 

「私も見せて貰ってもいいでしょうか?」

 

 

とても綺麗な女性がそこに居た。

 

 

 

女性の姿に気がついた店長が声を掛ける。

 

 

「いらっしゃいませ、美空さん」

 

 

「…………美空……さん?」

 

 

 

 

「はい、初めまして、私は美空カグヤと申します」

 

 

 

 

そう言って美空カグヤさんは微笑んだ。

 

 

 

 

 

 


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