君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

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012 少年が追い求めるものとは

俺、青葉ユウトと舞原ジュリアン、そして美空カグヤさんの三人は大量のカードの山を見ていた。

 

 

「つまり、デッキを作っているのですね?」

 

 

「そうっすよー」

 

ジュリアンと美空さんの声を聞きながら、俺は取り敢えず何枚かカードを手に取ってみた。

 

 

 

“バミューダプリンセス レナ”

 

 

“ブラスター・ブレード・バースト”

 

 

“蒼嵐覇竜 グローリー・メイルストローム”

 

 

“モーント・ブラウクリュウーガー”

 

 

“メイデン・オブ・ビーナストラップ ミューズ”

 

 

 

「うーん、何かこう…しっくり来ないんだよな」

 

 

「イメージって奴っすね」

 

 

「そうですね、イメージですね」

二人はうんうん頷きながらコーヒーを口にする。

 

何というか、高みの見物って言葉が似合うな…

 

 

「………でも、蒼い竜ってのは格好いいな」

 

俺は蒼嵐覇竜 グローリー・メイルストロームを見てそう呟く。

 

 

「それなら!!“アクアフォース”がいいかもっす」

 

 

ジュリアンがそう言って俺に色々カードを見せてくれるが…何か違う。

 

 

「…………」

 

 

そんな俺を見てジュリアンは手に持っていた“蒼翔竜 トランスコア・ドラゴン”を振りながら呟いた。

 

「………蒼いんすけど」

 

 

そう言われても…………ふとそんな俺の目に一枚のカードが飛び込んでくる。

 

俺はジュリアンが渡してきたカードが置いてあった場所から少し遠いところにあるカードに目がいった。

 

 

蒼い………竜だ。

 

 

蒼い竜がそこにいた。

 

 

 

そうだ、こんな神々しさが欲しかったんだ。

 

 

 

「へえ…そのカードでデッキを作るっすか?」

 

 

「ああ…………ああ!」

 

 

 

俺の手の中にあったカード…その名前は…

 

 

 

“ドラゴニック・ウォーターフォウル”

 

 

“かげろう”のグレード3のユニットだった。

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

「かげろうの蒼い竜ならこんなのもどうっすか?」

 

 

「こんなカードもありますよ?」

 

 

“ドラゴニック・ガイアース”

 

 

“ワイバーンストライク テージャス”

 

 

俺の手に次々とカードが渡されていく。

 

 

「グレード3のもう一種類をどうするっすかねぇ」

 

「さすがに全て蒼い竜というのも無理ですからね」

 

 

二人はそう言って再びカードの山を掻き分け始める。

 

 

「…………何か申し訳ない気分だな」

 

 

「そんな風に思わなくていいんすよ、趣味なんだから」

 

 

「私もカードに触れるのは久しぶりなので……いいリハビリになってますから」

 

 

…………返す言葉が見つからない。

 

 

 

するとジュリアンがどこか遠くを見つめるような目をして呟く。

 

 

「それに………少しでもこのデッキが通用する間に完成させたいっすから」

 

 

「…?」

 

 

どういう意味だ?

 

 

 

 

「新しいカードの話…ですね?」

 

 

 

カグヤさんが答える……新しい…カード?

 

 

 

 

「そうっす…新しいブースター“竜剣双闘”………そしてトライアル二種…」

 

 

そうか…今も新しい商品が出るんだよな…

 

 

「ここで新能力“双闘(レギオン)”を搭載したユニットが登場するっす」

 

 

 

…………双闘?

 

 

 

「双闘20000(シークメイト)…ドロップゾーンから4枚のユニットをデッキに戻すことで指定カード“レギオンメイト”をヴァンガードサークルへと…ヴァンガードの隣へと呼び出し、双闘する…………これでヴァンガードは毎ターン手軽に、アタック時に20000を越えるパワーを出すことができるっす」

 

 

「強い…………のか?」

 

 

 

「ドロップゾーンから山札にカードを戻すってのが最大の肝っす、トリガーを4枚戻せば大幅にトリガー率が上昇するっすからね」

 

 

いまいちピンときてないな、俺。

 

 

「ってもう双闘するカードは二組登場しているんすけどね」

 

 

ジュリアンがカードの山から四枚のカードを取り出してきた。

 

 

 

 

“両断の探索者 ブルータス”

“合力の探索者 ロクリヌス”

 

 

“喧嘩屋 ショットガンブロー・ドラゴン”

“武断の喧嘩屋 リセイ”

 

 

 

 

「まあ今回のブースターとトライアルが発売されるまでは大会で使用できない…ってなってるんすけどね」

 

 

ジュリアンがカードを並べる。

 

カードに描かれていた絵が繋がり、下の方に描かれていたマークも繋がった…………これが双闘か………

 

「…本来なら“竜剣双闘”とトライアル二種は4月には発売されている予定だったんすよ」

 

 

「…………今って何月だっけ」

 

 

「6月ですよ」

 

 

ジュリアンが言葉を続ける

 

 

「何故こんなに遅れているのか………最近、理由が判明したっす」

 

 

「…MFSのせい…でしょうか」

 

 

 

ジュリアンがカグヤさんの答えに頷く。

 

 

 

「そう、カードの印刷ミスがあった…とか会社内でストライキがあった…とか根も葉も無い噂が流れていたこともあったっすけど、実際はMFSの制作にスタッフと予算を集中させ、今後発売のカードのデータもあらかじめ入力しようとした結果、カードの生産にいつも以上の時間が掛かっているようなんすよ」

 

 

ジュリアンはそう言うと店長にレアチーズケーキを注文する。

 

 

「へぇ、そうなのか」

 

 

 

「おかげでアニメの展開とカードの販売スケジュールがずれまくりっすよ………」

 

 

そう言ってジュリアンはコーヒーを口にし、呟く。

 

「二年前…っすかね、その頃もこんな風に発売が遅れたことがあるっす」

 

 

ジュリアンの元に店長がレアチーズケーキを持ってくる………一体どれだけ食うつもりなんだ…

 

「?」

 

 

「確かあの時は、アニメの放送も一旦中断して、展開のずれを修正していましたね」

 

 

カグヤさんも当時のことを知っているのか…

 

 

「あの時もMFSの制作が原因だったそうっすよ…もっとも…その時のMFSは欠陥品だったらしいっすけど」

 

「欠陥品………?」

 

「…………」

 

 

一瞬の沈黙が訪れる。

 

 

「ま、詳しいことは僕も知らないし………あ、“ワイバーンストライク テージャス”を入れるなら“ワイバーンストライク ジャラン”も入れていいかもっすね」

 

 

ここで会話の続きをしながらだが、再び俺のデッキ作成が始まった。

 

 

「僕が知っているのは二年前、MFSの試運転が行われたのが“ラグナレクCS”って非公認の大会だったってことくらいっす」

 

「ラグナレクCS………ですか」

 

 

カグヤさんが呟く。

 

 

「?…知っているんすか?」

 

 

「知り合いが出ていた…だけです」

 

 

レアチーズケーキにフォークを入れるジュリアンの目が細くなる。

 

「知り合いが…………ねぇ…………なら“ノルン”って呼ばれていたファイターについて聞いたことは?」

 

 

「ええ…………まあ…………青葉さん、かげろうのトリガーをまとめておきましたよ」

 

 

俺はカグヤさんから16枚のトリガーユニットを受けとる。

 

 

 

おお……クリティカル重視だ………ってそれよりも気になる単語が出てきた。

 

 

 

「…“ノルン”と呼ばれたファイター?」

 

 

すごい痛々しい響きがする…気のせいだろうか。

 

 

「そう…約40人の総当たり戦で行われた大会……大会の中断までの20戦以上のファイトを無敗で戦い続けた三人がいたらしいっす………その噂、そして大会の動画がネットで出回ったことで、どこかの中二な日本人が三人のファイターの神懸かった強さからとって“ノルン”と呼び始めたそうっす」

 

 

 

 

40人で総当たりって……大会には出たこと無いが、明らかに過酷だろ………異常だろ………。

 

 

「あ、40人での総当たりってのは少しでも多くMFSで遊べるようにってことだったらしいっすよ」

 

 

欠陥っていってたが… 長時間の連続稼働で壊れただけじゃないのか………?

 

 

「とにかくその“ノルン”って三人のファイター……一応それぞれ“ウルド”、“ヴェルダンディ”、“スクルド”とも呼ばれてるんすけど…そいつらが異常なんすよ」

 

ジュリアンの目がキラキラし始めたな………

 

よっぽどこの話がしたいのか…?

 

 

「異常なファイターねぇ」

 

「…………」

 

 

俺はかげろうのカードたちの中から、必要になりそうなカードをデッキに加えていく。

 

「で、そのファイターがどうかしたのか…?」

 

ジュリアンは空になったレアチーズケーキの皿を重ねる…これで7皿目くらいか………

 

テーブルの上には他にも黒糖プリンやレモンタルトの皿が重ねられている。

 

 

 

「夢なんすよ…」

 

 

 

 

 

「夢…?」

 

「夢…………ですか」

 

 

ずっと黙っていたカグヤさんも口を開く。

 

 

「僕はその三人を倒して“世界最強のファイター”になるんすから!」

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

何と言ったらいいのやら………最強って……

 

「何で何にも反応してくれないんすか!?」

 

 

「あ…………えーっと、何でその三人を倒せば最強なんだ?」

 

 

何か話がどんどんずれていくな。

 

「さっきも言った通り、この三人は異常っす…対戦相手が全員トリガーを全く引けなかったり、相手の初期手札が何度戦っても全てグレード3のカードだったり……もう超能力でも使ってんじゃないかって」

 

 

 

「…………都市伝説みたいな話だな…イカサマか何かじゃないのか?」

 

 

 

 

というか胡散臭いな、その話。

 

 

 

 

「ちゃんと動画も出回ってるし、何よりも、もう二年も前からイカサマの検証は行われているんすけど、何にも証拠は出てきてないそうっす」

 

 

「そうなのか」

 

 

「………どんなに大会で優勝しても……三人が使っていたのがイカサマでもいい…その三人のような人とファイトして勝っていなければ…………………結局、“勝てた理由は運”ってことになって“最強のヴァンガードファイター”になれないと思うんすよ」

 

 

「最強の…………ファイター」

 

 

「僕は運命さえ制してみせる…………そのために絶対に探しだして、戦って、勝ってみせるっす………常軌を逸した三人のファイター………」

 

 

「金髪の幼女!スクルド!」

 

 

「ゴスロリの美少女!ヴェルダンディ!」

 

 

「謎の美女!ウルドに!!」

 

 

「そして僕は……最強のヴァンガードファイターになる!」

 

 

 

 

やばい、すごいネタ臭しかしない。

 

 

「はぁ…………勝利を求めて…そんな変な人達に挑むのですか…」

 

 

 

 

カグヤさんがため息をついて立ち上がる。

 

 

その視線は手元にあった懐中時計に向けられていた。

 

 

 

「すいません、私はこれで…」

 

「そうだ…………カグヤさんはヴァンガード…やってるんすか?」

 

 

ジュリアンが聞く、そのことは俺も気になっていたことだ。

 

「ええ、以前は…………ですが」

 

 

 

カグヤさんが代金を払いにカウンターに向かう。

 

 

「今は…………」

 

そしてカグヤさんは店を出ていってしまった。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

「………デッキ作りの続きでもするっすかね」

 

 

 

 

ーーー胸の奥で震~え~て~る…♪思いが~目覚~める~その~瞬間、待~ってる~♪ーーー

 

 

 

 

「!?」

「あ、僕っすね」

 

ジュリアンが携帯を取り出す。

 

 

『……』

 

「………っす、帰りに自分で買うからいいっすよ」

 

『……?』

 

「…っすね、お願いするっす…じゃあ」

 

 

ピッ

 

 

 

「……用事か?」

 

 

 

「…まあ、電話自体はお嬢からだったんすけどね……僕はここで帰らせてもらうっす、かげろうのカードは全部差し上げるんで、後は自分で頑張るっすよ」

 

 

ジュリアンがかげろう以外のカードを片付けていく。

 

「え?…あ、うん」

 

 

ジュリアンは傘を取り出した。

 

 

「傘?」

 

 

「もう夕方っすからね、クリーム塗っててもちょっと紫外線が気になるっす」

 

 

そしてジュリアンも重そうなカバンを持つと、帰ってしまった。

 

 

目の前に広がるのは大量のカード。

 

 

そして、

 

 

大量の皿がそこにあった。

 

 

 

瞬間、俺は青ざめる。

 

 

 

 

「…あいつ…金払ってねぇ…………」

 

 

まさか………あいつが食った大量のケーキの代金を俺は払わなければならないのか?

 

いくらカード貰ったからといって…冗談じゃ無いぞ。

 

 

「ごめんごめん、冗談っす、ちゃんと払うっすよ」

 

ジュリアンが戻ってきた。

 

手には財布が握られている。

 

 

「……お前…今、素で忘れてたろ」

 

「ソンナコトナイッスヨー………あともう一つ」

 

「?」

 

 

ジュリアンは店長に代金を支払うと、テーブルに広がるかげろうのカードの中から一枚選んで取った。

 

 

「こいつを一枚入れてもいいかもっす」

 

 

「こいつは…………?」

 

 

今まで見たカードと雰囲気が違う…か?

 

 

「後は…こいつとか…こいつっすね………それじゃ、また学校で!」

 

 

今度こそジュリアンが帰っていく。

 

 

俺はジュリアンやカグヤさん、そして俺自身が選んだカードをデッキに入れていく。

 

 

 

俺の新しいデッキ………俺の仲間。

 

 

 

 

「ドラゴニック……ウォーターフォウル…」

 

 

 

静かになった店内に俺の声が響く。

カードに描かれた蒼い竜を夕焼けの光が照らした。

 

 

 

 

「俺も…お前と共になら…強くなれるかな…」

 

 

 

 

 


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