君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

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014 お前の正義を認めない

6月20日…いよいよ夏を思わせるような暑さが学生達の体を襲い、夏服着用期間の開始を待ち望む声が聞こえ始める…そんな日の放課後。

 

 

 

 

「…カード…ショップ………巡り?」

 

ヒカリは思わず今聞いた言葉を繰り返す。

 

 

 

この日、深見ヒカリは生徒会室にいた。

 

隣には青葉ユウト、舞原ジュリアン。

 

そして今、ヒカリ達の前にいるポニーテールの人物こそがこの部屋の主であり“カードショップ巡り”を提案した………天乃原チアキであった。

 

「そう、我らがカードファイト部改めチーム“シックザール”の活動、記念すべき第一回目の内容よ」

 

「…改めって…まどろっこしいっす」

 

 

ジュリアンがそう呟く。

 

「仕方ないじゃない…お父様が部活以外の集まりを認めてくれないんだもの」

 

 

「何とかしないと、いつかボロが出るっすよ?」

 

 

「うるさいっ!、今はその話はいいでしょ!?」

 

 

ヒカリもジュリアンとチアキの掛け合いは少し見慣れてきた。

 

話は訪れるカードショップをどこにするのかというものになった。

 

 

「うーん、じゃあ俺の兄貴のカードショップなんかどうですか?」

 

 

いまいち風格の無い生徒会長(先輩)との距離感を測りかねているユウトが提案する。

 

ユウトの兄が経営する…それはカードショップ“大樹”という店だろう。

 

(思えば…あの店で…私はもう一度ヴァンガードをしようって…思ったんだっけ)

 

だがチアキはその提案を却下した。

 

「だめね、そういう“行きなれている”って所じゃ意味が無いわ」

 

「………意味……ですか…?」

 

「そう、知ってるショップで知ってるファイターと戦うだけじゃ強くはなれないわ!…自ら敵地へと赴くことで、私たちは精神的にも肉体的にも強くなれるのよ!」

 

チアキは拳を握りしめ熱弁する。

 

(…肉体的…………?)

 

その様子をジュリアンは冷めた目で見ていた。

 

「…正直に言えばいいのに………みんなの知り合いがいるカードショップに行って自分だけ除け者にされるのが怖いって……でも、ここにいるメンバーなら大丈夫っすよ?」

 

「っ!ジュリアン!!」

 

 

二人が再び睨みあう。

 

 

「…………あはは………」

 

ヒカリはこの二人と出会ったことで自分を良い方向に変えていけるような気がしていた。

 

(…これも……ヴァンガードの縁かな)

 

ヒカリは二人を見てそう考えるのだった。

 

 

「でもそこまで言うのなら、どこのカードショップに行くのかは決めてある…ですよね」

 

ユウトが話の軌道修正を図る。

 

「ええ、もちろん!だから、今から行くわよ!」

 

 

チアキ以外の全員が驚く。

 

 

「「今から!?」」

 

 

「え…本気っすか?何店も巡る時間は無いっすよ?無難に休日に行けば…」

 

「なっ!休日なんかに行ったら人が沢山いるじゃない!?」

 

「…一体何のために行くんすか…」

 

 

時刻はすでに5時を過ぎていた。

 

 

「今日は一店だけよ、天台坂の駅から電車で8分くらいだから…あ、もちろん交通費は私が出すわ」

 

「天台坂駅から8分…百花公園前駅っすね…そういえばお嬢は電車に乗ったことは…?」

 

「百花公園か………そろそろアジサイが綺麗な季節だよな」

ジュリアンとユウトを無視して、チアキが高らかに宣言する。

 

 

「さぁ!“カードマニアックス”に出発よ!」

 

 

 

* * * * *

 

 

「ジュリアン、切符買ってきて」

 

「当たり前のように僕をパシりに使うっすね…」

 

ヒカリ達4人は天台坂駅に来ていた。

 

夕方という時間帯のせいか、会社や学校帰りの人が多くいた。

 

「ヒカリさん達は大丈夫っすか?」

 

その質問を受けたヒカリはポケットに入れていた手を出す。

 

「カード…持ってるから」

 

その手にはいわゆるICカード乗車券が握られていた。

 

「俺も同じくだ」

 

「まぁ僕もそうなんすけどね」

 

それを聞いたチアキが落ち込む。

 

「私だけ仲間外れみたいじゃない…」

 

「お嬢は普段電車を使わないんすから仕方ないっすよ」

 

そう励ますジュリアンを見てヒカリはユウトに声を掛ける。

 

「何だかんだ言って舞原クンは………天乃原さんに優しいよね」

 

「というか、ジュリアンも生徒会長も普通に根がいい人ってだけだろうけどな」

 

 

「「…少し変な人だけど」」

 

 

意見の一致した二人は駅のホームで静かに笑うのだった。

 

 

 

ヒカリ達が乗った電車の中も、駅と同様に会社、学校帰りの客が多かった。

 

夕方であるため車内は赤に近いオレンジ色に染まっていた。

 

 

ーー次はー百花公園前ーー百花公園前ーー

 

「そろそろっすね…でも初めてなのによく電車に乗ろうなんて思ったっすね」

 

「…いいじゃない、別に…いつだって人っていうのは挑戦していく生き物なのよ」

 

ヒカリ達は電車を降りて百花公園前駅を出る。

 

駅の周りの花壇にはアジサイの花が咲いていた。

 

ヒカリは思わずじっと眺めてしまう。

 

「…いい…色……」

 

するといつの間にか遠くの方に行ってしまっていたチアキ達が声を掛ける。

 

「ヒカリさん!先に行っちゃうわよー!」

 

「……ま、待ってー……」

 

ヒカリは駆け足でチアキ達の元へと向かった。

 

ヒカリ達が進むそばでは、街道沿いの小さな店からシャッターが閉まっていく。

 

そして、駅から歩くこと6分……

「…ここよ」

 

「……カード…マニアックス……」

 

ヒカリが想像していたよりも割りと大きな店だった。

店舗のガラス窓にはヴァンガードのポスターが貼られている。

 

店の駐車場も車8台分のスペースがあったがその3分の1は埋まっていた。

 

「…人は少ないと見ていいのかしら」

「いや、駅に近いっすから……そうとは限らないっすよ」

 

そんな二人にユウトが話し掛ける。

 

「入らないのか?」

 

「そうっすね!行くっすよ!お嬢」

 

「もうっ!分かったわよ!」

駆け出す三人に続いていくようにヒカリも店内に入っていった。

 

 

「いらっしゃいませー」

 

それなりに広い店内に、それなりに多い人間がいた。

 

「思えば、この時間帯は平日休日問わず人は多いんすよね……というわけで僕はさっそくフリースペースで諜報活動っす」

 

「あ…シャドウパラディんのカードが置いてある……ちょっと見てくるよ……」

 

 

 

こうして、あっという間に二人は行ってしまった。

 

 

 

「あー…どうしますか、生徒会長」

 

ユウトとチアキがその場に取り残されていた。

「…本当にね、後、その“生徒会長”って呼ぶの止めてくれるかしら…敬語も…」

 

「…ああ、分かった…けど“生徒会長”って呼ばれるのは嫌なのか?」

 

ユウトの言葉に対して若干呆れ顔になるチアキ。

 

「あなた…ためらい無くため口を使うのね………そうね、生徒会長って言ったって結局学校の操り人形みたいな物だし……先輩からの推薦で断れずに引き受けて、苦労することはあれど、誇りに思ったことは無い…わね」

 

その言葉を受け、考えるユウト。

「なら、部長……いやリーダーって呼んでいいか?」

 

「……青葉君、あなた最高ね」

 

少し仲が良くなったユウトとチアキの二人はフリースペースの方に向かった。

 

 

 

そこではジュリアンがフリースペースにいた二人のファイターに話しかけていた。

 

 

 

「…というわけで何か“ノルン”の情報は無いっすかね?」

 

「あぁ……“ノルン”か…悪いが俺たちが知ってることはな………」

 

「おっと今は言わなくていいっす、そのかわり僕とファイトして僕が勝ったらその情報を教えて貰うっすよ」

 

「「いやだから俺たちは何も」」

 

「さぁ!二人同時にかかってくるっす!」

 

ジュリアンがデッキを二つ取りだし、ファイトの準備を勝手に始める。

 

「仕方ない…」「やってやるけど後で文句言うなよ」

 

相手の二人もファイトの用意を始める。

 

 

「ジュリアン…あいつ強引だなぁ」

 

「“ノルン”探し…、まぁジュリアンの夢だからね」

 

ユウトはこの間ジュリアンが話していたことを思い出す。

 

「特殊な力を持ってる…かもしれないファイター…そんなのいるのか?」

 

「いても、きっと普段はその力を隠すでしょうね…周りと違うっていうのは大変なことだから…」

 

チアキは遠くを見つめながら話す。

 

「まあ、その能力も具体的には分かんないし、そもそもこの日本で金髪の幼女やゴスロリの美少女がその辺を歩いているのならすごい目立ってとっくに見つかってるだろうし、謎の美女なんて謎なんだから実際に周りにいても分かんないわよ…ジュリアンの努力は無駄ね」

 

「いや…いくら金髪やゴスロリが目立つからって目撃情報が出回ることは無いと思うけどな…でも、目撃情報では分からないからあいつは実際にファイトしているんだろうな…」

 

ユウトはジュリアンの自身の夢に対する努力を感じながら、フリースペースに背を向ける。

 

「ヒカリの所に行ってみよう」

 

「……私たち何しに来たんだっけ」

 

そうしてユウトとチアキはカードが置かれている売り場の方へ向かった。

 

「しかし、金髪にゴスロリ…色んなカードファイターがいるんだな」

 

「いやいや、そういう変なのは滅多には……そこにいるわね」

 

チアキがカードが置かれるショーケースの前にいる男性を指差す。

 

 

その男性はすごい特徴的だった。

 

まず髪の毛が全力で重力に逆らっている。どれだけのワックスを使ったのだろうか、すごいテカテカしてる。

 

次に声がデカイ。ユウトとチアキはわりと離れた位置にいるのだがもう何を言っているのか聞き取れない、とても迷惑な声量である。首に巻いた赤いマフラーや、白色の眩しいタンクトップにスピーカーでもついているのだろうか。

 

最後に…彼の足は別の人の背中の上にあった。

 

具体的に言うと彼は土下座の状態の別の男性の上に立っていたのだ。

 

「何だあれ」

 

「って…彼と話しているのヒカリさんじゃない!」

 

彼の背中に隠れて見えなかったが、その向こうにはヒカリがいた。

 

何かを抗議しているようだが、ここからでは彼の声のせいでまるで聞こえない。

 

「行こう!」

 

ユウトがチアキに言う。

 

「……止めておいた方がいいぜ」

不意に話しかけてきたのはこの店の店員だった。

 

「あいつ…最近この店に来るようになってな…最初の頃は俺たちも何度も注意してたんだが…全く聞かなくてな…できれば関わらないで…」

 

ユウトはその言葉に耳を疑う。

 

「それが店員の言うことかよ!リーダー!行こう」

 

「ええ、ヒカリさんに話を聞くわよ!」

 

ユウト達がヒカリと合流する。向かい合ってみると男の迫力(変態的な)は凄かった。

 

「ヒカリさん…どうしたの!?」

 

「青葉クン!天乃原さん!それがこの人…小さな女の子相手に悪質なカード交換を迫ってて……」

 

ヒカリは小さな女の子と手を繋いでいた。

 

「俺のジャスティスを否定するのかぁ!!愚か者!」

 

男が叫ぶ。その度に女の子がビクッと震える。

 

「何だ…こいつ?」

 

「ジャスティスの意味、本当に分かっているのかしら」

 

男がその反応を見てまた叫ぶ。

 

「俺の!名前はぁ!天!地!海!人!その全ての頂点に立つ男ぉぉ!!天地カイトだぁぁぁぁぁぁ!!!そしてジャスティスッとはぁ!俺のソウルがビートすることぉぉぉ!つまり俺の幸せがみんなの幸せっ!!」

 

その下にいる男性もホワイトボードをこちらに見せてくる。

 

『僕は弟の天地ミチヤです』

 

カイトがそのまま叫び続ける。

 

「俺はぁ!ただぁ!その少女の持つ“超次元ロボ ダイカイザー”と“超次元ロボ ダイユーシャ”のはじめようセット限定版をこの“ザップバウ”2枚と交換してあげようと言っているだけではないかぁぁぁぁ!」

 

「…それが問題なんだ…!!」

 

いつになく怒りを表に出すヒカリ。

 

その後ろではユウトがチアキにカードについて聞いていた。

 

「えっと…その“ダイなんちゃら”の限定版って?」

 

「確か有名な絵師さんが描いたカードで、2枚の絵の絵柄が繋がる仕様になってるの…双闘じゃないわよ」

 

「……ザップバウの方は?」

 

「…分かんない……」

 

カイトと睨み合っていたヒカリが口を挟む。

 

「…何の能力も持ってないグレード0のノーマルユニット……だよ…………シャドウパラディンのね…」

 

シャドウパラディンと告げるときにヒカリの口調が悲しそうになった。

 

「それって…役に立つのか?」

 

「よほどの理由がない限りは使わないわね…たぶん、この店でも20円くらいで沢山売ってるわ」

 

ヒカリの隣にいた女の子が呟く。

「…もういいよ…おねーさん…わたしがあの怖い人にカードを渡せばすむんだから……」

 

「っ!……駄目……!」

 

ゆっくりと女の子がカードを差し出す。

 

「おおおぉ!やはりジャスティスは小さい子に伝わるのだっっ!!」

 

「……待って」

 

ヒカリが女の子からカードを受け取ろうとしたカイトの手を止める。

 

「まだ何かようかぁ!小娘ぇ!」

 

「……お前の意味不明な正義を私は認めない……それに」

 

ヒカリが強くカイトを睨み付ける。

 

「この子と先に話をしていたのは私……ならカード交換の取引の優先権も………私の方にあるべきだろう!」

 

「えぇ!?あぁ…うむぅ」

ヒカリは無理矢理カイトを論破する。

 

そしてヒカリは女の子に優しく話しかけた。

 

「……私とカード交換……してくれるかな…」

 

「…うん、おねーさんとならいいよ」

 

ヒカリは女の子からダイカイザーとダイユーシャを受けとると代わりに自身のカードケースからSP版の“撃退者 レイジングフォーム・ドラゴン”を2枚手渡した。

 

「…待っててね…今おねーさんがこの怖い人を何とかするから」

 

「…うん!」

 

「…むうぅ?」

 

ヒカリがカイトを睨む。

 

「勝負だよ…ヴァンガードファイトで私にあなたが勝てば“このカード”はあなたの物…………でも、あなたが負けたなら……このカードショップには…二度と来ないで!…純粋にカードゲームを楽しんでいる子ども達を怖がらせないで!」

 

カイトがヒカリの瞳を睨み返す。

 

「ふっ!その条件…半分だけ聞こうぅぅ!!」

 

「……なっ!!」

 

「お前の決めた約束は守るぅ!俺のジャスティスに誓ってなぁぁ!だが!俺と…いや俺たちと戦うのはぁ!お前の後ろにいる(弱そうな)二人だあぁぁぁ!!」

 

「えっ!俺!?」

 

「あら」

 

『僕も戦うの!?』

 

ヒカリはユウトとチアキの目を見る。

(……二人共……)

 

(…俺はやる気あるよ?)

 

(私…これでも強いのよ?)

 

二人の声が聞こえた気がした。実際、二人はヒカリを見て頷いている。

 

(……信じるよ…)

 

 

「……その勝負…受けてたつ!!」

 

「ならば来い!決戦のフリースペースにぃ!」

 

カイトの足元でミチヤが前に這って進む。

 

 

カイトとずっと対峙していたヒカリの、震える手をユウトとチアキが握る。

「ヒカリさん…とても格好良かったわ…大丈夫、青葉君の実力は知らないけど私なら余裕で勝つもの」

 

「俺も最近強くなってきたんだ…勝てるさ」

 

 

 

「……ありがとう」

 

 

三人の後ろにいた女の子がヒカリの服をつまむ。

 

「…?」

 

 

「おねーさん達…頑張って!」

 

「「「うん!」」」

 

三人は“ジャスティス”と叫び声が聞こえる方へ歩きだす。

 

「……二人に任せることになっちゃうね…」

 

「ヒカリさんは十分戦ったわ」

 

「何となく…昔のヒカリを思い出したよ」

 

「……そうだね、そうかも……」

 

ファイトテーブルが見えてきた。

 

ヒカリがテーブルから少し離れた所に立つ。

 

「きっと…私たちのどちらかが勝っただけじゃあいつは納得しないわ」

「ああ、俺も、リーダーも…」

 

 

 

「「勝つ!!」」

 

 


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