君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

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016 光

「………達は……して…………か……」

 

真っ白な空間に真っ黒な少女が独り。

 

「…あなた…は?」

 

そう誰かが問いかける。

 

「我…は…………る…者…」

 

真っ黒な少女は言う。

 

「………あなたの絶望した顔…私に見せてよ?」

 

 

 

 

ガバッ!!

 

 

「………はぁ……」

 

深見ヒカリは真っ暗な部屋の中で目を覚ました。

 

部屋の電気をつけて、時間を確認する。

 

夜中の3時47分だった。

 

ヒカリは寝起きで渇いた喉を潤す為に台所に向かう。

 

 

とっとっとっ

 

静まりかえった台所にミネラルウォーターをコップに注ぐ音が響いた。

 

「……んっ……ぷはぁ……」

 

 

喉を潤したヒカリは自分の部屋に戻っていく。

 

 

「……何であんな夢を…」

 

ヒカリは部屋のカーテンを開けるとそこには綺麗な月が輝いていた。

 

 

部屋に月の光が差し込む。

 

 

その光の先に…“それ”はあった。

 

「これ…………」

 

 

引っ越しの後、開いただけで触れてなかった段ボール箱…その中にある金色の装飾が施された黒い宝石箱が月の光を反射し、輝いていた。

 

ヒカリはゆっくりとその宝石箱を開けてみる。

 

 

「……久しぶりだね…」

 

 

その中にあったのは、ヒカリのかつて使っていたデッキだった。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

月の光が少女を導いていた頃、ジュリアンは閉めきられた自室の中で“ノルン”のファイト動画を見ながら、自分宛に届いた海外からの小包を開けていた。

 

『……ドロー………アタック……』

 

「“あいつ”が送ってくれたのは…は日傘っすね…今まで使っていたのがちょうど壊れた所だったから助かるっすねー」

 

ジュリアンは同封されていた手紙を読みながら、日傘の梱包を丁寧に解く。

 

 

「今度の夏休みは海外に行くか分かんないな………」

 

ジュリアンは考え事をしながら次の動画を再生する。

 

『………スタンドアップ…my…ヴァンガード…』

 

それはネット上で“スクルド”と呼ばれているファイターのものだった。

 

こちらからはしっかりと顔を確認することはできないが、揺れる金色の髪や声、金色の花模様の刺繍が施された袖、そこから伸びる周りと比べても明らかに幼い手…等から様々な情報が得られる。

 

(しかし…大会から二年が経っている…この少女だってどれだけ成長しているか…)

 

ジュリアンはこの二年で20センチ近く伸びた自分の伸長のことを考える。

 

(考えても仕方ない…実際にファイトしてみれば分かることっすからね…)

 

ジュリアンは動画の再生を終えると、PCの電源を落とす。

 

(そろそろ仮眠をとっておくっすか…………今日はお嬢との“部活動(?)”もあるっすから)

 

そう…今日は…チームシックザールの面々が12時に天台坂駅での待ち合わせをした日であった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

「リーダー…」

 

「あの二人…遅いわね」

 

土曜日ということもあって天台坂駅の人通りは普段よりも多かった。

 

そんな駅の前で青葉ユウトと天乃原チアキは立っていた。

 

二人が立っている理由はもちろん今日、この時間にチームシックザールのメンバーで待ち合わせをしたからである。

 

だがそのメンバーの内、深見ヒカリと舞原ジュリアンの姿が無かった。

 

すでに待ち合わせの時間から40分が経っている。

 

 

「ご……ごめん…なさい」

 

息を切らしながらヒカリがやって来る。

 

「…はぁ…昨日……あまり…はぁ……はぁ…寝られなくて…」

 

「いいわよ、どうせジュリアンもまだ起きてないし、髪の毛まだ跳ねてるわね…私が解かしてあげる」

 

チアキが櫛を取り出して言う。

 

「舞原クン……まだ……来てないの?」

 

「ええ、私が家を出た時はまだ寝てたわ」

 

「リーダー…起こしてくれば良かったんじゃ…?」

 

「………………」

 

チアキがヒカリの髪を解かしながら黙る。

 

その時…通りの向こうから日傘を差して走る影が見えた。

 

日傘を差していても目立つ銀の長髪がその人物の正体を教えてくれる。

 

「皆さーん!遅れて申し訳ないっすー!」

 

「遅いわ!今日のお昼はジュリアンに奢ってもらうわよ!!」

 

「…了解っす」

 

ジュリアンは仕方ないと言うように笑うと全員に呼び掛けた。

 

「…さて、北宮町に出発っすよ!!」

 

「ええ!」

 

「………」

 

 

「………北宮町…か、どっかで聞いたことあるんだよな………」

 

 

 

そうしてヒカリ達四人は天台坂駅に入っていく。

 

 

天台坂駅から北宮町に行くためには途中で電車を乗り換える必要があった。

 

チアキは乗り換えで降りる大智駅で昼食にするという予定を立てていた。

 

天台坂駅からの電車に揺られながらユウトがチアキに聞く。

 

「リーダー…休日は人が多いから嫌だったんじゃないのか?」

 

「…そんなこと言ったかしら?………まぁこの間の夕方みたいな時間帯の方がどうやら人は多いようだし、むしろ今日のカードショップ“アスタリア”のように特に大会の無い昼間のショップの方が人は少ないんじゃないかしら?」

 

「…ぶっちゃけ、店次第っすけどね」

 

 

そんな会話をしている内に電車は大智駅に到着する。

 

ヒカリ達は昼食のために一旦駅から出た。

 

 

「あれよ!あの店に行きたかったの!」

 

嬉々としてチアキが指をさす方向には黄色いMの字が描かれた赤い看板があった。

 

店の窓には大人気アイドル、葉月ユカリのポスターが貼られている。

 

「…エムドナルドバーガーっすか…別にいいっすけどね…」

 

 

ジュリアンを先頭にヒカリ達はエアコンの利いた店内へと入っていった。

 

 

* * * * *

 

 

 

「ちぅーーーー」

 

 

四人はそれぞれ別のメニューを注文していた。

 

ユウトはエッムフライドポテトやハンバーガーを片手にジュリアン達と会話する。

 

「…で、夢の中でテージャスとジャランが怒っていてさ…『なぜ、俺たちを使わなかった!』って…」

 

 

「ちぅーーー」

 

「…でそうしたら、ダメージゾーンに4枚目のルキエ“Я”が落ちたんすよ…」

 

「ちぅーー」

 

 

「…ヒカリさん?」

 

 

「ちぅー?」

 

 

「エッムシェイクだけで本当に大丈夫なの?」

 

チアキが心配したのはヒカリが“エッムシェイク”しか頼んでいなかったことだった。

 

チアキのように初めてのメニューに悩んでいた結果エッムナゲットのSサイズとドリンクにしてしまい…物足りない…ようには見えなかった。

「…うん……そこの舞原クンと違って朝ごはん食べてきてないわけじゃないし………」

 

ヒカリは“ビッグエッム”を頬張るジュリアンを指差す。

 

「…むぐっ……むぐっ……でも、お腹空いちゃわないっすか?」

 

 

「………あんまり…今…食欲…無いんだ……」

 

心配そうにチアキが見つめる。

 

「やっぱり…今日は中止して帰る?」

 

「……………ううん…大丈夫…だから……行こう?」

 

ヒカリはそう言って残りのエッムシェイクを飲み始めるのだった。

 

 

 

食事を終えた四人はヒカリを先頭に駅に向かって歩いていた。

 

「ヒカリさん…大丈夫かしら…」

 

チアキがヒカリには聞こえない音量でジュリアンとユウトにささやく。

 

「………今日がどうこうじゃ無いんだけど…高校で再会してからのヒカリはどこか変なんだよな…」

 

「そうなんすか?」

 

「昔はあんなに“……”を多様して言葉を選ぶ奴じゃなかった……小学校の頃はあだ名が“ボケとツッコミの同棲生活”だったくらい明るい奴だったんだけど」

 

「そのあだ名…小学生の女の子に付けるものじゃないし、それ以前に小学生が考えるようなあだ名でも無いわよね」

 

「あだ名というより芸人のキャッチコピーっすね」

 

「何よりうちの小学校の生徒会長だったしな」

 

「「え!?」」

 

ユウトがヒカリを見つめる。

 

「……どうしたんだろな…ヒカリ……」

 

 

 

 

ヒカリはヒカリで別のことを考えていた。

 

(2年ぶりくらい…だよね………どのくらい知っている人が居るか………………)

 

 

ヒカリの顔色が若干悪いのはお昼を抜いたからでは無く、今から行くカードショップが以前ヒカリが頻繁に出入りしていた店だったからだ。

 

 

(…あの人なら……きっと今でもあの映像を保存しているんだろうな………)

 

 

(はぁ……でもあれから2年経ってるし…バレないよね)

 

 

ヒカリは2年前から自身の体型が余り変わってないことは考えないようにした。

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

「ヒカリ様………!?ヒカリ様だ!お帰りなさいませ!ヒカ………」

 

バタン

 

ヒカリは扉を閉める。

 

「………………」

 

ヒカリ達四人はカードショップ“アスタリア”に到着していた。

 

「えっと…今のは何なのかしらね?ヒカリさん」

 

「………………」

 

「ヒカリ…?大丈夫か?」

 

「………………」

 

ヒカリは帰りたかった。

 

チアキの提案に従っていれば良かったと思った。

 

程なくして扉が中から開けられる。

 

現れたのはこの店のロゴがあしらわれたエプロンを着た若い女性だった。

 

 

「お久しぶりです、ヒカリ様」

 

 

「……誰のことかな…?」

 

 

ヒカリが目をそらす。

 

 

「ヒカリ様!私の顔をお忘れですか!?」

 

「初対面の人の顔なんて知りませんよ…」

 

「そんな!こっち見てから言ってください!」

 

「…シーラーナーイーヨー」

 

「あ、何だ初対面でしたか」

 

「…やっと分かってくれたんだね、春風さん」

 

「みんな!来てくれー!ヒカリ様だ!!」

 

「やーめーてー!!」

 

そのやり取りに置いてきぼりになるチアキ達。

 

「…取り合えず店の中に入れてくれないかしら」

 

その後15分程度してからようやく四人は店の中に入ることができた。

 

 

店の中はカードマニアックスよりも広かった。

 

天井に施された星の装飾や大きな柱時計がこの店をカードショップの雰囲気から遠ざける。

 

カードのシングル販売用のガラスケースも目立たない所に置いてあった。

 

「すごいな…まるで喫茶店だ…」

 

「本当…上品な雰囲気に…若干、花の香りもするわ」

 

その言葉に先程のエプロンを着た女性がヒカリに跪いた状態で答える。

 

「一応、色々気を使った結果カードショップっぽく無くなっちゃったんですよ、たまに喫茶店と間違えて入って来ちゃう人もいて大変です」

 

「何となくっすけど…隠れ家的雰囲気を感じるっす…経営に影響は無いんすか?」

 

「ここがカードショップって分かってる人には好評ですよ」

 

「………………」

 

ヒカリはずっと黙っていた。

そんなヒカリの足下にはおおよそ20人近くの人達が跪いていた。

 

「ヒカリ様!」

 

「ヒカリ様!」

 

そこには大きなお友達から中学生くらいの子まで様々な人がいた。

 

「そろそろ説明願えるかしら…」

 

チアキが呟く。

 

ジュリアンやユウトも同じことを考えていた。

 

「私が説明しましょう」

 

先程の女性が答える。

 

「我々は!ヒカリ様の親衛隊にしてファンクラブなのです!!」

 

「はぁ…(…またこのパターンか)」

 

ユウトのため息の意味を知ってか知らずか女性が名乗る。

 

「私は会員番号一番の親衛隊隊長!春風ユウキ!」

 

「………ちなみに…ここの店長みたいな人…」

 

ヒカリが疲れきった顔で答える。

 

「でも何でこんなところのショップにヒカリさんの親衛隊がいるのかしら…?」

 

「普通、親衛隊が存在することの方が疑問じゃないっすか?」

 

「………北宮…北宮………そうか!」

 

ユウトがあることを思い出す。

 

「この町はヒカリが中学時代を過ごした町なんだ!」

 

「………………うん…」

 

「そしてヒカリさんはここのショップに通っていたのね?」

 

「………………………うん………」

 

春風さんがその言葉に続けて悲しそうに言う。

 

「でもある日ヒカリ様はこの店に来なくなってしまったのです………『私は普通の女の子に戻るんです!』と言い残して………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「春風さん…私、春風さんの失恋エピソード全部ここで話してもいいんですよ?」

 

ヒカリが笑顔で言う。

 

目のハイライトを消しながらだ。

「ヒカリ様、私の失恋話なんて知りませんよね!?」

 

「あれは少し雨の降っていた朝…いつもの木の下で待ち合わせていた松原君が…」

 

「何で知っているんですか!!私の高校時代の…」

 

「当たっちゃいました!びっくりです!」

 

「もう!お止めくださいヒカリ様!」

 

端から見ると楽しそうな二人の会話をチアキ達が見ていると親衛隊の一人がチアキに話かけてきた。

 

「あの…ヒカリ様のお仲間…ですよね?」

 

「ええ…そうよ…?」

 

「では、こちらのDVDを一緒に見ませんか?もっとヒカリ様のことを深く知るきっかけになりますよ!」

 

「………じゃあ見せてもらおうかしら」

 

親衛隊がプロジェクターの用意を始める。

 

「………ちょっと待って何を始めるの!?」

 

ヒカリの顔が少し青くなる。

 

「DVDの再生じゃないですか?もっとヒカリ様の魅力を知ってもらいたいじゃないですか」

 

「……DVDってまさか!まだ“あれ”が残ってるの!?」

 

(…この人達は全く!どうしていつも…)

 

「隊長!行きます!!」

 

「出撃を許可する!!!」

 

 

「許可しないでー!!」

 

 

ヒカリの悲痛な叫びがこだまする。

 

 

親衛隊の一人がDVDの再生ボタンを押す。

 

 

その映像がプロジェクターによってスクリーンに映し出された。

 

 

ゴスロリを身に纏う少女が中央に現れる。

 

その唇も黒く染まっていた。

 

 

『………私の名は深見ヒカリ!!貴様達の主だ!』

 

その少女はカメラに向かって美しく微笑んでいた。

 

 

 

「………………」

 

スクリーンを見たヒカリが真っ赤を通り越して、真っ白に燃え尽きる。

 

 

 

『私とファイト出来ることを光栄に思うといい!!』

 

 

『ああ、奈落の底から私を呼ぶ声がする……』

 

 

『“悪夢”…それは人の心に眠る呪い、絶望のイメージは形を変えて世界に降り注ぐ…明けない夜を数えながら、ひたすら死を待つがいい!!クロスライド・The・ヴァンガード!!ファントム・ブラスター・オーバーロード!!!』

 

 

『あなたの絶望した顔……私に見せてよ』

 

『そんな所にいては風邪をひく…こっちに来い、私が暖めてやろう』

 

 

『私は奈落竜の加護を受けているのだぞ!』

 

 

『バカっ!私を心配させないで!!』

 

 

『ほう、お前が私を楽しませてくれるのか?』

 

 

 

 

ーー話している言葉よりずっと暖かい光景ねーー

 

 

チアキはDVDを見ながら不思議なくらい冷静な頭でそう思った。

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 

「…恥ずかしすぎて………余裕で死ねる…転生して後4回くらい連続で死ねる………」

 

ぶつぶつと呟くヒカリ、その目は死んでいた。

 

「そんな!ヒカリ様を再び失うなんて…」

 

「春風さん……ごめん…少し黙って…」

 

ヒカリは三人の方を見る。

 

「………」

 

「…」

 

「………」

 

 

三人は放心状態に見えた。

 

 

「あううぅぅ…………もう駄目………」

 

ヒカリが店の裏口の方へ駆け出していく。

 

この時のヒカリは知るよしも無かったがチアキ達三人はそれぞれ別のことを考えていた。

 

 

(…このヒカリさん可愛い)

 

(……この映像、うちのクラスの奴らに見せたら死人が出そうだな…)

 

(………ゴスロリ…)

 

 

ヒカリは店の外でしゃがみこむ。

 

「…………はぁ………どうしてこんな…」

 

ヒカリのお腹が鳴る。

 

「…お腹空いた…」

 

そんなヒカリに当たる日光を遮るように誰かがヒカリの前に立った。

 

 

「ヒカリちゃん」

 

 

そう話かけたのは春風さんだった。

 

 

「春風さん……?」

 

 

「今は一人の春風ユウキとして話をさせてもらうわね………本当はもっと前に話したかったんだけど…ヒカリちゃん居なくなっちゃったから」

 

「…………」

 

 

「ヒカリちゃんがヴァンガードを始めたのは奈落竜様が好きになったからだよね」

 

 

「…うん」

 

 

「でも、少し人間不信になってたよね?中学校で何があったのか…話してくれたのはずっと後だったし」

 

 

「………」

 

 

「自分の居場所を探してたんだよね……私の入れ知恵で…キャラ作って…可愛かったなぁ………少し強がってる感じが」

 

 

「…春風さん、私怒りますよ」

 

 

「………私にはこんなに話せるのに………まだ他人との…ううん…友達との間に壁を作ってるよね」

 

 

「………だって、私、あんな人間なんですよ…自分でも本当……」

 

 

「うーん私もあそこまでヒカリちゃんが自分に酔ってるとは思って無くてねぇ」

 

春風さんは困ったように言う。

 

「DVD見せたら真っ赤になっちゃって……それから来なくなっちゃったよね」

 

「……………だってあそこまでとは…」

 

「まぁこの店はヒカリちゃんみたいな子が好きな人が集まってた店なんだから気にすることは無いんだよ?」

 

 

「…それはそれで怖いけど………そうなの?」

 

 

「みんなヒカリちゃんを知っている……この三人だってね」

 

春風さんが振り向くと、そこにはチアキ達が立っていた。

 

 

 

「………みんな」

 

 

 

「これでもう隠すことも無い…裸の付き合いって奴ね!!」

 

「ちょっと違うと思うし、今のお嬢が言うと何か怖いっす…でも、そうっすね、ここにいる三人はこの間の一件でもうヒカリさんの“強さ”を知っているっす」

 

「ジャスティス野郎のことだな?あの時、ヒカリはあの女の子のためにあんな変態にも迷わず立ち向かっていった……ヒカリの一番良いところ…自分の気持ちをねじ曲げない所………すごく好きだよ…みんなそう思ってる」

 

 

「………でも」

 

 

「僕らはもうヒカリさんの一番恥ずかしい過去を見てしまったっす」

 

「ヒカリの全てを受け止められるさ、今ならな…というかみんな若干気づいていたけどな」

 

「というか、そんな大した話じゃないわ、こんな風な思い出…誰にだってあるわ…ね、ジュリア」

 

「ジュリアンっす、って何で僕なんすか」

 

「あ、ちなみに私は高校時代、恋の魔法少女とか名乗ってましたよ」

 

「………」

 

春風さんの告白に凍りつく空気。

 

「「それは……」」

 

「…え…そこまで凍りつかなくても…」

 

「ヒカリさん……世の中にはヒカリさんよりよっぽど痛々しい人はいるわ、だから気にすることなんて無いのよ」

 

「えー」

 

 

「…みんな…ありがとう」

 

 

その笑顔はまるで星の光のように輝いていた。

 

 

 

春風さんも良かった良かったと笑う。

 

「…ヒカリ様!この件の功労者である私を褒めてください!」

 

「…………勝手にあのDVDの再生を許可したこととか、そもそもあのDVDを廃棄しなかったことを水に流せと?」

 

「ヒカリ様!?」

 

ヒカリと春風さんは笑う。

 

とは言えヒカリは少し本気で怒っていたが…

 

「あの………ヒカリさん…いいかしら?」

 

チアキが恥ずかしそうにヒカリに話しかける。

 

「…どうしたの天乃原さん?」

 

「明日!その…あのゴスロリとメイク姿を…その見せて欲しいかな………なんて」

 

「そう言えばお嬢、ああいうファッション好きだったっすよね、『自分には似合わない』とか言って落ち込むくらい……まぁ…そうっすね、僕も見てみたいっす」

 

「え…」

 

「ヒカリ様2年前からほとんど体型変わって無いみたいですし大丈夫でしょうね」

 

「え…」

 

「じゃ…じゃあ大丈夫よね!?あ…明日この店で会いましょう…みんなで!!」

 

「え…」

 

「了解っす」「分かったよ、リーダー」

 

「え……?」

 

「私!楽しみにしてるから!!ゴスロリ!」

 

「ええええええええええ!?」

 

 

ヒカリの叫びがこだまする。

 

 

 

 

…その様子を金髪の男女が見守っていたことはまだ誰も知らない。

 


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