君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

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017 漆黒の少女と黄金の少年(上)

深見ヒカリらチームシックザールがカードショップ“アスタリア”に訪れた翌日…日曜日。

 

 

ヒカリは自身の親衛隊の隊長…春風ユウキの運転する車に乗ってショップに向かっていた。

 

 

「はぁ…」

 

「ため息なんかついてると幸せに愛想つかされちゃいますよ、ヒカリ様」

 

 

時刻は朝の6時…ヒカリはチアキ達よりも早くショップへ向かおうとしていた。

 

 

「別に普段着でも問題無い格好なのにどうして恥ずかしがるんです?」

 

「…その普段着を今から見世物にするからです!……普段着だったのに、どうして昔の私を象徴する服になっちゃったんだろ…」

 

 

ヒカリが再びため息をつく。

 

 

首の動きと共にヒカリの肩に届かない程度の黒髪が揺れる。

 

 

車が左折したことで、カードショップアスタリアが見えてくる。

 

 

「そろそろ到着ですよ、あ…本当の開店は10時からなんですからね」

 

「うん…感謝してるよ」

 

 

車が停車する。

 

ヒカリが車から降りる。

 

 

その姿は朝の霞みの中で強く存在感を出していた。

 

 

頭には幅の広く赤いレースが付いた黒色のヘッドドレス。両サイドの黒い大きなリボンが印象に残る。

 

袖口が広がっていて、襟がリボンタイになった上品な漆黒のブラウスに黒とボルドーのカラーリングが美しいクラウンチェックのフリルスカート。

 

そしてフリルのついた黒いオーバーニーソックスとブーツがヒカリのファッションを決定づける。

 

 

ヒカリは黒く染まった唇を開いた。

 

 

「ふう…ゴシックロリータ…ねぇ……本当に久しぶりだよ…」

 

「私の車…結構広いと思うんだけどスカートは大丈夫かな?」

 

「…ん……問題無いよ」

 

ヒカリのフリルスカートは今も形を崩すことなくトリコットパニエのおかげでふくらんでいた。

 

 

「しかし2年ぶりにヒカリ様を、まさかそのお姿で拝見できるとは…ありがたや、ありがたや」

 

 

そのリアクションにヒカリは複雑な表情を浮かべる。

 

 

「春風さん…からかわないでよね」

 

「え!?そこは照れながら言うところでは!?」

 

「……………」

 

「申し訳ありません」

 

 

ヒカリが店へと歩き出す。

 

 

そんなヒカリに春風さんが問いかける。

 

 

「みなさんが来るまでまだ時間…ありますよね?」

 

「うん…ちょっと早すぎだとは分かってるよ」

 

 

春風さんがヒカリに笑いかける。

 

「久しぶりついでにこの私とヴァンガードファイトしませんか?」

春風さんの手にはヴァンガードのデッキが握られていた。

 

「…うん……相手になってやろぅ………じゃなくてお願いするよ」

 

こうして二人は店の中へと入っていったのだった。

 

 

「あ、でも朝ですし何か食べますか?」

 

「…うん」

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

「……で、ヒカリがそのヴェルダンディってファイターだって言いたいのか?」

 

天台坂駅で舞原ジュリアンと青葉ユウトの二人は天乃原チアキと待ち合わせをしていた。

 

目的地は先に向かったヒカリの待つカードショップアスタリアである。

 

「そうっす…たぶん……きっと!…絶対!……だってゴスロリっすよ?…ファイターっすよ?…ゴシックでロリータなファイターっすよ?…そんなの他にいるとは思えないっすもの」

 

「でも前に戦った時は…そういう感じはしなかったんだろ?」

 

ジュリアンが痛いところを突かれたという様に顔を歪める。

 

「それは…きっと…あ!あれっす!…ゴスロリを着ることで隠された力が目覚め……」

 

「ないって」

 

しばらく沈黙の時間が流れる。

 

ジュリアンはデッキを取り出し、見つめた。

 

「…この“とっておき”で君の化けの皮を…」

 

タッタッタッタッ

 

駅の方へ近づく足音がする。

 

「二人とも!待たせたわね!!」

 

そこに現れたのは天乃原チアキであった。

 

ジュリアンがデッキを仕舞いつつ言う。

 

「遅いっすよ、お嬢…今日はお嬢の奢りっすね」

 

「リーダー…その荷物は?」

 

チアキは大きなバッグを抱えていた。

 

「色々なカメラを持ってきたのよ!」

 

ジュリアンがそれらをバッグから取り出して見る。

 

「これって…MINOLTA XE…名機っすけど今時フィルムカメラっすか………で、こっちが富士のX-T1B……お嬢にしてはリーズナブルなデジタル一眼っすね」

 

 

「いや……なんでカメラ…?」

 

そう呟いたユウトをチアキはやれやれと言いたげに見つめるのだった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

「誰よりも世界を愛し者よ、奈落の闇さえ光と変え、今、戦場に舞い戻る!ライド!!撃退者 ドラグルーラー・ファントム!!」

 

「それがヒカリ様の最新の口上ですか!」

 

アスタリアの店内ではヒカリと春風さんのファイトが行われていた。

 

「…ドラグルーラーでヘルエムにアタック!…でも今日はお客さん少ないね」

 

「ラムエルでガード!2枚貫通!…いえいえ今も見えないところに親衛隊のメンバーはいますよ」

ヒカリが振り向く…確かにあちこちから人の気配を感じる。

 

「……怖いよ……ドライブチェック…」

 

11時を迎え、店にはヒカリ達以外に数人の客がいるだけだった。

 

カードを物色する者やファイトする者…楽しみ方は様々だが沢山の人間がヴァンガードというカードゲームを通してつながっている。

 

そう思うとヒカリはこうしてファイトしていることがとてもかけがえのない時間だと感じるのだった。

 

 

 

 

「はっ…そんな弱っちぃデッキでこの俺と戦う?ざけんなよ」

 

 

 

思わず耳を疑う様な暴言が聞こえてきた。

 

 

「………」

 

ヒカリが声の方を見る。その動きに合わせてスカートがふわっと揺れる。

 

「な…何なんだよ!あんたは!僕の騎士王をバカにするのか!?」

 

「少しでも反論する余裕があんなら帰ってデッキ組み直してこいよ…それが嫌なら飯食ってその辺で寝てな…雑魚が」

 

 

「……………っ」

 

 

「アルフレッド・アーリー……ソウルセイバー・ドラゴン……時代遅れもいいところだよなぁ…もし、それ使ってお前がこいつに勝てんのなら………話くらいは聞いてやってもいいぜ?」

 

 

そういって彼は自分の隣にいた女性を指差す。

 

 

「お前程度のファイターじゃ…相手にならないだろうがなぁ(笑)」

 

ヒカリは暴言の主を見つめる。

 

(…“金髪”………舞原クンの銀髪みたいに地毛って感じじゃない………不良?)

 

そこにいたのは金髪で中学生くらいの男だった。

 

その隣にはヒカリと同じくらいの年の女性…こちらも髪を金に染めているようだ。

 

罵られていた男性と金髪の女性がファイトを始める。

「…リミットブレイクも入ってねぇのかよ…つまんねぇな」

 

「………………」

 

そう告げるその少年はたいしてファイトを見るわけでもなく手元のメモ帳ばかり見ていた。

 

 

「…何のためにヴァンガードやってんだ?お前」

 

それは何も考えられていない暴言だった。

 

 

自然とヒカリの手は持っていた黒いハンドバッグの中へと伸びていく。

 

その指が黒い宝石箱に触れる。

 

隣を見ると春風さんも目が怒っていた。

 

「親衛隊の隊長として…なによりこの店の店長代理として注意…いや粛清してきます」

 

「…待って春風さん…私が行く」

 

ヒカリはゆっくりと金髪の少年に近づいていく。

 

(…ヒカリ様…騒ぎを大きくしないでくださいね…)

 

 

春風さんの心配を他所にヒカリが金髪の男子の前に立つ。

 

「…?何だ?お前は」

 

 

何故かヒカリの脳裏に“美空カグヤ”の顔がよぎる。

 

 

ーー『あなたはヴァンガードが好きですか』

 

そう聞いてきたときの彼女の表情が…

 

 

「…あなたに……他者のデッキへ口出しする権利は無い」

 

 

「ああん?…ああ(笑)あいつのことか」

 

もうファイトは終わってしまったのかその男性の姿は無かった。

 

「見てらんねぇんだよなぁ…ああいう“何も分かってない”奴」

 

……………

 

「騎士王 アルフレッド?ああ強“かった”かもな…でもなぁ…今じゃ“マジェスティ”や“ジ・エンド”も単品じゃあ役に立ちゃしねぇ………ファントムブラスター(笑)?………笑うしかねえだろ…今更…昔の話をされても困っちまう…うざってぇ…いい加減“現実”見ろってんだよ」

 

 

……………

 

 

 

ーーー『…好きなユニットが時代遅れになったらどうしますか』

 

 

(あの時私はこう答えた)

 

 

ーーー『…どうにかして使います』

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

「………ったら…」

 

「ん?」

 

「だったら!!私と勝負してもらおうか…私のこのデッキと!!」

 

ヒカリは取り出したデッキを見せつける。

 

そのデッキトップにはヒカリの大好きなカードがあった。

 

「へぇ……“ファントム・ブラスター・ドラゴン”か(笑)………いいぜ…来いよ、ゴスロリのお嬢さん?」

 

 

(…ある意味、この間の変態ジャスティスよりは…話ができる分“まとも”…か)

 

ヒカリはラシンの目を見つめて言う。

 

「私の名はヒカリ…お前を倒す者だ」

 

「…俺は神沢ラシン…別に覚えなくていいさ」

 

ヒカリはその言葉に違和感を覚える。

 

「…なんかさっきまでと雰囲気が…?」

 

「…ちっ…『ふうん(笑)俺は神沢ラシン…お前を泣かしてやるよ』」

 

「…?」

 

ラシンと名乗った彼はテーブルにデッキを置いた。

 

ヒカリもファイトテーブルの前に立つ。

 

他のショップと違い、この店はアニメのような“スタンディングテーブル”も置いてあった。

 

(いつぶりだろう…この机に…このデッキを置くのは)

 

 

二人はデッキをシャッフルする。

 

 

「お嬢さん…泣いて帰らせてあ・げ・る・よ」

 

「それは私のセリフだ…真の闇を見せてあげよう…そして私に跪け!!」

 

じゃんけんを終えて…ヒカリの先行から始まることになった。

 

 

金色の少年が叫ぶ。

 

「スタンドアップ!my!ヴァンガード!!」

 

黒色の少女が叫ぶ。

 

「スタンドアップ!the!ヴァンガード!!」

 

 

それぞれのFV…フルバウとバトルシスター えくれあが場に登場する。

 

 

そんな二人を見つめる影があった。

 

「なかなか面白いことになってるじゃないっすか」

 

「………」

 

舞原ジュリアン…そして天乃原チアキの二人がそこにはいた。

 

「ヒカリさん…やっぱりファイト中に写真撮ったら迷惑よね」

 

「……そもそも、フィルムもSDカードも持ってきてないお嬢に写真を撮ることなんて……出来ないじゃないっすか」

 

 

「………うるさい…今青葉君に買ってきてもらってる所じゃないの」

 

 

 

ジュリアンは周りを見回す。

 

いつのまにか店の中は少し暗くなり、ヒカリ達のいるファイトテーブルだけが専用のライトによって照らされていた。

 

「…あっちなんか大変そうっすよ」

 

ジュリアンが指差す先ではヒカリの親衛隊が動き回っていた。

 

「おい!あの生意気な男……ヒカリ様に暴言を吐いたぞ……粛清しなくていいのか?」

 

「隊長からの命令だ…今は録画を成功させることに神経を集中させろとのことだ」

 

「…こっちのヒカリ様用スポットライトは準備完了だ」

ひそひそ声だがいくつか聞こえてきた。

 

「…愛されてる…ってことかしら?」

 

「…うっとおしそうっすけどね……」

 

 

チアキとジュリアンは苦笑いを浮かべる。

 

そして二人はビデオカメラの邪魔にならない程度にヒカリ達のファイトテーブルに近づいていった。

 

 

 

「私のターン…ドロー」

 

 

ヒカリは山札から一枚引く。

 

(カースド・ランサーか…)

 

 

ヒカリの手札は

 

G3 ファントム・ブラスター・ドラゴン(10000)

 

G1 ブラスター・ジャベリン(6000)

 

G1 秘薬の魔女 アリアンロッド(7000)

 

G1 黒の賢者 カロン(8000)

 

G2 虚空の騎士マスカレード(9000)

 

 

そして今ドローしたG2のカースド・ランサー(9000)…

 

 

「…ブラスター・ジャベリンにライド…ソウルのフルバウが主を呼ぶ…来い!ブラスター・ダーク!!」

 

 

フルバウのスキル…“連携ライド”を扱うフルバウは“ブラスター・ジャベリン”がその上にライドすることでG2のブラスター・ダークを山札から手札に加えることができるというスキルを持っていた。

「…スキルでジャベリンはパワー8000になる」

 

さらにライドに成功することができればユニットのパワーも上昇するのだ。

 

連携ライドのスキルでヒカリは手札を減らすことなくターンを終えた。

 

「俺のターンか…ドロー、そして“サークル・メイガス(7000)”にライド!バトルシスター えくれあをVの後ろにリヴァイブ・コール!」

 

ラシンがライドしたカードを見てジュリアンが呟く。

 

「…メイガス…っすか」

 

「メイガスって何だったかしら」

 

「そうっすね…デッキトップを操作するユニット達っすね…まあ、まだメイガスのデッキって決まったわけじゃあ…」

 

「そうじゃなくて意味よ」

 

「………“魔術師”っす」

 

 

ラシンは外野の呟きを無視してファイトを進める。

 

「えくれあのブーストでメイガスがアタックする…ノーガードだろ?」

 

「…ああ」

 

「ドライブチェック…ダーク・キャット…トリガー無し…ほら、お楽しみのダメージチェックの時間だ…」

 

(…ダーク・キャット…っすか…また懐かしいカードを…)

 

 

「……ダメージチェック……っ!…ファントム・ブラスター・オーバーロード………」

 

 

ダメージという奈落に落ちたのはヒカリの使うこのデッキの主力というべきユニットだった。

 

 

「あらら?残念だったな~残りはたったの3枚だ…」

 

 

…ファントム・ブラスター・オーバーロード……略してFBOは“ペルソナブラスト”という“自分と同じカードをドロップゾーンに置く”ことでスキルを発動させるユニットであった。

 

 

つまり山札にあるこのユニット4枚の内2枚を手札に加えなければその本領を発揮できないのである。

 

 

今、その4枚の内の1枚がダメージに落ちた……ヒカリとしては覚悟はしていたが、好ましくない事態でもあった。

 

「ま…あんたが“ファントム・ブリンガー・デーモン”見たいなサーチ系のカードを持ってんなら…」

 

 

「…『ターンエンド』は?」

 

 

「ああ(笑)ターンエンドだ」

 

 

ラシンの“煽り”がヒカリの思考を邪魔する。

 

 

「…ドロー…私に仕えよ…ライド!ブラスター・ダーク!!(9000→10000)」

 

 

ダークのパワーが連携ライドによって9000から10000まで上昇した。

 

ヒカリはドローしたヒールトリガーの“アビス・ヒーラー”を苦々しい表情で見つめると手札からカードを出す。

 

「共に戦え!虚空の騎士 マスカレード!…そしてブラスター・ダークがメイガスにアタックする!(10000)」

 

ヒカリが相手のヴァンガードにアタックを宣言する。

 

「ガードだ…ダーク・キャットでな?(1枚貫通)」

 

「ドライブチェック…秘薬の魔女 アリアンロッド…トリガー無し」

 

「見れば分かるって」

 

「マスカレー…(12000)」「バトルシスター じんじゃーでガード…俺のターンだ、スタンドアンドドロー…」

 

 

二人の間に流れる空気は鉛の様に重かった。

 

 

「すごい険悪なファイトっすね」

 

「ヒカリさん………」

 

チアキは持っていたカメラを握りしめる。

 

 

ヒカリのダメージは1…ラシンは0であった。

 

「ライド!ステラ・メイガス(9000)!!そしてえくれあのブーストでアタック!!(13000)」

 

パワー13000のアタックがブラスター・ダークを襲う。

 

「…ノーガード」

 

 

するとラシンはにやりと笑った。

 

 

「…いいのか?見せてやるよ、クリティカルトリガーを…」

 

 

 

「…え?」

 

(…クリティカルトリガーを…宣言した??)

 

「ドライブチェック…ほらよ!サイキックバード!クリティカルトリガーだ!効果はもちろん…まぁ分かるよな?」

 

ヒカリのダメージゾーンにブラスター・ダークと黒の賢者 カロンの2枚が置かれる。

 

 

(………)

 

(何なんすか…この感じ…)

 

 

ヒカリとジュリアンはラシンの姿を見つめる。

 

 

そして“それ”に気が付くのだった。

 

 

((瞳が…輝いている!??))

 

 

ラシンの瞳は茶色から黄金の色に変わっていた。

 

 

「…?あんたのターンだ…早くしろ」

 

 

 

ヒカリのダメージはラシンが未だ0点なのに対して3点まで与えられていた。

 

 

 

「…ああ……スタンドandドロー…(アビス・フリーザー…ドロートリガー…またトリガーユニット…)」

 

 

ヒカリは手にしたカード達に触れる。

 

 

(待ってて…今、私の思いを…)

 

 

ーー『ヴァンガードが好きですか』

 

 

(君たちの力を…)

 

 

ーー『単品じゃ役に立ちゃしねえ』

 

 

(この人に見せつける!!)

 

 

「…呪われし竜よ…出でて我が道を切り開け!!ライド!ファントム・ブラスター・ドラゴン!!!(10000→11000)」

 

奈落竜と呼ばれた竜がヒカリの分身として、先導者として、ヴァンガードサークルに立った。

 

連携ライドによるパワーの上昇に加え、ゴスロリ姿のヒカリには親衛隊によるスポットライトが当てられる。

 

「ファントム・ブラスター・ドラゴンでステラ・メイガスにアタック!!パワーは11000!」

 

「ノーガードだ…さあ…来な」

 

「………ツインドライブチェック…first…デスフェザー・イーグル!クリティカルトリガー!クリティカルは奈落竜に与えて、パワーはマスカレードに!………そしてsecond………」

 

 

「「ファントム・ブラスター・ドラゴン」」

 

 

「!?」

 

 

ヒカリとラシンの声が完璧に重なる。

 

 

ヒカリが声を出した時よりもカードを公開したのはわずかだが後だったはずなのに……だ。

 

 

 

「……あなたは…いや…何か仕掛けて…?」

 

 

ヒカリの傍にいた黒子…もとい親衛隊兼店内スタッフの一人が話しかける。

 

 

「ヒカリ様…お調べしましょうか…」

 

「必要無い…どんな卑怯な手を使おうと私は勝って見せる………だから見守っていてください」

 

「は、承知しました……頑張って」

 

 

同じ頃ジュリアンもまたラシンの発言に関して思考を巡らせていた。

 

 

(今まで怪しい動きは無かった…自分のデッキはともかく相手のデッキトップを言い当てるなんて…ただのハッタリならいいんすけど…)

 

 

ジュリアンは意見を求めるためにチアキの方を見る。

 

「不思議ねー」

 

(…思考停止中っすね…)

 

 

「ダメージはステラ・メイガスとフローラル・メイガスだ(トリガー無し)」

 

「…マスカレードで…(12000)」「ダメージはてぃらみす…ドロートリガーだから1枚引くぜ?…俺のター…」

 

「“ターンエンド”……」

 

ダメージは互いに3点…ラシンにターンが回ってくる。

 

「さあて…スタンドとドロー…そしてライド!!俺の支えとなれ!ヘキサゴナル・メイガス!!(11000)」

 

(…ブレイクライドスキルをもったユニット…)

 

(やっぱり正真正銘メイガスデッキ…でも何すか…この…嫌な感じ)

 

「そして…ダーク・キャット(7000)をえくれあの隣にコール!!…スキルだ…“全てのファイターは1枚引いてよい”!!」

 

「またダーク・キャットっすか…何でこのデッキに入って…いや…メイガスで公開状態のデッキトップのカードを回収する目的なら使いやすいっすか…?」

 

ジュリアンの呟きを無視し、ラシンはヒカリに問いかける。

 

「俺は引かない…お前はどうする?」

 

ラシンの目の黄金の輝きは強さを増していた。

 

「…ドロー…する……」

 

そうしてヒカリがドローしたのは“アビス・ヒーラー”…ヒールトリガーだった。

 

これでデッキに4枚しかないヒールトリガーの内の2枚が手札に入っていた。

 

(…大丈夫…よくあること…うん)

 

ヒカリを見たラシンが薄く笑みを浮かべる。

 

「どうやらいいカードが引けたらしいなぁ(笑)」

 

「…何を言っている?」

 

だがラシンはヒカリの言葉は聞いていなかった。

 

「えくれあのスキルだ…CB1…ソウルイン…山札の上から5枚見て“フローラル・メイガス”を手札に加える」

 

ラシンの主力ユニットとおぼしきカードが手札に加えられる。

 

一方でヒカリは全てが見透かされているような感覚に陥っていた。

 

「ヘキサゴナルの後ろに“ロゼンジ・メイガス(ヒールトリガー)”をコール…そして!ヘキサゴナルがロゼンジのブーストでお前のヴァンガードにアタックする!!(19000)」

 

パワー19000のアタック…この後に相手のブレイクライドが待っていることを考えるとダメージに余裕を作りたいヒカリだったが、自分のユニットの退却をコストとする“ファントム・ブラスター・ドラゴン“のスキルを使うのならば手札を消費しすぎる訳にもいかなかった。

 

(…ブレイクライドはこっちで相手のダメージを3点で止めておければ…大丈夫だとしよう)

 

「ノーガード…」

 

「はははっ!ドライブチェック…1枚はステラ・メイガス…もう1枚はロゼンジ…ヒールトリガーだ」

 

ラシンがCBによって裏になっていたダメージゾーンのフローラル・メイガスをドロップゾーンに置く。

 

 

 

 

「さぁて…お楽しみのダメージチェック…いや、感動のご対面…の時間だぜ(笑)引いてみろよ?」

 

 

 

「……?…ダメージチェック…………あ…」

 

 

ヒカリの黒い唇から思わず声がこぼれた。

 

 

 

ヒカリの手に握られていたカード…それは

 

 

 

「…“ファントム・ブラスター・オーバーロード”…だろ?」

 

 

 

 

 

そこには…“再び”…暴走する奈落竜…ファントム・ブラスター・オーバーロードの姿があった。

 

 

 

 

 


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