君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

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024 Dark heart~その男、櫂トシキ~

太陽は今日も元気に僕を殺そうとしている…そんな7月21日。

 

銀髪の青年が頭の中でお気に入りの曲を再生させながら、カードショップへと向かっていた。

 

 

 

(どんな時も失くせない~♪希望は~僕らの~最後のギアさ~♪……さて…次のショップは…“カードレインボー”っすね)

 

僕、舞原ジュリアンはあちこちのショップで予約してあったヴァンガードの商品を受け取っている最中っす。

 

ヒカリさん御用達のシャドウパラディン…他にもジェネシスのブースターやゴルパラ、リンクのトライアル…特にリンクのトライアル付属のフォトンは少しでも多く回収したいものっす!もちろんRRR版で!

 

片手に日傘、片手に鞄を持って次のショップを目指すっす。

 

「おや…君は舞原君か」

 

「こんにちわっす黒川さん!」

 

僕の前に現れたのは黒川ユズキさん…以前お嬢がチームに誘ったことのある現役カードファイターっす。

 

最近はヒカリさんと仲が良さそうで…

 

「その様子だと、沢山買ったようだね」

 

「そう言う黒川さんだって!」

 

彼女も僕と同じようにトライアルデッキ等を買ってきた後のようっすね。

 

「今回は宵闇の鎮魂歌を多目に買ってみたんすよね…abyssが出たらヒカリさんにあげたいっすし」

 

「ヒカリ…さん…?……あれ…?」

 

「?……」

 

何となく黒川さん様子がおかしいように感じたんすけど、正直もっとおかしなことが目の前で起きたっす。

 

目の前が真っ白になったっす………。

 

…突然僕達は霧の中に入ってしまったっすよ…。

「…どういうことっすかね…もしかしてぴーえむ…」

 

「いや…いくらなんでも局地的すぎる……何っ!?」

 

僕より先に霧を抜けた黒川さんが何かに驚いた…?

 

僕も急いで黒川さんの後を追うっす。

 

「おいおい…嘘だよな…」

 

そう呟く黒川さんに続いて僕も前を見る。

 

「どうしたんすか…ってええ!?」

 

僕達の前に現れたのはごく普通のカードショップ…ただしその店名は…

 

「…カードキャピタル…か…」

 

その外見もここから窺える内装も…明らかにアニメで見た“あの店”だった……っす。

 

「これって…神隠し…的な奴か…?」

 

「…ちょっと待ってて欲しいっす」

 

僕は来た道を…霧の中を戻る。

 

すぐに今までいた“見慣れた景色の町”まで帰ることができた。

僕は戻って黒川さんに報告する。

 

「黒川さん、神隠しでは無いみたいっすよ…黒川さん?」

 

「………」

 

黒川さんはカードキャピタルを前にして動かない。

 

「舞原君…私たちはヴァンガードファイターだ…」

 

「…そうっすね?」

「ヴァンガードファイターが“カードキャピタル”という店を見つけて気にならない…そんなことないだろう?」

 

「そうっすね」

 

「ならば!行くぞ舞原君!!」

 

「えっ!?ちょ…」

 

駆け出す黒川さんを僕は追いかける。

 

(それはいいんすけど…今、僕が持ってるデッキは…)

 

僕は不安を抱えながら店内に入る。

 

そこでは二人の男じy…いや二人の青年がヴァンガードファイトをしていた。

 

「…まじっすか」

 

「…ははは……これは…」

 

その二人を僕は…黒川さんは…いや大体のヴァンガードファイターは知っているだろう。(アニメを見ていなくても商品のパッケージには描いてあるんだし)

 

青髪の青年は言う。

 

「行くよ!櫂くん!!」

 

もう一人がそれに答える。

 

「ああ…来い!!」

 

青髪の青年がカードを構える。そして…

 

「降臨せよ!騎士達の主!!ライド!光源の探索者 アルフレッド・エクシヴ!!」

 

 

そのカードは見ていた僕達にとって全く知らないものだったっす。

 

「何すか…エクシヴ…って」

 

「いや…よく見ろ…ネオンメサイアと同日発売のスリーブの画像が流れた時にあんな騎士王いなかったか?」

 

「えっと…じゃあ…もしかして…」

 

僕達はショップの入り口から店内を見回す…。

 

「…シークメイト!!」

 

ショップの棚…一番右端に“それ”はあったっす。

 

ネオンメサイアと書かれたブースターパック…。

 

…絶賛発売中だったっす。

 

(…ムービーブースター……ネオンメサイア…こっちじゃまだほとんど情報出ていないのに…)

 

 

 

「…探索の旅は終わり、再び君と巡り会う!!ブラスター・ブレード!!双闘!!」

 

 

櫂トシキ…先導アイチ…この二人のファイトを見ていた黒川さんが話しかけてくるっす。

 

 

 

「櫂くんとアイチくんが私たちの知らないカードで…目の前で戦っている…こんなに楽しい状況…味わったこと無いぞ!舞原君!!」

 

「そりゃそうっすけど………」

 

 

 

(一体………何なんすか………)

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

シャドウパラディンの本拠地…影の宮殿と呼ばれる屋敷の周りに広がる町…その中にあるしっかりとした造りの家に私、深見ヒカリは来ていた。

「えっと…お邪魔します…」

 

私はだったんの家にお邪魔させてもらうことになっていた。

 

どうやら彼女もここに引っ越したのは最近らしい。

なんでも星輝大戦の後、シャドウパラディンへの加入を希望する人間が増えてしまったことに原因があるとか…。

 

ちなみに私が危険な持ち物を持っていないかの検査が少し前に行われたのだが、その時の自身のヴァンガードカードを見たモルドレッドの顔は今でも忘れられない。

 

(…驚いてたな……)

 

私は慎重に部屋に入る。

 

「ようこそ…えっと…特におもしろみの無い家だから…緊張しなくていいよ」

 

「あ…うん……お世話になります」

 

モルドレッドと同じように私も普段カードで見ている人たちが目の前にいるのは…変な感じだ。

 

「そうだ…お腹空いてない?僕、何か作るよ」

 

「あ、ありがとう…だ…トランペッターさん」

 

「うん、どういたしまして…あと」

 

彼女は何か言いかける。

 

「?」

 

「うん…トランペッターさんじゃ…この近くには結構いるから僕のことは」

 

「だったん?」

「違う……ダークハートさんって呼んで」

 

「…ダークボンドじゃないんだね」

 

私が持っているカードでは“撃退者 ダークボンド・トランペッター”だったんだけど…。

 

「知ってたんだ…でも今の僕はダークハートだよ……これから、自分がしたいこと、しなきゃいけないことを見つけるため…今よりも成長するために……まずは名前から変えたんだ」

 

そう答える彼女の顔は決意に満ちていた。

 

だから…こんなことを考えてしまったのは彼女にも失礼だとは思った。

 

「成長…」

 

つい私は彼女の体の一点を見つめてしまった…それは私の持っているカードで見た時よりも確実に大きくなっていて…

 

「…胸とか?」

 

つい言ってしまった。

彼女は真っ赤になってこちらを睨む。

「違う!…それに…あなたも同じくらいあるじゃない…」

「……///」

 

今度は私が真っ赤になる番だった。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

「ん…どう?」

 

「…美味しい…すごく美味しい!!」

 

「うん…そう言ってくれると…嬉しい」

私はだったんが作ってくれた料理に感動する。

 

彼女の作ってくれたシチューのようなもの、パスタのようなもの…他にも様々な料理が並べられていたが、そのどれもが私の今まで食べてきた料理のランキングベスト10に入る美味しさだった。

 

私はだったんが新たに持ってきてくれたパンのようなものを口にする。

 

「これも美味しい…名前は何て言うの?」

 

「え…自家製パン…かな」

 

「あ、そっか…こっちでもパンって言うんだね………って自家製!?」

「うん」

 

私は彼女の家庭的な面に関心する。

 

(…“パン”か…じゃあさっきのも“シチュー”や“パスタ”だったのかな)

 

どうやら地球とクレイでは色々と共通する所があるらしい。

 

(そもそも…言葉が通じてるんだもんね…)

 

私も明日の昼頃にはモルドレッドに“オラクルシンクタンク”へと連れていかれるらしいし、今日はゆっくり休みたい気分だ。

 

そんな気分になれるかは置いておくが…。

 

「うーん…」

 

(服が汗ばんでいる…お風呂に入りたい……)

 

「えっと…」

 

「何?」

 

「大きな町だし…銭湯とかあるのかな…あ…その前に私、着替えが無いか……」

 

「銭湯ならあるけどお風呂なら僕の家のを使っていいよ……この町の銭湯はたまに魔女の人達が変な実験してたりするから………あ、着替えは僕の使って……………ある程度サイズは合うでしょ…」

 

だったんは先程の会話を思い出したのか、顔を赤らめながら不機嫌そうにそっぽを向く。

 

「…ありがとう……じゃあ」

私は彼女の背中を押す…因みにエンジェルというのは翼や頭の輪を自在に出し入れできるらしい。

 

私は彼女の翼の無い背中を押しながらお風呂がある(と思われる)方向に進む。

 

「…何?」

 

「…一緒に入ろう?」

 

「え」

 

 

我ながら大胆なことを言っている気がする。

 

 

(でも……今は寂しいんだ…一人が)

 

「さあ…行こう…」

 

「……」

 

 

* * * * *

 

 

 

「……いいものを見せてもらったよ」

 

私は若干のぼせながら言った。

 

「…あなたも僕とそう変わらないから…///」

 

お風呂から出ると私はだったんの姿を見る。

 

紫の髪を降ろした彼女は私の視線に気がついた。

 

「どうしたの」

「ううん…何でもない…」

 

(改めて…髪を降ろした姿は初めて見たなぁ…)

 

彼女と私は慎重こそ少し違えど体型は似ていたため、着ることのできる服は着ることができた。

 

私は窓から夜空を見上げる。

 

外には私の知らない星々が輝いていた。

 

私の後ろでだったんが何かを用意している。

 

「アップルパイ焼いたけど…食べる?」

 

「…うん!」

 

彼女の手作りだと言うそのアップルパイもまた美味であった。

 

「……明日はオラクルシンクタンクか…」

 

「不安?」

 

「うん…まあね」

 

知らない世界…知らない場所…だけど名前は…どんな人がいるのかは知っている…とても不思議な感覚だ。

 

「だったら…あなたの世界の話…聞かせて?…何か話せば緊張も和らぐかも」

 

それは彼女の気づかい…薄々気づいてはいたが、やはり彼女はとても懐が深い。

 

「ふふ……ありがと…」

 

私と彼女はベッドに座る。

 

 

(…私の世界……私の話か…たいした話は無いけど…)

 

 

私は隣に座るだったんに話を始める。

 

 

自身のトラウマや楽しかった思い出を…

 

 

彼女はひたすら聴いてくれた。

 

 

 

 

 

二人の少女を月は優しく見守っている。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

僕、舞原ジュリアンは何故かファイトテーブルの前に立っていた。

 

そして何故か目の前には櫂トシキがいる。

 

「…どうした、デッキを出せ」

 

 

何故か…

 

 

 

(…何故か…じゃないっすね…“ファイトしてください”って言っちゃったのは僕っすから………でも)

 

 

僕はデッキケースの中身を見る。

 

デッキのトップにはFVである星輝兵 ワールドライン・ドラゴンが用意されていた。

 

(そう…よりにもよって僕の今日のデッキは星輝兵…それもグレンディオス…その上“遊び”要素多目になってるんすよね…)

 

おそらくこの世界が“アニメ版ヴァンガード”の世界ならば僕の持ってきたリンクジョーカーは忌み嫌われる存在…そんなクランを使って大丈夫なんすか…

 

(…でもアイチくんが“探索者”を使っていてムービーブースターが発売しているってことは、今アニメでやっているリンクジョーカー関連のいざこざは解決したってことっすよね…)

 

櫂くん、アイチくん、黒川さんの三人が僕を見つめているっす。

 

「……戦いたくない理由でもあるのか」

 

「いや…でも……それは……」

 

「はっきりしろ」

 

ここまで強く言われると返事に困る。

 

(……今から他のデッキを作るのも無理っすから…やっぱり“こいつら”でやるしかないんすね…)

 

「……このデッキで挑ませてもらうっす……けど、見て驚かないで欲しいっす」

 

僕はデッキを取りだし、FVをヴァンガードサークルに置いてデッキをシャッフルするっす。

 

(黒川さん……事情を察してくれてもいいじゃないっすか…)

 

そんな黒川さんはアイチくんと一緒に何やら雑談している…。

(このデッキ…“あいつ”が入ってるんすよね…)

 

僕の脳裏に浮かぶ黒輪の剣士…だが勝利のイメージは浮かばない。

 

(こんな大事な勝負で……“君”に呪われてるんすかね…僕は)

 

「…用意はいいか?」

 

「…もちろんっす」

 

僕たちはFVに手をかける。

 

「舞原君のファイトか…」

 

「…櫂くん」

 

(行くっすよ… 僕のリンクジョーカー(マイ・フェイバリット・クラン)

 

「スタンドアップ・the・ヴァンガード!!」

 

「スタンドアップ!!…ヴァンガード!!」

 

互いのFVが姿を見せる。

 

「「「「…!そのユニットは!!」」」」

 

その場にいた全員が驚く。

 

 

櫂くんとアイチくんは僕のFV…星輝兵 ワールドライン・ドラゴンを見て。

 

「…リンクジョーカー…だと!?」

 

「…こんなに早く……クレイは…」

 

 

そして僕と黒川さんは櫂くんのFVを見て驚く。

 

 

「煉獄竜…ペタルフレアドラコキッド??」

 

「見たことない…というかテキストが無いな」

見たことないのはともかく、テキストが見えないのはここがアニメ世界だからだろう…きっと。

 

僕らはしばらくの間黙り込む。

 

 

「…ファイトを始めるぞ」

 

「…僕のクランを見て…あまり焦って無いっすね」

 

すると隣にいたアイチくんが口を開く。

 

 

「僕も櫂くんも知っている…リンクジョーカーだって立派なクレイのクランだって……それに」

 

「そのリンクジョーカーからは邪悪な気配がしない……つまりリンクジョーカーであってリンクジョーカーではない…」

 

 

「…そんなことまで判るんすね」

 

「そうと決まればファイトだ」

 

「…そうっすね、僕は後攻っす」

 

 

「そうだったな…ドロー!ライド!ドラゴンモンク ゴジョー(7000)!ペタルフレア(5000)のスキル…コール!ターンエンドだ」

 

「……ドロー…障壁の星輝兵 プロメチウム(6000)にライドっす…アタック!」 「ノーガード」

 

「ドライブチェック…メビウスブレス…トリガー無し…ターンエンド…」

 

「俺のターン…ドロー!煉獄竜 メナスレーザー・ドラゴン(9000)にライド!煉獄竜 ワールウインド・ドラゴンをコール(9000)!!ペタルフレアのブースト!メナスレーザーでプロメチウムにアタック!!(14000)」

 

「…ノーガード…」「ドライブチェック、ボーテックス・ドラゴニュート!」

 

 

「…ダメージチェック…メビウスブレス…」

 

 

「ワールウインドでアタック!(12000)」

 

 

「…ダメージはヴァイス・ゾルダート…クリティカルっす」

 

ファイトは淡々と進む…僕は手札を見てはいたが何も考えていなかった。

 

 

「ターンエンドだ……何故本気を出さない」

 

「僕が…本気じゃない?…まだ4ターン目じゃないっすか…」

 

そう…まだ4ターン目…まだ……

 

 

「…その目だ」

 

「……」

 

「何を悩んでいる」

 

「…何もないっすよ…スタンド、ドロー…メビウスブレス・ドラゴンにライド(9000)…ヴァンガードにアタックっす」

 

「……ノーガードだ」

 

「…ドライブチェック…ヴァイスゾルダート…クリティカルっす…効果は全てメビウスブレスに」

 

「ダメージチェック…メナスレーザー…そして…ワールウインドだ」

 

「スキル発動…ワールウインド・ドラゴンを呪縛」

 

メナスレーザーの隣にいたワールウインド・ドラゴンが裏向きにして置かれる。

 

(悩み……そんなもの……)

 

僕は手札で待機する黒輪の剣士を見つめた。

 

僕は“彼”の使い方、タイミングが分かっていない。

 

「…俺のターンだ…スタンド…ドロー!…渦巻く炎で破滅を導け!!ライド!煉獄竜 ボーテックス・ドラゴニュート(11000)!!」

 

(ボーテックス…レギオンスキルは…トリニティクリムゾンフレイム…強制1ダメージっすね…)

 

「煉獄竜騎士 ジアーをコール(7000)…ペタルフレアのブースト!ボーテックス・ドラゴニュートでメビウスブレスにアタック!!(16000)」

 

「…ノーガード」

 

「ツインドライブ!…槍の化身 ター(ゲット!クリティカルトリガー)!クリティカルはボーテックス、パワーはジアーに!…セカンドチェック…煉獄竜 ランパート・ドラゴン」

 

「ダメージチェック…1枚…プロメチウム…2枚…ジェイラーテイル!ドロートリガー!パワーはVに…1枚ドローっす!」

 

「ジアーでメビウスブレスにアタック!(15000)」

 

「…ネビュラキャプターでガード!」

 

「これでターンエンドだ…解呪」

 

呪縛されていたワールウインドが戦列に復帰する。

 

「…スタンド、ドローっす…絶望を力に変える巨神!星輝兵“Ω”グレンディオス(11000)!! 」

「ほう…」

 

「グレンディオス…」

 

「舞原君のはシリアルナンバー入りか…すごいな」

 

三人とも違った感想をこぼす。

 

「ドラゴニック・オーバーロード“The Яe-birth”をコール!グレンディオスのスキルで、オーバーロードはリンクジョーカーのユニットになる!パワーも上昇!(11000→15000)」

 

「“The Яe-birth”……そんなユニットまで持っていたか……」

 

「櫂くんの…リバースユニットだね……どうして」

 

 

…二人が不思議そうな顔をする。

 

 

そんな二人に黒川さんが一言。

 

 

「そこは気にしなくていいけどね」

 

「「?」」

 

黒川さんはあれでフォローになったと思っているのだろうか。

 

「グレンディオスのスキルでワールウインド・ドラゴンを…呪縛!!このままグレンディオスでアタック!!(11000)」

 

「ターでガードだ(2枚貫通)」

 

「ツインドライブ…ファースト…ネビュラキャプター!ドロートリガー!!…パワーをドミネイトに与え1枚ドロー…セカンド…ドーントレスドミネイト・ドラゴン“Я”…トリガー無しっす…“The Яe-birth”でヴァンガードにアタック!!(20000)」

 

「アガフィアでガード」

 

完全に防がれる…そして彼のドロップゾーンには双闘用のコストが集まり始めていた。

 

僕のダメージは4…それに対して櫂トシキは2…櫂トシキというファイター相手にこの差は厳しかった。

 

 

「…行くぞ、俺のターン…スタンド、ドロー!…煉獄の灼熱に焼かれ…幾度も蘇る帝国の竜王よ!炎の中で奮い立て…俺の分身!ライド・the・ヴァンガード!!」

 

 

「…また知らないカードっす…」

 

「櫂くんの分身…」

 

「へえ…あれが…か」

 

 

ネオンメサイア収録…RRRのカード(おそらく)…

 

「…煉獄皇竜 ドラゴニック・オーバーロード・ザ・グレート!!!」

 

 

 

 

(本当……何でテキスト書いてないんすかねえ……)

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

……いつのまにか数ターンが終わっていた。

 

その間櫂トシキはザ・グレートのレギオンを繰り返していた。

 

繰り返すのはいい…だが問題はそのスキル…いわゆるVスタンドと呼ばれるものだ。

 

 

 

 

僕は振り替える。

 

 

 

 

ーー(1回目)ーー

 

「グレンディオスにレギオンアタック!!」

 

「……ルビジウムをガーディアンに!その攻撃は全てドラゴニック・オーバーロード“The Яe-birth”に与えるっす!!」

 

(どんなに強力でも…ルビジウムの前には無駄っす!)

 

ドライブチェックを終え、僕はドーントレスを退却させる。

 

「ふっ…」

 

「……何すか?」

 

「そう来ると思っていた…レギオンスキル発動!!煉獄の竜は再び立ち上がる!!」

 

 

 

 

 

ーー(2回目)ーー

 

「リアガードのドーントレスドミネイト・ドラゴン“Я”にアタック!!」

 

(……あのスキルは初代オーバーロードをイメージしたもの…?……ならヒット時スキル……よし)

 

「プロメチウムで完全ガードっす!!」

 

(……これで防ぐことができれば……)

 

「いいだろう…チェック・ザ・ドライブトリガー……そしてレギオンスキル発動!!煉獄の竜は何度でも立ち上がる!!」

 

 

 

ーーそして今

 

 

 

 

ダメージは4対4…一応手札は僕の方が多い9枚…櫂くんは7枚………

 

櫂トシキがアタックを宣言する。

 

「行くぞ…2体の竜の咆哮よ!全ての敵を!恐怖に怯えさせろ!!グレンディオスにアタック!!」

 

 

(…ぶっちゃけ…櫂くんには僕の手札はバレてるっす…そう、完全ガードが無いことも…)

 

僕は自分の手札を見つめる。

 

Яユニット…トリガーユニット…ルイン・マジシャン…ルビジウム……そして“彼”

 

(ルビジウムを使えばアタックを回避できるが…オーバーロードはスタンドする……トリガーで守るしか無い…いや…ルビジウムは2枚…場のЯユニットも2枚…だったらこいつらで…)

 

「ルビジウムでアタック対象をドーントレスЯに変更っす!」

 

 

「…チェック・ザ・ドライブトリガー…」

 

 

櫂トシキがドライブチェックを始める。

 

このターンでルビジウムも最後、完全ガードのプロメチウムも無い、Яユニットは手札に少しずつしか来ない、手札に“彼”がいる……

 

(……僕は……この人に…勝てない)

 

 

 

何故だろう…僕はすでに勝負を諦めていた。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

「………僕の負けっす」

 

「………」

 

 

僕は手札を置く………そしてその場にへたりこんだ…

 

これが今の僕の…実力。

 

 

「君はよく頑張ったよ舞原君」

 

「そうです!櫂くん相手にここまで戦えるなんて!」

 

黒川さんとアイチ君の励ましの声が聞こえる。

 

「まさか…トリガー、完全ガード、ルビジウムの全てを使いきった後にドラゴニック・オーバーロード“The Яe-birth”にライドするとは思わなかったよ」

 

「しかもルイン・マジシャンでЯユニットを回収した後に、それをコール………そこから櫂くんと同じエターナル・フレイム・リバースを放つなんて……」

 

「あ、はは………………」

 

しかしその櫂トシキは僕の手札を見つめていた。

 

 

「人のプレイングに余り口を挟みたくは無いが……お前……なぜこいつを使わなかった?」

 

「………」

 

櫂トシキが僕に見せてきたカード……それは“彼”。

 

「………」

 

「俺も知らないカードだ…こいつは…」

 

「…っ見えないんすよ………勝利のイメージが…僕には…そいつじゃあ…」

 

「じゃあ…何故デッキに入っている」

 

「………………何故かって…そんなの…」

 

「使いもしないカードをデッキに入れているというのか……お前は」

 

「それは……」

 

 

使えない…そう割りきったカードだ…Яユニットを扱うならグレンディオスやクレイドルの方が使いやすいって………割りきった。

 

 

「…そんなの………」

 

 

でも僕はこの…“彼”の入ったデッキを作り…解体できないでいる。

 

だから…そんなの………

 

 

「そんな……の………」

 

 

理由なんて………

 

 

「……好きだからに決まってるじゃないかっ!!」

 

 

僕は櫂トシキからそのカードを奪うように受けとる。

 

どこかその顔は優しく……それが僕の心の“何か”に触れる。

 

 

「でも!僕は…最強のファイターになりたいっ!そのためにこいつは不必要なんだ!!」

 

 

「………本当にそうか?」

 

 

そう言ったのは櫂トシキその人だった。

 

 

 

「…本当に………?」

 

 

「お前の言う最強とは何だ」

 

 

僕の最強…それは………

 

 

「…それは……誰が見ても…相手を実力で倒したと言ってもらえる…ファイター………」

 

 

「人の目を気にしての最強か……誰かに許しを求めている…そんな風に聞こえるが…」

 

 

「うるさい…」

 

 

今の僕は…惨めだ。

「最強とは……一人でなれるものじゃない上に誰かの目を気にしてなるものでもない」

 

「そりゃ…そうっすよ…誰かと比べての最強なんすから…………誰かの目を気にしては余計なお世話っす」

 

 

「…誰かと比べ合うんじゃない…誰かと競い合う…共に最強を目指す親友(メイト)がいるから…そして共に最強となる分身(ヴァンガード)がいるから道を踏み外さずに高みを…最強を目指すことができる…最強とはそういうものだ」

 

そう言う櫂トシキの目はアイチの方を見つめていた。

「メイトと…ヴァンガード……そんなの………」

 

 

僕はどこか真っ白な頭でそのカードを見つめる。

 

 

 

その名は…“勅令の星輝兵 ハルシウム”

 

 

そう…君は僕の分身(ヴァンガード)だ。

 

 

だけど………………

 

 

 

 

 

「櫂くん!!」

 

突然アイチくんが叫ぶ。

 

窓の外に何かを見つけたらしい。

 

「どうした!アイチ!!」

 

 

二人はショップの外に出る。

 

すると今度は僕の携帯が鳴り出した。

 

 

ーー胸の奥で震えてる♪思いが目覚…ピッ

 

 

「もしもし?」

 

『ジュリアン!!聞こえる!?』

 

「お嬢…なんすか?ヒカリさんと一緒っすよね?」

 

『あなた…!?ヒカリさんを覚えているのね!』

 

「へ…?何言ってんすか??」

 

『とにかく!覚えているなら今から送る写真の場所に来なさい!!』

 

 

「へ??」

 

 

僕は写真を確認する…この建物…どこかで……あ………立凪ビル?……この写真でどうやってそこまで行けと………

 

「櫂くん………見えた?」

 

「ああ…立凪ビルの上に……小さいが“黒輪”だ…」

 

「はっきり見えるんだ…櫂くん…凄い」

 

 

 

 

 

黒輪?…本当に一体どうなってるんすか??

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長…遅い」

 

「悪い悪い…ダークの奴のお小言が長くてな…さて、ヒカリ…だったよな?…行くとするか」

 

「あ、はい」

 

「ヒカリ…元の世界に戻れるといいね」

 

「うん…そうだ…貰ったアップルパイ…大切に食べるね」

 

「…今日中には食べないと駄目」

 

「うん…そうだね……それじゃあ……またね」

 

「……またね」

 

 

私は彼女と手を握り合う。

 

青い空には地球と同じように太陽が輝く…細かな違いはあれど、この星の環境は私の知っている地球とよく似ている気がした。

 

私、深見ヒカリはだったんに見送られながら、モルドレッドと“オラクルシンクタンク”へと出発した。

 

私はモルドレッドと一緒に彼の馬に乗る…。

 

 

「随分と仲良くなったみたいだな」

 

「う…うん」

 

「そんなに緊張しなくていいぞ」

 

「うん…だ…大丈夫…」

 

“あのモルドレッド”が目の前にいるのだ…緊張するなというのが無理な話である。

 

 

「まあ…ダークハートはいい奴だな」

「うん…私の話も聴いてくれた…」

 

「ほう…異世界から来た少女の話…か俺も聞いてみたいが…」

 

「楽しい話じゃないですよ」

 

 

モルドレッドは無理に話さなくてもいいと言ってくれたけど…私はぽつりぽつりと…昨日だったんに聴いてもらった話を始める。

 

 

私が話をしている間も私たちを乗せた馬は変わらぬスピードで走っていた。

 

 

川を、森を抜ける。

 

 

遠くの方に巨大なビルが見え始めてきた。

 

きっとあれがユナイテッドサンクチュアリ…神聖国家の中央都市なのだろう。

 

「…それで両親がいなくなって…友達とも別れて…一人になった…」

 

「……」

 

「新しい環境に放り出された…最初は新しい出会いがあるって前向きだった…でも……そこにいた人達はどこかみんな……怖かった…他人が見えていないみたいで」

 

「……」

 

「私も最初は周りに合わせようかと思った…でも無理……怖くなったんだ…自分を傷つけるのも、誰かを傷つけるのも…」

 

私の言葉を黒騎士は黙って聴いていた。

 

「傷つきたくなかった…だから自分を偽って…自分じゃ無い…そこにいるのは自分じゃ無いんだって思い込もうとした……今は偽った自分も自分でしかないって認めることができたけど……偽ろうと…逃げようとしたことは変わらない……」

 

「……そうか」

 

私は俯く…痛い…胸が痛い…でも私は何に対して自分が苦しんでいるのか分からなかった。

 

すると黒騎士の…モルドレッドの手が私の頭に乗せられる…ぽんっ…と。

 

「?」

 

「昔を…後悔しているんだな…」

 

「後悔…」

 

そうかもしれない…あの時偽らなければ…逃げなければ何かが変わった…とは思えない……それでも偽って…逃げたことを私は後悔している…私の間違いだから。

 

「…我…いや俺から言えることなどそうないが………まあ…何だろうな…」

 

私はモルドレッドの方を振り向く。

 

緋色の瞳は私の方を見つめていた。

 

「後悔した時はまず…自分を…明日を見失わないようにすることだ」

 

「…明日」

 

「そのために大事なことが二つある」

「二つ……………?」

 

私は緋色の瞳を見つめる。

 

「そうだ、自身の未来を切り開く二つの思い……“挑む勇気”と“続ける覚悟”だ………」

 

「………“勇気”と…“覚悟”」

 

「我ながら安っぽい言葉になっちまったか…だがそれを知っていれば…どんな辛い状況でも…真っ直ぐ未来を見ることができる……」

 

「……どんな辛い状況でも……」

 

「ま、それが難しいんだがな」

 

「ううん…覚えるよ……あなたの言葉」

 

「そうか」

 

 

(だって…今のあなたが在るのは…)

 

 

 

私が思い浮かべるのは影の内乱…その結末。

 

 

 

(“勇気”と“覚悟”………確かにそれは…絶望に満ちたあなたの未来を文字通り、切り開いたのだから……)

 

 

 

 

私の髪が爽やかな風を受けて揺れた。

 

 

 


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