究極次元ロボ グレートダイユーシャの剣が真っ直ぐ私の乗るメルクーアの方へと飛んでくる。
『まずいっ!!』
「……っ!!」
剣は一瞬の躊躇いも無く、その体を刺し貫いた。
その…宇宙怪獣の体を…
「グォォォォンッ!!」
宇宙怪獣の巨体が地上へと落下していく。
『……え?』
「こいつ…レイドラム…?」
光線怪獣 レイドラム…ディメンジョンポリスのグレード1でパワー6000のユニットだったっけ…
でもどうしてダイユーシャがレイドラムを…同じディメンジョンポリスじゃなかったっけ…
『そっか…停戦協定が消えたから…?』
「停戦…協定……あ」
エリカさんの呟きで私も気がつく…というか思い出すことができた。
怪獣…そして次元ロボを始めとする戦士達…それぞれの勢力はどちらもディメンジョンポリスというクランで一括りにされているが、本来両者は宿敵同士…リンクジョーカーとの戦いで一時は共闘したとはいえ、再び両者の間で戦いが起こるのは自然なことなのだ。
『大丈夫か!?』
グレートダイユーシャが私たちに呼び掛ける。
私は機体の中から言葉を返した。
『どうして…助けてくれたの!!』
マイクによって周囲に私の声が響く。
『困っている者がいれば助ける…当然のことだ!……それに…』
「?」
『君達の仲間が知らせてくれたのだ』
「仲間…?」
グレートダイユーシャの傍らに竜のような影が見えた…その体にはメスヘデさんと同じように歯車を象った装飾が見られる。
(もしかして…メスヘデさんの……仲間?)
彼?は私の視線に気がついたように頷く。
その腕は空へと向けられていた。
まるで“先に進め”と言うように……
『ヒカリ!!行こう!!』
エリカの呼び掛けと共にメルクーアがモーント・ブラウクリューガーによって空へと引っ張られる。
だがすでにこの空域は怪獣達に囲まれていた。
『全く…無駄にタイミングがいい奴ら……行けっ!デーゲン!!』
エリカの叫びと共にモーントの前に立ちふさがる怪獣達が爆発し地上へ落下する。
どうやらモーントのバックパックから羽のようなものが飛び出て、進行方向にいる怪獣を次々と薙ぎ払っているようだ。
所謂、オールレンジ攻撃…。
その間、モーントはスピードを落とすことなく上昇を続けていた。
『ワレヲタオセルカ?』
モーントの飛ぶ先に立ちはだかっている銀河超獣 ズィールが不気味な声で言う…だけど。
『撃ち抜けぇぇ!!』
デーゲンと呼ばれた飛行砲台がその砲門をズィールの肩という一点に向ける。
『ホウ…』
ギュゥゥゥゥゥゥゥン!!
放たれた閃光がズィールの肩に直撃する。
ズィールは体制を崩したものの、特にダメージを受けた様には見えない。
『コノ…テイド……キカヌ!!』
『効かなくて結構!…その隙が欲しかったんだ!』
そう…何もズィールを倒す必要は無い…目的はそこでは無いのだから。
モーントとメルクーアの2機はズィールが怯んだ隙にその前を通過する…後はダイユーシャに任せるべきなのだろう。
『ヒカリちゃん!もうすぐだよ!!』
「う、うん!!」
私はメルクーアのモニターに映る景色を見つめる。
空は果てしなく黒く、広がり、背後には巨大な蒼い星が見えていた。
「あれが…クレイ…」
地球に似ているようで似ていない…惑星…クレイ。
そして今、私がいるのが“宇宙”なのである。
「思ったより…苦しくない…」
『ブラウのコクピットの中ならしばらく宇宙空間にいても、筋肉とかに影響は無いけど…でも急ぐよ!!』
モニターの向こうに歯車のような形をした…術式(?)が見えてくる。
(……ここから、どれだけの距離があるんだろう…)
宇宙には空気が無い…だから遠くの物を見てもその距離を計るのは難しいのだ。
『ヒカリちゃん』
「…エリカさん?」
『私の作ったタンクマンを褒めてくれてありがとね』
「え…あ、はい」
私としてはあまり褒めたつもりは無いのだけれど。
『……行くよ!』
「……え!?」
その瞬間、モーントがメルクーアを放り投げた、いや正確には、背中を押したといった方が正しいのかもしれない。
『さよなら!!またねっ!!』
「うわっ……あっ……」
メルクーアは不格好な体制で飛ばされた。
まだ遠いのかと思っていた“術式”は意外と近く、メルクーアと私を飲み込んでいく。
「この感じ…“あの時”と似てる…!?」
よくわからない闇のような何かに呑まれた時と感覚は似ていた。
『ヒカリちゃん…聞こえるか?……これで君は元の世界に帰ることができる』
メスヘデさんからの通信が聞こえる…そうか…これで…元の世界に……
『“あっち”にいる俺の仲間によろしくな』
「…仲…間……?」
私の視界は闇に包まれた。
* * * * *
真っ黒な闇の中で唯一、輝きを失わない物があった。
私はデッキケースから“そのカード”を取り出す。
その輝きはまるで、私を元の世界に導いているかのようだった。
気のせいだろうか…カードから皆の声が聞こえる…私を呼ぶ声が…
(…私の…世界に……私は……)
私は……帰るんだ…皆の所に…!!
* * * * *
「「「ヒカリぃぃぃっ!!」」」
立凪ビルの屋上では、ジュリアン達による呼び掛けが続いていた。
「…ウルル」
「少し待って下さい……反応があります…来ます!」
「離れろ!!」
ウルルとエルルの掛け声でその場にいた全員がビルの端へと避難する。
上空の術式からは巨大な蒼いロボットが墜ちてこようとしていた。
「…すごいな」
「まさか…あの中に乗ってるなんて…」
「…あれ誰かに見つかったら大変なんじゃないっすかね…」
それぞれ異なる感想だが、その光景に圧倒されているのは同じだった。
「私が行く」
「お願いします」
エルルが重力を無視したようなジャンプでその蒼いロボット…メルクーアのコクピットまで跳んでいく。
ほぼ同時にメルクーアが立凪ビルへの落下してきた。
「ヒカリさん……」
「問題ない」
メルクーアの落下の衝撃で生まれた煙の中から、ヒカリを抱えたエルルが姿を見せた。
「ヒカリ!!」
全員がその黒髪の少女の元へ駆けつける。
「ヒカリ…ヒカリ…そうだ…どうして私は…」
黒川ユズキはヒカリに関する記憶を取り戻し、
「立凪ビル…丈夫っすね…」
舞原ジュリアンはメルクーアの落下の衝撃を受けてもある程度外壁にひびが入っただけで持ちこたえた立凪ビルの頑丈さに感心していた。
「ヒカリ…ヒカリ!!」
青葉ユウトと天乃原チアキの二人は深見ヒカリの肩を揺する。
「う…うん?……青葉クン?…天乃原さん…」
私は目を覚ます。
どうやら……元の世界に……
「良かった…目が覚めたんですね」
蒼い髪の青年が言う。
「………大丈夫か」
隣には風に流れるような髪をした青年。
「え…ええ…えええっ!?」
そこにいたのは、先導アイチと櫂…トシキ?……え…何で…ここは…あれ?
「それだけ叫べれば問題ないな…行くぞアイチ」
「うん…感動の再会を邪魔しちゃ悪いよね」
二人は立凪ビルの階段に向かって歩き出す。
(……あ……“あのカード”は先導アイチに渡すべきだったんじゃ…)
だがもう二人の姿は無く、私にも二人を追いかける体力は残っていなかった。
私はカードを取り出す。
「これ…どうしよ…」
「それは…カードなのか?」
「…うん」
その時、カードは光の塊のように変化し、私の手を離れていった。
「あ……」
「ヒカリさん!?…あ、あの光は…??」
「わからない…」
その光は真っ直ぐ…白髪の少年の元に向かっていた。
確か少年の名前は…タクト……ちょうど私が見ていない頃に登場したアニメのキャラの一人で……えっと“イタコ”…じゃない……運命の調律者…?……とにかく、惑星クレイと先導アイチ達の地球を結びつけている存在のはずだ。
「これは…もしかして…」
私は何かに気づいたようなタクトの顔を見て答える。
「…“メサイア”…救世の光…らしいよ…」
「そうか…“メサイア”……これが…」
彼はじっと光を見つめていた。光はやがて、再びカードの形を為した。以前と違いイラストも入っている…?名前も…
……とにかく、あの光が自ら飛んでいったのだ…おそらく、これでいいのだろう。
タクトは私に頭を下げる。
「ありがとう、異世界のカードファイター…君のおかげで、また僕は世界のためにできることを見つけることができた」
少しくどい言い回しだったが、その礼には誠実な気持ちを感じた。
「…どういたしました」
「ふふ…本当にありがとう」
そしてタクトはどこかへ去っていった。
私も天乃原さんと青葉クンに肩を貸してもらってこのビルを降りていく。
「あの機体の処理は二人に任せます」
メスヘデさんに似た装飾の服を着た女性が、物影に話しかける。
その場所から観念したようにその女性と似た雰囲気をもった二人の女性が出てくるのが見えた。
「もう…へとへとだよ…」
「でも無事で良かった」
「ええ!…本当」
先を歩くユズキは何か悩んでいるようだった。
「…どうしたの?」
「いや…短期間とはいえ君のことを忘れるとはな…」
「今、覚えている…それでいいんじゃないっすか?」
私たち“5人”はビルの外に出る。
「……そういえば、神沢ラシンは?」
「え…いたの……??」
天乃原さんの言葉を聞いた私は周りを見回す。
神沢ラシン…まさか彼がいたなんて…。
「あいつなら、ヒカリさんが目覚めた時に先に帰ったみたいっすよ」
「…彼らしいわね……」
私は後ろを振り返る…そこには神沢ラシンだけでは無く、ビルも、不思議な女性も、メルクーアの姿も無かった。
何事も無かったように…世界は廻っていた。
「……皆で夢でも見てたのか?」
青葉クンがそう呟く…でも、きっと違う。
まだ私のバッグの中にはだったんから貰ったアップルパイの最後の一切れが残っている。
「違う…よ」
それは私が“向こう”に行っていた証。
「…ヒカリ?」
それは彼女の…彼女達の思いの証。
私の…かけがえのない思い出。
「いつか…忘れてしまうのかも知れないけど……決して夢なんかじゃなかったよ……私はそう思う」
そう呟く私の瞳が一瞬…緋色に輝く。
それを見たのは舞原ジュリアンだけだった。