027 漆黒の風は始まりの鐘を鳴らす
喫茶ふろんてぃあ…私、深見ヒカリは行きつけのこの喫茶店にいた。
「ふにゅう……」
口の中で広がるプリンと生クリームのハーモニー…そして目の前に並ぶカード。
私は大変満足していた。
夏休みが始まってから3日目…初日に起きた“冒険”の結果、私はその次の日は疲れてなかなか動けなかった。
それでも夕方には疲れた体に鞭を打ってシャドウパラディンのエクストラブースター“宵闇の鎮魂歌”を回収していったのだ。
一日遅れての引き取りだったため、買うことが出来なかった店もあったが、ある程度予約していなくても各店に残っていた在庫のパックを購入することができた。
そして今、私の目の前には8枚のカードが並んでいる。
今回最も欲しかった二種類のカード。
パッケージにもなっている双闘ユニット。
撃退者 ファントム・ブラスター“Abyss”
そしてブラスター・ダーク・撃退者“Abyss”である。
残念ながら双闘レアやSPといった特別な加工のカードは手に入らなかったが、それでもここに8枚揃っている時点で十分だ。
モルドレッドやドラグルーラーと雰囲気の違うイラストは彼らがモルドレッド達から見て平行世界の存在なのだと言うことを強く印象付ける。
今までの奈落竜シリーズとは違った美しさを持つカードだ。
このカードを手に入れることができて本当に嬉しい。
(にしても…ブラスター・ダーク・撃退者“Abyss”…って名前はちょっと無理が……)
私は深く考えることを止めた。
むしろ他に考えるべきことがある。
それはデッキの構築についてだ。
(やっぱり双闘主体の方が良いのかな……)
今回“撃退者”に追加された双闘はもう一種類存在する…コーマックやらマックアートとかいう騎士達だ。
だけど私はあまり彼らを使うことに乗り気では無かった。
(……モルドレッドやドラグルーラーを外したくないっていうのは……駄目かな……)
もちろん、普段の私だったら即決でコーマック達を外し、モルドレッド達を入れていただろう。
だが今回はVFGPという大きな大会に出場することになっている……もちろん私が使うのはシャドウパラディンだ。
大会のことを考えると現状の“撃退者”デッキならぱ双闘二種類を主軸にした方が安定した動きができるだろう。
大会の為の構築にするか、趣味の構築にするか。
もちろん大会直前で構築を変更するというのも“有り”なのだが、私としては何回も何回もデッキを使ってデッキを理解しておきたいため、気が進まない。
デッキを二つ作ろうにももう1セット“Abyss”を揃えるお金も無い。
同じスリーブを使って自由に入れ替え可能にするのはカードが混ざりそうで危ない。
(さて…どうしようかな……)
私は考えを頭の中でぐるぐるさせながら、もう一口、プリンを口にするのだった。
「ヒカリちゃん、お悩みかい?」
「そうなんですよ…」
私は店長の質問に何となく答える。
「へぇヴァンガードのカードか」
私は店長にカードを見せながら言う。
「…このカード全部合わせて…たぶんこの店のプリン24個分くらいの値段はするんですよ」
「ぉぃぉぃ…」
「…恐ろしいですよね」
まあ…私の知っているショップでは…だが
…カランコロン♪…カラン……
そんな会話をしていると店の扉が開く音がした。
(もしかして……美空カグヤさん…?)
私は以前この店で出会った美しい女性のことを思い出した。
店長の話だとよくこの店に来ているようなので、再会の日も近いのではと期待しているのだけれど…
「うわーここが喫茶ふろんてぃあデスカ!!聞いていた通りでス!!」
違ったようだ…少し独特のアクセントはあるけれど…綺麗な声で流暢な日本語を話している。
そう…白い肌、銀色のウェーブのかかった髪、端正な顔立ちに日本人離れしたスタイル…その女性は正に…
(…が、外国の方だ!!)
「甘ーい匂い♪いい匂い♪このお店のオススメは何デスカ?」
純白の美しい女性は店長に鼻歌混じりでそう聞いた。
「エ、エト…トリアーエズ、チーズケイクナンテドウデースカ?」
(まずい…店長凄い緊張していーる……)
「じゃあ…そこのお嬢さん!隣いいデスカ?」
「あ!あ!はい!いいでーすよ!!」
(………落ち着け)
間もなくして、彼女の元にチーズケーキが運ばれる。
「うーン…」
私と店長はドキドキしながらその様子を見守る。
「とっても美味しいデス!!」
「さ、さんきゅー」
相変わらず、店長は緊張しているようだがチーズケーキの味はどうやら気に入って貰えたようだ。
彼女はしばらくチーズケーキに夢中になった後、私が持っているカードに気がついた。
「それ!ヴァンガード!!」
「知ってるんですか!!」
「もちろん!デッキも持ってますヨ!」
こういうことがあると素直に嬉しい。
「シャドウパラディンでス!」
「本当だ!しかも日本語版だ!!」
彼女はウイングエッジ・パンサーのカードを見せてくれる。シャドウパラディンのFVだ。
もうこうなったら次の言葉は決まっている。
「…ファイト…しませんか…?」
「はい!ぜひしましょウ!!」
こういうことがあるから、カードゲームは面白い。
* * * * *
「スタンドアップ!!ヴァンガード!!」
「スタンドアップ・ラ・ヴァンガード!!」
クリーピングダーク・ゴート(4000)とウイングエッジ・パンサー(4000)…それぞれのFVが登場し、私の先攻でファイトが始まった。
私のFVは未だにゴート…というか、まだ新しいカードは入れていないのだ。
(これからはジャッジバウ・撃退者にしようと思うんだけどな……)
私はそんな考えを頭から払うと、ファイトに集中することにした。
「私のターンから…ドロー……無常の撃退者 マスカレード(7000)にライド!FVのゴートはV裏にコールしてターンエンドです…」
「なら私のターンですネ!…スタンド、ドロー!…ブラスター・ジャベリン(6000)にライド!」
「ブラスター・ジャベリン!?」
ブラスター・ジャベリン…私にとっても馴染みの深いユニット…フルバウにライドすることでデッキの中からブラスター・ダークをサーチできたり、リアガードにコールして手札のグレード3をファントム・ブラスター・ドラゴンに交換することができるユニットなのだが…ならば何故FVはフルバウでは無かったのだろうか…?
「ふふふ…どうかしましタ?」
「あ……いえ……」
FVがフルバウでは無くパンサーである理由がわからないが、ブラスター・ジャベリンを採用する理由があるデッキは、初代ファントム・ブラスターデッキ以外に思い浮かぶ物があった。
(……ガスト・ブラスター・ドラゴン軸……かな)
そう、私が“クレイ”で遭遇した…奈落竜の片割れ…そのスキルはソウルのブラスターの枚数だけ自身のパワーとクリティカルを増加させるという凶悪な物だ。
(完全ガードはそこで使うべきかな…)
「行きますヨ…戦意の撃退者 ライフチェア(7000)をコール!」
(…ライフチェア!?)
最新弾、宵闇の鎮魂歌に収録されていた、グレード1の撃退者だ…まさかこんな新しいカードも入っていたなんて…。
「ふふ…パンサーのブースト…ブラスター・ジャベリンでヴァンガードにアタックでス!(10000)」
「…ノーガード……」
「ではドライブチェック……詭計の撃退者…マナ…トリガー無しでス」
「ダメージチェック…レイジングフォーム・ドラゴン……」
(詭計の撃退者 マナ…ガスト・ブラスターの“CB1、三体のユニットを退却”…ってコストを支払いやすくするため…かな)
マナを使用するのなら、CBを使わずに退却の対象になるリアガードを山札からスペリオルコールすることができるはずだ。
「ライフチェアでアタック!!(7000)」
「……ノーガード」
私のダメージゾーンにモルドレッドが置かれる。
(まだ序盤……大丈夫…)
「私のターン…ドロー……ライド!!ブラスター・ダーク・撃退者(9000)!!」
そして私はダークの後ろに置かれている、クリーピングダーク・ゴートのスキルを発動させる。
「CB1…自身をソウルへ……山札の上の五枚から…グレード3の……」
このスキルは失敗する可能性も高い、私は恐る恐るデッキトップの5枚を見た。
「………うん!…撃退者 ドラグルーラー・ファントムを手札に!!」
グレード3の存在しなかった私の手札にドラグルーラーが加えられる。
「そして!…ブラスター・ダーク・撃退者でジャベリンにアタック!!(9000)」
「ノーガードでス!」
「ドライブチェック……撃退者 エアレイド・ドラゴン!クリティカルトリガー!!」
私のユニットは現在ブラスター・ダーク・撃退者しか存在しないため自動的にその効果は全てダークへと割り振られる。
「ダメージチェックは…ナイトメア・ペインターとブラスター・ジャベリンでス」
(…ペインター……普通…だけど…)
ガスト・ブラスターはソウルの“ブラスター”の枚数にその力の強弱を左右される…コール時に手札のユニットをソウルへ送ることができるナイトメア・ペインターならガスト・ブラスターのデッキに入っていてもおかしくない。
(でも…まだ何か隠れていそう……本当にガストなのかな………)
私は何となく…目の前にいる銀髪の女性が何かを秘密にしているような気がした。
彼女はまるで、ドッキリを仕掛ける直前の子供のような…そんな目をしていたからだ。
(これで“ブラスター・豆しば”が出てきたら…ガスト・ブラスターのデッキで決定なんだけどな…)
私はガスト・ブラスターのデッキでしか採用されていないであろうカードのことを考える。
そもそも彼女のデッキがシャドウパラディンで統一されているかどうかも、今のところはわからないのだ。
ブラスター・豆しば…クラン“エトランジェ”のグレード0…ガードに使用することで自身をソウルに送ることができるため、手軽にソウルの“ブラスター”を増やすことができると、ガストデッキに引っ張りだこ…らしい。
(そもそも……使ったこと無いからなぁ…)
「私のターンですネ?」
「あ…うん…」
少し考え過ぎていたかもしれない…下手に勘繰りすぎても敗北の元になってしまう。
「スタンド、ドロー!……私はブラスター・ダーク(9000→10000)にライドしまス!!」
「ブラスター・ダーク…」
「続けてナイトメア・ペインターをコール!!もう一枚のブラスター・ダークをソウルに置きまス!…さらにウイングエッジ・パンサーをソウルへ!ライフチェアにパワー+3000でス…………ブラスター・ダークでアタック!!(10000)」
「ノーガード!!」
(…ドライブチェック……何が来る…?)
「じゃあドライブチェック!……ガスト・ブラスター・ドラゴン!」
(やっぱり…ガスト・ブラスターのデッキ…!)
私はダメージチェックを行う…結果、ドロートリガーが発動しダークにパワーが、手札にカードが加わる。
「ライフチェアがペインターのブーストでアタックでス!!(16000)」
「…氷結の撃退者でガード!」
「ターンエンドでス!」
(今の攻撃…受けておくべきだったかな…)
ダメージは私が3…彼女は2…まだお互いにリミットブレイクの発動は無い。
そして…この後私に4点目のダメージが入るかどうかはわからない…ガスト・ブラスターなら相手のダメージが0だったとしてもガード強要ができる…つまり相手にリミットブレイクを打たせないまま戦うことができるのである。
(“3点止め”に関しては他にも沢山のユニットでできるけどね……)
とはいえ余りダメージ差を開かせたくなかったというのも本音なのだ…後悔はしていない。
「私のターン…スタンドandドロー……行くよ…」
私は手札からそのユニットを選ぶ。
「誰よりも世界を愛し者よ…奈落の闇さえ光と変え…今、戦場に舞い戻る!ライド!撃退者 ドラグルーラー・ファントム(11000)!!」
今はまだ何もできないけれど…そこにいるだけで私にとっては何よりも心の支えになる。
「いい口上でスネ」
「あ…ありがとう…」
(……こんなやり取り…以前にもあったような……?)
「…督戦の撃退者 ドリン(7000)を左後列にコール…その前にブラスター・ダーク・撃退者をコールしてダメージゾーンのカードを一枚表に!!」
これは下準備だ…きっと後で必要になる。
「ドラグルーラーでヴァンガードにアタック!!(11000)」
「んーグリム・リーパーでガードでス(2枚貫通)」
「…ツインドライブ…first…暗黒の撃退者 マクリール…second…撃退者 ダークボンド・トランペッター…トリガー無しです……ドリンのブースト、ダークでダークにアタック!!(16000)」
「ノーガード…ダメージはファントム・ブラスター・ドラゴンでスヨ」
「ファントム・ブラスター・ドラゴン…」
思い入れのあるユニットの応酬に思わずその名前を復唱してしまう。
(…でも、間違いない…ガスト・ブラスター・ドラゴンのデッキだ…)
「……ターンエンドです」
(……リミットブレイクは来ない…そう思ってたけど…もしかしたら……)
私はこの次のターンに何が起こるか…数パターンの予想をする。
「ふふふ…今日の私は運がいいですヨ」
「………」
それは一体何のことを言っているのだろうか。
「私のターンでスネ…スタンド、ドロー……ライド!ファントム・ブラスター・ドラゴン(10000→11000)!」
(この流れは……)
「詭計の撃退者 マナ(8000)をコール!スキルで…恐慌の撃退者 フリッツ(6000)をスペリオルコール!!」
(フリッツ…?…何の能力も無いグレード0のユニットがどうして……)
「ファントム・ブラスター・ドラゴンのスキル!CB2!マナ、ペインター、フリッツを退却!パワー+10000!クリティカルも+1でス!!」
「……ダムド・チャージング・ランスだね…」
私は苦々しく呟く…以前ヴァンガードをしていた時ならともかく、今のヴァンガードでこの攻撃を受けることになるとは……予想はしていたが、思い出で胸がいっぱいだ。
「ふふ…ライフチェアでブラスター・ダーク・撃退者にアタック!(10000)」
「ノーガード……」
ブラスター・ダーク・撃退者が退却させられ、インターセプトが封じられる。
「そ・し・て…ファントム・ブラスター・ドラゴンのアタック!!パワー21000、クリティカル2!!」
「2枚のエアレイド・ドラゴンでガード!(2枚貫通)」
この攻撃…通さなければリミットブレイクは使えないまま…通した場合ドライブチェックでクリティカルトリガーが1枚でも出てしまったら私の敗北になってしまうだろう。
「ツインドライブ…チェック…first…」
そしてクリティカルトリガーが1枚以上のダブルトリガーの場合も……私の敗北になるだろう。
「暗黒医術の撃退者…ヒールトリガー!!…ダメージを回復して…パワーはファントム・ブラスターに」
「………」
「second……ガスト・ブラスター・ドラゴン…トリガー無しでスネ」
「……ふぅ」
「ターンエンドでス」
このターンは問題無く終了したが、ダメージは2ターン前の状態まで戻ってしまった。
「…私のターン…スタンドandドロー…ドラグルーラーの後ろに撃退者 ダークボンド・トランペッター(6000)をコール!スキル発動!!」
私は“彼女”のくれたアップルパイの味を思い出しながら…ユニットを展開する。
「CB1で魁の撃退者 クローダスをスペリオルコール!…さらにCB1!クローダスをソウルに!!……ブラスター・ダーク・撃退者をスペリオルコール!!」
ドリンの前にブラスター・ダーク・撃退者が登場することで再びダメージゾーンの裏向きのカードは表の状態に戻る。
「パワー17000!だったんのブースト!ドラグルーラーがファントム・ブラスターにアタック!!」
「ノーガードでス!!」
「ツインドライブ…first…ドリン…second…虚空の撃退者 マスカレード……トリガー無し」
彼女のダメージゾーンに戦意の撃退者 ライフチェアが置かれる。
「ドリンのブースト…ダーク・撃退者で……ライフチェアにアタック!(16000)」
「それもノーガードでス…ライフチェアは退却…」
「ターンエンド…」
どこか…彼女にファイトをコントロールされている…そんな気がする。
「私のターン!スタンド、ドロー!…ガスト・ブラスターとマナをコール!フリッツをスペリオルコール!…ファントム・ブラスター・ドラゴンのスキルで皆退却でス!」
そう言って彼女は再びダムド・チャージング・ランスを発動させる。
(…そうだ…何か変な感じがする……この動きだと、彼女の負担が重すぎる…)
元々ファントム・ブラスター・ドラゴンやファントム・ブラスター・オーバーロードは同時期に登場した主力ユニット達と比べてコストが重いと感じることが多かった。
いや…実際3体退却やペルソナブラスト、CB3は重く、少なくともこれらのスキルは不用意に連発するものでは無いはずだ。
……だからこそ
(何かの前触れ……そんな気がする……)
「パワー21000!クリティカル2のファントム・ブラスター・ドラゴンでドラグルーラー・ファントムにアタック!!」
「…暗黒の撃退者 マクリールで完全ガード…コストとして…モルドレッド・ファントムをドロップ…」
「ふふふ…完全ガードですカ……ツインドライブチェック……グリム・リーパー(クリティカル)とアポカリプス・バット…でシタ…ターンエンドでス」
「…私のターン…スタンドandドロー…虚空の撃退者 マスカレード(9000)をコール…マスカレードでヴァンガードにアタック!!(12000)」
「アポカリプス・バットでガード」
マスカレードの攻撃は簡単に防がれてしまった。
「ブーストを受けたドラグルーラーでヴァンガードにアタック!!(17000)」
「んーそうでスネ…ノーガードで!」
「ツインドライブ…first…厳格なる撃退者!クリティカルトリガー!!…クリティカルはVに、パワーはダーク・撃退者に………second…撃退者 レイジングフォーム・ドラゴン……」
彼女のダメージゾーンにガスト・ブラスターと氷結の撃退者…ドロートリガーが落とされる。
「ドリンのブーストでダーク・撃退者がアタック!!(21000)」
「暗黒医術の撃退者でガード!」
「……ターンエンド……これでダメージは3vs5…」
後は相手がどう動くか…だ。
「私のターン!スタンド、ドロー……んーそうですネー…貴女の“マネ”しますネ」
「…え?」
(……何の話……?)
「誰よりも世界を呪いし者よ…奈落の闇さえ絶望で包み…今、戦場を血の海に変える!ライド!ガスト・ブラスター・ドラゴン(11000)!!」
「その口上…私の…」
「オマージュさせてもらいまシタ」
(世界を呪いし者……か)
「でハ…詭計の撃退者 マナをコールして、撃退者 エアレイド・ドラゴン(5000)をスペリオルコール…そしてブラスター・ダーク(9000)をコールしまス」
相手の準備が整う…私は自分の手札を見つめた…。
(相手にバレているのが3枚…残りの4枚は非公開だけど……“あの攻撃”を防ぐには…非公開から2枚を出さなければならない……ね)
「ブラスター・ダークでブラスター・ダーク・撃退者にアタック!!(9000)」
「…ノーガード」
「エアレイドのブースト…マナでマスカレードにアタック!!(13000)」
「………ノーガード…」
再びインターセプトが潰される。
「ガスト・ブラスターのスキル……CB1…マナ、ダーク、エアレイドを退却……パワー+20000…クリティカル+4!!…これがダムド・チャージング・テイル!」
「クリティカル+4って……」
オーバーキルとしか言えない。
ガスト・ブラスターは更にソウルのブラスターに反応して、その攻撃力を上昇させる。
「パワー33000…クリティカル5…これが呪われし漆黒の風…ガスト・ブラスト・ストリーム!!」
「………マクリールで完全ガード!」
私は完全ガードのコストにレイジングフォーム・ドラゴンを使う。
「ツインドライブチェック…first…暗黒医術の撃退者!…ヒールトリガーでス!ダメージを回復…second…同じくヒールトリガー!!ダメージ回復しまス!」
「ここでダブルヒール……」
「今日の私の運は最高潮でス!ターンエンド!」
ダメージが3vs3まで戻ってしまった…これは辛い。
「……スタンドandドロー……行くよ…幽幻の撃退者 モルドレッドをコール……ダークボンドのブーストでドラグルーラーがガストにアタック!(17000)」
「ノーガードでス」
「ツインドライブ…first…氷結の撃退者…ドロートリガー!…1枚引いてパワーはモルドレッドに…second…詭計の撃退者……マナ……トリガー無し…」
「ダメージは、氷結の撃退者!ドロートリガーで1枚ドローしてガストにパワー+5000♪」
「……パワー23000…ドリンのブーストによるモルドレッドのアタック!!」
「暗黒医術の撃退者でガードでス!」
「…ターンエンド」
相手に与えたのは僅かに一点……だが相手は相手でダムド・チャージング・テイルの後で消耗しているため大きく展開はしてこない…はず。
「…スタンド、ドロー……ガスト・ブラスター・ドラゴンの後ろにアポカリプス・バットをコールしてアタックしまス…バットのスキルでSB1…パワー+4000して…これでパワーは33000!!」
「…うん……ノーガード」
「ツインドライブチェック…氷結の撃退者!ドロートリガー!!1枚ドローしまス!…second…ナイトメア・ペインター!!」
「ダメージチェック…マクリール…」
私のダメージは4点になり、リミットブレイクの発動圏内になったが、その4点目のダメージは3枚目の完全ガードだった。
「ターンエンドでス!!」
ダメージの差が埋まり、互いに4点のダメージを受けた状態で私のターンが始まる。
(リミットブレイクが使え……いや、まだかな……)
まだ“ダメージを詰める”には危ない気がした、ドラグルーラーの“強制ダメージ”を与えるにはこちらもリアガードを退却させる必要がある…少なくとも相手はこのターンを凌ぐ程度の手札は持っている…だったらまずは…
「スタンドandドロー…虚空の撃退者 マスカレードをコール!…ダークボンドのブースト!ドラグルーラーでヴァンガードにアタック!!(17000)」
「…暗黒医術の撃退者…ナイトメア・ペインターでガード!!(2枚貫通)」
「ツインドライブ…first…氷結の撃退者!ドロートリガー!…1枚引いて、パワーはモルドレッドに!!……second…ブラスター・ダーク・撃退者……マスカレードでアタック!!(12000)」
「氷結の撃退者でガード!」
(そうだ、今はその手札を…)
「ドリンとモルドレッドでアタック!!(23000)」
「ノーガード…ダメージはブラスター・ジャベリン」
「ターンエンドです……」
次で15ターン目…彼女のターンだ。
「スタンド、ドロー……本当に…私は運がいい」
「…?」
どうしたのだろうか。
「貴女は…ヴァンガードはどんなゲームだと思う?」
いきなり話題を…って…え?
「あの…語尾がカタカナじゃ……」
雰囲気は変わっていないけど…?
「ふふふ…本当は私、日本語はきちんと話せるんだよ……日本の血は入ってないんだけどね」
「はぁ…じゃあ何であんな若干カタコトに…」
「んーその方が面白いかなって」
「はぁ…でも本当にお上手ですね」
最早、本当の日本人より滑らかに喋っている。
「一緒に色んな国を旅した人の影響でね…その人と沢山話がしたくて覚えたんだ……そして今の質問もその人からされたことがあるものなの」
ヴァンガードファイターで…旅人…?
「今でもその人は心の支えで…でもダーリンって呼ぶと嫌がるんだよねぇ…」
「あの……」
「あ!ごめんごめん!話ずれちゃいましタ」
頬を赤らめた純白の肌の女性が手をぱたぱたと振って話な流れを修正する。
「私はね…ヴァンガードは“見せあいっこ”だと思うんだ」
「見せあいっこ??」
「そう…トリガーも、ユニットも、後から強いものを見せた方が勝利する」
「そんなこと……」
「どんなにクリティカルを引こうと、ヒールトリガーが出れば帳消しになる……終盤に強いユニットにライドしても、次のターンには相手はより強いユニットにライドして攻撃する…」
「…それは……まぁ」
「でもそれだけじゃあ…確実な勝利は手に入らない」
純白の女性は語る。
「時に相手の思考をコントロールすること」
私は神沢ラシンが使った“ダーク・キャット”を思い出す…ファイト中にあえて自分の“力”を相手に教えることで、たった1回のドローに静かな駆け引きを要求した。
「それはファイト中だけじゃあない…デッキ構築の段階から…相手の予想は裏切ることができる」
「………」
「相手の…全く予想のしていないカードを“見せつける”ことでその判断力を削るんだ」
「……“見せあいっこ”……」
「まあ…今回はそんなつもりは無かったんだけどね」
「…え……それって…どういう…」
銀髪の彼女が手札から1枚のカードを取り出す…彼女の手札の4枚…いや5枚の内…4枚は非公開状態のままのカードだ……
「行くよ…ライド」
そのユニットは私も知っていた。
「祈り、呪い、願い、誓い…全てをその手で紡ぎだし、全てをその手で破壊する…祭儀の魔女 リアス!!」
「…祭儀の魔女……リアス!?」
ガスト・ブラスターのデッキに突如として現れたのは魔女……エクストラブースター“宵闇の鎮魂歌”で追加された新たなユニット…祭儀の魔女 リアス…。
「どうして…このデッキに…?」
「驚いてもらえたかな?」
純白の女性はその銀髪を揺らして微笑む。
「自己紹介がまだだったね…私はゼラフィーネ…ゼラフィーネ・ヴェンデル」
そう言ってゼラフィーネさんは私に笑いかける。
「よろしくね…深見ヒカリさん…いや」
「“ヴェルダンディ”さん…」