“深見ヒカリさん”…確かに彼女はそう告げた。
「どうして…私の名前を……?」
「あれ…違った?」
銀髪の女性…ゼラフィーネ・ヴェンデルさんはまだ教えていないはずの私の名前を知っていた。
「確かに…私は深見ヒカリ…ですけど」
「だよね!ダーリンが手紙で教えてくれたから知ってたよ♪」
「ダーリン…?」
「うん、うちのダーリ……舞原ジュリアンと仲良くしていただいてありがとうございまス」
「あ…ああ!!…あなたが舞原君の彼女なんだ!」
そういえば、以前そのような話を聞いたことがあった気がする。
夕方の…ショッピングモールで会った時だったかな。
ーー…僕には彼女いますから…ーー
ショッピングモールで会ってから、結局そのことについては全く聞いて無かった。
「でも…待って……私が……“ベルダンディ”?」
「…違いましタ?」
こちらは全く聞いたことの言葉…では無いけれど…えっと…何か…何だっけ…???
(…昔…誰かに教えて貰ったような気がするけど…)
「違うっていうか…一度もそんな風に呼ばれたことは無いといいますか……」
「うーん…私の勘違いかもですね」
“ヴェルダンディ”……何のことかはわからないけれど…こういうことは春風さんなら知っているかも知れない。
(…今度…聞いてみよう……“ヴェルダンディ”…か)
「とにかくファイトの続きです!」
「あ…はい」
私のダメージが4に対してゼラフィーネさんは5。
私の盤面には5体のユニットがいる…ヴァンガードの撃退者 ドラグルーラー・ファントム。
そしてリアガードにモルドレッド、ドリン、ダークボンド、マスカレード(G2)だ。
一方でゼラフィーネさんの盤面にはリアガードのアポカリプス・バットが1体…。
そしてヴァンガードサークルには祭儀の魔女 リアスがいた。
(…手札はこちらの方がある……けど)
「査察の魔女 ディアドリー(9000)をコール…スキル発動……SB1…モルドレッドを…ドロップゾーンのグレード0に」
…新たにシャドウパラディンが手に入れた性質…相手のリアガードサークルの上書き……基本的に“魔女”デッキでしか使えないため私は完全にスルーしていた。
「…撃退者 エアレイド・ドラゴンをコール…モルドレッドは退却…」
「まだ終わらないよ?…ディアドリーと…ディアドリーをコール!」
新たに2体のディアドリーがコールされた。
「スキル発動…終わりなき夢…ナイトメア…ですよ」
私のマスカレード、ダークボンドがそれぞれエアレイド・ドラゴンと氷結の撃退者へと上書きされる。
「リアスのスキル…CB2…ドリンにお別れを告げて貰います……デッキトップを5枚公開して、その中のグレード0でドリンを上書きしてくださいね」
暗黒医術の撃退者…ヒールトリガーのユニットがドリンのいたリアガードサークルを上書きする。
リアガードには4体のトリガーユニットが並べられる結果となった。
「本当の悪夢はこれからですよ……シークメイト」
ゼラフィーネさんはドロップゾーンから暗黒医術の撃退者を2枚…グリム・リーパーを2枚山札に戻す。
「安心してください…もう苦しむこともありません…全てはこれで終わりますから………双闘!」
祭儀の魔女 リアスと査察の魔女 ディアドリーが並び立つ。
「…そしてレギオンスキル……後列のディアドリーを退却……ドラグルーラーのパワーを……-20000」
「……」
リアスとディアドリーのスキルは相手のグレード0のリアガード1枚につき-5000…相手のパワーを差し引くというものだ。
レギオン時のみの1回しか使えないスキルだが、その分うまく発動した時の威力は“相手のパワーを減らすスキル”を持つ今までのユニット…暗黒次元ロボ“Я”ダイユーシャや創世英雄 ゼロ…超獣たちよりもずっと大きい。
「貴女のドラグルーラーはパワー-9000……そしてこれが魔女の力…フィアフル・デスペリア」
「-9000……」
-9000等というと訳がわからなくなりがちだが、つまりはシールドを20000分使ってようやくユニットのパワーが11000になるということだ。
かなり手札を消費するかもしれない…。
「…行きますよ…バットのブースト…リアスとディアドリーでアタック!!パワー26000!」
マイナスされたパワーの分を考えると…パワー46000といっても間違いでは無いだろう。
「大丈夫…マクリールで完全ガード!!」
私は直前のターンのドロートリガーで引いた完全ガードを使う…ドロップコストは手札のモルモットだ。
「あれれ…持ってましたか」
「…危なかったですけどね」
やはり私が完全ガードを持っている確率が低いと思って仕掛けてきたようだ。
確かにすでに2枚使用し、ドロップゾーンに1枚落ちている今なら狙い目だったのだろう。
(…完全ガードを使わせるためのガストだった…?)
にしてもコストが重い気はするのだが……
「ツインドライブチェック!…first…グリム・リーパー!!クリティカルトリガー!!…効果は全てディアドリーに!……second……氷結の撃退者!…ドロートリガー!……1枚ドローしてパワーは同じディアドリーに与えます!」
…ここに来てのダブルトリガーである。
「パワー19000、クリティカル2のディアドリーでアタック!!」
シールド値30000要求というやつだ。
「…厳格の撃退者、氷結の撃退者、氷結の撃退者、督戦の撃退者 ドリン、ブラスター・ダーク・撃退者でガード!!」
ここまでで私の手札から8枚のユニットが飛んでいる…だけではなく、盤面にはグレード0のユニットしかいないため次のターンの攻撃力も期待できない。
「ディアドリーでアタック!(9000)」
「…ノーガード!」
私のダメージゾーンに撃退者 レイジングフォーム・ドラゴンが置かれる。
(…ダブルクリティカルじゃなくて良かった……)
もしそうだったら、私は手札を全て失っていたことになる。
「…ターンエンドでス」
ドラグルーラーのパワーが元の数値に戻る。
「…私のターン……スタンドandドロー…」
相手の手札は少ない…正直残りの手札を展開してこのまま攻撃していっても問題無いだろう……だがもしこのターンで決められなければその時私に相手の攻撃を防ぎきることができるだろうか。
ゼラフィーネさんの手札は4枚…内3枚はトリガーのグリム・リーパーが2枚と氷結の撃退者が1枚だったはずだ……なら後の1枚は…?
そもそもこのデッキはどういうデッキなのだろう。
グレード3はガスト・ブラスター、ファントム・ブラスター、そしてリアス…
グレード2はブラスター・ダークと詭計の撃退者 マナと査察の魔女 ディアドリー…
グレード1にはジャベリン、ペインター、ライフチェア、バット……
グレード0のフリッツが…あれ?
…今“見えて”いるのはガストが3枚…初代奈落竜様が2体……そしてリアス…たぶん3枚くらいだろう。
グレード2も3種類…おそらく11枚だから…普通だ。
でも…グレード1は……?
ライフチェアが2枚…コールされたのと、ダメージゾーンにいる。
ブラスター・ジャベリンは見えているのが3枚……ガスト・ブラスターとペインターを採用しているのだから4枚入っている可能性は高い。
ペインターも3枚見えている…こちらもジャベリンと同数程度は入っている可能性がある。
アポカリプス・バット…ブラスター用の専用ブースター……おそらくこのデッキのコンセプトはブラスターによる完全ガード強要…だとすると2~3枚は入っているか?
そして恐慌の撃退者 フリッツ…これが2枚入っている……。
グレード1以下のユニットが見えている範囲で13枚…。
ここで一つ疑問が浮かぶ。
(“守護者”は入っているのかな…?)
入ってない…何て考えるのが変かもしれない。
でも…もしかしたら……。
祭儀の魔女 リアス、査察の魔女 ディアドリーの2枚は本当に発売されたばかりのカードだ…もし“この2枚を使うために”簡単に作られたデッキだったとしたら。
何故わざわざ“ブラスター”主体にしたのかという疑問は残るが…それはさっきのゼラフィーネさんの言葉に理由がある…ということにしよう。
(ヴァンガードファイトは…“見せあいっこ”ね…)
相手の手札…ガードの予想合計最高値は…35000…。
「…見えたよ…」
「え?」
「私の…ファイナルターン……」
少しばかりロマンを追うような動きも…してみたいって…たまには思うんだ。
「2体のエアレイド・ドラゴンを退却…CB1…ドラグルーラーにパワー+10000!!」
「…それだけですか?」
「…うん…でもこのスキルは…1ターンに何度でも使うことができる」
すでにゼラフィーネさんのダメージは5点…このスキルの醍醐味である追加ダメージを与えることはできなくなっている。
だが…今、欲しいのは…
「もう一度…」
私はドラグルーラーに
「これはもう“ミラージュストライク”じゃないね」
リアスとディアドリーのスキルで登場させられたグレード0のユニット達がドロップゾーンに帰っていく。
「…詭計の撃退者 マナをコール…無常の撃退者 マスカレードをスぺリオルコール…もう一度…」
3回目…ドラグルーラーはコストの続く限りどこまでもそのパワーを上げていく。
ある意味ディメンジョンポリスだ。
「ドリンとモルドレッドをコール……もう一度…」
ドラグルーラーのパワーはこれで51000…相手がこれを防ぐには“守護者”が必要だ。
「…これは…タキオンストライク……あらゆる限界を吹き飛ばす
パワーを上昇させるだけならもっと効率よくできるユニットはいるだろう。
だから…これは“私の”意地でもある。
あのデッキに“守護者”は無い。
手札にも無い。
私が私を信じなくてどうする。
「虚空の撃退者 マスカレードと撃退者 ダークボンド・トランペッターをコール…」
まぁ…ヒールトリガーを引かれたら意味無いのだが。
「…行くよ、ドラグルーラーでリアスにアタック!!パワーは51000!!」
ちなみに相手のガード値の予想よりも少し多目のパワーにしたのは、彼女がクインテットウォールを持っていた場合のためのほんの少しの抵抗である…51000ならばトリガー4枚でも足りず……運任せのクインテットウォールならこれで突破できるだろう…たぶん。
「ふふ…ノーガードですよ」
「ツインドライブ……チェック……first…撃退者 ダークボンド・トランペッター……」
欲しい…ここでだめ押しのもう1点…!!
「second……!!……厳格の撃退者!クリティカルトリガー!!パワーをマスカレードに与えて…クリティカルは………ドラグルーラーに!!」
ゼラフィーネさんが山札に手を伸ばす。
「ダメージチェック………」
(綺麗な白い手…)
「祭儀の魔女 リアス……ですね」
ゼラフィーネさんのダメージゾーンに6枚目のカードが置かれる。
「…ふふ…負けちゃった」
「……勝てた……」
私はふぅと息を吐き出す。
「お強いですね!」
全く…それはこっちのセリフだ。
「…ゼラフィーネさん…このデッキは一体……」
ゼラフィーネさんが窓の外を眺めながら語る。
「そうですね…さっきは偉そうなことを言いましたが…いえ…あれは本音ですが………元々このデッキは普通に日本語版のガスト・ブラスター・ドラゴンのデッキでした………しかし飛行機の中で気づいたのです」
ゼラフィーネさんが拳を握りしめる。
「…日本語版のシャドウパラディンの“守護者”を前に泊まっていたホテルで無くしてしまっていたということを!!!」
「…もしかしてゼラフィーネさん今日、日本に来たんですか?」
「もちろん!…それでカードショップに行ったらシャドウパラディンの新しいカードが発売されてるじゃないですか!!」
宵闇の鎮魂歌のことだろう…確か外国ではまだ出てなかったっけ……日本でも出たばかりだしね。
「思わず何枚か買って…取り合えずデッキにいれて…すっかり“守護者”のことを忘れてました」
「そんな…いきなりデッキにいれちゃうなんて…」
「使わなきゃわかりませんよ…何も…ね?」
ゼラフィーネさんがウインクする。
「…!!」
(もしかして…)
「……私がデッキ構築に悩んでいる所…見られてました?」
「さあ?…どうでしょう?……ただ悩むよりは実際に使った方が色々見えてくると思いますヨ♪」
確実に見られていた…。
「好きなカードが使いたいなら、使えばいい…それで負けても誰も文句を言わないよ」
「でも…大きな大会が…」
「負けてもいいけど、勝利を求めない訳じゃないよ…負けたら悔しいもの」
「……好きなカードで…勝つ」
「だって…好きだから
「…そうだね」
「嫌いなカードを好きになるってのもありだけど」
「えええ……」
ゼラフィーネさんは微笑む。
「あんまり悩んでると、どこかのダーリンみたいに拗れちゃうぞ」
「どこかのダーリンって……」
舞原君は何か拗らせているのだろうか。
「自分が一番楽しいことをやればいいんだよ…一番…本気で楽しめることをね」
「本気…か」
ゼラフィーネさんが立ち上がる……彼女は料金を払うと店の扉の前に立つ。
「ヒカリ…ちゃん!」
ゼラフィーネさんの淡いピンク色の瞳が私の黒い瞳を見つめる。
「ゼラフィーネさん…?」
「私はしばらくダーリンの所にいます!機会があったら…」
「あ……」
「また遊びましょう!!」
ゼラフィーネさんは日傘を取り出すと、行ってしまった。
…あんな彼女がいるなんて、舞原クンは幸せ者だろう。
「いや…綺麗な人だったな」
店長が呟く。
こんなセリフ…カグヤさんの時も言っていたような。
「店長…そのセリフを使いすぎると自分でも意図してないキャラに認定されちゃうよ」
「何だ…意図してないキャラって何だ…」
私は8枚の“Abyss”を見つめる。
(…使ってみなきゃわからない…よね)
私はカードケースにそれらをしまうと立ち上がる。
「そう言えば…夏休みだけどチームで何か活動したりするのかな…」
…夏休みはまだ始まったばかりだよね。
* * * * *
「へぇ…ここがジュリの部屋かぁ…」
「ちょっと狭いけど…って待つっす」
ジュリアンは目の前で正座するゼラフィーネに言う。
「…何故……ここに?」
ここは天乃原家の屋敷…ジュリアンが居候させて貰っている家だ。
「もう…言ったよね、泊・め・てって」
「いや何で僕の部屋!?」
ゼラフィーネは頬を赤らめる。
「え…///そんなこと私に言わせ…」
「何言う気だよ!!??思わず語尾に“っす”付け忘れたっすよ!?」
「もう……ちゃんと“ジュリの前では”ダーリンって言うのは止めたのに」
「それは…僕が恥ずかしい…って“僕の前では”!?それはつまり…!?」
「ジュリのいないところで連呼することにしたよ!」
「むしろ逆にして欲しいっすよ!!!」
「うるさいのよっあんた達っ!!」
部屋のドアが勢いよく開けられ、チアキが言い放つ。
「私、受験生、わかるかしら、勉強中、私、受験生」
チアキが壊れた機械のように呟く。
「うわー小さくて可愛い!!小さい!!」
「あっ…折角、文章中で余り表現されてなかったことをそんな連呼したらお嬢が可哀想っすよ!!」
「もうっ!うるさい!!日本人的には…ほんの少し小さめって程度よ!!」
実際極端に小さい訳じゃない…全体的に小柄で幼いだけで。
「ポニーテールが身長を補おうとしてる見たいで可愛い!!…私もしてみようかな」
「…個人的にはサイドテールが見たいっす…なんて」
「…いいよ///」
チアキがうんざりしたように言う。
「いちゃつくなら外でしてくんない?」
まだ…夏休みは始まったばかりであった。