君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

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003 少女はその痛みを知っているのか

そのとき、青葉ユウトには深見ヒカリが何となく輝いて見えた。

 

 

 

 

ヒカリが1枚のカードを掲げる。

 

 

 

「……幻の闇を纏いし漆黒の騎士、奈落より生まれし剣は我らを勝利へ導くだろう!!ペルソナブレイクライド!……“幽幻の撃退者 モルドレッド・ファントム”!!」

 

 

 

 

「…ふ……ふふふ…ふふふふ」

 

 

ヒカリの口から変な笑みがこぼれる。

 

 

その顔は普段の彼女が見せないような“妖しい”ものだった。

 

 

「…ふっ深見さーん?」

 

 

いつもと違う雰囲気のヒカリにユウトは思わず声が出てしまう。

 

 

そして、その様子を見ていたのはユウトだけでは無かった。

 

 

 

「いや…これはアリだな、普段のヒカリちゃんが天使なら今はまさに女神だ」

 

 

 

「何言ってんだ、店長」

 

 

 

 

「……静まりなさい、“モルドレッド”のブレイクライドスキル!CB1枚でヴァンガードにパワー+10000、そして我が呼び声に答えよ!!“タルトゥ”!」

 

 

 

 

そう言うとヒカリは山札の中から“黒衣の撃退者 タルトゥ”を取り出す。

 

 

 

 

「“スぺリオルコール”そして“タルトゥ”にパワー+5000…………さらに“タルトゥ”のスキルで彼女の後ろに“マスカレード”!!」

 

 

 

 

“モルドレッド”の右隣にいる彼女=タルトゥの後ろにグレード1の“無常の撃退者 マスカレード”がコールされた。

 

 

 

「“モルドレッド”の左に“超克の撃退者 ルケア”、その後ろにもう1枚“無常の撃退者 マスカレード”をコール!」

 

 

 

「“ルケア”のスキル発動!G1以下がコールされるとパワー+3000!…………“モルドレッド”の後ろに“暗黒医術の撃退者”をコールして、再びパワー+3000!!」

 

 

 

 

 

ヒカリは一気に強力なパワーを持つ3つの“列”を作り上げた。

 

 

 

「…この展開…この結末………これらはあえて言うならば神の采配……抗わず、受け入れよ」

 

 

 

「あ、はい」

 

 

ユウトが思わず返事を返す。

 

 

 

「“医術”のブースト、“モルドレッド”の剣を受けよ!“ガントレッドバスター”!!…パワー28000のアタック…!!」

 

 

 

ヒカリの攻撃がユウトの“ヴァンガード”に飛んでいく。

 

 

「“抹消者ワイバーンガード ガルド”で完全ガードだ!!、コストとしてドロップするのは“ガントレッドバスター”!」

 

 

 

 

「…………絶望を見せてあげる、ドライブチェック…first…“撃退者 エアレイド・ドラゴン”…get!クリティカルトリガー!!効果はすべてタルトゥに…」

 

 

 

「…………second……“カロン”………トリガー無しね」

 

 

 

 

 

 

 

そこでやっとユウトは気がついた。仮にトリガーが全く出なかったとしても、リアガードのアタックが防ぎきれないと。

 

 

 

 

「“マスカレード”のブースト、“タルトゥ”でパワー26000、クリティカル2のアタック!!」

 

 

 

「ぐっーーーえっと“ガルド”で完全ガード!?…コストは“エレクトリックシェイパー”!」

 

 

 

ならば、ーーーーーとヒカリが最後のアタックを仕掛ける。

 

 

「“ルケア”でアタック…ブーストは“マスカレード”でパワー22000…!!」

 

 

 

 

 

 

「……ノーガード、ダメージチェックは…………“レッドリバー・ドラグーン”…トリガー無し……ふぅ、俺の……負けだ」

 

 

 

ユウトのダメージゾーンには6枚のカードが並んでいた。

 

 

 

 

 

 

ファイトの緊張感が消えていく。

 

 

ユウトは悔しさと、満足感を感じていた。

 

 

 

「楽しかった、ありがとう」

 

 

ユウトは礼を告げる。

 

 

 

 

 

 

「…………あ、あああ」

 

 

 

 

うめき声が聞こえた。

 

 

 

 

 

「?」

 

 

 

ヒカリの方を見つめると、その顔は真っ赤になっていた。

 

 

 

 

「…………怒ってる?」

 

 

 

ユウトは自分の行為を思い返す。

 

 

かなり強引に連れてきてしまったことは事実だ。

 

 

 

 

「……そうじゃ…なくって…私……あんな、恥ずかしいセリフを…………ペラペラと……」

 

 

 

ヒカリの赤面は怒りではなく、恥ずかしさからのものだった。

 

 

 

「「あーーー」」

 

 

ユウトと店長の声が重なる。

 

 

 

「…私…何であんなことを…………」

 

 

 

 

ヒカリは自分の顔を隠しながら今のファイトを回想していた。

 

 

 

 

「…………うううぅ…忘れて……ください」

 

 

 

 

 

「いや、店長的には超良かったよ」

 

 

「ソーダヨー、カッコヨカッタヨー」

 

 

 

 

「……青葉クン、目をそらさないで…」

 

 

 

 

 

 

 

その隣で店長は満足そうに頷く。

 

 

「今日は本当にいいものが見れたよ、だから………」

 

 

「…………?」

 

 

 

「パフェは驕りだ!」

 

 

「…え、本当に…………?」

 

 

 

 

「もちろんだ!!」

 

 

ヒカリはヒマワリのような笑顔になった。

 

 

 

「…………店長、大好きです!!」

 

 

「本当、俺も店長大好き!!」

 

 

 

 

「何言ってんだ青葉、気持ち悪いな……お前は普通に自腹だぞ」

 

 

 

「…………………………」

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

ユウトは美味しそうにパフェを頬張るヒカリを見ていた。

 

 

「結局、ヒカリはヴァンガードファイターだったんだな」

 

 

 

「!!…チガウヨー、ソンナコトナイヨー……」

 

 

「目をそらすなよ……」

 

 

 

 

 

 

ユウトは自分のデッキを見つめて考える。

 

自分が今よりも強くなるにはどうすればいいのか。

 

ヒカリと戦っていけば、その答えが見つかるのではないか。

 

 

 

 

「ヒカリ!!聞いてくれ…そのデッキは君にあげる……だから、これからも俺と!!」

 

 

「お断りします……」

 

 

きっぱり断られ、ユウトはぐったりと机に伏せるのだった。

 

 

 

 

 

「…………でも、今日のファイトの…………反省会はしよっか…互いに」

 

 

 

「……………ああ!!」

 

 

 

店内に差し込む夕焼けの光が二人を照らしていた。

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

辺りはもうだいぶ暗くなっていた。

 

 

俺は店を出ていくヒカリの後ろ姿を見つめる。

 

 

 

「そういえばよ、青葉」

 

 

 

店長が俺に聞く。

 

 

「実際の所、どうしてヒカリちゃんを誘ったんだ?」

 

 

 

確かにヴァンガードのために誘うなら別にヒカリじゃなくても良かったかもしれない。

 

誘おうと思えば、他にも相手はいただろう。

 

 

ただ…………

 

 

「…ヒカリ、学校じゃいつも独りだからさ」

 

 

「そうなのか?小学校の頃はいつもクラスの中心にいるような子だったろ」

 

 

 

そうだ。

 

 

俺の記憶の中でもヒカリは“そういう人間”だったはずだ。

 

 

 

中学時代、ヒカリに何かあったのか…?

 

 

 

「それと青葉、もうひとつ…だ」

 

 

 

 

店長がすっかり考えこんでしまった俺の肩に手を掛ける。

 

 

「……?」

 

 

 

 

「もう辺りは暗いってのによ、夜道に女の子を一人で歩かせる男ってのは……どうなんだ?」

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

俺は慌ててヒカリの後を追いかけるのだった。

 

 


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