どこにでもあるような出る少し大きめの一軒家。
そこでは5人の家族が仲良く暮らしてました…とさ。
「シン兄!もう私のデッキ勝手に使わないでよ!!」
「…悪い…だがなマリ…もう少しでフォルトナの声が聞こえそうなんだ…それにお前最近ネオネクタールばっかり使って」
「そーうーいーう問題じゃなーい!!…最低限のマナーは守ってよ!!」
「いや…ほら…俺は」
「お前の兄だって!?知るかー!フォルトナに浮気なんかしてたらゴルパラに嫌われちゃうんだから!!」
「な…!浮気だと!!?そんな…俺が…?」
「コハク兄もそう思うでしょ!!」
今日も家は賑やかだ。
「まあ落ち着けマリ…浮気なんかするってことは、お前の兄貴は立派な男になったってことだぞ……ほら、昔はこんなに可愛かったのにな、ラシンちゃん」
僕は一枚の写真を取り出す…可愛いなラシンと僕。
「…止めてくれよ!!」
そう言って僕の大事な弟はその写真を奪って破り捨てた。
僕とラシンの女装姿の写真…をね。
「まあ…まだまだ沢山残ってるがな」
「兄さん…あんたって人は…」
* * * * *
僕の名前は神沢コハク
以上だ。
僕は僕…特に語ることも無いし、語りたくもないよ。
まあ…歳は15、中学3年生だね。
家族は父と母、そして弟と妹。
「兄さん…俺のパンツが足りないんだが」
「ラシンのことが好きだって子にあげちゃったよ」
「…………………」
この弟、神沢ラシン…趣味はヴァンガード。
僕も昔は…そんな昔じゃないけどヴァンガードに熱中していたっけ、というかむしろそのせいで弟と妹もヴァンガードを始めてくれたんだったなぁ。
本当にいい弟達を持った。
「……………………」
「…コハク兄…またシン兄に何かしたの?」
「ん?…大丈夫さ、マリは気にしなくていいよ」
「うん!」
弟のラシンが中学2年生、マリは小学6年生だ。
小学生と言うと僕の年上のお友だちは、きゃっほうと叫んだりするが、実際は彼らの期待とはずれているのが自慢の妹のマリだ。
容姿は…すでに高校生でも通じるんじゃないかな、身長、スタイル共に小学生離れしている。
というか髪染めてるのも彼らの期待を裏切っているのだろう。
僕とラシンが歳の割に“ロリロリしい”見た目をしているからね、仕方ないね。
僕の今の趣味はそんな人たちを眺めることです。
「………はっ」
「ラシン…立ったまま寝たら風邪引くよ」
「あ…ああ…気を付けるよ……兄さん……って!!」
「ん?」
「そうじゃない!!パンツ!!」
「あー」
「あーじゃないだろ!!」
「…♪…大人の階段登る…♪…君はもう」
「歌うなよ!!」
「逆に考えろ…マリじゃなくてよかったろ」
「え?」
「お前の立場にマリを」
「呼んだ?」
「呼んでない」「呼んでないからね」
「全く!夏の暑さで脳味噌溶けてるのか…」
「ところで」
「ここにきて話変えるのか!俺のパンツは!?」
「チームのメンバーは集まったのか?」
「………それは」
今、弟達は9月にあるというヴァンガードの大会に出るためにチームを作っていた。
そのためには最低でも3人のメンバーが必要だった。
「…兄さんは」
「僕はファイトはしない…他のサポートなら任せてほしいけどさ…それにお前だって嫌だよね」
「……それは」
「…お前がしたいようにすればいい」
「……俺は……」
「安心して、ファイトはしない」
それは昔、一緒に戦った友への裏切りにもなる気がするから。
「やっぱり…コハク兄は…無理?」
「ごめん、可愛い妹の力になってあげたいんだけどね…」
「…俺とマリで最後のメンバーは探す」
「メンバー探しは手伝うよ……おっ…そろそろご飯の時間かな」
もうすぐ、母さんが僕らを呼びにくるだろう。
* * * * *
「シン兄!ファイトしよ!!」
「ああ…こてんぱんにしてやるよ」
夕飯の後はこうして二人はファイトをよくする。
「ドロー!スザンナにライド!……そういえばあの深見さんって人…仲間になってくれないかなぁ……ファイサリスをリアガードの後ろにコールし直してターンエンド!」
「ドロー…駄目だ、あの人は俺の今大会の目標…“ターゲット”だ………チームメイトにするわけにはいかない………小さな解放者 マロンにライド、FVのウォルティメールをマロンの後ろにコール、もう1枚マロンをコール…ウォルティメールのブースト、ヴァンガードのマロンでアタック!!」
「でもシン兄一度はあの人に勝ってるじゃん、まだ戦うの?…ノーガード」
「あの時は互いに普段使ってるデッキでは無かった…ノーカンだ……ドライブチェックは…青き炎の解放者 パーシヴァル…トリガー無しだな」
「ダメージチェック……ああ…ヴェラが……でもさ、最終手段としては有りじゃない?」
「……確かに…大会に出られないのは困る…いやそもそも彼女には既に仲間がいたから無理だろうな…リアガードのマロンでアタック」
「あ、そっか…残念……ダメージチェック……またヴェラとか……」
「…………」
大会まであまり時間は無い。
やっぱり僕が二人と…
「…………駄目だな」
「コハク兄?」
「兄さん?」
それは…意味が無いんだ…ラシンの“願い”を無駄にすることにもなってしまう。
「ちょっと…ジュース買ってくるよ」
そうして僕は家を出た。
この辺りは街灯も多く、夜でもかなり明るい。
僕は少しカーブした道をゆっくりと進んでいく。
“最強であることを証明したいファイターだ”
以前ラシンは銀髪の少年にそう言い放った。
“最強”
それがラシンの目指すもの。
(今の僕じゃ…足手まといに成りかねないし)
夜の風が僕の髪を撫でていく。
何でだったか…僕は小学生の頃から髪を金に染めている。
マリも、ラシンも同じように染めている。
面白いことに髪の色が違うだけで周りの人間の接し方は変わってくる。
確かに小学生が染髪というのは自分でも良いイメージは浮かばないけどね。
まぁ…父と母は「金髪ならロリータファッションかねぇ」って言うだけだったけど…それはそれで問題か。
やがて僕に続くように弟達も金に染めた。
「これでお揃いだね」って言って…。
「あの頃のラシン…可愛かったな…僕には劣るけど」
僕は道の途中にあった自販機の前に立つ。
「サイダーがいいな…」
僕は硬貨を投入して自販機のボタンを押す。
落ちてきた缶ジュースを受けとめ、僕は来た道を引き返す。
どうしたら…いや…どうしたいんだろうか、僕は。
辞めると決めたのに、時々とてもヴァンガードファイトがしたくなる。
こんな風に迷っているところは弟達には出来れば見せたくないな。
兄として常に、強く、健全なドSでありたい。
「先導者…か……僕はあいつらの先導者なんだよね」
僕の言葉を聞いていたのは夜の町を駆ける風だけだった。
* * * * *
「…海?」
「そう!お父さんがたまには家族で出掛けないかって!!」
「それで海か…」
僕が少し外に出ていた間にそんな話が進んでいたなんて…。
「正確には海には行かないらしい」
「え?どういうことだい?」
「父さんが仕事で海辺のホテルに泊まるから一緒に来ないかって話なんだよ」
「でもお父さん昼間は仕事だから」
「母さんも町内会の旅行でいないしな」
僕は二人の言いたいことがわかった。
「保護者が一緒にいられないから、中学生だけじゃ海に出られない…ってことかな…真面目だね」
「まぁでも…ね…シン兄…」
「行くだけ行ってみないかって話だ」
「なるほど…海…ね」
いざとなればマリを保護者に装うことも可能だろう。
というかマリはその手を使う気まんまんのように見える。
…兄として見守ってあげますか。
「なら…みんなで行こうか!!」
「やったっ!!」
「…海…久しぶりだな」
夏といえば海だしね。
「いざ海へ!!だね!!」
「そうだ…兄さん…そろそろパンツ返せ」
ラシンが僕に詰め寄る。
「あはは…悪い悪い」
「だから返せって…?」
「悪い」
あれ、冗談じゃないんだ。