「いやー良い天気だね!!ジュリ♪」
「こら…ゼラ!新幹線では静かにするっすよ!」
8月1日…私たち…深見ヒカリ、青葉ユウト、天乃原チアキ、舞原ジュリアン、そしてゼラフィーネ・ヴェンデルさんと天乃原家の執事である近藤さんの6人は月ヶ浜という場所へと向かっていた。
朝の5時過ぎに家を出た私たちは大智から東京まで電車で移動し、そして今は下田に向かうため東海道新幹線に乗っている。
えっと…その後は……
「近藤、説明お願い」
「下田に到着後、乗り換え…その後はリムジンでの移動になり…10時38分の到着になります」
執事の近藤さんが説明をしてくれた。
「あ、ありがとうございます……リムジンかぁ」
天乃原さんがお金持ちなんだって…忘れてたかも。
「今日は日頃のストレス…発散するわよ!!」
「……溜まってたんだね」
「…受験勉強もあるけど…主にあの二人のせいね」
天乃原さんはそう言って後ろの座席にいる“二人”を見る。
銀の長髪と銀のサイドテールの二人が座っていた。
「ねえねえ、ジュリジュリ!誉めあいっこしよ!」
「誰がジュリジュリか!……嫌っすよ」
「…ジュリリンは私のこと嫌い…?」
「……ったく……大好きっすよ……あとジュリリンは勘弁して」
「じゃーあー……ダーリン♪」
「それは…………恥ずかしいっすからっ///」
どうしようもなく甘ったるい会話が耳に入ってくる。
「………いつまで聞かされるんだ?この会話…」
「私は“あれ”を毎日聞かされてるのよ」
近藤さんの隣に座る青葉クンが率直な感想を告げる。
「………ははは」
「あれで喧嘩してたらもっと酷いんだから…」
天台坂の町はすでに遠く、新幹線の窓に映る景色は見たことの無いものばかり。
「海……か………」
「ヒカリさんは新しい水着とか買ったの?」
「え、あ……うん……一応……」
「なら目一杯楽しむわよ!せっかく来たんだから!!スイカ割りとか…ビーチバレーとか……ね!」
「う…うん」
実を言うとあまり海には行ったことが無いのだ。
緊張する。
「…海はいいけど…ジュリアンにデッキの相談したかったんだけどなあ…」
「そんなこと……忘れなさい!!」
「それなら、ホテルで相談に乗るっすよ?」
「え…ホテルの部屋は………別々!?」
「男性と女性で分けさせていただきました」
私は耳を抜けていく会話達に目を細めた。
「……違うね」
同年代の友達と遠くへ出掛けるのが……久しぶりだ。
* * * * *
「こちらがホテルになります」
「……うわ……ここが……?」
リムジンを降りた私が見たのは、想像を越える規模のホテルだった。
「ええ、うちのホテルよ」
「かなりの高級ホテルっすね」
「…従業員の人がみんな、こっちに礼してるな…」
…知ってる顔が……ちらほらと……
「初めまして、三原でございます…」
私たちの前に優しそうなお爺さんがやって来る。
うわ……知ってる人が……ここにも…
「こちらは三原さん…ここで一番偉い人よ」
三原さん……
「ええ…本日はお嬢様方を我々の………はっ!」
バレ…た…?
「…三原さん…どうしたのかしら?」
……三原さんはじっと私を見つめる…やはりバレてしまった…か……
「久しぶりです、三原さん」
「おおお!ヒカリ様!ご機嫌麗しゅうございます!」
私と三原さんのやり取りをみんなが唖然とした表情で見つめている。
「え…知り合い…なの!?」
「あはは………まあ…ね」
三原さんはすかさずポケットから一枚のカードを取り出す。
『深見ヒカリ親衛隊…No.07』
「…そ…そういうことなのね…」
…天乃原さん
「な…何これ?…し…親衛隊?」
…ゼラフィーネさん
「No.07っすか……かなり初期のメンバーっすね」
…舞原クン
「……一体ヒカリの親衛隊って……どういう構成なんだよ」
…青葉クン
まずい、これはまずい。
「私はこの証を墓まで持っていくつもりですぞ!」
「三原さん!!」
私は三原さんに耳打ちする。
「…他にも親衛隊の人…いるよね」
「ええ…12の今田、36の浜岡に101の安田…」
「後、42の金村さん…97番以降の人はまだ把握してないけど………お願いします、特別な反応はしないでください…」
「ですが…」
「三原さんの存在だけで皆引いてるから!!」
この間のカードショップの時はまだ、小さなグループくらいに思ってもらえていただろうが実際は私も異様に感じるほどの巨大グループになっているのだ。
北海道の知事から、沖縄のタクシー運転手まで…そのメンバーは多岐に渡る。
どうしてこうなった…春風さんは…どうやって…。
「…とにかく…そういうことだから…」
「ヒカリ様がそう仰るなら…わかりました………さて皆さん!部屋へとご案内しましょう!!」
三原さんが私たちを部屋へと案内する。
しかし…三原さんのホテルが、天乃原さんの家のホテルだったなんて…。
「なあ…ヒカリ」
青葉クンが小さな声で私に尋ねる。
「…何?」
「…あの三原さんってヴァンガードファイターなのか?」
「……ううん…私の記憶だと…違ったはずだよ」
「そっか…強そうに見えたんだけどな」
ヴァンガードファイターでも無い人が…どうしていつもあのカードショップにいたのか……謎だけど、思えば“アスタリア”は喫茶店みたいなお店だし、三原さんがいても違和感は…無いのかな?
「みんな!荷物置いたら着替えて海よ!!」
天乃原さんが気をとり直すように言う。
太陽が高く登り、三日月のような形の浜が私たちを歓迎していた。
* * * * *
「遊ぶわよ!!」
「「「おーーー!!」」」
白と茶色の中間のような浜に天乃原さんの蒼い水着が映える。
私?…私は別に…
「ヒカリはいつも黒いなぁ」
「…他にも言い方あるよね?」
「二人とも!!準備!何か準備!」
「分かってるよ、リーダー」
私たちはビーチパラソルやシートの準備を始める。
「………舞原クンとゼラフィーネさんは?」
「……ホテルでいちゃついてるわよ」
「え?」
「いや…ホテルのゲームコーナーで戦場の絆やってたぞ」
「ああ……あの全天周モニターの、ロボットに乗るゲーム」
そんなものがあるなんて…豪華なホテルだ。
お客さんは基本的に会社のお偉いさんや国の偉い人が多く、ホテル専用ビーチの利用者も少ないみたいだ。
「…仕方ないから私達3人で遊ぶわよ!!」
「…ったく…あいつら何で海に来たんだ?」
青葉クンがビーチバレーのボールに空気を入れながら言う。
「…あいつらなりに事情があるのよ」
「………?」
天乃原さんはクーラーボックスから取り出した大きなスイカを撫でる。
「まぁ…爆発しろとは思うんだけど」
静かに本音を吐く天乃原さん…ぽこぽことスイカを叩く。
「………今は忘れましょ………今は」
「…天乃原さん……」
天乃原さんがスイカを抱えて立ち上がる。
「今は…」
片手には木刀。
「「スイカ割りだ!!」」
「……え?」
天乃原さんの声が誰かとハモる。
「え?」「あれれ?」
同じようにスイカと木刀を抱えた金髪の女性…いや少女?
どっかで見たような……
「ちょっとー!シン兄ーコハク兄ー!」
金髪の少女が呼ぶと、遠くから金髪の少年たちが近づいてくる。
……あ。
「どうした…マリ……って……お前は…」
「あなた……神沢ラシン…」
特徴的な金髪に幼顔…間違いなく神沢ラシンだった。
カードショップアスタリア以来だ…別に会いたくは無かったけど。
「まさか…こんな所で会うなんて……」
「ふ…これも何かの縁…か」
「…縁…」
私たちは互いにスイカと木刀を用意している。
私は天乃原さんのスイカに目を向ける。
「ヴァンガードでの勝負はVFGPで…だけど」
神沢ラシンはマリという子の持つスイカを見つめた。
「“あれ”で勝負…か…いいだろう」
「その口振り…知ってるんだ……」
「……ああ」
「「スイカ斬り…」」
私と神沢ラシンの間を月ヶ浜の冷たい風が過ぎていく。
「…何よ…この空気…」
「スイカ斬りが始まるんだよ…お姉さん」
マリが天乃原さんの隣にいつの間にか立っていた。
「あ…あなた…」
「私は神沢マリ……スイカ斬りは兄たちの中学に伝わる伝説のスポーツ」
「(…何か説明が始まったわ…)」
マリは真剣な表情で話始める。
「かつて荒れに荒れていた兄たちの中学を浄化したとされる恐怖のスポーツを安全にしたもの…」
「浄化なのに恐怖なのか?」
青葉クンが疑問を口にする。
「昔は人間の頭を使ってたらしいの…」
…いや、違うけどね、昔は相手の最も大切なものを叩き割ってたんだけど…さ。
私と神沢ラシンは互いの足元にスイカを置き、向かい合った。
「制限時間は30秒…サードルールで」
「…武器を落とすと負け…か」
私たちは木刀を構える。
「…始まるよ」
「…これって1vs1のスイカ割り?…危険じゃないの」
「…止めないと警察呼ばれそうだよな」
二人が心配そうに言う。
「大丈夫…ただの競争だよ」
「…あのラシンって少年、武器って言ったんだが」
「………」
木刀を握る手に力が入る。
「俺が先行だ…行くぞ…」
「いいよ……」
「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
神沢ラシンが勢いよく走り、自身のスイカに斬りかかる。
「(左から…と見せかけての……回転斬りだ!)」
右腕の刀を左側へ引くようにして、一回転…右側から斬り込む。
ガキィッ!!
「………止められたか」
私が繰り出した斬撃は神沢ラシンの刀を弾き返す。
「だが…まだ時間はある!!」
神沢ラシンの刀が大きく上へ振り上げられる。
「これで…!!」
「無駄………」
降り下ろされた刀を私の刀が綺麗に受け止める。
彼のスイカは傷一つ無い。
「……ターンエンドだ」
30秒の時間が過ぎ、神沢ラシンのターンが終わる。
次は私のターン…この勝負…勝ちに行くよ。
「なんとなく…このゲームのルールが理解できた気がするわ…つまり妨害付きのスイカ割りなのね」
「…そんな柔なもんじゃあ」
「あーはいはい」
「……どのみち良い子は真似しちゃ駄目だよな」
私は神沢ラシンが初期位置に立つのを確認し、刀を構える。
「……行くよ」
「来い…」
私は刀を地面すれすれに滑らせる。
「魔神剣!!」
放たれた衝撃波は私の力が足りないがために、途中で消えてしまう。
だがその衝撃波が消えた地点は砂煙が舞い上がり、視界が悪くなる。
「…!!…どこから来る……」
私はその隙にスイカまでの距離を詰めていく。
「…ここだよ!!」
「!?」
背後をとった。
だが狙いは神沢ラシンでは無い、スイカだ。
「しまっーー」
「…はぁっ!!」
私が刀を横に振るう。
…スイカは静かに…砂浜に散らばることなく、真っ二つになった。
「……俺の負け………か」
「深見ヒカリさん…すごい……上半球と下半球に…しかも…」
「刀が…当たっていない……だと」
「これが青葉流護身術の賜物だよ…」
「そんな流派無いからな?」
* * * * *
あの後、神沢ラシンのお兄さんであるコハクさんが合流して6人でバレーをやったりした。
「全然ボールに手が届かないんだけど!!」
「リーダーは後ろで構えてて!」
「青葉クン!!来る!」
「行っけー!シン兄ー!」
「……ゴルド・チャージング・フェザー!!」
「ラシン頑張れー」
…………
思いもよらない出会いだったけれど、お蔭でとても楽しい時間を過ごすことができた。
「それはどうも…でも僕、深見さんより年下だから…さん付けはね」
「え…あ…ごめんなさい…」
「だから…コハク様で許してあげるよ」
「え…えええ………」
「はっはー冗談、冗談」
この間は騙されて誤解があったままファイトしてしまったけれど、今回の事で神沢ラシン…ううん、神沢クンたちのことをよく知ることができたと思う。
「ジュリアン達も来れば良かったのにな」
「……そうだね…楽しかったもん」
遊び疲れた私たちは、ホテルまで戻ってきていた。
三原さんが出迎える。
「皆さま方…露天風呂の準備ができております」
「へぇ…いいわね、マリちゃんもどう?」
「あ!入りたい!!」
「僕たちも行こうか…ね?ラシン」
「……ああ」
……あ、そうだ。
「ヒカリ?」
「私、舞原クンたち呼んでくるね」
ゲームコーナーには居なかった…ということは部屋にいるのだろう。
「お願いするわね」
「うん」
私は舞原クンとゼラフィーネさんを呼びに部屋へ戻ることにした。
私たちの泊まる、2Fの201、202号室にはすぐに到着した。
「…のスキル………はブースト、インターセプト、5000シールドを得るっす」
201号室からお馴染みの単語が聞こえてきた。
私は扉をノックし、部屋の中に入る。
「……やっぱり…ファイト中?」
案の定、舞原クンとゼラフィーネさんは部屋の中でカードを広げていた。
「あ!ヒカリさん!どうしたんすか?」
「うん、みんなで露天風呂に入るから呼びに」
「露天風呂!行く行く!ジャパニーズなあれね!もちろん混浴ですよね!!」
「うん、違うよ…行こ?」
「そうっすね…丁度ファイトも終わったし……」
確かにゼラフィーネさんのダメージゾーンには6枚のカードが置かれていた。
「僕はここ、片付けてから行くっすよ」
「じゃ、行きましょう!ヒカリちゃん!!」
「あ…う…うん」
ゼラフィーネさんが銀髪を揺らしながら抱きついてくる…
「あ…そうだ…ジュリアン」
「…なんすか?」
「…………私はそのデッキ…いいと思うよ」
「…ありがとう」
…えーっと………
「…何の話?」
「気にしなーいデ♪さ、露天風呂♪露天風呂♪」
ゼラフィーネさんが強引に私を押しながら、部屋の外に出る。
……舞原クン…何かあったのかな?
「……いいと思う……っすか…」
一人、舞原ジュリアンは黒輪の騎士…ハルシウムを見つめる。
「…あと少しで何か掴めそうなんすけど…ね」