昨年、冬
「まさか…あなたもヴァンガードをやっていたなんてね」
「そういうお嬢こそ……まさかっすよ…………でも丁度良かったっす」
「ええ…私もよ」
「「手を貸してほしい」っす」
* * * * *
「…………あ」
「…ヒカリ?…どうしたんだ?」
「……今、神沢クンの叫び声がした気がする」
赤や青…様々な色の華が夜空に咲き誇っていた。
「私…皆に会えて良かったわ」
「天乃原さん……」
「それはこっちのセリフ……だな、リーダー」
青葉クンは笑顔でそう言う。
「リーダー達に会ってなかったら…VFGPに出場しようなんて思ってなかった」
「そう…だね、天乃原さん達と出会えたから…私も自分の昔の姿を受け入れられたんだと思う……だから、お礼を言いたいのは私の方だよ」
ーーお前と共にいてくれる仲間…戦ってくれる仲間がいる……違うか?ーー
それはもう一人の私の言葉……
この出会いが無かったら……私はきっと未だに……
「感情的になるのもいいっすけど…VFGPはまだ終わってないんすからね……?」
「分かってるわよ……でも、言いたくなったのよ」
天乃原さんが空を見上げる。
「最期に…大会に出られて良かったわ……」
「最期……?」
「どういうことだよ、リーダー…」
天乃原さんは笑っていた。
「どうもこうも無いわ、私受験生だもの」
「「あ……」」
「むしろ、まだやってるのかって話よね」
天乃原さんは大きな空に手をかざす。
「だけど…どうしても出てみたかった……私の我が儘だった」
天乃原さんの瞳に花火が映る。
「自分の力で何かを勝ち取る……そんなことがして見たかったの」
天乃原家といえば、この辺りでは有名なお金持ち…というか世界に羽ばたく超巨大企業の後継者一族だ。
同じ人間でも…きっと今まで見てきたものは違うのかもしれない。
……いや、だからこそ天乃原さんはヴァンガードの大会に出る…自分の力を見つめてみたいのかもしれない。
「一緒……だよ」
自然と口から言葉が漏れた。
「ああ……一緒だ」
「ま、一緒っすね」
ドドォォォォン!!
最後の……とびきり大きな花火が打ち上がる。
「……一緒?」
「そう、私たちの思いは一人一人違う」
「我が儘を言っているって…僕も、ヒカリさんも、青葉さんも思ってるっす」
「でも…思っているから、俺達は助け合える」
互いを高め合い、経験を積んで……私たち一人一人が強くなる。
「皆……最終目標は同じだろ?」
青葉クンがそう言う。
私と舞原クンも頷き、賛同する。
「「VFGP優勝!!」」
決してぶれることのない…このチームを支える一つの目標。
「そう……ね……皆……私…皆と一緒に!!」
「ま、受験勉強に関しては頑張ってくださいとしか言えないけどな」
「そうだね……」
「……大丈夫なんすか?」
「余計なこと言わなくていいわよ!!」
最初は…どうなるかと思った。
あの朝…突然舞原クンがやって来て……天乃原さんが仁王立ちしていて……ファイトして。
そして…チームに成り行きで入った。
思えば私は天乃原さんと舞原クンとはまだ会ってから三ヶ月くらいしか立っていない。
なのに…私はこの人たちと沢山の時を過ごした気がする。
思い出すのは舞原クンが見せてくれた天乃原さんの作ったハンバーグ……
変態。
ゴスロリ。
異世界。
ロボット。
よくわからないものは多いけど…色んなことがあった。
青葉クンにデッキをもらって、二人に出会った。
自分とも向き合って、モルドレッドにも会った。
「色々あったなぁ……」
「ヒカリー!!」
気がつくと皆は少し離れた所にいた……花火も打ちつくし、空は夜の静けさを取り戻していた。
「今からリーダーの家で花火やるぞ!!」
「本当!?……待って!!」
私は三人の元へ走る。
願わくば……これからもずっと。
* * * * *
「お母様……こちらが私の仲間の…」
「青葉ユウトです」
「…深見ヒカリです」
私たちは天乃原さんの家へ初めて入った。
いや……まだ庭だけど……庭だけど!!
その感想は……“でかい”の一言につきる。
庭も建物も……全てが私の貧弱なイメージを叩いて壊してくる。
……神聖国家でもこんな大きな家……あまり見かけなかったよ……?
「娘がお世話になっています……母のチズルです…娘をこれからもよろしくお願いしますね」
綺麗な……小柄なお母さんだ。
「「は……はい!」」
「ま、堅苦しいのはほどほどに……花火でもやるっすよ!!」
舞原クンは水の入ったバケツを片手にそう言うのだった。
さしずめ……夏祭り第二部……かな?
こうして私たちは天乃原さんの家で花火を楽しみ始めるのだった。
「打ち上げ!……行くっすよ!!」
ヒュルルルル……パーン
「……さっきの打ち上げ花火より地味ね」
「それは……まぁ仕方ないかな…」
私と天乃原さんは手持ち花火に火をもらう…
この時、前もって設置しておいた火種に近づけすぎると逆に着火せず、火種が消えてしまう……何てことがよくある気がする。
ちなみに私は手持ち花火に火をつけるのが……割りと苦手……
「……この手持ち花火ってどうやって遊ぶの?」
「……見たり」
まぁ確かにどう遊ぶのかと聞かれると…はっきりとした答えは見つからないかな。
「……踊ってみたり」
私はススキのように火花を出す花火をくるくると回す(もちろん人のいない方へ向けて)
「……へぇ…綺麗ね…私もやってみる」
私たちは花火をメビウスの輪のように回す。
輪の軌跡は、光は瞳の中に残って美しい光の帯を作り出した。
「いいわね……花火…………ところであなたは何をしているの?」
「ん?」
天乃原さんは一人しゃがんで何かを見つめる青葉クンに声をかけた。
「……それって…」
「ああ、へび花火だ」
青葉クンの目の前にはそれは大量の燃えかすが広がっていた。
「へび花火?……何かしら、それ」
青葉クンの目の前に広がっているもの…としか言いようがない。
「うんと……燃えかすがへび見たいになるから……へび花火」
「置いて、火をつけて、見て、楽しむものだな」
「……地味ねぇ」
ヒュルルルル……パーン…パーン
「ばんばん打ち上げるっすよー!!」
ヒュルルルヒュルルルル……パーン…パパーン……
皆……自由だね……
* * * * *
用意された花火ももう残りわずか……私たちは線香花火を楽しんでいた。
「……すぐ落ちるわ」
「儚いな」
それはこの夏休みと同じなのだろう。
儚く、終わっていく。
どれだけ楽しい時間もいつかは終わる。
終わってしまうのだ。
「……あれ?……舞原クンは?」
「そう言えば…見当たらないわね」
いつの間にか舞原クンが姿を消していた。
「……私、呼んでくるね」
何となく…気になった。
私は舞原クンを探しに天乃原さんの家へと足を踏み入れる。
「待って…!私の家……見ての通り広いから迷……行っちゃった……」
「…俺達も行くか……」
……私は迷わず、舞原クンの部屋へとたどり着いた……中から人の気配がする。
ちなみに私が迷わずここまで来れたのは、天乃原さんのお母さんに道を聞いたからだ……さすがに何の手がかりも無しにこの屋敷は歩けないよ……
コンコン……
私はノックと共に声をかける。
「舞原クン……?」
返事はすぐにあった。
「ヒカリ……さん?…もしかして探しに来たんすか」
「……うん」
部屋の扉がゆっくりと開く。
「ただ携帯を充電しに戻っただけっすよ」
「……何だ」
しかし、扉から見える舞原クンの部屋は凄かった。
壁一面にカードの入ったストレージボックスらしきものが積まれている。
足元には銀のアタッシュケース……開いているケースからして、その全てにデッキが入っているのだろう。
部屋の奥にはパソコンが3台ほど置かれていた。
「……凄い部屋だね」
「あー散らかってて恥ずかしいっすね」
「…あれ?」
部屋の奥……3台のパソコンの内…1台だけ、起動した状態で……動画を再生していた。
『……あなたの絶望した表情……見せてよ』
聞き覚えのある声……聞き覚えのある台詞……
「あの動画……まさか…あれが?」
「……そう、ネットに流された“ノルンのプレイ動画”っす」
顔は映っていない……だけど、袖や肩からどんな服かは分かる……それにこの声……やっぱり私…だ。
『見えたよ……ファイナルターン…』
しばらくして動画が切り替わる。
私の着ていた服とは対照的……真っ白な服、僅かに画面に映る金髪。
「次は…スクルド……あれが神沢クンのお兄さん?」
「ヒカリさんも知ってたんすね……そう……あれが金髪幼女という名前の女装男児っす」
アルフレッド……ソウルセイバー……私もよく知るヴァンガードの看板ユニットを使うスクルド……相手は一度もトリガーを出せず、ゆっくり、確実に倒されていく。
静かな動画……私は舞原クンに連れられ部屋の中…画面の近くへと向かう。
「こうしてヒカリさんに見てもらうのは僕にとってもチャンスかも知れないっすね」
「……チャンス?」
動画がまた切り替わった。
「……あれ?」
違和感の正体はすぐに判明した。
『スタンドアップ……ヴァンガード……』
この声…変声機を使ってる……
それだけじゃない、今まで……私と神沢クンのお兄さんはちらちらと服や髪が映っていたのに……この人だけ……映ってない……
「この三種類の動画……どれも同じ奴が配信したらしいんすけど…おかしいっすよね」
「うん……こんな意図的に加工するのは…どうして」
考えられる可能性……よっぽど顔を隠さなければならない理由があったか…
「……これが……“ノルン”の…ウルド」
「一部ではロボット何じゃないかって言われてるっす……ヒカリさん…会場にいたのなら何か見てないっすか?」
ロボット……?
「さすがにロボットはいなかったかな……ただ」
「ただ?」
動画から伝わる異様な空気……この感じに覚えがあった。
「ものすごい数のボディーガードを連れた人を見た…ううん正確にはその人の姿は見れてないけど…」
試合の形式は総当たり……結局途中に起きたMFSの故障で全員と戦うことはできなかったけど……つまり、総当たりということは、今、誰が、どの程度勝利数を重ねているのかを目視で確認出来なかったのだ。
いくら“ノルン”の三人が無敗だったとしても。
「そうっすか……ボディーガード……」
目を閉じて考え事をする舞原クン。
私は“ウルドのプレイ動画”を見つめた。
『……ライド』
相手は結局グレード3になる前に力尽きる。
フィニッシャーは……インペリアル・ドーター……ウルドはオラクルシンクタンクを使っていた。
「……これがウルド」
「インペリアル・ドーターは“拘束”のスキルを持っているっす……けど、他の拘束持ちのようにコストを払わなければ動けない……訳じゃない」
拘束……今ではほとんど見ることの無いスキル…このスキルを持つユニットはアタックできない…大抵のこのスキルを持ったユニットはもう一つのスキルに拘束を解除するスキルを持っている。
このユニット…インペリアル・ドーターの場合はCB1とリアガードのソウルイン……によって発売当時は珍しかった“パワー11000”を発揮することができた。
「このユニットの最大の利点は“ヴァンガード”としての能力っすね……通常はコストを払わなければ解除できない“拘束”を“リアガードがいない”ことのみを条件に解除できる……そして」
「…そして、リアガードがいなければパワー+10000…クリティカル+1……」
上手く使えば…完全にノーコストでファントム・ブラスター・ドラゴン及びオーバーロードと同じ“ダムド・チャージング・ランス”が撃てるのだ。
「……長い間、戦うには適さないユニットっす…」
「だけど…ウルドには関係ない…大事なのはクリティカルを増やし、速攻を仕掛けること……相手が“ライド事故”から復活する前に……」
……この人は今、どこで何をしているのだろうか。
「……あれ?……ほとんど姿が見えない、声もわからない……じゃあ何で女性って分かったの?」
“ノルン”は女性ファイターと聞いたけど(一人、女装男児がいたけど)……?
「ああ……一つだけ分かることがあるんすよ」
「一つだけ?」
「よく見るっす」
舞原クンが動画を始めから再生する。
「あ」
「分かってもらえたようっすね」
……いやいや…確かに、確かに……いや……
「指……綺麗っすよね…」
「指って………えええ………」
確かに…“スタンドアップ”の時に綺麗な指が映っているけど!!
「それだけ……?」
「いやいや…よく見るっす……爪、綺麗すぎっす、絶対磨いたりしてるっすよ……あの…あるじゃないっすかダイヤモンドなんたらとか」
………ウルド……か。
一体どんな人……何だろ。
* * * * *
天乃原チアキと青葉ユウトは人気の無い廊下をとぼとぼと歩いていた。
「……リーダー…」
「何よ……」
「何で俺達の方が迷ってるんだよ」
「…………」
……この後、迷っていた天乃原さん達と合流して、今日はお開きとなった。
* * * * *
そして……いよいよVFGPの開催が迫っていた。
君はヴァンガード……次回は
39話「17回目のさようなら」
8月30日更新予定です!
※9月から再び不定期更新に戻ります。