早朝、ちょうど日が登り始めた頃の時間、私と青葉クン…天乃原さんに舞原クンの4人は天乃原家の執事さんの運転するリムジンに乗っていた。
「目指すは“三日月セントラルホール”…そこが今回のVFGPの会場よ」
「…東京ビッグサイトじゃないんだね」
「確かに去年まではビッグサイトだったんすけどね…最近“三日月グループ”がヴァンガードに関わるようになってきたみたいなんすよね」
「噂じゃカード開発は“三日月”で、ヴァンガードの会社の方は封入率の操作くらいしかしてないそうよ」
「乗っ取られるのも…時間の問題っすよね」
「…………話についていけないんだが…」
三日月本社ビルの隣に建築された、三日月セントラルホール……
私たちの住む、天台坂からその場所までは車で2時間と少しくらいかかるようだ。
道中、私たちは車の中で朝食をとったり、ヴァンガードに関する話をして過ごしていった。
「…ところでVFGPってどういう風に進行していくんだっけか」
青葉クンが疑問を口にする。そういう事は今のうちに把握しておいた方がいいだろう。
「そうっすね…お嬢…僕らのエントリーナンバーはいくつっすか?」
「“082”…ね」
082………ふっ…
「082……82組もエントリーしてるのか!」
「いやいや…そんな訳無いじゃないっすか」
やんわりと舞原クンが青葉クンの言葉を否定する。
「実際は…200組以上のチームがエントリーしてるはずっす…確か」
「……200って…一体何人……」
一チーム最低3人なのだから…総参加人数は……600人を越えるだろう。
「VFGPは簡単に分けて“午前の部”と“午後の部”があるっす」
舞原クンの説明が始まった。
「“午前の部”は予選っす……それぞれのチームの代表者3名が他のチームの代表と戦うっす、一人が勝てば3点、負けや時間切れは0点…チームでの勝敗はここではつけないっすよ」
舞原クンは三本の指を見せる。
「最終的に3つのチームとファイト…つまり計9試合分のファイトの合計得点を競うっす……そして、合計得点の多い上位64チームが本戦に出場できるっす」
1試合20分…移動の時間の10分を入れて午前の部は1時間30分くらいかな。
「補足を入れると、デッキの構築は同クラン内でのみ、午後の部の3戦目までは変更可能っす」
……変なルール…
「午前の部終了後、上位チームの発表を行ってから昼食用の休憩を挟んで“午後の部”が始まるっす…本戦はトーナメント制…代表者3名が相手チームの代表3名と戦って勝ち数の多いチームが次の試合に進めるっす」
つまりチーム内で二人が相手に勝てばいいのだ。
「このファイトはどれも1本勝負で…」「…ん、ちょっと待ってくれ」
青葉クンは何かに気づいたようだ。
「例えば…Aさんが勝ってBさんが負け…Cさんが引き分けた場合はどうなるんだ?」
確かにその場合は引き分けになってしまうけど…?
「…基本的にヴァンガードに引き分けは存在しないっすから、それは時間切れでってことっすよね」
「ああ」
「実はこの午後の部のチーム戦、ファイトの時間制限が取っ払われるんすよ」
「……そうなのか!?」
「その代わり、思考時間に時間制限がつくっす…長考する場合はテーブルに置かれた“対局時計”を使うんすよ……一人の持ち時間は10分っす」
「ああ……将棋とかで使うあれか」
「そうっすね」
一応……ファイト時間は無制限……か、やっぱりそれって…
「それって…長そう…だな」
「絶対に長いっすよ……」
集中力……持つかな?
でも、戦いの先にあるものは……とても価値のあるものだ……負けられない。
後日開かれる“ヴァンガード戦略発表会でのMFSの体験プレイ”……そんな素敵な景品を手に入れられるのだから。
「私もちなみに」
ずっと舞原クンの説明を黙って聞いていた天乃原さんが口を開く。
「先鋒はジュリアン…中堅が私、大将がヒカリさんで補欠が青葉……いい?」
「了解っす」「ああ」「……うん」
天乃原さんが窓の外を見つめる。
「もうすぐ…着くわよ」
その言葉を聞いて私は鞄にしまっていたカチューシャを取り出した。
赤と黒の…上品な出で立ちのそれを私は身につける。
これで…今日の私の勝負服は完成……
私は勝利を誓う、仲間に、デッキに、そしてこの…
私はスカートの裾を軽く握る。
「ゴスロリに…ね」
* * * * *
三日月セントラルホール…その閉ざされた扉の前には数えきれないほどの人間が並んでいた。
「これ全部が…カードファイター……かよ」
「うん……カードゲーム……舐めたものじゃないでしょ…?」
久々にゴスロリを着たからか、私、少しテンションが上がっている。
「少し……気持ち悪い光景に見えるな」
「そりゃ言っちゃいけないっすよ」
私たちは大会出場者用の列に並ぶ。
神沢クン達の姿は……見えない……というか人が多すぎる。
まぁ…それでも目立つ人は目立っているみたいだけどね。
「ジャァァァスティッス!!」「あんた、静かにしぃ!!」「……あらあら…困ったわね」
……私のゴスロリもかなり目立っているのかな。
そんな私の肩を天乃原さんが叩く。
「…天乃原さん?」
「見て…あの子」
天乃原さんが指差した先には…中学生くらいだろうか、真っ白でフリルの沢山付いた洋服を着た女の子が歩いていた。
「仲間ね」「……うん」
遠目で顔までは見えないが、その女の子は金色の髪をしていた。
「……まさか…ね」
* * * * *
9時になり、私たちはついに会場に入っていく。
並べられたテーブル、イス…ホール内は冷房が入っているのか涼しく、着込んで来てしまった私でも過ごしやすいくらいであった。
「いよいよ……か」
「そうだね……」
まだデッキの内容には不安が残っていた。
私たちは案内された椅子に座る。
青葉クンは初戦は試合に出ないため、近くの待機用の椅子に座っている。
「彼にも伝えてあるけど毎試合メンバーチェンジしながら戦うわ……いい?」
「うん」「順番は決めてるっすか?」
「………………ええ、もちろん」
天乃原さんが少し遅れて返事をする。
これは…考えてない……かな?
「とにかく!!チームシックザール……勝つわよ!」
天乃原さんが拳を高く掲げる。
待機場所を見ると青葉クンもその手を大きく掲げていた。
「……もちろん…勝つよ」
「当たり前っすね」
4人の手が天へと伸びる。
これは始まり…こんなところで負けている訳にはいかないよね。
「「「「目指すは…優勝!!」」」」
そして10時…人で会場は埋め尽くされ、私たちの前にもVFGPの優勝を目指すファイター達が並んでいた。
『Go to The V-ROAD~♪ 道なき道~創り世界へ~♪』
アニメヴァンガードの主題歌が流れ、ゲストや司会の方が登場する。
ウォォォォォォォォォォォ!!!!
「皆さんこんにちわ!!“カードファイト!ヴァンガード”でEDを歌わせて頂いております、葉月ユカリです!!今日は会場の皆さんとファイトが出来るそうですので、私、沢山練習してきました!!」
「葉月さんかなり強いので皆さん楽しみにしてくださいねー!!」
「いやいや(笑)そんなこと無いですよ、初心者さんから孤高のヴァンガードファイターさんまで遠慮なく挑戦して下さい!」
スーパーアイドル、葉月ユカリと司会が開会式を進めていく。
「…じゃあ葉月さん、そろそろ“あれ”行きましょう!!」
「“あれ”ですね!!」
「葉月さんと会場の皆さんで一緒に“スタンドアップ・ヴァンガード!!”を言いましょう!!」
「今回は……THE…つけないんですか?」
「じゃあ…THE…つけたい人!!」
会場の半数以上の人間が手を挙げる。
「じゃあ、“スタンドアップ・THE・ヴァンガード!!”で行きましょう!!」
「行きますよ!!せーの!!」
『スタンドアップ!THE!ヴァンガード!!』
ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
一斉にファイトが始まる。
「必中の宝石騎士 シェリーにライド!!」
ファイター達は勝利を目指す。
「行くっすよ……伴星の星輝兵 フォトン!!その剣で立ちはだかる全てを斬り伏せろ!!星輝兵 ガーネットスター・ドラゴンにアタック!!!」
自身の力、そしてデッキへの誇りと信頼を胸に。
「ライド・THE・ヴァンガード…絶望のイメージにその身を焼かれ尚、世界を愛する奈落の竜!!撃退者 ファントム・ブラスター“Abyss”!!」
今、戦いの幕は開かれた。
「常闇の深淵で見た光は!!もう二度と消えない!!シークメイト!!!」