君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

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049 夢を掴むために

戦況は五分五分…シングの連続攻撃を2度喰らってこれなら……まだ……

 

「サロメのスキル……スペリオルコール!!立ち上がれ私の分身……ジュリ…ア……」

 

ガンガン鳴り響く頭、途切れていく意識……

 

私は……天乃原チアキは…倒れた。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

「あの……天乃原さんは……」

 

 

「過労だな」

 

 

「やっぱそうっすか…」

 

 

天乃原さんの執事、近藤さんの言葉に舞原クンは納得したかのように呟いた。

 

「今日で3日目の徹夜でしたから…受験生に徹夜は逆に敵だと言うのに……」

 

「あれほど前の夜はしっかり寝ておけって僕も注意したんすけどねぇ……」

 

「……うるさいわね」

 

一時的に意識を失った天乃原さんはしばらく眠った後に目を覚ました。

熱はあるようだが、意識ははっきりしていた。

 

今は頭に冷却シートを貼り、執事の近藤さんに寄っ掛かった状態で私たちと話をしている。

 

「天乃原さん……大丈夫?」

 

「私はね……それより準決勝は?」

 

「僕とヒカリさんで2勝…次は念願の決勝っすよ」

 

そう、天乃原さんが倒れた時点で私たちの決勝進出は決まっていた。

 

舞原クンは遠くを見つめる。

 

「あっちも…終わったみたいっすよ」

 

そこにはチームゴルディオン…神沢クン達の姿があった。

 

「次は……神沢クン達とか……」

 

VFGPで戦うと誓ったけれど、まさか決勝という最高の舞台で戦うことになるとは思ってなかった。

 

 

すると、天乃原さんが口を開いた。

 

「………青葉…ユウト」

 

青葉クンの名前を呼んでいる。

 

「…何だ…リーダー…?」

 

「私はもう駄目っぽいから…さ」

 

冷えピタを貼ったおでこを押さえながら言う。

 

 

「ユウト…あなたに任せるわ」

 

 

「……ああ」

 

 

青葉クンと天乃原さんがハイタッチを交わす。

 

「任された」

 

青葉クンの目には力が入っていた。

 

これで決勝戦は先鋒…舞原クン、中堅…青葉クン、大将…私の3人で挑むことになる。

 

「ちなみに…お嬢と青葉さんの今日の戦績は同じくらいっすよ」

 

「私の代わりなら十分ね……」

 

天乃原さんはしばらく瞳を閉じて考え事をした後、全員を見回す。

 

そして、口を開いた。

 

 

「皆、ここまで戦って…ついに決勝ね」

 

「「「……」」」

 

「私はちょっと…動けないけど、ここでしっかり応援しているから」

 

「お嬢……」

 

「天乃原さん…」

 

「リーダー…」

 

そして天乃原さんは私たちの前に手を伸ばす。

 

 

「舞原ジュリアン」

 

 

名前を呼ばれた舞原クンは何かを察し、手を天乃原さんの上に重ねる。

 

 

「青葉ユウト」

 

 

それに倣って、青葉クンも手を重ねた。

 

 

「…深見ヒカリ」

 

 

私も続く。

 

 

「…本当の戦いはこれから…皆…優勝をこの手に掴むわよ…チームシックザール…ファイトっ!!!」

 

「「「おぉぉぉぉぉっ!!!!」」」

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

VFGPの最終戦……決勝は特設ステージで行われる。

 

先程までトップアイドル葉月ユカリがファイトイベントを行っていた場所だ。

 

私は今までとは別種の緊張に襲われていた。

 

 

「うわ……どうしよ……うわー…」

 

 

垂れ幕の向こうには、大勢の人がいる。

 

ちらりと見えた中には

 

ユズキや、城戸さん、土田さん、日野さん

 

霧谷ミツルクンに天海レイナさん、春風さん

 

この大会に出ていた人は…全員いるようだ。

 

……すごい緊張する。

 

それは青葉クンも同じ様で、ずっと待機スペースでぐるぐる回っている。

 

「皆さん、落ち着いて欲しいっす」

 

「舞原クンこそよく落ち着いてられるね!!」

 

若干怒り気味に言う私。

 

「まぁ……慣れてるっすから」

 

「……へぇ」

 

「そ、そ、そうなのか」

 

 

慣れてる……か、今までもこういった大きな大会の決勝まで来たことがあるってことだよね。

 

 

私は落ち着いて遠くを見る……女の子の服を着た神沢クンが葉月ユカリと何かを打ち合わせしていた。

 

 

それにしても彼のあの姿……あそこまで似合っていると自分が恥ずかしくなってくる…普段着にしてくればよかった…朝の私は何故、気合い入れるためにこの服を選んでしまったのだ。

 

そんな事を考えている内に葉月ユカリがこちらにやって来る。

 

司会進行役なのだが、実際に名前を呼ぶ相手と直に話しておきたいというのが彼女の心情だろう。

 

「えっと先鋒、君が舞原ジュリアン君だね?」

 

「そうっすよ」

 

「次がユウト」

 

「ああ」

 

「そして深見ヒカリちゃん」

 

「……うん」

 

これだけの確認の筈だ…ではさっき、神沢クンは彼女と何を話していたのだ?

 

「…あの金髪で女装の彼は……何て?」

 

葉月ユカリは快く教えてくれた。

 

「自分を呼ぶ時はスクルドと呼んでくれって言ってたよ」

 

「スクルド…」

 

それは彼の中で目指すべき目標、憧れであることは私も知っている。

 

それをこの場所で名乗ろうとするということは、それだけの覚悟があるという証しなのだろう。

 

私も……負けてられない。

 

「……私のことも…ベルダンディって…呼んでもらえるかな……?」

 

「…ヒカリさん……!?」

 

その名前の意味を知る舞原クンが驚いたように声をあげた。

 

「…………いいよ、頑張ってヒカリちゃん」

 

「うん…」

 

葉月ユカリの了承を得る。

 

 

神沢クン……私もあなたの本気に付き合うから。

 

 

不思議だ、私の中の緊張はどこかへ消えてしまった。

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

「「それではこれより、ヴァンガードファイターズグランプリ……決勝戦、チームシックザールvsチームゴルディオンを始めます!!」」

 

 

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「では、順番にファイターをお呼びしましょう!!」

 

葉月ユカリはファイター達の名前を呼び始める。

 

 

 

「チームゴルディオン先鋒!神沢コハク君!」

 

童顔で金髪…その表情は柔らかく、落ち着いていた。

 

 

「チームシックザール先鋒!舞原ジュリアン君!」

 

流れるような長い銀髪をなびかせながら、自信満々といった表情でステージへと進んでいく。

 

「チームゴルディオン中堅!神沢マリさん!」

 

すらりと伸びた綺麗な足、その見た目からは小学生だとは想像がつかない…こちらも金髪だ。

 

 

「チームシックザール中堅!青葉ユウト君!」

 

誰が見ても緊張していると分かる…歩き方がぎこちない天然パーマの高校生。

 

 

「そして、チームゴルディオンの大将!!……スクルド!!」

その名前が呼ばれた瞬間、会場がざわめく…登場した可憐な美少女に再度会場がざわめいた。

 

 

染め上げられた金の髪に純白の衣装…それは正しくスクルドとして語られている姿。

 

 

「迎え撃つのはチームシックザール大将!!……ベルダンディ!!」

 

一度は静まり返った会場に、三度ざわめきが広がる。

 

 

登場したのは黒を基調とした衣裳に身を包んだ黒髪の少女。

 

 

名前を呼ばれた6人はステージ中央に用意されたファイトテーブルの前に立つ。

 

 

「それでは!ファイトの準備をお願いします!!」

 

ファイター達は丁寧にデッキをシャッフルする。

 

互いにデッキを交換し、シャッフル。

 

手札を引き、先攻後攻を決めるジャンケンを終え、手札交換を行う。

 

 

深見ヒカリは自分のデッキを見つめていた。

 

使用しているスリーブには白地に黒の線でヴァンガードサークルが描かれている。

 

昔から丁寧に使ってきたスリーブ。

 

その中には大切な仲間達が構えている。

 

(モルドレッド…あなたに会って…ヴァンガードをもう一度始めて、今日ここにいるんだ)

 

 

「皆さん、準備ができ……たようですので!始めましょう!!」

 

 

(私と神沢クン…どちらの本気が強いのか)

 

 

「「スタンドアップ……」」

 

 

 

(はっきりさせるよ!!)

 

 

 

「「「ヴァンガード!!!!」」」

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

「「スタンドアップ…」」

 

 

「THE!」「my!」

 

 

「「ヴァンガード!!!」」

 

 

私と神沢クンのファイトがついに始まる。

 

 

先攻は私、深見ヒカリからだ。

 

 

「ダークボンド・トランペッターにライド……ジャッジバウを後ろにコールして、鋭峰のシャドウランサーをコールする……スキル発動」

 

私は手札のファントム・ブラスター“Abyss”をドロップし、幽幻の撃退者 モルドレッド・ファントムを手札に加えた。

 

先攻ターンのため私は神沢クンのころながる・解放者にダメージを与えることはできない。

 

 

「なるほど…それがあんたの“撃退者”か」

 

「そっちこそ、“解放者”の力…見せてもらうよ」

 

 

何度か会ってはいたが、互いに本気のデッキを見せるのは初めてだった。

 

 

「面白い…行くぞ!!疾駆の解放者 ヨセフスにライドだ!!!」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

「「スタンドアップ!ヴァンガード!!」」

 

 

「かすみ草の銃士 ライサ!!」

 

「…煉獄竜 ペタルフレア・ドラコキッド!」

 

 

こちらもチームシックザールが先攻…俺、青葉ユウトは落ち着いていた。

 

両隣にはヒカリとジュリアンがいる…不安なんてなかった。

 

「煉獄闘士 マレイセイにライド…!!俺は戦い抜く、リーダーに託されてるんだからな!!」

 

「思いや誓いがあるのはこちらも同じだから!睡蓮の銃士 ルースにライド!!」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

「さ~て…元祖スクルドさんはどんなデッキで来るんすかねぇ」

 

「ははは…見せてあげるよ」

 

「「スタンドアップ!ヴァンガード!!」」

 

 

先攻は神沢コハク…僕たちは互いにFVを繰り出したっす。

 

「星輝兵 ブレイブファング…元々ロイパラ使いのコハクさんなら見覚え…が……」

 

 

僕はコハクさんのFVを見て戦慄する。

 

 

“それ”はこのブレイブファングと同じく出たばかりのカードではある。

 

だが、“それ”は“それ”自体を必要とするデッキも含めて発売されたばかりだ。

 

実戦データが圧倒的に少ない上に、ここで出会うこと等想定していなかった。

 

(まだ戦い慣れてるファイターもいなければ、使い慣れてるファイターもいない筈…だからこの大会でわざわざ使ってくるなんて思ってなかったっすよ……)

 

 

「おやおや…どうしたんだい?舞原ジュリアン君」

 

「いや……ちょっと予想外だったっすよ」

 

「そうかい?」

神沢コハクは不気味に微笑み、カードを持ち上げる。

 

 

 

「享受する根絶者…ヰゴール……ふふっ…」

 

 

 

“根絶者”…それは虚無から生まれ、虚無を導く怪物達……

 

神沢コハクの乾いた笑いが僕の耳に残る。

 

 

「デッキとの絆を失った(デリートした)僕には…ぴったりだろう?」

 

 

 

 

VFGP決勝戦……今、開幕。

 

 




もうすぐ第3章もクライマックス…ということで、しばらく更新の頻度が高くなると思います。

よろしくお願いします。

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