君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

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第4章 愛は隣に
055 Go!Standup!


VFGP決勝戦から2日……

 

動画配信サイトにて中継されていた“スクルドvsベルダンディ”は大きな話題を生んでいた。

 

特にスクルド…金髪の少女(男)については使用された“解放者”のスペリオルコールの精度、トリガー率から、彼の何かが常人とは違っていることを感じさせた。

 

 

「これで…名実共に“スクルド”は神沢ラシンの称号になった訳っすか……」

 

 

舞原ジュリアンは自室でパソコンを眺めながら呟いた。

 

彼はVFGP後の祝日をヴァンガードの様々なブログを回りながら過ごしていた。

 

 

「……長いっすね…最強までの道は…」

 

彼は勅令の星輝兵 ハルシウムのデッキを指でつつく。

 

「倒したスクルドはもう力を失っていて、今や新しいスクルドが世間の話題になっている…」

 

 

おもむろに立ち上がったジュリアンは机の引き出しを引いて、中の全てのデッキを取り出した。

 

 

 

ビーナストラップЯ…ネオネクタール

 

レオパルドЯ…グレートネイチャー

 

ルキエЯ…ペイルムーン

 

アモンЯ…ダークイレギュラーズ

 

メイルЯ…アクアフォース

 

コキュートスЯ…グランブルー

 

エシックスЯ…ノヴァグラップラー

 

Яダイユーシャ…ディメンジョンポリス

 

オバロЯ…かげろう

 

ボーイングЯ…なるかみ

 

ヒャッキヴォーグЯ…むらくも

 

レミエルЯ…エンジェルフェザー

 

そしてリンクジョーカー……

 

ブラスター・ジョーカー、グレンディオス、ダークゾディアック、ヴェノムダンサー、カオスブレイカー、イマジナリープレーン、フリーズレイ……ハルシウム。

 

その他にも……たくさん。

 

 

 

「レオパルドはヒカリさんと初めて戦った時に使った…ルキエとアモンは青葉さんをぼこぼこにするのに使ったっすね…」

 

ゆっくりと見回していく。

 

「アシュレイЯはお嬢に貸してたっす…オバロЯは最初に神沢ラシンと戦った時に来るのが間に合わなかった…オラクルやスパイクは昔はたくさん使ってたっすね」

 

たちかぜやぬばたま、むらくも、メガコロニー…深見ヒカリのシャドウパラディン…神沢ラシンのゴールドパラディン…所持している人が少ないであろうバミューダ△のマドレデッキ…単クランでデッキが組めないエトランジェ。

 

 

「すぐ極めて終わる筈だったのにずいぶん時間がかかってしまった……っすねぇ…」

 

 

ひとつひとつのデッキに思い入れは無いが、思い出はある。

 

それは積み重なって…確かに舞原ジュリアンの中に残っていた。

 

 

「はぁ……まったく…荷物が重いと……動きにくいっす…本当にね」

 

 

時刻は午前3時57分…彼は自室を出ると長い廊下を歩き始めた。

 

天乃原家は広く、果てしない。

 

長い長い廊下はまるで“自分の歩いている道”の様だと感じていた。

 

 

「眠れないのかしら?…舞原君」

 

「……チズルお母様…」

 

 

同じように廊下を歩いていたのは天乃原チアキの母、天乃原チズル…彼女と舞原ジュリアンは窓の外を眺めながら語り合う。

 

 

 

「この間はあの子が世話になったわね、ありがとう」

 

「いえいえ…こちらこそ、お嬢には世話になってるっすよ」

 

 

 

二人は血は繋がらないものの、一応は姉弟の関係であった。

 

血は違い歳も離れた二人だったが互いのことを信用し、理解している。

 

だが…だからこそ、言葉にして聞かなければならないこともある。

 

 

「……そろそろ行くのよね…」

 

「まぁ…最初からそのつもりでしたし、未練はあるっすけど後悔は無い1年だったっすよ」

 

 

その言葉に迷いは無かった…舞原ジュリアンはずっと昔からこの道を歩いている…そしてその歩みを決して止めない。

 

 

真っ直ぐに…普段の“碧色の瞳”では無く、“純白の瞳”でチズルを見つめるのであった。

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、だ…俺は数年間片思いしていた娘に……去年から彼氏がいたことを…」

 

青葉クンの周りから負のオーラが出ている。

 

「偶然見つけた知らない同級生のブログで…昨日、知ったんだ……」

 

 

 

「ほう…それは可愛そう言って貰いたいのか?キモいと言って貰いたいのか?」

 

「……ユズキ…青葉クンはこれでも頑張ってたよ、頑張ってたんだよ小学校の頃から…」

 

「いーや、そう言う奴に限って何もしてないな」

 

「ま、青葉さんは残念だった……そういうことっすね…」

 

 

 

ここは1年B組の教室、私の名前は深見ヒカリ…高校1年生だ。

 

 

今は所謂体育大会の真っ最中…出場競技がまだ先な私と青葉クンは、別のクラスで暇そうにしていたユズキと舞原クンを誘って、クラスの応援にも行かずに駄弁っているのだった。

 

 

「ま、この青葉君が残念な奴ってのは取り合えず置いておいてだ、ヒカリは最近ヴァンガードの方はどうなんだ?」

 

「ん…ヴァンガードか……」

 

 

 

あの大会が終わって3日…何もしてないと言えば嘘になる。

 

 

「取り合えず…ゴールドパラディン…“青き炎”のデッキをプロキシ(代理)で作ってみたかな…神沢クンへのリベンジのためにね」

 

 

あの後、私は神沢クンのデッキを思い出し、色々調べながら簡単に作ってみたのだ…プロキシと言ったように実際にファイトで使える代物ではないけれど。

 

 

「それで…回して見たんすか?」

 

「うん…神沢クンの“力”を再現するために山札は表の状態で…」

 

 

それなら神沢ラシンの力と同様、デッキの流れを知ることができる。

 

できる……ん…だけど……

 

 

「あれね……すごい疲れる」

 

「あーやっぱりそうっすか」

 

山札のどこにどんなカードがあるのか…見ることができる…つまり得られる情報が増えるということは、従来のヴァンガードには無かった“選択”が求められるということだ。

 

普通にダメージを通していい場面で…ダメージに落ちるのが手札に加えたいカードだったり…不発すると分かっているヒールトリガーが落ちることが分かってしまう。

 

普段の…普通のヴァンガードには無かった“迷い”がそこに生まれる。

 

「プロミネンスコアのスキルを正確に狙えるのは良いんだけどね…」

 

「…僕もやってみようかな」

 

 

まぁ……練習しても、自分で神沢クンの力を使えるようになる訳では無いけどね。

 

 

「……一つ質問いいか?」

 

ユズキが恐る恐る手をあげる。

 

「………“力”って…何?」

 

「そっか…ユズキは知らないんだ…」

 

 

私と舞原クン、青葉クンはユズキにこれまでのことを説明する。

 

私と神沢クンの“力”とその内容、その源を…

 

デッキとの“つながり”…絆が生む、奇跡の力……神沢ラシンの山札透視や私のドロー能力……そしてまだ見ぬウルドの能力のこと……

 

 

「はぁ……超常現象か」

 

ざっくりと纏めてきた。

 

「あー……うん」

 

「そんなもんだよな」

 

「そうっすね」

 

私たちはユズキに返す言葉が無い。

 

「先週のヴァンガTVでアメリカチャンプのMr.ACEと葉月ユカリの対談でも言ってたけど、カードにおける超能力なんて眉唾物だろう?」

 

「……うん」

 

「あ……僕、それ見逃したっす……」

 

 

超能力…超常現象といっても、私の能力は本当に存在するのか…まだ分からない、確証が掴めない。

 

全て偶然の産物かもしれない…その可能性は捨てきれない物だ。

 

「まぁ…全てただの偶然……かもね」

 

「いやいや、この世に偶然なんて無い…全ては必然だって誰かも言ってたっすよ」

 

舞原クンがどこかの漫画に出ていたセリフを言う。

 

全て必然……か、この力が在る理由…なんだろう、何か意味があって私はこの力を持ったのだろうか…この力の行き着く先は……一体…。

 

「ま、ここで考えても仕方無いだろ」

 

 

青葉クンが雑に話題を切り上げた。

 

確かにこのままでは大宇宙の真理でも考えてしまいそうであったが。

 

「ともかく俺はさ……この5ヶ月…色々ファイトできて良かった…ヴァンガードを楽しめて良かったよ」

 

青葉クンが突然死亡フラグのようなセリフを言い出した。

 

「5ヶ月…ほとんど半年…か……」

 

 

青葉クンがヴァンガードを始めて、そして私がヴァンガードを再開してそれだけの月日が経っていた。

 

 

「何言ってんだ…まだまだこれからだろ?」

 

「そうだな…」

 

「お二人はここまでどんなデッキとファイトしてきたっすか?」

 

舞原クンが聞いてくる。

 

ファイトか…そう言えば青葉クンは最初なるかみを使ってたっけ。

 

「なるかみ…リンクジョーカー……グレートネイチャー…あ、舞原クンの…ね?」

 

「懐かしいっすね…」

 

「俺は…シャドパラ、なるかみ…かげろう、ロイパラ、アクフォにスパブラ…兄貴に色々相手してもらったな…あーあとディメンジョンポリス…」

 

青葉クンの表情が曇る…あの変態ジャスティスのことを思い出しているのだろう。

 

「他にも…エンフェ、オラクル、ロイパラ、かげろう、むらくも、ノヴァにバミュ…ゴルパラ」

 

「ダクイレ、ペイル、メガコロ…ぬばたま、グランブルー、たちかぜ、ネオネク…こんなもんか?」

 

 

それを聞いていたユズキが指で数える。

 

「単クラン構築が出来ないエトランジェは置いておいて…二人合わせて全てのクランとはファイトしているのか……」

 

「二人合わせても意味無いよ……」

 

単クラン構築が出来ても、ぬばたま辺りはなかなか巡り会うことが無い。

地域にもよるだろうが、やはりよく使われているクランとそうでないクランというのはあるだろう。

 

ブースターの収録に偏りがあるからね……

 

 

「……あれ?」

 

舞原クンが少し首を傾げる。

 

 

 

「……お二人は…“ジェネシス”とのファイト経験は?」

 

「……あ」「?」

 

ジェネシス…神聖国家、ユナイテッドサンクチュアリのクランの中では最も新しいクラン…

 

特色は…ソウルチャージから多種多様な動きができる点だったっけ……

 

 

 

「「……ファイトしたこと無い…」」

 

 

 

 

この時の私は知るよしも無かった……

 

もうすぐ私の目の前に、その“ジェネシス”が立ちはだかることになるなんて……

 

そして、新しい戦いが始まるなんて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ちょっとごめん」

 

私の“次回への引き”を台無しにするように青葉クンが立ち上がる。

 

そのまま教室の外に出ていってしまった。

 

 

 

「(何なんだよ委員長…手招きして)」

 

「(ヒ、ヒカリ様…を呼びなさい…次出番だから)」

 

「(……直接言えよ)」

 

「(はっ!?私に死ねと!?彼女を見つめてのたうち回れと!?)」

 

 

「…やってらんねぇ」

 

 

 

青葉クンと委員長の広瀬さんが何かを話している……あ、そっか。

 

「今日って体育大会だっけ…」

 

「忘れてたな」

 

「全くっすね」

 

 

そして私はそろそろ私のエントリーした競技の時間だということに気がついた。

 

「そろそろ行かなきゃ……」

 

立ち上がり、教室の外へ向かう。

 

「じゃ、お開きっすね」「そうだな」

 

学校生活はまだまだうまくはいかないけれど、それでも…もう半年が経った。

 

私は廊下を進む。

 

 

 

「……さて、ひと暴れしますか…」

 

 

 

私は私の道を…進んでいく。

ここから私も…スタンドアップだよ!!

 

 

 

 

 




前回の54話“明日へ続く道”の後書きにて54.5話“宵闇ポイズンパーティー”を追記しました、よければそちらも見ていただけると嬉しいです。

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