君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

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062 ノルンと呼ばれた三人

ギアースシステムが動き出す。

 

 

「一体…何が……?」

 

 

カグヤさんに話を聞きたかった私は、その様子を黙って見ているしかなかった。

 

 

カグヤさんがデッキをギアーステーブルに置く。

そして向かいのテーブルに対戦相手が現れた。

 

オレンジ色のパーカーを着た、金髪の…少年。

 

「……神沢クン…?」

 

 

神沢クンが私の存在に気づく。

 

 

「先輩か…」

 

「どうして…ここに……?」

 

「呼ばれたのさ…あの人にな」

 

そう言って神沢クンが指差したのは…“カグヤさん”の方では無かった。

 

その指は真っ直ぐ、スタジアムの上方…VIPルームらしき場所でワインを飲む女性に向けられていた。

 

 

「美空…ツキノ…………」

 

「何でも…この人と戦わせたいらしいな」

 

「…………」

 

 

私はカグヤさんを見る。

 

彼女は感情を殺したように黙っていた。

 

 

「神沢クン…この人…カグヤさんは……」

 

「知っている…ウルドだって言うんだろ?…見てたからな」

 

「…………うん」

 

 

二人はFVをセットし、手札を揃える。

 

「……勝算は…?」

 

「そんなこと、戦う前から考えるな…ただ」

 

 

神沢クンの額を汗が一筋…垂れる。

 

 

 

「対策は無い」

 

 

 

神沢クンの手札……手札交換を終えた、その中身が私にも見える。

 

 

青き炎の解放者 プロミネンスコア(G3)

 

青き炎の解放者 プロミネンスコア(G3)

 

青き炎の解放者 プロミネンスグレア(G3)

 

青き炎の解放者 プロミネンスグレア(G3)

 

青き炎の解放者 プロミネンスグレア(G3)

 

 

私はカグヤさんの方を見る…その足元のパネルは青く発光し、能力の発動を示していた。

 

私は残されていたパイプ椅子に座る。

 

このファイトを…見届けるために。

 

 

「……参りましょう」

 

「ああ」

 

 

エキシビションマッチ…第5戦。

 

ウルドvsスクルド……

 

観客は…私と美空ツキノ社長のみ……

 

 

 

「スタンドアップ…ヴァンガード。」

「スタンドアップ・my・ヴァンガード!!」

 

 

 

ギアースシステムが二人のファーストヴァンガードを映し出す。

 

神沢クンは私と戦っていた時から変わらず、ころながる・解放者……

 

カグヤさんは…二十日鼠の魔女…コロハ。

 

先行は…カグヤさんに設定されていた。

 

 

「祓いの神器 シャイニー・エンジェルにライド…コロハをリアへ…そしてターンエンド」

 

「……俺のターン…ドロー…」

 

神沢クンが自分のドローしたカードを見つめる。

 

神沢クンの足元は黄金に発光している…神沢クンの能力は常に発動するタイプ…その輝きは消えない。

 

だけど、神沢クンの能力では……カグヤさんの能力に抗えない。

 

 

「ころながる・解放者でアタックだ」

 

「ノーガード」

 

 

もふもふしたころながるはシャイニー・エンジェルに体当たりを食らわせる。

 

ころながるのパワーは5000…シャイニー・エンジェルは7000……トリガーが無ければアタックは通らない。

 

「ドライブチェック……ドロートリガーだ」

 

 

ころながるのアタックはシャイニー・エンジェルにダメージを与えた。

カグヤさんのダメージゾーンにヒールトリガーである慈悲の神器 エイルが落ちた。

 

そして神沢クンのターンが終わる。

 

 

グレード1にライド出来なかった……そのことが後にどれだけ響くか……

 

「私のターン…ドロー…そしてライド、運命の神器 ノルン……ブーストし、アタック」

 

<13000>

 

「……希望の解放者 エポナ、解放者 ラッキー・チャーミーでガード」

 

 

完全ガードだ…

 

そう言えば、神沢クンにはカグヤさんのデッキの中身は分かるんだろうか……いや…分からないか。

 

カグヤさんはデッキとの強力な“つながり”を持っている…他人にそのつながりを邪魔されることは無いだろう。

 

 

「ドライブチェック…ドロートリガー……ターンエンド」

 

 

黙々とファイトが進む。

 

 

「俺のターン…スタンドとドロー……行くぞ、光陣の解放者 エルドルにライド!!」

 

青き炎を纏った少年がころながるの前に現れる。

 

先程の攻撃を神沢クンがガードをした理由はこれであろう……折角のグレード1…完全ガードであれ見逃すわけにはいかない。

 

 

「ころながるはリアにコール…ブーストしてエルドルでアタック!!」

 

<11000>

 

 

エルドルがその手から青き炎を放つ……放たれた炎はノルンを囲み、焼き付くそうとしていた。

 

カグヤさんが1枚のカードを、ガーディアンにコールする。

 

 

「凍気の神器 スヴェル…クインテットウォール」

 

 

「「…!!」」

 

 

カグヤさんが山札から5枚のカードを…CB1と引き換えにガーディアンにコールする。

 

オレンジの魔女バレンシア(G1)が2体、鏡の神器 アクリス(醒)が2体…吉凶の神器 ロット・エンジェル(引)が1枚……

 

 

「ロット・エンジェルのスキルでソウルチャージ、そして更にシードルをガーディアンとしてコール…」

 

 

シードルはガーディアンに使われたカードを全てソウルへ運ぶカード……この流れ……

 

青葉クンの時と……同じだ。

 

 

「っ…ドライブチェック…クリティカルトリガー…ターンエンドだ」

 

「……私のターン…スタンドしドロー」

 

 

私も神沢クンも察しはついている。

 

次に何が来るのか…………

 

 

「解き放たれしは終焉をもたらす破滅の閃光…」

 

 

炎と冷気が混ざり合い、形を成していく。

 

 

 

「ライド、陰陽の神器 ネガ・ケイオポジシス」

 

 

 

炎と氷を操り…ジェネシスの中でも“最速”でスキルを発動できるグレード3……

 

 

ネガ・ケイオポジシス……

 

 

 

神沢クンのダメージはまだ0…ここからファイナルターンは無いと思うけど……

 

 

 

 

「……ケイオポジシスのスキル、ソウルブラスト6、パワー+10000、☆+1」

 

 

「ノルン、2体のアクリスのスキルで更にパワー+15000、2体のバレンシアのスキルでソウルチャージ4」

 

 

「ケイオポジシスのスキルでソウルブラスト6…パワー+10000、☆+1、ダメージ+1、ノルンのスキルでパワー+5000」

 

 

「ケイオポジシスをコール、CB1、ノルン、アクリス、アクリスをドロップからチャージ」

 

 

「シャイニー・エンジェルをコール、ノルン、スヴェル、スヴェルをドロップからチャージ」

 

 

「コロハをソウルへケイオポジシスにパワー+3000」

 

 

「シャイニー・エンジェルをコール、シャイニー、ヘメラ、エイルをドロップからチャージ」

 

「ケイオポジシスのスキル…ソウルブラスト6、パワー+10000、☆+1」

 

「ノルン2体アクリス2体によってパワー+20000」

 

「ケイオポジシスのスキル、ソウルブラスト6、更にパワー+100000、☆+1、ダメージ+1」

 

 

神沢クンと私はネガ・ケイオポジシスの単体のパワーを見て、愕然とする。

 

 

 

 

<94000☆5>

 

 

 

 

別の……カードゲーム?

 

 

 

「シャイニー・エンジェルのブースト……ネガ・ケイオポジシスでヴァンガードにアタック」

 

 

 

 

<110000☆5>

 

 

 

 

ケイオポジシスはその頭上に巨大なエネルギーの塊を造り出す。

 

その大きさ、輝きは青葉クンを下した時よりも増していた。

 

 

「何この……馬鹿みたいな威力…じ、じゅういちまん……!?」

 

 

「……ノーガード」

 

 

神沢クンが汗を垂らす。

 

 

この攻撃……クリティカルが1枚でも出てしまえばお仕舞いだ。

 

 

 

「…ドライブチェック…慈悲の神器 エイル、ゲット、ヒールトリガー…ダメージを回復、パワーはもう一体のケイオポジシスに」

 

 

この時点では神沢クンにダメージは無い…無慈悲にもカグヤさんのダメージは回復する。

 

 

「セカンドチェック…吉凶の神器 ロット・エンジェル……ゲット、ドロートリガー…」

 

クリティカルは捲れなかった…これなら、まだ神沢クンの敗北は決まらない。

 

 

ネガ・ケイオポジシスがそのエネルギー弾をエルドルへと飛ばす。

 

エルドルに着弾した瞬間、眩むような光が辺りを埋めつくし、私は神沢クンの姿を見失う。

 

 

……光が収まり、私の目が神沢クンを捉えた時、そのダメージゾーンには5枚のカードが置かれていた。

 

1点目から、

 

霊薬の解放者(治)

霊薬の解放者(治)

 

定めの解放者 アグロヴァル

 

解放者 ローフル・トランペッター

 

解放者 ラッキー・チャーミー(引)

 

 

……最初の2枚のヒールトリガーは発動していない。

 

その時点ではカグヤさんの方がダメージが多いからである。

 

「シャイニーのブースト、リアガードのケイオポジシスでヴァンガードにアタック」

 

<28000>

 

「エポナでガード」

 

「ターンエンド」

 

 

これでダメージはカグヤさんが2点……そして神沢クンは5点……

 

更に神沢クンはまだグレード1……

 

 

「神沢クン……」

 

「ふっ……先輩に心配されるなんて俺もまだまだだな」

 

「……格好つけてる場合じゃ無いよね…」

 

「…………」

 

神沢クンのターンが来る。

 

無事、解放者 ローフル・トランペッターにライドしたものの攻撃はガードされた上にソウルチャージされてしまう。

 

 

「私のターン…」

 

 

対するカグヤさんも前ターンの反動か、特にスキルを発動することなく、リアガードをコールすることもなく、アタックに入った。

 

 

「…プロミネンスコアをコストにエルドルで完全ガード!!」

 

ドライブチェックでクリティカルが捲れるものの、神沢クンはどうにか守りきる……そして。

 

 

「俺のターン……スタンドとドロー……」

 

 

 

神沢クンのターンが…始まる。

 

遂に…神沢クンはグレード3にたどり着いた。

 

 

「蒼く、青く、輝け!!」

 

 

神沢クンは叫び、ローフルは青き炎に包まれる。

 

「その火は決して消えず、その炎は竜に宿りて我が道を照らす!!」

 

 

 

青き炎の中から一瞬、青き炎の解放者 パーシヴァルの姿が見えた。

 

 

 

「ライド・my・ヴァンガード!!青き炎の解放者 プロミネンスグレア!!」

 

 

炎は形を変え、聖なる青き竜がここに誕生した。

 

 

「クリティカルを増やせるのは…そちらさんだけじゃない」

 

 

神沢クンはリアガードに解放者 ローフル・トランペッターをコールし、不適に笑った。

 

 

「煌めく極光の中で輝き続ける青き炎よ!!シークメイト!…我らに祝福を与えよ!!双闘!!」

 

定めの解放者 アグロヴァルがプロミネンスグレアと並び立つ。

 

プロミネンスグレアはアグロヴァルのフードを外し、アグロヴァルはその隠された蒼い瞳を露にする。

 

 

神沢クンはローフルのスキルを使い、疾駆の解放者 ヨセフスをスペリオルコールし…そのスキルで1枚ドローした。

 

恐らく…山札の微調整を兼ねているのだろう。

 

 

「グレアのスキル!!CB1と手札のグレアをドロップ…クリティカル+1、そしてグレアの攻撃にグレード1以上のガーディアンは使えなくなる!!」

 

ヴァンガードに置いてVのスタンドと肩を並べる強スキル…ガード制限……神沢クンはそれを発動させた。

 

それだけだとパワーが上がらず貧弱に見えるが、グレアの後ろにはころながる……山札からユニットがコールされる度にパワーが上がるユニットが置かれている。

 

「誓いの解放者 アグロヴァルをコール!CB1で…青き炎の解放者 プロミネンスコアを山札からスペリオルコール!!」

 

 

神沢クンはグレアのスキルを再起動…クリティカルを更に増やす。

 

「グレアのスキル!CB1でコアを退却!理力の解放者 ゾロンをコール!グレアのCB1とコアのドロップで☆+1、ゾロンをソウルに入れ…ゾロンをコール!!」

 

 

神沢クンは2枚目のゾロンのスキルを使わない…

 

ならきっと…神沢クンの欲しいカード…ドライブで引きたいカードがそこにあるのだろう。

 

この時点でころながるのパワーは17000まで上昇している。

 

リアガードもローフルとヨセフス、アグロヴァルとゾロン……と揃っており、攻撃の準備は万端であった。

 

 

「さぁ……ころながるのブーストしたグレアとアグロヴァルで……アタックだ!!」

 

 

<37000☆4、G1以上を手札からガーディアンとしてコール出来ない>

 

「これで…どうだ!?」

 

 

カグヤさんのダメージは2点……この攻撃が通れば神沢クンの勝利は確定したと言っていい。

 

 

神沢クンの合図に応じ、グレアは空を駆ける。

 

その青き炎を棚引かせて。

 

 

「……そうですね…」

 

 

グレアが生み出した炎はアグロヴァルの剣に宿っていく。

 

 

「エイルとエイル、クリア・エンジェルとロット・エンジェルでガード……でしょうか」

 

 

カグヤさんは手札からヒール、クリティカル、ドローのトリガーをガーディアンに選択した。

 

 

これでパワー46000……トリガー2枚貫通……

 

 

「……ドライブチェック…ヒールトリガーだ」

 

神沢クンのダメージが1点、回復する。

 

そして、神沢クンは……

 

 

そのパワーをリアガードのアグロヴァルへと与えた。

 

自身の山札のトップを知ることができる神沢クンが2枚貫通の場面でトリガーをリアに乗せたということは…

 

「…そして光陣の解放者 エルドルだ」

 

 

神沢クンの手にあったのはトリガーでは無く完全ガードだった。

 

 

プロミネンスグレアはガーディアン達を振り払い、アグロヴァルの道を作る。

 

ケイオポジシスに肉薄するアグロヴァルであったが、その剣は片手で止められてしまう。

 

その後の神沢クンの攻撃も…軽くいなされる。

 

ダメージは神沢クンがヒールのお陰で4点……カグヤさんがリアガードのアグロヴァルの攻撃を受けたことで3点……

 

神沢クンのリアガードはゴールドパラディンの展開力によって全て埋まり、カグヤさんはこのターン、リアガードのケイオポジシスを失った。

 

「ターンエンドだ」

 

「私のターン……スタンドしドロー…」

 

そして神沢クンに言い放つ。

 

 

 

「そろそろ…お仕舞いにしましょう」

 

 

 

カグヤさんは口上を述べ始める。

 

 

「解き放たれしは全てを滅する無慈悲なる力…」

 

 

フィールドに木々が生い茂り、空には満天の星が瞬き始める。

 

ネガ・ケイオポジシスの居たところには巨大な泉が出現していた。

 

 

「ライド、宇宙の神器 CEO ユグドラシル」

 

 

 

 

泉から姿を表す、高貴なる女神…その名はユグドラシル。

 

それがそのユニットの名前、それが、ジェネシスを統べるユニットの名前……

 

 

「ガード制限は…こちらにもありますから…シークメイト」

 

 

 

ユグドラシルの隣に…メイトがゆっくりと降り立つ…ここに来て初めて、ジェネシスのレギオンが姿を見せるのだ。

 

 

 

「花は咲き、海は割れ、星が産まれる……ユグドラシル、ノルン……双闘」

 

 

 

フィールドの空気が一変する……清浄だけど…何者の反撃も許さない静かなプレッシャー……

 

神沢クンも感じているようだった。

 

 

「真昼の神器 ヘメラをコール…スキルでドロップゾーンからノルン、ノルン、アクリスをソウルチャージ」

 

真昼の神器 ヘメラがその杖をくるくると回転させることで、ユグドラシルの回りにパワーが集まっていく。

 

ユグドラシルとカグヤさん……二人の蒼い瞳が真っ直ぐ、神沢クンの方へと向けられた。

 

「シャイニー・エンジェルのブースト、ユグドラシル…ノルンでヴァンガードにアタック…スキル発動、ソウルブラスト……6」

 

 

ユグドラシルの両手にエネルギーが溢れ出す。

 

「クリティカル+1、グレード1以上のカードは手札からガードに出せない…更に排出されたノルン2体とアクリスのスキル…ユグドラシルにパワー+15000」

 

ユグドラシルとノルン…二人が放つエネルギーはどんどんと周囲を緑化していく。

 

 

「そして……アタック」

 

 

<45000☆2、G1以上を手札からガーディアンとしてコール出来ない>

 

 

「…………ノーガード」

 

ユグドラシルから強烈な威力の光線が放たれる。

 

それをプロミネンスグレアはただ受け止めることしか出来ない。

 

更に、ドライブチェックによってクリティカルが付加される。

 

アグロヴァルの支えも空しく、グレアはじりじりと後退し、遂にはその光線に飲み込まれてしまった。

 

神沢クンのダメージゾーンにプロミネンスコアと定めの解放者 アグロヴァルが落ち、これで6ダメージ。

 

地に伏したプロミネンスグレアはパーシヴァルの姿になり、ゆっくりと消えていった。

 

 

「負け……か」

 

ギアースシステムが停止していく。

 

もうどこにもユニットの姿は無い。

 

 

「…神沢クン!…カグヤさん!」

 

私はギアースの中を突き進む。

 

 

「いやー…負けた……」

 

 

神沢クンは割りとすがすがしい顔をしていた。

 

 

 

「…………では、私はこれで」

 

「…待ってカグヤさん」

 

 

私は神沢クンとカグヤさんの丁度間に立っていた。

 

 

「一体…どうしてヴァンガードを?」

 

 

その言葉にカグヤさんは黙って…スタジアムのVIPルーム……美空社長の方を見つめる。

 

 

「これが…私が父と母のためにできることですから」

 

「……お母さん…?」

 

 

やはりと言うか…この二人は家族だったのか…えっと、でも……

 

 

「ヴァンガードが……嫌い……なのに?」

 

「ええ…嫌いなのに……です」

 

神沢クンが私の隣に立った。

 

 

「これほどまでに“全ての”ユニットに愛されながら嫌いとは…な」

 

……全て?

 

「関係ありません…逆にあなた方はヴァンガードが楽しいんですか?」

 

 

ずっと俯き加減だったカグヤさんが、こちらの方を向いて聞いた。

 

「「それは」」

 

「私とファイトして…楽しかったとでも言うんですか?」

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

その声は震えていた。

 

 

それは……その意味は……

 

 

 

「カグヤさ」「こんな所にいたんすか…」

 

 

突然、場に第4の人間が割り込む。

 

 

「……舞原クン」

 

「ちょっと遅いから来てみれば…これはこれは凄い組合せじゃないっすか…ベルダンディにスクルド(二代目)にウルド……僕の得物が大集合っすね…」

 

その目はいつもより……怖かった。

 

 

「ええ…素晴らしいでしょう…これも神の導き」

 

さらに5人目の人間……美空ツキノ社長がやって来る…もうカグヤさんとしっかり話すことが出来なさそうだ。

 

 

「極めし3人のファイター…ヴェルダンディ、スクルド、ウルド……あの時の雛はここまで大きく育ってくれました……」

 

「あんた…何者っすか…?」

 

 

舞原クンが美空社長を睨む。

 

 

「私こそ…神託によりラグナレクCSへと戦士達を導いた者…ノルンの映像をばらまき、ノルンに“名”を与えた存在…」

 

「な……あんたがっすか…」

 

「私のプライバシーを……全国レベルでばら蒔いた張本人…」

 

 

そう言った私に、カグヤさんが申し訳無さそうに囁く。

 

 

「……世界レベルです」

 

「ぇ…」

 

 

美空社長はその場でくるくると踊り出す…何だこの人。

 

 

「私のウルドを筆頭にノルンは強く、強く育ってくれました…これで私の計画も滞りなく進むというもの」

 

「……そのノルン…全て僕が倒すっすよ?」

 

 

 

私の肌を凍りつくような殺気が襲う……これは舞原クンが……?

 

 

 

「関係ありませんわ、既にノルンの役目は80パーセント終了……“泉の水”は既に注がれたわ」

 

「何?」

 

「……え?」

 

「…………」

 

「一体あんた…何をするつもりなんすか」

 

 

 

美空社長はくすくすと笑う……時々この人がカグヤさんの母親だなんて信じられなくなる……無邪気に微笑むその姿は高校生と偽ってもバレないだろう。

 

 

 

カグヤさんも同じだが、歳が分かりにくい……14歳かもしれないし35歳かもしれない……その雰囲気は歳という概念を感じさせないのだ。

 

 

 

ぽんっ、とカグヤさんが私の肩を叩く。

 

 

「ヒカリさん…私は21です」

 

「あ、はい」

 

 

 

美空社長は両手を広げ、天を仰ぐ。

 

 

「ギアースは時期に、全国、全世界へと普及していくでしょう…全てはそこから始まるのです…ふふ…あははははは…」

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

美空社長のその言葉通り……たったの一週間…新たなトライアルデッキ…覚醒の時空竜、明星の聖剣士…そしてブースター“時空超越”が発売される頃には、ギアースシステムは全国、全世界にある程度普及していた。

 

 

ヴァンガード大戦略発表会……

 

そこで行われたギアースシステムによるエキシビジョンマッチの宣伝効果は凄まじかったのである。

 

この日を境に“カードファイト!!ヴァンガード”というカードゲームは、一般人……非カードゲーマーの間でもその知名度を高めていった。

 

 

ギアースの全国設置に伴い、行われた遊び方説明会では多くのPRカードが配布される。

 

ウルドの切り札…陰陽の神器 ネガ・ケイオポジシス

 

ロイヤルパラディンのレギオンセット…4種2枚ずつ

 

Gユニット…ヒートエレメント マグムを2枚

 

そして希望者にはゴールドパラディンのハイビーストデッキ……

 

見事にクランがばらばらであったが、これらの無料配布は大盤振る舞いであった。

 

 

 

そして……

 

 

 

「行くぜ!メチャバトラー ハジマールのブーストしたメチャバトラー ザザンダーでアタック!!」

 

「だんてがるでガード!!」

 

 

世界のカードゲーム人口は数億人を超え…とは言い難いが、ヴァンガード…そしてギアースシステムは娯楽の一つとして人々の生活の中に溶け込んでいった。

 

 

まぁ…カードゲームに対する印象は大して変わってないから、“最近あのゲームやってる子よく見る”とか“あの立体映像で遊ぶゲームよ、奥様”とかその程度の知名度だけど……

 

 

 

 

 

全ては……美空月乃社長の思惑通りに進んでいくのだった。

 

 

 




次回予告……です。

三日月グランドスタジアムでの戦いから二週間…私はカグヤさんを探していた。

ーー「会ったとして…私は何がしたいんだろ…」


そして、天台坂高校では学校祭が始まる。


ーー「シーン3!!スタート!!」

ーー「私は粗悪品じゃない!!乱暴は止めて!!」


学校祭の中……私はカグヤさんとどう向き合うのか考え続ける。


ーー「だから…私はカードファイトをするよ」




第63話 少女の進む道

11月22日更新予定です……よろしくお願いします。

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