それは突然のことだ。
舞原クンが消えてしまった。
二日間の学校祭が終わり、更に二日……舞原クンの姿を見たものはいない。
天乃原さんが言うには…旅に出たらしい……けど、納得はいかない。
何か一言……あって良かったんじゃないか。
「全くだな」
「うん…」
青葉クンも残念そうにしている。
舞原クンと天乃原さんの二人がいたからこそ私はヴァンガードを続けていく気になれたのだから。
せめて何か礼を言わなくては…気が済まない。
だから、私は舞原クンを探す……カグヤさんの行方を探しながら。
* * * * *
「舞原……あ、銀髪の?」
「うん…」
放課後…私はカードショップアスタリアにいた。
理由はもちろん舞原クンとカグヤさんの捜索だ。
「見てませんね…その…カグヤさんについても」
「そう…ごめんね春風さん」
中々成果は上がらない…二人とも目立つ容姿をしている筈なのに、目撃情報が出てこないのだ。
「何かあったら連絡しますよ」
「あ、そうだ…私、携帯変えて番号も変わったんだ…教えておくね」
学祭の時の一件で完全に粉々になった私の携帯は復旧できなかったため、新たにスマートフォンを購入、新規契約したのだ。
「それじゃ…またね」
「お気を付けて、こっちでも情報集めて見ますよ!」
私はアスタリアを後にする。
ああ…エンちゃんにも新しい連絡先を教えておかなきゃな…
というか……青葉クンにも教えてないっけ……
そんなことを考えながら、私は次の目的地へ歩き出した。
すると…遠くから見慣れた金髪の少年が歩いてくる。
「……こんな所で何してるんだ?先輩」
「神沢クン…良いところに…」
ちょうど学校帰りらしき神沢クンにここまでの事情を説明する。
「舞原ジュリアン…へぇ…いなくなったのか」
「うん…それで探してるんだけど」
神沢クンは少しの間、考えると言った。
「悪いな、美空カグヤについても舞原ジュリアンについても俺は行方を知らない……ただ、舞原ジュリアンは探す必要あるのか?」
「…え?」
「先輩とウルドが以前会ったことがあって、ウルドの事情が聞きたいってのは…まぁ分かる…俺もリベンジはしたいしな」
「うん…」
「ただ、舞原ジュリアンは自分の都合で旅に出たって…天乃原チアキ…さんには言ったんだろ?わざわざそれを呼び止める必要があるのか?」
「いや…呼び止めるというか、せめて別れの言葉くらい言わせろよって感じで……ね」
私にとっては、舞原クンはチームシックザールへ私を導いてくれた先導者でもあるのだ。
黙ってさよならというのは気が引ける。
「向こうは黙って別れたかったのかも知れないけどな…まぁこちらでも情報は集めてみる」
「ありがとう、神沢クン……そうだ、連絡先…教えて…」
私と神沢クンは携帯の番号を交換すると、別れた。
既に空は紅く染まり始めていたが、私は情報収集を続けることにした。
カードマニアックスや、カードレインボーといった周辺のカードショップにも聞き込みを行うが良い成果は出ない。
「カグヤさんは…お金持ちだから情報操作は容易だし、舞原クンに関してはもう日本にいないかも知れないんだよね…」
電車に揺られながら考える。
そもそも私としては舞原クンに対して果たさなければならないことがあるのだ。
出来ればもう一度会いたい所だけど…
私は電車から外の風景を眺める。
町のあちこちで、ギアースを使ったファイトが行われていた。
ここから見えるだけでも、ダイカイザー、ガルモール、タケミカヅチ…様々なヴァンガードユニットが激闘を繰り広げている。
「本当に…普及したなぁ……」
すっかりギアースシステムは町の風景に溶け込んでいる。
ほんの数週間でこれ程までに普及するとは…これも三日月グループの成せる技なのか。
「……あれ?」
ぼんやりと電車の外を眺めていた私は見覚えのある影を見つけた。
「…………カグヤさん…!?」
ゆっくりと遠ざかって行くが、カグヤさんだ、カグヤさんが大手ハンバーガーチェーン店 エムドナルドバーガーから出てきたのだ。
そういう所…行くんだ……ってそうじゃない。
急いで戻りたかったが、電車は急には止まらない。
カグヤさんはカグヤさんですぐに黒塗りのリムジンに乗ってどこかへ行ってしまった。
「…こういうのを骨折り損……私にあの人を見つけること…出来るのかな…?」
どっと疲れが出る。
どうせあのハンバーガーショップに話を聞きに行った所で、せいぜい綺麗な人だった程度の情報しか手に入らないだろう。
近い内にまたやって来るとも考えにくい。
「…………はぁ…」
* * * * *
「綺麗な人でした!ここに来るのは初めてだと思いますよ!そんなことよりポテトは如何ですか!!」
「あー…ごめんなさい…」
私はエムドナルドバーガーを後にする。
やっぱ駄目じゃないか!!!
泣いても叫んでも会えない人には会えない。
辺りもほの暗い…そろそろ家に帰るべきだろう。
私は再び電車に乗り、天台坂の町を目指す。
「はぁ……」
今日だけでかなり電車賃を使ってしまった。
携帯の代金は後々のためにとってあった貯金を崩したとはいえ、今月は少し散財か…?
散財…カードゲーマーの標準装備のスキルかな。
「…気を付けなきゃ…なぁ……」
私が天台坂の町まで帰って来たときには時刻は7時。
11月も近くまで迫っており、すっかり周囲は真っ暗であった。
私は天台坂駅から商店街を歩いていく。
暗いとは言えまだ7時…商店街の中はそれなりに人がいた。
そんな商店街の脇道を通り、住宅街まで歩く。
もうすぐ家に着くかというところで、スマホに着信が入った。
「…神沢クンからメール?……前を見ろ?」
私はスマホから視線を目の前に移す。
「………あ」
そこにいたのは…見慣れた銀髪の青年。
「僕を探してたんすか?」
「……舞原クン…」
「神沢ラシンから…聞いたっすよ……まったく…今日はこの辺りに来る予定無かったんすからね?」
探していた……人間が、そこにいた。
「………舞原クン、私とファイト…しない?」
「……それは…願ったり叶ったりっすけど…」
私は舞原クンを連れ、住宅街の空き地に向かう。
「別に舞原クンがどこに行こうと、関係ないんだけどね…お礼だけは言っとかないとと思って」
「……お、お礼参り?」
「違うよ!?」
暗くて舞原クンの表情が分からないが若干声が震えている……ちょっと待って、いつから彼の中で私はそんなキャラに……いや、今そんなことはどうでも…いい。
「私をチームシックザールへ導いてくれたから」
「あれは…全部お嬢の差し金っすよ?」
「でも…最初から私がベルダンディかもって見当はあった……違う?」
舞原クンの言葉がしばらく止まる……
「……バレてたっすか」
「そうでないと…わざわざ舞原クンが私とファイトした意味が分からなかったからね……と、なると私のことに興味を持ったのは天乃原さんよりも舞原クンってことになる」
現に天乃原さんは私よりも前にユズキに直談判していた。
そう…私の勧誘の時は行動派の天乃原さんよりも先に舞原クンが動いていたのだ。
「いやいや、お嬢も気になってたみたいっすよ…一年に神格化されてる女子がいるって」
「私……そんなに有名なの…?」
私たちは空き地に辿り着く……いや、正確にはもう空き地では無い。
その場所にはギアースシステムが置かれていた。
「それで…何でお礼がファイト何すか?」
「私に勝ちたい……そうだよね」
「……勝たせてくれるんすか?」
「私がそんなファイト……すると思う?」
私はギアースシステムを起動させる。
カグヤさんとのファイトで使用した端末と違い、実際に普及されたシステムは“インカム”を必要としていなかった。
ギアーステーブル自体にマイクや脳波センサーが内蔵されている。
住宅街ということもあって、マイクの音量は小さめだが、ファイトに支障は無い。
「さぁ……今度こそ勝敗をつけよう、舞原クン」
これまで…舞原クンとはたった二回しかファイトをしていない。
そしてその二回ともファイトは途中で中断されている。
私も…舞原クンもこれでは心残りだ……
だからこそ……このファイトを舞原クンへの礼と餞別にさせてもらう。
「は……はは……」
舞原クンが嬉しそうに笑いながらデッキを取り出す。
「いいんすか……僕……勝っちゃうっすよ?」
「……それは…どうだろうね」
私たちはデッキをセットし……手札を揃える。
ギアースシステムによってランダムに先攻後攻が決められた…私は後攻だ。
「だけどその心遣い……感謝させてもらうっす!!」
夜の住宅街で二人のファイターが激突する。
「スタンドアップ・THE・ヴァンガード!!」
「スタンドアップ!ヴァンガード!!」
ギアースシステムの発光と共に、暗くて見えなかった舞原クンの姿がはっきりと見える。
「……え?」
その容姿は普段と違う……いや最大の特徴である銀髪は変わらない。
だがその肌は…普段とは比べ物にならない位、真っ白でまるで新雪のようだった。
そして瞳……碧色だと思っていたその瞳は淡いピンク色をしている。
光の加減なんかじゃない…確かに普段の舞原クンとは肌も瞳も色が違う……
私がこんなことを言うのは……変だけど……
…………美しい。
「…………」
「どうか……したっすか?」
「舞原クン……その姿……ううん…何でもない」
……今はこのファイトに全力を注ぐだけだ。
「さぁ……ファイトの始まりっすよ…」
「うん…!」
私のFVは変わらずジャッジバウ・撃退者。
そして舞原クンは……
「ロイヤルパラディン…FVの名は閃きの騎士 ミーリウスっす」
「舞原クンの…ロイヤルパラディン……」
…最新のカードを使っているのかな…注意した方がいい…よね。
「では、僕のターン…ドロー!そして宝石騎士 さばるみーにライドっす!!」
先駆のスキルによってミーリウスはヴァンガードの後ろにコールされる…舞原クンはここでターンエンドを宣言した。
そして舞原クンがライドした宝石騎士 さばるみー…ロイヤルパラディンのLB解除ユニットが入っているということは、舞原クンのデッキには当然リミットブレイクを持ったカードが入っている…ということか。
「……私のターン…ドロー……鋭峰の撃退者 シャドウランサーにライド!ジャッジバウは後ろへ!!」
私の目の前にもシャドウランサーが現れたようだが、夜の町にシャドウパラディンのユニットは保護色になっている……見にくい。
「シャドウランサー…ジャッジバウのブーストでアタック!!」
「ノーガードっす」
「ドライブチェック…撃退者 エアレイド・ドラゴン!ゲットクリティカル!!」
シャドウランサーの攻撃がさばるみーに当たったようだ。
舞原クンのダメージゾーンにシェリーと宝石騎士のクリティカルトリガーが落とされる。
私はそれを自身のモニターから確認する。
「ターンエンドだよ」
「なら…僕のターンっすね」
夜の町に合わせたのか、ギアースの光量が少し上がった……お陰で私のユニット達の姿もよく見える。
「ライド!スターライト・ヴァイオリニスト!!」
…見覚えのないユニット…これも新しいユニットか。
「スキル発動…CB1、SB1!!」
茶髪の青年がそのヴァイオリンを奏でる。
すると、彼の隣に1体のハイビーストが現れた。
「スペリオルコール!!宝石騎士 そーどみー!!」
白虎……だろうか。
鎧を纏ったハイビーストは力強く吠える。
「さらにスキル発動!宝石騎士のエスペシャルカウンターブラスト1っす!!山札から宝石騎士 さばるみーをスペリオルコール!!」
「手札の消費無しに……2体ユニットをコールね…」
「更にナイト・オブ・ツインソードをコール!」
舞原クンが波状攻撃を仕掛けてくる。
最初のツインソードを手札のマスカレードでガードし、残りの攻撃を受ける。
幸いトリガーは出ず、私のダメージゾーンには2枚の詭計の撃退者 マナが並ぶ。
「ターンエンド…どうっすか?新しいロイヤルパラディンは」
「……なかなか…でも私もやられっぱなしじゃないよ!スタンドandドロー!!ブラスター・ダーク・撃退者にライド!!」
漆黒の騎士が天台坂の町に降り立つ。
「更にブラスター・ダーク・撃退者“Abyss”コール……スキル発動!CB1でミーリウスを退却!」
ダークがその剣で衝撃波を作り、遠くにいるミーリウスまで攻撃を当てる。
「行くよ……ジャッジバウのブーストしたダーク・撃退者!ヴァンガードにアタック!!」
「ノーガード…」
ドライブトリガーは無し、ダメージトリガーも出なかった。
「ダークAbyssで……ヴァンガードにアタック!!」
「それもノーガードっす」
ダークAbyssの剣はヴァイオリニストを貫く。
「ダメージチェック…熱意の騎士 ポリー…ヒールトリガーっす」
舞原クンに与えたダメージが回復される…
「……ターンエンド」
ここまでで私のダメージは2点、舞原クンは3点…油断はできない……
「僕のターン…スタンド、ドロー……」
スターライト・ヴァイオリニストを突如発生した黒輪が縛り上げていく。
やがて真っ黒になったその影から現れたのは…
「悪意の闇が、光を覆う……ライド!!哀哭の宝石騎士 アシュレイ“Я”!!!」
以前天乃原さんも使っていた宝石騎士……アシュレイЯ……
「さばるみーのスキルでリミットブレイク解除…オーバーリミッツ!!」
さばるみーが強く高らかに雄叫びをあげる。
アシュレイЯも同時にその深紅の剣を掲げた。
……アシュレイЯの背中の黒輪がその大きさを増す。
「そして…アシュレイЯのオーバーリミッツ!!CB1…さばるみーを呪縛!!…深紅の剣の前に消えろ!!ブラスター・ダーク・撃退者“Abyss”を退却!!」
ダークAbyssに距離を詰めたアシュレイЯがその剣を振るう。
ダークAbyssもまた、自身の剣でそれに答えるが……
アシュレイЯはその剣…ブラスターごとダークを切り払った。
「ダーク……」
「更にこのスキルによって山札からナイト・オブ・ツインソードの後ろにさばるみーをスペリオルコールする…これがアシュレイЯのジュエルソード・ノワールっすよ!!」
自身の盤面を整え、相手の盤面に干渉する……ロイヤルパラディンの展開とブラスター・ブレードの退却を組み合わせたスキル……だよね。
「アシュレイЯの後ろに必中の宝石騎士 シェリーをコール……シェリーのブーストしたアシュレイЯでヴァンガードにアタックっす!!」
<18000>
「っ…ノーガード!!」
「ツインドライブ……まぁるがる…ゲット、ドロートリガー!パワーはそーどみーに!…そしてもう一枚……ドロートリガー!!パワーはツインソードへ!」
アシュレイЯの振るう剣がダークを吹き飛ばす。
3点目のダメージ……ファントムAbyssが落とされる。
「そーどみーでヴァンガードにアタック!」
<14000>
「……ノーガード」
ダメージゾーンに暗黒医術の撃退者が落とされる……ヒールトリガーが発動し、ダメージを回復……ダークにパワーを与えることができた。
「さばるみーのブースト…ツインソードでヴァンガードに!!」
<21000>
「ノーガード!!」
ツインソードと切り結ぶダーク…背後からやって来たさばるみーの攻撃が頬を掠める。
ダメージは氷結の撃退者…ドロートリガーだった。
「ターンエンドっす」
舞原クンの呪縛されていたさばるみーが解呪される。
「……私のターン」
これで私のダメージは4点、舞原クンが3点。
舞原クンはグレード3のアシュレイЯにライドしている…ということは“あれ”が使えるということだ。
「スタンドandドロー…参る!世界の優しさと痛みを知る漆黒の騎士よ!我らを導く先導者となれ!!」
ダークが瞳を閉じて微笑む…背後からやって来るその騎士に後は任せると言うように。
「ライド・THE・ヴァンガード!!幽幻の撃退者 モルドレッド・ファントム!!!」
モルドレッドの登場と入れ替わるように、今までVとして戦っていたダークが消えていく。
だが……それで終わりではない。
「ジェネレーションゾーン……解放!!」
私は手札のモルドレッドをコストに…未来への扉を開く。
「世界を導く救世の光…それは永久の調和と無限の再生!!ストライド・THE・ヴァンガード!!」
あえてストライドジェネレーションとは言わずに、そのカードを目覚めさせる。
モルドレッドに宿った光が……形を変えていった。
「ハーモニクス・メサイア!!」
パワー27000…ハーツとしてモルドレッドの名前を継いでいる。
「超越…いいっすね…望むところっすよ……」
「…手札から督戦の撃退者 ドリン、ブラスター・ダーク・撃退者をコール……ダークのスキルでナイト・オブ・ツインソードを退却!!」
ダークの剣で、ツインソードは地に伏す。
ドリンのスキルと合わせることで消費CBは1だ。
私は更にブラスター・ダーク・撃退者“Abyss”をコールする。
「ジャッジバウのブースト…ハーモニクス・メサイアでヴァンガードにアタック!!」
「完全ガード……っす」
そう言って舞原クンが使ったのはホーリーナイト・ガーディアンというカードだった。
「コストにホーリーナイト・ガーディアン……スキル発動、ドロップゾーンに同名カードがある時……カウンターチャージ1」
「カウンターチャージできる……守護者!?」
まさか……そんなカードが出ていたなんて……
舞原クンは自身のダメージゾーンから裏向きになっていた宝石騎士 ノーブル・スティンガーを表にする。
「……っ!トリプルドライブチェック!!」
私は二枚のヒールトリガーとファントム・ブラスター“Abyss”を引くことができた。
4点から2点…ダメージが一気に回復する。
「ダークAbyssでそーどみーにアタック!!」
<9000>
「ノーガード…っす」
そーどみーは退却される。
「ドリンのブーストした、ブラスター・ダークでヴァンガードにアタック!!」
<26000>
「……ノーガードっす」
舞原クンのダメージにアシュレイЯが落ち、私はターンエンドを宣言した。
ダメージは私が2点であるのに対して舞原クンは4点…私の方が……優勢か。
「さて……僕のターンっすね……スタンド、ドロー……ジェネレーションゾーン…解放」
舞原クンが手札からアシュレイЯをドロップする。
「刃の先に剣あり……その剣で未来をぶち壊せ!!ストライドジェネレーション!!」
空に浮かぶ本物の月とは別に……ギアースシステムが夜空に月を浮かべる……
その月を背にして、馬を駆る一人の騎士が現れた。
「朧の聖騎士 ガブレード!!」
今までヴァンガードとして戦っていたアシュレイЯはガブレードと同じ馬に乗せてもらっていた。
武器を収め、ガブレードの背中で大人しくするアシュレイЯは可愛らしい。
これが…ロイヤルパラディンのGユニット…
「シェリーのブーストしたガブレードでアタック!」
<33000>
「……ノーガード」
ダメージに余裕がある……完全ガードが無い今…無理にガードするよりは……
「トリプルドライブ!!ドロートリガー!さばるみーに!クリティカルトリガー!☆はV、パワーはさばるみー!クリティカルトリガー!同じく!!」
「なっ…」
ガブレードの攻撃によってモルドレッドは地面に叩きつけられる。
そして私のダメージゾーンにはマクリール、ドロートリガー、ダーク・撃退者“Abyss”が叩きつけられて行く。
「油断は厳禁っすよ……Gユニットならどのユニットでも相手を2点から倒せる可能性はあるんすから」
「……ははっ……覚えておくよ」
私の額に汗が滲む。
なるほど……それがGユニットか……
「ガブレードのスキル発動!!スターライト・ヴァイオリニストをスペリオルコール!!更にスキル発動!ナイト・オブ・ツインソードをスペリオルコール!」
一気に前列が揃っていく。
「くっ……」
「さばるみーのブーストしたヴァイオリニストでヴァンガードにアタック!!」
<20000>
「ダークでインターセプト!!」
ドロートリガーのお蔭で少しはシールドを節約できる……か?
「さばるみーのブースト、ツインソードでヴァンガードにアタック!!ツインソードのジェネレーションブレイク発動!!CB1でそーどみーをスペリオルコール、更にそーどみーのスキルでシェリーをスペリオルコールするっす!!」
<21000>
「暗黒医術の撃退者でガード!!」
「シェリーのブーストしたそーどみーでヴァンガードにアタック!!」
<16000>
「ダークでインターセプト!!」
……凌ぎきった。
「残念…仕留め損なったっすね……ターンエンド」
「怖いこと…言うね……私のターン!!スタンドandドロー!!」
舞原クンの攻撃によって私のダメージは一気に5点まで入ってしまった……
だけど、まだ…!!
「真なる奈落で影と影…深淵で見た魂の光が彼らを繋ぎ、強くする!!ブレイクライドレギオン!! 」
CB1でヴァンガードにパワー+10000、山札から最後のブラスター・ダーク・撃退者をパワー+5000した状態でスペリオルコールし、ドリンのカウンターチャージによってブレイクライドのコストを相殺する。
「撃退者 ファントム・ブラスター“Abyss”そしてブラスター・ダーク・撃退者“Abyss”!!」
私の……エースカードで舞原クンを倒す!!
「ははっ……もっとだ…もっと来い!!」
「言われずとも……撃退者 ダークボンド・トランペッターをコール、スキルで魁の撃退者 クローダスをレストでスペリオルコール!!」
リアガードサークルが全て埋まる……だったんとクローダスの列はアタックできる程のパワーが無いけど…構わない!!
「飛べ……奈落竜よ…その剣で我らに勝利をもたらせ!!ヴァンガードにアタック!!」
<37000>
ファントム・ブラスター“Abyss”はダーク・撃退者“Abyss”を自身の背中に乗せるとアシュレイЯに向かって真っ直ぐ飛んでいく。
「ホーリーナイト・ガーディアンで完全ガード…カウンターチャージっす」
コストに使われたのはドロートリガー……
金髪の女性が現れ、アシュレイЯの回りに防護用の魔方陣を展開していく。
「ドライブチェック…first、暗黒の撃退者 マクリール……second、厳格なる撃退者、クリティカルトリガー!!効果は全てAbyssに!!」
Abyssの攻撃は展開された魔方陣に阻まれるものの、ここで倒れる奈落竜じゃない。
「レギオンスキル発動……CB2、だったん、クローダス、ジャッジバウ!!私に力を!!」
3体のユニットは光になって、私の右手に集う。
「Abyssに果ては無い……立ち上がれ!!エターナルアビス!!……もう一度ヴァンガードにアタック!!」
私の右手から放たれた光は“Abyss”に力を与える…スタンドしたAbyssによる再攻撃……届いて…!
<37000☆2>
「もう一度完全ガード、カウンターチャージ」
「……っ!ドライブチェック…first、マクリール…second……氷結の撃退者!!ドロートリガー!ドローしてパワーはリアガードのダーク!!そして……ヴァンガードにアタック!!」
ドリンのブーストを受けたダークを……私はアシュレイЯへと向かわせる。
「ノーガード」
ダークの剣を受け、悲鳴をあげるアシュレイЯ……
ダメージゾーンに落ちたカードはヒールトリガー……だがダメージの回復はしない。
「……ターンエンド…強いね」
「どうもっす…でも上から目線っすねぇ」
「ふふっ……そうかな?」
ダメージは5vs5…
手札の枚数も私が8枚……舞原クンは6枚…
舞原クンも、ロイヤルパラディンも強い。
だけどこのターンで……
舞原クンは全ての完全ガードを使いきった。
攻めるなら……ここしか無い。
「攻めるなら……ここしか無い……とか思ってそうっすね……」
「…………」
「なら僕は……その攻め手を吹き飛ばす」
空き地に強い風が吹き付ける。
ギアーステーブルのお蔭かカードが吹き飛ぶことは無かったが、舞原クンの髪は美しく流れた。
「スタンド、ドロー……そして」
舞原クンはにやりと笑う。
「真なる虚無で剣と剣…虚空で見た運命の呪いが彼らを縛り、強くする!!ライド!!」
私の口上の……パクり…!?
「…探索者 シングセイバー・ドラゴン!!そしてシークメイト!!ブラスター・ブレード・探索者………双闘!!」
ギアースシステムの影響か、その姿は私の知るシングセイバー達とは違っていた。
灰色の体に濁った瞳…かのファントム・ブラスターよりも危険な香りがする。
ブラスター・ブレードも黒輪こそ背負ってはいないものの、瞳も鎧に刻まれるラインも…赤く染まっており、まるでブラスター・ジョーカーだ。
だけど私はもう一つのことに気がついた…確かシングセイバーは……
「今…ソウルにはアシュレイЯしかいない…シングセイバーのスキルは……」
CB2、SB3…手札から2枚のドロップだった筈……このままなら発動……できない?
「そんな心配……している場合っすかねぇ……シェリーの上からまぁるがるをコール…ソウルに入れ、そーどみーの後ろのさばるみーにパワー+3000…そしてもう一度同じことを行うっす」
強引な手段…だが何の問題もなく、シングセイバーの翼は眩く輝き出す。
それはスキルの発動が可能であることを暗に示していた。
舞原クンはシングセイバーの後ろにシェリーをコールし、バトルフェイズを宣言する。
「そーどみーでリアガードのブラスター・ダークにアタック!!」
<9000>
「ノーガード……」
ダーク・撃退者は退却される。
「シングセイバーで…ファントム・ブラスターにアタック!!」
<22000>
「マクリールで完全ガード!!」
コストに氷結の撃退者をドロップする。
シングセイバーに乗り、勢いを乗せたブラスター・ブレードの剣をマクリールが力強く受け止める。
「ドライブチェック…必中の宝石騎士 シェリー、そしてアシュレイЯ……シングセイバーのレギオンスキル発動っす……」
舞原クンはCB2、SB3というコストを払い、手札からシェリーとアシュレイЯをドロップした。
「山札の中から……スペリオルライド!!探索者 シングセイバー・ドラゴン!!」
白銀の竜は白銀の青年の求めに応じ、その力を解放する。
「そして…ソウルメイトレギオン!!ソウルのブラスター・ブレード・探索者と共に行け!!シングセイバーで再びヴァンガードにアタック!!」
<29000>
今度は後列のシェリーもブーストに加わり、強力な攻撃を仕掛けて来る……けど!!
「もう一度お願い……マクリール!!」
マクリールの完全ガード……コストは督戦の撃退者 ドリンだ。
再び迫り来るシングセイバーとブラスター・ブレードの攻撃をマクリールはしっかりと抑え込む。
「……ツインドライブ…探索者 シングセイバー・ドラゴン……そして…宝石騎士 そーどみー……トリガー無しっす…………けど!!これはどうっすか!?さばるみーのブーストしたツインソードでアタック!!ジェネレーションブレイク発動!!CB1で山札からブラスター・ブレード・探索者をスペリオルコール!!」
<16000>
「厳格なる撃退者でガード!!」
私の手からどんどんカードが消えていく
「これで!!さばるみーのブーストしたブラスター・ブレード・探索者でアタック!!」
<16000>
「…………」
「僕は君を…君たちを倒すためにヴァンガードを…しているんだっ!!!」
純白の鎧を纏った騎士が、奈落竜に迫る。
その背中には一瞬黒輪が浮かぶ……これでは本当にブラスター・ジョーカーだ……
「僕は君を倒す…君を倒す…倒す!!」
「…………」
私は……
「…倒すっ!!!」
「……ガード」
ブラスター・ブレードの刃が奈落竜を切り裂こうとした瞬間……その攻撃を庇ったのは撃退者 エアレイド・ドラゴンだった。
ブラスター・ブレードの剣をしっかりと受け止めて、消滅した。
「……ターンエンドっすね」
「私のターン……」
このターン…舞原クンが一枚でもトリガーを引いていたのなら危険だった……それこそ…先に“力”を使ってしまわなければならない程に……
……だけど。
私は緋色の瞳で舞原クンを見つめる。
「見えたよ……ファイナルターン…」
「……っ」
ダメージは5vs5……
現時点で舞原クンの手札はほとんど判明している。
シールド値は合計35000前後……シークメイトで舞原クンは完全ガードを山札に戻していないため完全ガードは手札に確実に存在しない。
このシールド35000…+10000のインターセプトを突破することはレギオンユニットと今の私のリアガードによる二回の攻撃では例えダブルトリガーが発動したとしても不可能だ。
今、私の手札はヒールトリガーと前の私のターンにトリガーでドローした……ブラスター・ダーク・撃退者……そして次のドローカード…の3枚。
「スタンドand……ドロー」
私は“力”を使う……二回の連続使用には慣れないものの…一回のみの使用なら、大分扱えるようになった。
私の瞳を見て…舞原クンは叫ぶ。
「そうだ……それでいい……君の本気を!!僕に見せて見ろ!!それでなければ!!僕が君と戦う意味も理由も無いっ!!!」
「……そう」
私が引いたカードは撃退者 ファントム・ブラスター“Abyss”……
このユニットはレギオンしたターン中しか再スタンドすることが出来ない……だから再ライドのために“力”を使い……奈落竜を呼んだ。
そして、スキルを発動させるためにはリアガード3体を退却させなければならない。
今、私の盤面にはリアガード…督戦の撃退者 ドリンが1体……そして手札はファントム・ブラスター以外に2枚……ドリンのスキルによるCCも行えることを含めるとレギオンスキルは滞りなく発動する。
リアガードのダーク、ドリンの攻撃でパワー16000…最低シールド値は10000……
ヴァンガードによるパワー27000の攻撃…最低シールド値は20000……
そしてヴァンガードによる二回目の攻撃……最低パワー22000……最低シールド値は15000…
合計最低シールド値は45000……これでは足りてしまうように見えるが、ヴァンガードによる二回の攻撃を二回共1枚貫通のガードで切り抜けることが出来ると考えるのなら…更に補足を加えれば、私がトリガーを全く引かなければの話だ。
だが、それは無い……私はトリガーを引くからだ。
「私にはまだ…後一回力を使う余力が残っている……これが……私の見たファイナルターン……」
「僕がヒールトリガーを引きまくるって可能性も……考えて置くべきっすよ…」
「それでも……私は勝つ」
……行こう。
「ライド・THE・ヴァンガード……撃退者 ファントム・ブラスター“A……?」
突然、私のスマホが鳴り始める……こんな時に…メール……?
私は舞原クンに少し待ってもらい、メールの内容を確認する。
「え……?」
私はメールを何度も見返す。
「…………青葉クンが………事故で…?」
そこには意味不明な言葉が連なっていた。
「…………緊急入院?」