君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

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069 畏怖されし幻影

 

 

銀翼の勇者は神々しい輝きを放っていた。

 

 

 

「イーグルドライブ…インストール!!!」

 

 

 

ダイカイザーから全てのエネルギーを受け取ったゴーイーグルの背中から光の翼が出現する。

 

 

「この一撃……受けてみろ!!超次元ロボ ゴーイーグル!ファイナルアタック!!」

 

 

<28000☆4 グレード3のカードがドライブチェックで登場した時相手のガーディアンを1枚選び破壊、そのカードの“ヒットされない”を含む全ての効果を無効にする>

 

 

ラシンとミチヤのダメージは2vs5

 

 

(ダイカイザーのブレイクライドスキルで☆+1…ゴーイーグルはパワーが19000以上の時にスキルで☆+2か…だが……)

 

ゴーイーグルは後方に剣を構えると、空高く飛んでいった。

 

銀色の光を残しながら……

 

 

「ノーガード」

 

「……早い決断だな……諦めたというのか?」

 

「誰が諦めるか…この攻撃では俺は倒されない…既に決まっていることだ」

 

「ほう……面白い!!」

 

 

 

ゴーイーグルが天空からその剣を降り下ろす。

 

 

「白夜っ……断罪翔ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

虹色の光を帯びた剣は元の長さの何倍にもなっており、この世の全てを切り裂かんばかりの勢いでプロミネンスグレアを襲った。

 

「ドライブチェック……」

 

「超次元ロボ ダイカイザーと超次元ロボ ダイカイザー……だろ」

 

 

ラシンは天地ミチヤがドライブを確認する前に、そう言った。

 

 

「……その通りだ…」

実際に引いたカードを見て、天地ミチヤは驚いたように言う。

 

「俺のダメージは誓いのアグロヴァル、ヨセフス、エルドル……そしてヒールトリガー、聖木の解放者 エルキアだ」

 

 

神沢ラシンはそう言い終わってからダメージチェックを始める……内容はラシンの言った通りのものだ。

 

神沢ラシンのダメージはこれで5点……

 

ヒールトリガーをリアガードのアグロヴァルに与えたことで、ミチヤにはアタックさせる意味があるユニットは無くなった。

 

 

 

「まるで…トリガーが見えてたようだ……」

 

「…俺のターン……行くぞ」

 

 

ラシンは誓いの解放者 アグロヴァルをコールし、そのスキルで疾駆の解放者 ヨセフスをスペリオルコール。

 

グレアのスキルで誓いの解放者 アグロヴァルを退却させると、定めの解放者 アグロヴァルをスペリオルコールした。

 

それによって……グレアのレギオンスキル、ブルーノのスキルが誘発する。

 

パワー、クリティカル、ガード制限……強力なスキルが神沢ラシンを勝利へ導く。

 

 

 

「エクスプロージョンっ…ブルー!!」

 

<33000☆3 G1以上を手札からガードに使えない>

 

 

プロミネンスグレアは天を舞い、青き炎を解き放つ。

それは真っ直ぐ……ゴーイーグルに向かって飛んでいった。

 

天地ミチヤは降参するように手をあげると…一言。

 

「ノーガードだ」

 

 

ゴーイーグルは青き炎に包まれ……やがてツインアイの光が消えた。

 

 

「この勝負……私の負けだ…」

 

「ああ…」

 

ゆっくりとミチヤは溜め息をつき、デッキを片付けていった。

 

神沢ラシンと握手を交わした天地ミチヤは会場の外へと歩き出す。

 

それは戦いを終えた戦士の背中……

 

 

 

「私は…家に戻って寝る……それが自宅警備員としての使命だからな……」

 

「いや…就活…しろよ…………」

 

 

 

 

 

Bブロック勝者……神沢ラシン。

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

Cブロック…天海レイナvs城戸イヨ。

 

 

 

 

 

「も~何で展開してくれないかなぁ~ドライブチェック♪」

 

 

レイナの場にはヴァンガードとリアガードが一体ずつ……蒼嵐水将 ミハエル(11000)と蒼嵐候補生 アノス(5000)……

 

アノスは既にスタンド封じを受け…いわゆる亀甲縛りの状態だ。

 

それ以前にコールしたリアガードは全てインターセプトで使っている。

 

今、イヨはヴァンガードからヴァンガードへ攻撃をしてきたが、レイナはそれを完全ガードで防いでいた。

 

 

 

「……」

 

 

「マシニング・スコルピオ…クリティカルトリガーよ、効果はリアガードのマシニング・ホーネット mkⅡに与えるわ」

 

 

城戸イヨの場にはリアガードのマシニング・ホーネット mkⅡにその後ろのマシニング・ブラックソルジャー、FVのマシニング・リトルビー。

 

そして…Vには……

 

 

 

「そしてセカンドチェック……あは♪キちゃった…マシニング・タランチュラ mkⅡ……だからマシニング・タランチュラ mkⅡのレギオンスキル発動♪」

 

 

 

マシニング・タランチュラ mkⅡとマシニング・ホーネット mkⅡが存在していた。

 

 

「CB1……ミハエルくんを…緊縛(ボンテージ)♪」

 

ミハエルの回りを旋回するマシニング・ホーネット mkⅡから紐のようなものが発射され、ミハエルを縛り付けていく。

 

ミハエルは頬を紅く染め、息が荒くなり、完全に動けなくなってしまった。

 

 

「……っ」

 

 

ヴァンガードがスタンド出来ないことは、次のターンはヴァンガードによるアタックが出来ないことを表す。

 

だが、スタンド封じを成功させたイヨはレイナよりもイライラしていた。

 

 

 

「……もう、男はいいの!!女の子を縛りたいの!協力してよレイナちゃん!!」

 

 

「知るか!!」

 

 

「だってさっきの相手はたちかぜだったのよ!?恐竜とか縛ってどうするのよ!?食うの!?」

 

 

「知らないっつーの!!」

 

 

 

イヨは残りのリアガードでレイナにアタックする。

 

それをノーガードしたレイナのダメージゾーンにテトラバースト・ドラゴンと蒼嵐戦姫 クリスタ・エリザベスが落とされる……これでレイナとイヨのダメージは4vs4と並んだ。

 

「それ!!」

 

 

イヨはクリスタ・エリザベスを見て叫ぶ。

 

 

「そういう可愛い娘をください!!」

 

「…私のターン!!」

 

 

レイナの盤面にはミハエルとアノスしかいない……だがそのミハエルもアノスもスタンド封じされているため、レイナにはスタンドフェイズでスタンドさせるカードが無かった。

 

 

レイナはカードをドローしながら盤面を見回す。

 

 

Gゾーンには前のターンに使ったタイダルボアー・ドラゴンが表の状態で置かれていた。

つまり……ジェネレーションブレイクというスキルを持ったユニットが使える状況……ということだ。

 

 

 

「なら……再ライド!!嵐を呼ぶ蒼き風!!蒼嵐水将 ミハエル!!そして…シークメイト!!」

 

新たなブースター…風雅天翔で“蒼嵐”に追加された双闘……それがこの、

 

 

「烈風のごとく、戦士達は戦場を駆ける!!ミハエル、ミロス……双闘!!」

 

 

 

蒼嵐水将 ミハエルと蒼嵐水将ミロス…

 

レイナは更に、ここまで溜め込んだユニットをコールしていく。

 

「左列にタイダル・アサルト(9000)、蒼嵐兵 テンペスト・ボーダー(7000)……右列に旋風のブレイブ・シューター(7000)を2体コールだ」

 

 

一気に4体のユニットが並ぶ。

 

「お、女の子は!?縛っていい女の子は!?」

 

「無い」

 

 

更にレイナは亀甲縛りのアノスをソウルに送る……これでミハエルは四回目のアタック時に更なるスキルを得た。

 

そしてミハエルの後ろに3枚目の旋風のブレイブ・シューターをコールし、アタックに入る。

 

 

 

「“1”…タイダル・アサルトでヴァンガードに空打ちアタック!!」 <9000…ヒットしない>

 

 

タイダルの一撃はマシニング・タランチュラ mkIIに傷をつけることができなかった。

 

だが、タイダルは自身のスキルでスタンド…代わりにパワーが下がるものの、再びアタックをすることが可能になる。

 

 

 

 

「“2”…テンペスト・ボーダーのブーストしたタイダル・アサルトでヴァンガードにアタック!」 <11000>

 

 

「ノーガード…ダメージは……ああん、マシニング・ウォーシックルね……残念」

 

 

 

イヨの受けた5点目のダメージはトリガーでは無かった…ここでトリガーが出てしまうと、レイナの盤面はその力を最大限発揮できなかったため、レイナは心の中で安堵の溜め息をついた。

 

 

アタックを終えたタイダル・アサルトはテンペスト・ボーダーのスキルでV裏のブレイブ・シューターと交代される。

 

このブレイブ・シューターはジェネレーションブレイク1により、3回目の攻撃からコストを払うことでパワーを上げることができる。

 

 

 

「“3”…ブレイブ・シューターのアタック、GB1を発動しソウルブラスト1、パワー+5000!」 <12000>

 

「マシニング・ホーネット mkIIでインターセプト!」

 

 

ブレイブ・シューターの放ったブーメランはホーネットmkIIを破壊するものの、マシニング・タランチュラ mkⅡを捉えることはできなかった。

 

 

だが、アタック回数を稼げただけで充分だ…レイナはそう考えながら次の攻撃を……ミハエルの攻撃を宣言する。

 

なぜなら次は……4回目のアタックだ。

 

 

「“4”!!ミハエル、ミロスのアタック……4回目の攻撃によってアノスのスキル発動……CB1であんたのマシニング・リトルビーを退却し、私は1枚ドロー!!更に4回目の攻撃によってミハエルのスキルが発動する!!パワー+5000!」 <25000>

 

 

「そうね……ならマシニング・スコルピオ2枚でガード、トリガー2枚貫通よ♪」

 

 

ミハエルが2体のスコルピオを、二つの剣で切り払う…その間を縫ってタランチュラmkⅡに接近したミロスはホーネットmkⅡに阻まれた。

 

 

「……ツインドライブ…戦場の歌姫 マリカ、ドロートリガー!!右後列の旋風のブレイブ・シューターにパワーを与え、ドロー!……もう1枚は蒼嵐水将 ミハエルでトリガー無し!」

 

 

結局…タランチュラmkⅡに攻撃できなかったミハエル達は後退する。

 

だがこれは終わりではない、始まりだ。

 

 

「4回目のアタック終了時にミハエルのレギオンスキルが発動する!!ペルソナブラスト!!」

 

 

レイナは手札からメイトである蒼嵐水将 ミロスをドロップした。

 

 

「V裏のタイダル・アサルトと左前列の旋風のブレイブ・シューターを交代!!タイダル・アサルトとテンペスト・ボーダーをスタンド!!」

 

終わらない攻撃……それがアクアフォース。

 

 

「“5”…右前列のブレイブ・シューター……スキルでパワーを上げ、アタック!!」 <12000>

 

「…マシニング・タランチュラでガード」

 

 

「“6”…左列のタイダル、テンペスト・ボーダーでアタック!!」 <11000>

 

「マシニング・ローカストで…ガード!」

 

 

イヨの手札はみるみる内に削られていく。

 

余裕は…無くなっていった。

 

 

「テンペスト・ボーダーのスキルで右前列と右後列を交代!!“7”…スキルを発動したブレイブ・シューターでアタック!!」 <17000>

 

「……っ、マシニング・ボンビックスでガードよ!」

 

「ターンエンド」

 

このターン、イヨは手札5枚と、リアガード2体を失った……

 

ダメージは4vs5……

 

 

 

「私のターン…私はまだ、終わらないわ!!スタンド、ドロー……マシニング・アーマービートル(9000)をコール!!スキル発動!ブラックソルジャーをソウルに入れ、タイダル・アサルトくんを緊縛(ボンテージ)♪」

 

 

縛られたタイダル・アサルトが苦悶の表情を浮かべる。

 

 

「アーマービートルをもう1枚!!最初のアーマービートルを吸収してテンペスト・ボーダーくんを緊縛(ボンテージ)!…タランチュラmkⅡのスキルで前列のブレイブ・シューターくんを緊縛(ボンテージ)よ!!もう1回!その後ろの子も緊縛(ボンテージ)!!」

 

 

計4体…レイナの盤面は完全に動きを…ギミックを封じられた。

 

 

 

「ふふっ……ゾクゾクしちゃう………けど…」

 

 

 

息を荒くする4人は縄から抜け出そうとするが、上手くいかない…縄はどんどん4人をきつく、縛りつけていった。

 

 

 

「…どうして男ばっかりなのよ!!」

 

「……知らないから…」

 

 

 

レイナは溜め息をつく。

 

イヨもまた溜め息をついた。

 

 

 

「もういいわっ!!調教の時間よ!!マシニング・タランチュラmkⅡでレギオンアタック!!」 <20000>

 

「蒼嵐兵 ミサイル・トルーパー、戦場の歌姫 マリカでガード!」

<2枚貫通>

 

 

ドライブチェックで登場したのはドロートリガーとマシニング・ウォーシックル……ダメージが4点の私はこのターンで倒されることが無くなった。

 

 

「アーマービートル…!!」<14000>

 

「ノーガード…ダメージは蒼嵐水将 スターレス」

 

「もうっ……ターンエンド!!」

 

ダメージはレイナ、イヨ共に5点……

ターンはレイナに移る。

 

「そろそろ決める!!私の…ターン!!ミハエルと後ろのブレイブ・シューターをスタンド!そしてドロー!……そしてっ!!」

 

レイナは手札からミハエルをドロップする。

 

「荒れ狂う嵐の先に…目指す未来はそこにある!!ストライドジェネレーション!!!」

 

ミハエルとミロスを大きな嵐が包み込む…それはやがて形を変えて……

 

 

 

「天羅水将……ランブロス!!!」

 

 

現れたのは黒髪のアクアロイド……彼こそアクアフォース…いや今のヴァンガードでもトップクラスの能力を持ったGユニットだ。

残念ながら周りにいるのが縄で縛られ悶える男達であるため、格好いいようには見えない。

 

「更に私はこの2体をコールする」

 

「っ……」

 

 

レイナの数少ない手札から現れたのは……タイダル・アサルトとテンペスト・ボーダー…

 

それぞれ旋風のブレイブ・シューターを上書きしてコールされる。

 

「終わりの……始まりだ!!タイダルでヴァンガードにアタック……“1”!!」

 

 

タイダルのパワーは9000…11000のパワーを持つタランチュラ mkIIに攻撃は届かない。

 

 

「タイダルはスタンドし、テンペストのブーストで再びヴァンガードにアタック……“2”!!」

 

イヨはドロートリガーでこれをガードする。

 

 

「テンペストのスキルでタイダルとV裏のブレイブ・シューターを交代……スキルを発動したブレイブ・シューターでタランチュラmkⅡにアタック…“3”!!」

 

 

イヨは手札からマシニング・レッドソルジャーをガーディアンとしてコールする。

 

 

「そして“4”!!ランブロスのアタック!!Gペルソナブラスト!!」

 

 

レイナはGゾーンから裏向きのランブロスを表にする。

 

 

「前列のタイダル・アサルトと、旋風のブレイブ・シューターをスタンド!!Gゾーンに表のカードが2枚存在するため……スタンドした2体にパワー+10000!!」

 

 

ランブロスのアタックはパワー26000……イヨはこれをクインテットウォールでガードする。

 

その内容は…

 

マシニング・ボンビックス(治) 10000…(ガード値)

 

マシニング・ボンビックス(治) 10000

 

マシニング・ホーネット mkⅡ(G2) 5000

 

マシニング・シカーダ(醒) 10000

 

マシニング・ローカスト(G1) 5000

 

合計ガード値 40000

 

「完全に…ガードよ」

 

 

イヨの手札は残り1枚……

 

 

「トリプルドライブチェック…テトラバースト…ミロス……戦場の歌姫 マリカ!ドロートリガー!!」

 

ドロートリガーのパワーはタイダル・アサルトに与えられた。

 

 

「“5”旋風のブレイブ・シューターでアタック!!」

 

 

ランブロスがガーディアン達を吹き飛ばした隙に、ブレイブ・シューターが敵の懐に飛び込む。

 

 

 

そのパワーは17000…イヨは最後の手札…マシニング・レッドソルジャー…そしてリアガードのグレード2、マシニング・アーマービートルのインターセプトを合わせてこの攻撃を防ぐ。

 

「なら“6”タイダル・アサルトでアタック!!」

 

 

パワー24000…イヨに手札は無い。

 

 

タイダル・アサルトがタランチュラmkⅡに迫る。

 

 

「ノーガードっ…」

 

 

タイダルの攻撃はタランチュラmkⅡに命中…タランチュラmkIIのボディーが砕け散る。

 

「…………」

 

「…ダメージは…!!ヒールトリガー!ダメージを回復してパワーはVに与えるわ!」

 

 

 

機能停止したかに思われたタランチュラmkⅡは再機動し、タイダル・アサルトを吹き飛ばす。

 

 

「まだ……ここからよ!!」

 

 

「ダメージトリガー……乗ったか……だが」

 

 

ダメージトリガー…それもヒール……“今までの”アクアフォースならその力の前に攻撃は止まっていた……

 

 

だが、それは過去の話。

 

ランブロスは…アクアフォースを変えた。

 

 

 

「無駄だ!スタンドしたタイダルでもう一度アタック!!“7”!!」<19000>

 

 

ランブロスのスキルによって、スタンド時にパワーの下がるタイダル・アサルトに単体でアタック出来る力が宿っていた……おまけにトリガー付きだ。

 

 

手札の無いイヨに選択の余地は無い。

 

 

「女の子を縛れず……終わるなんてね……」

 

一度は持ちこたえたイヨのダメージゾーンにマシニング・タランチュラ mkⅡが落とされる。

 

これで6点目……

 

 

 

致命的なダメージを受けたタランチュラmkⅡとホーネットmkⅡは無惨にも……

 

 

 

 

爆散するのだった。

 

 

 

 

Cブロック勝者……天海レイナ。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「……ブラスター・ダーク・撃退者でヴァンガードにアタック」

 

「………………」

 

「ミツルクン……」

 

「……ノーガード」

 

 

ミツルクンのダメージゾーンにヴィーナス・ルキエが落とされる。

 

これが…6点目だ。

 

 

 

Aブロック勝者……深見ヒカリ。

 

 

「すごく……大味なファイトだったね…」

 

「……こちらこそごめん…結局グレード3に乗れなかった」

 

 

そう…この試合、ミツルクンはライド事故を起こしてしまった。

 

2度のGアシストも成功せず、最終的にドラグルーラーのミラージュストライクによって引導を渡すこととなった。

 

自分の性では無い……とはいえ、相手の事故は気持ちのいいものでは無い。

 

 

……カグヤさんはいつも……何だよね。

 

 

「今度は!次ファイトする時は君に格好いい所を見せるから!」

 

「うん、楽しみにしてるよ」

 

カードゲームで格好がつくかは置いておいて。

 

 

その時、会場にあの社長の声が響き渡った。

 

『どうやら……選ばれし四人が決まったようね…』

 

 

 

私は周囲を見渡す……会場内には4人以上の人間がいる。

 

 

四人の内……一人はカグヤさんだろう…だとすると、後の三人は……

 

……ちょうど、今もギアーステーブルにデッキを置いているのが3人だった。

 

 

 

私と……神沢クンと、天海さんだ。

 

 

『早速…この四人でファイトを……と言いたいのだけれど……実はとっておきのサプライズがあるの……ふふふふ』

 

 

 

妖しい笑い声……私は何となく嫌な予感がした。

 

そして……“それ”は始まった。

 

 

 

キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン

 

 

 

ギアースパネルが、ギアースパネルが……白く、白く……発光を始めた。

 

私のペンダントも同調するように発光する。

 

 

「……これは…何!?」

 

身構えている内に、発光は終わった。

 

 

『さぁ……始まりです……』

 

 

 

ギアースシステムにはもう変わった様子は無い。

 

そう……ギアースシステムには。

 

 

 

「あ……あああ…ああああああああ」

 

 

 

何故かはっきりと聞こえたその声は…冥加さんのものだった。

 

私は冥加さんの方を見る。

 

だが、そこにいたのは冥加さんだけでは無かった。

 

 

「……シャドウ……ブレイズ……」

 

 

 

黄金の鎧の黒龍……シャドウブレイズ・ドラゴン。

 

シャドウパラディン所属のユニットだ。

 

…でも…何故そこにいる?

 

そこにはギアースパネルが置かれているものの、今、ファイトしている人間は誰一人としていない。

 

 

 

なら……あれは……。

 

 

 

シャドウブレイズの体に青黒い炎が宿り始める……それは実際にそこにはいない……映像である筈だ。

 

 

でも、私は…私の唇は……あの炎の勢いが強くなっていくのを…………

 

 

感じ取っていた。

 

 

その瞬間、私は動き出した。

 

 

スカートを抑え、全力で冥加さんの元に走る……シャドウブレイズがその左手にエネルギーを集めている所を見た私は、スカートのことは忘れて冥加さんもろとも思いきり滑り込んだ。

 

冥加さんを巻き込んでスライディングをした私は、シャドウブレイズとの距離を取ることに成功した。

 

刹那、シャドウブレイズ・ドラゴンからエネルギーが放出された…爆風が会場を包む。

 

 

……爆風で私の髪が揺れる。

 

 

「これ……本物……?」

 

「う、うーん……深見先輩……重い」

 

「あ、ごめん……大丈夫…?」

 

 

どうやらスライディングをした後に、冥加さんを押し倒していたようだ。

 

私は急いで冥加さんの上から降りた。

 

 

 

「でも……助かりました」

「ううん…私も結構危険な方法使っちゃったから…怪我が無くて良かった……」

 

 

少しずつ爆風が晴れていく……スライディングの時にスカートが捲れてしまったけれど、まぁどのみち中が見える構造じゃないし……大丈夫かな。

 

先程まで冥加さんがいた所には、ちょっとした焦げ跡が残っている。

爆風は本物だったが、その焦げ跡が本物か確かめる方法は無い。

 

「一体……何が起きて……?」

 

「……!深見先輩!あれ!!」

 

冥加さんが指差す先……シャドウブレイズ・ドラゴンがいた…がそれだけじゃない。

 

それに向かい合うように神沢クンが立っているのだ。

 

 

「神沢クン……!?」

 

神沢クンの手元にはテーブルが浮かんでいる…程なくして神沢クンの前に青き炎を纏った青年が現れる。

 

 

「ファイトで……倒せるの…?」

 

神沢クンの様子を見るに、彼も半信半疑で戦っているようだ。

 

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

 

今度の声は天海さん。

 

私と冥加さんは天海さんの方を見る……そこには亀甲縛りにされた少年が立っていた。

 

 

「「変態?」」

 

「違う!あれは蒼嵐候補生 アノスだ!!でも何で亀甲縛りなんだ!!……ああっそうだよ変態だよ!?」

 

 

亀甲縛りの変態 アノスはじりじりと天海さんに近づいている。

 

どこか涙目だ……きっと誤解を解きたいのだろう。

 

よく見ると会場のあちらこちらで似たような現象が起こり始めていた。

 

「夢のような光景…と言いたいけど、これじゃ悪夢だよ……ね」

 

 

会場全体が軽いパニックに陥っていた。

 

 

 

「とりあえず…冥加さんはここに……私は少し調べてみる」

 

「先輩!?」

 

 

 

一番危険であろうシャドウブレイズ・ドラゴンは神沢クンが押さえ込んでいる。

 

だったら今の内に……

 

会場を走り、見回すと色んなものが実体化していた。

 

チアガール アダレードに押し倒されている男や、大量のマンボウ兵に追いかけられている女性。

 

クレイのユニットがやってきた……訳ではなさそうだ。

 

 

それぞれ“クオリティ”に違いがある。

 

 

まるでイメージを実体化したように……

 

 

 

「……まさか……でも……」

 

「何ぶつぶつ言ってるんだ、先輩」

 

「神沢クン!?」

 

神沢クンはシャドウブレイズ・ドラゴンと戦っていたはず……

 

 

「あれなら6点目までダメージを与えたら消滅したよ」

 

「じゃあ……ここに沢山いるのも…倒せば」

 

「……かもな」

 

 

 

その時、私の体を巨大なビームが貫通した……体は無事だ。

 

 

「!?」

 

 

今度は私の目の前をビームが通過する。

 

前髪が焦げる匂いがした……遠くで小さな爆発音もする。

 

 

「……実体化しているものとそうでないものがあるようだな」

 

 

……怖すぎる。

 

今のところ人を殺す程の威力は無いようだけど……。

 

 

「…一体あの社長は…何でこんな危険なことを……」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

社長室。

 

 

美空カグヤは美空ツキノを問い詰めていた。

 

「お母様…これはどういうことですか」

 

カグヤはツキノに迫る。

 

 

「カグヤ……これこそ私に必要なこの」

 

「お母様…どういうことですか?」

 

「我が運命を切り開く宿「お母様?」

 

「わた「お母様?」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

突然、天井から隔壁が降りてくる。

 

 

 

『皆さん……こちらに避難してください…うう』

 

 

 

社長さん……遅い……

 

とにかくファイター達、黒服達は隔壁の向こうへ避難する。

ちゃんと隔壁自体にも扉はついているので、焦る必要はない……私と神沢クンは周囲に気を配りながら隔壁に向かう。

 

 

 

その時だ……私は新たな異変に気がついた。

 

実体化していたユニット達がいないのだ。

 

アダレードも、マンボウ兵も、アノスも……みんないない。

 

異変は……終わった……?

 

 

 

ーー『……カ…リ……』ーー

 

 

心の中から声がする。

不審に思った私は振り返る……そこには一体のバトルライザーが立っていた。

 

だがすぐに…粉々になった……巨大な“尾”によって叩き潰されたからだ。

 

 

 

 

その衝撃で私たちは膝をついてしまった。

 

 

「おい…先輩、あれ……」

 

「…………」

 

 

 

ーー『ヒカ…リ……逃げ……』ーー

 

 

 

心の中の…もう一人の私の声は震えていた。

 

私に至っては……声が出ない。

 

 

神沢クンの指差す方向には“尾”の持ち主がいる…それは今まで実体化していたユニットとは比べ物にならない程のプレッシャーをもった存在……

 

巨大な尾の持ち主は叫ぶ…私たちに聞き取れる言葉で……

 

 

 

 

《ぜぜぜ絶望せよよよよ……》

 

 

 

 

神沢クンは隔壁に向かうため立ち上がる。

 

私は足がすくんで動けない……

 

 

 

 

 

《…わわ我は闇より昏き暗黒くく…》

 

 

 

 

 

神沢クンが私の手をとってくれる…私もよたよたと立ち上がった。

 

隔壁は既に降りきっているため、中にいる人には“あれ”の姿は見えていない。

 

 

 

 

 

《……し死より深きき……》

 

 

 

私たちは隔壁の扉を開ける……この向こうなら安全な筈だ……

 

 

 

 

 

 

《根絶也…》

 

 

 

 

 

 

 

それは光だった。

 

 

光が世界を蝕んでいく。

 

 

 

 

……眩すぎるその光に視界が奪われる瞬間……私のデッキが隔壁の向こうへ飛んでいくのが見えた。

 

 

 

全ての影が無くなった。

 

 

 

 

 

しばらくして…私の目は機能を取り戻した。

私と神沢クンは隔壁の外へ吹き飛ばされたようだ。

 

光が止んだ今……目の前にあるのは溶けた隔壁のみ。

 

 

 

隣にいた神沢クンは呆然としながら呟く。

 

 

 

 

「……隔壁は無事…中の人間は無事だと喜ぶべきか?」

 

「……まぁ…今は自分の心配を……するべきだろうね…」

 

 

 

私たちの背後に……まだ“それ”はいた。

 

 

 

隔壁が壊れることは無かったとはいえ、人の身であれが直撃しては……命がもたない。

 

私と神沢クンは“光”を放った存在を改めて見直す。

 

 

 

《オオオオオオオオオ!!!!!》

 

 

 

 

身の毛もよだつ、その叫び。

 

その“竜”の名は……

 

 

 

 

 

 

「…最上級の恐怖により生まれし畏怖の具現体…ガスト・ブラスター・ドラゴン…」

 

 

 

 

「何でまた……あんなのが出てきてんだよ」

 

 

「……ごめん、たぶん私のイメージだ…」

 

ーー『……だな』ーー

 

 

 

今までのユニットと格が違う……それもそうだ…私はあの竜を実際に見たことがあるのだから……

 

ガスト・ブラスターの瞳は虚空をさまよっている。

 

そこにあるのは純粋な悪意と、膨大な狂気。

 

よく見ると、周りにはアポカリプス・バットもいる……

 

 

 

「どうする…戦うか……?」

 

「……私のデッキ……隔壁の向こう」

 

「………俺もだ…他のデッキもあるにはあるが、下手に使って失敗したら……」

 

「…………危険……だよね……」

 

 

とはいえ隔壁は溶けているため、その中に逃げることはできなくなった。

 

逃げられない、戦えない………そんな私たちをガスト・ブラスターの瞳が…捉える。

 

 

「……先輩、ちょっと試してみないか?」

 

 

ずっと何かを考えていた神沢クンはデッキを取り出して言う……使えと言うのだろうか。

 

 

 

「こんな状況で何を……」

 

馴れないデッキで事故でも起こした日には……文字通りなぶり殺しにされるだけだ。

 

「こんな状況だから……だ……ミスは許されない、だから先輩の力を借りたい」

 

 

「……?」

神沢クンは私に自分の考えを話してきた……確かにそれが可能なら、凄いけど……でも……

 

ドォォォン!!

 

 

ガスト・ブラスターの攻撃が私たちを襲う。

 

神沢クンと一緒に回避したものの、次も避けられるかは分からない。

 

 

「先輩…」

 

「そうだね……やってみるしか……無いか」

 

 

 

私は腹をくくる……そして…ガスト・ブラスター・ドラゴンと対峙するのだった。

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

社長室。

 

 

 

「お母様……これは……」

 

 

カグヤは呆然としながら状況を見つめている。

 

 

未だに怪我人は出ていないものの、あの隔壁は完全に溶けている。

 

あのガスト・ブラスターは“実態”があるということだ。

 

「イメージの実体化実験…実体化されたのは各々のトラウマ、悪夢……と言ったところでしょう……ですがあのガスト・ブラスターは…素晴らしい再現度だわ」

 

 

恍惚の表情で呟くツキノ……カグヤはカメラに映る映像をじっと眺める。

 

 

「……っ!!お母様!!ヒカリさんにラシン君が隔壁の外に取り残されています!!何か起きたらどうするんですか!!…私が助けに……」

 

 

「ヒカリさんに何か……起きたら……私、ミライに呪われるわ…」

 

 

カグヤの言葉に一瞬、ツキノの顔が青ざめる…後先考えずに実験を始めただけで誰かに危害を加える気は毛頭無かったのだ……が……

 

「待ちなさい……この二人……」

 

ツキノは画面の中の二人に注目する。

 

「……え?」

 

カグヤもまたその様子をじっと見つめた。

 

 

 

二人の前にギアーステーブルが一台、出現していた。

 

ガスト・ブラスターに挑むつもりなのか……だが、誰が……?

 

 

「ファイターは二人……デッキは……一つ」

 

 

 

カグヤは今の状況を冷静に見つめる。

 

二人はがっしりと手を繋いでおり、離す気配は無い。

 

 

 

「まさか……」

 

 

画面の向こうの二人が叫ぶ。

 

 

 

『『スタンドアップ・THE・ヴァンガード!!』』

 

二人の手は一枚のカードを表にする。

 

 

『『幼き黒竜 ヴォーティマー!!』』

 

 

 

ヒカリとラシンの瞳はそれぞれ……

 

 

 

右目が緋色に……

 

 

左目は黄金に……染まっていた。

 

 

 

 

 

かつて黒き神馬を纏い戦ったとされる守護竜の伝説が……ここに蘇ろうとしていた。

 

 

 

 


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