君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

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070 エクストリーム・ファイター

 

『黒馬団』

 

 

解放戦争の時代…つまりゴールドパラディン発足時に存在した7つの団の一つ。

 

ゴールドパラディンとはブラスター・ブレード、ブラスター・ダークの二人を救い、光と影の二つの騎士団を復活させるために誕生した騎士団だ。

 

そしてその中には元シャドウパラディンのメンバーも多数存在していた。

 

 

黒馬団とはつまるところシャドウパラディンのメンバーが集まったゴールドパラディンの部隊なんだ。

 

 

 

……とは言え……

 

 

 

 

「設定がシャドパラでも……私に使えるかは…」

 

ガスト・ブラスターによる攻撃の最中…神沢クンは突拍子も無いことを言い始めた。

 

 

「……先輩の“力”が一番安定性があるんだ…ライド事故を起こさず、確実にあいつを倒すならこの方法が一番だ」

 

 

彼はそう言ってデッキを差し出す……

 

 

「だから使えるか分かんないって……」

 

 

私の“力”はシャドウパラディンのカードとの“つながり”で生まれたもの……いくら黒馬団のデッキだからって“つながり”があるかどうか……

 

そもそも…知ってるカード殆ど無いし。

 

「神沢クンのデッキ何だから、神沢クンが使えばいいんじゃないかな……!?」

 

「俺の“力”はデッキの流れが分かるだけだ!どうにもならない時はどうにもならない!!」

 

《ウオオオオオオオオ!!!》

 

 

ガスト・ブラスターが恐ろしい唸り声をあげる。

 

「……っせめて俺たちの“力”がどっちも使えたら最高なんだが………」

 

「そんな……無茶な……」

 

 

ガスト・ブラスターの尾が私たちのすぐ側を掠める。

 

元々“イメージの産物”であるガスト・ブラスターの攻撃に本物程の威力は無い……が、もし命中したら大怪我ではすまないだろう。

 

「試す価値はあるか……」

 

神沢クンが不穏な言葉を発した。

 

「何を……!?」

 

神沢クンはケースからデッキを取りだし…言う。

 

「俺と先輩の二人でこのデッキを使うんだよ」

 

「な……そんなこと……」

 

 

 

ドォォォン!!

 

 

ガスト・ブラスターの攻撃が私たちを襲う。

 

神沢クンと一緒に回避したものの、次も避けられるかは分からない。

 

 

 

「先輩…」

 

「そうだね……やってみるしか……無いか」

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

今、私と神沢クンはガスト・ブラスター・ドラゴンと対峙している。

 

あの竜もギアースシステムの一部である証拠なのか、こちらがデッキをテーブルに置いた瞬間から無差別な攻撃は終わった。

 

不気味な程の静寂の中…私と神沢クンは二人で一つのデッキを使い、ファイトを始めるのだった。

 

 

 

「……私には“聞こえない”か…」

 

 

神沢クンが手札交換を行うのを見ながら、私はぼんやりと呟いた。

 

 

神沢クンの力は相手と自分のデッキの中の声を聞くというもの……

 

見た目から入るために手を繋いだものの、同じデッキを使う私の耳には“ユニット達の声”が聞こえてはいなかった。

 

神沢クンの力……体感してみたかった……

 

 

 

「……神沢クン……いけそう?」

 

「“俺は”な……先輩の“力”は…使えるのか?」

 

 

 

私の“力”……まだ正式名称は無いけど、回数制限有りで好きなカードをドローできる“力”…

 

私は何となく…ペンダントを見つめた。

 

緋色の光は弱まっている……が、消えてはいない。

 

 

「分かんないけど…いける気がする……」

 

「よし……なら行くぞ」

 

 

私と神沢クンは手を繋ぎ直すと、改めてガスト・ブラスターを見た。

 

ギアースに表示された情報によると、Vがガスト・ブラスター……リアガードに5体のアポカリプス・バット……手札無し、ダメージ無し…ソウルにはガスト・ブラスターが10枚……

 

 

「凄い…こう……ルールを無視してるよね」

 

「何を今さら…」

 

 

同名カード多すぎだよ……

 

「それを言ったら、一つのデッキを二人で使ってる俺たちはどうなる?」

 

「……それも…そうだね……」

 

 

ヴァンガードにはエクストリームデッキという複数のクランを使ったデッキがあるけれど……

 

今の私たちは……言うならば“エクストリームファイター”……と言ったところか。

 

 

 

「とにかくリミットブレイクを打たれたら不味い…慎重に行くぞ」

 

「…うん」

 

 

ガスト・ブラスター・ドラゴンのリミットブレイクはCBとリアガードの退却でソウルの“ブラスター”の数だけパワーとクリティカルを増加させるというもの。

 

今の状態で喰らったら…ひとたまりも無い。

 

 

 

「「ライド!漆黒の先駆け ヴォーティマー!」」

 

若々しい少年が、鎧を纏った青年へと変化する。

 

 

「連係ライドのスキル……発動するよ」

 

連係ライド…FVから順番に特定のユニットにライドしていくことで普通のユニットよりも強力なスキルとパワーを得ることができるシステム…このヴォーティマーはそのシステムを持っていた。

 

 

「山札の上から7枚見て…黒竜の騎士 ヴォーティマーを手札に……そしてターンエ」

 

「まだだ、先輩……俺達はV裏にブラックメイン・ウィッチをコール……それでターンエンドだ」

 

 

私は一瞬、そのコールの意味が分からなかったが、それは次のターンのための前準備であった。

 

私たちがターンエンドを宣言すると、ガスト・ブラスターが禍々しい咆哮をあげる。

 

瞬間、アポカリプス・バットが二匹、ヴォーティマーに襲いかかった。

 

直ぐにダメージ判定が出る。

 

 

「えっ……何、スピード勝負なの!?」

 

「言って無かったか?」

 

「聞いてないよ!?」

 

私がダメージゾーンに黒竜の騎士 ヴォーティマーを置いた頃にはガスト・ブラスターがその尾をヴォーティマーに向かって振るっていた。

 

 

しかも…

 

<疑似ドライブチェック……☆、☆>

 

 

「ドライブチェックまで……?」

 

 

一気にダメージが4点……こちらがドロートリガーを引いたため、最後のアポカリプス・バットの攻撃はヒットしない…

 

それに……“疑似”というだけあってパワーの増加までは行えないようだ。

 

私たちにターンが回る。

 

 

「……凄いドキドキしたんだけど……スタンド」

 

「……ああ……俺もだ……ドロー」

 

「「ライド!黒竜の騎士 ヴォーティマー!!」」

 

 

ヴォーティマーの姿は更に変化する……G0の頃はそれなりのイケメンだったが、今では冴えないお兄さんのようだ。

 

 

「連係ライドスキル発動……ってこのファイト、私の“力”必要ない……よね?」

 

 

グレード3は既に手札にある…つまり事故の心配は無いということだ。

 

「いやいや…何が起こるか分からないのがヴァンガードだ……スキルでブラックメイン・ウィッチを退却、山札の上からグレード1 黒鎖の進撃 カエダンと…」

 

 

カエダンはヴォーティマーの後ろにコールされる、そして山札から出てきたもう一枚は……?

 

 

「伝説の竜よ…出でて太古の力を奮え!!コール!スペクトラル・デューク・ドラゴン!!」

 

 

「…ヴァンガードはグレード2だけど、グレード3のユニットを……!!」

 

「……パワー10000だから、パワー11000のガスト・ブラスターにはアタックできないがな」

 

……とは言え、前列には連係ライドによってパワー10000になったヴォーティマーも存在する。

 

これなら相手のリアガード…パワー4000のアポカリプス・バットが2体攻撃して来たところでヒットされるユニットはいない。

きっと防御も楽になる。

 

 

「さあ……攻撃だ!!」「…うん!!」

 

 

ヴォーティマーが黒馬を走らせる。

 

その様は正に“突貫”。

 

 

「「ドライブチェック…投刃の騎士 メリアグランス…」」

 

 

トリガーは出ない。

 

ガスト・ブラスターにダメージ判定が下される。

 

あと……5点。

 

私たちはリアガードのスペクトラル・デュークでアポカリプス・バットを撃退し、ターンエンドを宣言する。

 

 

<ウオオオォォォォォォォォォォォォォォ……>

 

 

ガスト・ブラスターが禍々しい叫びをあげる。

 

「来るぞ先輩!!!」「っえぇ!!もう!?」

 

 

神沢クンは既に完全ガードである光陣の解放者 エルドルをガーディアンとしてコールしていた。

「えっと…コストは……」

 

「スペクトラル・デューク・ドラゴンだ」

 

「あ……はい……」

 

……これ、私ここにいる意味あるのかな……

 

 

襲いかかるガスト・ブラスターの尾をエルドルの青き炎が絡めとり、食い止めた。

 

 

ガスト・ブラスターの周りのユニット達では今のヴォーティマーに攻撃を加えることはできない。

 

私たちにターンが廻る。

 

 

その時、私はあることに気がついた。

 

 

 

「……あれ、スペクトラル・デュークってグレード3じゃ無かったっけ……手札に他のグレード3は?」

 

 

「無い、さあ…先輩の出番だ、引いてくれ」

 

 

 

…………えっと…えええ……何かなぁ……

 

 

 

「引くのは…スペクトラル?」

 

 

「いや……“断罪竜”だ」

 

 

「…………断罪竜…」

 

 

私の中に曖昧なイメージが浮かんでくる……行けるかな……いや、行けるな……行こう。

 

 

 

「行くよ……来たれ断罪竜……」

 

 

私が手を山札に乗せる。

 

私の両目…神沢クンの両目……そして、私のペンダントが緋色に輝く。

 

「……ドロー!!」

 

「…やっぱ能力には固有名詞をつけた方が格好いいんじゃないか?」

 

「私の見せ場を邪魔しないで貰えるかな……」

 

 

 

ため息をつく私の手にはしっかり“断罪竜”が握られていた。

 

……見えたよ、ファイナルターン。

 

「行くぞ、先輩!ライドだ!!」

「言われなくても!!ライド!!」

 

 

私たちは即興でライド口上を始める……

 

 

「それは…贖罪の始まり……」

「黄金の空を行く漆黒の竜よ!!」

 

「…黒鎖を持って……邪悪を打てっ!!」

 

 

 

暗雲が立ち込め、漆黒の竜が姿を現す。

 

 

「「断罪竜…クロムジェイラー・ドラゴンっ!!」」

 

 

黒馬団のグレード3の主力ユニットは2種…当時は珍しかったヒットの有無に関係無く再スタンドをするスペクトラル・デューク・ドラゴン。

 

そしてこのクロムジェイラー……その能力は…

 

 

「「リミットブレイクっ!!」」

 

私と神沢クンはそれぞれリアガードを手に取ると、ドロップゾーンに置いた。

 

 

「「CB2!スペクトラル・デュークとカエダンを退却!!パワー+10000!!クリティカル+1!!」」

奈落竜…ファントム・ブラスター・ドラゴンのダムドチャージングランスに似たスキルだった。

 

もちろん……

 

 

「「更にカエダン、サイレント・パニッシャーをコール!!CB2、退却!!パワー+10000、クリティカル+1!!」」

 

 

重ね掛けも可能だ。

 

 

 

「えっと……フレイム・オブ・ビクトリーをコールして……ソウルへ、クロムジェイラーにパワー+3000」

 

「そして、投刃の騎士 メリアグランスをコール、SB2でカウンターチャージ2だ……もう一枚行っておくか、メリアグランスを再びコール、同じ効果をもう一度だ」

 

 

クロムジェイラーによって消費されたカウンターブラストが補充されていく。

 

 

「「クロムジェイラーのリミットブレイク!メリアグランス2体を退却し、CB2!…パワー+10000、クリティカル+1!!」」

 

 

クロムジェイラーが持つ鎖が、黄金に輝き始める。

 

現時点でクロムジェイラーのクリティカルは4…ガスト・ブラスターを倒すためにはあともう一押し必要だ。

 

私達は手札から更にユニットをコールする。

 

 

 

「…行くよ……その魂は覚悟の化身!!コール・THE・リアガード!!ブラスター・ダーク・スピリット!!」

 

「行くぞ、青き炎は誓いの標……コール・my・リアガード!!誓いの解放者 アグロヴァル!!」

 

 

「「二人の力を一つに!!リミットブレイク!!」」

 

 

 

ダークの魂とアグロヴァルの青炎が、クロムジェイラーの鎖に宿る。

クロムジェイラーはその鎖をガスト・ブラスター目掛け、解き放った。

 

鎖はまるで意思を持っているかのように、ガスト・ブラスターの周囲を囲んでいく。

 

やがてそれは、巨大なヴァンガードサークルの形を作り上げていた。

 

 

私と神沢クンはクロムジェイラーをレストする。

 

 

「終わり……だよ」「ここで決める…!!」

 

 

クロムジェイラーが大きく唸り声をあげた。

 

 

「「アビサル…」」

 

 

ガスト・ブラスターの周囲の鎖は溢れるように輝きを増していく。

 

そして……

 

 

「「クロムジェイル…バーストぉぉ!!」」

 

 

 

鎖から眩いばかりの光が放たれ、ガスト・ブラスターの姿は消えていく……

 

 

ドライブチェックは…クリティカルが一枚。

 

 

ギアースからはしっかりと、ダメージ判定が下された。

 

 

ガスト・ブラスターのダメージはこれで6点……

 

 

そしてスタジアムに残っているユニットは、誇らしげに天を仰ぐクロムジェイラーだけである。

 

 

 

「勝った…みたいだな」

 

「…………」

 

 

私達はファイトが終了したために消えていくクロムジェイラーを見つめながら、言葉を交わした。

 

一瞬の…信じられないような事態は……既に終息していた。

 

 

「「良かった……」」

 

 

 

私達二人は安堵のため息をつく。

 

後ろでは避難用の隔壁が上がり始めていた。

 

「何とかなったな…先輩」

 

「…………」

 

これで全て解決……

 

 

……いや、違う。

 

 

「……まだ、戦わないといけない…」

 

「……あの社長のことか」

 

 

そうだ……少なくとも、今……この事態についてあの社長に問い詰める必要がある。

 

 

「あの社長……どうしてくれようか…ね」

「先輩…怖いって」

 

 

怖い思いをしたのはこっちだ……ゆっくり話を聞かせて貰わないとね……

 

 

私は彼女を問い詰めるために、歩き出す……会場内のどこかにいるはずだ……

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

私は真っ黒なドアを開き、中にいる人物に言い放つ。

 

「全て……話してもらいます…今回の事……」

 

 

 

美空社長は椅子に座ったまま、振り返った。

 

側にはカグヤさんもいる。

 

 

「ヒカ……ヴェルダンディさんね…この部屋の前には優秀なボディーガード達が沢山控えていた筈…どうやってここまで?」

 

「……あの程度のボディーガード…優秀とは言えませんよ……」

 

 

私の動きを見切れないようなボディーガードなんて…ね。

 

「……な、なかなかやるようね」

 

「お母様、手が震えてますよ」

……そんなに怖がらなくてもいいんじゃないかな。

 

 

「…いや、怖いって」

 

後ろから付いて来ていた神沢クンが呟く……そんなに…?

 

 

「で……結局、今回の大会は……何なんですか?」

 

 

「それは……」

 

社長が口籠る。

 

 

 

「お母様…私にもそろそろ聞かせてください」

 

「社長さん……?」

 

 

社長はずっと俯いたまま……何も言わない。

 

 

 

「……に」

 

「……?」

 

 

「私に……した…ら…」

 

 

この流れは……

 

 

「ヴァンガードで…私に勝利したならばお話ししましょう」

 

「……いいよ」

 

 

私は先程回収した“自分のデッキ”を構える。

 

だが、彼女は更に言葉を継ぎ足した。

 

 

「……先程の戦い方がいいわ……」

 

「な……」「……なるほどな」

 

 

 

隣りにいた神沢クンが反応した。

 

この社長は“ノルン”の名付け親になるほど、この力に興味があるようだし……さっきのファイト方法に興味を持つのも仕方ない……か。

 

 

「せっかくだ…もう一戦やるか……先輩?」

 

「……そうだね」

 

 

 

それが運命ならば……か。

 

 

雑な話の展開で、ファイトが始まろうとしていた。

 

私たちがファイトを行う場所は冥加さん達のいるホールとは別のホール…そこに向かうのはノルンと…その名付け親だけ。

 

……ここでノルンの三人が抜けるってことは、大会の優勝は天海さんってことになるのかな?

 

 

まぁ……いいか、そんなこと今は…

 

「何でもいい……ちゃんと事情を話してくれるのなら……」

 

「……必ず話すわ…それが運命ならば…」

 

「……はぁ」

 

 

正直、私にとってする必要の無いであろうファイトが今……始まる。

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

私と神沢クンが使うのは先程と同じ“ゴールドパラディン”……黒馬団デッキ。

 

私は相手の……社長さんのデッキが気になり、前を見た。

 

「……え?」

 

起動するギアースシステム……私たちの前でデッキをシャッフルしていたのは……

 

 

「……カグヤさん?」

 

美空カグヤその人だった。

 

 

私たちは手札交換まで終わらせる。

 

その手札は……

 

 

断罪竜 クロムジェイラー・ドラゴン

 

断罪竜 クロムジェイラー・ドラゴン

 

断罪竜 クロムジェイラー・ドラゴン

 

スペクトラル・デューク・ドラゴン

 

スペクトラル・デューク・ドラゴン

 

 

 

「……これは…」「…全てグレード3……だな」

 

 

カグヤさんの“力”が完全に発動している…ということは、あのデッキは……

 

 

「……ジェネシスってこと?」

 

「いや、そうとは限らないぞ……」

 

「……え?」

 

 

私と神沢クンが話している間にカグヤさんと社長さんが交代した。

 

つまり、カグヤさんの“力”を借りたのだ。

 

 

「……あれ、ずるくないかな」

 

「……俺たちが言うか??」

 

 

 

……それもそうか。

 

ファイトの準備は整った……とにかく勝って…今日、ここで起きたことの真意を話してもらう。

 

……無理矢理聞き出そうとして警察呼ばれるのも厄介だしね。

 

 

 

「……先輩、今、何か怖いこと考えてないか?」

 

「何のことかな?」

 

 

 

ギアースシステムが先攻後攻を決定する。

 

私たちは…後攻か。

 

 

「さあ……始めましょう」

 

 

社長さんの声が会場に響き渡った。

 

私たちも身構える。

 

 

「「スタンドアップ・THE・ヴァンガード!!」」

 

「スタンドアップ・THE・ヴァンガード!!」

 

ギアースから青白い光が発せられた瞬間、私たちの目の前にファーストヴァンガードが出現する。

私たちのFVは先程のファイトと変わらず、幼き黒竜 ヴォーティマー……

 

 

そして。

 

 

美空社長のFVは……

 

 

「カードナンバー……VZ/015……?」

 

「“くらうでぃあ”……か」

 

 

そこにいたのは猫とも犬とも分からない見た目のハイビースト……ロイヤルパラディンのユニットだった。

 

 

「カグヤさんはロイヤルパラディンとも“つながり”があるって……こと?」

 

「…………」

混乱する私を尻目に、社長さんは自身のターンを宣言する。

 

 

「運命に約束されし私のターン!!ドロー…そして湖の巫女 リアンにライド!!」

 

美しい蒼髪の女性が現れ、くらうでぃあが後ろに下がって行く。

 

 

湖の巫女 リアンは自身をレストし手札を1枚捨てることで、手札に1枚ドローすることができるユニットだ。

 

古くから、ロイヤルパラディンの先攻1ターン目にライドしたいユニットとして活躍している。

 

「リアンのスキル……」

 

 

社長さんがリアンをレストする。

 

ここで相手が捨てるカードによっては、相手のデッキの中身が分かるのだけれど……

 

「私はここで……」

 

 

 

そう言って社長さんが手放したカードは信じられないものだった。

 

 

 

「CEO アマテラスを贄にドローするわ」

 

 

「な……アマテラスっ!?」

 

 

 

CEO アマテラス……それはオラクルシンクタンクのグレード3。

 

ロイヤルパラディンのFV、オラクルシンクタンクのグレード3の二つが同じデッキに入っている……それはこのデッキが“エクストリーム仕様”であることを表していた。

 

 

 

「……待って、ならカグヤさんの“力”は…“つながり”は……!?」

 

「先輩、あの人…ウルドは………きっと“全てのユニット”とつながりを築いている」

 

 

 

神沢クンが離れた場所にいるカグヤさんを見つめながらそう言った。

 

全てのユニットと……つながり……?

 

あまり驚いていない所を見るに神沢クンは前回のファイトの時に気がついていたのかもしれない。

 

 

「だけど……まさかエクストリーム仕様のデッキだなんて……」

 

「……要、注意……すべきだろうな」

 

 

狼狽える私たちに美空社長が言い放つ。

 

 

「ここから始まるのは、鮮血の舞踏会……逃れること叶わぬ幻想の刃によって貴女の意思は打ち砕かれることでしょう」

 

「…無駄だよ、黄金の輝きを纏いし太古の守護竜に幻想の刃は届かない……天を引き裂く槍が貴女を敗北に導く」

 

「面白い…だが私の勝利は既に確約されている、運命という抗うことのできないルールによって……」

 

「運命なんて奈落の黒で塗り替えて見せる…私にはそれが出来るから……」

 

「ふふふ……」

 

「ははは……」

 

 

 

私と社長さんの会話を前には神沢クンが呟く。

 

 

「……この会話…付き合わなきゃ駄目か?」

 

……呆れられている、物凄く呆れられている。

 

だんだん自分でも恥ずかしくなってきた。

 

 

「では、これで私だけの時間は終わり…ですが、本当の舞「私たちのターン!!行くよ神沢クン!!」

 

 

平静を取り戻した私は、山札に手を伸ばす。

 

今、必要なカード…グレード1のカードを引くために、私は“力”を使う。

 

 

「…ドローっ!!」

 

 

 

そして、私は引いたカードを神沢クンに見せる…神沢クンも満足そうに頷いた。

 

「…上出来だ!」「行こう…!!」

 

 

「「ライド!漆黒の先駆け ヴォーティマー!!」」

 

 

 

 

ただ事情を話してもらうだけのために始まったファイト……相手、美空ツキノが使って来たのはエクストリーム仕様のデッキ……

 

対する私も神沢クンと二人で一つのデッキを使うという不思議な状態でファイトすることに。

 

 

互いに聞いていて恥ずかしくなるようなセリフを吐きながら……私たちのファイトは進んでいくのだった。

 

 

 

 


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