君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

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071 Break your spell

「エクストリームデッキ……」

 

 

私は思わずそう呟いた。

美空ツキノ社長から真意を聞き出すために始まったこのファイト……

 

彼女が使用してきたのは“エクストリーム”……クランを混ぜ合わせたデッキだった。

 

「……俺たちは俺たちのファイトをするしかないだろ……今は」

 

隣で共にファイトをする神沢クンはそう言った。

 

私も……ファイトに意識を集中させる。

 

ちょうど……G1のヴォーティマーに連携ライドしたところだ。

 

「……連携ライドスキル発動…漆黒の先駆け ヴォーティマーは常にパワー8000に……山札の上から7枚を見て……グレード2、黒竜の騎士 ヴォーティマーを手札に加える……」

 

社長が利用してきた“カグヤさんの力”によって私たちの手札はグレード3だらけであった……が、このスキルによって何とか次のターンにグレード2になることはできそうだ。

 

「「……アタック!!」」

 

〈8000〉

 

アタックの対象はヴァンガードである湖の巫女 リアン(7000)……この攻撃…通して貰えるかな……

 

 

「私を守りなさい…ナイト・オブ・フラッシュ」

 

〈完全にガード〉

 

グレード1のヴァンガードによる単体のアタックは簡単に止められてしまった。

 

ドライブチェックは……G1のブラックメイン・ウィッチ……

 

「……ターンエンド」

 

「なら……運命に約束されし宿命のマイターン!!」

 

社長はそう言いながらユニットをスタンドさせ、ドローを行う。

 

……にしても“運命に…(以下略)”は毎回言うのかな……?

 

「ライド…ホイールウインド・ドラゴン(9000)!!」

 

「ホイールウインド……?」

 

「今度はネオネクタールのユニットか……」

 

スキルはジェネレーションブレイク時…Vにアタックヒットでカウンターチャージ2……今は気にする必要無いかな……

 

「その魂を翼に乗せ、審判を下せ……くらうでぃあのブースト……ホイールウインド・ドラゴンでアタック!!」

 

〈13000〉

 

 

「……ノーガード」

 

 

今、手札でガードに使えるユニットはG1のブラックメイン・ウィッチしか存在しない。

 

「運命の歯車よ、回れ!!ドライブチェック!!」

 

 

 

その結果、登場したのはエポナ…“クリティカルトリガー”だ。

 

私たちのダメージにエリクサー・ソムリエとブラスター・ダーク・スピリットが落とされる。

 

これでダメージは2vs0。

 

社長のターンエンド宣言を聞いた私たちは自らのターンを宣言し、スタンド、ドローとファイトを進める。

 

 

「「黒竜の騎士 ヴォーティマーにライド!!」」

 

連携ライドによってパワーは10000……

 

ただしリアガードがいないため、もう一つのスキルである…リアガード1枚を退却させ、デッキトップから2枚のリアガードをスペコする……というものは発動できなかった。

 

 

「先輩、ここは……」

 

「分かってる…ブラックメイン・ウィッチ(6000)をヴォーティマーの後ろにコール……バトルに入るよ」

 

 

私たちはヴォーティマーをホイールウインド・ドラゴンへと走らせる。

 

パワー16000のアタックだ。

 

「その攻撃……甘んじて受けましょう」

 

「……ドライブチェック…光陣の解放者 エルドル」

 

 

トリガーでは無いが、完全ガードだ……社長のダメージゾーンに完全ガードのホーリーナイト・ガーディアンが落とされる。

 

……良い調子……かな?

 

 

「「…ターンエンド」」

 

「ふふ…なら、運命に約束されし(以下略)」

 

 

そして、美空社長はグレード3のユニットにライドする。

 

「光輝の女神が舞い降りる、夢か現かこの世界…未来を探し、運命を見つめる瞳に希望を宿せ!!ライド・THE・ヴァンガード!!CEO アマテラス(10000)!!」

 

 

 

私たちの前に姿を見せるのは…CEO アマテラス。

 

戸倉ミサキのユニットとして、ヴァンガードのアニメ一期ではツクヨミと共に活躍したことで有名だ。

 

 

「スキル発動……ソウルチャージ1……そして私は未来を知る……」

 

 

メインフェイズ開始時にSC1をし、山札の上のカードを見てそのカードをそのままにするか、下に置くかを決めることができる。

 

 

「ちなみに今、あの社長が見てるカードは“マグナム・アサルト”だ」

 

 

相手のデッキを見ることもできる“力”を持った神沢クンが私に情報をくれる。

 

 

「……神沢クンはどこまで見えてるの…?」

 

「……いや、あの社長それなりに“つながり”が強いぞ……後はもう公開されているカードしか分からない」

 

…しかし“マグナム・アサルト”か…確かアクアフォースのユニットだ…一体、あの社長のデッキはどういうコンセプトなんだ……

 

 

「我が片翼をここに…ホイールウインド・ドラゴンをコール」

 

マグナム・アサルトを山札の下に置いた社長はリアガードをコールし……バトルに入る。

 

 

社長の一撃目はくらうでぃあでブーストしたアマテラス……私たちはその攻撃をノーガードで受けた。

 

ドライブチェックは完全ガードとドロートリガー…ダメージは1点…落ちたカードはこちらもドロートリガーであった。

 

トリガーが乗ったヴォーティマーはパワー15000…社長の残りのリアガード…パワー14000になったホイールウインド・ドラゴンの攻撃は届かない……

 

 

こうして…私たちにターンが回る。

 

 

 

「……スタンドandドロー…神沢クン…ここは」

 

「まずは…先輩の“G”から……だろうな」

 

 

“G”とはGユニットのことだ……社長がグレード3になった今、私たちもグレード3にライドすることでGユニットを使うことができる。

今、私たちが使えるGユニットは4枚……私のハーモニクス・メサイアと神沢クンの3枚だ。

 

 

「……あれ、神沢クンのGユニットって?…ゴールドパラディンってまだGユニットは無い……よね?」

「使うときに説明する……まずはライド…だろ?」

 

「……うん」

 

 

私は手札からカードを取り出し、神沢クンと声を重ねる。

 

「「黄金の竜よ…出でて太古の力を振るえ!!ライド!!スペクトラル・デューク・ドラゴン(11000)!!」」

 

 

私たちの前に、太古の守護竜が現れた。

 

さらに連携ライドスキルが発動する。

 

「ブラックメイン・ウィッチを退却だ……そして山札の上からG1 ブラックメイン・ウィッチと……」

 

「ブラスター・ダーク・スピリット(10000)を…スペリオルコール…!スキル発動…」

 

 

私はCB1を消費することで、相手の前列にいたホイールウインド・ドラゴンを退却させる。

 

「でも…これで終わりじゃないだろ?先輩!!」

 

「…うん、ジェネレーションゾーン……解放!!」

 

 

私は手札からもう1枚のスペクトラル・デューク・ドラゴンをドロップゾーンに置いた。

 

私は…Gユニットを呼ぶ。

 

 

 

「世界を導く救世の光…それは永久の調和と無限の再生!!ストライド・THE・ヴァンガード!!」

 

スペクトラル・デュークの真上に……どこか異形な竜が舞い降りる。

 

「ハーモニクス・メサイア!!」

 

 

私たちはリアガードとして更にG1の黒鎖の進撃 カエダンをコールし、アタックしていく。

 

ハーモニクス・メサイアの攻撃は完全ガードによって防がれてしまうが、ダークとカエダンによる攻撃は通すことができ、社長のダメージゾーンにはナイト・オブ・フラッシュが落ちた。

 

このターン、ドライブチェックでヒールトリガーを引くこともでき、ダメージは2vs2となっていた。

 

 

「……ターンエンド」

 

 

美空ツキノ社長のターンが始まる。

 

社長はアマテラスをドロップし、超越する…

 

 

 

「天からの祝福……今ここに!!始まるのは私の時代、私が導く未来!!ストライド・THE・ジェネレーション!!」

 

 

アマテラスが天に向かって手を掲げる……ギアースが写し出す空から一体の竜が降りてきた。

 

「…我が魂を載せて世界を往く万獣の長よ…舞踏会の始まりを告げなさい!!天翔ける瑞獣 麒麟!!」

 

 

あれは確か…オラクルシンクタンクのGユニット…

 

社長はそのままバトルを仕掛けてきた…私は神沢クンの方を見る。

 

 

「通してもいい…いや、通してくれ」

 

「うん……分かった」

 

 

多少なりと相手のデッキが“分かる”神沢クンがそう言うのだ……信じよう。

 

 

「回り出す運命を示せ…トリプルドライブ!!」

 

 

 

登場したのは順番に、“メイデン・オブ・フラワースクリーン”…ドロートリガーである“まぁるがる”…そして“秘められし賢者 ミロン”の3枚……

 

そしてこちらのダメージにはドロートリガーが落とされた。

 

相手は麒麟のスキルで更にドローすることができるが…こちらのダメージは軽微である。

 

「では……ターンエンド」

 

「俺たちのターンだ…先輩、今度は俺のGユニットで行かせてもらう!!」

 

 

神沢クンはスタンドとドローの処理を行うと、手札からクロムジェイラーをドロップした。

 

「己が未来…切り開く!!ストライド・my・ジェネレーション!!」

 

次に登場したユニットは…ゴールドパラディンのユニットでは無かった。

 

「ミラクルエレメント アトモス!!」

 

……そうだよね、ゴールドパラディンのGユニットはまだ出てないもんね……

 

アトモスは“クレイエレメンタル”というクランに属しており、ハーモニクス・メサイア同様全てのクランのユニットとして扱うことができる。

 

「ブラックメイン・ウィッチのブースト…スキルでパワー+10000したアトモスでヴァンガードにアタック!」

 

<41000>

 

 

「その攻撃……完全ガード!!」

 

社長は完全ガードであるホーリーナイト・ガーディアンを使う。

 

「……トリプルドライブ」

 

 

結果、このターンも私たちはヒールトリガーを引き、二度の攻撃を受けた社長にもヒールトリガーが発動。

 

ダメージは2vs3…

 

 

 

「……なかなか…攻め手が……見つからない…」

 

「……先輩、もう少しだ」

 

 

若干の焦りを感じていた私に神沢クンが呟く。

 

彼は真っ直ぐに私たちのデッキを見つめていた。

 

「もうすぐ“山”が来る……」

 

「……なるほどね」

 

 

ならもう少し……頑張って見ますか……

 

幸い手札は豊富…10枚以上ある………まあ、社長さんも同じくらい持ってるけど……ね。

 

「約束されし私のターン…そして、全てが始まる!」

 

 

美空社長はそう言いながら、スタンド、ドロー…とファイトを進める。

 

「ふふふ……」

 

 

社長が手札からカードを出す……まさか、ここから新しいユニットにライド…?いや、それとも超越するの?

 

私が次の展開を予想する間にも、社長はライド口上を告げていく。

 

 

 

「美しき夜、始まる舞踏会……その主は血塗られし刃を持って…空の月をも鮮血に染める!!謳い、舞い、踊り、溺れよ…!!ライド・THE・ヴァンガード!!」

 

 

ギアースシステムによって写し出された空は暗くなり、分厚い雲が多い尽くしていく。

 

そして、雲の合間から…そのユニットは現れた。

 

 

「我が分身、隠密魔竜 カスミローグ!!」

 

 

カスミ…ローグ……

 

アマテラスと入れ替わるようにVに立ったのはパワー11000のむらくものユニットだった。

 

一体ここから……何を……?

 

 

 

「更にメイデン・オブ・フラワースクリーン(9000)と秘められし賢者 ミロン(6000)をコール!!くらうでぃあをソウルに入れ、ミロンにパワー+3000!!」

 

 

フラワースクリーンとミロンはそれぞれ別の列にコールされている。

私たちは成り行きを見つめることしか出来ない。

 

「メイデン・オブ・フラワースクリーンのスキル…ジェネレーションブレイク……ドロップゾーンのホーリーナイト・ガーディアンを山札に戻し……」

 

 

美空社長はリアガードのミロンを指差し、宣言する。

 

「フラワースクリーンに今、“秘められし賢者 ミロン”の名を与える!!」

 

「……ああ、そのためのデッキか」

ギアースシステムによってシャッフルされるデッキを見ながら、神沢クンが呟いた。

 

「……分かったの?」

 

「大体な…強くは無い…エクストリームとしては弱いが……早めに勝負を決めた方がいいかも知れない」

 

「……?」

 

 

社長は次にカスミローグのスキルを発動させる。

 

 

「カスミローグのスキル…CB1……G2以上のリアガードを1枚選び…山札からコールするわ……私が選ぶのは…“秘められし賢者 ミロン”よ」

 

 

私の頭にハテナが浮かぶ。

 

 

「……え?ミロンってG1……」

 

「先輩…見てなかったか?……今、リアガードにはG2の“ミロン”がいるんだ」

 

 

神沢クンがフラワースクリーンを指差す…そうか……そういうことか……

 

山札からV裏にコールされたミロンによって美空社長は更にカードをドローする。

 

 

「もう一度…よ」

 

そう言って美空社長は更にミロンをスペリオルコールし、ドローした。

 

 

「……むらくものカスミローグは起動能力でCBのある限り何回でも同名ユニットをスペリオルコールできる…だが、それはG2以上限定だ…普通なら連発するスキルじゃない……それを…フラワースクリーンを使うことでリアガード全体を増やせるようにしたという訳か……」

 

「……強くは無い……けど面倒な相手…ということだね……」

 

「ああ…相手にはスキルのコストを確保するためのユニットもある……下手するとミロンを毎ターンコールされて、ドローされ続けるぞ」

 

 

カスミローグのスキルで登場したユニットはターン終了時に山札に戻るため、毎ターン同じユニットをコールでき、登場時効果も使い回せるということか……流石むらくも…と言った所かな?

 

 

「それなら……いずれはデッキアウトするんじゃないかな……?」

 

「……相手はエクストリームデッキ…コンクエストやランブロスみたいな殺意剥き出しのGユニットが入ってる可能性がある……長期戦は危険だ」

 

「…そう言えば、マグナム・アサルト入ってたね…」

 

そうこう言っている間に美空社長はホイールウインド・ドラゴンをコールしていた。

 

出来上がった“ライン”は端から順に15000、17000、18000と脆弱だ……

だけど……このターン、社長さんが手札から出したカードは4枚、スキルで山札から登場したカードも4枚…

 

やはり、早々に仕掛けていった方が良さそうだ。

 

 

 

「ミロン…その力をカスミローグに捧げよ!!黄金の竜を幻想の刃で鮮血の舞踏会へ誘え!!」

 

<17000>

 

「「ノーガード!!」」

 

 

次のターンのために…コストは確保しておきたい。

 

 

「定めの扉を開け…ツインドライブ……ファースト、ナイト・オブ・フラッシュ(クリティカル)!!クリティカルはカスミローグに、パワーはホイールウインド…」

 

神沢クンが呟く…

 

「もう一発…来るぞ」「……」

 

 

美空社長がドライブチェックを続ける。

 

「セカンド…まぁるがる(ドロー)!!効果は同じくホイールウインドへ!!」

 

一瞬にして姿を消したカスミローグが、スペクトラル・デュークの背後に出現し…その体を切り刻んでいった。

 

思わず、スペリオル・デュークが膝をつく。

 

 

ダメージチェックは……黒竜の騎士 ヴォーティマーと誓いの解放者 アグロヴァル……か。

 

これでダメージは4vs3になった。

 

 

「ミロンと共に翔けるのは…麗しき花の精霊…行け!!メイデン・オブ・フラ「ブラスター・ダークでインターセプト!!」

 

 

「っ……ならば、ミロン、ホイールウインドよ!!その翼を持ってこの舞踏会を彩れ!!」

 

<28000>

 

ホイールウインド・ドラゴンがスペクトラル・デュークに向かって羽ばたく。

 

 

「エリクサー・ソムリエ2枚で……ガードだ!!」

 

それに二人のエリクサー・ソムリエが飛び乗ることで地面へと叩き落とす。

 

美空社長は二体のミロンを山札の下に戻し、ターンエンドを宣言した。

 

ダメージは私たちが4点、社長が3点……

 

手札は同じくらいの枚数だ。

 

 

「先輩…このターン…デュークで行くぞ」

 

「了解…行くよ、私たちのターン!!スタンドandドロー!!」

 

私たちはリアガードサークルを埋めるように、クロムジェイラー・ドラゴン、G2、G1のヴォーティマーをコールしていった。

 

 

「……ヴォーティマーのブーストしたリアガードのクロムジェイラーでカスミローグにアタック…!!」

 

<18000>

 

「世界樹の巫女 エレインでガード!!」

 

まだ…社長は3点……

 

だけど…全てはここから……

 

「次はヴァンガードのデュークだ!!、ブラックメイン・ウィッチのブーストでアタック!!」

 

<17000>

 

スペクトラル・デューク・ドラゴンは巨大なハルバードを構え、カスミローグへ突進する。

 

「その攻撃……ホーリーナイト・ガーディアンで完全ガード!!」

 

コストとしてリアンがドロップされた。

 

デュークの攻撃をホーリーナイト・ガーディアンが容易く受け止める。

 

 

そして、私はドライブチェックを始めた。

 

 

「ドライブチェック…first…サイレント・パニッシャー!!ゲット…クリティカル!!効果は全てデュークに…!そしてもう1枚もクリティカル!!効果は全てデュークに!!」

 

「……やはり、狙って…来たようね」

 

 

“ダブルクリティカル”

 

デュークのスキルを最大限生かすタイミングが到来する……ずっと…私と神沢クンはこの時を待っていた。

 

「行くよ、神沢クン」

 

「もちろんだ…先輩!」

 

 

「「スペクトラル・デューク・ドラゴンのリミットブレイク!!」」

 

 

コストはCB2と、既にレスト状態であるリアガードのクロムジェイラー、ヴォーティマー、ブラックメイン・ウィッチの退却によって支払われる。

 

 

 

「「もう一度、あの空へ…羽ばたけ!!ゴルド・チャージング・フェザー!!!」」

 

 

 

翼を輝かせ、天へと向かうスペクトラル・デューク…

 

 

私はその姿を見つめながら、美空ツキノ社長へと問いかけた。

 

 

「あなたの目的は……何!?」

 

「…………全ては…私の悲願」

 

「…私利私欲のために、ヴァンガードを利用して…ということ…!?」

 

「ヴァンガードは愛している!!…だけれど、私にはより深く愛しているモノが…存在する!!この愛を昇華させるためには、最早手段を選ぶ時は無い!!!」

 

「その口調で愛を語るか!!」

 

「貴女に何が分かる!?…哀しみと、怒りと、それすら上回る後悔の嵐の何を!!」

 

 

私と社長の口論がどんどんよく分からない方向へ進む中、神沢クンは静かにヴァンガードをレストした。

 

「……再スタンドし、ツインドライブを失ったスペクトラル・デューク・ドラゴンでアタック……パワー21000、クリティカル3だ……」

 

 

 

舞い散る黄金の羽と共に、スペクトラル・デューク・ドラゴンがカスミローグに迫る。

 

それに気づいた社長はすぐさまガードをした。

「ナイト・オブ・フラッシュ、エポナでガード!!」

 

<完全ガード>

 

「……っ、ドライブチェック…剛刃の解放者 アルウィラ…クリティカルトリガーだ…効果は全てリアガードのヴォーティマーに…」

 

 

神沢クンの言葉に続けて、私はリアガードを走らせる。

 

「カエダンのブーストした…ヴォーティマーでカスミローグにアタック!」

 

<21000☆2>

 

 

「……ノーガード」

 

ダメージにホーリーナイト・ガーディアンと、幸運の運び手 エポナが落とされた。

 

社長のダメージは5点…6点までは届かなかった…か。

 

「……先輩、カエダンのスキルを使う」

 

「……分かった」

 

 

神沢クンが私に指示を出す……カエダンのスキルはブーストしたユニットのアタックがヴァンガードにヒットした時に発動するものだ。

 

 

「CB1で…ヴォーティマーを退却、そしてデッキトップからレスト状態でリアガードをスペリオルコール…これは……」

「やっちゃってくれ……先輩」

 

「うん」

 

 

私は神沢クンの意図を理解する。

 

「その魂は覚悟の化身…コール・THE・リアガード、ブラスター・ダーク・スピリット……スキルで更にCB1…退却せよ、フラワースクリーン!!」

 

 

山札から現れたダークによって、フラワースクリーンが退却される……これで次のターン、ミロンをスペコすることは出来ないか…?

 

本当は……ミロンを退却出来ればより確実だったんだけどね……

 

私たちはターンエンドを宣言した。

 

 

ダメージは私たちが4…向こうが5……

 

 

「どうやら…ここまでのようね、舞踏会の終わりも近いのかしら?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

確かにファイトももうすぐ終盤だろう。

 

私は神沢クンに聞く。

 

「……社長さんの手札…分かる?」

 

神沢クンは大抵の相手なら次に何をドローするのか分かっている筈だ。

つまり……手札も…全て……

 

 

「……まぁるがる(グレード0)が2枚、エポナ(グレード0)マシンガン・グロリア(グレード1)ミロン(グレード1)が1枚ずつ…次のドローはナイト・オブ・フラッシュ(グレード0)だ」

「……超越は出来ない…か、完全ガードも無い…」

 

手札もこちらの方が多く、充実している……

 

 

「どうやら運命に殺されるのは…あなたのようだね」

 

「そうかしら?、この舞踏会の主は私…その私が運命に見放されると?……ふふっそれは無いわ…誰にも私の愛を止めることは出来ない、私の愛の力こそ…この世界の理そのものだということを思い知らせてあげる!」

 

 

「あなたの…愛…?…一体何だと…いうの?」

 

 

「ずっと待っていた…ギアースが秘められし力を解放する日を!!私の愛を形にできる今日という日を!!ヴェルダンディ!スクルド!!……貴女達には私の愛の贄になってもらうわ!!」

 

 

「くっ……愛だ、愛だと…重いよ…その言葉!!」

 

「お、重くなんてないもん!!」

 

 

……もん?

 

突如変化した美空ツキノさんの語尾に私が戸惑っている間に、彼女は今のセリフを言い直した。

 

 

「…っ///……重くなどない!!」

 

 

 

「…………あ、あなたの愛なんてものに押し潰される気は……私には無い…!!」

 

 

「ならば……ここで倒れてもらう!!」

 

 

 

私とツキノ社長はじっ…と神沢クンを見つめる。

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

「……俺にもやれって……言わないよな?」

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

………………

 

 

「運命の歯車を回す時は来た!!絢爛たる未来のため、私の手によって紡がれる、宿命の私のターン!!」

 

 

 

ツキノ社長がスタンド、ドローと続けていく……超越はせずにそのままメインフェイズへと入っていった。

 

ユニットの存在しない列に、マシンガン・グロリア(7000)が…カスミローグの後ろにミロンがコールされる。

 

そしてカスミローグは自身のスキルで、グロリアの前にホイールウインド・ドラゴンをコールする。

 

「私の手で…愛を……形にする!!行け!カスミローグ!!」

 

<17000>

 

 

ミロンのブーストを受けたカスミローグがスペクトラル・デュークに迫る。

 

「サイレント・パニッシャー……2枚で……」

 

「完全にガードだ!!」

 

 

サイレント・パニッシャーがカスミローグの放つクナイを弾き返す。

 

「……ドライブチェック…ファースト……エポナ、ゲットクリティカル!!効果はグロリアの前のホイールウインド!!セカンド…再びクリティカル!!パワーは先程のホイールウインドに、クリティカルはもう1枚のホイールウインドへ!!」

 

 

次にスペクトラル・デュークに仕掛けてきたのは、トリガーのパワーが乗っていないホイールウインド・ドラゴンだ。

 

私たちはこれをブラスター・ダーク・スピリットでインターセプトする。

 

 

「貴女達に…この計画を話す理由など……無いのよ!!グロリアでブーストしたホイールウインドのアタック!!」

 

<26000☆2>

 

 

「「エルドルで完全ガード!!」」

コストとして手札のブラスター・ダーク・スピリットをドロップし、完全ガードを発動させる。

 

 

ホイールウインド・ドラゴンはエルドルの放つ青き炎によって追い払われた。

 

 

「…グロリアのスキル、CB1で1枚ドロー…ブーストしたホイールウインドは山札の下へ……ターンエンド」

 

 

社長のターンが終了した。

 

ダメージは変わらず4vs5……手札の枚数は同じくらいだ。

 

私は美空社長に言い放つ。

 

「……あなたが私たちにその“計画”とやらを話す理由なら……ある」

 

 

「…?」

 

「あなたは……カグヤさんを困らせている!!」

 

「!!」

 

 

「……さっきのガスト・ブラスターとかのことじゃ無いのか」

 

 

神沢クンが呟く、そう…別にさっきのことは割りとどうでもいい……いや、良くは無いか。

 

むしろずっと…三日月グランドスタジアムの一件以来そっちのことの方が気になっているのだ。

同じヴァンガードファイターとして、カグヤさんには楽しくヴァンガードをして欲しいし…何か悩みがあるなら力になりたい。

 

そしてその悩みの内、彼女の能力以外の悩みこそ、明らかにこの人のことだろう。

 

 

…しかし、さっきのシーン…アニメとかなら、カグヤさんも近くにいて“ヒカリさん……”となっていても良い気がするのだけど、幸か不幸か…ファイトが始まった頃には近くにいたカグヤさんはいつの間にか居なくなっていた。

 

 

「この“計画”は……あの子のためにもあるのよ!」

 

 

「その口ぶりだと…カグヤさんにも話してない……かな?」

 

 

「……っ、知った風に……私は負けるまで何も話さないわ!!」

 

 

「その心配は必要無い……!!見えたよ、ファイナルターン!!」

 

私はそう言いながら、山札からカードをドローする。

 

 

「先輩、どうせなら俺もファイナルターンって言いたかったんだが」

 

「ごめん…えっと…スペクトラル・デューク…いけるよね?」

 

カウンターブラストを回復できるメリアグランスも手札にある……再スタンド……いけると思うんだけどね。

今、手札にあるカードをコールすることでパワー16000のラインを3つ作ることが出来る、そこからアタックしていけば……

 

 

一回目(R) 10000要求

 

二回目(V) 15000要求(2枚貫通)及び完全ガード要求

 

↓デュークのスタンド(ツイン→シングルドライブ)

 

三回目(V) 10000~20000要求

 

四回目(R) 10000~15000要求

 

 

…これで社長の手札を飛ばせないかな?

 

 

「……あの社長の手札には完全ガードは無い…だったらもっと楽に決める方法がある」

 

「……本当?」

私の問いかけに答える間もなく、神沢クンは手札からクロムジェイラー・ドラゴンをドロップした。

 

 

 

「己が未来…今こそ切り開け!!ストライド・my・ジェネレーション!!」

 

 

 

その瞬間、私たちの周囲が真っ白になる……これは…吹雪……?

 

吹き荒れる雪の中から…そのユニットは姿を現した。

 

 

 

「スノーエレメント…ブリーザ!!……敢えて俺からも言わせて貰おう……これがファイナルターンだ!!」

 

 

 

 

神沢クンが使用したのは…再びクレイエレメンタルのGユニットであった。

私は神沢クンの指示に従い、ユニットをコールしていく。

 

「えっと…カエダンの前にスペクトラル・デューク(10000)をコールして、反対の列にクリティカルトリガーのアルウィラをコール……そしてV裏にブラックメイン・ウィッチ(6000)をコール……だね」

 

「そしてブラックメイン・ウィッチのスキル発動、アルウィラを退却し、デッキトップからドロートリガーの蒼穹のファルコンナイトをコール……スキルでリアガードのスペクトラル・デュークにパワー+2000だ」

 

 

私たちはもう一度ブラックメイン・ウィッチをコール……ファルコンナイトを退却させてコールしたのは再びファルコンナイトであった。

 

 

「デュークにパワー+2000……これで下準備は完了だ」

 

 

行くぞ、先輩……と神沢クンが私を促す。

 

 

 

「「ファルコンナイトでブーストした、ブラックメイン・ウィッチでリアガードのホイールウインド・ドラゴンにアタック!!」」

<10000>

 

 

「……ノーガード」

 

 

これでインターセプトは無くなった。

 

後は……思いきりカスミローグにアタックしていくだけだ。

 

「「ブラックメイン・ウィッチのブースト…スノーエレメント ブリーザでカスミローグにアタック!!」」

 

神沢クンは更にスキルを発動させる。

 

「CB1とGゾーンの裏のアトモスを表にすることで、スキル発動……Gゾーンの表のカードの数×5000……今回はパワー15000をブリーザに与える!!」

 

<46000>

 

 

この高パワーを見て、美空社長は苦しそうに手札からカードを取り出した。

 

「まぁるがるでガード…カスミローグのリミットブレイク!!」

 

「!?」

 

「…………」

 

 

 

美空社長がCB1というコストを払うと、山札の中からもう1枚のまぁるがるがガーディアンとして登場した。

 

 

これが……カスミローグのリミットブレイク…山札からガードを持ってくる……ガーディアンを分身させることができるんだ……

 

 

「神沢クン……」「大丈夫、問題無い」

 

 

神沢クンは断言する。

 

 

「カスミローグは手札からコールしたガーディアンを分身させることができる……が、今の社長さんの手札で1枚のガード値が大きいカードは“エポナ”と“ナイト・オブ・フラッシュ”のみ……だがこれらのカードの残りは既にドロップゾーンやダメージゾーンの中だ」

 

「……そうなんだ」

 

「そしてもう一つ……社長さんに、このリミットブレイクを使うコストは……残っていない」

 

 

私はツキノ社長のダメージゾーンを見る……その全ては既に裏向きになっていた。

 

そして美空社長は自身の手札から、沢山のカードをガーディアンサークルへとコールした。

 

 

「続けて……幸運の運び手 エポナを2枚、ナイト・オブ・フラッシュを1枚……まぁるがるを1枚……これでガードしましょう」

 

<2枚貫通>

 

 

「「トリプルドライブ……first、光陣の解放者 エルドル……second、漆黒の先駆け ヴォーティマー……third、剛刃の解放者 アルウィラ!!……クリティカルトリガー!!……効果は全て、スペクトラル・デューク・ドラゴンにっ!!」」

 

私たちは最後のリアガード…カエダンとスペクトラル・デューク・ドラゴンを走らせる。

 

トリガーが乗り…パワーは26000…クリティカルは2だ……

 

 

「……ノーガード」

 

 

美空社長が悔しそうに、ダメージチェックを行う……彼女の残り1枚の手札では守りきれなかったということだ。

 

ダメージゾーンにはカスミローグが落とされ、ギアースの上ではスペクトラル・デューク・ドラゴンのハルバードがカスミローグを退けた。

 

 

 

……決着は…ついた。

 

 

 

 

「さあ……全て話して貰おうか……」

 

 

 

「私は……」

 

 

 

その時、ホールの扉が大きな音をたてて開く。

 

 

 

 

「お母様っ!!!」

 

 

 

現れたのはカグヤさん……左手にはコンビニ袋を持っており、その中にはどす黒く、形容しがたい異臭を放つ謎の物体が入っていた。

 

 

「か、カグヤ……それは……」

 

「またこんなものを……少しは練習するか、諦めるかしてください!!」

 

「ま……待って……」

 

「待ちません!!ようやく気づいたんです、文句くらい言わせて貰います!!」

 

私たちはただひたすら茫然と立ち尽くすのみだ。

 

 

 

「そもそも!!いつまで引っ張るんですか!?」

 

「待って!!……ほら、もうすぐ出来る筈だから!」

 

美空社長が指を鳴らす……すると、1度は停止した筈のギアースシステムが動き出し、白く発光する……この感じは“実体化”現象の時と同じだ。

 

美空社長がギアースのコンソールを弄る。

 

 

 

そして…徐々に“それ”は姿を現した。

 

 

 

 

「…………チョコレートケーキ…?」

 

 

 

 

私たちの前に出現したのは、クリーム色のテーブルと、綺麗な丸いお皿……そしてチョコレートケーキ。

 

 

 

「……どう、カグヤ!!」「どう…じゃあ無いですよ!!お母さま!!まさかギアースシステムのブラックボックスを開いた理由がこれですか!?お父様がこれだけはするなと言っていたのを知らないんですか!?」

 

 

「ううぅぅ……だって……だって、もう3年もまともにばなじでないじ……」

 

 

「泣かないでください!!自分から遠ざけてるんでしょう!?」

 

 

正直、何が起こっているのかさっぱり分からない。

 

だからカグヤさんに聞いてみることにした。

 

 

「あの……これって……」

 

「ヒカリさん…すいません……うちの母が重ね重ね……」

「う、うん」

 

目の前では美空社長が泣きじゃくっていた。

 

……どうしたものか。

 

 

「何が何だか……」

 

 

神沢クンに至っては、ずっと天井を見つめている。

 

状況を理解することも面倒になったのだろう。

 

 

「……そうですね、この話はちょうど3年程前に遡ります」

 

……何か、回想が始まった…

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

その日は2月14日…バレンタインでした。

 

うちの両親は結婚して8年目…あ、私は二人が結婚する少し前に養子に……厳密には少し違うんですけど拾ってもらったんです。

 

とにかく、その日に事は起こりました。

 

当時の両親はそれはもう引くくらいラブラブだったんです。

 

ええもう、どん引きって言えるでしょう。

 

2月14日も、“好き♪好き♪大~好き~♪”とか歌いながらチョコレートケーキという名前を辛うじて与えられていたダークマターを生成していたんです。

 

「な…ダークマターじゃないもん!!」

 

 

お母様は黙っていてください。

 

私や私の友達…お父様の職場の方からダークマターと呼ばれていたそれを……それでもお父様は毎年、覚悟を決めて摂取していたんです。

 

 

ですが、この年の“それ”は一味も二味も違っていたんです。

 

最早…食べ物どころか有機物であるかも疑わしいものがそこにはありました。

 

事実、お父様もお母様に問い詰められるまでそれがチョコレートケーキもとい毎年摂取してきたダークマターとも気づかなかったんです。

その日、それを見た父は……使わなくなった家電だと思い、回収業者に連絡を入れてしまいました。

 

 

そして……その回収業者さんが女性だったことが最大の問題だったんです。

 

お母様は“その光景”を見て、激怒しました。

 

お母様にとっては自身の愛が目一杯詰まったチョコレートケーキをお父様がお母様の知らない女性に渡す場面だったのですから。

 

そして謝るしか無かったお父様はお父様で、途中まで自分が捨ててしまった家電はお母様が大事にしているものだったのだと思っていました。

 

 

二人は全く話の噛み合わないまま……離婚してしまいました。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

いつの間にか、私の隣に神沢クンが来ていた。

 

そして、一言。

 

 

「くっ………………………………………だらねぇ…」

 

 

 

私は……カグヤさんに問いかける。

 

 

 

「………………………………………………で?」

 

 

正直、それ以外の言葉は見つからない。

 

 

「……後々自身の過ちを反省したお母様は、お父様の夢であった研究を空回りしながらサポートしていきました…やがてそれはMFSという形になり、ラグナレクCSへと繋がっていくんです」

 

「……空回りしながら?」

 

 

「ええ、お父様が研究に専念できるよう、お父様の会社を乗っ取ったり……気を散らさないよう、お父様が私に会わないように工作したり……」

 

 

……そしてMFSはさらに完成度を高め、ギアースシステムとして世に羽ばたいた……か。

 

「これは先程知ったことなんですが、ギアースシステムの根幹を担う鉱物にはまだ未知の部分があるそうなんです」

 

「それが…イメージの実体化?」

 

「ええ……」

 

 

今日、私たちが遭遇した“あれ”や今、目の前にあるチョコレートケーキのこと……か。

 

 

「私も詳しいことは知らないのですが…今、全世界に普及したギアースと違い、今日のここのギアースは一部のパーツが外されているそうなんです…そもそも、ギアースに用いられている鉱物は4年前に外宇宙からもたらされ、お母様の友人の研究者によって……」

 

「あ…難しい説明はいいかな……それよりも、結局美空ツキノさんは何をしようと……」

 

私の言葉を受け……カグヤさんがツキノさんの方を向く。

 

先程まで泣きじゃくっていたツキノさんは、すっかり落ち着いていた。

 

そんなツキノさんにカグヤさんは話しかけた。

 

 

「手作りチョコレートケーキ……で、もう一度プロポーズ……ですか?」

 

「…愛を…形に///」

 

 

 

私は思わず何も言えなくなる。

 

そして心の中で叫んだ。

 

 

…どうっでもいいよっ!!

 

その勢いのまま、私はツキノさんの前に立っていた。

 

 

 

「…好きって言ったら、また結婚してくれるかな…」

 

「小学生か!?」

※小学生では結婚できません。

 

 

 

最早カグヤさんよりも私の方がキレていた。

 

 

「……ヴェルダンディ恐いわ…」

 

「恐い言うな…!!そもそも手作りチョコレートケーキって……ギアース使ったあれは手作り!?…手作り!?……違うよね、というか、あれもまた一種のダークマターだよね!?」

ツキノさんは泣きそうだ、が知らない。

 

 

「第一、そんな小手先のことばかり考えて…思いを伝えるってこと、忘れてるよね!?そういう人に限って最終的に“思いだけ”伝えられないんだよ!?分かります!?」

 

「……うぅ……分かってますよ……」

 

「分かってるなら、今!直ぐ!!、その人の所に行って“大好きです”ぐらい言ったらどうなんですか!」

 

……何で私こんなにキレてるんだろう……ああ、そうか、やるせないんだ……今日過ごした時間の意味が分からなくて。

 

「で、でも……もし……」

 

「いいから砕けるくらいの勢いで当たってきなさい!!」

 

 

ツキノさんがよろよろと走り出す……私は一巨大企業の社長に何を言ってしまったんだ……

 

ふと、隣を見ると神沢クンが笑いを堪えながらグーサインを出していた……

 

……凄い疲れた……

 

 

 

「本当にご迷惑をお掛けしました……」

 

 

カグヤさんが謝る……いや、たぶん謝るべきなのは私の方だ……

 

 

「私の…方こそ……」

 

「いえ……少し安心できました……これでお父様とお母様も仲直りできると思います」

 

 

 

……いや…私としてはそんなこと…この際言ってしまえば、どうでもいいんだよ…ね……

 

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

そして私は家路についた。

 

 

 

私はこの小説を読んでくれた人もすっかり忘れていたと思うけど……着ていたゴスロリを脱ぐと、代わりの服を着ることも無くベッドにダイブした。

 

 

結局ビフレストCSが開かれた一番の理由は、ギアースシステムのブラックボックスを完全解放するためにファイター達の鮮明な“イメージ”がより多く必要だったから…だそうだ。

 

 

ちなみに決勝に進出した4人の内、ノルンの3人が途中で離脱したため優勝は残りの1人…関西のトップファイター 天海レイナさんに決まった。

 

 

優勝したレイナさんの家にはエクストラブースター“宇宙の咆哮”が四箱、発売日に届くらしい。

 

 

私は天井を見上げる。

 

 

 

 

…そもそも何であんな胡散臭い大会に出たんだっけ…

 

 

 

……そうだ…カグヤさんに会うため……

 

 

 

その瞬間、私は思い出した。

 

 

 

カグヤさんにヴァンガードを楽しんで欲しいと考えていたことに。

 

 

そして、今日カグヤさんと話す機会があったというのに……全く思いを伝えること無く、カグヤさんのお母さんを叱咤激励しただけだったことに……

 

 

 

「……何……やってんだ……私…………はぁ…」

 

そもそもカグヤさんの悩みの一部は解決できたかも知れないが、最も重要な、ヴァンガードに関わる……カグヤさんの“力”に対しての答えは示すことが出来なかった。

 

答え自体は見つかっているのだが……

 

結局は……またカグヤさん探しをしなければならないのだ……

 

 

私は瞳を閉じて、溜め息をつき……眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

そして12月の半ば…私は再びカグヤさんと再開することになる。

 

 

 




1月は更新がいつもよりスローペースになるかもしれませんが、よろしくお願いします。

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