“カードファイト‼ヴァンガード”…それは私にとって家族のようなものだった。
父と母の産み出していくカードは生き生きとしていて、輝いていて……
私も“ヴァンガード”も本当の意味では父と母の家族では無かったけれど、だからこそ私はヴァンガードに愛着を持っていた。
(けれど…ヴァンガードが私にくれたのは……私を独りにする“力”だった……)
ヒカリさんがファントム・ブラスター・ドラゴンをレストし、バトルに入る。
「行くよ…ファントム・ブラスター・ドラゴン!!」
パワー21000…クリティカルは2…
「……林檎の魔女 シードル、オレンジの魔女 バレンシア、慈悲の神器 エイルでガード…(2枚貫通)」
更にシードルのスキルによって、今、ガーディアンサークルに置かれているカードはドロップゾーンに置かれた際にソウルへと送られる。
私のガーディアンを確認したヒカリさんはドライブチェックを始めた。
「first、秘薬の魔女 アリアンロッド……second、漆黒の乙女 マーハ……トリガー無し」
トリガーは登場しなかった……ヒカリさんは少し考えた後、残りのリアガードであるカースド・ランサーでこちらのリアガード…豊穣の神器 フレイヤにアタックを仕掛けてきた。
私はこれをノーガードする。
「まだ届かないか……ターンエンド…」
「………」
ダメージは私が3点、ヒカリさんが2点…
次で12ターン目だというのに、ファイトが終わる雰囲気は無かった。
ヒカリさんのダメージコントロールによって、ユグドラシルはその攻撃をいなされていたのだ。
これが“柔能く剛を制す”ということだろうか。
(…リアガードの攻撃力が高いヤタガラスの方が良かったのでしょうか…?)
ヴァンガードファイト中にそんなことを考えるのは初めてであり、新鮮だった。
だが……
(ヒカリさんのデッキ……リアガードの退却が必要である
「ヒカリさん…やはり貴女では私に勝てない…」
「…私はそうは思わないよ」
だけど…それが現実なんです。
私がそれを…貴女に教える……
「私のター…「お二人さん、お待たせしました」
「…?」
「…店長!!」
突如、その言葉は投げ掛けられた。
その言葉を聞いた私とヒカリさんは一旦手札を置き…声の聞こえた方を向く。
そこにいたのはこのお店の店長さん…そして店長さんが持ってきたのは……
「……これが」「……おおお…」
そこに広がっていたのは言葉では形容できない夢のような光景……
「「マーブルグレア…シュタインズツイスト…」」
* * * * * *
「おおお……」
カグヤさんと私は、カードを汚したり、山札やドロップゾーンを崩したりしないように気を付けながら…“それ”と向き合った。
“それ”はケーキやプリン、アイスなんて言葉じゃ収まらず……軽々しくパフェ等と呼んでよいのかも分からない……
つまり…マーブルグレアシュタインズツイスト…だ。
荒々しさと、優美さを兼ね備えている…何なんだこれは……天国とはこれのことじゃないか…
私はスプーンで“それ”の一部分をすくい上げる。
香ばしいカラメルと、純白のスフレはさながら大理石のようだ…そしてその奥には……ぁぁぁ。
それを口に入れると、広がるのは蕩けるような甘さと、優しく撫でて貰っているようなほろ苦さ……そして遅れてベリー系の甘酸っぱさが私の心に染み渡っていく、そう…それはまるで春に吹くそよ風のようで……
「「ふあぁぁぁぁぁぁ……///」」
よく分からない声が出る、そしてそれがカグヤさんとハモった……
これは…人がこんなものを作っていいのか!?
放心状態の私たちに店長が聞いてくる。
「どうだ?この“マーブルグレアシュタインズツイスト”…今までで最高傑作だと思うんだよな」
「ヤバいですよ…これ…人類終わりますよ…」
「後世に語り継がれるでしょうね…」
その後、20分程…私たちは“マーブルグレアシュタインズツイスト”を堪能するのだった。
* * * * * *
「……では、改めて私のターンです」
しっかりとマーブルグレアシュタインズツイストを食べ終わった私とカグヤさんはファイトを再開する。
マーブルグレアシュタインズツイストからエネルギーは貰った…これでまだまだ集中力は続くだろう。
「…ドロー……再び解き放つは無慈悲なる破滅の力…ライド、宇宙の神器 CEO ユグドラシル…」
カグヤさんはユグドラシルからユグドラシルへと再ライドをする…
「シークメイト…花は咲き、海は割れ、星が産まれる……ユグドラシル、ノルン…双闘」
シークメイト能力の使用によってドロップゾーンからトリガーユニットが山札へ帰っていった…ジェネシスにとってはトリガー率を高めるだけでなく、他クランよりも早い山札の減りを押さえる手段にもなっている。
「…真昼の神器 ヘメラ(9000)をコール…ドロップゾーンから鏡の神器 アクリスを2枚、運命の神器 ノルンを1枚ソウルへ」
ユグドラシルに“エンジン”が積み込まれていく…
「オーダイン・オウルのブーストでユグドラシル、ノルンがアタック……レギオンスキル発動、ソウルブラスト6」
スキルによって、私はこの攻撃を手札からグレード1以上のガーディアンを使って防ぐことが出来なくなる。
更にクリティカルも増える…それだけでは終わらず、ソウルから吐かれたユニット達もそれぞれのスキルを発動させていく。
鏡の神器 アクリス…Vにパワー+5000
鏡の神器 アクリス…Vにパワー+5000
運命の神器 ノルン…Vにパワー+5000
運命の神器 ノルン…Vにパワー+5000
オレンジの魔女 バレンシア…SC2(苺の魔女 フランボワーズ、遠見の神器 クリア・エンジェル)
宇宙の神器 CEO ユグドラシル…特に無し。
「…合計パワー49000…クリティカルは2……貴女はグレード1以上のカードを手札から出せない…」
「……当然ノーガードだよ」
こちらのダメージは2点…ダブルクリティカルを引かれかければ問題無い。
もし引かれたらその時は完全に私の負けだ……私のヒールトリガーは既に4枚全てドロップゾーンの中にあるのだから。
「ドライブチェック…
私は息を飲み、静かに待つ。
「……凍気の神器 スヴェル…トリガー無しです」
私はほっと息を着いた。
私は…3点分のダメージチェックを始める。
3点目…カースド・ランサー
4点目…虚空の騎士 マスカレード
5点目…
トリガーによってファントム・ブラスター・ドラゴンのパワーは上昇し、カグヤさんの残りのリアガードでは私のVには傷をつけることが出来なくなった。
「……ヘメラでリアガードのカースド・ランサーにアタックします(14000)」
「ノーガード…カースド・ランサーは退却…」
「…ターンエンド」
これでダメージは私が5点、カグヤさんが3点…
手札は私が8枚、カグヤさんが5枚…
私は手札を見つめる…恐らくユグドラシルの攻撃は防げて1回…
ユグドラシルのスキルは連続して打ち続けるには限界があることが唯一の救いだ。
「私のターン…スタンドandドロー……」
大丈夫…私はまだ…戦える!!
「行くよ…カグヤさん!!」
「……!!」
私はそのカードをファントム・ブラスター・ドラゴンの上に重ねる。
「“夢”それは人の心に眠る光…その暖かなイメージが形を変えて希望無き世界に降り注ぐ時…忘れること叶わぬ日々は、絶望を打ち破る力に変わるだろう!!」
私の口から溢れる口上は、以前の物から自然と変わっていた。
「クロスライド・THE・ヴァンガード!!自らの絶望に打ち勝て!!ファントム・ブラスター・オーバーロード(13000)!!!」
これが私の……奈落竜様…その防御力、当てにしてるよ。
「奈落竜の後ろに黒の賢者 カロンをコール!……左後列の黒の賢者 カロンを前列へ移動し、その後ろに秘薬の魔女 アリアンロッドをコール!………更に右列に漆黒の乙女 マーハをコール!……スキル発動!CB2で山札の中から黒の賢者 カロンをスペリオルコール!!」
私は手札から、山札から、ユニットを展開していく。
カロン / PBO /マーハ
アリア/カロン/カロン……といった感じだ。
「まずは……アリアンロッドのブースト……カロンでリアガードのヘメラにアタック!!(15000)」
「ノーガード…」
カグヤさんの少ないリアガードを削っていく。
「そして!カロンのブーストしたファントム・ブラスター・オーバーロードでアタック!!パワー21000!」
「…ノーガードです」
私は山札へ手を伸ばす。
「ドライブチェック…first、ブラスター・ジャベリン…second、
「ダメージチェック…
これでダメージは5vs5……これでファイトの終わりも見えてくる。
「カロンのブーストを受けたマーハでアタック!!パワーは21000!!」
「
「ターンエンド…!」
13ターンが終わり、ダメージも互いにぎりぎりの所まで入っている……
私の手札は7枚、カグヤさんは4枚……果たして…私はどこまで行けるか…
「……カグヤさん…どうですか?…私とのファイトは…」
私は自然とカグヤさんに話しかけていた。
「…………」
「私、ヴァンガードって…どうしようも無いゲームだと思ってます…勝ちも負けも大きく運に左右されて……本当にどうしようも無い……」
「……私の…ターン…」
「でも…こんなゲームだからこそ、私は今…カグヤさんと対等に立ち回れている」
「……!」
「あなたの力は決して、ゲームの勝敗を決定するものでは無い…今、私はあなたと全力で勝負できている」
「……スタンド…ドロー……」
「だから……もう…悲観する必要は無いんです!」
「……ストライド!!ジェネレーション!!」
カグヤさんは何かを振り切るように首を振ると、手札からG3 叡知の神器 アンジェリカをドロップゾーンに置いた。
「神秘の星の瞬きが、新たな世界を照らし出す…ミラクルエレメント アトモス(26000)!!」
更にカグヤさんはオーダイン・オウルのスキルを二度誘発…ユグドラシルとアンジェリカを山札に戻すことでアトモスに10000のパワーを追加した。
そして、リアガードに全知の神器 ミネルヴァ(11000)をコールするとアトモスによるアタックを仕掛けてくる…もちろんアトモスのスキルも発動し、パワーをあげてきた。
合計パワーは52000といった所か。
「…だけど!!オーダイン・オウルのスキルはミネルヴァに使うべきだったね!!……だって」
「……っ!何で私は…こんな…初歩的な!!」
「マクリールで完全ガードだから!!」
コストはブラスター・ジャベリンだ。
カグヤさんはトリプルドライブチェックを行う…1枚目はユグドラシル、2枚目と3枚目は共に戦巫女 ククリヒメ……クリティカルトリガーだった。
「ミネルヴァで…!!(21000☆3)」
「
「…固い」
…因みにオーダインのスキルでミネルヴァにパワー+10000していたとしても、このターンで私がやられることは無かった。
「……ターンエンドっ!!」
「私の……ターン!!スタンドandドロー!!」
ダメージは継続して5vs5…手札は私が5枚、カグヤさんが6枚…だけど、私は既にリアガードを完全に展開している……ここで手札を使う理由は無い。
「アリアンロッドのブーストしたカロンでリアガードのミネルヴァにアタック!!(15000)」
「……ノーガード!」
ミネルヴァが退却される…これで次のターンもオーダイン・オウルが荒ぶるのだろうが…極力リアガードは潰しておきたい。
「カロンのブーストしたファントム・ブラスター・オーバーロードでユグドラシルにアタック!!(21000)」
「…クインテット…ウォール!!」
意を決したようにカグヤさんは手札から凍気の神器 スヴェルをコールする。
1枚のカウンターブラストによって5枚のカードがガーディアンサークルに登場する。
遠見の神器 クリア・エンジェル(☆)…10000
慈悲の神器 エイル(治) …10000
戦巫女 ククリヒメ(☆) …10000
林檎の魔女 シードル(G1) …5000
林檎の魔女 シードル(G1) …5000
+V 宇宙の神器 CEO ユグドラシル …11000
合計ガード値…51000
「……完全ガードです!!」
「何で…クインテットウォールを……?前のターンのトリプルドライブで引いたトリガーを使えば済むのに…」
「もう…クインテットウォールを使うには今しかありませんでしたから」
私はカグヤさんの山札を見つめる…既にその枚数は1桁に入っていた……確かにこのタイミング以降では使うことが出来ない……
……そして実は私の山札も、もうほとんど残っていない…
「…ドライブチェック…first、虚空の騎士 マスカレード……second、
「……っ!」
「カロンのブースト…漆黒の乙女 マーハでユグドラシルにアタック!!(21000☆2)」
「戦巫女 ククリヒメ、林檎の魔女 シードルでガードです!!」
シードルのスキルによって、ククリヒメとシードル自身はユグドラシルのソウルへ消えていった。
「ターンエンド…」
私の手札は7枚、残りの山札も7枚…
ダメージは5vs5…あともう少しだ…もう少しでカグヤさんのガードを崩すことができる……延々と続く殴り合いももうすぐ終わるのだ。
「私のターンです…スタンド、ドロー……ふふ」
「……?」
「ヒカリさん……私、今…どきどきしてます…これが“ヴァンガードファイト”なんですね……」
「カグヤさん……」
……私も…こんな、デッキアウトぎりぎりの戦いなんて久しぶりで……どきどきしていた。
長らく……撃退者Abyssの…レギオンという強力な力に頼りすぎていたこともあるだろう。
「ヒカリさん…貴女に今、感謝の気持ちと引導を渡します!!」
「……!!」
カグヤさんが再び“ライド”を行う。
「幾度も解き放つは、無慈悲なる閃光!!ライド!!宇宙の神器 CEO ユグドラシル!!」
そして、カグヤさんはドロップゾーンからカードを山札へ戻す…戻すカードは運命の神器 ノルン(G2)、遠見の神器 クリア・エンジェル(☆)、戦巫女 ククリヒメ(☆)、慈悲の神器 エイル(治)……
「シークメイト……花が、海が、星が輝き…二人を祝福する!双闘!ユグドラシル、ノルン!!」
カグヤさんはオーダイン・オウルを使い、ミネルヴァを山札に戻す……これでカグヤさんの山札は残り…8枚…
カグヤさんがファントム・ブラスター・オーバーロードにアタックを仕掛ける、レギオンスキルも発動、ソウルから吐かれたノルンによって更にパワーを上昇させる…まさに最後の攻撃だ。
「パワー39000…クリティカル2…このアタックに対しグレード1以上のカードは手札からガーディアンとしてコール出来ません!!」
このファイトで何度目だろうか…今回ばかりはこれを受けてしまうと私も無事ではいられない。
「これが…ユグドラシルのスキル、オール・オーバー・ザ・ワールドです!!」
だけど私は……ここで終わる気なんて無い!!
「なら!…
これで2枚貫通……でも!まだだ!!
「続けて漆黒の乙女 マーハでインターセプト!!これでパワー53000……完全ガードだよ!!」
「くっ……ドライブチェック…
「……ここでヒールトリガー……!!」
カグヤさんのダメージが5点から4点に回復する。
「ターンエンドです…ヒカリさん」
「なら私のターン…だね」
ダメージは私が5、カグヤさんが4……
……この17ターン目で…決める!!
「超越のコストにするより、リアガードを埋めることを優先するよ…虚空の騎士 マスカレードをコール!!……アリアンロッドのブーストしたカロンでヴァンガードにアタックだ!!(15000)」
「ノーガード!!…ダメージチェック、
ユグドラシルのパワーが16000まで上昇する。
「カロンのブースト、行け!!ファントム・ブラスター・オーバーロード!!(21000)」
「クリア・エンジェルとエイルで完全にガードです!ヒカリさん…私、負けたくありません!!」
「私もだよ!!…ドライブチェック…first、ブラスター・ダーク…second、暗黒の盾 マクリール!!」
そして私は、最後に残ったリアガードでアタックを仕掛ける。
「カロンとマスカレードでアタック!!(20000)」
「クリア・エンジェルでガード!!」
まだ…戦いは終わらない。
私はターンエンドを宣言し、状況を見つめる。
「では私のターン…スタンド、ドロー!!」
ダメージは5vs5…山札は互いに残り4枚…いや…
「叡知の神器 アンジェリカをコール!!…オーダイン・オウルのスキル発動…デッキボトムにドロップゾーンのユグドラシル、アンジェリカを送り、リアガードのアンジェリカにパワー+10000!!」
カグヤさんの山札が4枚から6枚に増える……このままでは私の方が先にデッキアウトしてしまう。
「オーダインのブーストした、ユグドラシルとノルンでヴァンガードにアタックです!!(29000)」
「マクリールで完全ガード!!」
私は完全ガードのコストにブラスター・ダークを選ぶと、カグヤさんのドライブチェックを見守った。
「ドライブチェック…
トリガーは1枚……か…恐らくこれでカグヤさんのデッキからトリガーは無くなった。
「私の全てを乗せて…叡知の神器 アンジェリカでファントム・ブラスター・オーバーロードにアタックします!!(26000☆2)」
「流石に通せないよ!!
こういう時、“クロスライド”の恩恵を感じる…
「…………ターンエンドです」
…ダメージは5vs5…カグヤさんの手札は4枚…内1枚はガード値の無いCEO ユグドラシル。
カグヤさんの守護者は完全ガード:クインテットウォールが2:2の配分だろう…だとすると少なくとも手札に完全ガードは入っていない筈……
私はカグヤさんのソウルとドロップゾーンにそれぞれ落とされている“完全ガード”を見ながらそう考えた。
どうあれこの19ターン目で勝負を決められないのなら、次は無い。
「魅せるよ…ファイナルターン……スタンドand…」
「…………」
私の山札は残り4枚……私はゆっくりとドローする。
「……ドロー……」
そこにあったのは、“ドロートリガー”……私のデッキに入っている内の最後の1枚…の筈だ。
もし、これが残りの3枚に入っていたら等……考えたくもない事態だった。
「カグヤさん…行くよ!!」
「!!」
私はカロンとマスカレードをレストする……アタックはユグドラシルに、パワーは20000だ。
カグヤさんは手札からトリガーのククリヒメをコールし、この攻撃をガードする。
続けてカロンと、アリアンロッド……パワー15000の攻撃にカグヤさんは同じくククリヒメでガードした。
「これが…最後の攻撃だよ!!カロンのブースト…ファントム・ブラスター・オーバーロードでパワー21000のアタック!!シャドウ・イロージョン!!」
そして私はカグヤさんを見つめる。
カグヤさんは……笑っていた。
「ノーガード……そして、私のデッキにヒールトリガーはありません」
そう言ってカグヤさんは更に手札の2枚を見せる。
そこにあったのは、CEO ユグドラシルと…クインテットウォール……
「……」
私は無言でドライブチェックを始めた……出る筈は無いのだけれど、もしここで間違ってもドロートリガーなんてものが出てしまえば、そこで私の負けなのだから……
「first、
私の山札に綺麗に1枚を残して、トリガーチェックは終わった……そう、カードは残っている。
「私の……勝ちです」
カグヤさんのダメージゾーンに6点目のダメージとして、オレンジの魔女 バレンシアが置かれた。
「……はい、ふふ…私の負け…ですね」
そう言うカグヤさんの表情はとても穏やかだった。
カグヤさんの表情を見て、私も思わず笑みが浮かぶ。
「カグヤさん……“あなたはヴァンガードが好きですか”?」
「はい…大好きです…」
それは半年前にカグヤさんから言われた台詞だ……カグヤさんの返事はあの頃の私よりもはっきりしていた。
「でも……ずっと…こんなファイトが出来ればいいのですが……」
カグヤさんが悲しそうに呟く。
「カグヤさん……」
その時だ、私の中で“何か”が鼓動した。
体温が上がるのを感じる、鼓動も速くなる…これはまるで私の“力”が発動する時のようだ……いや、少し違う……これは……
「……ヒカリさん?」
「…カグヤさん……私……」
私は何故かカグヤさんの方へ手を伸ばした。
「今なら……カグヤさんの……」
「ヒカリさん…!?」
横に置いてある鞄に付けていたペンダントが、激しく点滅する。
この感じ……“あの時”と同じだ……VFGP決勝で初めて…“力”を2回連続で使えるようになった時と…
「カグヤさんを縛るその“力”…あなたの心の扉を閉ざすその鎖………私が…」
私の指が、見えない何かを掴んだ。
「……ドロー………します…」
「……え?」
カグヤさんの辺りから引いた“何か”は不思議な感触だった。
そしてそれは、カグヤさんから離れると共に霧散し、消えていった。
何が起きたのかは…分から…な……い。
そして私はゆっくりと眠りについた。
* * * * * *
暗闇の中に私はいた。
遠くにはもうひとつ、人影が見える。
ーー『…全く、何をしているんだ…』ーー
私はその人を…そのゴスロリの少女を知っている。
「……久しぶりだね…“私”」
そこで再び私の意識は途切れてしまった……そして、次に目を覚ましたとき…私の頭は何か柔らかいものの上にあった…………
「………………って、カグヤさん!?」
「ヒカリさん…大丈夫ですか?」
私の頭はカグヤさんの膝の上にあり、私はうちわで扇いで貰っていた。
気がつくとおでこには冷却シートが貼られている。
「私…一体……」
何となく恥ずかしくなった私はカグヤさんの膝の上から隣の席に移動すると、改めて状況を思い出す。
……そうだ、私は…“力”を……
「……ヒカリさん?」
私はカグヤさんにありのままを話す…カグヤさんから“力”が消えた可能性があることを……
「ヒカリさんは…そんなことまで出来るんですか…」
「よく…分からないけど……」
気のせいか、ずっと昔にも同じようなことがあった気がする。
「確実に言えるのは…あの時、私は確かにカグヤさんから何かをドローしたということと……その何かが私の中に入ったとか…そういうことは無いということ…かな」
「私の何か…“力”……」
カグヤさんは自分の両手をまじまじと見つめた。
「試しに途中までファイト……してみます?」
「……はい!」
私とカグヤさんはデッキを整え、最初の手札を引いていく。
カグヤさんの瞳は蒼く輝き、“力”が発動しているのが見てとれた。
……が。
「カグヤさん……ほら」「……あ」
私の手札は……
ファントム・ブラスター・オーバーロード(G3)
虚空の騎士 マスカレード(G2)
暗黒の盾 マクリール(G1)
ブラスター・ジャベリン(G1)
グリム・リーパー(☆)
「……揃ってる……?」
「はい!揃ってます!!」
「揃ってる!!」
「揃ってます!!」
そしてカグヤさんは私の隣に来ると、思いきり抱きついて来た。
「凄い!!凄いです!!」
「うん!うん!」
その後数分間、私は抱き締められ続けた……うん、悪くは無い。
カグヤさんの“あの力”は消えた…瞳の輝きがあったことから消えたのは“あの力”だけで、つながりはそのままなのだろう……
それで良かったのだろうか…“あの力”はとても強力なものだったのに。
…………いや、良いことなんだ。
だって……それでゲームを楽しめないのは…勿体ないことなのだから。
「カグヤさん…」
「何とお礼を述べたらいいのか…母のことから私のことまで……」
「お礼なんて…全部、私の我が儘ですよ……ツキノさんのことだって私がキレただけです……」
どちらかというと、ツキノさんのことに関してはあまり触れてほしくは無い。
「それでも……いつかちゃんとお礼をさせてくださいね?……今は」
「?」
「店長さん!…私持ちでマーブルグレアシュタインズツイストをヒカリさんにお願いします!!」
「か、カグヤさん…悪いです……」
すると、店長はまるで注文が来ることがわかっていたかのように“すぐ”マーブルグレアシュタインズツイストを運んできた……それも2つ。
「店長さん?」「店長?」
「今日は特別……綺麗なお嬢さん方に俺からのサービスだ…この追加の2皿の料金はいらないよ」
私とカグヤさんは思わず叫んでしまった。
「「店長…大好きです!!」」
私とカグヤさんは再び、マーブルグレアシュタインズツイストを堪能する……
戦いの後の甘味は…最高だよ。
「ヒカリさん…」
「うにゅ?」
カグヤさんの呼び掛けに私は変な声で答えた。
そして……
「この礼は…必ずします……」
カグヤさんは口元にクリームをつけたまま……真剣な表情でそう言った。
* * * * * *
時は経ち…12月24日。
私は…カグヤさんに呼ばれて、三日月グランドスタジアムにいた。