君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

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074 聖夜の奇跡

クリスマス・イブ…12月24日…それは恋人や家族と過ごし、祝う日だ……まあ私には彼ら彼女らが一体何を祝っているのかはわからないが。

どの街も謎のクリスマスムードが漂うし、テレビをつけてもクリスマス一色……しまいにはどんなクリスマスをお過ごしですか等と聞いてくる。

 

誰か……友達や恋人、家族のいない人のことも考えてくれ(血涙)!!

 

 

 

 

…………ってここ数年思ってたのだけれど。

 

 

 

 

私、深見ヒカリは今日、三日月グランドスタジアムへある人に呼ばれていた。

その人とは……

 

 

 

「…ヒカリさん!!」

 

「カグヤさん、こんにちわ」

 

「今日は来てくれてありがとうございます」

 

 

 

 

……カグヤさんだ。

 

 

 

“あの後”、私の家にビフレストCSの時のような招待状が届いたのだ。

 

ー12月24日に三日月グランドスタジアムでお会いできませんか?ー……そこにはそう書かれていた。

 

 

 

「あの…申し訳ありません…クリスマスという日に呼び出してしまい……」

 

「いいんです…特に何の予定も入ってませんでしたから……」

 

 

あった予定と言えば、自分でケーキを作って独りで食べることくらいだ。これ以上は深く聞かないで欲しい。

 

 

「では、こちらに」

 

私はカグヤさんに連れられ、三日月グランドスタジアムへと足を踏み入れる。

入り口には大きなクリスマスツリーが飾られており、今日がクリスマス・イブであることを嫌でも思い出させてくる。

 

そして私たちはスタジアムの内部に入ることなく、人気の無いところに設置されたエレベーターの中へと入った。

 

「ここは…?」

 

「もうすぐ分かりますよ」

 

 

カグヤさんが懐から一枚のカードを取り出す……ヴァンガードのカードでは無く、どうやら三日月グループの社員証のようだ。

 

「社員では無いんですけどね」

「えっと…テストプレイヤー?」

 

「それは辞めさせていただきました……今は社長令嬢の大学生……といった所です」

 

 

カグヤさんはそう言いながら、カードをエレベーターのパネルと壁の隙間に差し込んだ。

 

「えい」

 

その時、エレベーターが動き出した。

 

体が浮くような感覚に襲われる…これは……下に向かっているのか。

エレベーターのパネルには何も表示されていない…何処に向かっているんだ?

 

「カグヤさん……これは」

 

「もうすぐですよ」

「……え?」

 

 

チン♪という小気味良い音と共にエレベーターの扉が開かれる。

 

目の前に伸びるのは真っ白い通路。

 

 

「ここは……?」

 

 

怖いくらいの清潔感がある空間だ。

 

 

先にエレベーターを降りたカグヤさんが私に向かって礼をする。

 

 

「ようこそヒカリさん…三日月グループカードゲーム開発課へ」

 

「…………え?」

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

「ここで……ヴァンガードが…」

 

 

私はカグヤさんに連れられ、様々な部屋を巡った。

 

どうやら……これがカグヤさんの以前言っていた“礼 ”らしい。

 

 

「カグヤさんはよくここに来るんですか?」

 

「今までは…ですね、これから来ることは無いでしょうが」

 

「……そうなの?」

 

「はい…あまり開発中のカードを知りすぎると、VCGPへの参加も認められなくなってしまうので…」

 

「……ってことはカグヤさん、VCGPに出るんだ…」

 

 

 

そして、ほんの少しではあるが、開発中のカードを見せてもらうこともできた。

 

創世竜 アムネスティ・メサイアやオルターエゴ・メサイア、黄金竜 スピアクロス・ドラゴン…………一番知りたかったシャドウパラディンのカードは見ることが出来なかったが、とても有意義な時間を過ごすことができた。

 

 

「メインイベントはこれから…ですよ?」

 

「…?」

 

カグヤさんと私は巨大なホールにたどり着いた……あのグランドスタジアムの下に更に同じような大きさのホールがあるとは驚きだ。

 

よく見るとホール一面に青いパネルが敷き詰められている。

 

 

……三日月製のギアースだ。アニメに登場した物はこれと形状もシステムも違っているらしいが、どちらも同じ名前で呼ばれている。

 

 

「ここにあるギアースはプロトタイプなんですよ」

 

「……へえ」

 

 

私たちはホールの中央へと歩き出す。そして、しばらく進んだところでカグヤさんは立ち止まった。

 

 

 

「それでですね……ヒカリさん…私、力を無くしたわけでは無かったみたいなんです」

 

「…………え?」

 

 

カグヤさんが唐突に語り出す…思い出されるのはこの間のファイト後のことだ。あの時私はカグヤさんから何かを“引き”、その後カグヤさんは“相手の手札を事故らせる”能力を失った……筈だけど…

 

……でも、あの時カグヤさんの瞳は力の発動を示していた……と、すると?

 

 

 

「私の力が…変化したみたいなんです」

 

「…変化?」

 

カグヤさんの後ろで黒服の男達が何かを用意し始めた。

 

 

「はい…“互いの手札事故を防ぐ”能力へ……」

 

「……!!!」

 

「あの後、ここで複数回のファイトを繰り返して、検証した結果です……“全てのファイターの初期手札はデッキ内のグレードごとにランダムで一枚ずつ選ばれる”……また、デッキ内に6種類以上のグレードが存在する場合はグレードの小さい順に一枚ずつ、4種類以下の場合はグレード0のカードが多く手札に加えられるという能力…」

 

「0、1、2、3、4……グレードって6種類以上あったっけ?」

 

「データ上はグレード5とグレード8が存在します」

 

……“互いの手札事故を防ぐ”、ヴァンガードというゲームにおいてこれほど素晴らしい能力もそうないだろう…自慢できるレベルだ。

 

…私や、神沢クンの能力はイカサマみたいな気がしちゃうしね…種も仕掛けも無いとはいえ。

 

 

「母の仮説によると、進化したヒカリさんの力によって私から“力”だけが引き離された後、私の中にあったヴァンガードとの“つながり”が全く新しい“力”を産み出したのではないか……だそうです」

 

「私の……力で……か」

 

実はあの後、私は“力”を1度のファイトで二度使うことが出来なくなった。

 

あの時のことが、“力”の進化だというのであれば、それはきっとその代償なのだろう。

 

 

「この力…何なんだろう」

 

 

デッキとのつながりが生む、人知を越えた力…どうしてこんなものが存在するのか…

 

 

「……(ヒカリさんは私よりも…ユニットとのつながりが強いのかもしれませんね…何故でしょう…)…さてヒカリさん」

 

「?」

 

カグヤさんが突然懐から紙を取りだし、何かを読み上げる。

 

 

「“アブソリュート・ドロー”」

 

「……え?」

 

「母からヒカリさんに……ヒカリさんの力の名前です……クリスマスプレゼントだと言ってました」

 

「いらない…………」

 

「でしょうね」

 

 

神沢クン辺りはドヤ顔で“これが神のラシンバンだ!!”なんて言ったりしてるんだろうけど今更…というか高校生がそんなことを言っているのは痛々しすぎるだろう。

 

いや、でも悪くは……う、違う…違うよ、割りと良い感じとか思ってないからね。

 

 

「というか……その……お母さん、ツキノさんは居ないんですか?」

 

まあ、ここは三日月の本社ビルでも無いのだから居なくても不思議では無いのだけれど。あの性格なら自分から私に力の名前を“授け”たがりそうなのに。

 

 

「母は……いえ、父と母は……」

 

「?」

 

「再…婚前旅行で、イギリスに……」

 

「!?……あ、ああ、そうなんだ……上手くいったんだ……カグヤさんのご両親の仲は…」

 

「ええ…出発の前には“弟と妹どっちが欲しい”かと聞かれました」

 

「うわぁ……」

 

 

 

しばらくの間、沈黙が私たちを襲う。潰れそうだ。…そういえば、事が進めばカグヤさんの苗字も変わるのかな……?

 

 

「とにかくです!」

 

「え!?は、はい…」

 

「私から、精一杯のお礼をさせてください…」

 

「弟か妹が出来ること…の……?」

 

「“力”と両親のことです!!」

 

 

そう言って、カグヤさんは後ろに控えていた黒服の人から黒っぽい、横長の箱を受け取り、私に差し出す。

 

「これを、あなたに」

 

「…………え」

 

その箱には……雀ヶ森レン様とブラスター・ダークが描かれていて……!?

 

 

「か、こ、こ、こ、これ………これっこれって…」

 

「はい、見ての通りです」

 

 

 

私は差し出された物を受けとる。これは……

 

 

 

「これは……これがレジェンドデッキ………『The Dark“Ren Suzugamori”』……!!」

 

 

今、私の目の前に……確か明後日発売で……ここ数ヶ月販売スケジュールが濃密だったためにカードの紹介が終わっておらず、今夜のニヤニヤ生放送で残りのカードを紹介するはずの……レジェンドデッキが……目の前にある。

 

「そしてこれも……です」

 

 

カグヤさんはレジェンドデッキのストレージボックスの上に裏向きでヴァンガードのカードを置いた…1、2、3……4枚のカード…全てGユニットであることが確認できる。

 

 

「あ、あ、あの……カグヤさんこれは……」

 

「ふふ……かぐやでサンタというのも可笑しな響きですが……プレゼントです、ブログに載せたりしたら駄目ですよ?」

 

「え、あ…ほ、しません!大丈夫です!!」

 

 

 

私はストレージボックスをじっと眺める。

 

美しい装飾の施された箱の側面には、新たなる奈落竜が描かれている。

 

 

 

かのファントム・ブラスター・オーバーロードを彷彿させるその姿を見た私の脳裏に様々な記憶がフラッシュバックされる。

 

 

 

ーー…………どうでもいいーー

 

ーーこの竜のカード……綺麗…ーー

 

 

ーーあなたの絶望した表情…見せてよ?ーー

 

 

ーーへえ…?君達みたいなのでも、日本語…理解できたんだ、凄いねーー

 

ーー悪夢に呑まれ、絶望せよ、愚か者どもが…ーー

 

 

ーーあ…ああ…ああああああああ!?…私、恥ずかしい人だ!?ーー

 

ーーこのカード……アルフレッド?…でも何でぐちゃぐちゃに…………まさか…ーー

 

ーー……あぁ……結局私は……駄目だね……ーー

 

 

 

 

「……これ、本当に良いんですか…!?」

 

「ええ、もちろんです」

 

 

 

私はすごく興奮していた。

 

 

 

だから、すぐには気がつかなかった。心の奥で私に呼び掛ける声と、輝き始めたペンダントに……

 

 

ーー『…………』ーー

 

「すごい…どうしよう……」

 

 

「良ければここでファイトしませんか?そのためにギアースのあるここにお呼びしたのですが」

 

 

ーー『…ヵ…リ』ーー

「は、はい、喜んで!!」

 

 

 

ーー『………ヒカリ』ーー

 

「……え?」

 

 

 

キィィィィィィィイイイン!!!

 

私の目の前に光の柱が立ち上る。

 

 

「……何……これ」

 

「……!?」

 

 

 

私は辺り次々と立ち上る光の柱を見つめる。

 

それはギアースシステムから発せられていた。

 

 

 

「……ギアースが勝手に起動した……の?」

 

「どういうことでしょうか……」

 

 

私とカグヤさんが呆然としている間に光の柱は増えていく。同様に私のペンダントも輝きを増していた。

 

 

「とにかく…ヒカリさん、この部屋から出ましょう!」

 

「は、はい…」

 

 

 

ーー『ちょっと……待った』ーー

 

「……え?」

 

 

 

カグヤさんに連れられ、このホールから脱出しようとした最中、頭の中と……背後から声が聞こえてきた。

 

 

ーー『……ヒカリ』ーー

 

私は振り向く。そこには無数の光の柱と…一人の人間の影が見えた。

 

「あなたは……」

 

「ヒカリさん!?」

 

 

私はホールの中央へと、カグヤさんからのプレゼントを持ったまま引き返す。

 

光の柱の向こうからも、一人の人間が現れた。

 

 

 

「やっぱり、あなたは…………」

 

『久しぶり…いや、こうして会うのは初めて…だろうな……“私”』

 

 

 

……そこにいたのは“私”だった。

 

 

 

最も…その身長は今の私よりも低い上に目の前の彼女は“ゴスロリ”を身に纏っている……つまり、二年前の私…何度も夢の中で出会った彼女だ。

 

「一体……どうして……?」

 

『私にもわからない』

 

「え、えええぇぇぇ……」

 

『だが、確かに私はここにいる』

 

彼女は私のほっぺを突っつく…“ビフレストCS”の時のように、私の中の“私”のイメージが実体化したとでも言うのだろうか。

 

全く不思議だ……どういうことなんだろうか。

 

 

 

「え…でもどういう…え?」

 

『ふふ…細かいことは良いじゃないか』

 

「いや……流石にそれで済まないよ」

 

『そう?』

 

 

彼女が首を傾げる。頭のリボンが揺れた。

 

 

 

『私としては…またとない機会と考えている』

 

 

 

そう言って彼女は私の持つレジェンドデッキを見つめた。

 

 

「……ああ……なるほどね……」

 

 

私は何も言わずに、レジェンドデッキを彼女に渡す。

 

彼女もまた、それを何も言わずに受け取った。

 

 

言葉はいらなかった…彼女は紛れもなく私であり、私は彼女………だからこそ。

 

 

 

 

……最高の対戦相手ということだ。

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

「……本当にファイトするんですか?」

 

「当たり前…だよ、こんな機会滅多にない」

 

 

私はデッキをシャッフルしながら、困惑するカグヤさんの問いに答える。ちなみにカグヤさんには今、私の鞄を持ってもらっている。

 

 

「ですが…あれは本当にもう一人ヒカリさんだと言うんですか……?確かに見た目はラグナレクCSで見かけたヒカリさんと酷似していますが……」

 

「うん、間違い無い、間違えようがない……分かるんだ、繋がってるって……」

 

「はぁ……」

 

 

今、目の前にいる私は、中学二年の私…奈落竜を使いこなし、ノルンのベルダンディと呼ばれたファイターその人だ。

一度はヴァンガードを辞めた私がかつて心の奥に閉じ込めていたもう一人の私。

 

 

ーー今の私と実力を図るのに、そして……

 

 

私は彼女の方を見つめる。ぼんやりと安定しない実体をかろうじて保っている彼女は“レジェンドデッキ”を開封していた。

そして、カードを確認しながらスリーブの中へと入れていく。

ーーレジェンドデッキの性能を知るのに、これ以上の相手はいない。

 

 

私は彼女にレジェンドデッキを渡した後、彼女から返された4枚のカードを見つめる。

そのカードはカグヤさんからレジェンドデッキとは別に貰ったカードで、確かに…レジェンドデッキ用では無かった。

 

 

「ですがヒカリさん…レジェンドデッキの内容は把握してませんよね!?」

 

「だから楽しみですよ」

 

「それは……そうですが…」

 

 

 

未判明のカードは二種……奈落竜とブラスター・ダークだ。

今晩には公開される筈のカード…どんなカードか予想するだけで、興奮が収まらない。

 

デッキをシャッフルする私をカグヤさんは黙って見つめる。

 

 

「(…ここのギアースはプロトタイプ……だから正規のギアースで封印されている筈の機能もビフレストCSの時のように発動したということでしょうか……でも、あの時も、今回も…ここまではっきり実体化するなんて聞いたことが無い……何か他に“外的要因”があるとでも言うのでしょうか……)」

 

私はデッキをテーブルに置くと、彼女の方を見つめた。どうやら彼女も準備は終わっているようだ。

ギアースシステムが先攻後攻をランダムに決定する。私が先攻だ。

 

 

「なら……」『始めようか……』

 

“私”たちは手札を構える。

 

 

『「あなたの本気の表情…見せてよ!!」』

 

 

 

「スタンドアップ・THE・ヴァンガード!!」

『スタンドアップ・the・ヴァンガード!!』

 

 

 

私たちの前に、それぞれのFVが姿を現す。

 

私の前に現れたのはジャッジバウ・撃退者。

そして彼女の前に現れたのは……

 

「フルバウ……“ブレイブ”」

 

 

シャドウパラディン…ファントム・ブラスター・ドラゴンを主軸としたデッキでかつて活躍したファーストヴァンガード…“フルバウ”の強化形態。気のせいか以前より鎧の刺々しさが増している。

 

ああ……フルバウ・ブレイブ。

 

前情報で存在もテキストも知っているが、こうして実際にその姿を見ると目頭が熱くなる。

 

 

ーーおお…この子…犬?…あ、犬かーー

 

初見時の感想もすぐに思い出す…出来れば漫画版に登場した“フルバウ・撃退者”も欲しかったが贅沢は言わない。

 

『さあ…行くぞ?』「……うん!」

 

私は軽く流れた涙をぬぐうと、山札に手を伸ばす。

 

 

「私のターン…ドロー!!そして無常の撃退者 マスカレード(7000)にライド!!ジャッジバウを後ろに先駆してターンエンド!!」

 

場を見ると、ヴァンガードであるマスカレードも若干微笑んでいる…私の中の嬉しい気持ちをギアースが読み取ったのだろうか。

 

 

『なら私のターン…ドロー!!そして真黒の賢者 カロン(7000)にライド!!』

 

「カロン!!!」

 

 

私に向かい合うようにして、灰色の髪の少年が現れる。その姿はシャドウパラディンのG1、パワー8000のユニットだった頃の雰囲気を失っていなかった。

 

ーー…綺麗なカード…ーー

 

 

その感想は今も昔も変わらない。以前エンちゃんが言っていたことを思い出す…カードのデザインが好き、ずっと私も、同じことを思っていたんだ。

 

 

『フルバウ・ブレイブは先駆でカロンの後ろにコール…フルバウのブーストしたカロンでヴァンガードにアタック!!(12000)』

「ノーガード!!」

 

『ドライブチェック…力戦の騎士 クローダス、トリガー無しだ』

 

 

…クローダス……なんでここで突然“撃退者”出身の彼なんだろう……確かに私もこの半年間に何度も彼を、いやドリンも合わせて彼らを使って来て、助けられて来たけれど。愛着もあるけれど。

 

マスカレードやルゴスにも会いたかったというのは贅沢だろうか。

 

カロンの魔法による雷撃を受けたマスカレードが膝をつく。ダメージチェックではドラグルーラー・ファントムが落とされた。

 

『ターンエンドだ』

 

「私のターン…スタンドandドロー…ライド!ブラスター・ダーク・撃退者“Abyss”(9000)!!」

 

 

私はそのままダークによるアタックを仕掛ける。

 

ダークの剣と、カロンの魔術が交錯する。

 

『ダメージチェック…跳躍の騎士 リガンルミナ、クリティカルトリガーだ、効果は全てカロンへ』

 

「じゃあ、ターンエンドだよ」

 

リガンルミナ…彼は新顔かな?…しかし胸の高鳴りが押さえきれない…カグヤさんや神沢クン達とのファイトとはまた別のベクトルで興奮しっぱなしだ。

『ふふ…スタンドandドロー!!そしてライド!!外道の盾 マクリール(8000)!!更に血戦の騎士 ドリン(9000)、力戦の騎士 クローダス(7000)もコール!!』

 

「お、おお、おおおおおおおお!!」

 

『フルバウのブーストしたマクリールでアタック!!(13000)』

 

マクリールがもの凄い勢いでこちらに突撃してくる。

あの勢いでダークを吹き飛ばすつもりだろうか。

 

厳格なる撃退者(クリティカルトリガー)でガード!!(完全)」

 

『ドライブチェック…闇夜の乙女 マーハ!!トリガー無し!!』

 

「マーハだ!!!」

 

マーハさんなんて見せられたら興奮するしか無いじゃないか。

 

 

『ドリンとクローダスでアタック!!(16000)』

「え、えっとノーガード!!」

 

 

ドリンとクローダスが連携攻撃で、ダークの鎧に一撃を与えた。ダメージチェックではシャドウランサーが落とされる。

 

『これで……エンドだ』

 

 

ここまで私のダメージは2点、彼女が1点……先攻が私だったことを考えると、今のところ無難に動けているようだ。……まあ無難だけでは終わらないけど!!

 

 

「行くよ…スタンドandドロー!!そして、世界の優しさと痛みを知る漆黒の騎士よ!我らを導く先導者となれ!!」

 

 

ダークの足元で、ヴァンガードサークルが回転を始める。

 

 

「ライド・THE・ヴァンガード!!幽幻の撃退者 モルドレッド・ファントム(11000)!!」

 

 

 

次の瞬間、ダークが居た場所には、別の騎士が立っていた。伸びた銀髪を無造作に後ろで纏めた、緋色の瞳の騎士。

 

私の大切な騎士……モルドレッド・ファントム。

 

 

『…さあ…その力、この私に見せるといい!!』

 

「勿論!!左列リアガードサークルに督戦の撃退者 ドリン(7000)をコール!!」

 

私のドリンと彼女のドリン……二人が睨み合う。

 

 

「右列に詭計の撃退者 マナ(8000)をコール!!スキルで山札からその後ろに撃退者 ダークボンド・トランペッター(6000)をスペリオルコールだよ!!」

 

勿論、これで終わるスキルでは無い。だったんは愛用のトランペットを鳴らし、更なる仲間を集結させる。

 

 

「だったんのスキルで魁の撃退者 クローダス(5000)を山札からレストでスペリオルコール!!クローダスのスキル発動!スペリオルコール!!ブラスター・ダーク・撃退者(9000)!!!」

 

 

モルドレッドとダークが拳と拳を合わせる…これで私の盤面は整った。

 

カウンターブラストを2枚消費したが、ドリンの前方にダークをコールしたことで、ドリンのスキルが発動し、カウンターチャージを行うことができた。

 

 

「さあ…マナとだったんでリアガードのドリンにアタック!!」

 

 

こちらの盤面の督戦の撃退者 ドリンがぎょっとした顔でこちらを見る、違う、君じゃない。

 

 

『ノーガードだ』

 

 

マナは血戦の騎士 ドリンの腹部に強烈な蹴りをお見舞いする。これでドリンは退却……っと。

 

 

「次行くよ…ジャッジバウのブーストしたモルドレッド・ファントムでアタック!!モルドレッドはVアタック時にパワー+3000!!(18000)」

 

『それも…ノーガード!!』

 

「ならドライブチェック!!first、ファントム・ブラスター“Abyss”…second、ブラスター・ダーク・撃退者!!ダメージは1点!!」

 

 

モルドレッドがマクリールに一撃を加える……マクリールの鎧に傷がつくことは無かったが、マクリール自身は後方へと押し飛ばされた。

 

彼女のダメージゾーンに落ちたのは、これもまた外道の盾 マクリールであった。

 

そして、私の盤面ではジャッジバウが吠える。“ファントム”をブーストしたアタックがヒットしたためにスキルが発動するのだ。

 

「ジャッジバウのスキル発動!!」

 

『……』

 

「自身をソウルに入れ、CB1!!山札から無常の撃退者 マスカレードと督戦の撃退者 ドリンをレストでスペリオルコール!!」

 

 

マスカレードはジャッジバウのいた場所に、ドリンはだったんの上から上書きでコールされる。

 

だったんはドリンとハイタッチを交わし、光となって消えていった。

 

 

「最後!!督戦の撃退者 ドリンのブーストしたブラスター・ダーク・撃退者でアタック!!(16000)」

 

フラトバウ(ヒールトリガー)で…ガード!!」

 

 

新しいシャドウパラディンのヒールトリガーか…攻撃は防がれてしまった。

 

 

「……ターンエンド」『私のターン…』

 

 

 

ダメージは私が2点…彼女も2点。私は既にグレード3にライドしているため、このターン、彼女がグレード3にライドした場合いよいよ“超越”が使えるようになる。

 

シャドウパラディンのGユニット……か。

 

 

 

『スタンドandドロー…そして』

 

「……」

 

 

彼女は1枚のカードを掲げる。

 

 

 

『光を示すため…我ら敢えて闇とならん!!今ここに!!闇より深き真のDarkを!!ライド・the・ヴァンガード!!』

 

 

 

黒き閃光が瞬き、新生した漆黒の剣士が戦場に降り立った……ああ、彼こそが……

 

 

 

『ブラスター・ダーク…“Diablo”(11000)!!』

 

「……ディアブロ…」

 

 

 

今までのブラスター・ダークと違い、漆黒の鎧には金色の装飾が施されている…撃退者時代からの紅いマントは健在だ。

 

 

ーー単純にあいつの剣士としての腕…そして感情の力に兵装の力が追い付かなくなったのだろうなーー

 

ーー次にダークの兵装の再調整…さっきの隊長の言葉が本当なら兵装の調整しだいでダークが出せる力は以前よりも上昇するはずだからねーー

 

 

以前、“実際に訪れた惑星クレイ”で聞いた台詞が甦る……もしかしたら、これがあの後に誕生した新しい“ブラスター”なのかもしれない。

 

 

ブラスター・ダーク“Diablo”がその剣を高く掲げる。その姿は彼を従える彼女の姿と重なって見えた。

 

彼女もまた新たなカードを掲げていたのだ。

 

 

『ジェネレーションゾーン……開放!!』

 

 

彼女はゴスロリのリボンを揺らしながら、もう一枚のダークDiabloをドロップゾーンへと置いた。

 

 

『誇り高き戦士、我が声に答えよ!!ストライド・the・ヴァンガード!!暗黒騎士 グリム・リクルーター(26000)!!』

 

「グリム……」

 

現れたのは鎧を纏うオッドアイの馬に乗り込んだ、巨大な鎌を構えた騎士であった。

 

 

“グリム”という名前で思い出すのは、クリティカルトリガーである“グリム・リーパー”や“厳格なる撃退者(グリム・リベンジャー)”達だが……その姿は彼らと似ても似つかない……

 

……まあリーパーと撃退者も見た目全然違うけどね。

 

 

 

ーーゲット…グリム・リーパー!!ーー

 

ーー…くそっ!!クリティカルさえ引かれなきゃーー

 

ーー勝てたと?…ははっ…世迷い言をーー

 

 

 

更に彼女は前のターンまでドリンがいたリアガードサークルにユニットをコールする。

 

 

『月の光は進軍の狼煙…コール・the・リアガード!!闇夜の乙女 マーハ(9000)!!』

 

 

ーーヒカリ様!このカード良いですよ!!特に太ももが!!ーー

 

ーーCB2…少し重いか……でも…ーー

 

ーー可愛いですよね!!ーー

 

 

 

次々と思い出が甦っていく。

 

そんな中、彼女はフルバウ・ブレイブのスキルを発動、山札の中からブラスター・ダーク“Diablo”を回収していった。

 

 

『進撃せよ!!グリム・リクルーター!!(26000)』

 

「マクリールで完全ガード、コストは氷結の撃退者だよ!!」

 

 

グリム・リクルーターの振るう鎌をマクリールががっちりと受け止める。Gユニットの攻撃は見た目も激しいものだが、マクリールはそれを受けて尚、不適な笑みを浮かべていた。

 

 

『ドライブチェック…first、真黒の賢者 カロン…second、血戦の騎士 ドリン…third、暗黒大魔道士 バイヴ・カー……』

 

「……」

 

 

トリガーは出ない…今のうちに出てくれた方が対応はしやすかったんだけどね……

 

 

『クローダスのブースト、ブラスターがVにいるためパワー+2000…そして闇夜の乙女がアタックする……スキル発動』

 

「………」

 

『ブラスター・ダーク“Diablo”の後ろに……ダークハート・トランペッター(7000)を山札からスペリオルコールだ!!』

「だったん!!」

 

光と共に現れるのは、紫の髪に綺麗な翠の瞳を持った可愛らしい少女。その姿に私は見覚えがあった。

 

 

ーー…ダークボンドじゃないんだねーー

ーーこれから、自分がしたいこと、しなきゃいけないことを見つけるため…今よりも成長するために……まずは名前から変えたんだーー

 

ーー成長……胸とか?ーー

 

ーー違う!…それに…あなたも同じくらいあるじゃない…ーー

 

 

懐かしい会話…あれももう5か月も前の話なんだ。あの時彼女が名乗っていた名前も確か…“ダークハート”だった。

 

 

『スキル発動!!SB1で山札からクローダスをスペリオルコール!!』

 

クローダスが空いていた前列のリアガードサークルに登場した。

 

『マーハのアタック…パワー18000だ!!』

 

「ダークとマナでインターセプト!!」

 

ダークの剣がマーハの剣を退け、マナの蹴りがマーハを吹き飛ばす。これで残ったクローダスはパワー9000であるため、パワー11000のモルドレッドしか前列にいない私に、アタックのヒットする相手はいなくなった。

 

 

『ターンエンドだ』「なら私のターンだね」

 

 

ダメージは未だ2対2…私も攻めて行くよ!!

 

「スタンドandドロー…そして!!」

 

 

前のターンの彼女のように、私も手札からユニットを取り出す。

 

 

「真なる奈落で影と影…深淵で見た魂の光が彼らを繋ぎ、強くする!!ブレイクライドレギオン!!」

 

 

ブレイクライドによって、山札からブラスター・ダーク・撃退者がパワー+5000された状態でスペリオルコールされた。更にその後列にドリンが置かれていたため、ブレイクライドに使用したCBは表に戻った。

 

 

「撃退者…ファントム・ブラスター“Abyss”!!ブラスター・ダーク・撃退者“Abyss”!!」

 

 

そして“双闘”したため、ヴァンガードのファントム・ブラスター“Abyss”の隣にはブラスター・ダーク・撃退者“Abyss”が並んでいる。

 

そこに私がもう一枚のブラスター・ダーク・撃退者をコールすることで、前列に3人のブラスター・ダークが並ぶことになる。

 

 

『壮観…だ』 「ふふ…魅せるよ?」

 

 

 

もう一枚のドリンのスキルが発動…ファントム・ブラスター“Abyss”用のコストも揃う。

 

ダーク撃/PBAbyss/ダーク撃

ドリン /マスカレ/ ドリン……という風に盤面は揃った。

 

 

「ドリンのブーストしたダークでヴァンガードのDiabloにアタック!!(16000)」

『ノーガード…ゲット、ヒールトリガー』

 

 

ダークとダークがぶつかり合う…ダメージゾーンにカードが落ちるもヒールトリガー…有効ヒールだった。

パワーはダークDiabloに乗せられた。

 

 

「だったら…マスカレードでブーストしたAbyssのレギオンアタック!!(39000)」

『ノーガードだよ』

 

ファントム・ブラスター“Abyss”の刃をダークが受け流す…ダメージは与えているものの、ダークDiabloの表情には余裕の色が見えた。

 

 

「ドライブチェック…first、撃退者 エアレイド・ドラゴン(クリティカルトリガー)!!効果は全てAbyssへ!!…そしてsecond、撃退者 エアレイド・ドラゴン(クリティカルトリガー)!!!効果は同じくAbyssに与える!!」

 

ダークAbyssの剣が、ダークDiabloの剣を撥ね飛ばした…ダークDiabloに致命的な隙が生まれ、そこをファントム・ブラスターが狙い打つ。

 

ダブルクリティカル…合計3点のダメージがダークDiabloを、そして彼女を襲った。

 

 

『……ダメージチェック』

 

 

彼女のダメージゾーンに落とされたのは、暗黒大魔道士 バイヴ・カーが2枚に、ドロートリガーであるハウルオウルが1枚。これでダメージ5だ。

 

そしてダークDiabloのパワーは21000…なかなか大きい数字だけど……今のAbyssはそれを余裕で上回る!!

 

私はカウンターブラストを2枚…つまり今ある全てを裏返し、レストしているダーク、ドリン、マスカレードを退却させる。

 

 

「畳み掛けていくよ!!魂と魂を繋ぎ、立ち上がれエターナルアビス!!再度Diabloにアタック!!パワー43000だよ!!」

 

 

一度は戦場から離れたダークと奈落竜が再び戦場に、Diabloの真上へと降り立つ…ダークDiabloは未だに剣を落としたままだ。

 

 

『甘いな、その程度か?』

 

「!?」

 

突然、奈落竜が、ファントム・ブラスター“Abyss”が力を失ったように地面へと墜落する。

 

そして、ダークDiabloの隣には際どい服装の幼女が立っていた。どうやら…Abyssの力は幼女の持つドクロのようなものに吸いとられてしまったようだ……

 

 

『完全ガード……髑髏の魔女っ娘 ネヴァン』

 

「あれがネヴァン……ね」

 

 

彼女は完全ガードのコストにドリンをドロップした。

 

しかしネヴァン…私の知ってるネヴァンはもっと大人の容姿をしたものだったが…

 

 

ーー銭湯ならあるけどお風呂なら僕の家のを使っていいよ……この町の銭湯はたまに魔女の人達が変な実験してたりするから…ーー

 

 

以前だったんがそんなことを言っていた…これもまた変な実験の影響なのだろうか。

 

以前のネヴァンはヴァンガード史上最もパワーの低いユニットであったが、今回のネヴァンはグレードが下がったものの、パワーは以前の倍、スキルも完全ガードととてもお堅いようだ。

 

 

とにもかくにも、Abyssのアタックは止められてしまった。

 

 

「ドライブチェック…first、幽幻の撃退者 モルドレッド・ファントム……second、よし、厳格なる撃退者(クリティカルトリガー)!!効果はブラスター・ダーク・撃退者に乗せるよ!!」

『………』

 

Abyss達の援護をするように、ダーク撃退者が戦場を駆ける。対するDiabloは既に剣を取り戻し、これを迎え撃とうとしていた。

 

 

「ドリンのブースト…パワー26000のブラスター・ダーク・撃退者でDiabloにアタック!!」

 

フラトバウ(ヒールトリガー)でガードだ…』

 

 

ダークの剣は、黒犬に邪魔をされ、Diabloまで届くことは無かった…

 

「……ターンエンド」

 

 

 

私のダメージは2点、彼女は5点。

 

手札は私が7枚、彼女が4枚。

 

私の方が優勢……だけど何故か…嫌な予感がする。

 

 

『私のターン……スタンドandドロー……魅せようか、ファイナルターン!!』

 

「……っ!!」

 

 

ファイナルターン宣言……“私”の場合“魅せる”と言った時は“見せる”と言った時と違い、確実に勝負を決められるわけではない……けど。

相当な一撃が来ることは…間違い無い。

 

 

 

『解放せよ…ジェネレーションゾーン!!』

 

 

彼女がブラスター・ダーク“Diablo”をドロップゾーンに置く。

 

 

 

『守護竜の魂は消えずこの胸に!!一度絶望を知った竜は二度と希望の光を失わない!ストライド・the・ヴァンガード!!』

 

 

ゴスロリ姿の彼女の背中から巨大な漆黒の翼が生えた…いや、そう見えたのだ。

 

彼女の後ろにいた“翼”の持ち主は羽ばたき、私の前へと…ダークDiabloの頭上へと姿を現す。

 

 

 

『暗黒竜 ファントム・ブラスター“Diablo”!!』

 

 

 

暗黒竜 ファントム・ブラスター“Diablo”(26000)…その姿はかのファントム・ブラスター・オーバーロードに酷似していた。が、その目はオーバーロード(過負荷)時代とは違い、理性に溢れている。

 

その左手からはオーラが溢れていた。

 

「……ファントム・ブラスター“Diablo”」

 

『ああ、私の……いや“私達”の新しい切り札だ』

 

 

 

ーーヒカリ様!!これ!!ファントム・ブラスター・オーバーロードですって!!ーー

 

ーーオーバーロード…これが私の…新たな翼…切り札ということか……ーー

 

 

 

そして彼女は私のリアガード…ブラスター・ダーク・撃退者を指差す。

 

 

『ブラスター・ダーク“Diablo”のストライドスキル発動……ダークを退却だ』

 

「………」

 

 

ダークDiabloの剣から発せられたエネルギーが、ダーク撃退者の足元で爆発する。

 

これで私のリアガードはドリンだけになった。

 

 

 

『そしてファントム・ブラスター“Diablo”のスキル発動……CB1、Gゾーンの同名カードを表にする…ファントム・ブラスター“Diablo”にパワー+10000、クリティカル+1』

 

ファントム・ブラスター“Diablo”を中心に空間が歪んでいく。そのスキルはまさしく、かのファントム・ブラスター・オーバーロードを彷彿させた。

 

 

 

『まだ終わらないぞ?“Diablo”は更にスキルを得る……』

 

 

「……スキル?」

 

 

『このユニットがアタックした時、私はリアガードを3体退却させる……その場合、相手は自身のリアガードを2体退却させてよい……が、退却させなければこのアタックは手札からガード出来ない』

 

 

「嘘……!?」

 

 

退却させるも何も、今、私のリアガードサークルにはグレード1のドリン一人しかいない。つまりDiabloのクリティカル2のアタックは通すしか無い訳だ。

 

 

「理不尽な……」

 

『ふふ…真黒の賢者 カロン(7000)をコール!!クローダス(7000)のブーストでアタック!!クローダスはスキルでパワー+2000!!(16000)』

 

「くっ…撃退者 エアレイド・ドラゴン(クリティカルトリガー)でガード!」

 

 

カロンから奈落竜目掛けて放たれた電撃を、エアレイド・ドラゴンがその身をもって庇う。

 

奈落竜は地に倒れ伏し動けずにいた。

 

『さて……覚悟はいいか?』

 

Diabloは……蒼く輝く両剣を手の上で回転させる。

 

現在の私のダメージは2点…既にクリティカルが増えているDiabloの攻撃、ダブルクリティカルを引かれたらそこで終わりだ。

 

 

『ダークハート・トランペッターのブースト、ファントム・ブラスター“Diablo”のアタック……スキル発動、カロンとクローダスを退却……カロンはVにブラスターが存在するとき、1枚で2枚分の退却コストになる』

 

「……そんなサポートまで…」

 

 

Diabloは両剣を頭上に掲げる…今まさに全てのパワーがそこに集中していた。

 

Diabloの瞳が、Abyssを捉える。

 

 

 

『パワー43000…ガード不可…クリティカル2……これがDiabloの力…抗うことすら…許さない』

「………っ」

 

 

Diabloの両剣…その蒼く輝く刃がファントム・ブラスター“Abyss”の身体に深々と突き刺さる。

私はその様子を黙って見つめることしか出来なかった。

 

 

「……ごめん」

 

『ドライブチェック…first、撃退者 ウーンテッド・エンジェル(クリティカルトリガー)…パワーはマーハに与え、クリティカルはDiabloに…second、ダークハート・トランペッター……そしてthird』

 

「…………」

 

 

ここまでで既にクリティカルは3……もう一枚クリティカルトリガーが捲れた場合、私には6点ヒールしか生き残る方法が無い。

私の“力”ならそれも可能だけれど…出来れば使いたくない。

『third……ハウルオウル(ドロートリガー)、効果は全てマーハに与え、1枚ドロー』

 

クリティカルは……出なかった。

 

 

「……ダメージチェック…」

 

 

私のダメージゾーンに3枚…撃退者 ファントム・ブラスター“Abyss”と暗黒の撃退者 マクリール、詭計の撃退者 マナが落とされた。

 

これで5点、いずれもトリガー無し。

 

『まだ終わらないぞ……クローダスのブーストした闇夜の乙女 マーハ…スキル発動!!山札からダークハートをコールし、そのスキルで更にクローダスをスペリオルコール!!』

 

「……盤面を…埋めた……」

 

『パワー28000…アタックだ!!』

 

 

マーハが奈落竜へと駆けて行く…この攻撃を受けてしまうと……次は無い。

 

 

「……マクリールで完全ガード!!コストとしてブラスター・ダーク・撃退者“Abyss”をドロップ!!」

 

奈落竜を庇うように現れたマクリールがマーハの剣を弾き返した。

 

 

『なれば!!ダークハートのブーストしたクローダスで……(16000)』

 

「厳格なる撃退者でガード!!」

 

 

これでもう…彼女のターンは終わりだ。

 

 

『……ターンエンド』

 

「ふふ……ファイナルターン失敗だね…」

 

『む……だが、強烈だったろう?』

 

「はは……確かに……」

 

私は状況を確認する……ダメージは互いに5点。だが手札は私が3枚に対して、彼女が6枚。

 

リアガードに至っては彼女が全てのサークルを埋めているのに対して私はドリンのみ。

 

ここからどう反撃するか……

 

「私のターン……スタンドandドロー……」

 

 

私はドローしたカードを見つめる……それはモルドレッド・ファントムであった。

 

手札にはモルドレッドが2枚、ブラスター・ダーク・撃退者が1枚に撃退者 エアレイド・ドラゴンが1枚。

 

 

これは……

 

 

「……」『……』

 

 

私はしばらく目を閉じて、考えると……答えを出す。

 

 

「魅せるよ……ファイナルターン!!」

 

『…来い、今のお前の全てを受け止める!!』

 

 

私は手札から幽幻の撃退者 モルドレッド・ファントムをドロップゾーンへと置く。

 

「ジェネレーションゾーン…解放!!」

 

 

ファントム・ブラスター“Abyss”の姿がぼやけていき…やがて竜は虹色の光に呑まれる。

 

光の中心ではストライドサークルが出現し、回転を始めていた。

 

 

「絶望の闇より舞い戻りし漆黒の竜は!希望の光を紡ぎ出す!!ストライド・THE・ヴァンガード!!!」

 

 

私は虹色の光の中で一瞬…モルドレッドの姿を見た。

 

 

『これが…お前の……』

 

「ううん…私たちの……もうひとつの切り札」

 

 

ギアースシステムに〈Stride Fusion〉という文字が表示される。

 

 

光は収束し、巨大な竜の姿を為す。

 

美しき銀髪をたなびかせ、その手に純白の剣を携えた漆黒の竜。

 

どれだけ姿が変わっても、その瞳の緋色は変わらない。

 

 

 

「……覚醒の時だよ!!真・撃退者(トゥルー・リベンジャー) ドラグルーラー・レブナント!!!」

 

 

漆黒の竜の……再誕……

 

 

『へえ……レブナント……』

 

「行くよ!!ドリンの前にブラスター・ダーク・撃退者をコール!!スキルで闇夜の乙女 マーハを退却だよ!!」

 

ダークの剣撃がマーハを退かせる。これでインターセプトは無くなった……か。

 

 

「そして撃退者 エアレイド・ドラゴンをコール!!レブナントのスキル発動!!エアレイド・ドラゴンを退却し、山札から…雄弁の撃退者 グロン(4000)をスペリオルコールする!!グロンとレブナントにそれぞれパワー+3000!!」

 

レブナントとグロンはそれぞれ別の列に配置した。

 

「そして……コール・THE・リアガード!!幽幻の撃退者 モルドレッド・ファントム!!」

 

 

モルド /レブナント/ ダーク撃

グロン /_____/ ドリン

 

全ては揃った……後はぶつけるだけだ!!私の思いに答えるようにレブナントが咆哮し、その純白の剣に力を集めていく。

 

 

「レブナントでアタック!!(29000)」

『ネヴァンで完全ガード!!』

 

ブラスター・ダーク“Diablo”の前に巨大な髑髏に乗った幼女…ネヴァンが現れる。

 

ネヴァンによってレブナントの剣に満ちていたエネルギーは吸収されてしまった。

 

 

『コストは暗黒大魔道士 バイヴ・カー…更にネヴァンのスキル発動!1枚ドローし…手札からバイヴ・カーをドロップ!!』

 

「……手札交換までするとは…ね」

 

 

これで手札のガード値が増えたか……?でも、私はまだ諦めない。

 

 

「ドライブチェック…first、撃退者 ファントム・ブラスター“Abyss”……second、撃退者 ダークボンド・トランペッター……third……来たね!暗黒医術の撃退者!!ゲット!ヒールトリガー!!」

 

 

効果は全てモルドレッドに…ダメージも回復する。

 

 

『…………』

 

「ドリンのブーストした…ブラスター・ダーク・撃退者でアタック!!(16000)」

 

『闇夜のマーハ、ハウルオウルでガード!!』

 

 

先程ダークがマーハを退けたように、今度はマーハがダークを打ち負かす。剣術ではダークの方が上だが今のマーハにはハウルオウルの支援攻撃も味方していた。

後方に待機していたドリンもハウルオウルに阻まれ支援に回れなかった。

 

 

『………』

 

 

だが、私は同時に気がついた……今の彼女の手札は2枚…それらは既に公開済み……

 

ウーンテッド・エンジェル(クリティカルトリガー)と…ダークハート・トランペッターだ。

 

それぞれガード値10000と…5000……

 

 

「何で…マーハを…」『その方が…見映えがいい……だろう?』

 

 

私は残るリアガード…モルドレッドとグロンに手を伸ばした。

 

 

「グロンのスキル…“ファントム”をブーストした時にSB2……パワー+6000……」

 

グロンの前に立つ、モルドレッド・ファントムに力が集まっていく。

 

『それが今の“私”の分身か……?』

 

 

その答えは彼女も知っている筈だ…彼女は私自身なのだから。

 

「分身とは違うよ…モルドレッドは私の先導者(ヴァンガード)で…私はモルドレッドの…そしてシャドウパラディンの先導者(ヴァンガード)だ!!」

 

 

“あの日”の記憶は…シャドウパラディンの皆の姿は私の中に残っている。今の私とヴァンガードを…シャドウパラディンを昔以上に結びつけている。

 

このユニット達を使うことを……私は誇らしく思っているんだ。

 

 

 

私はグロンとモルドレッドをレストする。これが最後の攻撃になるよう…祈りながら。

 

 

『そうだな…互いに先導者……か』

 

「今こそ決着の時…モルドレッドでアタック!!パワー29000!!」

 

『ああ…ノーガードだ!!』

 

 

モルドレッドとダーク……シャドウパラディンの団長と副団長がぶつかり合う。

 

ダークの剣はモルドレッドの鎧に、モルドレッドの剣はダークの鎧に細かい傷をつけていく。

 

それを見て、私は“あの日”のことを思い出す。

 

 

 

ーー…またあいつらを我の罪に巻き込む訳には…なーー

 

ーー今の我より…よっぽどダークの方が団長に相応しいかーー

 

 

モルドレッドと別れた直後…背後からそんな声が…今にも消えてしまいそうな弱々しい声が聞こえた。

あの後、モルドレッドが…シャドウパラディンがどうなったのか私は知らない。

 

今、目の前でシャドウパラディンのグレード3としてブラスター・ダークが立っていることがその答えなのかもしれない。

 

 

 

「だけど……私は……信じているよ…」

 

『……』

 

 

ダークとモルドレッドの剣は激しくぶつかり合った。

美しき剣技は途切れることなく続く。

 

『……ダメージチェック…』

 

「……」

 

 

彼女のダメージゾーンにゆっくりとブラスター・ダーク“Diablo”が置かれる。これが…彼女の6点目のダメージである。

 

そしてダークとモルドレッドは…一進一退の攻防を繰り返しながら消えていった。

 

 

『私の……負け…だよ、“ヒカリ”』

 

 

ゴスロリの少女は微笑みながらそう言った。

 

 

「……うん」

 

ファイトは終わった。パチパチと遠くでカグヤさんが拍手をくれる。

 

 

『……これを』

 

彼女…もう一人の私はレジェンドデッキを纏めると、私に手渡す。

 

 

『…私は、かつてヒカリの理想の姿として…いや、それに少し中二なテイストを加えて生まれた…だけど、今のヒカリはもう私よりも強い』

 

「……え?それはファイトが?」

 

『“心”が……ファイトはお互いまだまだだよ』

 

「…そうかもね」

 

 

中学時代の私の姿である彼女は、私を見上げるように見つめながら言葉を続ける。

 

 

『半年前より、私はヒカリに…ヒカリは私に近づいている……今も気を抜くと……ね』

 

「…………」

 

『だからそんな私に、ヒカリに……忘れ物、返さないとな……って』

 

「忘れ物……?」

 

『そう……私が背負っていた痛みの中で…大切な物を……』

 

 

そう言うと、彼女はゆっくりと消えていく…ギアースシステムの光もまた消えていこうとしていた。

 

「待って…!!」

 

『愛は隣に………見回してみなよ…きっとヒカリの隣に居てくれる人は沢山いるから…』

 

 

 

彼女は笑顔のまま、光の粒子に変わっていく。

 

そしてギアースは沈黙し、彼女は消えた。私の手元にはレジェンドデッキが残されている。

 

 

「………何を…」

 

 

私の問いに答える相手はもういない。

 

 

カグヤさんがゆっくりと私に近づいてきた。

 

 

「何だったのでしょうか……」

 

「……わかんない」

 

 

 

だけど、私の胸の中には込み上げてくるような苦しさが生まれていた。

 

痛み…これが彼女からのプレゼント……?

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

「すみません…結局よくわからないことになってしまって」

 

 

カグヤさんが頭を下げる。ここは三日月グランドスタジアムの正面ゲート……つまり私たちが待ち合わせていた場所だ。

 

辺りは既に暗く、ほんの少しであるが雪がちらついていた。

 

「そんな…カグヤさんが謝る必要無いですよ」

 

 

あれはもしかしたら私のせい……かもしれないのだから。

 

「………」

 

私は鞄の中にちゃんとレジェンドデッキと自分のデッキが入っていることを確認する。

 

 

「カグヤさん、今日はありがとうございました」

 

「いえ、こちらこそ…また会いましょう」

 

 

私たちは握手を交わす。きっと、また直ぐに会えるだろう。ヴァンガードを辞めない限り。

 

そうして私たちは別れた。

 

 

 

「…………」

 

 

 

雪の降る夜道を私は歩く。

 

前回ここに来た時は天乃原さんの家の車に乗ってきたのだが、今回は電車だった。三日月グランドスタジアムには直結の駅があるため、交通に不便は無い。

 

 

「…………」

 

 

ふっ…と私の手に、鞄につけていた“ペンダント”が触れる。

 

 

私はそれを……自然と握りしめていた。そして私は理解した。彼女からのプレゼント、私が彼女の中に忘れてきていたものを。

 

このペンダントを貰った時は…感情が激しく動くことは無かったというのに。

 

 

今の私の瞳からは、静かに涙が零れていた。

 

 

ーー……帰ってくるって約束したのに…ーー

 

ーー……どうして……ーー

 

ーー……私の…制服……買いに行くって…ーー

 

 

それは遠い記憶…薄れかけた記憶は少しだけ、その色を取り戻した。それは私が彼女に押し付けていた色。

 

 

ーー……無理…………だよーー

 

 

ーーお母さんもお父さんもそう言って帰って来なかった…!!!帰って来なかったんだよ!?ーー

 

 

 

 

私の心が苦しさを訴える…だけどそれが心地よい。確かに……“大切な痛み”だ。

 

 

「良かった……やっぱ悲しいよ……」

 

 

私は涙を拭わない。

 

 

「…父さん、母さん……大好きだよ…」

 

 

 

私の耳に、あの人の言葉が甦る。

 

 

 

ーー愛は隣にあるから…ね?ーー

 

 

 

「愛は隣に……か、隣だけじゃないよ…自分の中にも、見えないくらい遠いところにも…きっと私を大切に思ってくれる人はいる……その思いは残り続ける」

 

 

 

ふと、私は空を見上げた。

 

探すのは月でも、ベテルギウスやシリウスといった星々でも無い。

 

この広い空の、時間の向こう…何処かにあるはずの惑星クレイ。

 

 

 

シャドウパラディンの皆はどうしているだろうか。

 

 

モルドレッドはあの後どうしたのだろうか。

 

 

ダークは…何を思い、どう行動するのか。

 

 

わからない、だけどきっと彼等の意思は、思いは誰かに届いていることだろう。

 

 

影として、光の行く末を支える……彼等の思い。それはあの星に残り続ける。未来へ…繋がっていく。

 

こうして、私の元に父さんと母さんからのペンダントがやって来たように。

 

「……大丈夫…」

 

 

自然とその言葉が零れる。

 

 

私は…もう大丈夫。私はこの思いを抱えて生きていける。

 

シャドウパラディンの皆もきっと大丈夫。彼らならずっと前に立ち直っている…そして、二度と過ちを繰り返させたりしない。

 

 

 

「だから…………」

 

 

 

私の涙はもう止まった。

 

 

「“今日…これから始まる私の伝説”…なんてね」

 

 

 

そして私は、深見ヒカリは、今までよりももっとずっと、力強く前に進んでいく。

 

 

 

 

この先も、ずっと……。

 

 

 

 

 


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