君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

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第5章 歪な凶刃
075 少女が選ぶ道の先


今年の5月19日…三日月セントラルホール。

 

まだ私がヴァンガードに、奈落竜に再会していなかった頃の話。

 

この場所で一つの戦いが行われていた。私が今、見ているのはその記録である。

 

 

 

「ふっ…ゲット!!クリティカルトリガーや!!効果は全て蒼嵐水将 スピロスに!!セカンドチェック…クリティカル!!これもスピロスにつぎ込む!!」

「…………」

 

「“2”!!スピロスでヴァンガードにアタック!!クリティカル3のパワー19000!!」

 

「…槍の化身 ターでガード」

 

 

 

ヴァンガードクライマックスグランプリ…通称VCGPの全国大会決勝戦。

 

二人はそれぞれ“アクアフォース”と“かげろう”のデッキを使い、ファイトを繰り広げている。

 

 

「スピロスのスキル…“蒼嵐”のエスペシャルカウンターブラスト1…スピロスはスタンド!」

「………」

 

「“3”蒼嵐水将 ヘルメスのブースト、スタンドしたスピロスでアタック!!パワー26000クリティカル3!!」

 

 

ノーガードを宣言したかげろうのファイターのダメージゾーンにドラゴンダンサー マリア、ドラゴニック・バーンアウトと、ドロートリガーであるガトリングクロー・ドラゴンが落とされる。

 

これでこちらのダメージは5点となった。

 

 

「ダメージトリガーね…でもうちの攻撃はまだ残っとる!!“4”蒼嵐戦姫 クリスタ・エリザベスのブースト…蒼嵐水将 グレゴリウスでアタック!!19000!!」

 

「ゴジョーでガード」

 

「ふぅ…ターンエンドや……」

 

 

 

アクアフォースのデッキを使うのは東京生まれ、東京育ちのエセ関西人、天海レイナ。

そのヴァンガードには蒼翔竜 トランスコア・ドラゴンがいた。

 

 

 

「……僕のターン」「ファイト始まってから偉く静かやな、あんた」

 

 

彼女に相対する、かげろう使いのファイターは……私もよく知っている人物であった。

 

 

「そうっすかね?……スタンド、ドロー……紅蓮の先に深紅あり、我が前に生まれるは全てを焼き尽くす黙示録の炎…!!ライド!!ドラゴニック・オーバーロード!!!」

 

 

銀髪の青年……舞原ジュリアンがそこにいた。

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

時は遡って数時間前。12月31日のお昼。

 

私、深見ヒカリは春風さんの家…つまりカードショップアスタリアの二階に遊びに来ていた。

 

ちなみにカードショップアスタリアは春風さんの母親が経営するお店なのだが、画家でもある彼女はあまりお店の方に姿を見せることは無く、今日も私は春風さんのお母さんに会うことは無かった。

 

 

「春風さんのお母さんって…今、この家にいるんだよね?」

 

「もー何言ってるんですかーいるに決まってますよ」

 

 

 

私の問いかけに、奥の部屋で荷物を整理していた春風さんが答える。

 

「ところで、春風さん…いや春風ちゃんはさっきから何をしているのかな?」

 

「……あー…いや、その…昨日(冬コミ)戦利品(薄い本)がまだ整理できてなくてですね…」

 

「?…手伝おうか?」

 

「いや……絶対にこっちに来ないで下さいね?絶対に来ないで下さいよ?」

 

「あ……はい」

 

 

そう言われてしまっては私も春風さんの部屋から動くわけにはいかない。

私は鞄からデッキと、デッキのパーツを取り出して構築を考えることにした。

 

数分後、春風さんが戻ってくる。

 

 

「あ、それはレジェンドデッキ!!手にいれたんですね!」

 

「まあね」

 

 

私は愛用の白スリーブに入れたデッキを見つめる。カグヤさんから貰ったレジェンドデッキであったが、私は未だにその構築に悩んでいた。

 

「悩む…?って構築済みデッキですよね、それ」

 

「そうじゃなくて、こう、上手く私のデッキに混ぜられないかなって」

 

 

完成度の高いレジェンドデッキ…構築を変更しようとしても、どう変更するのが良いのかよく分からない。

 

 

「いいじゃないですか、撃退者Abyssに適当にファントムDiabloを入れておけば」

 

「えーー、それはちょっと嫌かな…それにしばらくAbyssは使わないでおこうって思ってるし」

 

「……?そうなんですか?」

 

 

確かにAbyssは強力だが、そればかり使っていても面白くない。というか私はモルドレッドの方が好きだから、モルドレッドの方にデッキを寄せたい。

 

それに最近、Abyssにおんぶで抱っこだったからね。もっと別の戦い方を模索したい。

 

「まあ、気分転換に…ね?」

 

 

私は簡単に思いを纏める。

 

 

「そうですか…でも、考えるだけじゃ物足りないですよね?…どうです一戦」

 

「ふふ…お願いするよ」

 

 

 

春風さんと私はデッキを並べ、ファイトを始める。

 

 

「スタンドアップ・THE・ヴァンガード!!」

「スタンドアップ・ヴァンガード!!」

 

序盤の展開は今までと変わらないと思っていたが、春風さんのデッキに比べ、私のデッキは“スピード”が遅くなっていた。

 

 

「アスモデルのスキル発動……!!アスモデルをダメージゾーンへ、そしてダメージゾーンからラグエルをコール……モルドレッド・ファントムにアタック!!」

 

「…氷結の撃退者でガードっ!!私のターン!スタンドandドロー…解放せよ、ジェネレーションゾーン!」

 

 

そしてターンは進み、春風さんの盤面にはリアガードが3枚いた。ダークDiabloに退却される1体、ファントムDiabloに退却させるために2体といったところか。

 

「投薬の守護天使 アスモデルでモルドレッドにアタック!!パワー23000、クリティカル2!!」

 

「ウーンテッド・エンジェル、黒翼のソードブレイカーでガード!!」

 

 

そして私にターンが回る。春風さんのダメージは4点、この勝負は貰った。

 

 

「見えたよ、ファイナルターン!!スタンドandドロー!!」

 

「む…?」

 

私はモルドレッドから、新たなユニットへブレイクライドを行う。

 

 

「それは光を導く漆黒の剣!ブレイクライド・the・ヴァンガード!!ブラスター・ダーク“Diablo”!!」

 

 

そしてここからが大事な所だ。

 

 

「モルドレッドのブレイクライドスキル発動…山札の中からパワー+5000した……ブラスター・ダーク・スピリットをスペリオルコール!!」

 

「あ……それは……」

 

「気づいた所でもう遅いよ!!ダーク・スピリットのスキル発動!!CB1、アスモデルを退却!!ジェネレーションゾーン解放!!ファントムDiabloにストライド!!ダークDiabloのスキルでリアガードのナレルを退却!!」

 

 

これで春風さんのリアガードは1体…私はガードの出来ない春風さんにDiabloで引導を渡すのだった。

 

私たちはその後も数回、ファイトを行った。

 

 

「つまり、ヒカリさんの今のデッキは“モルドレッドからダークDiabloにブレイクライドすることでスキルでダーク・スピリットをコールし、それをファントムDiabloと組み合わせて相手リアガードを4体焼く”デッキなんですね」

 

「長かったね」

 

 

でもまあ、要約するとそれだけのデッキだ。モルドレッドにライドしている時間が長いため、レジェンドデッキに収録されている“ブラスター”のサポートカードは殆ど使えていない。

 

「私がモルドレッドを外す気が無いことは、置いておいて…ブラスター・ダーク“Diablo”のサポートにはどのグレード3がいいんだろう?」

こうして考えているとレジェンドデッキに付属していたV/R兼用のバイヴ・カー(大)はとても優秀な気がしてきた。

 

「いや…でもヒット時系のG3は…」

 

「ファントム・ブラスター・ドラゴンはどうですかね?」

 

 

春風さんが名前を出したのは、かの有名な最初の奈落竜…私も愛用していたカードだ。

 

 

「普通のダークを採用しないことを考えるとパワー10000はちょっと……でも先行から使えるっけ…」

「ファントム・ブラスター・オーバーロードならリアガードのコストが要りませんね」

 

「彼はスキルのコストがグレード3だから駄目だよ」

 

「ならガスト・ブラスター?」

 

「私、苦手なんだよね…あの竜」

 

 

こうして考えると元祖奈落竜、ファントム・ブラスタードラゴンが最も適任何だろうか。

 

 

「でもパワー10000も気になるし、かといって連携組み入れるのも…何か違うんだよね…」

 

「でもパワー10000なら“マデュー”が使えますよ」

 

「??」

 

 

春風さんが突然聞いたことの無いユニットの名前を出してきた。

 

 

「マデュー?」

 

「はい、レインエレメント マデュー……今度発売されるFC2016のGユニット何ですが超越時にハーツのカードのパワーが10000以下であればドロップゾーンのG3のカードを手札に戻すことが出来るんです」

 

「コストを帳消しにしたり、手札交換したりできるんだ……でもそれを採用するならやっぱりDiabloのデッキじゃなくて元祖奈落竜のデッキだよね」

 

もしくは…双闘……結局Abyssか。

 

そもそもDiabloの相方は他にどんな可能性があるんだろう。撃退者のユニットはコストに撃退者を求めることが多いから辛いし…

 

超越と相性の良いユニット……例えば登場時に効果を発動するユニット何て言うのはどうだろう。

 

登場時にソウルブラストでリアガードにパワーを与える偽りの騎士王。

 

 

「……ザ・ダーク・ディクテイター…なんてね」

 

 

私がヴァンガードを辞めていたころに追加されたユニット…とっくの昔に確認済だ。

 

 

「ああ!ブラスティッド卿ですねって……うわ、ヒカリさん怖い顔ですよ!?」

 

 

最近新たに描かれた物語の話を思い出し、確かに私の顔はきつくなっていた。

 

「いやー…あれを受け入れてしまうと、私はあの世でディクテイターさんに顔向け出来ないよ」

 

「いや、私たちの行くであろうあの世にはディクテイターさんいませんけどね」

 

 

そもそもザ・ダーク・ディクテイターは奈落竜の産み出した“騎士王”のコピーなんだよ、それ以外じゃあの格好は変だよ、王の真似して思い上がりも甚だしい愚か者になっちゃうよ。

 

まあね、後から奈落竜にそう思わされたとか、自身の正体を偽ったなんて後付けの設定が出るのかも知れないけれど?

 

「私の中じゃ、結構前にもう設定が固まっているんだよ……影の内乱の終盤、暴走する奈落竜に相対するブラスター・ブレードとブラスター・ダークの元に向かう途中のアルフレッドの前に立ち塞がるんだよ。そしてアルフレッドと一騎討ちになって一進一退の攻防を繰り広げた後にディクテイターは倒れる。そしてだんだん呼吸が弱くなっていく中、アルフレッドに向かって“どうやら我はここまでのようだ…所詮作られし存在…真の王にはなれぬのだな……”って言うんだけど、アルフレッドはその言葉に対して“いや、そなたは既に…真の王であった”って返すんだよ…今までも捕らえたシャドパラの団員からその噂は聞いていた上に、実際に剣を交えたことで何かしら読み取ったんだね。そしてアルフレッドの言葉を聞いたディクテイターは初めての微笑みを見せながらゆっくりと塵となって、聖域の風に溶けていった……ところまで私の中では出来上がってるんだからね!?」

 

 

そこまで言い切った私に春風さんは優しそうな笑顔を向けると、こう言った。

 

 

「ヒカリさん、面倒なオタクに…私と同類になってます」

 

「うっ…そう言われるのは物凄く嫌だ…だけど…ちくしょう」

 

 

もやもやとした思いが胸の中を占める。そもそもヴァンガードユニットの設定に他にも空白はあるんだけどさ。…結局、伝説の七聖獣の鎧って何なんだ…とかね。

 

 

「Diabloの相方を探すんですよね?」

 

「うん、そうだったね…」

 

 

ディクテイターのスキルのコストは、レジェンドデッキのダークハート・トランペッター、更に新たに私が採用を決めた黒翼のソードブレイカーのコストと競合してしまう。ちょっと採用しにくいかな。

 

 

「Diabloのスキルを活かすならこんなユニットはどうですかね」

 

「?」

 

 

春風さんが部屋の棚から何かを取り出す。それは1枚のカード…桃色の髪の女性が描かれたカードだった。

 

 

 

「“呪札の魔女 エーディン”…あの白銀の魔女も使っていたカードです」

 

 

 

「へー…アタックされた時にコストを払うことで相手ユニットを退却する…面白いね。…それで、白銀の魔女って誰?」

 

私がそう聞くと、春風さんは教えてくれた。

 

 

「ヒカリさんがちょうどヴァンガードを辞めたころに活躍した海外のファイターです、VCGPヨーロッパ大会で優勝、準優勝の経験があってVFGPでも一度優勝した美人女性ファイターなんですよ」

 

 

「そうなんだ…あ、っていうかシャドパラ使いの人なんだね」

 

 

「ええ!勝負を決めるターンは、必ず魔女をコールしていたことと、真っ白な肌と純白の髪の毛から“白銀の魔女”って渾名がついた訳です!!」

 

 

真っ白な肌、純白の髪…美人な女性…私もそんな人にあったことがある。

 

 

「へえ……まるでゼラフィーネさんだ」

 

 

 

 

「?…知ってたんですか」

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

しばらくの間、会話が途切れる…どういうこと?

つまり…その“白銀の魔女”がゼラフィーネさん…舞原クンの彼女さんってこと…?

 

私の様子を不審に思った春風さんが確認するように聞いてくる。

 

 

「“ゼラフィーネ・ヴェンデル”…ですよね?」

 

 

「うん…私の知ってるゼラフィーネさんは…ゼラフィーネ・ヴェンデルだよ……前に会ったことがある」

 

 

「本当ですか!?」

 

 

 

 

春風さんが凄く興奮する。そんなに凄い人だったのか、ゼラフィーネさんは。

 

 

 

「確か舞原クンの彼女で…夏に遊びに来てたんだけどね…」

 

「舞原ジュリアンですかーやっぱり付き合ってたんですねーあの二人」

 

 

「………………え?」

 

 

予想外の言葉に私の反応が遅れる。

それは…………どういう意味…いや、どういう情報から導き出された言葉なんだ?

 

 

 

「……“やっぱり”?」

 

 

「え?…だってあの二人はチームメイトじゃないですか」

 

 

「……え?」

 

 

「前々回のVFGPヨーロッパ大会…確かタッグファイトの大会だった筈ですが…優勝したのがあの二人なんですよ」

 

 

初耳だ。全く初めて聞いた情報だよ…?それは。

 

 

 

「舞原クン…そんな凄いファイターだったんだ」

 

「今さらですね……」

 

 

全然知らなかった…天乃原さんもそんなこと言ってなかったし……

 

 

「ヒカリさんは知らなかったようですが…何より前回のVCGP全国大会の優勝者でもあるんですよ?彼は」

 

「ええ!?」

 

 

前回の…今年のVCGP優勝者…つまりあの天海レイナさんを倒し、日本一の称号を手にいれたのが…舞原クン?

 

よくよく考えてみると今年、私たちが参加したVFGPでもチームで最も勝率の高かったのが舞原クンだった。

 

「全国大会決勝の様子…まだネットで配信されてますし……見ます?」「う、うん!」

 

 

 

こうして、私たちはデッキ構築の問題を一端忘れ、VCGP全国大会決勝の動画を見ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

 

時間は冒頭のシーンより少し進む。

 

ブレイクライドスキルを持ったドラゴニック・オーバーロードにライドした舞原クンは、ドライブチェックでダブルヒールトリガーを引き当てる。

これでダメージは舞原クンが3点、天海さんが4点だ。

 

 

「エターナルブリンガー・グリフォンのブースト、ベリコウスティ・ドラゴンでヴァンガードにアタック…パワーは26000」

 

 

ダメージトリガーが乗っているトランスコア・ドラゴンへの要求ガード値は15000……

「蒼嵐兵 キッチンセイラーでガード、蒼嵐水将 グレゴリウスでインターセプト……」

 

「ターンエンド」

 

 

舞原クンがターンの終了を宣言した。天海さんのダブルクリティカル、ダブルアタックにはドキドキしたが、舞原クンはここでダブルヒールが発動しなくても次のターンは持ちこたえられる程の手札を持っている。

 

「私のターン…スタンド、そしてドロー」

 

「………」

 

「歪な嵐が偽りの竜を呼ぶ…ブレイクライド!!蒼嵐業竜 メイルストローム “Я”!!」

 

「………」

 

 

そして天海さんは前のターンに失った前列のリアガードをコールし直す。タイダル・アサルトと蒼嵐水将 スピロスだ。

 

 

「……“1”、スピロスとクリスタ・エリザベスでリアガードのベリコウスティにアタック」

「ノーガード」

 

ベリコウスティ・ドラゴンがドロップゾーンへ送られる。

 

 

「“2”、タイダル・アサルトでヴァンガードにアタック」 「………」

 

タイダル・アサルトのパワーは9000…11000のオーバーロードには届かない…が、ヴァンガードにアタックしたことによってタイダル・アサルトのスキルが発動する。

 

 

「スキル発動…タイダルはスタンド、パワーは4000下がる」

 

「……本気になると標準語になるんすね」

 

「…うるさい、“3”…ヘルメスのブーストしたタイダル・アサルトでリアガードのバーサーク・ドラゴンにアタック」

 

「バーサークは退却っす」

 

 

これで3回の攻撃が終了した…残っているのはVによる攻撃のみ。しかしブレイクライドをしたメイルストローム“Я”はとても強力なスキルを持っていた。

 

 

「“4”、蒼嵐業竜 メイルストローム “Я”でヴァンガードにアタック…リミットブレイク発動!!CB1、リアガードでスタンド状態の蒼嵐候補生 マリオスをレストして呪縛!!」

 

 

メイル“Я”の後ろに置かれていたカードが裏向きに置き直される。

 

「……」

 

「メイルストローム“Я”にパワー+5000、クリティカル+1……そしてこのユニットのアタックが“ヒットしなかった時”1枚ドローし、あんたのユニットを1体退却させる!!」

 

「……」

 

クリティカル2の攻撃…今の舞原クンはダメージが3点であるため、これを受けることはクリティカルトリガーが乗る可能性を考えると危険だ。だが、止めてしまうとユニット1体の損失、そして相手のドロー。これはとても辛い。

 

「そして!!トランスコア・ドラゴンのブレイクライドスキル……あんたはこのユニットのアタックされた時、手札を1枚捨てていい…捨てないのならこのユニットにクリティカル+1、そしてあんたは手札からガード出来なくなる」

 

「………」

 

守るにしても、守らないにしても、手札を消費しなければ敗北してしまう。

 

 

「…手札からドラゴニック・オーバーロードを捨てるっす」

 

次はこの攻撃を守るか、受けるかを決めなければならない。この攻撃を守るのなら、舞原クンはリアガードを1体失い、天海さんは手札を増やす……そしてダメージが3点の舞原クンは次のターンのブレイクライドは望めなくなる。だが、この攻撃を受ける場合…天海さんが1枚もクリティカルトリガーを引かないことが条件だ、ここまでのターンで一度ダブクリが発動しているとはいえ、まだ山札には半分以上のトリガーが残っていた。もしクリティカルを引かれた場合、舞原クンはヒールトリガーを引かなければならないが舞原クンは直前にヒールトリガーを2枚引いている…ヒールトリガーが3枚続けて並んでいる可能性は…高くは無いだろう。

 

「……マリアで完全ガード…コストはドラゴンモンク ゴジョー……」

 

「ドライブチェック、翠玉の盾 バスカリス…そして蒼嵐兵 キッチンセイラー…ゲットヒール!ダメージは回復する」

 

「……」

 

 

舞原クンのリアガードからドラゴンモンク ゴジョーが退却され、天海さんはドローする。そしてこのターンは終了した。この時点でダメージは3vs3…ダメージに余裕はあるものの、互いにギリギリの攻防が続く。

 

ファイトの最中、舞原クンは天海さんにこんなことを聞いていた。

 

「こんな、リンクジョーカーがうようよいるような環境で…よくアクアフォースなんて使おうと思ったっすね?」

 

「悪い?…私はアクアフォースが好きなの、だからアクアフォースを使っている間は誰にも負けたくないって思いながら戦える…強くなれるのよ」

 

「好きだから強く…ねえ……眉唾物っすね…あと、すっかり標準語っすね」

 

「…うるさいわね、あんた……あんたには好きなクランやユニットは無いの?今使ってるかげろうとか」

 

「……しいて言うならリンクジョーカー…ハルシウムはまあ…」

 

舞原クンが口ごもる。

 

「…あるんじゃないの」「……そうっすかね?」

 

 

口は動かしながらも、二人の手と、頭と、山札は、激しく回っていた。

 

ターンが進みダメージはいよいよ5vs5まで詰まっていった。両者共にリアガードサークルに空きが見える。

 

 

「確かにこの環境…アクアフォースの天敵、リンクジョーカーがうようよいるわ」

 

「…」

 

「でも、それに対抗できるユニットも……アクアフォースにはいるのよ!!」

天海さんはメイルストローム“Я”から新たなユニットに乗り直す。

 

「天をも呑み込む、蒼の嵐!!ライド!!蒼嵐覇竜 グローリー・メイルストローム!!!」

 

「グロメ……へえ……」

 

 

更に天海さんはヴァンガードの後ろ…ガトリングクロー・ドラゴンに退却させられた蒼嵐候補生 マリオスのいたリアガードサークルに堅実な戦術司令官をコールする。

 

「行くぞ…堅実な戦術司令官のブースト…グローリー・メイルストロームでヴァンガードにアタック、スキル発動!!CB1!!」

 

 

グローリー・メイルストロームのスキルはアクアフォースというクランの中でも珍しく“バトル回数”に影響されずに発動できるというもの。連続攻撃用のリアガードが足りない、呪縛されている…そんな時にも問題なくスキルを使用できるのだ。

 

これは天海さんが先程使用した、蒼翔竜 トランスコア・ドラゴンにも言えることである。

 

「…アルティメットブレイクっ!!グローリー・メイルストロームにパワー+5000、そしてあんたはグレード1以上のカードでガードできない!!」

 

「………」

 

合計パワーは22000…決して高くは無い数字だが、ここまでのファイトで舞原クンは相当な数、手札のトリガーユニットを消費している。

 

 

「ドラゴンダンサー テレーズでガード…ドラゴニック・バーンアウトでインターセプト……1枚貫通」

 

「そう…ならドライブチェック!!」

天海さんの手が山札へと伸ばされる。

 

「ファーストチェック…蒼嵐戦姫 クリスタ・エリザベス……セカンドチェック…蒼嵐護竜 アイスフォール・ドラゴン……トリガー無し」

 

「……」

 

「蒼嵐水将 グレゴリウスでヴァンガードにアタック…パワー12000!!」

 

「エターナルブリンガー・グリフォンでガード!!」

 

これで天海さんのターンが終わる…ダメージは互いに5点。舞原クンはこれで手札が2枚、リアガードもグリフォンとゴジョーが1枚ずつだ。

 

 

「そろそろデッキアウトが見えてきたんじゃない?そっちはもう何回もオーバーロードのブレイクライドやゴジョーのスキルを使ってるんだから……」

 

「そういうそっちこそ、ドロートリガーの連発にメイル“Я”のスキルで山札が薄いじゃないっすか」

二人とも山札は相当削れていた。

 

 

「だからこそ…ここで決めさせてもらうっすよ」

 

「……」

 

「僕のターン…スタンド、ドロー!!」

舞原クンが新たなユニットにライドする。

 

 

「焔の先に焔あり…この世の全てを灰にする、永久の煉獄!!クロスブレイクライド!!ドラゴニック・オーバーロード “The Яe-birth”!!!」

 

「…………っ」

 

 

ブレイクライドスキルにより、オーバーロードにパワーが加算される。

 

 

「そして…手札からドラゴンダンサー マリア、カラミティタワー・ワイバーンをコール!!カラミティタワーのスキル発動…ソウルブラスト2…1枚ドロー!!」

 

 

これで舞原クンの山札は10枚を切った。

 

 

「ドラゴニック・オーバーロードをコール…そして行くっすよ!!The Яe-birthのスキル発動!!CB1!!リアガード5体を呪縛!!」

 

「……」

 

「The Яe-birthにパワー+10000…そしてスキルを与える!!説明は必要っすか?」

 

「構わない…来ていいわ」

 

 

舞原クンがThe Яe-birthをレストする。

 

 

「The Яe-birthでリアガードのグレゴリウスにアタック!!パワー33000!!」

 

「ノーガード…」

 

「ツインドライブ!!…ドラゴニック・ヌーベルバーグ!そしてガトリングクロー・ドラゴン!!ゲット、ドロートリガー!!パワーはThe Яe-birthに与え、1枚ドロー!!」

 

グレゴリウスが退却される、舞原クンの山札は残り6枚。

 

 

「ブレイクライドスキル!!CB1、ヌーベルバーグをドロップ!!そしてThe Яe-birthは立ち上がる!!」

 

「……」

 

「The Яe-birthでヴァンガードにアタック!!パワー38000!!」

 

強大なパワー、そして他のリアガードが存在しないため、トリガーは全てVに振られるというプレッシャーがそこにはあった。

 

「蒼嵐護竜…アイスフォール・ドラゴンでガード…スキル発動、クインテットウォール!!」

 

「……」

 

 

天海さんの山札から5枚のユニットがガーディアンサークルにコールされる。

 

蒼嵐兵 キッチンセイラー…10000(ガード値)

 

蒼嵐業竜 メイルストローム“Я”…0

 

タイダル・アサルト…5000

 

蒼嵐兵 ミサイル・トルーパー…10000

 

蒼翔竜 トランスコア・ドラゴン…0

 

 

合計ガード値…25000。

 

これではメイルストロームのパワーと合わせても36000…守ることができない。

 

 

「……っ、なら追加で蒼嵐戦姫 ドリアをコール!これで1枚貫通!!」

 

「ツインドライブ…ドラゴニック・バーンアウト、オーバーロードThe Яe-birth…トリガー無し」

 

「……」

 

攻撃は終わらない。The Яe-birthのスキルが発動しようとしていた。舞原クンの山札は残り4枚。

 

 

「The Яe-birthのリミットブレイク!!手札からThe Яe-birthとベリコウスティ・ドラゴンをドロップ!The Яe-birthは再び立ち上がる!!」

 

 

そして、Vによる三度目の攻撃…確かこのスキルを櫂トシキはエターナル・フレイム・リバースって呼んでるんだっけか……

 

 

「The Яe-birthでもう一度、グローリー・メイルストロームにアタック!!パワー38000!!」

 

「…スーパーソニック・セイラー、蒼嵐兵 キッチンセイラー、蒼嵐戦姫 クリスタ・エリザベス、堅実な戦術司令官で……ガード、1枚貫通!!」

 

天海さんは手札全てを使い、ガードする。それでも1枚貫通…トリガーを1枚でも引かれればダメージが5点の天海さんは敗北してしまう。

 

 

「ツインドライブチェック……カラミティタワー・ワイバーン……そして」

 

「……」

 

「……槍の化身 ター……クリティカルっす」

 

天海さんのダメージゾーンに蒼嵐水将 スピロスが置かれる。これで6ダメージ……天海さんの敗北だ。

 

「……」「……」

 

 

「「ありがとうございました」」

 

 

そして、握手する二人のシーンが流れ、この動画は終了した。

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

「どうでした?」

 

春風さんが動画の感想を聞いてくる。

 

「……本当に舞原クンだった」

 

「そこですか…」

 

 

それに…これがVCGP、ヴァンガードクライマックスグランプリか。“最強”を目指す舞原クンとしては当然の通過点だったのだろう。

 

舞原クンがかつて通った道…か、彼にとってはまた意味合いは違うんだろうね。私にとってのVCGPとは。

 

 

「ヒカリさんは出場しますか?今年のVCGP」

「…うん…出てみたいかなとは、思うよ。モルドレッド達を活躍させたいって思う」

 

 

それが私の…ヴァンガードをする理由だ。

 

でも私、まだVCGPの細かい流れ、分かってないんだよね。個人戦の大会だってことくらいしか。

 

 

「VCGPに出るにはどうしたらいいの?」

 

「ふふ…じゃあ説明しますね」

 

 

春風さんによる説明が始まる。

 

VCGP…ヴァンガードクライマックスグランプリとは年一回で開催されるヴァンガードの大型公認大会。

それで…

 

 

「VCGPにはそれぞれショップ大会、地区大会、全国大会があります。出場者は皆この全国大会での優勝が目標になる筈です」

 

「全国大会…か」

 

 

この間のVFGPは関東地区でしか開催されておらず、一種のお祭りのようなものだったから、本格的な大会はこっちのVCGPってことかな。

 

 

「この全国大会に進むためには地区大会を、地区大会に進むためにはショップ大会を勝ち抜かなければならないんです」

 

「ショップ大会?」

 

「はい、来年の例を出すなら2月から3月末までの間、全国各地のショップで開かれるVCGP出場権利争奪戦で優勝する必要があります、また、ショップ大会への出場に特別な権利はありません」

 

「つまり、そこから始まるんだね…VCGPは」

 

「そういうことです…ちなみにここ、カードショップアスタリアは2月の最初の週だった筈ですよ」

 

「ん、覚えた」

 

そしてショップ大会で優勝した人達が集まるのが地区大会ということか。

 

「去年まではもう少し早い開催だったんですけどね」

「そうだったの?」

 

「来年は世界大会との調整もあって、遅れてるみたいです…噂によると地区大会が終わるまでには全クランにストライドボーナス持ちのユニットが配られるらしいですよ」

 

クロノジェット・ドラゴンやラナンキュラスの花乙女 アーシャのようなユニットがちゃんと全部のクランに配られるんだ。……ぬばたまにも。

 

「とにかく、4月の札幌大会から6月の名古屋大会までで勝ち抜いた各会場の代表それぞれ7人、そしてアジア大会の代表7人が全国大会に出場できるんです」

 

「各会場それぞれ…7人?」

 

「はい、優勝者1名に各“国家”で最も戦績のよいファイター1名ずつが全国大会に出場できるんです」

 

「なるほどね」

 

「ちなみに優勝者には全国大会でのシードが約束されます」

 

「へえ…シード」

 

「そして全国大会の優勝者と準優勝者が世界大会に進むことができます」

 

 

とにかく、どんどん勝っていけば地区大会、全国大会、そして世界大会と進んでいけるという訳か。

 

 

「出てみよう……かな」

 

「おお…やります?」

「うん、モルドレッドの活躍を皆に見て貰いたいからね」

 

 

負けっぱなしだった神沢クンへのリベンジの機会にもなる…気がするしね。来年の目標だ。かつて舞原クンも通ったという道、私も進ませてもらおうじゃあないか。

 

「まあ、まずはデッキの構築…考えないといけませんけどね」

 

「う………大丈夫だよ」

 

そうして私は再びデッキとのにらめっこを始めた。取り敢えずモルドレッド・ファントムとブラスター・ダーク“Diablo”は入れよう……いや、でも……

 

 

 

 

そんな私を春風さんは優しく見つめる。

 

 

 

「…前と同じくらい明るくなってきたね…ヒカリちゃん」

 

 

「?どうしたの?」

 

「いえいえ…良いことだなって思っただけですよーヒカリ様♪」

 

 

春風さんはそう呟くと、私と一緒にシャドウパラディンのカードを眺め始めるのだった。

 

 

 

今日は12月31日、そして明日は1月1日……新しい一年がもうすぐ…幕を開ける。

 

 


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