『あけましてぇぃ……おめでとうっ!!』
テレビの向こうでお笑い芸人が新年の挨拶をする。
俺はそれをつまんなそうに眺めていた。
そんな…1月1日 0時0分27秒。
「おいおい…新年早々、福が逃げそうな顔だなユウト」
「兄貴…うるさい」
俺の名前は青葉ユウト、最近ほとんど出番が無かった気がする高校一年生だ。ずっと前に事故で病院に送られていたが、11月の末には退院していたんだぞ?
「はぁ……」
そんな俺は今、悩んでいる。色恋沙汰とかじゃあ無い、色恋沙汰で悩んでみたい気はするがな。
俺が悩んでいるのは……そう、デッキの構築だ。
「お風呂入って早く寝なさい…やることあるんでしょう?」
「だ、そうだぞユウト?」
母親が居間にいる俺にそう言ってくる。そして兄貴がうるさい。
「あー…分かったよ、母さん」
「いや、ユウじゃなくてカズの方よ」
「あ…俺なのな…」
こんな…正月でなくても普段見るような掛け合いを繰り広げた後、俺は自分の部屋に戻った。
例年、正月はニートの兄貴に両親が説教するところから始まるのだが、今年はそれが無い。
兄貴がカードショップを始めたからだ。まがりなりにもちゃんと兄貴が手に職をつけたのは大きい。明日も正月から店を開くようだ。
おかげで俺も正月は静かに過ごせそうだ。
……と、思っていたのだが。翌朝。
父さんと母さんしかいない筈の食卓にもう一人の人物がいた。
「それでそれで、昨晩は聞けなかったんだけど…」
「うん」
「やっぱり○○さんと△△さんって付き合ってるのかしら!?」
「お母さん…私パパラッチじゃなくて“アイドル”だからね?○○さんに関しては…同じ芸能界とは言え、私とは庭が違うからなぁ」
例年より騒がしい気がするな。何故だろうな。兄貴はカードショップを開けるために居ないのにな。
「いつだったかテレビの番組でソーラーカーで一筆書き日本一周とかやっていたよな?車の免許いつ取ったんだ?」
「やだなお父さん、私18の時には取ってたんだよ」
「そうか…あの頃はカズトが3浪に突入して俺も疲れていたからな…」
どうしてこんなに賑やかなのかな?
「何そこで突っ立ってるの?ユウトは」
「…………姉貴こそ何でここにいるんだよ…」
そこにいたのは俺の姉貴…青葉ユカリであった。例年ならこの時期はニューイヤーライブで家にはいないのだが……?
「今年は年越しニューイヤーライブは出来なくてね…ほら、ワールドツアーとかやったりクリスマスライブが3日ぶっ続けだったからね」
「いや、知らんし」
「冷たいねー…私、邪魔?」
「いや、そうじゃないけどな?」
別に姉貴が苦手とかじゃない。ただ家にいられると芸能界に興味津々な父さん母さんが煩いんだ。
「ユカリ、□□さんはー!?」
「ユカリ、無人島の開拓はー!?」
仕方ない…自分の部屋でデッキでも組み直すか…
そうして、俺は自分の部屋に引きこもるのであった。
* * * * * *
「さて…どうするか……」
今、俺の前には沢山のカードが並べられている。ほとんどはジュリアンから貰ったものだ。
ここからどのカードを選び、どんなデッキにするか…全ては俺しだいだ。
俺はその中からカードを1枚手に取る。
そのカードの名前は“封竜 テリークロス”…かげろうのFVであり、ジュリアンが病院で俺にくれたカードでもある。
「えーっと…“封竜”をコストにしたカウンターブラストで……自身をソウルに…相手のユニットを退却させて…相手は山札の上から4枚見て、その中からグレード2のユニットをコール?…何がしたいんだ?」
その時、俺の部屋の扉の向こうから声がする。
「……“封竜”は相手のグレード2のユニットを操作するテーマなの、インターセプトを封じたり…退却させたりね」
「姉貴か……」
三回のノックの後、扉の向かいの窓から姉貴が入ってくる。他所から見れば完全な不審者だ。
「お悩みのようだけど…私の力を貸そうか?」
「あー…じゃあ…少しだけ」
この姉がヴァンガードに…いや様々な物事に精通しているのは俺も分かっている。アドバイスとやらが貰えるならそれもいいかもな。
「俺のデッキ、どうしたらいいと思う」
「……もう少し具体的な質問にしてくれないかな」
姉貴が呆れ顔で俺の方を見る。
そんな姉に俺は黙って今のデッキを見せた。
「お、ヌーベルバーグのデッキ?」
「ウォーターフォウルのデッキだ」
「……それはまた…」
以前までは双闘を絡めたデッキだったが、入院している間に元々の状態…夏頃に使っていた構築に戻してあった。双闘のボーテックスも個人的には気に入っていたけどな。
姉貴はしばらく俺のデッキを見ていた。そして俺の方に向き直ると、こう言った。
「つまり…ウォーターフォウルの使い道が分からないということ?」
「…そうだよ」
姉貴はふむ…と顎に手を当て、何かを考え始める。
「そもそもウォーターフォウルの長所って何だと思う?」
「ん?……それは…カウンターブラストもソウルブラストも使わずにパワーを上げることができる点…?」
ウォーターフォウルのスキルはアタック時のものが2つある。相手ヴァンガードへのアタックならパワー+3000と、アタック時に手札からグレード3を捨てることでパワー+10000というものだ。
「だけど…今、同じコストを払うなら……“超越”するよね?」
「う……それは……そうなんだよな」
それがずっと俺の頭を悩ませているのだ。“超越”するために必要なコストは“手札からグレードの合計が3になるように手札を捨てること”だ。これには様々なパターンがあるが、まず真っ先に捨てるべきは手札で腐りがちなグレード3のカードだろう。
ウォーターフォウルのスキルと同コスト……ウォーターフォウルのスキルがパワー+10000であるのに対し、超越することが出来れば最低でもパワー+15000にトリプルドライブ……
どちらを選ぶか…答えは明白だ。
「……………く…」
「…ただ“超越”が使えるのは相手ヴァンガードがグレード3以上の時のみ…そこに見えるものがあるんじゃない?」
「……なるほどな」
…例えば、俺が先攻の時……俺がグレード3に…ウォーターフォウルにライドした時は相手は恐らくまだグレード2…こちらは超越を使えないから……
「……だけど、そんな早くからパワーを上げる意味あるのか?ノーガードって言われるオチしか見えな…」
「…ユウトのデッキに入ってる“こいつ”はただの飾りなの?」
そう言って姉貴は1枚のカードを見せてくる、それは俺のデッキに入っているグレード1のユニットだ。ソウルブラスト1で前列のユニットのクリティカルを増やすという凄いユニット……
「ドラゴニック・ガイアース!!…そうだ、クリティカルを増やすことができるこいつがあれば…早くから点を詰めることができるか……!!」
しかもこいつは“ノーマルユニット”が相手でないとクリティカルを増やすことは出来ない。ここでもウォーターフォウルに価値が生まれた。
……というか、案外俺のデッキはこのままでいいのかもしれない。
その旨を姉貴に伝える。
「いや…改造は必要だと思うよ、常に進化を追い求めてこそデッキや人生に華が咲くんだから」
「姉貴は進化し過ぎなんだよ…」
結局、また構築の壁にぶつかる訳だ。
「それでも…やっぱ普通にやるとヌーベルで詰める前に負けんだよな」
「超越のパワーは凄いから…うーん、だからやっぱりグレード2にライドした時点でそれなりに点を詰めたいよ……ガイアースを使うにはブースト先のユニットも必要……早くから展開していくってのはどう?」
「早くから?…G2やG1の頃からってことか?」
「そうね……“速攻”と呼ばれる戦法よ」
「速攻……」
早くから動く…速攻…テリークロス…退却…速攻。
俺の中で、ピン…とその言葉が響く。今ならいい感じのデッキが組めそうだ。
「姉貴!デッキ作るから、出来たら相手してもらえるか!!」
「ふ…いいよ、来なさい!!」
* * * * * *
「スタンドアップ!!ヴァンガード!!」
「スタンドアップ・THE・ヴァンガード!!」
俺の新しいデッキ……行くぞ!!
「じゃあ…私からね、ドロー、そしてドラゴンモンク ゴジョーにライド!!FVのドラゴンナイト サーデグは先駆のスキルで後列に移動!!」
「………何で姉貴が先攻なんだよ」
さっきまで、ウォーターフォウルを先攻で使おうと話していたのに……
「じゃんけんの結果だから、仕方無いの…それに先攻に強いデッキを作るなら後攻での動きも覚えないとね」
「その前に先攻での動きを考えさせてくれよ…」
「はいはい、では…ゴジョーのスキル発動♪自身をレストして手札からドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンドをドロップ!1枚ドローしてターンエンド!」
そして俺のターンか…思えば姉貴とはあんまりファイトしたこと無いな。同じかげろうデッキのようだけど。
そんなことを思いながら俺はドラゴニック・ガイアースにライドし、姉貴にアタックする。
姉貴はダメージチェックを行い、俺がターンエンドを宣言した。
そして、バーサーク・ドラゴンにライドした姉貴はそのままヴァンガードの列だけでアタック…クリティカルトリガーによって俺は2点を貰うものの、そのまま姉貴のターンは終了した。
姉貴のダメージが1、俺が2……それをこのターンで詰めて見せる!!
「俺のターン…スタンドしてドロー!!ライド!!マジン・ゾルダート(11000)!!」
「へえ……“拘束”持ちのユニット……」
そう、マジン・ゾルダートはG2でありながらパワー11000…その代償にある条件を満たさなければアタックすることが出来ない。
「俺は更にリアガードにマジン・ゾルダートとドラゴニック・ガイアース!!そしてフレイムエッジ・ドラゴンをコールする!!」
「……」
↑
マジン / マジン / エッジ
ガイア / テリー / ーーー
「テリークロスのスキル発動!!封竜のエスペシャルカウンターブラスト!!」
俺はダメージゾーンに置かれた“爆爪の封竜騎士”を裏返す。これで準備完了だ!!
「テリークロスをソウルに送り、姉貴のリアガード……FVのドラゴンナイト サーデグを退却!!」
そして“メインフェイズに相手のリアガードが退却される”ことによってゾルダートの“拘束”は解除される!!
「姉貴は更に山札の上から4枚見て……グレード2のカードをスペコだ!」
「ゾルダート…か、どうだろうね…」
そんなことを言いながら、姉貴が山札の上の4枚を確認する。
「お、スキル発動だよ」
「え?」
そして姉貴はVの左後ろのリアガードサークルに…ドラゴニック・バーンアウトをコールした。
「バーンアウトのスキル…ドロップゾーンのジ・エンドを山札の下に、そしてソウルブラスト1…リアガードのマジン・ゾルダートを退却!!」
「なっ……」
今、コールしたばかりのリアガードが退却された…ジュリアン…テリークロス駄目じゃないか…
「……だったら!!ゾルダートのいたサークルに爆爪の封竜騎士を、そしてヴァンガードの後ろにドラゴニック・ガイアースをコールだ!!」
↑
爆 爪 / マジン / エッジ
ガイア / ガイア / ーーー
爆爪の封竜騎士はG2のユニットにアタックした時にパワー9000になるグレード1…非常時のアタッカーとして入れてあったがちょうど手札に来ていたのだ。
「……」
「ガイアースのスキル、SB1でリアガードの封竜騎士にクリティカル+1!!パワー9000でアタック!!」
姉貴はノーガードを選択する…こっちにはまだあと2体ユニットが残っている、このターンでガンガン攻めていくぞ!!
「ダメージチェック…ガトリングクロー・ドラゴン!ゲットドロー♪効果はV!そしてドロー!」
ガンガン攻めて…
「セカンドチェック…ガトリングクロー・ドラゴン!ゲットドロー♪効果はV!そしてドロー!」
攻めて…いけない!?姉貴のヴァンガード、バーサーク・ドラゴンはトリガーの効果でパワー19000になってしまい俺のリアガード、フレイムエッジ・ドラゴンではもう攻撃が届かない。
「だったら…ガイアースのブーストしたゾルダート!!ゾルダートはブーストされた時に更にパワー+5000!!よって合計22000でアタック!!」
「槍の化身 ターで完全にガード♪」
「ドライブチェック…封竜 アートピケ……ドロートリガーだが、アタックは届かない…1枚ドローしてターンエンドだ」
ダメージは俺が2点、姉貴が3点……俺のイメージならもう少し追い詰められる筈だったんだが……
とはいえ次のターン、ガイアースを使えば姉貴にガードを強要できる点数にはなっている。ならいいか。
……が、その考えは甘かった。
「コール♪煉獄竜 ドラゴニック・ネオフレイム♪」
「……え?」
姉貴は次のターン、“G3にライド”せずにリアガードを展開、整理し始める。
ラーヴァ/ ーーー / ーーー
ネオフ /バーサーク/ バーン
↓
「コールしたラーヴァフロウ・ドラゴンのスキル…手札のドラゴニック・オーバーロード“The X”を公開して山札からドラゴニック・ブレードマスターを手札に加える!!」
そう言って姉貴は手札からガトリングクロー・ドラゴンをドロップする。
「……あの…ライドは?」
「ライドするだけがヴァンガードじゃないよ」
「え、えええ……」
……これで先攻ウォーターフォウルの意義が出てきたと考えればいいのか…
「じゃあ…ヴァンガードのバーサーク・ドラゴンでユウトの“爆爪の封竜騎士”にアタック!!」
「っ!?リアガードに!?ノーガード!!」
「ドライブチェックはヒールトリガー!!効果はバーンアウトに与えダメージを回復!!」
「……っ」
「ふふ…そしてネオフレイムのスキルでその後ろのガイアースを退却!!」
「っ…!!そういうスキルか!!」
こうしてリアガードを削られ、ヒールトリガーを引かれた俺は次のターン…ウォーターフォウルとガイアースのコンボを駆使するも姉貴に止めを刺せず……
ダメージは俺と姉貴で3vs5。
第7ターンだ。
「ライド!!ドラゴニック・オーバーロード“The X”!!!」
恐らく姉貴の今のエースと思われるユニットが登場する…確か双闘でスタンドとか退却とかするんだよな。
「そして手札からドラゴニック・ブレードマスターをドロップ!!ストライド!!」
「……来るか」
かげろうのGユニットくらい俺でもちゃんと調べている。このタイミングで登場するなら神竜騎士 マフムード…1回目の超越だからルートフレアはまだ使えない。
手札に完全ガードが無い今、Gユニットの攻撃は通すしかないな……マフムードはヒット時スキル持ちで厄介だ。
「覇天皇竜…」
「??」
「ドラゴニック・オーバーロード“The Ace”!!」
「!?!?」
ちょっと待て…そんなユニットいたか!?俺知らないぞ!?
「ふっふっふっ正月明けに発売の“ファイターズコレクション”で収録されるユニットだ!!」
「発売してないのかよ!!」
姉貴の話によると、仕事の関係で貰えたらしい。貰えるものなのか?そんな簡単にさ。
「私だからね」「あー…姉貴だもんな…」
まあ…これで納得してしまえるんだが……
「でーも、存在を知らないってのはユウトの怠慢ね、このユニット自体は既に公式から公開されていた筈だもの」
「う……」
それを言われると…ぐうの音も出ない。
「ジ・エースのスキル!!CB2!Gペルソナ!!」
姉貴がGゾーンからもう1枚の“The Ace”を表にする…がその後を何も言わない。これは…何だ?
「もう一度!!ジ・エースのスキル!!CB2、Gペルソナブラスト!!スキル起動!!」
Gゾーンの2枚の“The Ace”が表になった所で姉貴が宣言する。
「ジ・エースはツインドライブとなり、アタック終了時に手札から自由に1枚とオバロを1枚ドロップすることで、パワーを上げてスタンドする!!」
「う……確定でスタンドか…」
確か“The X”の双闘はヒット時にコストを払ってのスタンドだった筈だが……こっちは必ず立ち上がって来るって言うのか……
「ジ・エースでアタック!!」
「ノーガード!!」
姉貴がツインドライブで引いたのは、ネオフレイムとプロテクトオーブ・ドラゴン…トリガーが出なかったのは幸いだが、俺のダメージに落ちたのは完全ガードだった。
「手札からジ・エンドとネオフレイムをドロップ!ジ・エースをスタンドし、パワー+5000…パワー31000のジ・エースで再びアタック!!」
「……封竜アートピケ、封竜 ビエラ、フレイムエッジ・ドラゴンでガード…フレイムエッジ・ドラゴンでインターセプト!!1枚貫通!!」
「ツインドライブ!!ゲットクリティカル!!」
こうして俺はヒールトリガーを引くこと無く、姉貴に敗北したのだった。
* * * * * *
「駄目か…はぁ……」
「そんな落ち込む必要無いって」
姉貴に敗北した俺は改めてデッキを組み直す。
「さっき私は速攻って言ったけど、そもそも速攻は安定してリアガードが増やせるクランじゃないと怪しいしさ」
「早く言ってくれよ…」
「まぁ身をもって体感できたんじゃない?いくら速攻を実践しても…結局は詰めのユニットがいなければいくらでも反撃されてしまうってこととかね」
俺はため息をつきながら、デッキの中からマジン・ゾルダートを抜いていく。使うまで気づかなかったのは恥ずかしいが、今の俺のデッキだと複数回の使用が出来なかったのだ。
「ただ、そのジュリアン君のテリークロスはそういう意味なんじゃない?」
「意味?」
「そ、早くから動けっていう意味……具体的に言うとGユニットが登場する前にってこと」
「でも…テリークロスは使いにくく無いか?スペコされるし」
早期から退却出来てもスペコされるんじゃあどうにもならない。
「テリークロスの役割はFVの除去がメインだから」
「うーん…でも……なあ」
「悩むねえ…なら」
ひたすら悩む俺を見た姉貴が、持っていたデッキケースから何かを取り出す。
「そんなユウトに私からのプレゼントだ!」
それは複数枚のカード。
「……これは?」
「ふふふ…まずはGユニットのレインエレメント マデュー!!ハーツのパワーが10000以下ならドロップゾーンからG3を回収できる優れもの!!」
「おお!!」
パワーが10000でスキルにG3が必要なウォーターフォウルとは相性抜群だな。
「そして、ドラゴニック・オーバーロード!!ウォーターフォウルでは使わないCBを使って連続攻撃が可能!しかも何度でも立つ!!」
「お、おお」
意外なユニットの名前に思わず反応が鈍る。かなり昔のカードだけど…どうなんだ?使えるのか?
「最後にオバロAce!!」「え…良いのか!?」
たった今、俺に止めを差したカードを…発売前のカードを俺に!?くれるってのか!?
「自分で使う分は自分で集めたいからね」
「…さ、サンキューな……姉貴」
俺は姉貴からカードを受けとり、それを見つめる。マデューとオバロが4枚にAceは2枚……これが俺の新しい仲間か。
「でも……これ、本当に良いのか?…姉貴…」
そう言って俺が姉貴に話しかけると…
「……って……いないし」
既に姉貴の姿は無かった。我が姉ながら自由な人間だ。
昔から自由で…そして人の心を細かく察してくれる彼女は…自慢の姉でもある。
突然アイドルを始めることになったこと…アイドルとして売れたことが長男から就職の意欲を奪ってしまったこと…ここ数年で色々なことがあって、姉貴も苦労していただろう。でも彼女は…いつも輝いている。
「本当に…凄い姉だよな」
そして俺は、改めてデッキの構築を考えるのだった。
* * * * * *
青葉ユカリは食卓に座り、母が用意してくれた蕎麦をすする。
「あれ、ユカリ…ユウは?」
「あー…取り込み中だと思うよ」
「蕎麦伸びちゃうのに…」
ユカリはたった一人の弟のことを考える。なかなか飽きっぽい奴だが、今回のヴァンガードはそれなりに嵌まっているようだ。
「母さん…ユウトって何かにここまで嵌まったこと…あったっけ?」
「そうねぇ……子供の頃だとベイブレードが半年くらい嵌まってたけど、最近じゃあ中学の頃の油絵が三ヶ月で最長ねぇ」
「あはは…その頃のユウトはあんまり知らないなぁ」
ちょうどその頃、ユカリはアイドル活動を始めた頃であり忙しかったのだ。
「でも今からカードに嵌まるなんて…大丈夫かしら」
「大丈夫だって、ユウトはちゃんと分別あるからね」
鈍感で軽そうな見た目だが、あれで物事を理解し、人の心を細かく察することのできる弟…ユカリはそう考えている。
「ふふ……そうね」
「でしょ?」
こうして青葉家の正月は過ぎていくのだった。
「ユウ~蕎麦伸びてるわよ~」
「伸びる前に教えてくれよ!!母さんっ!!」