君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

79 / 88
079 羅針盤が示す未来は

1月7日…正月三ヶ日に比べ、だいぶ人の減った神社の境内を二人の男女が歩いていた。

 

「シン兄!!おみくじ買お!!」

 

「…仕方無いな」

 

 

神沢ラシンとその妹、マリ。

 

父と母は仕事で、長男であるコハクは高校受験の勉強で忙しく正月は初詣に行く時間も無い。

 

そのため、今年は二人で神社までやって来たのだ。

 

 

「適当にお参りして、おみくじ買って帰るか…」

 

「えーそこはしっかりお祈りしてこーよ!!コハク兄大事な受験なんだから!!」

 

「……それもそう……だな」

 

(今年でコハク兄さんは高校生になる。たぶん。元々兄さんは優秀だけど春頃から普段以上に勉強をしていた。VFGPとか…色々あったが兄さんは大丈夫だろうか)

 

 

「……っというか…来年は俺が受験なんだよな…」

 

「シン兄?」

ふっと自分の将来が不安になる。ラシンは思わず空を見上げるのだった。

 

 

「……ら、らら、ら、ラシン君!?」

 

その時、背後からしたその声を聞いてラシンは振り替える。

 

そこにいたのは栗色の髪の少女。

 

「…………カミナさん…!」

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

 

ーーあ、あの…ありがとう…ーー

 

 

そんな言葉が、私…佐伯カミナがラシン君に言えた最初の一言だった。

 

中学の入学式から数日…顔の知らない子達に囲まれるのが怖くて逃げ出してしまった私。

 

半分涙目で走っていた私は階段を踏み外してしまう。

 

そんな私を白馬の王子様の如く受け止めてくれたのがラシン君だった。

 

 

(今…思い出しても恥ずかしい……///)

 

 

 

 

その後もラシン君には色々な場面で助けられてしまった。そんなラシン君に私が出来ることは…一つしかないだろう。

 

 

 

 

そう……可愛い服を着せるということだけだ。

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

「……と、とと、という訳で、こ、この服を着てみてもらいたいな…な、なんて……///」

 

「何がという訳なのかさっぱりだし、もう女装は勘弁してくださいカミナさん……妹もいるし」

 

 

神社でのお参りを終え、俺とマリとカミナさんは北宮の町をぶらぶらと歩いていた。

 

しかし……マリが居なければカミナさんと二人きりだったと恨むか、マリが居なければカミナさんに女装させられていたと感謝すべきか…

 

 

そんなマリをカミナさんが見つめる。

 

 

「………しかしマリちゃん綺麗だね…今度うちにおいでよ、服を仕立ててあげる」

 

羨ましい。でも俺にその言葉がかかる時はきっと女装させられる時だろう。複雑だ。

 

 

「本当!?やった!!そうだシン兄も一緒に行こうよ!!」

 

 

その無邪気な一言は俺にとっては薬にも毒にもなる。

 

 

「え!!??お、俺がかか、か、かか、カミナさんのい、い、家に!?」

 

「ええっマリちゃん!?…ひゃぅぅ…え…えっと…私は別に…な、な、な、何泊でもどうぞっ!?」

 

 

「「え、あ!!えっ…///…えっ!?え、あ、え、えええ!?あ…ああああああああ///!?」」

 

 

道端で奇声をあげる俺達は、完全に不審者である。周りを歩く人間は不審な目でこちらを見ていた。

 

「お、おお、落ち着こうか…」

 

「は、はひぃ……」

 

 

吹き付ける冬の冷たい風が俺たちの火照った頬を冷ましてくれる。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

「………」

 

「………」

 

 

「シン兄、佐伯さん…何か話したら?」

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

この状況でもっと的確な助け船は出せないのかとマリに問い詰めたい気分だ。そもそも俺がカミナさんに出来る話題って何だ…?

 

俺とマリ、カミナさんの3人は微妙な距離感を保ちながら小さな公園までやって来る。

 

 

こんなところで何をするんだ……俺は。

 

 

 

 

 

 

そんな時、ある言葉が不意に投げ掛けられる。

 

 

 

 

 

「こんなところで何をしているんですか…神沢先輩」

 

 

その言葉は途方に暮れていた俺の前に颯爽と現れた新たな刺客…冥加マコトによって投げ掛けられたものだった。

 

 

人気の無い正月明けの公園に、3人の中学生と1人の小学生が集う。

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

 

「……で、何でこうなった…」

 

 

 

俺たち3人に冥加さんが加わって数十分。

4人は公園のテーブルを囲い、座っていた。その目の前には大量のカードが広がっている。

 

 

神沢マリの前に山札は1つ。

 

佐伯カミナさんの前に山札が1つ。

 

冥加マコトの前にも…1つ。

 

 

だけど、俺の前には山札が3つ並んでいた。

 

 

「ライド!!牡丹の銃士 トゥーレ!!」

 

「ら、ライドです!ブラスター・ブレード!」

 

「…ライド、スチームメイデン イーシン」

 

 

何で…こんな……

 

 

「…………何でこんなところでヴァンガードやってるんだ…何で俺は“三面打ち”をしているんだ…」

 

 

今、俺は3つのデッキで3人と同時にファイトをしている。手札には1重スリーブのカード、2重スリーブのカード、2重で外側がマット使用のスリーブのカードが混ざっていた。

 

……スリーブがバラバラじゃなければ本当に混ざっていたな……これ。

 

 

 

「そもそも……神沢先輩が話題に困って“そうだヴァンガードやろう”なんて言い出したからですよ…」

 

 

「う…」

 

 

「シン兄が都合よく3つのデッキを持ち歩いてたからだね!!」

 

 

「む…」

 

 

「ら、ラシン君が………“他のファイターの戦いも見てみる?”って言ってくれたから…」

 

 

「…………」

 

 

 

そうか、俺のせいか。

 

 

 

 

 

 

……いやいや…何でだよ。

 

 

 

「……」

 

 

何か他にやれることあるだろう…と数十分前のテンパった俺に言いたいところだが……

 

 

「…トゥーレのアタックはノーガード!!ブラスター・ブレードも同じく!!イーシンのアタックはサイレント・パニッシャーで貫通無し!!」

 

 

さすがに三面打ちは……

 

 

「俺のターン!!スタンドとドロー!!ライド、青き炎の解放者 プロミネンスコア、孤高の解放者 ガンスロッド、ヘキサゴナル・メイガス!!」

 

 

……ふぅ。

 

 

頭の回転が…追い付かない。

 

今のところ…激しいミスはしていない……が。ターンが進んでいくにつれ、相手の挙動も複雑になっていく…俺は何でこんなことを始めたんだ……!?

 

 

「そろそろ決めちゃうよ!!」「マリに負ける俺じゃないさ」

 

「…えっと…行きますね」「大丈夫、分からないことがあったら聞いて下さい」

 

「あながち…ファイト中ならちゃんと佐伯先輩と話せてますね」「うるさいぞ、冥加さん…いや冥加」

 

 

……俺、今相当器用なことをしている気がする。

 

 

「それは咲き乱れる情熱の花!ライド!リコリスの銃士 ヴェラ!!そして吹き荒れろ花の嵐!!…ヴェラ…サウル…双闘!!」

 

「い、行きます!!ライド!アルフレッド・アーリー!!スキルでブラスター・ブレードをソウルからコールします!!」

 

「……ディヴァージェンス・ドラゴンにライド、ルインディスポーザルをドロップして、ボクは時空竜 ロストエイジ・ドラゴンへと超越する」

 

 

頭がパンクしそうだ。

 

 

「シルヴィアをコール!スキルでトゥーレをコール!スキルでシルヴィアを消してリアナをコール!ヴェラのスキルでリアナを消して…」

 

とりあえず、マリの盤面整理は聞き逃してもかまわない。今のマリのデッキは最終的にアウグスト、ミルッカかサウル、ミルッカのラインを目指してくる筈だ。

 

 

 

「えっと…ぶ、ブラスター・ブレードのスキルでラシン君の……す、すてら?」

 

「これ?」「う、うん…えっ…とす、ステラ・メイガスを退却します!!」

 

 

カミナさんのデッキは元々は兄さんのデッキだから、その中身も把握している。お陰で説明に集中できる。

 

だが……

 

 

「……スチームメイデン・イーシンとスチームメイデン・ウルニンをコール」

 

 

ギアクロニクル…これはまだファイト回数が少ないために、対応するのに時間がかかる。

 

 

「荒れ狂う、花の嵐に飲まれてしまえ!!ヴェラ、サウル、ルースでアタック!!パワー36000!!」

 

「行くよ…マロンでブーストしたアルフレッド・アーリーでアタック!!(18000)」

 

「ミストゲイザーのブースト、ロストエイジでアタックする…パワー37000」

 

あのロストエイジ…アタックを通せばこちらのリアガードが“過去に飛ばされる”。そうすると、リアガードのイーシンのスキルが発動しこちらのG0がガードに使えなくなる。だがあのアタックを止めるためには完全ガードが必要だろう。

 

どの道…G1以上でのガードが要求される…か。冥加のデッキからトリガーは聞こえない…なら。

 

 

「全てノーガードだ!!」

 

 

そうして俺はこのターンを乗り切る。マリがリアにクリティカルとパワーを乗せてきた(リア全ラインパワー31000)が難なく乗り切る。

 

ここからが…俺のターン!!

 

 

「我が呼び声に答え、目覚めよ!ストライド!!黄金竜 スカージポイント・ドラゴン!!そして…黄金の竜よ、出でて太古の力を奮え!ブレイクライド!!スペクトラル・デューク・ドラゴン!!更に…その道は示された、勝利の未来はその手の先にある!ブレイクライド!!ペンタゴナル・メイガス!!」

 

…そしてブレイクライドのパワーを乗せたスペクトラルデュークの連続攻撃で冥加を、トリガー操作によるダブルクリティカルとスキルによりクリティカルの増加したペンタゴナルでカミナさんを倒すことができた。

 

……が。

 

 

「……っ、アグロヴァルでアタック!!」

 

「残念!サウルでインターセプト!!」

 

 

この妹……なかなか耐えるようになってきた。ファイトを終えた二人もファイトの成り行きを黙って見守る。

 

 

「ふっふっふっ…私だって兄々達に負けてられないんだよね!!ストライド!!」

 

 

前のターンにある程度整理されていた盤面に新たなユニットが登場する。

 

 

「舞い踊る花びらは祝福の証…世界よ、今、春が来た!!!立春の花乙姫 プリマヴェーラ!!!」

 

「………」

 

 

マリはユニットを更にコールすると、リアガードから攻撃を始めた。最初はアウグスト、ミルッカでパワー18000…俺はクリティカルトリガーでガード。次にもう一度アウグスト、ミルッカの攻撃、ここもガード…俺のダメージは未だに3だ。

 

 

「プリマヴェーラのアタック…スキル発動!!CB3、手札からマルティナをドロップ!!ドロップゾーンからアウグストを1枚、ミルッカを2枚、シルヴィアを1枚、キルスティを1枚山札の上に!!」

 

そしてマリは盤面の2枚…アウグストとミルッカを指して言う。

 

「山札からアウグストを2枚、ミルッカを2枚スペリオルコール!!そして山札をシャッフル!!」

 

山札がシャッフルされることでミルッカはパワー+3000…これで未アタックの21000ラインが2つか。

 

 

「ふっふっふっ…ここからはこの私の時代だぁー!!」

 

 

 

 

……まぁそんな時代当然来ることも無く。

 

クリティカルトリガーが乗らないことが見えた俺はノーガードと1回のガードでこのターンを凌ぎきる。

 

 

 

「プロミネンスコア……双闘!!」

 

して。

 

 

「スキル発動!!」

 

 

して。

 

 

「アタック!!」

 

 

して勝つのだった。

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

ファイトを終え、俺は公園のベンチに座り込む。

 

「つ……疲れた…」

 

そんな俺を嬉しいことに心配してくれたのか、カミナさんがジュースをくれた。

 

少し緊張しながらも俺とカミナさんは同じベンチに、かなり近い距離で座っている。

 

 

テーブルではマリと冥加がまだファイトをしている。

 

 

 

「ラシン君っていつからこのヴァンガードをやってるの?」

 

「いつから…か……もう二年以上前の話になると思う」

 

 

 

思えば俺がヴァンガードを始めた理由は……やっぱり兄さんの影響だった。

 

楽しそうにヴァンガードカードを見せる兄さんが羨ましくて始めたのが……始まりだ。

 

俺はカミナさんにそのことを話す。

 

 

「何かいいね、そういうの…私、一人っ子だからなぁ…」

 

「……ああ」

 

 

 

こういう時に“俺がいる”なんて格好のいい言葉が言えたら……苦労してないんだよ。

 

 

カミナさんは自分のデッキを見つめる。

 

 

今、カミナさんが使っているデッキの“ソウルセイバー・ドラゴン”や“アルフレッド・アーリー”は本当に当時から兄さんが使っていたカード。それを見るとあの頃の兄さんの笑顔を思い出してしまう。

 

そして同時に…痣だらけで家に帰ってきた兄さんと、握り潰された“騎士王 アルフレッド”の姿も…

 

 

「ラシン君?」

 

「…何でもないよ、カミナさん」

 

 

こうしてヴァンガードを通せば、落ち着いて話せるんだけどな…どうにか普段も落ち着いてカミナさんと話せないだろうか…

 

……いや、俺が女装している時はカミナさん、比較的落ち着いているか……いや……でもな……

 

「何呆けてるんですか?神沢先輩」

「呆けてないっての」

 

 

いつの間にかファイトが終わったようで冥加マコトがベンチの前に立っていた。

 

……ちなみにマリはブランコに乗っている。

 

 

そんなマリを見て冥加が呟く。

 

 

「マリさんって凄い…あの年でブランコ乗るのって勇気いりますよね」

 

「あの年で……ねぇ、あいつ小学生だけどな」

「え"!?」

 

 

身長164センチの上にスタイルも雰囲気も小学生とは思えないものがある。体重は他の小学生と大差無いのが不安になる所だ。

 

はっきりいってチビである俺と兄さんは羨ましいと思っているが、あいつはあいつで自分の身長について悩んでいる……

 

 

「きゃっほーーー!!!」

 

 

……と思いたい。

 

 

 

冥加が呆然とした表情でマリのことを見つめる。

 

「小学生……!?」

 

「私も最初にあった時は驚いたよ、凄い綺麗だよね」

 

 

カミナさんの言葉を聞いているのか、いないのか。冥加はさっきから自分の胸元をさすっていた。ストンストンと効果音がしそうだ。

 

 

「今年には冥加の後輩になるんじゃないか?」

 

「……いや、神沢先輩達の後輩でもあるでしょう」

 

我に返ったのか、冷静な口調で冥加は俺に言い返す。

そしてベンチの…カミナさんの隣に座った。

 

 

「そう言えば…今更だけど冥加さんもヴァンガードをやっているんだね」

 

「止めていたんじゃ無かったのか?」

 

 

ビフレストCSで冥加にあった時も彼女はデッキを持っていなかった。今持っているのはあの時貰ったデッキを改造したものに見えるが…今はヴァンガードをやっているということか?

 

 

 

「……まぁ…何となく復帰……ってところですよ」

「復帰?」「……」

 

 

彼女の表情から若干明るい色が消え、その目はどこか遠くを見つめていた。

 

彼女はゆっくりと口を開く。

 

「……この北宮って前はもっと荒れてましたよね」

 

「…そうなの?」

 

彼女の問いかけにカミナさんがハテナマークを浮かべる。俺やカミナさんが今の中学に上がった頃は既に町全体が落ち着いていた…その上、俺の通っていた小学校やカミナさんの通っていたらしい小学校はどちらも今の中学から離れた場所にあったため“当時の惨状”は風の噂でしか知らなかった。

 

 

……もっとも、俺の場合は“兄さん”のことで多少察しはついていた……が、な。

 

 

「ええ…ボクがここに転校したのは小学校5年生の時でした。北宮中央小…今の北宮中のすぐ近くですね」

 

「……」「……」

 

 

「そこで初めて出来た友達が、ボクにヴァンガードを教えてくれた…デッキをくれたんです」

 

「いい友達だね」

 

「…いい友達でした」

 

 

少しずつ空気が沈んでいく中、マリの楽しそうなはしゃぎ声だけが公園に響く。

 

 

「……冥加」

 

「まぁその後色々あってその子は転校して、ボクもヴァンガードを出来るモチベーションじゃなかったんですよ…それだけです」

 

「……冥加さん…」「……その頃のデッキ……今はどうしてるんだ?」

 

 

「……親指立てて、溶鉱炉に沈んで行きましたよ」

 

 

その表情はとてもじゃないが……冗談を言ってる顔では無かった。

 

 

「……何か溜め込んでるなら…聞いてやる、俺はお前の先輩だからな」

 

 

最初はただの嫌みな後輩でしか無かったが、今は同じヴァンガードファイター…ライバルだ。多少でも力になってやりたい。

 

 

「私だって先輩だよ、ラシン君、冥加さん」

 

 

カミナさんが俺と冥加の手を取る…全く貴女は天使だな。もう。

 

 

 

 

 

「……先輩方」

 

 

 

 

話なんて…いくらでも聞いてやる。

 

 

 

 

 

 

「……別に二人きりでイチャついて貰っても構わないんですよ?」

 

「い、イチャ……///」

 

「お前は……」

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

北宮の人気の無い公園に私たちはいた。そして、ボクは神沢先輩達に懐かしい話をしている。

 

もう随分と前の話。その顛末。

 

 

 

それはイジメよりもずっと厄介な支配構造だった。

 

 

ーーシャドウブレイズ・ドラゴンのリミットブレイク……ドラゴニック・ヴァニッシャーとステルス・ファイターを退却……お前は終わりだぁ!!ーー

 

 

カードゲームを使った階級制等と言う馬鹿げた制度が実現していたなんて…今でも信じられない。

 

だけどその制度が根本の原因になってあの子は姿を消した。

 

だからボクはあの子のために戦わなければならないと思ったんだ。あの子から貰ったデッキで。相棒の決闘竜ZANBAKUで。

 

 

1年…あの制度を作り上げたガキを黙らせるのにはそれだけの時間がかかってしまった。

 

あの特徴的な髪色の少年と最後に戦った時のことは鮮明に覚えている。

 

 

ーーもうあなたがいくら金を出そうと暴力を振るおうと…誰もあなたに従うことは無い!!ボクの勝ちだ!!ーー

 

ーーてめぇごときが…俺のシャドウブレイズに攻撃すんじゃねぇ!!!てめぇは…てめぇは何で俺の邪魔をする…俺を脅かす!?答えろよ!!ーー

 

ーーボクがあなたの邪魔…?違う、あなたが……皆の邪魔をしているんだっ!!!ーー

 

 

地面の間隔を失う足、ボクの首を締め付ける腕、ボクの頬を切り裂くシャドウブレイズのカード。

 

 

不意に肌の焼ける匂いがした。

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

「…で、その後色々あって…黒服の変な人たちが大勢押し掛けて事態は諸々鎮静化、今に至る訳です」

「…お前、絶対に大事な所を話してないだろう…急に話してみろってのも無理があったけどな」

 

「…………神沢先輩達は悪くないですよ」

 

 

後輩の相談に乗るのが先輩として大切だと思ったんだがな。やっぱりこういう役割は俺よりも兄さんの方が上手いようだ。

 

「あの…その……その少年はどうなったの?」

 

「あー…いつの間にか居なくなってました…噂じゃ親が仕事で問題起こして、借金だらけになって海外に逃げたとか」

 

「根も葉も無さそうな噂だな」

 

 

そうして、冥加はベンチから立ち上がると体を伸ばした。思えばここに来てから結構時間が経っていた。

 

 

「つまんない話になっちゃいましたね」

 

「ううん、冥加さんのこと知れて嬉しかったよ?」

 

「俺もカミナさんと同感だ」

 

「………先輩方…」

 

 

冥加は少し照れ臭そうに、笑った。

 

 

特に部活に入っている訳でも無い俺にとっては唯一の後輩、冥加マコト。精々可愛がってやろうじゃないか。

 

 

「ん?」

 

ここで俺はふと…今まで気にしてなかったことが気になった。

 

そもそも俺はいつ、冥加と知り合ったんだ?

 

確か……向こうから話しかけられた……よな…

 

 

 

「なあ」「何ですか?神沢先輩」

 

 

俺はその疑問を直接ぶつけてみた。

 

 

 

「冥加…お前、どうして俺のことを知っていたんだ」

 

「え?むしろ北宮中で神沢ラシン先輩のことを知らない人なんていませんよ?」

 

 

……どういうことだそれは。

 

 

「学年トップで金髪でボッチで低身長童顔の男の娘なんて噂にならない方が可笑しいです」

「いや待て最後の、待て!」

 

「女装したラシン君可愛すぎるからなぁ///」

 

「カミナさん!!」

俺の学校での立ち位置って…今更ながらどうなってるんだ!?

……もし冥加の言ってることが本当ならこれ…修復不可能だろ……

 

 

「……何でお前は俺に話しかけたんだ…?」

 

「体育祭で学校中が盛り上がってるのに、体育館の隅で鶴を折ってるなんて惨め過ぎて見てられませんでしたから(笑)」

 

「なっ……!!??」

 

確かにあの時はそうして暇を潰していたが、惨めと言われる筋合いは無いぞ!!

 

「あの姿は最早老後ですよ…先輩将来のこととか考えてます?来年受験ですよね?」

 

「……う、うるさい…」

数時間前にマリと神社に行った時、同じことを自分でも考えはしたが……人に言われるのは……

 

 

 

「来年受験だとしてお前に心配される覚えは無い」

 

「いやいや、ボク、先輩に話聞いてもらった恩返ししないと」

 

「お前、俺をからかうの絶対楽しんでるだろ」

 

 

俺をからかう時のこのテンション…どこかで感じたことがあると思ったら…こいつ、兄さんと同じテンションで俺をおちょくってくる。

 

 

「ビジョンなくしてなんの青春、なんの人生だ…って金八先生も言ってましたからね?」

 

「お前…そういう格言好きだよな……」

 

 

 

一番最初に話したときも小難しいことを言っていたなと、俺は思い出す。

 

そんな時、何を思ったのかカミナさんが口を開いた。

 

 

「わ、わ、私の将来の夢は…ら、ラシン君のおお、おおよ、め、およめ、め、」

 

「ほら!!佐伯先輩だってこんな微笑ましいドキドキ夢色の将来設計をしてるのに神沢先輩は!!」

 

「お前さりげなくカミナさんバカにしてないか?」

 

「マリはお花屋さんになる!!」

 

「ほーらーーー!!!皆夢で一杯ですよ!!!神沢先輩!!!」

 

「……うるさい」

 

 

 

 

 

まだ中学生の俺たちに将来のことなんて分からない。

 

だけど。

 

少なくとも。

 

 

今、側にいる友人達と…ずっと付き合っていけるなら、それはとても素敵なことなんだろう。

 

 

一人では暗く見えない道も二人、三人と集まることで歩いていける。

 

 

 

 

俺たちは…少しずつ未来へと歩んでいくんだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。