折角のゴールデンウィーク…話のストック貯めて、これからスムーズに投稿できるようにしたいと思っているので……頑張ります。
吹き付ける風が嫌でも今が冬だと告げてくる…一月。
私、深見ヒカリは暗い気持ちで街を歩いていた。
「はぁ……」
思わず溜め息が出てしまう。何故ならば今日は……
「おはよう、ヒカリ」
「ああ……青葉クン、久しぶり……」
今日は始業式、今日から再び学校が始まるのだ。
最早、休みというエデンは遠き夢の彼方へと消えていってしまった。
テンションだだ下がりだ。
「そんなとぼとぼ歩いていると、置いてっちゃうぞ!」「……どうぞどうぞ」
言葉通り、青葉クンは駆け足で先に行ってしまった。
私はそんな彼の背を見送りながら学校へ向かう。
「……元気だなぁ」
彼を見送って生まれたのは、そんな面白味の無い感想だった。
そして、青葉クンよりも遅れて到着した学校は、休み前から様子が変わった所も無く、これからの日々がこれまでと同様のものとなることを私に予感させる。
「ヒカリ様!!お久しぶりです!!」
「「お久しぶりです!!」」
「「「です!!!」」」
「は……ははは……(やっぱりこの空気はちょっと……ね)」
全校集会では相変わらずの校長の長話を聞かされ、その後には普通に授業。
昼は自作のお弁当を一人で食べる…全員が何故かこちらを見ており、すごく恥ずかしい。
そうしていると、午後の授業が始まる。変わらない日常に戻ってきたことを実感しながら、私は遂に7時限目の終了のベルの音を聴く。
「……ふぅ」
世界史の教科書を閉じ、カバンにしまう。日直の口にした終了の挨拶を聞き届けると、私は立ち上がり下校する。
変わらない日常。変わらない日々。後ろから青葉クンが私を追い越していく。彼に手を振りながら、私は家路に着いた。
* * * * * *
「……参ったね…これは」
夜11時…私は冷蔵庫の前で立ち尽くしていた。
晩御飯を一人で済ませた私は明日の弁当を準備しようとしたのだが……材料が足りない。晩御飯を作っているときに薄々気づいてはいたが…足りなかった。ちなみに朝御飯にも足りない。
幸い今の時間でも開いているスーパーマーケットが近所にあるため、今からでも買いに行けるのだが……
「……面倒くさい」
とはいえ、行かなければ食べるものが足りない。私は購入しなければならないもののメモをとる。
「シューマイ、ヨーグルト……というか卵もないな……後は……」
メモをとった私は身支度を整え、家を出る。今日は同居人であるミヨ姉達は家に帰ってこないのでしっかりと戸締まりを確認する。
そして私は、スーパーマーケットの方へと歩き始めるのだった。
人通りの少ない夜の商店街を抜け、駅前のスーパーマーケットへ向かう。
「…………うん?」
商店街を過ぎて2,3軒の建物の前を通りすぎた所に私は人影を見た。それは気のせいか私のよく知る人物に酷似していた。
「……天乃原さん?」
私の先輩であり、シックザールというヴァンガードのチームでこの夏、共に戦った女性がそこにいた。
「あ……ヒカリさん……お久しぶりね」
「……どうしたんですかこんなところで…」
天乃原さんは電柱にもたれるようにして立っている。その瞳は虚空を見つめていた。
「今週末にあるイベントなぁーんだ…?」
「今週末……?」
まだ学校は始まったばかりで……テストとかもないけど……
「センター試験よ………?」
「………………ああ」
それは私にはまだ実感の出来ない言葉だった。
天乃原さんはこの世の終わりのような顔をしている。
「…………どうにもならないわ、もう…国語も、数学も、英語も、リスニングも、日本史も、化学も、生物も……もう駄目なのよ」
「し、しっかり……」
私は項垂れる天乃原さんの隣に立ち、彼女を励ます。
「そんなに落ち込んじゃあ駄目です…それにセンターってマークシートですよね?選択式ですよね?最悪当てずっぽうでもなんとか……」
「ならないわよ…9つの中から3つ順番に選ぶ問題とかどうにもならないわよ…数学とかどうにもならないわよ……」
「??」
「最近は勉強さえ集中できなくなってきちゃったし…もうどうにもならないの…ふふ…」
自嘲気味に呟く天乃原さんの横顔はとてもやつれて見えた。これが2年後の私か……
「……あきらめないでください…」
「ヒカリさん……」
「私も、青葉クンも、きっと舞原クンだってそう言います……天乃原さんの挫けた姿なんて見たくありませんよ…」
「……言ってくれるじゃない」
若干だが天乃原さんの目に生気が戻る。
「あ、そうだ……ちょっとここで待っていてください……」
「え?」
私は天乃原さんにそう言うと、本来の目的地であるスーパーマーケットへと走った。
15分程かかっただろうか…買い物を終えた私が天乃原さんの元へと戻る。
「あら…お買い物中だったのかしら…私なんかに時間とらせちゃってごめんなさいね……」
「いいんですよ、そんなこと……はい、イチゴミルク、飲みませんか?」
私はスーパーの袋からイチゴミルクの缶を取り出し、天乃原さんに手渡す。
「……ありがとう」
「いえいえ…」
私と天乃原さんは閉められたシャッターにもたれるようにして座る。そしてイチゴミルクを口にした。
甘く優しい味が口に広がる。
「天乃原さんは…どこの大学を目指してるんですか…?」
「……百花大の…工学部デザイン学科」
「…意外と…思いっきり理系なんですね…」
天乃原さんはイチゴミルクをくっ…と飲み干すと夜空の星達を見上げるように呟く。
「センター7割は必要なんだけど……なんかもう……無理っぽいわ…」
「気持ちで負けてどうするんですか……」
よく見ると天乃原さんの髪はぼさぼさ、肌も若干荒れており…その苦労が伺い知れる。
「……今、どんなに落ち込んでも後2、3ヶ月も経てば嫌でも結果は出るんですよね…?」
「そう…もう時間が無いのよ……私には…ね」
「だったらその時間…落ち込むよりも他にすることがある……違いますか?」
「……ヒカリさん」
「そして、また…ヴァンガードしましょう?」
「…………そうね」
天乃原さんが立ち上がる。
「随分と情けない姿…見せちゃったわね」
「……仲間ですから、気にしないでください」
「ふふ…そうね……そうだったわね」
そして人通りの少ない道で天乃原さんは叫んだ。
「確率がなんだっ!!勘でセンター9割とってやるわよ!!!こんちくしょうっ!!!」
これは私個人の意見だけれど……それは、完全に、これから敗北する者の台詞だった。
* * * * * *
数日後、俗に言うセンター試験も終わり、学校からは三年生が消えていった。
ここからは各々二次試験の対策へと挑むのだろう。
私はふと職員室の隣の部屋を見る……そこは先生と生徒が個別に話をするための部屋だった。
今、そこで一人の三年生が非常に暗い顔つきで座っていた。
天乃原さんだ。
結局何がどうだったのか…私は聞いてないけれど、天乃原さんの戦いはむしろここからなのかも知れない。
そんな風に天乃原さんの行く末を案じていた私に声がかけられる。
「お……ヒカリ、久しぶり!」
「……ユズキ、久しぶりだね」
この学校での数少ない友達の一人である…黒川ユズキが私の目の前に立っていた。
「どうしたんだ?」
ユズキが首を傾げて私に尋ねる。
「……ちょっと将来が不安になっただけ」
「ふぅん…まあこの時期だしな」
ユズキは特にどうと言うことはないとでも言うような返事を返す。彼女の興味はむしろ別にあるようだ。
「それよりさ!ヒカリは今日どこかのショップに寄るのか?」
突然の質問に私は冷静に答える。
「……“アスタリア”に行くつもりだよ?」
「そっか…私はいつも通り“大樹”でいつものメンバーと集まる予定だ」
「いいね、そういうの…」
このやり取りの…そして彼女の興味の先に何があるのか…私はそれを知っている。そう……何故なら今日は…
「そう…今日は……ブースター“覇道竜星”の発売日だもんね…」
* * * * * *
イギリス、とあるカードショップ。
一人の銀髪の青年が“覇道竜星”の“カートン”を抱えながらシングルカードを購入していた。
[アムネスティ・メサイアが6枚とファントム・ブラスター・ドラゴンが6枚…SPのコスモリースが4枚で…SPのクラレっ…えーっと??……[支払いは…こいつで]
青年は懐からカードを取りだし、会計を済ませる。
大量のシングルカードをケースにしまった銀髪の青年は店の外へと出た。
青年はふと、先程購入したカードを取りだし、太陽に向けて掲げるように見つめた。
複数枚あるカードの中で、最も手前に来ていたカードの名前は“創世竜 アムネスティ・メサイア”。
青年の唇から日本語が溢れる。
「リンクジョーカーで“救世主”……なーんて変な感じっすよね」
その呟きは誰の耳に残ることも無く、消えていく。
青年の髪の色のように…白く…何も残さない。