朝。
私、深見ヒカリはベッドから起きて、軽く体を伸ばした。
時刻は7時30分。昨日ベッドに入ったのが深夜1時だったことを考えると睡眠時間は…6時間程度か。
まだ眠気の残る頭でそんなことを考えながら、私は机の上の“デッキ”を見つめる。
それは今日のために調整してきたシャドウパラディンの…私のデッキ。
今日は2月1日。
今日は……ヴァンガードクライマックスグランプリ…通称VCGPのショップ予選の日であった。
* * * * * *
私は朝ごはんを済ませ、洗濯物を干すと、家を出てカードショップ“アスタリア”を目指した。
現在は北宮への電車に揺られているところだ。
ガタン、ゴトン、という電車の音をBGMに、私は今回のショップ大会についておさらいする。
VCGPショップ予選…今回私が挑戦する大会はその名の通りこの春に開催されるヴァンガードの全国大会“ヴァンガードクライマックスグランプリ”の地区予選へ出場するための資格を賭けた大会だ。
この大会は今回の1回しか行われないわけではなく、2月と3月の公認ショップで一度ずつ行われ、そこで優勝した一名に大会の参加権が与えられる。
私の住む関東地区はカードショップも多いので、その分チャンスも多い……というわけだ。
私は鞄からデッキを取りだし、見つめる。
昨日の夜中まで調整を続けた私のデッキ…正直まだまだ練り足りない。私の中で譲れない点と、デッキの強化の為に必要な点が今でも衝突を続けているからだ。
今日の大会結果ではまた組み直す必要もあるだろう。
電車の中に北宮への到着を知らせるアナウンスが響き渡る。私は座っていた席から立ち上がった。
さて……行きますか。
私は電車を降り、真っ直ぐ“アスタリア”を目指す。
駅前の大型モニターには某チャンネルのニュース番組が流れている。
ニュースではニューヨークで起こった集団失神事件の話題が取り上げられていた。
原因は未だ不明、意識を取り戻した人たちは皆、うわ言のように誰かの名前を呼んでいるらしい。
「物騒な世の中……」
そうしてしばらく歩き続けていると、目的地であるカードショップ“アスタリア”の扉が見えてきた。
決戦の時は刻一刻と近づいている。
私は呼吸を整え、アスタリアの木の扉をゆっくりと押し開く。
「「「いらっしゃいませ!!ヒカリ様!!」」」
「…………」
良くも悪くもいつも通りだ。店の中には“いつもの”人たちがたくさん。デパートの化粧品コーナーのような香りがする。
店の奥の方では春風さんがこちらに向かい、手を降っていた。どうやらそこで大会の受付をしているらしい。
そして私はもうひとつ、あることに気がついた。
“いつもの”人たちの中に、私に対して“普通の”反応をしている人が3人。
3人は共通して、髪を金に染めていた。
「っ……て、神沢クンにコハクさん、そしてマリちゃんか……」
3人の中で私の一番近くにいた神沢クンが、私に言葉を返す。
「さっそく俺達は戦うことになりそうだな」
「……そうだね……負けないよ?」
そんなやりとりを軽くした後、私は春風さんのところへ大会の受け付けに向かう。
時刻は12時47分。大会は1時より開始。
「春風さん、参加者ってどのくらいかな?」
「定員は16人なんですが……ちょうどヒカリ様で…あと1、2人ってところですよ」
私は店内を見回す。ちょうど客は私も含めて15人程度、どうやらここにいる人たちは皆、既に大会の受付をしている人たちのようだ。
ここの大会に使われるのは通常の長机が4つにギアースが1台。ランダムで選ばれた一組がギアースでファイトできるようになっているらしい。
春風さんが時計を見て、周りを見回す。
「ではそろそろ大会の受け付けを締め切ります!」
もう後には戻れない……ね。
* * * * * *
「それではこれより、ヴァンガードクライマックスグランプリ店舗予選の説明を始めます」
定員オーバーすることも無く、私たちは春風さんの指示に従い、ファイトテーブルに着いていた。
今回は普通のテーブル。どうやらギアースはお預けのようだ。
「今大会は公式のルールに従い、16名によるシングルエリミネーションで行います。」
シングルエリミネーション。早い話が勝ち抜き戦ということだ。確か地区大会はダブルエリミネーション、全国大会は店舗予選と同様にシングルエリミネーションという形式で行われる筈だ。
「ファイトは最大4回、最後まで勝ち残った方にヴァンガードクライマックスグランプリへの出場権が与えられます」
私は自分のデッキをシャッフルする。
ゲームにおける“運”の比重が大きいヴァンガードにおいて勝ち抜き戦というのは非常にシビアだ。
私は……戦い抜けるだろうか。
そして私は対戦相手である山岸ハルタカさん(親衛隊No.36)と挨拶を交わす。
「ヒカリ様にお相手して頂けるとは…光栄です」
「……手加減は許さないよ?」
「承知しております」
私の周りでも次々とファイトの準備が整っていく。私はマリガンで手札を二枚交換するとスタンドアップの時を待つ。
「……というか、参加者って親衛隊と神沢クン達だけじゃない」
今更気づいたことだが全員知っている人間である。
そんなことを考えているうちに、全員がマリガンまで終えたらしく、春風さんがファイトの始まりの合図を行おうとしていた。
「では、これより大会を始めます……スタンドアップ!!……ヴァンガード!!」
「「「スタンドアップ・ヴァンガード!!」」」
「スタンドアップ・the・ヴァンガード!!」
「スタンドアップ・my・ヴァンガード!!」
ファイトが、始まった。
私のFVはフルバウ・ブレイブ。相手の山岸さんのFVは……忍獣 イビル・フェレット。
「……むらくも!そうか、強化されたばかりだ…」
「参ります、私のターン!!」
山岸さんが山札からカードを引く。
「ライド!!静寂の忍鬼 シジママル(8000)!!」
「……バニラ、固いね…」
FVのフェレットがV裏におかれ山岸さんはターンエンドを宣言した。これで次は私のターンだ。
「行くよ…ドロー、そして真黒の賢者 カロン(7000)にライドだよ!!」
かつてはシジママルと同じバニラ(パワー8000)だったカロンも新たな能力を得ると共にそのパワーを減らしていた。単体ではシジママルに届かないが……
「V裏には先駆のスキルでフルバウ・ブレイブをコールする……ブーストしてアタック!!(12000)」
「ノーガード!!」
私はドライブチェックでクリティカルトリガーを引き当てる。これで山岸さんのダメージは2点となる。
「1点目…関門の忍鬼 アタカ……2点目、忍妖 オバケランタン…ゲット!ドロートリガー!!」
「……ターンエンド」
ここまで手札の枚数に差は無い…ここでのクリティカルトリガーが後にどれだけ私を助けてくれるか…
私は未だに自分のデッキに自信を持てないでいる、先導者である自分がしっかりしなくては勝てるファイトにも勝てないというのに。
「私のターン、ドロー…そして私は魔髪の忍鬼 グレンジシ(9000)にライドする!!」
そして山岸さんはV裏にいるイビル・フェレットを持ち、宣言した。
「イビル・フェレットのスキルは発動!!山札の下に送ることで私は手札からグレード3、看破の忍鬼 ヤスイエ(11000)をスペリオルコールする!!」
「っ…グレード3を……コール!?」
「V裏に新たに静寂の忍鬼 シジママルを、そしてヤスイエの後ろに忍妖 オボロカート(6000)をコール!!オボロカートのスキルで山札から看破の忍鬼 ヤスイエをスペリオルコール!!」
「こんな一気に展開するなんて…」
山岸さんの場には5体のユニット。これで少なくとも3回は攻撃が来るだろう。
「参ります…ヤスイエでヴァンガードにアタック!!(11000)」
「…ノーガード」
ダメージに力戦の騎士 クローダスが落とされる。
これが私の1点目。
「シジママルのブースト…魔髪の忍鬼 グレンジシでヴァンガードにアタック!!(17000)」
「……それもノーガード」
「ドライブチェック……忍獣 キャットデビル!!クリティカルトリガー!!」
一番登場してほしくないタイミングで現れたクリティカルトリガー……私のダメージが加速していく。パワーはアタックのしていないヤスイエに、クリティカルは攻撃中のグレンジシへと割り振られた。
ダメージに落ちたのはグレード3のブラスター・ダーク“Diablo”と完全ガードである髑髏の魔女っ娘 ネヴァン。
これで私のダメージは3点。3回のダメージチェックが行われたもののダメトリは無し。
「グレンジシのスキル発動!!」
「っ!?」
山岸さんは山札に手を伸ばす。まさか…そこから何を出そうと言うのか……
「ヤスイエを上書きして……山札から魔髪の忍鬼 グレンジシをスペリオルコール!!」
「そんな…」
「グレンジシでヴァンガードにアタック!(9000)」
相手はあと攻撃前の1ラインを残している…そのラインのパワーは現在22000…だったら……ここしか……
「クリティカルトリガーの撃退者 ウーンテッド・エンジェルでガード!!」
ここしか…守れない。
「オボロカートのブーストした看破の忍鬼 ヤスイエで更にヴァンガードへアタック!!(22000)」
「パワー22000……パワー7000のカロンに対してシールド値20000要求……だよね……」
4回目の攻撃……私はこれを…受けざるおえない。
「………………ノーガード、ダメージチェック……血戦の騎士 ドリン……」
これで私のダメージは…4点。
山岸さんはエンドフェイズに入り、グレンジシは山札の下へ、ヤスイエは手札へと戻っていく。
「ターンエンドです、ヒカリ様」
「……私のターン…」
私のダメージが4点であるのに対して、山岸さんは2点か……手札枚数に差は無い。……ここから山岸さんを追い詰められるか……?いや、やるしかない。
「スタンドandドロー…!!行くよ、輝く剣で敵陣を切り開け!ライド!闇夜の乙女 マーハ(9000)!!」
ダメージが4点だというのにこちらはまだグレード2…なかなか心が折れそうだ。
「血戦の騎士 ドリン(9000)をコール……そしてドリンでヴァンガードにアタック!!(9000)」
「オボロカートでガード」
「フルバウ・ブレイブのブースト…マーハでヴァンガードにアタック!!」
私のVによる攻撃に対して山岸さんはノーガードを提示する……ドライブチェックの結果は…ノートリガーだ。
山岸さんのダメージゾーンに看破の忍鬼 ヤスイエが落とされ、私はドライブチェックで登場したダークハート・トランペッターを手札に加える。
ファイトは大きな動きを見せることなく、山岸さんのターンへと移っていった。
私のダメージは4、山岸さんは3
「私のターン、参ります…スタンド、ドロー……霧に隠れし我が魂、ここに目覚めよ!!ライド!!看破の忍鬼 ヤスイエ(11000)!!」
山岸さんがライドしたのはむらくもの“ストライダー”であるヤスイエ……ストライドすることにより能力を発動させていくが、まだこちらのヴァンガードはグレード2であるため山岸さんはこのターンにストライドすることはできない……ヤスイエもバニラ同然ではある。
…が私のダメージが既に4点であるため、グレード3共通のスキル“ツインドライブ”を受けるだけでも辛い状況であった。
「オボロカートを前列へ、その後ろに忍獣 チャコールフォックス(7000)をコール……シジママルのブーストしたヤスイエでヴァンガードのマーハにアタックしましょう!!(19000)」
「……ここは……仕方ない……っ!!髑髏の魔女っ娘 ネヴァンで完全ガード!!コストにだったんをドロップするよ!!」
「ドライブチェック…関門の忍鬼 アタカ、忍獣 チャコールフォックス……トリガー無し……チャコールフォックスのブーストしたオボロカートでマーハにアタック!!(13000)」
「ドリンでインターセプト!!」
「ターンエンドです」
これで私にターンが回る……ダメージは動かず4vs3…手札は私が3枚、山岸さんが4枚。
私は手札のカードを見つめる……それは全てグレード3のカードであった。
「山岸さん……」
「ヒカリ様…?」
「私…負けませんからね!!」
「……ええ!!」
私は山札に手を伸ばす。
「私のターン…スタンドandドロー!!」
そして……このユニットにライドする。
「……世界の優しさと痛みを知る漆黒の騎士よ、我らを導く先導者となれ!ライド・THE・ヴァンガード!幽幻の撃退者 モルドレッド・ファントム(11000)!!」
更に私はドロップゾーンへグレード3であるブラスター・ダーク“Diablo”を置いた、それはジェネレーションゾーンの解放を意味する。
「絶望の闇より舞い戻りし漆黒の竜は!希望の光を紡ぎ出す!!ストライド・THE・ヴァンガード!!!」
“ストライドジェネレーション”と言わないのは最早意地だ。
「覚醒せよ…真・撃退者 ドラグルーラー・レブナント!!!」
私のGユニットが盤面に登場する、これで私の持つ“ジェネレーションブレイク”を持ったユニットのスキルが発動可能となる。
まず私はフルバウ・ブレイブをソウルへ送り、CB1というコストを払った……そして私は山札からブラスター・ダーク“Diablo”を手札に加えた。
次に私は手札からドロートリガーである氷結の撃退者(5000)をコールした……そして。
「レブナントのスキル!!氷結の撃退者を退却して山札からジャッジバウ・撃退者(5000)をスペリオルコール!!レブナントとジャッジバウにそれぞれパワー+3000する!!」
ジャッジバウはレブナントの後ろに配置した……これで強力な一撃を放つことができる。
山岸さんの手札は4枚、そのうち判明しているのは3枚。グレード1の関門の忍鬼 アタカと忍獣 チャコールフォックス……これらは普通にガード値5000のカード、そしてクリティカルトリガーでシールド値10000の忍獣 キャットデビル。
あと一枚の未判明分に完全ガードがあるかないかは分からない……が。
「今は…このまま!!ジャッジバウのブーストしたドラグルーラー・レブナントでヴァンガードにアタックするよ!!パワー38000!!」
「…………ノーガード」
私は山岸さんの宣言を聞き、ドライブチェックを始める。
「first……撃退者 ウーンテッド・エンジェル……クリティカルトリガー!!効果は全てレブナントへ!」
まずはクリティカルが1枚……山岸さんのダメージは3点であり、あともう1枚私がクリティカルトリガーを引ければ……山岸さんを倒すことができる。
「second…血戦の騎士 ドリン…ノートリガー」
「third……氷結の撃退者…ドロートリガー!私はカードを1枚ドローする…よ」
クリティカルトリガーは出なかった。……がこれで山岸さんのダメージを5点にすることが出来る筈だ。
山岸さんのダメージにカードが並べられていく。1枚目は看破の忍鬼 ヤスイエ……二枚目はクリティカルトリガーの忍獣 ムーンエッジ。
「アタックヒットによりジャッジバウ・撃退者のスキル発動!!ソウルに入れ、CB1……山札から黒翼のソードブレイカーを2体、レストでスペリオルコール!!更に黒翼のソードブレイカーのスキルでSB1、1ドロー!もう一度1ドロー!!……ターンエンド!!」
私はスキルを一気に発動させるとターンエンドを宣言した。これでこのターンにやりたかったことは一応解決できた。手札も8枚まで増やすことができた。次のターンの動きはある程度選択の余地がある。
だから……ファイトの行く末は次の山岸さんの動きしだい…だ。
「では……私のターン、スタンドとドロー……そして!!いざ参る!!ジェネレーションゾーン解放!!」
「!!」
山岸さんは手札から関門の忍鬼 アタカをドロップし、Gユニットへと超越する。
「伏魔忍鬼……カガミジシ!!」
山岸さんはGユニットの下から見えるヤスイエの名前を指差した。
「ヤスイエのストライドスキル!!CB1でリアガードのチャコールフォックスを3体に分身!!」
そう言って山岸さんは山札から2体のチャコールフォックスをリアガードサークルにコールした。だがこれで終わりではなかった…スキルは誘発していく。
「チャコールフォックスの登場時GBスキル……全てのチャコールフォックスにパワー+2000、もう一体のチャコールのスキルで更に+2000!!カガミジシのスキルでコールしたチャコールフォックスにそれぞれパワー+2000!!後列アタックを許可する!!」
「……っ」
ひとつひとつのパワーは少ないが、大量に集まることで大きな力に変わる…といったところか。
「シジママルのブースト……カガミジシでヴァンガードにアタック!!(34000)」
「ネヴァンで完全ガード!!コストをダークで払い、手札からモルドレッドをドロップ……1枚ドロー!」
私の防御の用意が整い、山岸さんはドライブチェックを開始する。
「……忍獣 ムーンエッジ…ゲット!クリティカルトリガー!!効果は全てリアガードのチャコールフォックスへ!!」
ここでのクリティカルは正直出て欲しくなかったところだ…出てしまった以上仕方が無いが。
「セカンドチェック…忍獣 ホワイトヘロン、サードチェック……忍獣 ルーンスター…トリガー無し…」
今、山岸さんのチェックで登場した忍獣 ホワイトヘロンは完全ガードのユニットだ。トリガーに完全ガード…かなりのガード値が山岸さんの手札に追加されたと言っていいだろう。
「チャコールフォックスのブーストしたチャコールフォックスでヴァンガードにアタック!!パワー31000クリティカル2!!」
「重い……けど!!こっちはウーンテッド・エンジェル、氷結の撃退者、暗黒医術の撃退者でガード!!」
「ならばチャコールフォックスのブーストしたオボロカートで……(17000)」
「ノーガード…ダメージは闇夜の乙女 マーハ」
私のダメージゾーンに5点目のダメージが落とされた。
「ターンエンドです……このターンでは決められませんでしたが……次は仕留めます」
「…………」
山岸さんは7枚の手札を見せつけるようにして言った。
対して私の手札は3枚…手札の枚数はこのターンに入る前と比べて……逆転していた。
ダメージは共に5点…ファイトは佳境に差し掛かっている。
「けど……山岸さんに次のターンは…与えない」
「……ヒカリ様」
「魅せるよ……ファイナルターン!!!」
私はユニットをスタンドし、カードをドローする。
そして私は手札から……
「闇となりて光を示せ!今ここに……闇より深き真のDarkを!!ブレイクライド・the・ヴァンガード!!」
「ブラスター・ダーク“Diablo”(11000)!!!………そしてブレイクライドスキル!!CB1で山札からダークハート・トランペッターをスペリオルコール!!ダークハートにパワー+5000…更にダークハートのスキルで山札から力戦の騎士 クローダス(7000)をスペリオルコールするよ!!」
あっという間にパワー21000のラインが出来上がる。
…が、当然それだけでは終わらせない。
「手札からモルドレッド・ファントムをドロップ…ジェネレーションゾーン解放!!……聖なる魂が輝きを取り戻す……一度絶望を知った竜は二度と希望の光を失わない!ストライド・the・ヴァンガード!! 暗黒竜 ファントム・ブラスター“Diablo”!!!」
この力……私に使いこなせるか……まだ不安はある、けど、私は……戦う!!
「ダークDiabloのストライドスキル……“ブラスター”への超越により発動!!退却せよ!!チャコールフォックス!!」
山岸さんがリアガード後列にいたチャコールフォックスをドロップゾーンへ送る。これで山岸さんのリアガードはたったの2体だ。
「更に私は…闇夜の乙女 マーハをコールする…続けてファントム・ブラスター“Diablo”のスキル発動!CB1にGペルソナブラスト!!パワー+10000、クリティカル+1、スキル付与!!このユニットのアタック時に私がコストを払った時!!あなたはリアガードを2体退却させなければ手札からガード出来ない!!」
「……」
私は口に出すとなかなかややこしいスキルの説明をするとアタックに入る。
ユニットの配置は……
マーハ /PBDi / だったん
黒翼 /黒翼 / クローダス……といったところだ。
「まずは……クローダスのブーストしたダークハート・トランペッターでリアガードのオボロカートにアタック!!(21000)」
山岸さんはこの攻撃を防がなければ私のヴァンガードによる攻撃をガード出来なくなる。
「イビルキャット、ルーンエッジでガード」
山岸さんはすかさずクリティカルトリガー2枚でガードした……これで山岸さんの手札は残り5枚。
「行くよ……ファントム・ブラスター“Diablo”でアタック……スキル発動、ダークハート、クローダス、ソードブレイカーを退却……そして山岸さんは」
「…私はオボロカートとシジママルを退却させる」
山岸さんにリアガードがいなくなる。この段階で少なくとも次のターン、Vのヤスイエのストライドスキルによるリアガードの分身はタイミング的に出来ない。
「行くよ?Diabloによる攻撃…パワー36000、クリティカル2!!」
「……ホワイトヘロンで完全ガード、コストにホワイトメインをドロップする」
攻撃は簡単に止められてしまう。が、これで山岸さんの手札は残り3枚。
「ドライブチェック…first、髑髏の魔女っ娘 ネヴァン……second、真黒の賢者 カロン…そしてthird、暗黒医術の撃退者…ゲット!ヒールトリガー!!」
効果は全てリアガードのマーハに与えられた。ダメージも回復する。
「続けて行くよ……マーハとソードブレイカーのアタック…………マーハのスキル発動!!CB1で山札から現れ出でよ、私の…友達!!ダークハート・トランペッター!!そしてダークハートはクローダスを呼ぶ!!」
私は新たにパワー16000のラインを作り上げ、パワー20000でヴァンガードにアタックする。山岸さんは手札を見てしばらく考え込む。
「………………ノーガード」
山岸さんはダメージチェックを始める。これが6点目のダメージ…だ。
「ダメージチェック…忍獣 ホワイトヘロン……私の負けです、ヒカリ様」
なんとか勝てた……かな……
* * * * * *
山岸さんは対戦表に対戦結果を書き込むと、私の対戦表も持って立ち上がった。
「ヒカリ様の勝利に……祝福を」
「そういうのは……いいから、さ……またファイトしよう?」
「私にはもったいない言葉です。」
山岸さんは私に一礼し、去っていった。
周りでもファイトが終わっていく。とりあえず私も1回戦進出できたわけだが……
私は今一度デッキ見つめ直す。……今の私はどこまで戦えるだろうか。このデッキは…どれだけ戦っていけるのだろうか。
対戦表を回収した春風さんが2回戦の始まりを告げる。次々と組み合わせが発表されていく。……既に参加者は半分の8人…ここから一人になるまで戦い続けるのか。
神沢クンやマリさんもテーブルに座っていく。このまま戦いを続けていったら……いずれ対戦することになるだろう。
「では最後にギアーステーブルへ……ヒカリ様!!」
最後に私の名前が呼ばれる。どうやら次の私のファイトはギアースで行うらしい。これは…みっともないファイトは出来ないね……
「そして相手は……」
春風さんの声が聞こえる。だけど、その名前が呼ばれる前に、私の対戦相手は目の前に立っていた。
ギアースの…向こうに。
「……神沢……コハク……さん」
金髪の青年が立っている。神沢ラシンの兄にしてかつて女神と呼ばれたファイターの一人…神沢コハク。
「この場所で……貴女と戦う時が来るなんてね……深見ヒカリさん?」
彼はどこか儚げな笑顔を見せる。
知っている。私はずっと前にこんな表情をした少年に出会っている。それは……
「始めようか……
コハクさんは……デッキをギアースにセットする。
彼は瞳を閉じ、何かを懐かしむように言葉を紡いだ。
「ずっと戦いたかった…いや、違うな……僕はずっと…あなたから逃げていた……あなたの持つ“光”が眩しすぎた」
「コハク……さん?」
コハクさんは私の瞳を真っ直ぐ見つめる。気のせいかその瞳は一瞬、淡く…非常に淡く、翠の色に染まった。
「だけど、それは今日で終わりにする…………僕はあなたを…………倒す」
神沢コハク…その名こそ、かつてスクルドと呼ばれたファイターのものだった。