君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

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書きたいことが途中で絡まってしまうこと…ありますよね……


087 追憶

VCGPショップ予選アスタリア大会…2回戦。

 

私の前に立ったのは…大人びた雰囲気を持つ少年、神沢コハク。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

私とコハクさんは互いにデッキのシャッフルを始める。何とも言えない空気の中…ファイト開始の時間は刻一刻と近づいていた。

 

私たちは互いにデッキを交換し、カットし、初期手札を揃える。

 

無言のままアイコンタクトでタイミングを合わせ、じゃんけんをする。

 

コハクさんの勝ち、つまりコハクさんが先攻、私は後攻だ。

 

 

「コハクさんとファイト……か……」

 

「僕としてはいい加減さん付けをやめてほしいんだけどね」

 

「あはは…ごめんね、コハクさんってどこか大人っぽいから……」

 

 

コハクさんが手札を見つめる。無表情だ。

 

言葉に出来ないオーラ、威圧を感じる。

 

コハクさんが呟く。

 

 

「僕は…大人っぽくなんて…なれてないさ」

 

 

神沢コハク…かつて私やカグヤさんと共に“ラグナレクCS”に出場し、幻のファイター“ノルン”の一人と呼ばれている人。

 

ノルンとしての名前は“スクルド”、今では彼の弟である神沢ラシンクンがこの名前を名乗っているが、元々はカグヤさんの母であり、ラグナレクCSの仕掛人である美空ツキノさんがコハクさんへ送った二つ名だった。

 

 

つまりあのカグヤさんと並ぶ強者、そして神沢クンの兄……

 

 

 

「さぁ…深見ヒカリさん…勝負だ……」

 

「…………」

 

 

ギアースシステムが起動し、光を放ち始める。それはまるで粉雪のようで……美しかった。

 

ギアースシステムから離れた通常のテーブルの方で春風さんが合図を出す。

 

「これより、二回戦を始めます!!」

 

 

ファイトが……始まる。

 

 

 

「スタンドアップ・the・ヴァンガード!!」

 

「スタンドアップ……ヴァンガード!!」

 

 

 

私とコハクさん……ギアースシステムによって二人の前にファーストヴァンガードが表示される。

 

私の前に現れた黒犬のFV、フルバウ・ブレイブはコハクさんを静かに威嚇している。

 

コハクさんの前に現れたのは…骸骨にコウモリの羽が付いたような気持ち悪い生き物。名前は…享受する根絶者 ヰゴール。ケタケタと気味の笑い声を出しながらコハクさんの周りを漂っていた。

 

 

コハクさんが使うデッキは根絶者……リンクジョーカーの名称の1つにして特殊能力“デリート”を扱うデッキ。

 

不味いことに…全く戦ったことのないデッキだ。

 

 

 

「根…絶……者」

 

「そう…これがヴァンガードとの絆を根絶してしまった、今の僕のデッキ……さぁ、行くよ…ドロー」

 

 

コハクさんがデッキからカードをドローする。

 

 

 

「ライド…嘲笑する根絶者 アヰーダ(7000)、ヰゴールをV裏にリバイブコールしてターンエンド」

 

コハクさんがライドしたのは、根絶者が共通してもつ骸骨のデザインを持った、リザードマンのようなユニット。アヰーダがコハクさんの前に立つ。

 

ここで私はコハクさんに、ずっと聞きたかったことを聞いてみる。

 

 

「コハクさん…コハクさんはヴァンガードを止めていたって…夏に神沢クンが言ってた…」

 

「そうだね」

 

「だけど…その後、秋……VFGPにコハクさんは出ていた………」

 

 

私の言葉を受けて、コハクさんは少し嬉しそうに微笑む。

 

 

「ラシン達の熱に当てられて、かな…虚無に満ちた今の僕をあいつはこのカードファイト‼ヴァンガードに呼び戻してくれた……こうしてファイトをすると、やっぱりヴァンガードは面白くて…止めていたことを今じゃあ後悔しているくらいさ」

 

 

その思いは…私の中に在るものと同じものだった。

 

 

「コハクさん……そっか…じゃあ行くよ、私のターン…ドロー!そしてライド!!ダークハート・トランペッター(7000)!!」

 

 

どこか壮麗なトランペットの音色と共に、空からダークハート・トランペッター……だったんが現れる。彼女は後列に下がったフルバウの頭を撫でてから、コハクさんのアヰーダと向き合った。

 

 

「そして……真黒の賢者 カロン(7000)をコール!!スキルで手札のモルドレッド・ファントムを公開!!山札からブラスター・ダーク“Diablo”を手札に加え、手札から氷結の撃退者をドロップ!!」

 

 

私は手札を整えながら、コハクさんを攻撃するためにリアガードを展開した。

 

 

「さぁ…カロンでヴァンガードにアタック!!パワー7000!!」

 

 

カロンがアヰーダに向かって電撃を放つ。これに対しコハクさんはノーガード、アヰーダは直立不動の状態で電撃を受けた。ダメージにはスタンドトリガーである多足の根絶者 ヲロロンが落とされ、Vのパワーが上昇していく。

 

「次は…フルバウ・ブレイブのブーストした…だったんでアタック!!(12000)」

 

「ノーガード」

 

私のドライブチェックで登場したのは黒翼のソードブレイカー、トリガー無し。

 

だったんことダークハート・トランペッターはフルバウ・ブレイブの背中に乗るとアヰーダに向かって走る。そしてアヰーダにぎりぎりまで接近しただったんはゼロ距離で魔法のトランペットを吹き鳴らした。

 

トランペットからの音色がアヰーダの邪悪な魂を蝕んでいった。

 

 

「ダメージ…責苛む根絶者 ゴヲト…ゲット、ヒールトリガー…ダメージを回復だ」

 

「…ターンエンドだよ」

 

 

このターン、コハクさんに積極的な攻撃を仕掛けていった私だったが、コハクさんのヒールトリガーによって私の目論みは上手くは行かなかった。

 

よく知らないデッキが相手の場合、先ずは手札を奪って行きたいんだけど……ね。

 

 

「僕のターン…スタンド、ドロー…ライド!!慢心する根絶者 ギヲ(10000)!!更にリアガードにギヲをコール!!」

コハクさんの前にいやらしい笑顔を浮かべたユニットが2体コールされた。能力を持たないグレード2であるギヲはパワー10000…これは攻め難い。

 

 

「リアガードのギヲでヴァンガードにアタック!!(10000)」

 

「黒翼のソードブレイカーでガード!!」

 

「ヰゴールのブーストしたギヲでのアタックはどうかな!!(15000)」

 

「……ノーガード!!」

 

 

ドライブチェックはグレード3であるゼヰールというユニット、私のダメージにはマーハが落とされる。

 

これで私とコハクさんはそれぞれダメージ1点。手札はコハクさんの4枚に対し私が3枚だ。

 

まだ勝負の行方はわからない。

 

「私のターン!!スタンドandドロー!そしてライドだよ!!血戦の騎士 ドリン(9000)!!」

 

 

そして私はそのまま、ドリンとフルバウ・ブレイブの2体のみでコハクさんへとアタックを仕掛ける。コハクさんはノーガードを宣言し、私はドライブチェックに入っていく。

 

 

「……撃退者 ウーンテッド・エンジェル!!ゲット!クリティカルトリガー!!効果は全てヴァンガードへ与えるよ!!」

 

「……へぇ」

 

 

これでコハクさんのダメージゾーンに2枚のカードが追加される。新たに完全ガードである拒絶する根絶者 ヱビルとグレード2の貪り喰う根絶者 ジェヰルが置かれた。

 

これでダメージは私が1点、コハクさんが3点だ。

 

 

「ターンエンドだよ、コハクさん」

 

「…僕のターン…スタンド、ドロー……」

 

 

自身のターンを宣言したコハクさんは、山札からカードをドローするとしばらく手札を見つめた。

 

 

「ヒカリさん……僕は…貴女を倒したい……そう思っている」

 

「…?」

 

どこか神妙な面持ちで、コハクさんはそう言った。

 

そう思うことはゲームである以上、自然なことだと思うけど……?

 

 

 

「僕やヒカリさんは同じノルンとしてずっとヴァンガードにおける伝説の一つとして語られている、それは事実だ……だけどずっと僕は…僕はヒカリさんと同列に語られるような人間じゃないって、そう思っているんだ」

 

「……コハクさん、何を…?」

 

 

コハクさんは中学生とは思えない、悲しそうな表情で手札から1枚のカードを取り出した。

 

 

「今の…いや昔から、僕には貴女の光は眩しすぎるんだ……穢れし愚者の魂を乗せて…光を根絶せよ…ライド!!威圧する根絶者!!ヲクシズ(11000)!!」

 

 

 

コハクさんによって呼び出されたヴァンガード。

 

威圧する根絶者 ヲクシズ。根絶者をよく知らない私でさえ、その姿を見たことはあった。

 

その薄気味悪い姿は、このユニットが根絶者の一員であることを示していた。

 

バトルフィールドの上空には、ギアースシステムによって紅く、妖しく輝く星が迫っている。

 

 

「これが……ヲクシズ……」

 

「ヲクシズのスキル……発動!!」

 

「っ!?」

 

 

コハクさんがダメージゾーンにある全てのカード…3枚のカードを裏向きにし、リアガードにいたギヲをソウルに送る。

 

そしてヲクシズはゆっくりと、私のヴァンガードであるドリンの方へと手を伸ばす。

 

 

「虚空に散るといい……“デリート”」

 

「これは……」

 

 

ヲクシズがドリンの体を掴む。そして苦悶の表情を浮かべたドリンは闇に包まれ、消えてしまった。

 

誰もいなくなったヴァンガードサークル。そこには脆弱な霊体である“私”の姿がギアースによって投影されていた。

 

「これが……デリート……根絶…」

「そうさ…デリートされたヴァンガードは呪縛と同様に裏向きで置かれ、呪縛と同様に次の貴女のエンドフェイズに解除される……それまでこのユニットはスキルとパワーを失う……これがデリートであり…ヲクシズは更にパワー+10000だ」

 

 

そしてコハクさんはFVであったヰゴールをソウルに送り、カウンターチャージ1と1ドローを行うと、V裏にアヰーダを、前列にジェヰルをコールした。

 

 

「……アタック」

 

 

リアガードのジェヰルによる攻撃が“私”のことを襲う。パワーの9000の攻撃はパワー0の今のドリン、もとい私にとってシールド値10000を要求している。

 

「撃退者 ウーンテッド・エンジェルでガード!」

 

ジェヰルは細く伸びた体をしならせながら私に向かって飛んできた。その突進は私に届く前にウーンテッド・エンジェルによって食い止められる。

 

 

「次は…アヰーダのブースト、絶望の旋律を刻め!!威圧する根絶者 ヲクシズでアタック!!(21000)」

 

「……ノーガード」

 

 

ヲクシズの攻撃……伸ばされた両手はギアースによって表示された私の体を掴んだ。

 

 

「ツインドライブ…痙攣する根絶者 ヱディ…ゲット、スタンド!!効果は全てジェヰルに与える」

 

「っ…スタンド…トリガー…!」

 

「そして…進撃する根絶者 メヰズ…ゲット、クリティカル!!クリティカルはヲクシズに与え、パワーはジェヰルに……!!」

 

 

ヲクシズは“私”を地面に強く受け付ける。その映像は私にとって気持ちのいいものでは無かった。

 

そしてダメージチェック…ダメージに落とされたのはブラスター・ダーク“Diablo”と黒翼のソードブレイカー…残念ながらトリガーは出ず、ヴァンガードのパワーは0のままだ。

 

これで私とコハクさんのダメージは並ぶ。

 

 

ヲクシズをブーストしたアヰーダのスキルによってSB1というコストを払ったコハクさんは山札から1枚ドローすると、リアガードに手を伸ばす。

 

「スタンドしたジェヰルで…アタックだ(19000)」

 

「……ノー…ガードだよ、ダメージチェック……幽幻の撃退者 モルドレッド・ファントム……」

 

 

まだグレード2だというのに、私のダメージは既に4点まで追い詰められている。前回のファイト程では無いが状況は悪い。

 

いや……

 

私はダメージゾーンやドロップゾーンを見る。前回のファイトで活躍してくれたドローソースである黒翼のソードブレイカーはもう山札に存在しない。その点を考えると……状況はむしろ前のファイトより悪いのかもしれない。

 

「ターンエンド…僕はせめて、せめてファイトだけでも貴女に勝ちたいんだ……」

 

「ファイトだけ……でも……?」

 

 

コハクさんの言葉に何処か違和感を感じる。それはまるで私とコハクさんが別の何かで戦ったことがあるような…………いや、それ以前に私はコハクさんとどこかで会って…?

 

 

自分の相棒(アルフレッド)一つ守れやしない僕に比べて…貴女は強く気高かった…思わず貴女から逃げてしまうほどに……」

 

アルフレッド…守る……逃げてしまった……僕?

 

私の中で古い記憶が甦る……歪められたカード…アルフレッド…暴行を受ける少年…逃げてしまった…。

 

 

……そうか。あの時の……

 

 

 

私の中で全ての記憶が繋がった。

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

あれはラグナレクCSが終わってから、私がヴァンガードを止めるまでの……間に起きた話、私がちょうど……中学2年の頃の話だ。

 

季節は夏手前。梅雨が明けた頃。

 

私は春風さんや親衛隊の皆に力と知恵を貸して貰い、中学校の綱紀粛正に勤めていた。

 

悪そのものであった前年の3年生が粛清、強制改心の後に無事卒業。上の学年にも私の名前は知れ渡っていた。

 

そうなると、もっとも注意すべきであったのは…この中学が“そういう場所”と勘違いして好き放題しようと考えてしまう可能性のある……新一年生。

 

2年生、3年生が落ち着いて来ている以上、粋がった一年生が幅を利かせるのは想像に容易い。

 

 

そして…私の嫌な想像は現実のものとなった。

 

 

コハク少年が“標的”にされたのは…やはり“カードゲーム”という趣味が原因だろうか。カードゲームというものは時として偏見の対象にされやすい。

 

 

私たちが現場に駆け付けたのは、自分で言うのもあれだが、充分早かった。

 

 

 

ーー愚者共が…よく我が前で醜い行為が出来たものだ…余程、その命を地獄へと落としたいようだな…ーー

 

 

 

だが、遅くもあった。

 

 

 

ーーアルフレッド…ブラスター・ブレード…ーー

 

 

 

少年は大切な物を壊され、私は少年の心を救えなかった。

 

 

ーーこの学校で辛いこと、苦しいことがあれば我に言って欲しい……我はーー

 

ーー結構さ…ーー

 

 

 

私はその後、その少年と会うことは無かった……と思っていた。

 

それがこんな近くにいたとは……ね。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

 

「君は……あの時の……」

 

 

私は全てを思い出していた。

 

 

「……あの時の貴女は、いや、今の貴女も気高く美しい……」

 

「……///」

 

「僕は貴女を倒して…少しでも貴女に近づきたい…ヴァンガードのデッキを再び手にして、僕は改めてそう思った……僕は弱いんだ、皆が思うほど強くなんてない、だから貴女を倒して僕は…強くなりたいんだ」

 

 

コハク…さんは拳を胸に当て、瞳を閉じる。まるで神に誓っているかのように。

 

 

「……私のターン、スタンドandドロー……」

 

 

私はコハク…さんの言葉を噛み締める。ノルンだとかベルダンディだとか、中学時代とか……過去は私を逃がしてくれないらしい。

 

それは仕方のないことだと、私もわかっている。それにあの過去が無ければ今の私は存在しない。そして私は今の私を…思いの外、気に入っているのだ。

 

だけど何処かで、それは過去に囚われているのは自分だけだと、感じてしまっていた。

 

同じ場所、同じ時間を過ごしていた彼の存在、思いに私は気づきもしなかったのだ。忘れていたのだ。

 

 

私は、彼と、戦わなければならなかった。それが彼の思いに答えるということだ。

 

 

 

「でもね……私も…強くなんて無いんだよ…君ならわかるよね…」

 

「…………」

 

「私も……そして、この人も」

 

 

私はそう言いながら、手札からモルドレッド・ファントムをドロップする。

 

ヲクシズのスキルによってこのターン、私はライドするためには手札を1枚棄てなければならなかった。

 

「私から見たら…コハクさん…いや、コハク…君の方がずっと強いよ……ずっと神沢クンからの期待や尊敬を裏切るまいとしていた君の方が……ずっと神沢クンを見守り続けた君の方がずっと……ね」

 

「……僕が強い…?違う、僕は弱い」

 

「…そうじゃないよ…それだけじゃない筈なんだよ」

 

私は手札からグレード3のユニットにライドする。脆弱な霊体であった私は登場したそのユニットと拳を合わせる。後は……彼に託す。

 

 

「その輝きは深き闇の中に!!今ここに……闇より深き真の“Dark”を!!ライド・the・ヴァンガード!!ブラスター・ダーク“Diablo”(11000)!!」

 

 

ダメージは私が4点に対してコハクが3点。

 

手札はコハクが7枚で私が……3枚。

 

このターンで…ファイトの流れが決まる。

 

私は手札から闇夜の乙女 マーハと力戦の騎士 クローダスをドロップし、ジェネレーションゾーンを解放する。

 

 

 

「超越…来るか」

 

「誇り高き戦士よ、我が呼び声に答えて!!ストライド・the・ヴァンガード!!!暗黒騎士 グリム・リクルーター!!!」

 

 

ブラスター・ダーク“Diablo”が自身の剣を地面に深く突き立てることで空高くにストライドゲートを出現させる。

 

そしてそのゲートよりオッドアイの馬を従え、漆黒の騎士は戦場に降り立った。

 

「フルバウ・ブレイブのスキル……発動!!」

 

 

漆黒の…小さな戦士の遠吠えに答え、私の手札にブラスター・ダーク“Diablo”が加わる。

 

更に私は手札からダークハート・トランペッターをコールする。

 

 

「だったん……お願い、力を貸して」

 

コールされただったんは私に向かって微笑んでくれる。そして彼女はトランペットを吹き鳴らす。その音は私たちの仲間を呼んでくれる。

 

 

「来て…スペリオルコール!!力戦の騎士 クローダス(7000)!!」

 

 

クローダスはリア前列に、だったんはV裏にそれぞれコールされた。

 

クローダスはパワー7000のグレード1のユニットだが、Vに“ブラスター”が存在する場合、そのパワーは9000まで上昇する。

 

「新しいシャドウパラディンの展開力…凄いでしょう?」

 

「確かに…強力だ」

 

 

私はクローダスを使い、リアガードのジェヰルを攻撃する。クローダスの剣はジェヰルの体を粉々にする。

 

 

「………」

 

「轟け…勇気は力に、覚悟は剣となりて敵を貫く…だったんのブーストしたグリム・リクルーターでヲクシズにアタック!!(33000)」

 

「……ノーガードだ」

 

 

漆黒の騎士の剣がヲクシズの体を袈裟斬りにする。ヲクシズはその衝撃で若干後ろへと退くものの、大きなダメージを食らった様子は無い。

 

「まだだ…ドライブチェック…first、髑髏の魔女っ娘 ネヴァン……second、幽幻の撃退者 モルドレッド・ファントム……」

 

トリガーは出ない、私は最後のドライブチェックに望みを託す。トリガー1枚、出るのと出ないのでは話が違う。

 

だけど私は“力”に頼るつもりは無かった。それを使うのは…もっと強くなってからだ。

 

だから私は……自力で引き当てる……

 

 

 

「コハク、私も、君も……皆それぞれ強さも弱さも抱えてる…それが普通なんだ……だから!!」

 

 

私は三回目のドライブチェックを開始する…山札からカードを引いた。

 

 

「だからこそ…お互いに…誰かの先導者になれるんだ!!誰かの支えになれるんだよ!!私も!!君も!!」

 

 

だから…自分を必要以上に卑下しちゃ駄目なんだ。それは……自分を頼ってくれる人たちに失礼だから……

 

 

それは私がこの半年で強く実感したことだ。

 

 

「ヒカリ…さん……」

 

 

 

そんなことを言いながら引いたカードは真黒の賢者 カロン、ノートリガーだ。コハクのダメージにはグレード3のゼヰール……こちらもトリガー無しだ。

トリガーは出なかった、が、グリム・リクルーターの攻撃がヒットしたことで私は山札からグレード1のユニットをコールすることができる。

 

ヲクシズに攻撃を仕掛けていたリクルーターは私の目の前へ戻ってくると口笛を吹いた。

 

その音色に答え、ダークハート・トランペッターが飛んでくる。

 

だったんは先程と同様にクローダスを呼ぶ。これで16000のパワーラインが形成された。

 

 

「行くよ…クローダスのブースト…ダークハート・トランペッターでヲクシズにアタック!!」

 

 

ダークハート達の渾身の一撃がヲクシズを討つ。

 

コハクのダメージゾーンに5点目のダメージが落ちる。ヰドと呼ばれるそのカードはドロートリガーだった。

 

 

「……ターンエンド、だよ」

 

 

Gユニットであるグリム・リクルーターがゆっくりと盤面から消えていった。

 

 

これでダメージは私が4でコハクが5。だけど手札は私の3枚に対してコハクが8枚。

 

状況はかなり厳しいけど、ここを乗りきれば…次のターンに“Diablo”を使うことができる。

 

 

コハクさんが口を開く。

 

「僕は…ずっと貴女に救われっぱなしだ、深見ヒカリさん」

 

「………それは駄目なことじゃないよ、コハクもきっと誰かを救っているんだから…」

 

 

そしてコハクは、楽しそうに、年相応に微笑んだ。

 

 

 

「ヒカリさん…悪いけど、ファイナルターンだ!!」

 

「いいよ…来て!!私はそれを受けきってみせる!」

 

 

コハクはスタンド、ドローと続け、1枚のカードをヴァンガードサークルのヲクシズに重ねた

 

威圧する根絶者 ヲクシズが紫色の光に包まれ、形を変えていく。現れるのは異形の存在。これまでのどの根絶者よりも不気味な存在。

その鋭い爪がダークに向かって繰り出される。ダークがその爪を弾き返すといよいよ、その存在が姿を見せた。

 

 

「世界を混沌へ導くは絶望と悪夢の二重奏……ライド!!混じり合う根絶者 ケヰヲス(11000)!!」

 

 

その生物は二つの首を持っていた、人のような頭と竜のような頭。そしてケヰヲスは竜のような頭の方から緋色の閃光を放った。

 

閃光はダークの体を貫く。

 

 

「ケヰヲスのスキル発動!!根絶者のECB2に加え手札からヱディとゼヰールを捨てる!!……ブラスター・ダーク“Diablo”……“デリート”!!」

 

ダークDiabloが闇の中に消滅する。

 

 

「そして後列にいるクローダスとダークハート・トランペッターを…“呪縛”する!!」

 

 

クローダスとダークハートが黒輪の内側へと閉じ込められる。

 

 

「…そして僕はリアガードに並列する根絶者 ゲヰール(9000)を2体、アヰーダ、ガタリヲ(7000)をコール…ゲヰールのスキルで前列のクローダスとダークハートも……“呪縛”!!!」

 

 

コハクはどんどんリアガードを展開していく。それに伴い、私の盤面はどんどん崩れていった。

 

 

 

「……これが、根絶者……か」

 

 

 

今、私の盤面には右下以外の凡てのサークルに裏向きのカードが置かれていた。

ギアースシステムによって表示される私のユニットは既にヴァンガードをデリートされた“自分自身”しか存在しない。

コハクがリアガードに手を伸ばし、アタックへと入っていく。

 

 

「アヰーダのブースト、ゲヰールでヴァンガードにアタック!!(16000)」

 

「ノーガード……ダメージチェック…氷結の撃退者、ゲット!!ドロートリガー!!1枚引いてパワーはヴァンガードに与えるよ!!」

 

 

これは……もしかすると首の皮1枚繋がったのかもしれない。手札は4枚、コハクには後2列、アタック前のユニットが存在する。

 

……守りきれるか、だが守ったところでリアガードが呪縛されているため、次のターンにファントム・ブラスター“Diablo”を打つことは出来ない。

 

だけど……諦めたくない。ふふ…コハクにお世辞でも気高く美しいとか言われたらね、そんな情けない姿を晒すわけにはいかないよ。

 

 

「アヰーダでブースト、混じり合う根絶者 ケヰヲスでヴァンガードにアタック!!(18000)」

 

「そこは…髑髏の魔女っ娘 ネヴァンでガード!!コストにカロンをドロップ…私を…守って!!!」

 

 

ギアース上の私に迫り来るケヰヲス。その前に颯爽とネヴァンが現れる。彼女は一瞬こちらのほうへウインクすると、ケヰヲスに向けて巨大な骸骨の形をしたエネルギー体を生み出した。

 

エネルギー体はケヰヲスの動きを封じ込める。

 

「ツインドライブ…拒絶する根絶者 ヱビル、そして……」

 

 

その瞬間、私の足元のギアースパネルが淡く、緋色に発光した。

そして…コハクの足元のパネルもまた……淡く…翠色に……

 

 

これは……来る。

 

 

 

「……多足の根絶者 ヲロロン、ゲット!!スタンドトリガー!!」

「……っ!!」

 

アタックを終了し、レスト状態にあった並列する根絶者 ゲヰールが再び立ち上がる。

 

それは私にとって絶望以外の何物でもない。

 

 

「スタンドしたゲヰールで…ヴァンガードへアタック!!(14000)」

 

「……ジャッジバウ・撃退者でガード!!」

 

 

コハクのアタックはあと一回。私の手札はあと1枚。ヴァンガードには5000分のトリガーが乗っている。

 

だけど……

 

 

「ガタリヲのブースト、並列する根絶者 ゲヰールでヴァンガードへ!!(16000)」

 

 

 

要求値は…15000…私の手札じゃあ……守りきれない……か。

 

 

 

「ノーガード……かな」

 

 

 

ギアース上の私と、ゲヰールの影が重なる。私のダメージゾーンには……髑髏の魔女っ娘 ネヴァンが落とされた。

 

 

これで6点目。

 

 

 

つまり……

 

 

「僕が……勝った」

 

 

私の、敗けだ。

 

 

私はどこか清々しい気持ちでコハクのことを見ていた。それはまるで無くしていた物を見つけたような感覚。

 

 

「おめでとう、コハク…君の強さ、私は感じたよ」

 

「ヒカリさん…」

 

コハクは私の顔を一瞬ちらっと見ると明後日の方を見つめて言った。

 

 

「貴女には敵わないな」

 

「?」

 

 

コハクは私に向かって手を差し出した。

 

 

「“ありがとう”」

 

「…こちらこそ、ファイトしてくれてありがとう」

 

 

そうしてコハクと握手を交わした後、敗北した私はファイトテーブルから離れた場所に移動した。

 

 

私の店舗予選は、ここで終わりだ。

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

大会の終わった私は今、この大会の決勝戦を見ていた。

 

 

 

「世界に混沌へ導くは絶望と悪夢の二重奏……ライド!!混じり合う根絶者 ケヰヲス!!」

 

 

決勝に進出したのは、神沢コハク。彼は私を倒した切り札のユニットの上から更に切り札を重ねていく。

 

 

「ケヰヲスのスキルで…“デリート”!!呪縛!!…更にストライド!!混沌に満ちた世界を調和へ導くは救世の意思!!創世竜 アムネスティ・メサイア!!!」

 

 

 

コハクの使う根絶者らとは趣の違うユニットが神聖な光と共にヴァンガードとして現れる。あれこそがリンクジョーカーの切り札……か。

 

コハクは更にゲヰールをコールし、相手のリアガードを呪縛する。

 

そして、アムネスティは攻撃を開始した。アムネスティの光を受けた黒輪は全て破壊される。だが、破壊された数だけアムネスティの光もまた強くなっていた。

 

 

「パワー42000!!クリティカル2!!アムネスティとガタリヲのアタック!!」

 

 

強大すぎる力の奔流。それを“デリート”され、無防備な状態で受け止めるのは……

 

 

「……ノーガード」

 

 

 

神沢ラシン……神沢クンだった。

 

 

 

戦いはここで終了し、この大会の優勝者はコハクに決定した。その様子を神沢クンは、どこか嬉しそうに見つめている。それは私もだった。

 

私は大会を見届けた後、他の人よりも早く、ショップから抜け出した。

 

 

ここで負けてしまった以上、私は次のショップ予選に備えなければならない。あと2ヶ月の間に、何処かのショップ予選で優勝出来なければ…ヴァンガードクライマックスグランプリへ出場することは叶わないのだから。

 

 

私は駆け足で駅へと向かう。

 

 

 

 

 

「早くデッキの調整……しないと…ね」

 

 

 

こんなところで負けてるわけにはいかないのだから。

 

 


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