吾輩は使徒である   作:-Msk-

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原作一巻相当です。
一巻はそこまで活躍する場がないので短めです。

基本的には「一話=25,000文字」を予定しています。
自分が投稿している別作品、『絶対☆領域』が「一話=5,000文字」の「一章=五話」で成り立っているので妥当かと思います。

それではどうぞ。

2016/12/18修正。
使徒の数を「十六」→「十二」に変更。


Ⅰ 旧校舎のディアボロス

 私は使徒である。名前はゼルエルと呼ばれている。

 

 汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオンの初号機とやらに胸部のコアを破壊されて死を迎えた。だが何の因果か、新たな生を受けて異世界に生まれ落ちた。現在は『聖書の神』とやらの部下である。

 

 ゼルエルという名は神に付けられた。意味は『神の腕』で、力・戦を司らせてもらっている。

 

 容姿は人間によく似たものになっている。白銀の長髪を後ろで纏め、背中からは三対六枚のA.T.フィールドで形成された翼が、頭上には同じくA.T.フィールドで形成された輪が浮かんでいる。性別は男というものらしい。ちなみに翼と輪は消すこともできる。

 

 二度目だが、私は使徒である。使徒は私以外に十二体存在する。面倒なので詳細は省くが、使徒は戦争に勝つために神が創造した天使とは別の戦力である。ちなみに私は第14使徒だ。

 

 創造されてからしばらくは、女天使が身の回りの世話などをしてくれた。女天使の名はレイナーレ。綺麗な長い黒髪が印象的だ。

 

 天使、堕天使、悪魔の三つ巴で、戦争をしていた。あくまでも過去形である。既に戦争は終わりを告げた。

 

 途中で赤と白の龍が乱入してきたのだ。二匹は互いに攻撃し合っていた。その攻撃の余波で各陣営の戦闘員が消滅していったのだ。このままでは戦争どころではないと、協力をして龍を封印することにした。

 

 結果は神、使徒、魔王の死亡。龍の封印に成功。――という堕天使以外に多大な被害を及ぼすことになった。

 

 使徒は私を除いて全て消滅してしまった。神が龍を封印するときの盾として散ったのだ。全員でA.T.フィールドを展開したが、攻撃を完全に防ぐことはできなかった。

 

 私がA.T.フィールドを展開したエリアは防ぐことに成功した。――が、他の個体が展開したエリアはA.T.フィールドが砕け散ってしまったのだ。もちろん背後で龍を封印するための術式を展開していた神は攻撃の巻き添えをくらった。辛うじて神が龍の封印に成功したからよいものの、龍が封印されていなかったとなると少々面倒なことになりそうだった。

 

 だがこれで――私は自由の身になった。

 

 公式では使徒は全滅したということになっている。そう、私も消滅したことになっているのだ。天界に戻る必要もないのだ。神の代役を務めている熾天使(セラフ)にこき使われなくてすむ。

 

 さぁ――私がこの世界に再び生まれ落ちた理由を探しに行こうか。

 

 

 

† † †

 

 

 

 時の流れは早い。私はしみじみそう思った。万以上の年月を人間界という場所で生活をした。それがほんの数年のように感じてしまう。

 

 人間界は面白い。最近購入したバイクとやらは、スロットルをひねるだけで勝手に前に進む。走った方が速いが、大衆の目を気にしないで済むのは楽だ。

 

 私は駒王という町にある廃教会を住処としている。一人で過ごすには少々広いが、別に不便があるわけではない。教会として機能しているわけでもないので、私の存在が知られる可能性はほぼ確実にない。――そう、思っていた。

 

 

「ぜ、ゼルエルさま!?」

「……レイナーレか?」

 

 

 レイナーレが教会に訪れた。背後には見知らぬ堕天使が三人。女の堕天使が二人に、男の一人。力量は下の上ぐらいか。取るに足らん存在だ。

 

 

「い、生きてらっしゃったのですか……?」

「あぁ……」

「よかった……っ!!」

「……」

 

 

 目じりに涙を浮かべながらレイナーレが抱き付いてきた。こういう時にどのような行動をとれば良いかはわからないが、とりあえず抱き返した。抱き付いてきたということは、抱き締めてほしいということだろう? それぐらいはここ数千年で学んだ。……矛盾しているか?

 

 

「レイナーレ……堕天したのか?」

「――ッ!! はい……」

「そうか……」

 

 

 目に見えて落ち込むレイナーレ。なぜ落ち込むのかがわからない。たかが堕天した程度だろう。

 

 

「何故落ち込む?」

「え……?」

「堕天したから何だというのだ。確かに天界には入れないが、それだけだろう?」

「嫌悪はなされないのですか……?」

「なぜ嫌悪する必要がある?」

 

 

 私からしてみれば堕天など、羽が白から黒に変色する程度の認識だ。

 

 神から聞かされた話では、煩悩にまみれると堕天するらしいが……それがどうした? 自らの欲望を前面に出せるのは素晴らしいことではないか。

 

 

「ううぅ……ありがとう、ございます……」

「何故礼を言う?」

「私が……言いたかっただけです……」

「そうか」 

 

 

 私から離れたレイナーレが目をこする。涙の跡を消しているのだろう。

 

 その後、背後にいる堕天使について説明を受けるためにソファとテーブルがある部屋に向かった。長話をするのに立ちっぱなしは辛いだろう。私は全く辛くないが。

 

 前世の影響からなのか、私は疲れというものを知らない。どんなに全力で走ろうが全く息が切れない。極端な話をすると、私は呼吸をする必要がないのだ。

 

 私を動かしている源はアダムが持っていた『生命の実』だ。心臓の代わりにコアがあり、それが『生命の実』になっている。

 

 神が私――使徒を創造する時に、直々に『生命の木』からもぎ取り加工した。それが使徒の正体。全て神に聞かされた話なので確かなのだろう。

 

 応接室に着いた。レイナーレたちをソファに座らせ、私は紅茶を淹れる。レイナーレが「私がやります」と言ってくれたが、「こういう時はゲストではなくホストがやるべきだ」と言ったらおとなしく引いてくれた。

 

 茶葉はそれなりに良いものを選んでるつもりだ。数万年を生きているとこういうことを娯楽にしないと暇で仕方がないのだ。ちなみにバイクも娯楽の一環だ。マフラーの形状一つで音が変わるのがとても面白い。

 

 紅茶をレイナーレたちに差し出す。レイナーレ達は一礼してから紅茶に手を付けた。

 

 

「そこの堕天使三人は何者だ?」

「私の部下です。右からミッテルト、カラワーナ、ドーナシークです」

 

 

 ツインテールの金髪に青い瞳のツリ目少女がミッテルト。着ている服はゴシックロリータというやつか。

 

 長い藍髪に鳶色の瞳の女性がカラワーナ。着ている服は黒いボディコンスーツというやつ……なのか?

 

 特に特徴のない男がドーナシーク。着ている服はサラリーマンが着ていそうな長いコート。あとは八ットか。

 

 

「部下を連れて態々こんなところまで何をしに来た?」

「その……元聖女がこちらに……」

「聖女……? あぁ……アーシア・アルジェントのことか」

「面識がおありで?」

「一度な」

 

 

 まだ小さい子供だった。素直で人の話をよく聞き、無邪気に笑い、この子が天使だったらと何度思ったことか。彼女は人間でありながら天使の理想形だった。

 

 長い金髪に翡翠色の優しい瞳が特徴的だった。彼女も私のことをレイナーレと同様に「ゼルエル様」と慕ってくれたのは懐かしい思い出である。

 

 そんな彼女が()()()か……一体何をしたのだ? そういえば回復系の神器(セイクリッド・ギア)を持っていたが……傷ついた悪魔でも癒したのか? 教会は悪魔との接触を極端に嫌うからな。可能性としてはありうる。

 

 悪魔を癒したアーシアを裁くのは少々おかしいだろう。

 

 アーシアは神が創り上げた神器(セイクリド・ギア)という『システム』を使って悪魔を癒したのだ。これは神が悪魔を癒すのを許容しているようなものだ。それをダメだと言うのは、神にダメだと言っているのと同じだろう。

 

 

「とても素直で可愛らしい子だった」

「そう、ですか……」

「彼女をどうするつもりだった? 正直に話せ」

「――ッ!! その……神器(セイクリッド・ギア)を抜き出そうと……」

 

 

 確か神器(セイクリッド・ギア)を抜き出すと抜き出された人物は死ぬ。なるほど、だから話しづらそうにしていたのか。

 

 

「そうか。だが今はそう考えていないのだろう?」

「もちろんです!! ゼルエルさまに再び会えた今、神器(セイクリッド・ギア)など必要ありません!!」

 

 

 言い換えれば、私に会えなければ抜き出していたということではないか。だからと言ってどうこういうわけではないが。

 

 それからレイナーレは私が出ていった後の天界のことをなどを教えてくれた。

 

 神を失った天界は大打撃を受けたようだ。まず『システム』が不安定になった。そのせいで煩悩を抱いていないのに堕天した者が多数現れたようだ。レイナーレもその一人らしい。

 

 堕天使の総督であるアザゼルに拾われ、そのアザゼルの指示で神器(セイクリッド・ギア)所有者を保護しているらしい。

 

 だがレイナーレは神器(セイクリッド・ギア)を抜き出し、我が物にしようとした。何故私に会えただけでその必要がなくなったのかは分からないが。

 

 

「あ、あの……」

「どうした?」

「再び私にゼルエルさまのお付きをさせてはもらえませんか?」

「構わない」

「ほ、本当ですか……?」

「嘘は言わない」

 

 

 嘘を言う必要がない。嘘をつく理由がない。

 

 数万年一人で過ごしていたのだ。新たな娯楽――会話を取り入れてもいいと思う。その相手には、天界で私の世話をしてくれたレイナーレが丁度いいだろう。

 

 

「他の三人はどうするつもりだ?」

「私用に巻き込むわけにはいきませんので、帰らせるつもりです」

「そうか」

 

 

 レイナーレ以外はいてもいなくても変わらない。別に残ろうが残らなかろうがどうでもいい。

 

 

「では、少々時間をください」

「分かった」

「ありがとうございます」

 

 

 レイナーレはミッテルト、カラワーナ、ドーナシークを連れて応接室から出ていった。

 

 そうか……アーシアがここに来るのか。楽しみだ。彼女は面白い。滑稽という意味ではなく、興味深いという意味で面白い。

 

 

 

† † †

 

 

 

 アーシアが教会にやってきた。修道服に身を包んでいる彼女は、数年前よりも女性らしさが出ていた。

 

 

「よく来てくれたアーシア。歓迎しよう」

「ぜ、ゼルエルさま!?」

「そうだがどうかしたのか?」

「い、いえっ!! またお会いできてうれしいですっ!!」

 

 

 目を輝かせながら私の手を両手で包み込むアーシア。少し顔が赤いような気がする。

 

 ……何故だろうな。抱きしめたくなる。そして守りたくなる。神を守りたいとは思えなかったのに……不思議だ。これも数万年を人間界で過ごした影響なのだろうか。

 

 ――コンコンコンコン

 

 扉を四回ノックする音が部屋に響くと、アーシアは包み込んでいた私の手を開放して離れていった。

 

 

「ゼルエルさま、レイナーレです」

「入れ」

「失礼します」

 

 

 部屋に入ってきたレイナーレは、アーシアを見つけると頬を緩ませていた。理由は知らない。

 

 レイナーレの服装も大分――いや、まるっきり変わった。

 

 再会した時は如何にも堕天使といった黒のボンテージを着ていた。だが今は天界で私の世話をしてくれた時のように、メイド服をしっかりと着こなしている。天界でレイナーレがメイド服を着ていたわけではないが、雰囲気が似ているのだ。

 

 

「アーシアも無事に到着できたようなのでご報告を」

「なんだ?」

「元私の部下たちが神器(セイクリッド・ギア)所有者を襲撃し、殺害したようです」

「……お前たちの目的は保護ではなかったのか?」

「どうやら私ではない何者からか指示されていたようでして……」

 

 

 あの堕天使三人は別の堕天使の指示でレイナーレの下についていたことになるのか。故にあっさりとレイナーレから離れた。

 

 レイナーレは捨て駒ということか。……まるで私――使徒のようだな。神を守るために身を挺してA.T.フィールドを展開したが死んでいった私以外の使徒のようだ。

 

 

「死んだ者は今どうなっている?」

「リアス・グレモリーの眷属――『兵士(ポーン)』になっています」

「グレモリーの娘の眷属か……」

「はい。駒は八つ使用したようです」

「何……?」

 

 

 『兵士(ポーン)』駒八つとはなかなか珍しい。悪魔の中でもほんの一握りじゃないか? 

 

 レイナーレからグレモリーの娘の『兵士(ポーン)』について聞いた。

 

 どうやら悪魔に転生する前までは、只の男子高校生だったらしい。特に何かをしていたわけでもない。名は兵藤(ひょうどう)一誠(いっせい)。……あぁ、聖剣使いの紫藤の娘と仲が良かった奴か。

 

 確か紫藤トウジという名だった。聖剣オートクレールに導かれたとかで私がいるこの教会にやってきた。もちろん私が使徒ということは知らない。まぁ人間ではないとバレているだろうが。

 

 何度目かに娘とその友人である兵藤を連れてきていた。……やけに娘が私になついていたな。事あるごとに私のことを呼び出していた。

 

 そうか……あの兵藤が悪魔か。公的には敵になるが……まぁ別に構わないだろう。最近は全く会っていないからな。それに向こうも私のことを忘れている可能性の方が高い。

 

 

「できるだけ干渉を控えろ」

「よろしいので?」

「構わない。下手に干渉してグレモリーの娘に嗅ぎまわられると面倒だ」

「かしこまりました」

 

 

 あの時、兵藤からは特異なものは感じ取れなかった。どこにでもいる普通の少年だった。そんな兵藤が『兵士(ポーン)』の駒を八つも消費するはずがない。

 

 神器(セイクリッド・ギア)か? それもかなり希少な、この世に十三しかない神滅具(ロンギヌス)。そうでなくては駒八つの説明がつかない。

 

 そういえば神が封印した龍は二匹とも神滅具(ロンギヌス)になっていたな。兵藤がそのどちらかを所有している可能性もゼロではない。もし所有していたら……昔話でもさせてもらおうか。これもまた一興だ。

 

 レイナーレが部屋を出ていくと、アーシアが息を吐いた。

 

 

「どうかしたか?」

「い、いえっ!! その……」

「正直に言ってくれて構わない」

「では……どうしてゼルエルさまは『魔女』になった私にも優しくしてくださるのですか?」

「私からしてみれば『聖女』だろうが『魔女』だろうがアーシアはアーシアだからだ」

 

 

 『聖女』という二つ名も『魔女』という二つ名も教会の上層部が勝手につけたものだ。そんなものどうでもいい。私は二つ名よりもその人物を見て判断する。

 

 私も過去に『第10使徒ゼルエル』と名乗っていた。いや、名乗らされていた。おかげでこの名を聞くと、はぐれ悪魔は弱腰になる。

 

 アーシアがふらふらと近寄ってきて、抱き付いて来た。この前レイナーレにしたように抱き返してみると、顔を赤くした。喜んでいるのだろうか?

 

 

「少し……このままでいてもいいですか?」

「構わない」

 

 

 アーシアはしばらく私の胸で泣いていた。

 

 

 

† † †

 

 

 

 アーシアが教会にやってきてから一夜が明けた。目覚めると隣でアーシアが寝ていたことには少し驚いた。まさか私に気づかれずにベッドに侵入されるとは思わなかった。別に構わないのだが、何故か負けた気分がする。

 

 レイナーレがつくった朝食を食べ終えた私は、アーシアと共に町に繰り出していた。アーシアが「町を見て回りたいのですが、一人では不安で……」と言うのでついてきている。

 

 使われている言語が理解できないのは不便だ。だから私は『言語理解の加護』をアーシアに与えた。『言語理解の加護』があるかぎり、アーシアはありとあらゆる『言語』を『理解』することができる。その副作用として、『理解』した『言語』を『話す』こともできる。

 

 加護を与えるぐらいなら私にだってできる。ただ、私の加護は天使が与える加護よりも強力だ。これは『生命の実』の副作用だとでも思ってくれて構わない。副作用と表現するにはプラス過ぎるものだが。

 

 アーシアの行きたい場所へ行き、日が沈んだので教会へ帰っている途中である。できれば日が沈む前に帰りたかったが仕方がない。

 

 

「ゼルエルさま、今日はありがとうございました」

「構わない。私も久しぶりに楽しめた」

 

 

 私の手を握りながら満面の笑みを浮かべるアーシア。そんな顔を見ていると、思わず顔が緩んでしまう。何故だろうな。数万年と生きていたがこのようなことは始めてだ。

 

 

「アーシア、私から離れるな」

「きゃっ!? ぜ、ゼルエルさま!?」

 

 

 ……この気配はあの堕天使三人か。

 

 アーシアを左手で抱き寄せ、堕天使の気配がする公園へA.T.フィールドで形成した(やじり)を飛ばす。着弾と共に影が三つ飛び上がり、私の前に現れた。

 

 顔と気配から、この前教会に来ていたミッテルト、カラワーナ、ドーナシークということが決定した。

 

 

「ちょっと待つッス!!」

「私たちの狙いは元聖女ただ一人」

「邪魔するのなら容赦はせんぞ」

 

 

 やはり狙いはアーシアか。堕天使はそれほど神器(セイクリド・ギア)を危険視するのか。それとも仲間に引き入れたいのか……どちらにせよ、野放しにして置くと面倒極まりない。いちいち絡まれていては時間の無駄だ。

 

 

「今なら見逃してやる。おとなしく引け」

「自分の立場が分かってないみたいッスね!!」

「あなたは狩られる側」

「そして私たちが狩る側だ」

 

 

 堕天使三人が一斉に光で形成された槍を放ってきた。私に抱き付いているアーシアが不安そうに抱きしめる力を強めた。

 

 抵抗をせずに只立つ。それだけでいい。それだけで私に光槍が届くことはないのだから。――A.T.フィールドが全て防いでくれる。

 

 A.T.フィールドが私の目の前に展開されている。突き刺さるのは光槍三本。質も大きさも、数万年前に殺し合ったアザゼルやバラキエルに比べれば玩具当然のもの。

 

 

「私の番だ。精々もがけ」

 

 

 A.T.フィールドで形成した槍を放つ。数は十八。平均一人当たり六本だ。

 

 堕天使三人は、光槍で私の放った槍を弾こうとする。――が、それは敵わない。私がA.T.フィールドで形成した槍を、上級に届くか届かないか程度の堕天使に防がれるとも? 答えは否だ。

 

 堕天使三人はその身に槍を生やしている。だが、まだ死んでいないようだ。しぶといな……死んだと思ったのだが思いの他丈夫らしい。

 

 止めを刺そうと再びA.T.フィールドで槍を形成すると、アーシアが服の裾を引っ張ってきた。

 

 

「あの……殺してしまうのですか?」

「あぁ……何度も来られると面倒だからな」

「見逃してあげてくれませんか?」

「……その必要はない」

 

 

 どうやら私とアーシアが会話しているうちに、何処かへ転移したようだ。

 

 ……気が緩んでいたのか? そうか……ここ数十年、ぬるま湯に浸かり過ぎたか。少し勘を取り戻さなければ。

 

 

「帰るぞ」

「はい!!」

 

 

 アーシアに手を握られ、再び教会への歩みを進めた。

 

 

 

† † †

 

 

 

 堕天使三人を取り逃がしてから一夜が明けた。目覚めるとまたアーシアが隣で寝ていた。また夜中に入ってきたようだ。夜中にわざわざこっそり入るなら初めから入ればいい、そう伝えるとアーシアは顔を赤らめながら頷いた。

 

 今日もまたレイナーレがつくった朝食を食べる。レイナーレが来てから毎食が娯楽に変わった。試行錯誤しているようで、どれも美味しい。そして新たな味にも出会えた。

 

 そのレイナーレだが、最近は時間が空いたときに地下で鍛錬をしているようだ。そしてアーシアは鍛錬で負った怪我を治しているようだ。

 

 治療の方法は至って単純だ。アーシアが保有している神器(セイクリッド・ギア)――《聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)》を使用する。

 

 《聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)》――対象がどんな種族でも回復させることが可能な神器(セイクリッド・ギア)だ。

 

 基本的にはどんな重傷でも完治させるが消耗した体力までは回復できない。そして、断たれた腕等を繋げる事は出来ても完全に失われてしまった部位の再生はできない。通常は直接触れていなければ回復は不可能だが、使い手の能力次第で効果範囲の拡大や回復の力を離れた相手に飛ばすこともできるようだ。

 

 この鍛錬はとても効率のよいものだと思う。レイナーレは地力が上がり、アーシアは神器(セイクリッド・ギア)を使い込むことができる。レイナーレに関しては自分次第だが、アーシアに関しては新たな領域――禁手(バランス・ブレイカー)に至れる可能性がある。

 

 禁手(バランス・ブレイカー)への至り方は人それそれだ。神器(セイクリッド・ギア)に目覚めた瞬間に至る者、仲間の死が切っ掛けて至る者、自らの強い想いで至る者。文字通り千差万別だ。

 

 至るか至らないかは本人次第。アーシアが『足りない』と想えばそれに神器(セイクリッド・ギア)が応える。その結果が只のパワーアップなのか、それとも禁手(バランス・ブレイカー)なのかは誰にも分らない。

 

 またひとつ娯楽ができたな。アーシアの成長だ。これからどうアーシアが成長するのか見守る。……見守る? 私が? それも悪くないか。無論、レイナーレの成長も楽しみである。

 

 

「あんちゃん、終わったぜぃ」

「……あぁ、今行く」

 

 

 考え込んでしまったようだ。親方の呼びかけに即座に反応できなかった。

 

 私を呼んだ親方は、私のバイクのカスタムをしてくれている人だ。この道五十年のベテランで、私にバイクの面白さを教えてくれた人でもある。

 

 ハーレーと呼ばれるものを乗っているのだが、中々速度が出るので面白い。高速道路で300km/hを出して警察に少しだけ追われたのはいい思い出だ。日本の車は180km/hまでしか出ないからな。追いつけないと判断して諦めたのだろう。あれから車体の色を変えたので捜索もほぼ不可能だ。

 

 

「今回はサスの硬さと、タイヤ交換。それとブレーキの総交換をした。どんな乗り方したらこんなにタイヤとブレーキが摩耗するのか分からんわい」

「ドリフトというものをしてみた結果だ」

「……そりゃ当たり前でぃ」

 

 

 基本的には100km/hに届くか届かないかだ。あまり速度を出し過ぎると前が詰まったときにブレーキとタイヤを酷使してしまうからな。

 

 子供がいつ飛び出して来るのか分からないが故に、路地は50km/h以下で走行している。

 

 

「今回はマケて五〇万ポッキリでいいぜぃ」

「いつも通り現金だ」

「毎度ありぃ」

 

 

 アタッシュケースを開き、中から十万の束を五つ手渡す。これで支払完了だ。

 

 

「またよろしく頼む」

「けっ、その前に変な乗り方を乗せぃ」

「善処する」

 

 

 私自身、普通に乗っているつもりなのだが。どうやら私の普通と親方の言う普通は大分違うようだ。

 

 フルフェイスのヘルメットを被る。少々窮屈だが、これを被らないと警察に追われるのだ。色はカーボンのままだが、シールドはブルーミラーにしている。そのおかげで太陽光や、雨粒が付着しても見通しがいい。

 

 キーを差し込み、捻る。エンジンがかかり、芸術とも呼べるエキゾーストノートが響き渡る。うるさすぎず、静かすぎず相変わらずいい音色だ。

 

 うるさすぎると近隣の住民に迷惑がかかり、静かすぎると子供たちが気づくことができずに事故が起きる可能性が高まる。その中間を見極めて、いい音色を響かせるのが親方だ。

 

 スタンドを戻し、スロットルを全開にする。後ろに体重が寄っていたせいか前輪が浮き上がる。それを無理やり押さえつける。

 

 後輪がパワースライドするが、それ地面を蹴ることによって制御し、前進する。

 

 少し……遠回りして帰るか。

 

 いつも使う道とは違う道を進む。しかしアレだな。数年前とほとんど変わっていないな。しいて言うならファストフードの店が――む? あれはアーシアか。

 

 進路を変更し、アーシアの元へ向かう。運がいいことに後続の車は一切いなかった。

 

 アーシアに危険がない程度の距離まで近づき、ヘルメットを脱ぐ。

 

 

「アーシア、どうしたんだ?」

「ゼルエルさま!! あ、あの……こちらの店に……」

「ちょうどいい。一緒に入ろうか」

「はい♪」

 

 

 満面の笑みを浮かべてくれるアーシア。天界にいる天使よりもアーシアの方が天使のようだ。

 

 天使共は中々腹黒い。私――使徒のことも神の盾としか考えていない。

 

 天使の中でも熾天使(セラフ)、さらに詳しく言えばミカエルか。ミカエルは私のことを完全に下に見ていたな。いや、嫉妬していたのか? やけに突っかかってきたのは覚えている。

 

 いくら天使共が私――使徒を下に見たとしても、戦闘になれば負けない。いや、負けるはずがない。

 

 もともと使徒は戦争のために神によって創り上げられた兵器だ。『生命の実』という少々高コストなものを動力としているが、その恩恵はすさまじい。その一つがA.T.フィールドだ。

 

 A.T.フィールドは万能と言っても差し支えないほど能力の幅が広い。詳細は省くが、戦闘に関しては絶対と言っても過言ではないほどの力だ。

 

 結論を言えば、戦闘特化に創られた私が、平均的な能力の天使に戦闘で負けることはありえない。

 

 

「ゼルエルさま?」

「――すまない。考え込んでいたようだ」

 

 

 アーシアが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。

 

 ()()()()()を考えるのはいつでもできるか。今は目の前にいるアーシアと久々に語り合おう。

 

 店に入り、店員に注文をする。アーシアはいろいろ迷った挙句、私と同じものにした。

 

 品物を受け取り、開いているテーブルに着く。私とアーシアは対面するように座った。

 

 アーシアはハンバーガーを手に持ち、ためらっていた。あぁ、なるほど。食べ方が分からないのか。

 

 

「包み紙の一部をはがしながら食べればいい」

「な、なるほど……」

 

 

 そこまで緊張しなくてもいいだろうに。この場合は緊張ではないのか? 

 

 ゆっくりとハンバーガーを食らうアーシア。それを眺めながら私もハンバーガーを食らう。

 

 口の中に広がる安っぽい旨味。コストパフォーマンスを考えれば妥当な味だろう。

 

 ハンバーガーは、機械でこねくり回して機械で成形したパティ、大量生産のしやすさを追求したバンズ、一度に大量に漬けたピクルスを使用したものがほとんどだ。

 

 結論を言えば安い中にも良さがあるといったところか。手軽に食らえるのがその一つだ。ファストフードと呼ぶに相応しいな。

 

 しばらく無言が続き、その間に私とアーシアはトレーに並べられたものを食べきった。

 

 一息入れて、アーシアを見据える。

 

 

「アーシア、何かしたいことはあるか?」

「そうですね……あのバイクに、ゼルエルさまの後ろに乗りたいです」

「分かった。では行こうか」

「はい♪」

 

 

 私とアーシアはトレーを持ち、椅子から同時に立ち上がった。

 

 

 

† † †

 

 

 

 太陽が沈み、辺りは完全に闇に飲まれた。回りくどい言い回しをしたが、端的に言えば夜になった。

 

 私はアーシアを後ろに乗せてバイクを教会へ進めている。アーシアがいるのでいつもより速度は出していない。法定速度を少々上回る程度だ。

 

 あと数分で教会に到着、というところで行方を遮る者が現れた。――堕天使だ。三人いる。

 

 それぞれが光槍を構えており、私がブレーキレバーを握ったその瞬間に光槍をこちらに向かって投擲してきた。

 

 だが、前回と同様にA.T.フィールドが投擲された光槍を全て防いでいるのだから焦ることなど何もない。

 

 ヘルメットを脱ぎ、バイクのハンドルに引っ掛ける。そしてアーシアのヘルメットも同様に脱がせてバイクのハンドルに引っ掛ける。

 

 アーシアを左手で抱き寄せる。アーシアもそれを受け入れたのか、私の腰に抱き付いてきた。

 

 

「態々殺されにくるとはな」

「うるせえッス!!」

「前回は油断しただけよ」

「今回は油断せずにいかせてもらう」

 

 

 堕天使三人が光槍を携え、こちらに向かって走り出した。

 

 なるほど。前回の敗北で戦い方を変えたのか。遠距離攻撃はA.Tフィールドによって防がれる。ならば近距離攻撃で、ということだろう。

 

 だが無駄だ。近距離攻撃を仕掛けてくると分かっているのだ、近づかれる前に仕留めればいい。

 

 右手を掲げ、堕天使三人の頭上にA.Tフィールドを展開。右手を下すのと同時にA.T.フィールドが堕天使三人をプレスする。

 

 人間はこういう時に技名を叫ぶみたいだが……これは技と呼べるようなものではない。A.T.フィールドを操った、ただそれだけのことだ。

 

 プレスされた堕天使三人は、無残な肉塊になり、自らの血の海に浮かんでいた。アーシアはその光景がショックだったのか、私の腕の中で気絶してしまっている。

 

 まぁいい。堕天使三人の殺害という目標は達成した。あとはアーシアを連れて教会に帰るだけだ。

 

 

「レイナーレ」

「――はい」

 

 

 名前を呼んだ瞬間に現れるレイナーレ。こういうところにも鍛錬の成果が出ているのだろうか?

 

 

「アーシアを頼む」

「かしこまりました。ゼルエル様もお気をつけて」

「あぁ……」

 

 

 レイナーレがアーシアを抱きかかえて教会へ転移したのを確認し、バイクのハンドルに引っ掛けていたヘルメットを被る。

 

 そしてヘルメットを被りきった瞬間、悪魔が私に近づいてくるのを察知した。

 

 即座にその方向を向き、バイクに跨る。別に現れた悪魔を轢き殺そうとしているわけではない。というよりも、悪魔をバイクで轢き殺すのは相手が余程油断していない限り不可能に近い。

 

 

「この肉塊は貴方の仕業かしら?」

 

 

 現れたのは紅髪の少女。身に宿している魔力はそれなりの量。そして確かに感じられる『滅びの力』。間違いない。こいつがグレモリーの娘だ。 

 

 そのグレモリーの娘の傍らには黒髪の少女。こいつからはバラキエルの魔力が感じられる。そこから考えるに、バラキエルの一人娘だろう。

 

 声を聞かれるのはまずい。声の質から私の正体が知られる可能性がある。

 

 面倒だ。このまま無視をして帰ってしまおう。バイクを魔力で無理やり止められたら対応すればいい。

 

 

「聞いているのかしら?」

「リアス、喧嘩腰ではいけませんよ」

「べ、別に喧嘩腰じゃないわよ!!」

 

 

 ――今だ。

 

 スロットルを全開にし、左足を支点にして一八〇度ターンをする。そして暴れるリアを無理やり制御しながら直進する。

 

 何やら背後で騒いでいるようだが、攻撃してこないということは、今は事を構えるつもりはないのだろう。もしくは、私が一般人だという可能性を見出して何もしてこないか。

 

 どちらにせよ、私の行動は正しかったのだろう。

 

 

 

† † †

 

 

 

 堕天使三人を圧殺してから一夜が明けた。目が覚めるといつも通りアーシアが私の隣で寝ていた。昨夜は同時にベッドに入ったので、これに関しては全く問題ない。

 

 今朝の朝食は、レイナーレとアーシアがつくったようだ。アーシアがつくったのはコンソメスープのみらしいが、そのコンソメスープはかなり美味かった。そのことを伝えると、アーシアは恥ずかしそうにうつむいていた。

 

 さて、無事に目障りだった堕天使三人の殺害をしたわけだが、今度はグレモリーの娘に目をつけられてしまったようだ。いや、目をつけられた、という表現は正しくないか。まだ私の素性が知られたわけではないのだから。

 

 ――コンコンコンコン

 

 扉を四回ノックする音が部屋に響く。

 

 

「ゼルエルさま、レイナーレです」

「入れ」

「失礼します」

 

 

 部屋に入ってきたレイナーレの纏っている空気が重い。何かあったのか?

 

 

「ご報告します。堕天使を殺害したことによって、コカビエルに目をつけられました」

「コカビエル……あぁ、あの戦争狂か」

 

 

 奴とは戦場で合ったきりだな。一目見て、面倒なのが分かった故にすぐさま他の使徒に任せたのを覚えている。

 

 グレモリーの娘よりも早く見つけられるとはな。コカビエルの情報網も中々侮れないか。

 

 

「近々駒王に来るようです」

「具体的には?」

「早くて一ヶ月、遅くても二ヶ月程かと」

「そうか」

 

 

 一ヶ月か……それだけ私を警戒しているのか? それとも別に理由があるのか? どちらにせよ、面倒なことに変わりなない。

 

 駒王を出るのもいいが、私に目を付けたのだから何処へ行っても同じか。

 

 なら向かい撃つのみ。今度は慈悲を捨て、一撃で葬る。二度手間は非効率的だからな。

 




今回の戦闘シーンはあっけないですね。
ゼルエルが本格的に戦闘できるのは原作四巻からではないでしょうか?
それでも辛うじて、という程度ですが。
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