すいません……全く筆が進みませんでした。
いや、自分でも驚くくらい筆が進みません。
僅か約一万文字を書くのにこれだけの時間を……大スランプです。
「一話=25,000文字」はとても守れそうにありません。
これも自分のテンションが低いのに理由が。
超会議で財布を紛失しました。
いやー、落とした直後はこれ以上にないくらいにあわてましたね。
見つかったわけじゃないんですけど、特に気にはしてません。
えぇ、六年間頑張った音ゲーのデータに未練何てありませんとも。
それと驚いたことが一つ。
自分の作品の中で、たった一話でこれほど評価してもらえた作品はこれが初めてです。
ありがとうございます。
紫藤の娘――イリナが教会に来た。その傍らにはゼノヴィアという青髪の聖剣使いもいる。二人は、駒王にエクスカリバーを回収しに来たようだ。
エクスカリバーを盗んだ馬鹿者はコカビエル。私に目を付けたあの戦闘狂である。態々エクスカリバーを盗んで駒王へ来るとは、中々面倒なことをしてくれる。
コカビエルがエクスカリバーを盗み出したと分かっているのに、派遣されたのはイリナとゼノヴィアの二人だけ。……余程教会は人が足りないようだ。
断言しよう。この二人がコカビエルと戦ったら確実に死ぬ。相手は聖書にその名を刻み込んだ堕天使だ。たかがエクスカリバーを使えるだけの小娘が相手をできるはずがない。それに加えて現在、エクスカリバーは七つに分かれてしまっている。
破壊力に特化した――〈
自由自在に形状を変化することが可能な――〈
使い手の速度を底上げする――〈
相手を幻術で惑わせたり、眠っている間にその夢を支配したりすることが可能な――〈
剣及び使い手を透明化が可能な――〈
信仰に関与した力を持ち聖なる儀式などで使うと効果を発揮する――〈
様々な存在を意のままに操ることが可能な――〈
戦争の時に折れて教会が回収し、錬金術による再生をしたようだが劣化が酷い。戦争の時に存在していた、圧倒的なまでの聖の気配が感じ取れないのだ。
イリナとゼノヴィアはエクスカリバーを使い戦闘をするようだ。――が、二人の間には明確な壁がある。
イリナは教会に因子を提供され、それを吸収した人工の聖剣使いなのだろう。その身に宿している因子が身体に馴染み切っていない上に、ゼノヴィアと比べると量が少ない。
対してゼノヴィアは天然物。生まれた時から聖剣を使うことを許された、天然の聖剣使い。宿している因子の馴染み度、量がイリナとは比べものにならないぐらい良い。
それに加えて、ゼノヴィアからはエクスカリバーとは別の聖剣の気配がする。流石天然物と言ったらいいのか、劣化したエクスカリバー以外の聖剣の所有を教会から許可されているのだろう。……それとも、聖剣自体に見初められたか。
私の予想だが、人工の聖剣使いがエクスカリバーを使えるのはエクスカリバーが七つに分かれて劣化したからだ。そうでなければ、後から吸収した身体に馴染んでいない因子で聖剣を使えるはずがない。
人工の聖剣使いを作り上げるのに、教会はどれ程の屍をつくりあげたのだろうか? 千か、万か……億の可能性も十分にある。そこまでの犠牲を出してまで聖剣使いが欲しいとは……人間の欲望は凄まじい。嫌悪感は特に無いが。
「結局何が言いたい?」
「協力してもらえませんか?」
「私は教会と関係ないのだが」
「冗談はやめてください。聖剣がここまで反応してるんですよ?」
何故私に聖剣が反応する? 数年前の紫藤の時もそうだ。「聖剣に導かれた」と言っていたが、何故聖剣は紫藤を私がいるこの教会まで導いた?
それに聖剣が反応したからといって、教会と関係があるとは限らないだろう。天然物の聖剣使いが良い例だ。聖剣がその者に反応しなければ因子を所有していると知られず、普通の生活を送るのだから。
……聖剣が私に反応する故に、ゼノヴィアが天然の聖剣使いだと分かったのだろうか? 普通は因子の質や量は分からないのだろうか? だがこの身は『生命の実』によって動いているのだ。その副作用のようなものの可能性もゼロではないか。
「さてな。私にもさっぱりだ」
「あくまでもしらを切るんですか?」
「事実を言ったまでだ」
「……ゼルエルさんは人間ですか?」
「どうだろうな」
そのような質問をするということは、多少なりとも私の正体に気付いているということだろう?
イリナは少々ずる賢いようだ。対してゼノヴィアは完全に己の本能に基づいて行動するタイプか。正反対の二人を組ませるとは、教会もなかなか考えている。
頭で考える者に本能に従う者を付けることによって、頭で考えるだけでは打破できない状況を本能に従い打破する。そして生き残る。……だが相手が格上ではどうにもならないだろう。
「私が人間か否かはともかくとして、聖剣が私に反応しているのは私にも分からない」
「そうですか……分かりました。
なるほど……「今は」か。実に便利な言葉だ。後に撤回できる可能性を残す言い回しを態々するとは……私のことを教会を通して天界に報告するつもりだろうか? まぁ報告されたからと言ってどう、というわけではない。
私は公的には死んでいる。故に天界に縛られる理由がないのだ。
「それではゼルエル様。私たちはこれで失礼します」
「あぁ……夢が覚めないといいな」
「……どう意味ですか?」
「成長したのなら少しは自分で考えろ」
「……失礼します」
イリナはソファから立ち上がり、ゼノヴィアを連れて部屋を出ていった。
私の言った「夢」とは、神の存在だ。
どうやら天界は、神の死を一切教会に漏らしていないようだ。だが、そうでもしなければ信仰が得られないのだろう。神が死んでいるのに信仰も何もないと思うのだが。
神の死によって、神が管理していた『システム』はかなり脆くなっているようだ。神の肩代わりをしているのがあのミカエルなのだから、仕方のないことだろう。
神とミカエルでは、天と地ほどの差がある。何が――とは言わない。
† † †
イリナとゼノヴィアが教会に訪れてから一夜が明けた。目覚めると、左右に重さを感じた。どうやらアーシアだけではなく、レイナーレまで同じベッドで寝ていたようだ。
レイナーレは目覚めるとすぐに謝罪してきた。だが、夜中にわざわざこっそり入るなら初めから入ればいい、そう伝えるとレイナーレは顔を赤らめながら頷いた。……アーシアと同じ反応だ。
レイナーレとアーシアがつくった朝食を食べ終えた私は、地下へ来ていた。無論、私だけではなく二人も一緒である。
地下に来た理由は、レイナーレの鍛錬の成果を見るためだ。これは私から申し出たのではなく、レイナーレから申し込まれた。
たった一ヶ月では大きな変化が出るはずがない。――が、レイナーレが申し出たのだ。多少なりとも成長したということだろう。
鍛錬の成果を確かめる方法は至って簡単だ。私とレイナーレが戦う。ただそれだけのことだ。
「それでは――失礼します!!」
「あぁ……遠慮をせずに全力でかかってこい」
光槍を携えたレイナーレが私から距離を取る。そして私に向かって光槍を投擲してきた。真っ直ぐ突き進む光槍だったが、A.T.フィールドに当たる直前で真上に跳ね上がった。そして光槍が――弾けた。
刹那、私の目が閃光により焼かれるが、視界が闇に染まることはない。戦闘用に創られた使徒なのだから、閃光で目が見えなくなることはない。
数瞬後、A.T.フィールドに複数の光槍が突き刺さる。閃光により目を潰し、失明している間に追撃とは中々えげつない手を取る。――が、否定はしない。勝つためにどんなことでもするのは当たり前のことだ。
「どうでしょうか?」
「一ヶ月なら妥当な結果だ」
「ありがとうございます」
一礼をするレイナーレ。呼吸が少々乱れているようだ。
「何か気付いた点などがあれば教えてはいただけないでしょうか?」
「そうだな……敢えて言うのであれば、光槍の操作だけに特化しろ。他の分野に手を出し、どちらも中途半端というのが一番良くない」
「分かりました」
どうやらレイナーレは己に合う戦闘距離をしっかりと把握したようだ。戦闘開始直後に私から距離を取ったのが証拠だ。
攻撃力――一撃の重さが無いのなら追撃を重ねればいい。そして肉弾戦が得意でないのなら、遠距離から砲撃をすればいい。
光力が腐るほどあれば、その一撃一撃に大量の光力を付与し、攻撃にブーストをかけることによって一撃必殺を可能にする。だが、世辞にも光力が多いとは言えないレイナーレは、弱い攻撃を複数――それも一箇所に集中させることによって確実にダメージを入れる方が効率が良い。一撃必殺を狙って光力を使いすぎれば、長期戦に対応できないからだ。
肉弾戦が得意ではないのに近距離戦闘を行うのは愚行だ。殆どの剣士は、得物を奪われれば何もできない。それが答えだ。肉弾戦までカバーしている剣士など、世界でもほんの一握りだろう。
自論だが、一番効率が良く、死ぬ可能性が低い戦闘方法は、遠距離から圧倒的な火力での砲撃だ。理由は至って簡単だ。空間ごと消し飛ばしてしまえばいい。
レイナーレは、ある一方に対しての才能があるようだ。逆に言えば、その一方にしか極められないということだが。そしてその一方とは、光槍の操作だ。
光槍を操る、弾けさせる――僅か一ヶ月でこの二通りの運用方法を、触り程度だが身に着けている。どれも極めたら凄まじいことになるだろう。
光槍を操り、弾幕を敷き詰めるのもよし。
光槍を弾けされるその瞬間、魔力を爆散させることによって閃光と衝撃を相手にくらわせるのもよし。
その他にも様々な運用方法があるだろう。それに気付くか気づかないかはレイナーレ次第だ。私からとやかく言うつもりはない。……聞かれれば答える可能性の方が高いが。
レイナーレは器用なのだろう。だがそれだけだ。威力が足りない故に、決め手となるにはまだまだほど遠い。これからが正念場だ。習得するのは容易だが、極めるのは容易ではない。それなりの年月が必要だ。
堕天使の生はは永い。永く見れば、極められる可能性もある。そこはレイナーレの努力しだいだが、腐るか腐らないか……少々楽しみでもある。……楽しみ? 楽しみなのか? 楽しみなのだろうか?
まぁ、丁度良い暇つぶしができたというところだろう。
† † †
最近、妙にエクスカリバーの気配が教会付近を徘徊している。私をおびき出すためなのか、それともレイナーレやアーシアを観察しているのか……どちらにせよ少々目障りだ。
こちらから手を出してもいいが、それによってコカビエルに教会を襲撃されると面倒だ、教会が壊れれば、それを修復しなければならないからな。
レイナーレはアーシアと共に地下で鍛錬をしている。既に太陽が沈んでいるというのに……熱心だ。何がレイナーレを駆り立てるのかは知らないが、精々新たな可能性でも見せてくれれば御の字だ。
私は今のうちにコカビエルを殺しに行こうと思う。どうせ私を狙っているのだ。だったら私から会いに行ってやろうではないか。
先手必勝――実に良い言葉だ。事実をより簡潔に述べている。
襲撃するのとされるのでは、優位性が大きく変わる。前者ならば気配を殺し、相手の背後から必殺の一撃を放ち、一撃必殺という形をとれる。だが後者ならば、放たれた攻撃を躱す、もしくは受け流すことをしなければならない。下手をすれば、必殺の一撃を放たれ、為す術もなく殺されてしまう。それなら先手を、と考えていたのだが……どうやら私は後手に回ってしまったようだ。
駒王学園に結界が張られている。それなりに大掛かりなものだ。
駒王学園と言えば、グレモリーとシトリーの娘が通っている学校だ。どちらも魔王の家系と、本来ならば人間界でフラフラしているわけにはいかない者だ。
大方、コカビエルがグレモリーとシトリーの娘に目を付け、そして騒ぎを起こせば私が自ら出て来ると考えたのだろう。
グレモリーとシトリーの娘ではコカビエルの相手にならない。地力が違いすぎる。天と地の差という言葉の良い例だ。
別に二人が死のうが生きようがどうでもいい。だが、相手はあのコカビエルだ。駒王そのものをどうこうする術式を発動させる可能性が無いとも言い切れない。実際、戦争中にコカビエルは仲間が死のうが構わず、大地ごと爆破していた。
――バダン!!
「ゼルエル!! いるか!?」
聖堂の扉を蹴り破る豪快な音と共に、ゼノヴィアの切羽が詰まったような叫び声が聖堂内に響いた。
「騒がしい。一体何の用だ?」
「す、すまない……イリナがこのとおり瀕死なんだ!! ど、どうにか治療してもらえばいだろうか……?」
視界に入ったのは、腹からかなりの量の血を垂れ流しているイリナ。僅かに聖の気配が感じられる。エクスカリバーにでも斬られたのだろう。
「寝かせて置け。そして魔力で血を止めろ」
「そ、そんなこと出来るはずが――いや、始めから決めつけるのはよくないか。出来る限りのことはしてみよう」
「少し待っていろ」
それなりの速さで駆け出す。力を入れず、重力に身を任せるように足を動かす。これをしないと、誤って床を踏み砕いてしまうのだ。
祭壇の下の階段を跳躍により一気に下りる。そして数十メートルの通路を駆け抜け、レイナーレとアーシアがいる鍛錬場へ足を踏み入れる。
「アーシア、急患だ。来てくれ」
「は、はい!! 分かりました!!」
タタタタタ、とテンポよく駆け寄ってくるアーシア。私の下へ到着するのと同時に抱き上げる。アーシアが自らの足で走るよりも、私が抱き抱えて走るほうが何倍も速い。……アーシアの顔がやけに赤い。熱でもあるのだろうか?
通路を走り抜け、階段を跳躍して一気に上る。階段を上り切り、壁が目の前に迫る。その壁を足場として、バク転をし、イリナの近くに着地する。そしてアーシアをゆっくりと地面に立たせる。
ゼノヴィアはどうやら私の言った通り、魔力を応用して出血を抑えることに成功したようだ。だが、初めて行ったからだろう、少々血が漏れ出している。
「アーシア、頼む」
「わ、分かりました!!」
私を潤んだ瞳で見上げてきていたが、イリナの状態を見るとすぐに治療に取り掛かった。それに伴って、ゼノヴィアはイリナの腹部に中てていた手と魔力を離した。
翠色の光がアーシアの手に纏わり、その手はイリナの腹部にあてがわれた。徐々に腹部の腹が塞がっていき――閉じた。
フェニックスの涙にも負けず劣らない回復性能とは中々規格外な力だ。しかし、アーシアの
……何が違うのだろうか。
「アーシア、引き続きイリナの様子を見ていてくれ。私は少し出る」
「はい!! 分かりました」
アーシアがついていればイリナが死ぬことはないだろう。とりあえず死んでいなければどうにでもなる。いや、死んでいても人間以外に転生させればいいだけの話か。本人の意思は知らないが。
「ゼルエル……さん。私も行く」
「好きにしろ」
ゼノヴィアは教会に所属している戦士だ。態々私に許可を求める必要がない。何故私に許可を求めたのだろうか?
† † †
駒王学園では既に戦闘が開始されていた。敷地を覆うように結界が張られていたが、所詮若手が張った貧弱な結界だ。A.T.フィールドで簡単にこじ開けることができた。
私の後に続くゼノヴィアの手には、エクスカリバーではなくデュランダルが握られている。
デュランダル――かつてはパラディンであるローランが使っていた、斬れ味だけなら最強と呼ばれていた聖剣だ。だが、使い手の言う事を聞かないじゃじゃ馬で、必要以上に周囲を破壊していたのを覚えている。
デュランダルの特徴と言えば、「すべて」を斬れるという固有能力だ。使いこなせばバアルの固有能力である『滅びの魔力』でさえ斬ることができる。まぁ今までに使えこなせた人物など、ローラン以外に見たことはないが。
それでは先制攻撃をさせてもらおうか。
コカビエルを見据え、一度目を瞑り――見開く。刹那、私の目から不可視の光線が放たれる。光線は誰にも気づかれずにコカビエルに直撃し、爆散した。
……どうやら寸前で防御術式を展開したようだ。コカビエルの身体は左腕が千切れただけで済んでいる。肉体そのものを爆散させようと思ったのだが……コカビエルめ。戦争の時よりも腕を上げているな。どれだけ戦いが好きなのだろうか。
「久しいな、コカビエル」
瞬間、コカビエルとコカビエルに注目していた悪魔が全員私の方を向いた。
「貴様!! やはりゼルエルかッ!!」
「知っていて仕掛けてきたのだろう? そして態々エクスカリバーを教会から盗んだのだろう?」
「クク……バレていたか」
「私が気付かないとでも?」
「まさか!! 貴様が気付かないはずがない」
何故そんなに嬉しそうなんだ? そこまでして私と戦いたかったのか?
どうやら私が参戦したことによって、戦いは三つ巴に成りかけているようだ。だが、三つ巴という表現は正しくはない。コカビエルとは敵対しているが、グレモリーの娘とは特に何もないのだから。
そのグレモリーの娘と眷属は消耗しているようだ。身に纏っている駒王学園の制服らしきものは汚れているし、何より息が乱れている。それなりの敵を相手にしたのだろう。
「ゼルエルさん、とりあえずグレモリーと話をした方がいいんじゃないか?」
「……そうだな」
言われてみればそうだ。グレモリーの娘に邪魔をするな、と釘を刺せばいいだけの簡単な話だ。それを素直に受け入れるかは別だが。
グレモリーの娘の方へ歩みを進める。それとほぼ同時に、グレモリーの娘とその眷属が構えた。
「グレモリーの娘、邪魔をするな。そこで大人しくしていろ」
「……後からやって来たのに偉そうね。それと貴方、何者? せめて名乗りなさい」
「ゼルエルだ。名乗ったのだから大人しくしていろ」
「貴方一人でコカビエルに勝てるのかしら?」
「邪魔が入らなければな」
コカビエルとの一騎打ちなら勝利する確率は九割九分九厘を超えるだろう。十割でないのは、物事に絶対はあり得ないからだ。何が起こるか分からないのがこの世界だ。神の死が良い例だろう。
「それは私達が邪魔だと言いたいの?」
「そうだが?」
「へぇ……馬鹿にしてくれるじゃない」
別に馬鹿にしたわけではない。事実を簡潔に述べただけである。
「参戦するのは勝手だが、巻き込まれて死んでも私は責任を取らない」
「……まぁいいわ。私達じゃあコカビエルを相手にするのは難しい。――いや、ほぼ無理。貴方が私達に牙を向かないなら倒してもらった方が利益にはなるわね」
中々合理的な考え方が考え方ができるな。ただの我が儘娘ではないようだ。
ゼノヴィアに視線をやると、一度頷いてグレモリーの娘の方へ歩いて言った。どうやらゼノヴィアもグレモリーの娘達と同様に、控えているのだろう。――好都合である。
これで邪魔は入らない。コカビエルとの一騎打ちだ。そのコカビエルも左腕を失っている。ここまで条件が揃って私が負ける理由はないが、慢心はしない。一撃一撃を本気で放ち、手数を最小にして殺す。
コカビエルとの戦闘は空中戦がメインになる。故に私はA.T.フィールドで形成された三対六枚の翼を展開する。それと同時に、頭上にA.T.フィールドで展開された輪が形成される。
この翼を展開するのは何千年ぶりだろうか? 飛ぶ、ということをここ数千年していなかった故に、翼の出番も無かった。だが翼の使い方は身に染みて――反射の域で使うことができる。感覚的には歩行と同じである。
翼を羽ばたかせ、コカビエルと同じ高度で滞空する。
「やっと話が終わったか」
「待たせたな」
「いや、貴様と戦えるのだ。この程度、何の問題も無い。しかし――」
コカビエルの視線が私から地上にいる者達へ移る。
「――教会は未だ神の死を隠しているとはな!!」
……その事実を今言う必要性があるのだろうか? これから私と殺し合うというのに、随分と余裕そうではないか。
「どういうことだコカビエル!!」
叫んだのはゼノヴィア。その周りにいるグレモリーの娘とその眷属も、動揺しているように見える。
「先の三つ巴戦争で四大魔王だけじゃなく、神も死んだのさ!!」
それから続けるようにコカビエルは次々に神の死に関する出来事を暴露していく。その殆どが私が知り、考察したものと同じだ。
この事実を聞いて一番被害を受けたのはゼノヴィアだ。――だが、それがどうした? 別に私には関係のないことだ。ゼノヴィアが狂い、廃人になろうと、私が不利益になることは一切無い。むしろ教会に私の存在が伝わる可能性が低くなり、利益が出るだろう。
「さて、余計なことを喋り過ぎたが――殺り合おうじゃないか、ゼルエル」
刹那、コカビエルが巨大な光槍を私に向かって投擲してきた。だが反応する必要はない。
A.T.フィールドが展開され、そこに光槍突き刺さる。さすがと言えばいいのか、突き刺さった光槍は前に殺した堕天使三人が放ったものよりも、質も大きさも圧倒的に優っている。
A.T.フィールドで槍を形成し、背後に振り返りながら横なぎに振るう。無論、適当に振るったわけではない。そこにコカビエルがいたからだ。
光槍で私の振るった槍を防ぐコカビエル。その感触が手に伝わった瞬間、目を瞑り――見開く。刹那、私の目から不可視の光線が放たれる。
放たれた光線はコカビエルの頭を射抜く――ことはできなかった。寸で首を傾げて避けられてしまった。こう何度も不可視である光線を防がれるとは……これが戦闘勘というやつなのだろうか? それなら戦闘を目的に創られた私にもあるはずなのだが……考えても仕方がないか。
「フハハハハハ!! 楽しいなゼルエル!! 最高だなゼルエルッ!!」
「私は最高に楽しくないが?」
会話をしながらも互いに攻撃の手を緩めることはしない。――が、互いに避ける防ぐかで、致命的な一撃が入らない。……コカビエルは既に左腕を失っているが。
このまま光線を放っても駒王学園が崩壊するだけで、コカビエルを殺すことは出来ない。いや、不可能というわけではない。無駄に時間と金を消費するだけである。
背中に展開されているA.T.フィールドで形成されている翼――これは私の意思で自由自在に操れる。前世での腕と同じ役割だ。
コカビエルに向けて翼を四枚伸ばす。コカビエルは翼が逃げようと飛び回るが、全くもって無意味だ。
A.T.フィールドで形成されている故に強靭で、さらに自由自在に動かせるのだ。コカビエルを誘導し、その先に翼を待機させておけば簡単に拘束することが出来る。現に――
「クソッ!! 相変わらず面倒だなこの翼は!!」
――コカビエルを捕らえている。
四肢をそれぞれ翼が貫き巻き付く。十字架に貼り付けにするように両腕は水平に上げ、両足はピタリと閉じている。
拘束を解こうと魔力を解放するコカビエルだが、その程度で敗れるほど私の翼は貧弱ではない。しかし万が一ということもある。さっさと首を狩ったほうがいいだろう。
コカビエルの拘束に使用していない残り二枚の翼を首に当てる。そして
まさかとは思うが、この状態から頭部が胴体と結合し、再生する可能性もある。それを防ぐために、四肢を貫き拘束していた翼を操り、胴体を細かく斬り刻む。そして地面に降り立ち、コカビエルの頭部をA.T.フィールドで圧縮して完全に潰す。
ここまですれば問題は無いだろう。ここから再生させるのは九割九分九厘不可能だ。奇跡が起きればまた別だろうが、このレベルの奇跡は数千年に一度に起きるか起こらないかだろう。
翼を霧散させ――るのはまだ早いようだ。
「コカビエルを無理やりにでも連れて帰るようにアザゼルに言われたんだが……どうやら不可能なようだ」
上を見上げれば、そこには白が――白龍皇がいた。
白龍皇は随分といい媒体に寄生したな。白龍皇から感じ取れる魔力は前ルシファーのものだ。人間とのハーフとは思えないほど膨大な魔力量に、滲み出す戦闘狂特有の気配。……厄介極まりない。
只でさえ強力な魔王の血筋の者が、神を滅ぼす具現――
「初めまして、ゼルエル。昔話はアザゼルから聞いている」
「そうか」
「そのうち貴方とも戦いたいものだ」
相変わらず二天龍は面倒事を運んでくる。
白龍皇は私達に背を向けて飛び去って行った。――が、一体何をしに来たのだ? 回収するはずのコカビエルは微塵。最後は私に向かって宣戦布告もどきをした。コカビエルが死んだのは隠れていても確認していたはずだ。
本当に何をしに来たのだろうか。
† † †
コカビエルを殺してから一夜が明けた。そしてアザゼルからコンタクトがあった。どうやら近々、駒王学園で三大勢力による和平会談を行うようだ。その和平会談に私が呼ばれたのだ。
私の生存が白龍皇によってアザゼルに知られ、そして各陣営の頭に情報が回され、私の参加を求めてきたようだ。
どうやら私の自由はここまでのようだ。だが、よく数千年も保てたものだ。何度か赤龍帝や白龍皇と戦闘していたが、その時ですら知られなかった。運が良かったのだろう。
私が会談に参加するのには条件を出した。当たり前である。タダで会談に参加する必要など私にないのだから。出した条件は二つだ。
一つ、アーシアの駒王学園入学。
アーシアが道行く学生を羨ましそうに見ていたので尋ねると、どうやら学校に通うということを憧れていたようだ。故に条件の一つに加えた。駒王学園を選んだのは、魔王の妹の庇護下に入れるためだ。弱くても私が駆け付けるまでの時間を稼ぐくらいはできるだろう? ……またアーシアを守ることを考えた。ふむ……どうやらアーシアは私の中でも重要なポジションにいるようだ。これもまた新しいな。
二つ、行動の自由。
一切私達の行動に干渉しない。そして私達に命令や頼み事をしない。仮にするのなら相応の報酬を用意すること。タダ働きはしないということだ。
「ほ、本当に学校に通っていいんですか?」
「あぁ」
「ありがとうがざいます!! ゼルエル様!!」
笑みを浮かべるアーシア。余程嬉しいのか、目尻には涙のようなものが一粒流れた。
「丁度近々授業参観がある。私とレイナーレも見に行く。学園生活を楽しめ」
「はい!! 精一杯楽しみます!!」
レイナーレとアーシアが来てから娯楽が増える一方だ。今まで私が知らなかったことを、様々なことを感じさせてくれる。
駒王学園に通うことによって、アーシアがどう変化するのか楽しみだ。また――新しい娯楽が出来たな。
「あぁ、そうだ。アーシア」
「はい? なんでしょうか?」
「神はとうの昔に死んでいるようだ」
「……そうですか」
私の考えていた反応と違う。ゼノヴィアと同じように崩れ落ちるのかと思いきや、あっさりと神の死を受け入れている。
アーシアは神をそこまで信仰していなかったのだろうか? それとも別に神とは違うものを信仰しているのか?
「薄々気づいていました。ゼルエル様の前で主の話をすると顔を少し顰めていましたし」
「そうか。ショックはないのか?」
「もちろんショックです。でも今は遠くの主よりもゼルエル様です」
「私か?」
何故私が神の代わりなのだろうか? 別に信仰が集まらずとも影響は出ない。そして天使を創りだせるわけでもない。
「はい♪」
「理由を聞いてもいいか?」
「それは……秘密です」
「そうか」
アーシアにも知られたくないことの一つや二つあるのだろう。だがこの言い表せない違和感は何だ? 放っておけば多大な被害が出そうなナニカ。……考えるだけ無駄か。そのうち出てくるだろう。
ところどころ「ご都合主義」とやらが混じってるかもしれません。
そういうものと納得してください。
伏線もどきもいくつかありましたね。
次はもう少し早く投稿できるように頑張りますので、どうかこれからもよろしくお願いします。
2015/05/17 ・レイナーレの使用する力を「魔力」→「光力」に修正。
・「A.T.フィールドを天界」→「A.T.フィールドを展開」に修正。
2015/05/18 ・「コカビル」→「コカビエル」に修正。