吾輩は使徒である   作:-Msk-

4 / 5
皆さん、お久しぶりです。
前回の更新から三ヶ月と数日。

一体何をしていたのかと問われれば、

夜遅くまで研究をして新聞配達に来る人のカブの音を聞いて就寝。
翌日は日が昇るのと同時に起床し、家を出る。
それは平日も休日も関係ありませんでした。
あとは二週間に一度あるかないかの休日に、ちょびちょびと執筆ですか。

とまぁ、こんな漢字に修羅場ってました。
今月も下旬までこんなサイクルですね。

久しぶりの更新にも拘わらず、物語は「ゼルエルの初体験」「レイナーレの成長」「アーシアの(原作との)差」を一応のテーマとしています。

……この作品、まだ読んでくれている方いますよね? いるって言ってください(嘆願)

それではどうぞ。



Ⅳ 体育館裏のホーリー

 夏が明けた。アーシアも一昨日から学校へ行っている。

 

 夏は特に何があったわけでもない。サーゼクスやアザゼルから貰った多額の迷惑料で外国を転々としていただけだ。その外国も、ハワイやサイパンと言った、比較的日本と比べても治安が良い場所だ。犯罪などに巻き込まれることもなく無事に帰ってくることが出来た。

 

 駒王学園も二学期に入り、九月のイベントである体育祭の準備をしているようだ。アーシアが毎日楽しそうに私に教えてくれる。

 

 アーシアの参加する競技は『借り物競争』。借り物によって一発逆転を狙うことが出来る競技。借り物が、軽くて誰もが持っており、直ぐに貸してもらえるものだったら勝率はぐっと上がるだろう。だが反対に、重くて特定の人物しか持っておらず、直ぐに貸し出すことが難しいものだとしたら勝率はぐっと下がる。運がものを言う競技とは中々面白い。

 

 しかし体育祭か……これは授業参観同様にビデオカメラを持っていかねばならないのだろう。授業参観の時に使ったビデオカメラの出番か。それとレイナーレも弁当の中身をどのようなものにするか試行錯誤しているようだし、いろいろと楽しみである。

 

 あぁ……そういえば紫藤イリナが天使化したようだ。ミカエルから祝福を受けて何とか、と言っていた。

 

 意外だ。紫藤イリナは兵藤一誠に惹かれている上に、神が死んでいるという事実を隠されてきた怒りから、てっきりリアス・グレモリーにでも頼み込んで転生悪魔にでもなるのかと思っていた。

 

 まぁ紫藤イリナが天使になろうが悪魔になろうがどうでもいいのだが。

 

 ――コンコンコンコン

 

 扉をノックする音が部屋に響き、意識を引きもどされる。

 

 

「ゼルエル様、レイナーレです」

「入れ」

「失礼します」

 

 

 一礼してレイナーレが部屋に入る。その手には数多の手紙があり、表情からは呆れと嫌悪が感じ取れた。

 

 

「また、か……」

「はい。近頃毎日のように手紙と贈り物が送られてきます。どれも同一の人物――若手悪魔のディオドラ・アスタロトからです」

「アスタロト……。確か現ベルゼブブであるアジュカの弟だったか?」

「その通りです。少々調べたところ、彼は過去に何人ものシスターを堕としているようです。さらに堕とされたシスターは全員彼の眷属になっています」

「ほぅ……。あぁ、なるほど。そういうことか」

 

 

 レイナーレの報告で少しだけだがアーシアが教会を追放された理由の予想がついた。

 

 アーシアが癒した悪魔。この悪魔は恐らくディオドラ・アスタロトだろう。そしてこれは私がアーシアと分かれた後に起きたことに間違いないだろう。

 

 駒王教会に飛ばされた『魔女』アーシアを堕天使であるレイナーレが殺す。そしてそこにディオドラ・アスタロトが現れて眷属に転生させようとしたのだろう。だがそれは失敗した。他でもない、私の存在によって。

 

 私が駒王教会にいたことによってレイナーレは私と再会する。そして何故かレイナーレはアーシアから神器(セイクリッド・ギア)抜き出すことを止めて再び私の付き人になった。

 

 駒王教会に来たアーシアと私が再会し、アーシアの望みから教会に住み込むことが決まった。中級堕天使のレイナーレなら、ディオドラ・アスタロトとその眷属全員で囲めば一方的に殺せるだろう。だが私が近くにいることによって、迂闊にアーシアに手を出すことができなくなったのだ。

 

 以上のことからディオドラ・アスタロトはアーシアを眷属にするタイミングが掴めず、今に至る。

 

 私の考察が正しければ、ディオドラ・アスタロトはアーシアを攫いに来るだろう。私とアーシアが離れた時、登下校中だろうか。

 

 レイナーレに警戒させておくべきか。レイナーレがディオドラ・アスタロトと戦い、勝てるとは限らないが……。

 

 

「放っておけ」

「……よろしいので?」

「構わない」

 

 

 アーシアが攫われたら攫われたで考えれば良いことだ。それに攫われると決まっているわけではない。アーシアも最低限の自衛の手段は持ち得ているようだし、今からどうこう考えても仕方がない。攫われてから考えれば良い。……未然に防ぐのもアリかもしれないがな。

 

 

「かしこまりました。それでは引き続きディオドラ・アスタロトの――」

「いや、それはいい。これからは鍛錬に重点を置け」

「――かしこまりました。しかし何故?」

「丁度いい戦場が用意されそうだからな」

 

 

 アーシアが攫われれば取り返すためにディオドラ・アスタロトと戦うことになる。恐らくディオドラ・アスタロトの眷属とも戦うことになるだろう。

 

 眷属程度ならレイナーレの丁度良い相手になるだろう。さすがに駒撃学園を襲撃してきた魔術師共よりは強いだろうし。

 

 

「あぁ、そうだ。送られてきた家具の類は全て売却しろ」

「かしこまりました」

 

 

 無駄なものは売り、金にする。どうせ使わないのだから、場所を取る無駄なものを実用的な金に換える。無駄は最小限にしなければ。

 

 ――キャアァァ!

 

 ――パン!

 

 ……この声、悲鳴はアーシアだろうか。悲鳴の後に甲高い破裂音も聞こえたが一体何の音だ?

 

 

「今の悲鳴はアーシアでしょうか?」

「そのはずだ」

 

 

 一応確認をしに行くべきだろう。アーシアが悲鳴を上げるぐらいなのだから余程のことがあったのだろう。

 

 ゆっくりと椅子から立ち上がり、部屋を出るために歩みを進める。私の後ろをレイナーレが着いてくる。扉に手をかけたその瞬間、扉が勝手に開く。この扉は自動ではない。恐らく扉を挟んで向こう側にいる者が先に扉を開けたのだろう。

 

 扉の先にいたのは目尻に涙を浮かべているアーシア。走ってきたのだろうか、呼吸がとても乱れている。

 

 

「ゼルエル様っ! ちょうどよかったです。あ、あの……」

「落ち着け。そして簡潔に述べろ」

「はいっ。えっと……ディオドラ・アスタロトという男性の方が転移してきて、それで突然だったので驚いてしまって……」

 

 

 件のディオドラ・アスタロトが自ら堂々とこの教会に、アーシアに会いに来るという可能性もあったのか。なるほど、それは予想外だった。今まで接触がなかった故に、その線はないと考えていたのだが。

 

 

「それでどうしたのだ?」

神器(セイクリッド・ギア)を発動して、こっそり練習をしていた過剰回復を……。あまり上手く力加減ができなくて、その……」

「どうなったのだ?」

「手足が破裂してしまって……。も、もちろん血は止めました!」

 

 

 隣にいるレイナーレが笑ってしまっている。それはもう愉快そうに笑っている。笑みが抑えきれずにあふれてしまっている。

 

 過剰回復による攻撃ができるようになっていたのは知っていたが、まさか四肢を爆散させるほどのものとは思わなかった。精々鈍痛を感じる程度だろうと高を括っていた。回復をさせることに重点が置かれている《聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)》で四肢を爆散させるとは……そのうち人を丸ごと爆散させるのではないだろうか。

 

 ディオドラ・アスタロトの四肢を爆散させたが、しっかりと血は止めたというところにアーシアの優しさが垣間見える。どのように傷口がふさがっているかは知らないが、ディオドラ・アスタロトの四肢が元通りになることは難しいだろう。

 

 クローン技術などを使えばどうにかなるかもしれないが、《聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)》では元通りにすることはできない。離れた四肢を繋げることはできても、失った四肢を生やすことはできない。それはフェニックスの涙でも同じことだ。

 

 ディオドラ・アスタロトはアーシアが欲しいがために近づいた。いや、近づきすぎたのだ。

 

 

「気にすることはない。ディオドラ・アスタロトは常識が欠けていた報いを受けたのだ」

「常識、ですか?」

「そうだ」

 

 

 家主の許可なく他人の家に勝手に入るのは常識的だろうか? 少なくとも私は常識的だと思わない。非常識だと断言しよう。

 

 

「ディオドラ・アスタロトは私がサーゼクスに送り返しておこう。教会に無断侵入した結果が四肢の爆散(これ)だと言えば納得するだろう」

「うぅ……すいません、御手を煩わせてしまって……」

「気にするな。この程度のことなら全く問題ない」

 

 

 むしろ私は感謝したい。

 

 アーシアは私に人間の可能性を、そして神器(セイクリッド・ギア)の可能性を見せてくれた。長く生きていたが、こんなことは初めてだ。

 

 面白い。実に面白い。これからも私に新しいことを魅せ続けてもらいたいものだ。

 

 

 

† † †

 

 

 

 冥界にいるサーゼクスに送還したディオドラ・アスタロトだが、向こうでの処分は何もないようだ。その待遇に不満はない。こちらも無断侵入したとはいえ、若手悪魔――それも魔王の血筋の者の四肢を爆散させてしまったのだ。文句をぐちぐちと言われなかっただけマシだろう。

 

 手足がないのは色々と不便だろうと、アザゼルが好意でクローン技術を応用した義手を渡したようだ。何でも本人の細胞から作るため、神経なども全てつなげることができ、普通の手足と同じように動かすことができるらしい。まぁアザゼルのことだから何かしらの仕掛けを組み込むだろうがな。

 

 それとディオドラ・アスタロトに関して気になることが一つあった。

 

 ディオドラ・アスタロトからほんのわずかだが龍の気配を感じ取った。それもそこら辺にいるような下級ではなく、龍王や天龍のような世界にも数えられるほどしかいないような龍のものだ。

 

 その龍の力を借りたディオドラ・アスタロトとの戦闘ならそこまで苦になりそうにないが、力を貸した龍に来られると面倒な事になりそうだ。いや、確実になるだろう。

 

 あぁ、そうだ。ディオドラ・アスタロトを送還したときに、サーゼクスにレーティングゲーム観戦の招待をされた。

 

 サーゼクスの妹であるリアス・グレモリーとディオドラ・アスタロトがゲームを行うらしく、見ごたえのある試合になるだろう、と言っていたが……妹を自慢したいのだろう。少々その気持ちはわからなくもない。私も最近アーシアの成長を誰かに自慢したい、という意味がわからない欲望が湧き上がることがある。これもまた新しい。これもまた面白い。これもまた未知である。

 

 ふと、壁際に置かれているホールクロックに目をやる。針が示す時刻は午後の二時五〇分。……丁度良いな。

 

 今日は午後一時から紫藤イリナが教会に来ることになっている。何でもミカエルからの手紙を預かっているとか。何が書いてあるかは知らないが、態々手紙にするくらいのことなのだから余程のことなのだろう。

 

 椅子から立ち上がり、ゆっくりと歩みを進める。目指す先は応接室。と、仰々しく言ったものの応接室があるのは私の部屋の向かいだ。

 

 応接室に入った私は、部屋の隅に設えられたウォーターサーバーから水をやかんに汲み、ウォーターサーバーの隣にあるガスコンロにやかんをのせる。あとは湯が沸くのを待つのみ。

 

 ――コンコンコンコン

 

 

「こんにちわー! お久しぶりです、ゼルエル様♪」

 

 

 扉をノックする音と同時に元気過ぎる声が聞こえてきた。

 

 

「紫藤イリナ……もう少し静かに入ることはできないのか?」

「えへへ――って、ゼルエル様……いちいちフルネームで呼ばなくてもイリナでいいですよ?」

「そうか。では適当に掛けて待っていろ――紫藤イリナ」

「ぶー……はーい」

 

 

 間延びした返事をした紫藤イリナは、少し乱暴にソファに座った。そして丁度このタイミングで湯が沸いた。 

 

 いつも通り紅茶を淹れ、紫藤イリナの前に出す。それを彼女は「いただきまーす」と言い、手を付けた。私もそれを確認してカップに口を付ける。

 

 

「ミカエルからの手紙を貰おうか」

「えぇっと……そのことなんですけど……」

「何だ?」

「実は……手紙、預かってないんです♪」

「………」

「ちょ、ちょっとゼルエル様! そんなに怖い顔しないでください!」

 

 

 怖い顔? 一体何のことだ。私のこの顔は神に創造されたその時から一度たりとも変化したことがない。何一つ表情は変わっていないはずだ。それに今まで一度たりとも同居人であるレイナーレとアーシアから「怖い顔」と言われたことはない。

 

 本当に何を言っているのだろうか、この小娘は。

 

 

「ゼルエル様、あの時の『夢』の意味がようやくわかりました」

 

 

 今までの「にへらっ」としただらしない顔を真剣な、真面目そうな顔に変えたイリナが自嘲するからのように漏らした。

 

 

「そうか」

「はい。ゼルエル様のおっしゃった『夢』、それは『神』のことだったんですね? あの時、既に神は死んでいた。神がいると信じて神を信仰していた私。そんな関係を『夢』に例えたんですよね?」

「まぁそんなところだ」

 

 

 天使化する時にでもミカエルから聞いたのだろう。さすがに天使にする人間にいつまでも神の死を隠すのは難しいだろうからな。

 

 

「態々それだけを言いに来たのか?」

「いえ、もちろん他にもあります」

 

 

 ふぅ、と一息入れたイリナ。表情が、身に纏う空気が変わる。

 

 

「天界はゼルエル様たちとの関係を進展――というよりも復縁ですか。ゼルエル様に再び天界に戻ってきて貰いたいと考えています」

「ご苦労だった。荷物を纏めてとっとと帰るがいい」

「ちょ、ちょっとゼルエル様! そんなに邪険にしなくても――」

「邪険? 何を言っている。こんなの普通の対応だろう。大方、ミカエルも私の戦闘能力が予想以上だったのを警戒しているのだろう。故に手元に置きたがる。自分で手綱を握り、刃が自分に向かないようにしたいだけだろう」

 

 

 私にできるのは戦う事のみ。それはミカエルも重々承知のはずだ。

 

 何度も言うが私は使徒。戦争に勝つだけのために神によって創り上げられた兵器だ。戦うこと以外はほぼ何もできない欠陥品だ。

 

使徒(わたし)の存在理由は戦争を勝利に導く、それだけだ。故に、戦闘においては他に追随を許さない圧倒的なまでの力があるが、それ以外はギリギリ平均より上という程度だろう。 

 

 そんな私を警戒し過ぎるのもどうかとは思う。さすがに私でも天界の戦力が一度に押し寄せてきたら対処はしきれないだろう。――私が一人ならの話だが。

 

 

「うっ……そう、なんですかね……? 私はあまりその辺りのことは深く知らないので何とも言えませんが……」

「ミカエルは大昔の戦争時に私が戦っているところを見たことがない。だが夏前にあった『禍の団(カオス・ブリゲード)』の襲撃時に初めて私が戦っているとこを見た。私の戦闘能力が想像以上だったのだろう。ミカエルはあれで臆病なところがある。私と天界が真っ向から戦った時の損害を考えての判断だろう」

「さすがって言えばいいのか……正直驚きが大きすぎてリアクションが取れませんよぉ……」

「難しく考えることはない。天使は万能型で、使徒は戦闘に一転特化した天使の劣化。――簡単だろう?」

「で、でもぉ……」

 

 

 納得がいかないのかやけにしつこい。紫藤イリナらしくないな……私が知っている彼女は、「わかりました! じゃあ天使になった私は万能型ってことですね!」などと言いそうなのだが。

 

 

「やけに歯切れが悪いな。何か気になることでもあるのか?」

「ま、まぁ……はい」

「そうか。なら解決するといいな」

「はい――って、聞いてくれないんですか!?」

「私にそのような義務はない。要件が済んだのならさっさと帰れ」

 

 

 紫藤イリナは赤の他人。気にかける必要は全くないのだ。無意味に干渉していいように利用されるのは御免だ。特に彼女のバックにはミカエルがいる。これを良しとして交渉を持ちかけられては面倒だ。故に干渉しないのが良し。

 

 

「実はですね――」

「話を聞け。この馬鹿者めが」

「――聖剣を返還してしまいまして……私の決め手となる攻撃がなくなってしまいまして……」

「そんなものミカエルにもう一度聖剣をねだれ。自分の眷属になら聖剣の一本や二本、喜んで渡すだろう」

「なるほど! 早速ねだってきます! ありがとうございました!」

 

 

 目を輝かせて立ち上がる紫藤イリナ。

 

 

「あぁ、気を付けてとっとと帰るがいい」

「はい! 失礼しました!」

 

 

 一礼をしてドタドタと騒がしく部屋出ていく紫藤イリナ。実に扱いやすいくて、とてもイイ子ではないか。

 

 

 

† † †

 

 

 

 リアス・グレモリーとディオドラ・アスタロトのレーティングゲーム当日である。

 

 私、アーシア、レイナーレの三人は、レーティングゲームの観覧エリアにある観覧席に座っている。その観覧席も最上級のエリア、四大魔王やアースガルズの主神であるオーディンと同じ場所だ。

 

 オーディン。アースガルズの主神を務めている隻眼の老人の姿をした規格外(バケモノ)の一人。グングニルという厄介極まりない槍を所持している腹黒爺だ。

 

 グングニルは「因果律の操作」という領域に片足を突っ込んだ槍だ。さすがの私も因果律にまでは手出しをすることができない。苦戦を強いられるのは必須だ。負けはしないだろうが、私が無事とも限らない。

 

 

「ゼルエル様、もう間もなく始まるようです」

「そうか」

 

 

 どうやらレイナーレの言う通り、あと数十秒でゲーム開始の合図がされるようだ。数十メートル先にある超大型モニターに数字が映し出されており、一秒ごとに数字が小さくなっている。

 

 三、二、一、と数字が小さくなり、いよいよゲームの開始か。と、思いきやそうはいかないようだ。数字がモニターから消え、「開戦」の文字がでかでかと映し出されているのにもかかわらずリアス・グレモリーやディオドラ・アスタロト、その眷属たちが一向に映し出される気配がない。

 

 

「「ゼルエル様!」」 

 

 

 レイナーレとアーシアが叫んだ。

 

 わかっている。わかっているとも。私が拘束されたことぐらい、私が一番わかっているとも。

 

 私を拘束しているこの黒い霧、かなり厄介である。私でも破るのが難しい。ある程度力を出さなければ霧散させることができない。そうだな……余波で観覧エリアが吹っ飛ぶ程度だろうか。それだけこの霧が強靭だということだ。

 

 ふむ……「霧」「拘束」「強靭」という三つの単語から連想されるのはアレしかないだろう。

 

 神が残した厄介な遺産――神器(セイクリッド・ギア)。それも世に十三しかない神滅具(ロンギヌス)。その神滅具(ロンギヌス)の一つである《絶霧(ディメンション・ロスト)》。「霧」「拘束」の二つから想像できるのはこれぐらいだ。

 

 しかし私を拘束したであろう使い手の気配が全くしない。私が全力で探知しているのにもかかわらずだ。別世界にでもいるのだろうか。私を拘束したのを確認してとっとと尻尾を巻いて逃げた、というところだろうか。

 

 

「キャッ!」

 

 

 アーシアの悲鳴が聞こえた。

 

 悲鳴が聞こえた方へ振り向くがそこにアーシアの姿はなかった。だがすぐに気配をとらえる。上を見上げるとそこにはアーシアと――ディオドラ・アスタロトがいた。

 

 なるほど。ディオドラ・アスタロトはこれを狙っていたのか。私を《絶霧(ディメンション・ロスト)》によって拘束して動けなくする。そしてその隙にアーシアを捕える。何ともスマートで成功率の高い作戦だ。――私が一人ならな。

 

 

「――多重強化(デュアル・ブースト)!」

 

 

 叫んだのはレイナーレだ。両腕を開き、背後には数十の光槍を展開している。

 

 多重強化(デュアル・ブースト)と叫んだ意味はすぐにわかった。どうやら光槍に光槍を重ねに重ねて一つの光槍をつくりあげているようだ。 

 

 

「ハァァァッ!」

 

 

 気合いを入れるような叫び声と共に、開いていた両腕を交差させたレイナーレ。刹那、背後に展開していた数十もの光槍がディオドラ・アスタロトへ襲い掛かる。

 

 まさかアーシアがいるのに攻撃をしてくるとは思わなかったのか、ディオドラ・アスタロトの反応が一瞬遅れる。たった一瞬、されど一瞬。その一瞬を見逃すレイナーレではなかった。

 

 アーシアを避けるように、後ろから回り込むようにしてディオドラ・アスタロトに光槍が襲い掛かかった。僅か一瞬の差で防御が間に合わず、まともに光槍をくらうディオドラ・アスタロト。致命傷なのは明らかだった。

 

 悪魔は光に弱い。エクソシストが使う貧弱な光の銃の弾丸でさえくらったら中傷程度の傷を負う。ディオドラ・アスタロトがくらったのはそんな弾丸の数十から数百倍の密度を誇る堕天使の光槍だ。致命傷にならないはずがない。ディオドラ・アスタロト程度の悪魔なら致命傷になって当然だ。むしろ一瞬で蒸発しなかっただけでもマシと言えよう。……四大魔王ほどの力があれば堕天使の光槍もどうにかしそうだがな。詳しくは知らん。

 

 

「ぐ……ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 痛い、痛いぃぃぃぃぃぃっ!」

 

 

 無残に焼け爛れたディオドラ・アスタロトが無様な悲鳴を上げる。それを見ていたレイナーレがここぞとばかりに追い打ちをかける。

 

 ひとまずアーシアのことはレイナーレに任せるとしよう。私も拘束された(この)ままではどうにもできないからな。

 

 私を囲むようにA.T.フィールドを上下左右に展開する。イメージは立方体だ。これをすることによって、周りに被害が出ることを防ぐ。

 

 肝心の拘束だが……術式と術式の隙間に無理やり干渉して拘束を吹き飛ばした。『生命の実』のおかげで術式のハッキングも安易に可能なのだ。問題は拘束を解除した余波だ。……まさかA.T.フィールドが軋むほどとは思わなかった。もしA.T.フィールドを展開していなかったら、予想通り観覧エリアが丸ごと爆散していただろう。 

 

 拘束を無理やり解いた私は、一先ず観覧エリアの状況を確認した。 

 

 レイナーレはディオドラ・アスタロトの撃退に成功し、アーシアを取り戻していた。他の悪魔たちは特に何をするわけもなく、椅子に座って隣にいる悪魔と談笑している。こんな状況で何をしているのだこの愚図共が、と思うかもしれないが、それも仕方のないことだろう。

 

 この観覧エリアは、私を拘束していたものと似ている術式で封鎖されているのだ。恐らく《絶霧(ディメンション・ロスト)》による封鎖だろう。《絶霧(ディメンション・ロスト)》程の術式で封鎖されてしまっては、魔王級の実力者が動かない限り脱出することは不可能だろう。

 

 

「おいそこの使徒さんや。わしはちょいと赤龍帝の小僧のとこに行くのじゃが、おぬしも来るかい?」

 

 

 声をかけてきたのはオーディン。クツクツと笑っているのが少々不気味である。しかしオーディンと共にリアス・グレモリーのもとへ行くか……

 

 考えろ。私が観覧エリアを出てリアス・グレモリーたちの下に向かうメリットを。……ない、ない、ない。全くないな。サーゼクスがいる観覧エリアにいる方が良いに決まっている。

 

 

「使徒よ、少し考えすぎじゃ。偶にはメリットやデメリットを度外視したこともするのもいいもんじゃよ」

「……」

 

 

 思わず黙り込んでしまう。

 

 メリットデメリットを度外視した行動だと? 今の今まで、一度もメリットデメリットを度外視したことなどなかったはずだ。それを、今、初めて度外視しろと? この状況で?

 

 新しい……新しいな。いいじゃないか。良いではないか。メリットデメリットを度外視したことをしてみようではないか。

 

 物は試し。一度試し、悪かったら二度とやらなければ良いだけのこと。

 

 

「そうだな。たまにはこういうのもいいだろう。――レイナーレ」

「かしこまりました。アーシアのことは私にお任せください」

 

 

 言って、一礼したレイナーレ。そのレイナーレの隣にいるアーシアは不安そうに顔を歪めていた。

 

 

「それでは行こうか」

「そうじゃな」

 

 

 私とオーディンは右手を掲げた。

 

 

 

† † †

 

 

 

「キャッ!」

 

 

 私の耳に入ってきた第一声は、姫島朱乃の悲鳴だった。何事かとそちらを向けば、オーディンが姫島朱乃のスカートをめくりあげ、下着を覗いていた。……下着を覗いて何が楽しいのだろうか。私にはわからないな。

 

 

「オーディン、そんな事をしていないでさっさと状況を教えてやれ。私は適当に『禍の団(カオス・ブリゲード)』の連中を殲滅している」

「ふむ、そうじゃな。グレモリーの、話すと長くなるがのぅ――」

 

 

 説明を始めたオーディンを尻目に、私は『禍の団(カオス・ブリゲード)』の構成員が集まっている方へ歩き出す。ただ歩いて向かうわけではなく、背後にA.T.フィールドで鏃を創り上げながらだ。その数はおよそ一万。これだけあれば構成員大半は始末できるだろう。

 

 近づいてくる私に気付いた構成員たちが魔法陣を展開し、様々な攻撃魔法を放ってきた。

 

 火、水、風、土と、様々な属性の攻撃魔法が視界を埋め尽くして向かってくる。普通の者なら、絶望的な状況であるだろう。だが私は違う。

 

 私に攻撃が当たる数瞬前、A.T.フィールドが展開され、全ての魔法が防がれる。キィン、キィン、キィンと、何度も何度も何度もA.T.フィールドに攻撃が当たり、防いだ音が辺りに鳴り響いた。

 

 次は私の番だ。

 

 背後に浮かべていた鏃をの構成員に向かって放つ。直線的に放つのではなく、一度空に上げてから、空から降り注がせる。この方が防御がしにくいのだ。

 

 豪雨のように降り注ぐ鏃を、防御魔法で防ぐ構成員。ここで大まかに二つに分かれた。

 

 防御魔法で鏃を防ぐことに成功し、強張っていた表情を僅かに緩める者。

 

 鏃が防御魔法を貫通し、身体に鏃が降り注いで絶命する者。

 

 前者は呼吸が荒く、とても苦しそうだ。後者は地面に倒れ、体のありとあらゆる場所から血が流れて地面に血の海をつくりあげている。

 

 

「くそっ! 遠距離からの攻撃が駄目なら近距離から攻撃をするぞ!」

「「「「「応ッ!」」」」」

 

 

 『禍の団(カオス・ブリゲード)』の構成員による雄々しい雄叫びが聞こえてきた。なるほど、殺る気は満々ということか。

 

 攻撃方法を近距離に変えてきた残りの構成員たち。剣、槍、斧と、様々な近接武器を手にしている。だがどいつもこいつも達人はおろか、名人と呼べる力量を持つ者すらいない。所詮は魔法使いなのだから当然と言えば当然である。

 

 相手が近距離攻撃に転じたからといって、私がそれに付き合う必要はない。広範囲遠距離攻撃を放ち、近づかれる前に叩く。相手に攻撃をさせる隙を与えない。

 

 上空にA.T.フィールドを多重展開し――圧する。地鳴りと共に構成員の全てが地面に叩き付けられる。そして私を囲むように、ぐるりと辺り一面赤一色――血の海が完成した。

 

 呆気ない。だが、これでいい。

 

 呆気なくて良いではないか。一撃で殺せば良いではないか。無駄なことをしなくて良いではないか。

 

 こうしてメリットデメリットを度外視して行動してみたが、なんてことはなかった。ただ私が動くだけだ。そこには何も生じない。――いや、『禍の団(カオス・ブリゲード)』の構成員が死んだか。 

 

 考えてみれば、一応私も三大勢力と同盟を組んでいる身。常識的に考えると、この程度の助力はしなければならないだろう。オーディンの言った「少し考えすぎ」というのが理解できたような気がする。

 

 物事には全てメリットデメリットが生じる。だがそれだけでは図れないものもある、ということだ。

 

 とりあえず観覧エリアに戻るか。構成員の排除も終えたことだ、観覧エリアに戻っても文句は言えな――

 

 

「見つけた。我、使徒に用がある」

「……オーフィスか」

「ん」

 

 

 振り返った先には圧倒的なまでの龍の気配を身に纏っているオーフィスがいた。

 

 

「私に何の用だ」

「力、貸してほしい」

「かの龍神が私に力を借りるほどの何かをするのか」

「グレートレッドを倒したい」

「………」

 

 

 思わず口を閉ざしてしまった。まさかグレートレッドを殺す手伝いをしろ、と言われるとは思わなかったからな。

 

 夢幻(むげん)を司る『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッド。無限を司る『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』と対を成す存在である。その力は強大であり、夢幻と無限がぶつかり合えば世界の一つや二つ、簡単に消し飛ぶだろう。オーフィスはそのような存在であるグレートレッドを共に戦い、殺せと言ったのだ。

 

 はっきりと言おう。――嫌だ。

 

 夢幻と無限で対になっている存在の片方でもかけてみろ。何かしら世界に異常が出るだろう。それも神が死んだときとは比べ物にならないぐらいの盛大な異常が。下手をすれば世界の一つでも消えるのではないだろうかか。

 

 そんな面倒事は御免だ。

 

 

「倒さないほうが賢明(けんめい)だと思うが」

「関係ない。グレートレッドを倒して、静寂を得たい」

「次元の狭間の静寂か……」

「そう」

 

 

 じっとオーフィスを見つめる。相変わらず何を考えているのか全く解らない。何となく、というのすらない。

 

 

「私からの返答は断る一択だ。他をあたってくれ」

「そう。ならまた来る」

「何度来ても同じだ」

「なら、協力してもらうまで来る」

 

 

 まるで駄々をこねる子供だな。

 

 

「また来る」

 

 

 そう言い残し、オーフィスは何処かへ転移していった。

 

 しかし厄介なことになったな。オーフィスがグレートレッドを殺して次元の狭間を静かにしたいと言うとは……奴にもそのような感情があったとは驚きだ。……驚き? 私が、驚いたのか? ……そうか、これが「驚き」という感情か。新しいな。

 

 とにかくだ。この件は後日、サーゼクスたちにも伝えるべきだろう。まぁ既に知っている可能性もあるだろうが。

 

 

 

† † †

 

 

 

 観覧エリアに戻った私がまず目にしたのは、怯えるように身体を震わせているアーシアと、そんな彼女を落ち着かせるように抱きしめるレイナーレだった。

 

 何かと思い、辺りを見回すが特に原因となりそうなものはない。ディオドラ・アスタロトの四肢を爆散させても少し慌てていただけのアーシアが震えるほどだ。その原因ともなれば一瞬でわかるはずなのだが……

 

 ――ガアァァァァァァァァァァァァッ!!!!

 

 耳に入ったのはスピーカーで電子音に変換された龍の雄叫び。振り向けば、レーティングゲームを映し出すはずの巨大なモニターには、咆哮を上げる赤い龍を模した鎧が映し出されている。

 

 あの鎧……何処かで見たと思ったが、『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』か。色が赤なことから、兵藤一誠だということがわかる。しかし私が知っている『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』の鎧の形状とは少々異なっている。これも所有者が変わったからだろうか。

 

 モニターを横目に、レイナーレとアーシアの下へ跳ぶ。私に気づいた二人は、一瞬表情を緩めたが、すぐに引き締めた。

 

 

「ゼルエル様、どうやら兵藤一誠が――」

「『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』だろう。既に把握している」

「――はい。その兵藤一誠ですが、今サーゼクス・ルシファーが対抗策を紫藤イリナに届けさせたようです」

「ほう……」

 

 

 ドラゴンを鎮めるのはいつだって歌声だ――。

 

 神がそう言っていたのを思い出した。ただそうなると、天龍を封印するときに歌声を合わせなかったのかが気になるところだが……それは神のみぞ知る、か。

 

 

「なら問題はないな。事が終わるまでこの場でゆったりとしていればいい」

「かしこまりました」

 

 

 一礼をし、アーシアをゆっくりと放してイスに座るレイナーレ。アーシアもゆっくりとレイナーレから放れ、私が座っている隣のイスに座った。

 

 数分後、紫藤イリナがモニターに現れた。そしてモニターには確かに歌声が流れた。ついでとばかりに映像も流れた。

 

 

『おっぱいドラゴン! はっじっまっるよー!』

 

 

 映像に映し出された『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』とは違う形状の鎧――禁手(バランス・ブレイカー)の鎧姿の兵藤一誠がそう声を出すと、子供たちが集まった。

 

 

『おっぱい!』

 

 

 映像の子供たちは兵藤一誠の周囲でそう大きな声で言った。

 

 ダンスを始める兵藤一誠と子供たち。軽快な音楽も流れ始めた。それにともない、兵藤一誠と子供たちもさらに踊り出す。

 

 宙に文字――タイトルと歌詞が表示された。

 

 ……おそらく私を含め全員考えていることは同じだろう。――なんだこれは。

 

 映し出された歌のタイトルは「おっぱいドラゴンの歌」。作詞はアザゼル、作曲はサーゼクス、ダンス振付はセラフォルー。揃いも揃って一体何をしているのだろうか。

 

 この「おっぱいドラゴンの歌」は、その名に恥じらず歌詞に「おっぱい」という単語が何度も何度も出てくる。それほどまでに胸が好きか――アザゼル。

 

 私には胸の良さがわからない。しいて言うのならば柔らかいだろうか。ただアレは一般人を殺しかねない兵器だ。

 

 あれは私がレイナーレとアーシアと睡眠を共に取り始めた数日後のことだ。

 

 始めは緊張していたのか、二人とも全く動かずに――それこそ寝返りさえうたなかった。だが次第に慣れてきて緊張が解けたのだろう。レイナーレが私の頭を胸に抱えるように寝たのだ。無論、呼吸は停止した。停止させられた。私だから良かったものの、アーシアだったら呼吸困難で死んでいてもおかしくはなかっただろう。

 

 胸とは、決して良いもではないと思うのだ。兵器だと私は思う。まぁどう思うかは人それぞれだろう。

 

 事態が動いたのは歌が一通り終わってからだ。兵藤一誠が頭を抱え、

 

 

『……うぅ、おっぱい……』

 

 

 人間の言語を発したのだ。今まで「ガアァァァァァァァァァァァァッ」やら、「グギャアァァァァァァァァァァッ」だの、とても人間が発することが出来ないような言語ばかり叫んでいた。これは大きな進歩だろう。

 

 再び「おっぱいドラゴンの歌」が流れると、兵藤一誠は頭を抱えながら苦しみだした。三度(みたび)「おっぱいドラゴンの歌」が流れると、兵藤一誠の指が何かを求めて押すようなしぐさをした。

 

 そんな兵藤一誠を見て、ヴァーリは瞬時に禁手化(バランス・ブレイク)をし、白い鎧を身に着けた。そして光速に匹敵する速度で兵藤一誠に近づき触れて、力を半減させた。

 

 そこからの展開は怒涛と呼べるものだった。

 

 リアス・グレモリーが自ら胸をさらけ出したと思えば、兵藤一誠がリアス・グレモリーの胸――乳首をその指で確かに押したのだ。そして次の瞬間、兵藤一誠の鎧が解除され、『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』は解除された。

 

 ……リアス・グレモリーの胸は兵藤一誠の制御機関か何かなのだろうか。胸とは兵器ではなく制御装置なのだろうか。

 

 

「どうしようもないクズですね」

「はぅぅぅ……イッセーさんは変態さんなんですね」

 

 

 そんなレイナーレとアーシアの言葉が観覧エリアにやけに響いた。

 

 

 

† † †

 

 

 

 体育祭当日である。天気にも恵まれ、空には雲ひとつなく青空が広がっている。

 

 競技は既に始まっており、私とレイナーレはテントの中に設えられたイスに座り、競技を観覧している。

 

 楽しむことを第一にする者、勝負にこだわり勝利を勝ち取るために全力を出す者、異性の目を引くためか目立とうとする者と、三者三様の楽しみ方があるようだが、アーシアは楽しむことを第一にしているようだった。クラスメイトと楽しそうに競技をしている者の応援をしているのが見てとれた。

 

 

「ゼルエル様、そろそろアーシアの参加する借り物競争です」

「よし、ビデオカメラの準備をしろ。一瞬たりとも取り逃すな」

「かしこまりました」

 

 

 一礼をし、一切無駄のない動作で着々とビデオカメラを用意するレイナーレ。

 

 私はイスに座り、アーシアの勇姿を見ているだけでいい。アーシアの勇姿はレイナーレが撮影する。故にそちらに気を回す必要はない。レイナーレならしっかりとやり遂げてくれるだろうから。

 

 放送で借り物競争の始まり告げられ、生徒たちがグラウンドに入場する。スタート地点に到着した生徒たちは、先頭にいた生徒たちを除いて全員がしゃがみこんだ。恐らく、競技をする生徒を目立たせるためだろう。なかなか配慮がされていると思う。

 

 

「ゼルエル様、どうやら次にアーシアが出るようです」

「そうか。しっかりとやれ」

「はい」

 

 

 そして時が来た。アーシアの参戦である。

 

 第一レーンから第七レーンまであるのだが、アーシアは一番外の第七レーンだ。撮影もしやすい好レーンだと思う。

 

 内側のレーンと外側のレーン、どちらが有利かと問われれば、外側と私は答えよう。内側のレーンはコーナーの角度が外側のレーンに比べて急だ。故に外側よりも減速するだろう。大袈裟に例えるなら、曲がりながら走るよりも、真っ直ぐ一直線に走ったほうが速いということだ。

 

 スタートの合図を送る教師が、スターターピストルを掲げた。ピストルを持っていない片方の手で耳を塞ぎ、

 

 

「On your marks――set」

 

 

 やたらと流暢に言う。生徒はクラウチングスタートの形を取り、腰を上げた。そして生徒は徐々に揺らぎを止める。そして生徒が静止したのを確認したのか、

 

 ――バン!

 

 スターターピストルが唸りを上げた。それと同時にアーシアが走り出す。

 

 一生懸命に走っているのはわかる。わかるが……全くの横並びか。これはこれで面白いのではないだろうか。この先に待ち受ける運命(かりもの)によっては差が大きく開くからな。

 

 アーシアが借り物が書かれているであろうカードを拾い、そこに記された文字を確認した。角度が悪く、私からはどのようなものなのかわからないが、一瞬、顔が赤くなっていた。羞恥を煽るようなものだったのだろうか。

 

 顔色を戻したアーシアは、私の方に向かって真っ直ぐ走ってきた。

 

 

「ゼルエル様! 一緒に来てください!」

 

 

 どうやら私が借り物のようだ。

 

 静かにイスから立ち上がり、アーシアと合流する。そしてアーシアと手を繋いでゴールに向かって走り出す。

 

 アーシアが私のペースに合わせるのではなく、私がアーシアのペースに合わせる。そうしなければアーシアを引きずりまわすことになってしまう。いや、アーシアの体重では慣性に従って宙に浮いてしまうか。

 

 ゆっくりとアーシアのペースに合わせて走ること約五〇メートル。私とアーシアは無事に一位を勝ち取った。

 

 

「やりましたね、ゼルエル様!」

「あぁ、中々良い走りだった。それで、借り物のお題は何だったのだ?」

「えっ!? あ、あのっ、それは……秘密です♪ ダメですか……?」

「……構わん。私はテントに戻る」

「はい♪ ありがとうございました」

 

 

 笑顔で一礼をするアーシア。楽しそうで何よりだが……一体借り物のお題は何だったのだろうか。少々気になるな。




アーシアの選んだ運命(かりもの)、それは――『一生手放したくないもの』。

わかる人なら「怖ぇwww」とか思うんじゃないでしょうか。
まぁそんな感じにアーシアは成長してます。
四肢の爆散には慌てるだけなのに、なんで不完全な『覇龍』状態のイッセーに怯えたのか。
アーシアは、『聖女』の時に怪我人の治療をしているはずです。
怪我の度合いは軽傷から重体まで様々だったのでしょう。
故に『グロ耐性』はできています。
でも、『覇龍』には本能的に怯えたのでしょう。
圧倒的な力には、誰だって怯えますよ。

レイナーレは地味に強くなってます。
夏の旅行に行ったときもチマチマと鍛錬を欠かさなかった模様。
今では『中級の上』ぐらいの実力に。
このまま行けば――壁にぶつかるでしょうね。

ゼルエル様、初体験しました。
よく考えてみれば、同盟組んでいるんですよね。
この程度の助力しないとね……他の勢力にグチグチ文句も言われますって。
ゼルエル様は『驚く』とい感情を見つけ出した。

次話は今月末には書き上げたい(願望)
皆さんが待っていてくれるなら、書き上げたい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。