飛鳥、耀、ルフィ、ジン、三毛猫の4人と1匹は石造りの通路を通って箱庭の中に入る。三毛猫は耀の腕からスルリと下りると、感心したように噴水広場を見回す。
『しかしあれやな。ワシが知っとる人里とはえらい空気が違う場所や。まるで山奥の朝霧が晴れた時のような澄み具合や。ほら、あの噴水の彫刻もえらい立派な造りやで!お嬢の親父さんが見たらさぞ喜んだやろうなあ』
「うん。そうだね」
「あら、何か言った?」
「……。別に」
耀は三毛猫に話す優しい声音とは対照的な声で返す。
飛鳥もそれ以上は追及せず、目の前で賑わう噴水広場に目を向ける。噴水の近くには白く清潔感の漂う洒落た感じのカフェテラスが幾つもあった。
「お勧めの店はあるかしら?」
「す、すみません。段取りは黒ウサギに任せていたので……よかったらお好きな店を選んでください」
「それは太っ腹なことね」
そして飛鳥は身近にあった『六本傷』の旗を掲げるカフェテラスを見つけた。
「あら、このお店。雰囲気もいいしここにしましょう」
「さすが飛鳥さん。『六本傷』のカフェテラスを選ぶなんて見る目がありますね」
「んじゃあ、オレはこっちの店でいいや」
飛鳥が決めた店には向かわず、その10m程先にある『ガルドのワイルドレストラン』という名前の店に入ろうとするルフィ。それを見て。
「いいから、こっちに来なさい」
黒ウサギから監視役を命じられた飛鳥はその責務を全うすべくルフィの服を引っ張り勝手にどこかへ行かせないようにした。
こうして4人と1匹はカフェテラスに入った。注文を取るために店の奥から素早く猫耳の少女が飛び出してきた。
「いらっしゃいませー。御注文はどうしますか?」
「えーと、紅茶を二つと緑茶を一つ。あと軽食にコレとコレと」
「あと肉ーーー!」
『ネコマンマを!』
「はいはーい。ティーセット三つに骨付き肉にネコマンマですね」
……ん?と飛鳥とジンが不可解そうに首を傾げる。しかしそれ以上に驚いているのが春日部耀だった。信じられない物を見るような眼で猫耳の店員に問いただす。
「三毛猫の言葉、わかるの?」
「そりゃ分かりますよー私は猫族なんですから。お歳のわりに随分と綺麗な旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスもさせてもらいますよ!」
『ねーちゃんも可愛い猫耳に鉤尻尾やな。今度機会があったら甘噛みしに行くわ』
「やだもーお客さんったらお上手なんだから!」
猫耳娘は長い鉤尻尾をフリフリと揺らしながら店内に戻る。その後ろ姿を見送った耀は嬉しそうに笑って三毛猫を撫でた。
「……箱庭ってすごいね、三毛猫。私以外に三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」
『来てよかったなお嬢』
「ちょ、ちょっと待って。貴女もしかして猫と会話が出来るの?」
珍しく動揺した声の飛鳥に、耀はコクリと頷いて返す。続けてルフィも。
「へぇーー、お前ネコと喋れんのかー。じゃあ犬とかとも喋れんのか?」
ジンも興味深そうに話に入った。
「たしかに。もしも耀さんが全ての種と会話が可能なら心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言語の壁というのはとても大きいですから」
「へえ、そうなの。それで、どうなの春日部さん?」
「うん。生きているなら誰とでも話は出来る」
「そう………春日部さんは素敵な力があるのね。羨ましいわ」
笑いかけられると、困ったように頭を掻く耀。対照的に飛鳥は憂鬱そうな声と表情で呟く。耀と飛鳥は出会って数時間の間柄だが、それでも彼女の表情が飛鳥らしくないと感じた。
「久藤さんは」
「飛鳥でいいわ。よろしくね春日部さん」
「う、うん。飛鳥はどんな力を持っているの?」
「私?私の力は……まあ酷いものよ。だって」
「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ『名無しの権兵衛』のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」
品のない上品ぶった声がジンを呼ぶ。振り返ると、2mを超える巨体をピチピチのタキシードで包む変な男がいた。
今回は2パートに分けたいと思います。それよりも、ルフィのセリフが少なすぎて若干焦り気味の作者であった。あと、オマケですけど、本当は猫耳店員の「御注文はどうしますか?」を「ご注文はウサギですか?」にしたかったんですけど、このネタが分かる人がいるか不安でしたし、そもそも話をつなげるのが難しかったので今回は断念しました(笑)