僻地提督の野望   作:文織

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週1なんて無理だったよ……
今更ですがアンチ・ヘイトを付けたほうがいいと気づきました。
だって……ねぇ?
問題児とか言っちゃったもんねぇ


第二話:「この糞提督!」

 藍原の着任から数週間がたった泊地は以前に増して賑やかになっていた。

 その理由はなんといっても年頃の娘、艦娘が増えたことにあるのだが、それと同時に相原の悩みも増えていた。

 その理由も、もちろん艦娘である。

 もとより他の鎮守府で面倒を見きれなくなった問題児たちが集められるのだろうと予想はしていたが、現実はその想像をはるかに超えていた。

 

「──というわけでだな……おい曙、聞いてるか?」

 

 時刻は十五時を少し過ぎた頃、比較的深海棲艦の目撃情報の少ない海域への試験的な離航海演習を終えて帰投し、そのままブリーフィングを行っていた。

 現在司令室に集まっているのは『鎮守府前海域』へ出撃していた司令官の藍原、そして水雷戦隊の『叢雲』、『曙』、『卯月』、『天龍』の4人だった、実際にはもう数名の艦娘も着任しているのだが、そちらは現在休養中である。

 この4人の艦娘のうち目下最大の問題児である曙が人の話を全く聞いている素振りすら見せていないのであった。

 

「うっさい、あたしに指図すんな糞提督」

 

 終いにはこの口である。

 今までの鎮守府でよっぽどひどい上司に当たってきたのか、彼女は一向に藍原に気を許そうとはしていなかった。

 それにしたって仮とは言え軍に所属している者としてありえない口の利き方であったが、藍原は最初に一度注意して以来は一切口を出していなかった。

 人でなく、兵器でもない彼女たちとの距離をまだ測り損ねている真っ最中なのだ。

 

「俺の事をなんと言おうが構わんがな、お前が命令を聞かなければ危ないのはお前や艦隊の仲間たちなんだぞ」

「それはわかってるわよ……でも、あたしはあんたのこと信じたりなんかしてないから!」

「……どうやったら信じてくれるんだ?」

「そんなの自分で考えなさいよ、バーカ!」

 

 そこまで言うと曙はずんずんと司令室から出て行ってしまった。

 

「まったく曙は……」

「司令官いつもお疲れ様だぴょん!びしぃ!」

 

 この特徴的な喋り方をしているのが睦月型駆逐艦四番艦の卯月である。

 普段からやたらとハイテンションで可愛らしい喋り方をしているのだが、人のことをからかったり自由気ままな性格など、こちらはこちらで問題が多い、なんと言っても疲れる、そう言った理由で転属させられたどちらかというと被害者なのだが、本人はあまり気にしてはいないようだ。

 

「苦労してる司令官とっても輝いてるぴょん!」

「それも嘘か?」

「これは本当だぴょ~ん」

 

 卯月もまだ解散とは言っていないのに「ご飯食べてくるぴょん」と言い残しさっさと司令室から出て行ってしまった。

 

「苦労して輝くとは俺はそんなに苦労性か?」

「ま、あの連中をまとめさせられてちゃァな」

 

 最後に残った艦娘の一人、天龍が藍原の机に腰掛けたままニヤニヤとしていた。

 彼女は行動や戦闘に関してはまったく問題ないのだが、上官への食ってかかるような言動や、粗暴な態度など手を焼く提督が多かったのか、藍原の泊地にもやってきたのだ。

 

「まったく……せめて天龍、お前は年長者としてまともでいてくれよ……」

 

 年長者といっても実際の年齢というわけではなく、艦娘達は艦種によって肉体年齢が変わっていくことが多く─時折それから外れることもある─特に排水量が少ないほど見た目の年齢が若くなっていく傾向にあった。

 そして天龍は藍原の艦隊では現状唯一の軽巡洋艦にカテゴライズされる艦であり、それ以外の駆逐艦のような子供らしい姿よりもだいぶ女性らしい姿をしていた。

 そしてなんといっても藍原が所有する最大戦力でもある、多少のことには目を瞑る。

 

「お、おう、任せとけ」

 

 さすがに本気でぐったりしている様子の提督を見て天龍も哀れに思ったのか机から降りると「あいつらだけじゃ作れないだろうし、オレもメシにすっかな」と食堂へ向かっていった。

 

「……あんた、ここ数日で老けたんじゃない?」

「……お前もそう思うか」

 

 最後に残ったのはこの泊地では最も長い付き合いになる藍原と叢雲だった。

 叢雲はあの日以降も水雷戦隊の旗艦として出撃しており、同時に泊地にいるときは藍原の秘書としての仕事もこなしていた。

 毎日一緒にいる叢雲が気づくのだから、よほどここ数日の激務……駆逐艦たちの相手が響いているのだろう。

 

「卯月や天龍はまだいいんだ、俺が我慢すればいいからな……だが」

「問題は曙ね……」

「そうだな……」

 

 行動や言動だけならばいつか慣れる時も来る、しかし信頼というものはそうにもいかずどうにかこうにか勝ち取る他なかった。

 しかし実際はその糸口すら見つかっていないのが現状だった。

 

「敵艦と遭遇しなかったのは運が良かった、次はどうなるか……内地よりよっぽど悩みが尽きんな……」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 泊地の食堂とつながっている厨房には二つの影が動いていた。

 一人は先に飛び出していった『曙』。

 もうひとりはあとからやってきた『天龍』だった。

 ちなみに『卯月』は食堂でおとなしく待っている。

 給料艦の『間宮』『伊良湖』が配備されていないこの泊地ではまだ艦娘、あるいは藍原が料理を作る習慣が続いていた。

 しかし当然全員が料理できるわけではなく……

 

「ちょ、ちょっと天龍さん焦げてるっ焦げてるっ、火弱めて!」

「お、おうっ」

「うーちゃん焦げたお料理は嫌だぴょん」

 

 なんていうことはなくただ野菜炒めを作っているだけだったはずの厨房があっという間に暗黒物質を生成する実験場へとなり果てていた。

 

「天龍さん料理できないならなんで手伝いなんて来たのよ……」

「い、いや、一応提督にお前たちの世話頼まれちまったしよ」

「あの糞提督に……?」

 

 目をそらしながらバツが悪そうに答えた天龍を曙がきつい視線で射抜き、詰問のような口調で問いかける。

 その間もてきぱきと焦げ付いたフライパンの焦げを落としてるあたりは率先して厨房に立つ彼女の技量が推し量れるというものである。

 

「おう、一番年上だからってな」

「年上ね……」

 

 年上は年上でも保護者ではなく世話のかかる姉でも見るような曙の視線にも気づかず一人で誇らしげに胸を張る天龍をよそに卯月が厨房に入ってきて片付けと料理の手伝いをぱっぱと進めていく。

 これでも前世では三十駆逐隊の結成から一時を除いて看板を背負って全滅のその時まで戦い抜いた猛者、外見や普段の様子以上にいろいろと器用にこなせる卯月だった。

 

「曙ちゃんは司令官のこと嫌いなのかなぁ?」

「別に、あいつ自身が嫌いってわけじゃないわよ……ただ、司令官って奴を信じてないだけよ」

「なんだ~、良かったぴょん」

「良かったてなんでよ」

「だって司令官最近あーちゃんのことでいろいろ悩んでるみたいだったしぃ、うーちゃんは細かいことは気にしない司令官のこと好きだからあーちゃんも司令官のこと好きみたいでよかったぴょん」

「ちょ、誰があの糞提督のこと好きなんて言ったのよ、というか誰があーちゃんよ!?」

「だってあーちゃんはあーちゃんだぴょん、それに司令官のこと嫌いじゃないって言ってたぴょ~ん」

「だから、嫌いじゃないだけで別に好きなんかじゃないし!」

 

 いつの間にか仲睦まじく(?)話している曙と卯月の様子を見ながら天龍はひとまず安堵していた。

 

「へっ、どうやらあんたの杞憂みたいだぜ、提督」

「天龍さんはいいから片付けの手伝いしてよね」

「焦がしたの天龍なんだからさっさと手伝うぴょん」

 

 実はこの泊地において一番偉いのは料理ができる人なのだ。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 前回の出撃から数日が経ち、藍原と数名の駆逐艦は艤装を纏い泊地の第一埠頭に集まっていた。

 

「それじゃあ、今日の『演習』の内容について説明する」

「今日も航行演習っぽい?私、もう飽きたっぽい~」

 

 まだ内容の説明も始めていないのに文句を言い出したのは夕立だった。

 彼女は特に問題を起こしたわけではなく、藍原の泊地で初めて建造(※1)された艦だった。

 他に集められている艦は『曙』『卯月』『叢雲』『不知火』『霞』『島風』の6人、そこに夕立も含めて7人でこの泊地にいる全駆逐艦だった。

 不知火も夕立と同じく建造された艦であり、何かと問題の多い駆逐艦たちをまとめてくれており、この泊地において藍原の強い味方となっていた

 霞については他の鎮守府からやってきた駆逐艦だった。

 彼女は上官の命令にはちゃんと従うし、口もそれほど─曙に比べれば─悪くないのだが、常に不機嫌そうな口調で不敬と取られてしまったのか、泊地に左遷されていた。

 島風は戦場において自らのスペックを生かしたいのか数度の命令無視を行っていたのが災いした形での仲間入りだった。

 

「いや、今日は近海の航行演習ではなく、このまま湾内でより実践的な演習を行う」

「より実践的な演習ですか」

「そうだ不知火、内容は……これだ!」

 

 持ってきていた黒板をひっくり返すと、そこに書かれていたのは……

 

「鬼ごっこ……?」

「速さなら誰にも負けないよ~!」

 

 怪訝そうな顔をした霞に比べて自分の早さをフルに発揮できる島風は随分と楽しそうにあたりを跳ね回り始めた。

 

「これはまた面白い演習を考えたわね」

「何事も楽しい方がいいからな」

 

 鬼ごっこと言っても鬼は誰かに触れることで交代するのではなく、模擬弾を命中させた時点で鬼を交代させるという一風変わったルールになっていた。

 鬼は当たらないように複雑に動く敵に砲弾を命中させる演習を、それ以外は砲弾を躱す回避運動の演習をすることができるメニューだった。

 最初はあまり乗り気ではなかった不知火や曙なんかも始まってすぐに他の駆逐艦に混ざって『鬼ごっこ』を楽しんでいた。

 その身に軍艦の力を宿しているとは言えやはり年頃の娘、あまり窮屈な生活は似合わないな、と藍原は演習に没頭する少女たちを眺めながら彼女たちとの付き合い方を考えていた。

 

「こりゃいいな、みんな楽しそうに演習していやがる」

 

 いつからそこにいたのか埠頭の先に立っていた天龍が駆逐艦たちの様子を眺めていた。

 

「天龍も参加していいんだぞ」

「なっ、い、いつオレが参加したいなんて言った!」

 

 からかうように藍原が言うと天龍は顔を赤くしながら振り向き反論を始めていた。

 だが藍原は知っていた、彼女がもしかすると駆逐艦より精神的に幼いかもしれないと。

 初めての出会いこそ「フフフ、怖いか?」などと言われて内心戸惑った藍原であったが、ここ最近は彼女についてもなんとなく理解していた。

 なんというか、とても素直で可愛らしいのだ。

 

「いや、俺ではあの中で仲介することはできなからな、ひとりくらい保護者がいると助かると思ったんだが?」

 

 藍原がそう言うと天龍は「ち、そういうことなら仕方ねぇなぁ」と意気揚々と準備していた艤装を装備し、海上へと出て行った。

 

「ああやって素直なところは可愛いんだがな」

「そうでしょう?私の自慢の妹ですもの、でも手を出したら……その手、落ちても知りませんよ~」

 

 突然後ろから声をかけられ反射的に後ろを振り向いた藍原の視界にはひとりの少女が写っていた。

 

「……龍田、到着していたなら挨拶にくらい来い、目撃情報は随分と前から来ていたぞ」

「ごめんなさ~い、でも私がお仕事をする泊地とか提督について知りたかったんですもの」

 

 全体的に黒を基調とした服を着たこの少女は軽巡洋艦『龍田』、藍原の艦隊では二人目となる軽巡洋艦にして天龍の姉にあたる艦だった。

 彼女は上官に対して一切態度を変えないことや、自分勝手な行動や言動、何より態度が目に付き様々な鎮守府をたらい回しにされてきたようだ。

 どうやら直前までいた鎮守府にいた天龍がこの泊地に転属と聞いてここを希望したという話も聞くが、細かいことはここまで伝わっていなかった。

 

「ひとまず長旅ご苦労だった、君の部屋まで案内しよう」

「はぁい、よろしくお願いしますね~」

 

 これでひとまずこの泊地に着任する予定の艦は全員が揃った事となった。

 『叢雲』『曙』『卯月』『夕立』『不知火』『霞』『島風』『天龍』『龍田』

 駆逐艦七人、軽巡洋艦二人、司令官一人。

 合計十人の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。




※1:建造
 この世界ではゲームと同じように一定量以上の資材を『工廠住み込みの妖精さん(※2)』に渡すことによって数日の時間をかけてひとりの艦娘を建造することができる。
 しかしどうやら艦娘達は自分と同じ艦に会うことを非常に嫌がり、同じ鎮守府内で建造によって存在が"ダブった"という報告は今のところ出ていない──という便利設定。

※2:妖精さん
 いつ、どこで誕生したのかは一切が謎の生物。
 艦娘たちの艤装の中にも宿っていると言われており、艤装の整備や調整、新型艦の建造などなんでもできるすごい人たち。
 食事も摂っているらしいが、何を食べているのかは誰も知らない。
 やることがない妖精さんは工廠付近の掃除もしてくれるのだ。
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