少女は旅をする。流れる雲や風と一緒に。

彼女はどこへ行くのだろうか。

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何年か前に書いた掌編です。

暇つぶしにでもなれば幸いです。

元ネタは、初音ミクの同名の曲です。


緑の笛の旅人

馬車がかたかたと揺れるたび、笛の音が弾む。

緑色に輝く笛を吹く旅人、その音はとても澄んでいる。

どこまでも突き抜けるように高い青空。

「んっ! 西……いや東!」

そういうと馬車は西を目指して進んでいった。

 

 

ついたのは西の村、草の匂いの村。

どこからか自分の持つ笛の音と似た音がする。

森の入り口で笛を吹いている女性がいた。

「すいません、私は旅の者ですがこの笛のことを知る人を探しているんです。何か知りませんか?」

緑に輝く笛を見せると、彼女は首を振った。

「ごめんなさい、そんな形の笛はみたことがないの」

彼女の持つ笛は緑色だったけれど、形は全然違っていた。

「お詫びにといってはなんだけど、この森を抜けてあの山を少し登ると集落があるの。風向きがいいと、そっちのほうからも笛の音が聞こえてくるのよ」

お礼を言って、今度は山へ向かうことにした。

 

 

馬車がかたかた揺れるたび、笛の音が弾む。

緑色に輝く笛を吹く旅人、その音はとても澄んでいる。

どこまでも突き抜けるように高い青空。

「ここで右……いや左!」

そういうと馬車は右を目指して進んでいった。

 

 

ついたのは北の集落、土の匂いの集落。

どこからか自分の持つ笛の音と似たような音がする。

焚き火のそばで笛を吹いている男性がいた。

「すいません、私は旅の者ですがこの笛のことを知る人を探しているんです。何か知りませんか?」

緑に輝く笛を見せると、彼は首を振った。

「悪ぃな、そんなきれいな色の笛はみたことがねぇんだ」

彼の持つ笛は形がよく似ていたけれど、銀色だった。

「ここからは少し遠いんだが、海の街にもそれと似たような笛があるって聞くぜ。まぁ、今夜は遅いからこの集落に泊まっていけや」

ご好意に甘え、私は集落に泊まらせてもらうことにした。

 

 

民家の隅を借り、腰を下ろすとその家の子が興味津々に近づいてきた。

「ねぇたびびとさん、たびびとさんはどこのひと?」

「……ごめんね、わかんない」

「わかんないの?」

「そう、だから旅をしてるの」

「たびびとさんおなまえなんていうの?」

「ウーノ、っていうの」

「うーの?」

「たぶん、そうだと思う。笛に彫ってあるの、ほら」

「ほんとだ!」

 

 

私はどこからきたのか、旅は続く。

 

 

「昨夜はありがとうございました」

「おう、達者でな」

 

 

馬車がかたかたと揺れるたび、笛の音が弾む。

緑色に輝く笛を吹く旅人、その音はとても澄んでいる。

どこまでも突き抜けるように高い青空。

「ここは北……やっぱ南!」

そういうと馬車は南を目指して進んでいった。

 

 

ついたのは南の街、潮の匂いの街。

どこからか自分の持つ笛の音と似た音がする。

港で笛を吹いている女性がいた。

「すいません、私は旅の者ですがこの笛のことを知る人を探しているんです。何か知りませんか?」

緑に輝く笛を見せると、彼女は首を振った。

「すまないけど、そんな笛はみたことがないんだよ」

彼女の持つ笛は青みがかった緑で、少し長かった。

「笛をさがしてるんなら、この海の向こうの大陸のある谷が有名だよ。そこにはどんな笛でもあるって話さ。ところで、あんたその笛だけど……。いや、あたしの勘違いかね。気にしないでおくれ」

お礼を言って、今度は谷へ向かうことにした。

 

 

海を渡った。

空に負けないくらい深く、深く。

空に負けないくらい広く、広く。

体がすこし重い気がする。

潮風にあたりすぎたのだろうか?

自分にはきっとあまりここの空気は合わないのかもしれない。

海がきれいと感動しただけにすこし残念だった。

 

 

馬車がかたかたと揺れるたび、笛の音が弾む。

緑色に輝く笛を吹く旅人、その音はとても澄んでいる。

どこまでも突き抜けるように高い青空。

「ここで東に……でも西!」

そういうと馬車は東を目指して進んでいった。

 

 

ついたのは東の谷、風の匂いの谷。

どこからか自分の持つ笛の音と似た音がする。

家の前で笛を吹いている少女がいた。

「すいません、私は旅の者ですがこの笛のことを知る人を探しているんです。何か知りませんか?」

緑に輝く笛を見せると、彼女は首を振った。

「そういう笛は初めてみたわ」

彼女の持つ笛は、私の持つ笛と何もかもが違っていた。

「ねぇ、その笛ちょっと吹いてみてもいい?」

彼女に笛を渡すと、うれしそうに唇にあてた。

しかし、笛からはなんの音もしなかった。

「難しいなぁ……。それにしても、この笛変な形ね」

不思議そうな顔をして笛をくるくるいじくりまわし、返してくれた。

「おばぁなら何か知ってるかもしれない、つれてってあげる」

 

 

「これは本当に笛かい?」

「ええ……」

「こんな形じゃ音が出るはずはないんだけどねぇ」

「でも、ほら」

私は唇に押し当て、息を吹き込んだ。

聞きなれた清澄な音が響いた。

「あんた、口笛ふいてごらん」

言われたとおりに口笛を吹くと、緑の笛とまったく同じ音が響いた。

私はとてもびっくりした。

「その音は、この笛じゃなくてあんたから流れていたんだよ」

 

 

私はなんなのだろう?

 

 

「この先の荒野に、小さな村があったはずだよ。今はどうなってるかはわからないけどね。確かそこに緑の笛があると話を聞いたことがある」

私はお礼を言って、荒野を目指すことにした。

 

 

私はどこから来たのだろう? 旅は続く。

 

 

馬車がかたかたと揺れるたび、笛の音が弾む。

緑色に輝く笛を吹く旅人、その音はとても澄んでいる。

珍しく白くにごった、低い低い空。

「……このまままっすぐ」

そういうと馬車はまっすぐ進んでいった。

 

 

ついたのは荒野の村、正確にはだったところ。

すっかり荒れ果てていて、人の気配はまったくない。

そろそろ暗くなるから、と一晩宿を借りることにした。

「すいません、私は旅の者です。おじゃまします」

ほこりの積もった古い家、どうしてだろう。とても居心地がいい。

写真を見つけた。もうぼろぼろだ。

そこには母親らしき女性と父親らしき男性と。

「これは、私?」

緑の髪、緑の目、緑の服。

これはたぶん私。それもとても幼いころの。

それならばここは私の家?

部屋をひとつひとつ見て回ると、本があった。

誰かの日誌?

整った字で書かれていた。

 

 

○月×日

もうすぐで完成する。

あともうすこしの辛抱だよ

 

○月▲日

ようやく完成した。

流行病で死んだ娘がまるで生き返ったようだ。

 

 

はやり病で死んだ娘?

完成って、何が?

 

 

最後のほうのページまで一気にめくった。

 

 

△月×日

生身のわたしたちが長く生きることはできない

この子はわたしたちがいなくなったら どうなるだろう

 

×月○日

いつか これを リーナが よんでくれると

 

 

リーナ。

私はリーナというのだろうか。

生身のわたしたち。

私は生身ではない?

ふと部屋のすみを見ると、モニタがあった。

近づいて、電源を入れた。

 

 

「おかえりなさい 旅は終わったよ お疲れさま      パパとママより」

 

 

 

おとうさん。

おかあさん。

私は。

私は、人間ではなかったのですね。

あんまりおなかが減らないのも。

潮風にあたったときから調子が悪いのも。

でも。

私は人間と同じように、笑うことができます。

泣くことができます。

そして。

歌うことができます。

 

 

おとうさん。

おかあさん。

 

 

日誌には、「ロボ、一の日誌」と書かれていた。

 

 

馬車がかたかたと揺れるたび、笛の音が弾む。

緑色に輝く笛を吹く旅人、その音はとても澄んでいる。

どこまでも突き抜けるように高い青空。

緑の笛の旅人の旅は終わらない。

何を思って両親が笛を残してくれたのかは分からない。

でも、旅人は今再び世界を巡っている。

たくさんの世界の音を、たくさんの場所で響かせながら。

 

 

 

 

 




こういう曲を元にして書くのって楽しいので好きです。楽をしていると言われてしまえばそれまでですが。

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