今回から、【夜の薔薇編I】が始まります。よろしくお願いします。
第二部から第三部にかけて、《ナイト・ロザリオ》のメンバーの過去に触れていきたいと思っています。
それでは、第二部、第一話「単眼の龍刃師①」をどうぞ。
I.単眼の龍刃師①
これは、単眼の龍刃師の記憶–––––。
あるところに、明るく笑顔を絶やさない少女がいました。
その少女は、両親と会話をするのがとても大好きでした。
少女は元気なまま成長して、十三歳になりました。
その年のある日、いつものように両親と会話をしていました。
ピンポーン。ピンポーン。
会話の途中に、インターホンが鳴りました。
少女の父親は席を立つと、快く玄関のドアを開けました。
すると、誰かが上がってきて、そのまま足音が続きます。
少女の母親は、その足音を知り合いのものと思い、近付きます。
バタリッ。
突然、母親は倒れます。
少女は目を疑いました。
母親の胸部に大きな穴がポッカリと空いています。
そこには、龍人が立っていました。
龍人は少女を持ち上げると、ガラス窓に向かい投げ飛ばしました。
少女の体はガラス窓を割り、外に飛び出します。
飛んだガラスの破片が、少女に向かって降ってきます。
少女は、左目の光を失いました。
二年後、十五歳の少女は《ヴァンドラ》の試験会場に現れます。
そこで少女は、こう言いました。
–––––『アタシに龍人を殺す力をください』。
I.単眼の龍刃師①
「薫くん……もう少し、集中しなきゃ」
「うん、ごめん」
龍刃師最高組織本部《ヴァンドラ》の地下ニニ階、【第十三訓練室】。
そこに、俺とリリィはいる。
簡単に説明すれば、“精神コントロール”を鍛えるための特訓を、リリィにしてもらっているのだ。
「もう一度……やって、みようか?」
「分かりました。リリィ先生」
「せ、せせ、先生だなんて、アタシ、は、そんな大層な………」
冗談で言ったつもりが、リリィはかなりアタフタしていた。
そんなリリィを笑って、俺は壁に幾つもあるスイッチの中から【鬼人シリーズ】の【大黒型】を選択して、押した。すると、俺の視界からリリィは消え、新たに鬼人“大黒型”の姿が現れた。
しかし、リリィの視界にはどこにも“大黒型”は見えていないだろう。なぜなら、この鬼人“大黒型”の姿は、俺の脳に直接立体映像を見せているからだ。
以前俺と雫、そして冬姉で鬼人軍団と戦った。その時の戦闘データを解析し、鬼人それぞれの姿と能力を抽出したことで、3Dオブジェクト化することが可能となった。
さらに、その3Dオブジェクト化した鬼人を、龍刃師の脳内に直接データを流すことにより、模擬戦闘が可能になったのだ。
もちろん、【鬼人シリーズ】が加わるまでは【龍人シリーズ】しか存在していなかった。
いざ間直で、3Dオブジェクト化した鬼人“大黒型”を見ると、すごく繊細に再現されているが、それが俺にとっては少し苦だった。
こいつが、父さんを殺した。
いくらそれが、本物の鬼人でなくとも、データの塊であると理解していても、心は荒れてしまう。怒り狂いそうになる。
そして、模擬戦闘を開始した。
五分後、俺は呆気なく負けてしまった。
その原因は、精神コントロールを上手く使えなかったことだ。
「大丈夫?」
「う、うん、大丈夫だよ。やっぱり難しいな」
「薫くん……精神コントロールとは?」
リリィはそう質問してくる。俺はそれに対して、マニュアル通りの答えを言った。
「えっと、心を落ち着かせるのではなく、荒れた心をも精神でコントロールし力にかえるのだ。だったよね?」
「正解………です」
最初は、俺も精神コントロールとはなんなのか分からなかったが、最近になって分かってきた。
《属性》–––それは、そもそも、龍刃師の心の色によって異なる。つまり、心が荒れてしまうと属性が操りにくくなるのだ。そして、それを防ぐために存在する、龍刃師の基礎能力–––それが、精神コントロールである。
だからこそ俺も、わざわざ模擬戦闘に鬼人“大黒型”を選択したのだ。
さらに、龍刃師の基礎能力は精神コントロールだけではない。精神コントロールの他、攻撃能力、防御能力、回避能力、技“スキル”精度がある。
俺自身が、訓練生龍刃師から隊員龍刃師に昇格し、基礎能力のレベルアップが必要になったため、そのそれぞれに担当の教師役龍刃師がつくようになったのだ。
攻撃能力の担当は澪。防御能力の担当は悠大。回避能力の担当は雫。技“スキル”精度の担当はカノンさん。そして、精神コントロールはリリィとなる。
ただ、メインの教師役は雫のままである。
「うーん、俺にとっての天敵は、確実に精神コントロールだろうな」
そんな事を言う俺に、リリィは優しく答えた。
「精神コントロールは、誰もが、つまずく最初の……壁です。だから、まだ、大丈夫」
「そっか。ありがと」
「アタシ、思うんだけど………《龍人化現象》の時、生まれた、龍刃師達は、荒れた心を、心の力で乗り切った。それは、精神コントロールなしで、乗り越えたって、事だよね?」
「う、うん。そうじゃないかな?」
「…………カッコいい……」
………………。リリィは《ナイト・ロザリオ》の中で一番のしっかり者だが、一番よく分からない。でも、そこが良いところなんだとも思う。
「薫!リリちゃん!そろそろ夕食だってよ〜〜!」
澪の声だ。
腕時計を見ると、すでに十九時を回っていた。俺とリリィが顔を合わせると、お互いにグゥ〜〜ッと大きな音が聞こえ、赤面した。
「行こうか」
「そう……だ、ね」
遠くで、澪がクスクスと笑っていた。
〜☆〜★〜☆〜
《ナイト・ロザリオ》の夕食は、料理のできる、カノンさん、澪、リリィの三人で、一日ごとに交代している。今日の夕食は、カノンさんの担当だ。
「……美味い!美味しいです、カノンさん!」
「本当に?ありがとう」
「こらこら薫くん、カノンを褒めるなよ。すぐ調子に乗るからな」
「なんだって?」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!?」
カノンさんは席を立つと、真反対にいる悠大のこめかみをグリグリし始めた。さすが、《ナイト・ロザリオ》のお母さんである。
「か、か、薫くん!たす、助けて」
「今のは悠大が悪いよ」
助けを求める悠大に、俺はきっぱりそう言った。
「そ、そんなぁ、痛い痛い痛い!?」
『あはははははははは!』
今日もまた、楽しい食卓を囲む事が出来た。
ちなみに雫の料理はと言うと、過去に食べた事のある澪は、「アタシ、二日寝込んだわよ。任務も出られなかったし」と言っていた。
今後、俺も気を付けなくては。
〜☆〜★〜☆〜
「おやすみなさい」
そう言ってから、二時間ほど経った。現在の時刻は、深夜一時、丁度である。
音を立てないように制服に着替えると、俺は部屋からこっそりと抜け出し、エレベーターで一番近い二十階に降りた。そして、二十階の一番手前にある【第一訓練室】の前に立った。
手をかざし、指紋認証をすると、大きな扉はゆっくりと開いた。
「–––––––––––––!!?」
自分の目を疑った。
おそらく“彼女”は、何かと模擬戦闘をしているのだろう。しかし、状況を見るに押され気味であった。
腰を抜かし。口をパクパクさせ。目を見開き。震えている。
そこまで、思考を回したところで危険と判断した俺は、急いで装置をシャットダウンした。
そして、“彼女”の元へ走った。
「大丈夫か、リリィ!!」
「………あ……あぁぁ」
俺はリリィの体を腕で支えた。体が小刻みに震え、心臓の鼓動が腕に伝わる。喉から漏らした小さな嗚咽が、リリィの中の恐怖を物語る。
「リリィ?」
「………お、父さん……お、か……さん」
リリィはぎこちない口の動きで、両親を呼んでいた。
「大丈夫、大丈夫」
ひたすら、そう声を掛け、強く抱きしめてあげた。
少しでも、震えてを和らげてあげたかった。
「リリィ、もう大丈夫?」
「うん。あり、がとう………薫くん」
まだ少し震えているが、顔には生気が戻りかけていた。
俺はリリィのあの姿を見たとき、龍刃師になる前の俺を見ているようだった。総技術高度医療センターの前で、龍人“黒鬼型”を見て腰を抜かした、あの時の俺そのままだった。俺はあの時、過去を思い出し恐怖していた。
ならば、リリィもそうなのだろうか。
「リリィ、嫌なら答えなくていいから。過去に、何かあったの?」
「…………………」
リリィは、黙ったまま俯いていた。
こんな状態で質問をしたのは、悪かったかもしれない。しかし、気になるので明日にでも聞くべきだろう。
「分かった。じゃあ、今日はもう休も–––」
「うん」
「え?」
「アタシ、の、過去に………関係、ある」
リリィは、辛い過去を俺に打ち明けてくれた。
当時のリリィはとても明るく、笑顔で絶やさない子だった。しかし、十三歳になった年のある日、両親を龍人に殺され、その際、リリィ自身の左目の視力も奪われたのだ。それからというもの、リリィはひたすらに龍人を恨み続けた。
十五歳の時、リリィは《ヴァンドラ》の試験がある事を知って、受けに行った。
リリィはそこで、龍ヶ崎さんにこう言った。『アタシに、龍人を殺す力をください』と。
龍ヶ崎さんはその時、復讐のためか、何かを守るためか、そう聞いてきた。リリィは、当たり前のように『復讐のため』と、答えた。すると龍ヶ崎さんは、合格とも不合格とも言わず、ノートの切れ端をリリィに渡し、そこに書かれた住所に行くよう指示した。
翌日、リリィは住所を頼りにその場所へ行った。そこには、使われていない協会を使って開いている孤児院があった。リリィは成り行きで、その孤児院に入り、そこで最年長だったカノンさんと出会った。
その孤児院で三年間を過ごし、高校を出たリリィはカノンさんとともに、再び《ヴァンドラ》の試験を受けた。
そこで、リリィはまたあの言葉を言う。『アタシに、龍人を殺す力をください』。龍ヶ崎さんはまた、復讐のためか、何かを守るためか、と質問してきた。リリィは当たり前のように『守るため』と答えた。
リリィはカノンさんと《ナイト・ロザリオ》に訓練生として派遣された。
「–––そこまでが、アタシ、が、龍刃師になるまでの、話」
「そうなのか」
「アタシは、守るべきものを……作る事が、できた。けど、今度は……それを失うのが、怖く、なってしまった。それ、以来、“アイツ”を前にすると、足が、すくむの」
「それで、克服しようとしてたのか」
「うん」
リリィはリリィなりに、過去を乗り越えようとしている。その過去は、精神コントロールなんかでどうこうなるものではないだろう。リリィは心を強くしないといけないと思う。しかし、それを俺が簡単に口にして良いとは思わない。今は、そっと見守るべきだ。
「今日はもう、休もうか………」
俺は十九階の専用フロアに戻り、リリィを部屋まで送った後、自分の部屋に戻った。
そして、そのまま、ばたりと床に倒れた。
〜☆〜★〜☆〜
「お・き・ろ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
「はい!?」
最悪な目覚めだった。
「み、澪か。なんだよ」
「なんだよじゃ、ないわよ–––!時間!」
俺は、何事だ?と思いつつ、目覚まし時計に目を向けた。
八時四十分。
「ゲッ!」
「『ゲッ!』じゃない!みんなもう朝食食べたよ!?」
「なんで、起こしてくれないんだよ」
「朝食前に起こしに来たけど、熟睡してたでしょうが!朝食食べたら、【第四訓練室】に急いでくる事!」
「り、了解」
とにかく急いで、食事を済ませ、制服に着替えた。今日は、土曜日。一日中、特訓漬けである。
まず一つ目に澪との攻撃能力の特訓。
「はい、十分遅刻。DG攻撃の形で素振り五百回!終わったら次をするから、声をかける事」
「了解」
二つ目は、悠大と一緒に防御能力の特訓。
「残念。五分遅刻、腕立て五十回」
「う、うん」
次は、昼の休憩時間。胃にあまりものを入れない。入れてしまうと午後からの特訓に支障が出るからである。
俺は、疲れて寝てしまった。
三つ目、雫と回避能力の特訓。なのだが。
「おーい。薫くーん?」
「へ?あ、ん!?ご、ごめん!」
「良いよ、許してあげる。三重跳び百回ね」
「…………ですよねぇ」
四つ目は、カノンさんと技“スキル”精度を上げる特訓。
「二十分遅刻……。今日は技を教えません」
「そ、そんなぁ」
「私と本気で戦いなさい」
「え!?」
もちろんボコボコにやられた。一方的に。
そして、最後はリリィと精神コントロール。のはずだが。
「あれ、リリィ?」
リリィはいなかった。
辺りを見渡し、振り返ったときだった。
「いた、薫くん………どこ、行ってた?」
「ごめん、時間ロスして遅刻しちゃった」
「そっか、仕方、ないね」
そんな会話の中、俺はリリィを見てふと思う。
近付いて、リリィの顔を除いて俺は言う。
「なんで、そんなに顔を隠すんだ?」
「目が………」
「いや、それは分かってるんだけどさ……。そんなに下を向いてたら、自分の心にも鍵をかけちゃうよ?」
「–––––––––––!?」
「そのコンプレックスが、リリィにとってどのくらい辛いのかは分からない。けど、俯いてたらダメだよ。前を向かなきゃ、悩みすら解決できないよ?克服、したいんでしょ?俺も手伝うから」
「………う、ん」
リリィは確かに「うん」と言った。
「リリィ、明日用事ある?」
リリィは首を横に振った。よし。
俺は今から、とても危険な賭けに出る。最終的に、リリィを傷つけてしまう結果になるかもしれない。しかし、いつまでもリリィに悩みを抱えてて欲しくない。
俺は覚悟を決め、生まれて初めて言う言葉を口にした。
「明日、俺とデートしよ!」
リリィは顔を上げ俺の顔を見ると、驚いた顔をした。
その顔は、俺の予想以上に可愛かった。
ご観覧ありがとうございました。
次回は、薫の初デートということで、薫には頑張ってエスコートしてもらいたいと思います。正直、薫がきちんとデートできる心配です。
コメントの方待ってます。ぜひ、アドバイスなどあれば、お書きください。
それでは、また………