前回は、かなり遅れたので、挽回しようと頑張りました。
それでは、第六話『赤髪の男』をどうぞ
VI.赤髪の男
西暦二三六四年六月五日《木曜日》
「薫くーん‼︎学校行きましょうよー‼︎」
「ハーーイ‼︎」
俺は、自分の“制服”を着て荷物を持ち、雫の元へ走って行った。
それから、エレベーターに乗り地上に上がって学校に出発する。
このやり取りは、既に日常となっていた。
「薫くん、もう少し早く準備してくださいよ」
「ごめん。雫……」
雫の事を雫と呼ぶようになって、もうすぐ四週間。つまり、一ヶ月が経つ。しかし、俺の顔は未だボコボコにされてない。龍ヶ崎さんのおかげだ。
噂では、龍刃師一人一人脅したとか何とか。
まぁ、何がともあれ殴られずに済んで良かった。
「さぁ、それじゃ今日も基礎体力トレーニングを始めますよ」
「りょーかい」
学校には通うものの、俺たちが龍刃師である事は変わらない。そもそも、《龍刃師通学制度》の結果を残すためにテスト龍刃師になったのだから、トレーニングは欠かさない。というわけで、毎日こうして走って学校に行くのだ。
ただ走るだけでは、体力しか上昇しない。そこで、同時に回避力を高めるために、地面に足を付いてはいけないというルールが付け足されている。
もちろん大変な訓練だが、慣れとはすごいもので、どうやら俺には“回避の才能”があるらしい。
そんな事を考えながら、現在家の屋根の上を次々飛び越えている。
「薫くん、何で回避だけはそんなに上手なんですかね?」
「分からないよ。できれば、他の才能が良かった」
「いえいえ、回避だって重要です。というか、回避が一番重要です。いくら攻撃が上手でも、回避ができなければ意味がありませんからね」
「なるほど………。つまり、俺には戦いの才能が……」
「ないです。かなり低いと思われます……」
グサリ。
音が聞こえそうなくらい心に矢印が突き刺さった。
「そんなにきっぱり言わないでよ……」
「あっ、ごめんなさい薫くん……」
「いや、別に良いけど……」
あれこれ話している間に、いつの間にか学校へたどり着いていた。
俺たちが空から降ってきてもクラスメイトは驚かない。もう既に慣れてしまっているようだ。
いつものように席に着き、朝礼を待っている。
「薫くん、薫くん」
隣から話しかけてきたのは、雫である。運良く隣の席になれたのだ。
「ん、どうしたの?」
「ごめん。今、《ヴァンドラ》に呼び出されたから、今日は休みます。先生によろしく」
「あ、うん、分かったよ。頑張ってね」
「ありがと。それじゃ」
雫はそう言うと、窓から外に出て、猛スピードで走って行った。
〜☆〜★〜☆〜
父………さん……?
それに、俺がいる。
これは………『夢』?
夢の中にいるであろう俺は、小さな頃の自分を見ていた。あたり一面焼け野原。眼前には崩れ落ちた、“元”自分の家があった。
この夢は………………“俺のトラウマ”だ。
幼い俺は、えんえん泣きながら
「おとーさん‼︎おかーさん‼︎怖いよーー‼︎‼︎」
そう叫んでいた。
幼い俺は背後から、大きめの龍人“黒鬼型”が迫ってくるのに気付かないまま叫び続けている。俺は思わず、幼い俺と龍人の間に割り込んだ。しかし、龍人は“俺が見えていないかの様に”斧を振り下ろした。案の定、斧は俺の身体をすり抜け、そのまま振り下ろされ続けた。
ドズッッ‼︎‼︎
–––鈍い音が響いた。
俺は呼吸が荒れながらも、ぎこちなく振り向いた。
「父さん………‼︎」
手を伸ばしたが、すり抜ける。触れられるはずが無い。何せこれは…………………『夢』なのだから。
「父さん‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
眼が覚めた。周りを見渡した。誰もいなかった。
「………………寝過ごしちゃったか……」
今日は“珍しく”一人で帰る。そう思うと、なぜか胸が苦しくなる。
「………………帰るか……」
誰もいない教室で誰かに問い掛ける様に、俺はそう言った。
〜☆〜★〜☆〜
昇降口を出た。久しぶりの一人下校にテンションが下がりつつ、俺はため息をついて校門を出た。左に曲がり、《ヴァンドラ》へと向か………。
「キャーーーーーーーー………」
俺は微かに聞こえたその悲鳴に反応した。鍛えたお陰か、全身の五感で感じるこの悪寒が、龍人が現れたことを物語っていた。
俺が……守るんだ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎
俺は、悲鳴が聞こえた方へ走り出した。
曲がり角–––俺の感覚が言う。右に曲がれと……。
行き止まり–––俺の身体が言う。飛べと……。
続く道–––俺が言う。走れと……。
俺は、俺自身の全ての神経を研ぎ澄まし。今の最高速度で走り続ける。
眼前に––––––不良に囲まれた、金色の長髪のメガネの女の子がいた。
俺は、身体に急ブレーキを掛けた。そして、不良と女の子の間に割り込んだ。
「お前ら、女の子一人に三人がかりで襲うなんて。大人気ないと思わないのか‼︎」
「てぇんめーー、誰だ‼︎」
「俺は、《ヴァンドラ》の龍刃班《ナイト・ロザリオ》の訓練生、暁月 薫だ‼︎」
「龍刃師が、何でここに?」
「お前ら、もし死にたくなかったらここから離れろ‼︎」
「ごめんなさーーーーい‼︎」
不良三人は、驚きを隠せないまま逃げていった。
言い方は悪かったけど、これで良かったんだ。–––俺には“彼らを助ける義務があったから”。
「お願いがあるんだ」
俺は女の子に話かけた。
「少しの間だけ、あそこのビルに隠れててくれないかな?」
「………うん」
女の子は小さく頷き、ビルの影に隠れた。
準備は揃った。さっき俺が感じた悪寒。それは、不良三人ではなく、やはり龍人“黒鬼型”だった。
「グルルゥゥァァァア‼︎‼︎‼︎」
地響きにも似たその声を、龍人“黒鬼型”が出した。
「ぅぅぅぉおおおおお‼︎‼︎」
負けじと俺は、叫んだ。
「行くぞ‼︎黒鬼ーーーー‼︎‼︎‼︎」
俺は、訓練生用RDGをかばんから取り出し、龍人“黒鬼型”と距離を詰めた。近付きながら、ふと違和感を感じた。なぜか、龍人“黒鬼型”が一回りも二回りも大きく見えたのだ。
何かがおかしい。
そう感じた俺は、速度を変えないまま距離を詰め続け、本来龍人“黒鬼型”ではリーチが短く届かないギリギリの距離で、宙を舞った。
「–––––––––––––––––––‼︎‼︎‼︎?」
俺は、正直驚いた。届かないはずの距離に余裕で攻撃を放っていたからだ。
どういう事だ?雫や龍ヶ崎さんの話では、龍人“黒鬼型”を中心に半径五mlが奴の攻撃最大範囲のはずなのに。
「どうして………」
「教えてやろーか?」
男の声だ。キーは高く、美声だ。その声は、上の方から聞こえる。
俺は、慌てて真上を向いた。そこには白いコートを揺らしながら“宙に立つ”赤髪の男がいた。
紅色の髪を長く垂らして、黄色混じりの髪を揺らすその顔は、整った輪郭をしてどこか子供っぽい面影を残している。眼は細く、瞳は光のない黒めの隻眼。左耳に付けた金と黒のピアスが奇妙な輝きを放っている。
その男は、ゆっくりと口を開いた。
「そいつは、“龍人じゃねぇよ”。だから、テメェら人間の情報とはちげぇんだよ……」
「龍人じゃない………?」
「そっ。そいつは龍人じゃなく“鬼人だ”。正確には、鬼人“大黒型”–––‼︎」
「鬼人“だいこく型”………」
「こいつは、龍人“黒鬼型”の三倍の大きさ、さらに十倍のスピードを持つ。だから、さっきはびっくりしたよ。鬼人の弱い方だと言え、大黒型の攻撃を初発で避けちゃうんだもん……。君、何者なのかな?」
「それは、こっちのセリフだ‼︎お前、何なんだ‼︎」
そう言った瞬間だった。俺の身体が吹っ飛んだ。
“殴られた感覚”を感じた時には、既に俺の身体は、地面に食い込んでいた。
痛かった。しかし、さすが龍刃師の制服と言ったとこだろう。身体への衝撃が半分ほど軽減されている事が俺にも分かる。
しかし、それでも奴の一殴りは強烈なものに感じた。こいつは一体。
「『それは、こっちのセリフだ‼︎』?テェメ誰に口聞いてんだ?俺は《死王直属龍人部隊》、《鬼人使い》のバロン様だぞ‼︎‼︎舐めた口聞くと、殺すぞ?」
「挨拶をどーも……。俺は、龍刃班《ナイト・ロザリオ》の訓練生……暁月 薫だ‼︎‼︎」
「……暁月…………。そうか、暁月か。だったら今殺すのは惜しい……半殺しにしよう……。大黒型、殺れ」
バロンと名乗ったその男は、そう言うと「じゃあな」と言い。消えていった。
「おい待てっ」
グボッッ
鈍い音がした。夢で聞いた音と似ている。そうかそう言う事か………。
俺は鬼人“大黒型”のグーパンチを食らいひざまづきながら、思い出していた。夢の続きを。幼い頃の記憶を–––。
「おとーさん‼︎おとーさん‼︎」
あの時の俺は、泣きに泣きまくっていた。眼前で実の父が血を流して倒れていたのだから、当然の事である。
父さんは言う。
「か……おる………。かあ……さ…んを………たの、んだ………ぞ……‼︎‼︎」
その直後、父さんの同僚の龍刃師が–––今思えば、龍ヶ崎さんだったのだろう–––俺を抱えて、その場から離れていった。
「おとさーーーん‼︎‼︎‼︎」
俺は、叫んだ。あの時、あの時確かに見たはず、白いコートを着た赤髪の男を–––。
そこまで思い出し、俺は確信した。父さんを殺したのは–––
「お前かーーーーーーー‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
俺は怒りに狂い、ほとんど気力のなかった身体を無理やり動かした。
「ぅぅぅぉおおおおお‼︎‼︎」
俺は雄叫びをあげながら、一気に鬼人“大黒型”との距離を詰めた。そして、上段、中段、下段、背後に回って、下段、中段、上段、さらに上へ飛び、鬼人“大黒型”の頭上に技名のない本気のの七連撃を撃ち放った。
「グルルゥゥァァァア‼︎‼︎‼︎」
鬼人“大黒型”のその叫び声は、苦しみの声–––ではなく、興奮の声だった。
全く、効いていなかった。余りにも硬すぎた。
訓練生用のRDGでは火力が足りず、全く歯が立たなかった。
鬼人“大黒型”は雄叫びを止めた後、眼にも留まらぬスピードで斧を横に振ってきた。
「うわぁ‼︎‼︎」
ギリギリで、ガードしたものの力が強く俺は吹き飛ばされた。
「………雫……きて、くれ………」
薄れていく意識の中、俺は祈り続けた。
第六話、ご観覧くださりありがとうございます
いやー、鬼人強いですね。
薫の願いが届くのを、僕も祈っています。
それでは………。