忍の世に降り立つ博麗の巫女   作:しゅれー

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遂に原作開始と


少年篇
第一六話 ―邂逅―


 綺麗な人だと、思ってしまった。

 

 同い年くらいの子のはずだった。アカデミーでも同じ学年だったし、うちはの生き残りを負かしたと言うことでその名を轟かせていたからその存在はよく知っていた。しかし、そんな間近でその姿を見たことはなかった。気怠そうに授業を受けている様子をただ遠目で見ただけだった。それなのに、その姿を見て、自分は惹かれていた。何故だろう、ただその姿が神秘的だと感じたからだけではない気がした。自分でも分からない。

 

 アカデミーを卒業数日前、親が任務に出掛けた。いつものように笑って、すぐに帰るからと言い、戸口を開けて出て行った。しかし、その戸口は二度と親に開かれることはなかった。

 任務中に強襲されそのまま二人とも命を落としたのだと、卒業した翌日に任務で同行していた忍から聞かされた。日常はいとも容易く崩れ去った。あまりに脆く、一瞬で。

 

 何も考えられなかった。そして気付けば、走っていた。現実から振り切るために、認めないために。そんなことがあるはずがないと、そう信じたいがために。無我夢中で、方向も定めず適当に走り続けた。

 前を見ず、何回も人とぶつかった。ぶつかりざまに怒鳴られたりもしたが、そんなことはどうだってよかった。 ただ、現実から背きたかった。

 

 気付けば里から外れていた。森の中を走りぬけ、気付いたとき、自分は長く続く石段の前にいた。

 何かに、導かれた気がした。そのまま何者かに手を引かれるようにしてその石段を登って行った。長く辛い階段だったが、気付けば上りきっていた。

 そこにあったのは少し大きめの、立派な神社。朱の鳥居を抜けたその先にあるそれは、少し勢いの衰えた桜の海の中にあり、なぜ今まで知らなかったのかと疑問に思えるほど悠然と聳え立っていた。里にいただけでは味わうことのできない、神秘的な空間だった。

 そしてその社の前の境内にはたった一人、少女が箒を持ちさっさっと、散りゆく桜の花びらを掃いていた。自分と同じほどのように見えるが、巫女なのだろうか、それらしき服装を纏っている。しかし巫女にしては少し奇抜な服装だ。腋は露出し、袖だけが分離して付け袖の状態になっているのが特に特徴的だった。それの姿を自分は見知っているはずだったのだが、気が動転していたのかどうなのか、なぜか気付かなかったらしい。

 

 その時、風が、舞った。

 

 

 

 綺麗な人だと、思ってしまった。

 

 

 

 それと同時に地に横たわっていた花びらが一斉に騒ぎ立つ。まるでその出番を待っていたかのように、一斉に蠢きだす。風により薄桃色のカーテンのようになったそれは、その少女のまわりをベールのように包み込むようにして舞い、躍った。

 

 そんな桜吹雪に囲われた彼女の姿が、余りに神聖で、神々しくて、輝いていて――目を奪われてしまった。

 自分と同じほどの少女なことにあるのに違いないのに、そこから感じ取られる雰囲気はいわば大人な雰囲気。同時に何か儚さ、無常さを感じさせる。はっきり言って、美しかった。

 

 しかし、そのベールから垣間見えた彼女の表情の方が自分には更にショックだったのかもしれない。

 そこにあったのは、「悲しみ」のもの。ほんの少しだけだが、しかし明らかに悲愴で顔を歪ませている彼女の姿を、なぜか忘れることはできなかった。可憐な少女のそれを、どうしても――。

 

 そしてまた静の空間に戻った同時に、やっと彼女が自分の存在に気付いたらしい。少し俯き気味だった顔を自分の方に合わせると、先ほどの表情から一転、接客用の笑顔で自分に対して接してくれた、いらっしゃいと。

 その時やっと気付いた、彼女が「博麗霊夢」であることを。1位を軽々破り、真の1位として君臨していた、彼女であることを。

 そんな彼女の前で醜態は曝け出したくなかった。なんとか気丈に振る舞い、彼女と適当な世間話をして、ついでに軽く賽銭を入れて祈りを捧げてから帰路についた。

 

 強い少女だと思っていたし、実際そうだと思う。忍術を一切できぬ巫女がうちはサスケを完膚なきまで叩き潰したのは未だに伝説級の話だ。多分、実際はもっと、恐ろしいほどの力を秘めていると思う。

 だからこそ、気になってしょうがないんだと思った、その「悲しみ」の理由を。無関係な、自分には到底届かぬところにいる人であるとは分かっていたけれども。

 

 

 どうも、そこから先調子を崩されている。どうもうまくいかない。自分が自分に違和感を覚えている。なんだこれは、歯車の間に異物が挟まって、うまく噛み合わないような。親が共に消え去ったことによる気持ちの不安定さかと思ったが、しばらくして落ち着いてもこの調子だ。どうも理由としてはしっくりこない。

 

 なんなんだろうか、これは。

 

 しばらくは、この不調が治りそうにはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 神奈の葬儀は、霊夢自身が喪主となり、しめやかに執り行われた。ただ親族と言っても霊夢しかいなかったので、その他彼女と親しかった人間のみを招くこととした。

 霊夢にとって初めての葬祭ということでノウハウが分からず苦戦したが、我が師の為、珍しく本気で取り組みなんとか成功を収めた。

 現在、神社の裏に隠れて続いている小道を抜けた先にある、少し開けた場所に2つの墓石が並んで立っている。一つは母、そしてもう一つは師のもの。師弟仲良く、以前の姿をそこに表したかのように。

 神道では死は穢れとされる。そのため墓を神社の敷地内に置くわけにいかず、少し離れた所に設置することとなったのだ。少し神社から距離があるうえ道も整備されているとはお世辞にも言えない状態なため、毎日とまでは行かないが、3、4日に一回はその二人の墓の前まで出向き、祈りを捧げている。

 

 さて、葬儀後は遺品整理を進めながら本格的に霊夢一人で神社を切り盛りすることとなった。元々神奈が体調を崩してからはほとんど自分一人で全てやりきっていたのでそれ自体はさほど負荷にはならなかったが、しかし寂しさが強く残る。昨日までそこにいた人が、今日はいない。混ざり気のない、至極単純なことだが、それがあまりに辛い事に変わりはない。

一緒にいた人が、そこにいるのが当たり前だった人が、毎朝一緒にご飯を食べて、いってらっしゃいと声を掛けて、そしてお帰りなさいと言ってくれる人が、もういない。あの日常が二度と帰ってこないと思うと、やはり心が痛む。いくらある程度気持ちの収拾がついたとはいえ、だ。

 それにつられどうしても気分も落ち込んでしまう。いつものように境内を掃除しているときも、魔理沙と雑談しているときも、どうにも気分が上がらない。いつまでもこうウジウジしているのはよろしくないというのは分かっているし、自分らしくないというのも自覚してはいるのだが、とは言えどもなかなか復帰するのにも時間がかかる。

 

 桜はまだ、勢いは衰えているものの咲き続けている。霊夢には何かそれが皮肉のように思えた。

 初めてだった。自慢の桜に対しこんな感情を覚えた自分自身に対し驚かされる。どうもまだ狂わされ続けているらしい。いつまでこう狂わせられるのだろうかと、軽く溜息を吐く。まったく、本当に自分らしくない。

 

 

 

 特に出来事と言う出来事もなかった。一人になっても来るのは基本魔理沙だけだ。その日常は変わる気配を一切見せない。魔理沙がいてくれるだけいいと思うべきなのか、悪く思うべきなのか――答えは出ないが、出す必要ないことだとも思った。

 少し変わった事と言えば、ある日自分と同じ学年の男子がこの神社に来たくらいだろうか――とはいえども、珍しいなとは思ったが所詮その程度だった。特に自分と交友があるというわけでなく、話したことすらない。賽銭を入れてくれたのは好印象ではあったが、それ以上の物ではなかった。日常の中の誤差の範囲だ、悲しいものだが。

 

 

 

 卒業して一週間後、卒業生は再びアカデミーに集まることとなっていた。下忍への説明会のようなものらしく、霊夢も同様にアカデミーへ向かうこととなっていた。

 一人で作り、一人で食べる朝食。そろそろ慣れてはきたし、この世界に来る前まではこれが普通だったのだが、やはり「足りない」。

 

「行ってきます」

 

 食事を終え軽く食器洗いも済ませて、アカデミーへ向かう際癖でそう言ってしまい、余計に悲しみを憶える。もう、その言葉を返す人はいない。日常の些細な行動で、ついこの間までの「日常」が思い出されてしまい、そうなるたびに締め付けられる心地がする。

 そのまるで「呪縛」とすら言えるようなものから振り切るようにして、霊夢は博麗神社から飛び去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 木の葉の里に聳え立つ巨大な崖と、そこに刻まれる歴代火影たちの像。そしてその麓近くにあるのは、里の立野の中でも特に目立つ、赤いドーム状の建物。いわば里の「役所」と言える場所であり、治安維持や戸籍の管理、政策の決定などは勿論、忍の任務の受理・配当なども一括して行う、正に里の中枢と言える場所である。

 そしてその役所の一角には、火影執務室が設置されている。

 里の全景を見渡せる最高の立地に設置されたそれは、里を治める長、火影の仕事場所であり、そこに鎮座されている巨大な回転イスは、多くの木の葉の忍がその着席を夢見る、最も近く、そして最も遠い場所。

 

 さて、そんな執務室に設置されている、皆が夢見る座席に腰掛けているのは、一人の老人。顔には至る所に皺が出来ており、明らかに年を感じさせるが、しかしその纏う雰囲気はそれとは真逆。幾度となく忍の修羅場を潜り抜けた歴戦の戦士。忍術の教授(プロフェッサー)として他国から恐れられた伝説の忍――三代目火影、猿飛ヒルゼンの姿がそこにはあった。

 手にパイプを持ちながら、黙って視線を向けている、その先にあるのは数枚の用紙。その内容は今年のアカデミー卒業生についての一人一人のデータ。アカデミーでの成績、性格、その他特徴などが詳しく書かれたそれに目を掛けながら、彼は溜息を吐いた。

 

「今年は、なかなかに濃い面々揃いじゃのう……」

 

 実際、その通りだった。奇跡なのか不幸なのか、木の葉を代表する名家の末裔が揃いに揃っているのだ。猪鹿蝶のトリオで名を馳せる山中・奈良・秋道一族を筆頭にして、人間離れした嗅覚が特徴の犬塚、蟲を巧みに操る油女。そして木の葉の中でも特に名門と称される日向一族宗家。そして極めつけはうちは一族の生き残り、うちはサスケとそして、九尾を封されし四代目火影の忘れ形見、うずまきナルト。そして――。

 

「博麗霊夢、か……」

 

 忘れ去られた一族、博麗一族唯一の血統保持者、14代巫女・博麗霊夢。九尾事件で四代目と同様殉死した博麗命の忘れ形見であり、そしていわば今回一番の「大番狂わせ」。うちはの生き残りで、類まれな才能を持つうちはサスケを簡単に破った、隠れたとんでもない才能の持ち主。うちはを破ったというその情報は瞬く間に里中の多くの忍に広まり、騒然とさせたものだ。そんな過去にも例を見ない女ルーキー。ヒルゼン自身も隠れて少し注目していた人材だ。

 このように、あまりに今年の面々はキャラが濃すぎる。何か大波乱を招く気がしてならず、頭を抱えていたのだ。

 

 そう頭を悩ましていると、続々と執務室に里の上忍たちが入ってきた。その数総勢10人。その光景だけを見ると、「どこか小国を潰しに行くのか」と思えてしまうような、そんな手練ればかりが集っている。

 彼らはヒルゼン自身の命により呼び寄せられた者たちであり、今年卒業する計30人から構成される3人班を担当することとなる忍たちである。

 彼らも彼らで、その中々に濃い面子に苦笑していた。担当し甲斐があるとも言える。

 

 ヒルゼンによる遠眼鏡の術にて、アカデミーの、卒業生たちが居る教室内の様子が水晶に映し出された。既に粗方メンバーは集まっているらしい。いつもと同じように皆各々好きなことをして暇を潰している。

 特に彼らが注目しているのは3人だった。男ナンバーワンルーキーうちはサスケとその中に九尾を宿す四代目の息子うずまきナルト、そしてそのサスケの更に上を行くルーキー、博麗霊夢。

 彼らのこの時間の過ごし方も三者三様と言った様子だった。サスケは一人で腕を組み待機。ナルトはそんなサスケに対し対抗心を燃やして突っ掛かる一方で、霊夢は魔理沙などと雑談。各々の思想がよく表れている状況だと言える。

 

「これがあの……博麗霊夢、ですか」

 

「そうじゃ、お前の担当する、な。カクルよ」

 

 上忍の一人がそう呟く。カクルと呼ばれた彼はその薄く水色に染まった、白めの髪をガシガシと掻きながらその水晶に映る霊夢の様子を見つめていた。

 

「見る限りではただの女の子ですけどねえ。まあ服装は少し変わってはいますが……本当にこの子が?」

 

 とてもそうとは思えないと言った様子でヒルゼンに問うカクル。その問いにヒルゼンは頷いた。

「そうじゃ、侮ってはいかん」

 

 

「ふーむ……」

 

 半信半疑でヒルゼンの方から再び彼女の映る水晶に目を向ける。特段変わった様子のない、顔の整った可愛らしい少女の姿がそこには映し出されていた。まあ、うちはサスケに対して興味がないだけ少し変わっていると言えるのだろうか、しかし一見したぐらいではその程度である。疑問は拭えない。

 楽しみなのか、なんなのやら、何とも言えない気持ちで彼は水晶を、他の皆と同様に眺めつづけていた。

 

 

 

 

 

 

 元担任のイルカの発言でクラス内はどよめきに包まれていた。

 

「君たちはアカデミーこそ卒業したがまだまだ新米の下忍。これからは、スリーマンセルを組み、担当上忍の方と合わせて4人一組で任務に就いてもらうことになる!」

 

 特に反応が大きかったのは女子だった。主にサスケと一緒の班になれるか、と言ったところだったが、霊夢は別のところを気にしていた。

 多分、こういうタイプの班決めは実力が均等になるように向こうに決められている。現にイルカの持っている用紙はただの説明にしてはやけに分厚い。あそこに各生徒の詳細と班割が載っていると見て間違いない。

 つまり、これから先見知らぬ人でも嫌いな人でも否応なしに組まされることとなるのだ。断ち切りたくても断ち切れない間柄になる。

 万が一魔理沙と組めず、他のよくわからない人間と組まされることになったら――子供染みた考えではあるが、あまりよろしくない。猪鹿蝶のメンバーと組めることもまずないだろう。多分彼らの親が裏でコネを回して一緒の班にさせるに違いない。それが戦力を考えるうえでも一番だからだ。

 霊夢と魔理沙はこの世界のイレギュラーだ。成績的にも平均なので、イレギュラー同士で班を組ませるのが最適だと考えるが、この世界がそのような「修正力」を以って動いているかはわからない。信用は出来ない。堂々巡りの思考である。

 今こんなところで考えを巡らせたところで結果が変わるわけでもない。結局は諦めて天に任せるしかないのだ。虚しいものである。

 

 そうこう考えているうちに既に班分けの結果が発表されている。その結果を喜ぶ者、あるいは落胆する者、何も思わない者。反応は様々だ。

 第七班にて主人公であるナルトの名が呼ばれた。続く2人はサクラとサスケ。まあ順当と言ったところだろう。もう削り滓程度にしか覚えていないが、確か原作でもこんな感じだった気がする。

 続く八班は犬塚、油女、日向のチーム。これまた何とも豪華な名家揃いのチームだと思う。成績を鑑みても裏で何かやっていそうな雰囲気だと感じた。

 そして第九班。ここでようやく霊夢の名が呼ばれた。ここで来るとは思わずビクッと肩を一瞬大きく震わせた。

 

「――第九班。博麗霊夢、霧雨魔理沙、そして月夜ヒカル!」

 

 霊夢の不安は杞憂で終わった。やはり、イレギュラーはイレギュラー同士で、それが一番楽だろう。とはいえども安心したのに変わりはない。安堵感に襲われ大きく深呼吸をする。

 

「ま、ということだ。よろしく頼むぜ、霊夢」

 

「今回ばかりは助かったわね……どことも分からぬ輩2人と組まされたら気が滅入っちゃうわ」

 

「はは、全くだな」

 

 そう安心したように会話する霊夢だったが、気になることもあった。「月夜ヒカル」とは誰なのか、覚えていないのだ。

 彼女は関心のあることについてはとことん食いつくが、無関心なことについては逆に全く食いつこうとしない。クラスメイトの名前であってもそうで、数年一緒にいるはずなのだが未だに顔と名前が一致しない人間が多くいる。困らなければそれで何の問題があるのか、というのが彼女のスタンスであり、適当ではあるが合理的とも言えるものであった。

 

 その一緒になった人間に対し一抹の不安を抱きながらも、霊夢は担当上忍が来るまで残された時間を、またいつものように雑談をしながら過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 

 




6000字程度で書いて行こうかなと思います
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