「サバイバル演習、ねえ」
翌朝、一人で台所にていつもと同じように朝食を作りながら、霊夢はこの後行われる「サバイバル演習」について、眠気で冴え切らぬ中ぼーっと考えていた。
昨日の時点で少なくとも、この試験がマトモなものでないのはすぐ分かった。合格率1/3、その言葉は嘘なのだろう。しかし、ではなぜそのようなことをするのか、その意図については全くいい答えが出ない。「何か」を試そうとしているのだろうが、その「何か」が分からなかった。
この試験であのカクルという上忍は一体何を見定める?そして彼の思う「それ」に見合わなければ自分たちはどうなる? 過去の下忍は皆本当に合格しただけで、不合格ならアカデミーに戻されるのか? 答えは出ない。答えを出すにはヒントが少なすぎる。少なくとも今のこの状態で結論を出すのは難しそうだ。
「まあ、いくら考えたって無駄か」
少し寝癖の残る頭を軽く掻き毟りながら、そう結論付けた。どうしようもない、考えてもキリがないのだから。それよりも、今日どういう装備で出向くかについて考えることが先決だった。
そうこう考えているうちに昨日帰りに買ってきた鮭がいい感じに焼き上がっていた。皿に盛り付けて白米と共に卓まで持っていく。既に味噌汁とお浸しは用意済みだ。
神奈が亡くなった後も食生活に変わりはなかった。少し外食は増えたとは思うが、基本スタイルに関しては変わらない。少し味付けは以前より濃くさせてもらっているが。
食生活に関してはもう慣れてしまった。いくら前世での生活が長かったとは言えども、6年間もこういう和風の生活をし続けていたら嫌でも慣れるものだ。
収入に関しても、何もしていないので収入はないはずなのだが、里が孤児救済や任務などで体が不自由になってしまった人の為の予算が別に組まれており、そこから生活費が毎月支給されるので食に困ることも全くない。この辺のアフターケアは万全なあたりこの里で暮らせるのは恵まれているものだな、としみじみ彼女は思う。
さて、いただきますと食前の挨拶を済ませてから朝食を食す間、彼女は今日は何を持っていくべきかということについて考えていた。と、言っても大幣はまず確定なので考えるべきは一つだけなのだが。
「あの陰陽玉、どうしよっかなあ……」
どうするか決め兼ねていたのはあの紅白陰陽玉についてだった。何せ便利な道具なのだが、図体が大きいのとそもそも彼女自身ほとんど扱ったことがないのがネックだった。
大きさが大きさなので隠れていても見つかりやすくなる。確かにその欠点を無視できてしまえるほどのいい性能を持っているということは、命の言葉を聞いた後改めて試験してみたときに分かったのだが、あの上忍を倒せる力になるかというと微妙なところ。見た目はゆるい感じの男性と言ったところだが腐っても上忍、それなりの力量は持っているはずだ。
まあしかし、陰陽玉の攻撃に霊夢自身の他の攻撃を織り交ぜれば相手にとってこれほど厄介のな物もないのも事実。陰陽玉のショット攻撃は一撃一撃は軽いもののそれがほぼ無限にずっと続くからタチが悪いのだ。自分しか扱えないからいいが、もしこれを相手取るのは死んでも勘弁だと思う。
あまりこういう「兵器」を見せびらかすのは好かないが、同じ班になる面子にくらいなら問題もないだろう。そこまで秘密主義を貫くつもりは毛頭ない。
食事を終えて食器を軽く洗った後とぼとぼとまだ眠気のとれきれぬ目を擦りながらいつもの寝室へ向かう。相変わらずこの社は一人に住むには少し広すぎて物悲しいなと思いつつ襖を空けると、そこの壁際にあるのは赤い2つの球体。
その前で膝を折って座り、ぽんとその球体――陰陽玉に手をかけ霊力を流し込む。するとそれは自ずとほのかに赤く輝きだし、そして手を放すとそのままぷかぷかと浮上し霊夢のまわりで、惑星を回る衛星のように浮かび始めた。
「……よし、特に問題なしと」
軽く陰陽玉の挙動を確認して問題ないことを確認する。軽く木に向かって札を放たせ、何もないことを確認すると、卓上に置いていた大幣を手に取りそのまま博麗神社を飛び去った。
演習場に到着した時には既に2人――魔理沙とヒカルが先に到着していたようだった。2人の姿を視認するとスッと優雅に音も立てず着地する。
魔理沙は特にいつもと変わりはない。ミニ八卦炉はいつもポケットに忍ばせているから特に準備という準備も要らないのだろう。
一方ヒカルの方は昨日と違い腰に2本帯刀させていた。霊夢の目が奇怪なものを見る目に変わる。この歳で二刀流をなのかと素直に疑問に思った。
しかし、2人にとってはそれ以上に霊夢――正確に言えば、霊夢のまわりで当たり前のように浮いている赤い陰陽玉の方が不思議で仕方なかった。魔理沙にとっとてはあの時――霊夢に泣いて抱きつかれた時にそういえば見た覚えがあったが、何かの道具だろうというのは安易に想像はついたものの用途とまでは分かり得なかった。
「なあ霊夢、お前のそれ……」
「ん、ああこれのこと? 陰陽玉よ」
「いや、陰陽玉ってことは分かるんだが……少なくとも普通の陰陽玉ではなさそうだな」
「まあそうね、ちょっと有能な陰陽玉よ」
「……あまり詳細を言う気はない、か」
「言うより見た方が早いもの。百閒は一見に如かず、よ」
そう少し皮肉るように言うと2人の方から身体を回転し、森の方へ向けた。目標は適当な木。
霊夢が念じると、霊力を通しリンクしている陰陽玉もすぐにそれに応じる。その次の瞬間、それはバババッと高速で札を連射し始めた。それを見た2人の顔が少し驚きの表情で染まる。
「なるほど、そりゃ便利なわけだ」
「ちょっと大きいからあんまり『忍』の戦闘には向かないんだけどね。今日は『一応』よ」
そう言い軽く苦笑する。しかし、それでも自立式の戦闘道具というのはこの世界でも類を見ない大変貴重なものだ。感心したようにその陰陽玉を2人は見つめる。
しかし、霊夢の興味はそれとは別にあった。ヒカルの背負っている2つの刀。それが妙に気になって仕方がなかったのだ。霊力の浪費も程々にして、ヒカルへ話し掛ける。
「それはそうと……ヒカルとか言ったっけ?あんた、もしかして二刀流なの?」
「えっ? まあまだ未熟なんだけどな……。基本はこっちのを使ってるんだが――」
そう言い帯刀させていた2つの刀のうち、背負っていた長い方を引き抜き、よく見えるようにして霊夢の前にかざした。
それをじっくりと、舐めるようにして観察する霊夢だったが、刀の取っ手――柄の部分に金で彫られていた刀の名を見て顔が驚愕のものに染まる。
(『楼観剣』……!? なんでこんな代物がこの世界に……!)
そこに刻まれていたのは「楼観剣」の三文字だった。その言葉で彼女の中で想起される人物はただ一人。
「ちょっと、もう一つの刀の方も見せてくれる!?」
「ど、どうしたんだよいきなり……」
「いいから!」
突然剣幕で見せるようにせがまれ困惑しながら、もう一方の短めの刀を抜き霊夢へ手渡した。それを霊夢は奪うように荒々しく受け取ると、一直線に柄の方に目をやる。
そこに彫られていたのは、霊夢の予想していたのと同じ言葉。
(『白楼剣』、やっぱり正しかったか……)
彼女が連想した人物の名は「魂魄妖夢」。それは東方Projectのキャラの一人。
冥界に存在する屋敷、「白玉楼」住み込みの剣術指南役兼庭師の半人半霊。そしてその彼女が使う2つの刀こそ、「楼観剣」と「白楼剣」だった。
片方だけならまだしも、両方あるとなるとこれは偶然ではない間違いなく「本物」。どこからどうやってこんなものが出来たかは知らないが、自分、魔理沙という東方キャラ――「イレギュラー」が存在している以上、これくらいはあってもおかしくないのかもしれない。答えは出ないだろうが――一応聞いてみるべきだろう。
「ね、ねえ。この刀、何処から手に入れたの?」
「うちの家に代々受け継がれた物らしいんだが……詳しくは知らない。『迷いが断ち切れる刀』っていう言い伝えがあるんだがそれもよく分からないんだよな……っていうか本当になんでお前そんなに焦ってるんだよ」
「えっ!? いや、ちょっとね……」
「……」
明らかにはぐらかすような答えだったが、まあ特に気にすることでもないだろうと思いそれ以上追求せず黙るヒカル。霊夢も何も言ってこないと分かるとそれ以降黙りきってしまった。
取り残されるのは全く展開について行けずあわふたしている魔理沙だけ。謎の疎外感を覚え、霊夢に何か話し掛けようとするも珍しく考え込んでいる様子なためそれもできない。
どうしようかと考えあぐねているとちょうどいいタイミングで担当上忍のカクルがやってきた。ふぅ、と胸を撫で下ろす。それと同時に、霊夢は考えるのをやめてカクルの方へ向き、ヒカルも出していた2つの刀を鞘に収め前へ向いた。
「よーし、集まってるな」
そう3人を見渡しながら言いつつ、どこからともなく出したのは1つの空缶。
「空缶?」
疑問に思った霊夢が最初に口を切った。
「そう、空缶だ」
そう言うと地面にそれを少し乱雑にぽんと置いた。地面と当たり、カツンと甲高い音が演習場に響き渡る。
「ただこれには少し特殊な術をかけててな、耐久度を強めてあるんだ。演習のためにな」
「空缶が演習に……? なにやる気よ」
「『缶蹴り』だよ、缶蹴り。簡単だろ?」
「……はあ?」
意表を突かれた試験内容に、3人の腑抜けた困惑の言葉が場内に響き渡った。
「ルールは簡単、忍術も体術も何でもアリの缶蹴りだ。俺が守備で、お前らが攻めだな。缶は物理的に蹴っても術を使って倒してくれても何でもいいが、『倒れた』という認定は缶の側面が地面に着いた時とする」
「つまり、缶が空中にあるときに復帰させることが出来たらそれは認定なしってことね」
「そういうことだ。缶の置き場所については固定しない。万が一蹴り飛ばされたときが面倒だからな。で、『発見』の基準だが――どうせお前らが隠れた所でどこにいるかくらい分かるからな。何らかの方法で動きを束縛できたら『発見』とする。その状態で缶を踏めば捕獲と。んで缶を蹴って倒せた奴だけが合格、その他は不合格」
「やっぱり、そうなるんだな」
そう少し嘆息しながら言う魔理沙。昨日霊夢に言われた「この試験には裏がある」という言葉は信用できるとはいえ、やはりそう言われるとプレッシャーとなる。合格するしないというよりは、「霊夢と一緒の班になれないかもしれない」ということに対する不安だった。
しかし、そう落ち込んでもいられない。ポケットの中に在るミニ八卦炉をぎゅっと握り締める。しかし、とはいえ負けるわけにもいかないのだ。霊夢を見返せるチャンスとなるかもしれない。
「とりあえず、全力で来い。制限時間は45分。質問は、ないな?」
そのカクルの確認に全員が頷く。場は整った。
まず最初に誰が缶を蹴るかという話になったが、魔理沙がやりたいと言い出しそれに対し2人は何の異論を出すこともなかったので、そのまま魔理沙が最初に蹴ることとなった。
足に力を込める。とりあえず、全力で蹴り飛ばす。細かいことを考えるのは今はなしだ。少し腹が立ったあの上忍の煽りからの鬱憤を晴らすためにも。
「吹っ飛べ!」
渾身の力を込めた右脚が空缶とぶつかる。その瞬間、ガキンと金属特有の乾いた衝突音が場内に響き渡ると同時に、それは綺麗な放物線を描きながら宙へと放たれた。
「おー、飛ぶわねえ」
それを他人事かのように見つめながら感想を漏らす霊夢。そんな霊夢に対し魔理沙は向き返ると軽く誇らしげな笑みを浮かべながらビシッと親指を立てた。
その缶が見事に森の中へ落下していったのを確認すると、カクルは霊夢たちの方へ振り返り、改めて宣言した。
「第二下忍試験、開始だ!」
「さて、最初は誰が来る?」
茂みから缶を見つけ出し所定の位置に戻した後、そう軽く挑発するように缶の前で余裕をかましているカクルの姿を見ながら、茂みの中で霊夢はまたもや考えを巡らせていた。
霊夢は先程の説明で既に勘付き始めていた。この試験の「意図」に。それは前世で養われた考察力と今の自身にある「勘」とが導き出したものだった。
この試験は、いわば「負けゲー」だ。霊夢自身はあまりに力が特別すぎるから別として、普通の下忍だとまずいくら不意打ちなどをしたところで上忍相手に勝つことはできない。負けるとそれは最早上忍ではない。いくら今回は「缶蹴り」とはいえ、1人だと相手との応対で手一杯でまず缶を倒すのは不可能だろう。
しかし、彼は「缶を倒した者合格」という設定としている。明らかに不条理な条件設定だ。こんなもの、勝ち目があるはずがない。
ここに明らかな矛盾が存在している。これはただただあの上忍の試験設定ミスなのかといわれるとそれはあまりに考えにくい。これは狙ってやっている。
霊夢自身が単体で攻め込んだら勝てなくはないだろうが、まずそれは彼の欲している「答え」ではない。この矛盾した状況――もし一人で缶を倒すことができたとしても、下手をすると逆に不合格になる可能性すらある。
そうなると、この試験は一体何を試そうとしているのか――。ただ何もしないのが正しいのか? それは違うだろう。と、なると考え付く結論は一つとなる。
(全員で、かかってこいと……?)
それしかなかった。この試験に見出せる「勝機」といえば、これしかない。単体で戦うのは不正解。全員で戦って缶を蹴って見せろ、そう言っているのではないか。
よく考えれば、「缶を蹴って倒せた奴だけが合格」とは言っていたものの「1人」とは言っていなかった。少し無茶苦茶な理論展開だが、その「缶を蹴る」という言葉が指すものがただ「缶を蹴る」という行為ではなく「缶を蹴るまでのプロセス全て」ということだったとしたら――筋が通らないことはない。
しかし、それにしても無茶苦茶だと思う。アカデミーを出たばかりの子供にここまでの事を要求するとは――自分ならまだしも他の2人が気付くには少し無理がある。特に魔理沙などは本当に馬鹿正直に1人で立ち向かっていきそうだ。もっとも、その時は自分も応援に出るだけなのだが。やはり魔理沙には甘いなと内心苦笑してしまうが、実際なんだかんだで互いに依存し合っているところはあるし仕方ないのかもしれないとも思う。
とりあえずこうしてはいられない、まずはどちらか一方と合流することが肝だろうと判断し、行動に移そうとした霊夢だったが、それはすぐに中止せざるを得ないこととなる。
「マスタースパーク!!」
動き出そうとしたその瞬間、直接脳に訴えかけるようなシグナル音とともに極太の虹色に輝く光線が霊夢の視界を遮る。霊夢の頬を冷や汗が一滴、滴り落ちる。
しかし、それをまんまと受けるほどの上忍、霧乃カクルでない。
魔理沙の位置は既に分かり切っていた。何か不審な動きを感じたときから既に彼は缶の防御態勢に入っていたのだ。
「ここまでの物を成りたてホヤホヤの下忍が使えるとは驚いたが――甘い」
その光線を間一髪で避けるカクル。対象の缶も彼の足にチャクラで密着しており、外れてしまった。しかもその「間一髪」は間一髪ではない。明らかに予想してのもの、余裕さが違う。
一方霊夢は焦っていた。この攻撃は明らかな失策、自分の正確な位置情報に相手に伝えるようなもの。しかも魔理沙自身この攻撃の反動で少しの間動けない。いくらこの1年でチャクラ効率も上がり、消費チャクラが少なくなったとはいえこれほどの一発となると消費が少し激しめのはず――動かれてはまずい。
行動に移すのは速かった。もう隠れる云々の話ではない。即座に陰陽玉と自身の手から札によるショットをカクルに放ちマスタースパークの追撃とするが、しかしそれも通用しない。まるですべて見えていたかのようにジャンプしてその攻撃を躱す。
だがその隙を霊夢は見逃さない。空中こそ彼女のテリトリーである。浮上しカクルのもとへ向かおうとする霊夢だったが、またもやそれは妨げられた。
ヒカルがその隙を見て背後から斬りにかかっていたのだ。茂みから勢いよく飛び出した彼の手には長刀、楼観刀が握り締められている。
「もらった!」
けれど、それすらもカクルには通用しない。くるっと身体を捻らせ回転すると、その斬撃をクナイを持った右手だけで防いで見せる。しかし、ヒカルの目的は相手を斬りつけることではなかった。
斬撃を防いでもその衝撃は防ぎ切れない。足にへばりついているなら、足ごと地面に叩きつければいいだけの話だ。そう考えたヒカルは、渾身の力でクナイに刀を「叩きつけた」。
「うお!」
それを受けたカクルはその衝撃で勢いよく落下していく。それと同時に魔理沙と霊夢が追撃へ動いた。しかし、魔理沙の方が速い。
「霊夢!悪いが缶はもらっていくぜ!」
そう叫び全力で走り寄っていく魔理沙だったが、途中で急に左脚に掴まれている感覚を覚えたと思うと、そのまま強い力で引っ張られ走りをやめざるを得なくなってしまった。
何事かと思い足元を見ると、そこにあったのは人の手。そしてなんなのかと考える間もなく魔理沙はそのままその手からの力に抗えぬまま地面に吸い込まれてしまった。
「魔理沙ァ!! くっ!」
次は自分かもしれない、勘に任せジャンプしてそのまま浮上する霊夢。下を覗くとそこには確かに先ほどと同様に人の手があった。ギリギリ防ぐことができたらしいが、状況は芳しくない。
ヒカルの方へ向くと、そこにあったのはただの丸太。
(変わり身の術! 本体は地面に隠れていたのか!)
その予想は正しかった。霊夢の真下から、モグラのようにカクルが地面から這い出てきたのだ。
なぜか土一つとして汚れを付けていない彼は、地中に埋まっている魔理沙の姿を軽く嘲笑うかのように一瞥した。
「ふむふむ、各々卒業したてにしては十分なスキルを持ち合わせているな……もっとも、及びはしないようだが」
そう分析しつつ缶を元の地面の位置に置き、缶を踏もうと右脚を上げるカクルだったが、それと同時に上空からの霊夢の右脚が降りかかりそれは中断せざるを得ないこととなる。
重力に加え下向きの力を一杯にかけて急降下し勢いを付けた、真上からの踵落し。だがそれも左手の甲にある手袋の金属部に当たり防がれる。
「缶は踏ませないわよ」
しかし霊夢の攻撃は終わらない。そのまま右手に持っていた大幣を彼の頭部目掛け水平に薙ぎ払うが、それも空を斬るだけに終わった。上半身を素早く反らすことで躱したのだ。
そしてそれと同時に、先ほどまで踵落としで動きを封じさせていた右脚を無理矢理払い除けられた。弾かれた霊夢は、しかし身を乱すことなく一歩引いたところで華麗に着地する。
「流石裏の一位だけはあるな。魔理沙の突然の奇襲に対し的確なバックアップを行い、状況を的確に判断して離脱。そして動きを封じさせるための近接攻撃にも中々に隙がない」
「お世辞は求めてない。私が――いや、私『たち』が求めてるのはそこにある空缶だけよ」
そう不敵に笑いながら、缶を見つめつつ言う霊夢。彼女の「私たち」という言葉にカクルは一瞬少し驚きの表情を見せるが、すぐそれは感心のものに変わった。
「ほう……気付いていたか」
「まあね、他の面子の教える前に魔理沙が攻撃しちゃったからこの有様なんだけど……」
そう言いつつ地面に埋まり、何とか抜け出そうともがく魔理沙の姿に目をやった。
しかしそれに気付いた魔理沙は、恥ずかしさで少し頬を赤らめながらそっぽを向いてしまった。それに対し軽く溜息を吐きながら、袖から一枚札を取り出し霊力を流し込みつつ、次は後ろへ向き返る。
「ヒカル、あんたもこっちに来なさい」
「……どういうことだよ」
霊夢はそう呼ぶものの、ヒカルはまだこの試験の真意について気付いていないようだった。その霊夢の呼びかけに少し怪訝そうに答える。
「言ったでしょ、この試験は普通じゃないって。その答えが『これ』なのよ」
そう軽く溜息を零す霊夢。ヒカルは未だによく理解が出来ておらず顔に少し疑問を浮かべているが、とりあえずと思い霊夢の方へ歩み寄った。
そしてそれと並行して、その間に霊夢の身体からは無数の札が生じ、そしてそれらは一点に集まり外枠を形成していた。そして気付けばそこにあったのはもう一人の「博麗霊夢」。
札分身。彼女が独自に編み出したオリジナルの術であり、分身の術の代わりとも言える技だが、どちらかという影分身に近い、実体のある分身を作り上げる術である。
さてそのもう一人の霊夢は作り出されるとすぐ魔理沙の方へ駆け寄り、魔理沙を地中から引っ張り出した。
「止めないの?」
「いや、止めやしないさ。もうこの試験は『合格』なんだからな」
「は?」
そのカクルの「合格」という思いも寄らぬ言葉に、復帰した魔理沙とヒカルは間抜けな返しをしてしまう。しかし霊夢はやはりそうか、と言った様子で動じない。
「この試験の本質は『チームワーク』だ。わざわざ班を組ませた、その理由が分かるかという試験だったんだよ」
そうあっさりと答えをバラされてしまった。そしてその言葉を聞いて徐々に2人の顔が納得の物に変わる。
霊夢のあの言葉と噛み合うのだ。なるほど、だからこんな矛盾染みた試験にしたのかと納得がいく。
「なによ、もうちょっと骨のあるものだと思ったんだけど」
しかしそんな2人は違い、そう不服そうに異議を唱えるのは霊夢その人。それに対しカクルは笑って答える。
「本当は言ってほしくなかったんだけどなあ、それも『チームワーク』っことかね。……まあしかし、だ」
カクルの逆接の言葉で3人が一斉に彼の方へ向き直す。何か来るのかと思い3人とも軽く迎撃態勢に入るが、彼の言葉はその予想とは反するものだった。その顔にある笑みは先程とは違う、「楽しもう」しているもの。理解のし得ない表情に少し困惑気味になる3人だったが、お構いなしに彼は続けた。
「さっきの一連の攻撃でお前たちの力量に興味が出てな……ここからは合格不合格も関係なしだ。この缶を3人で、『全力』で倒しに来い――『チームワーク』を、実践して見せろ!」
ヒカルくんが云々言われてますが、実は少し重要そうだというのは刀の件で分かったかなあと。
さて、なぜこの世界に妖夢が持っているはずの2刀があるんでしょうかね?
まあということであんまりヒカルくんをいじめてあげないでください(土下座)
追記
言うの忘れてましたが言わずもがな缶蹴りはニコ動の「東方缶蹴」を参考にさせてもらってます。特に出だしとか