忍の世に降り立つ博麗の巫女   作:しゅれー

2 / 26
とりあえず初回と言うことで2話目も。
ただし次回からはここまでの高頻度更新はまずないと思っておいてよろしいかと思います


第二話 ―「博麗霊夢」―

状況を確認するため立ち上がり、襖を開けた。開けた先にあったのは縁側。どうやらこれが廊下らしい。

また随分和風建築だなと思いつつ縁側をトボトボ歩いていると、同時に向かい側から誰かが近づいてくるのを彼女は察知した。

 50~60代くらいの女性であろうか。その老婆は普通の巫女服を着ており、そのいでたちにはどこか老人ならではの貫録と温もり、優しさが感じられた。巫女にしてはえらく歳を取っているなと思うが、彼女自身さほどそういうことは詳しくないので「そういうものなのか」と自分を納得させた。

 その老婆は彼女を見つけると、少し驚いた表情を見せてこう言った。

 

「今から起こしに行こうとしたのですが……、起きていたのですね、霊夢」

 

 老婆ならではの温もりのある口調で話しかける目の前の巫女。しかし彼女の「温もり」などを感じる余裕はその彼女の言葉により吹き飛んでいた。

 

 今、この人は最後何と呼んだ……?

 

 確かに「霊夢」と呼んだ。間違いなかった。間違いないが、信じられなかった。

 「霊夢」といえば当然、予知夢みたいなもの、という一般的な名詞としての意味があるがそれ以上に知れ渡っているのは「東方Project」の主人公としての名である。

幻想郷と外界との境界である博麗神社を切り盛りし、幻想郷の異変を解決する義務を持つ博麗の巫女、「博麗霊夢」。その名こそが彼女が昨日までいた世界での「霊夢」の常識であった。

 

 自分は博麗霊夢になったのか、と彼女、改め霊夢は一瞬また思考停止になりかけたがまだ決めるのは早計というものだと心を落ち着かせる。

まだ博麗霊夢と決まったわけではない。苗字が博麗という確証はまだどこもないのだ。

 

「どうしたのですか?そんな驚いた顔をして」

 

 心配そうに尋ねてくる目の前の老婆の声で霊夢は我を取り戻す。

 

「えっ?ああごめん、なんでもない」

 

 なんでもない、なんて大嘘だ。今のこの状況は簡単に言えば「『霊夢』としての記憶が喪失している」というのと同等である。前の世界の記憶があるなどということは今は全く関係ない。ある意味前世の記憶がなく完全に記憶喪失であるほうが楽なのかもしれないと思ったが、いくらなんでも記憶喪失のフリをするのはムリがありすぎる。そう考えた霊夢はひとまずこの場の流れに乗ることで状況を掴むことにした。

 

「そうですか、ならよいのですが」

 

 軽く笑みを浮かべる老婆。その温かな笑顔が、霊夢の困惑した気持ちを少し和らげてくれた。

 

「ご飯、できていますよ」

 

「……わかった」

 

 朝食ができていると言う。家の構造すらわからないし、ついていくしか選択肢はない。

 

 老婆についていき、食事場へと向かう。しかし歩いて行くうちにちょっとした疑問が霊夢の頭に浮かぶ。

 なぜ彼女が私を起こしに来たのか。普通、親が起こしに来るのではないのか。まさか老婆が自分の母親ということはあるまい。まさか……。

少し考えすぎかと思ったが、その期待はすぐに裏切られてしまった。

 

 ついていった先にあったのは居間だった。畳敷きの広めの部屋だったが、床の上に足の低い丸テーブルがぽつんと置かれているだけで少しもの悲しさを感じさせる。そしてそのテーブルの上に食事が置かれているのだが、2食分しかない。

 霊夢の嫌な予感は当たっていた。どうやらこの家に自分の親はいないらしい。また兄弟姉妹などもいない。この老婆と2人で暮らしているようだ。

多分一人っ子なのだろうが、親がいないのがよくわからない。

 しかし、今これを聞くのはナンセンスだと思い、この疑問を一旦胸の奥底にしまった。

 

 

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

 まずは食べ物と、作ってくれた人への感謝は忘れない。これは前世からの習慣だった。箸を手に取り、置かれた食事に手をつける。

 白米に焼き魚・和え物・煮物・味噌汁が添えられている。伝統的な日本の食事、一汁三菜。つい昨日まで下宿先で一人暮らししていた身には考えられない朝食だった。基本的に朝はパンを2枚くらい食べるだけ。急いでいる時は朝飯がないときすらある。

下宿する前でも朝はもっと質素な簡単なものだった。現代日本では当たり前の事である。今の時代伝統を守っているような人間は稀だ。

 そういった事情があるのでこのような食事を見ただけでも少々感動してしまった。この世界が現代よりも文化的に遅れているのか(言い方が悪いけれど)、それともこの老婆の面倒見がいいのか、それはまだ分からないが。

 

 黙々と箸を進めていく霊夢だったが、突然箸を止めた。料理がまずいとか言うわけでは決してない。むしろおいしい。薄味ではあるがほのかな甘みがあり、どこか懐かしく感じられるものだ。

 箸が止まった理由は別にある。視線を感じたのだ。

 前を向くと、また少し驚いた表情をする彼女の姿があった。

 

「……どうしたの?」

 

 少し怪訝そうに尋ねる霊夢。老婆はいや、と前置き、

 

「箸の扱いが急に上手くなったな、と」

 

 そう少しにこやかに笑いながら答える。

 そうだ、自分は幼女になったんだったと霊夢は思い出した。様々なことに頭が一杯ですぐ何かが抜けてしまう。どうやら昨日までの霊夢は箸扱いがまだ苦手だったようだ。まあこの歳なら仕方ない、何歳なのか知らないが。

 

「……昨日ちょっとコツを掴んでね」

 

 咄嗟の理由づけだったが不審には思われないだろうと霊夢は判断した。というかこれくらいしか言いようがないというのが本音だった。実際、なるほど、とだけ答えるとそれ以上詮索してくることはなく、まずは一安心だ。

 

 しかし、彼女は箸の扱いのかわりに困っていたこともあった。まあ言ってしまえばすべてが困惑の材料なのだが特に今困っている、というより面倒だなと感じているのが「口調」の問題である。

 少なくとも女になってしまった以上、言葉遣いには常にある程度意識する必要があるだろう。まあ男勝りな性格だとか言ってなんとかするという手も無きにしも非ずだが、もし自分が本当に霊夢なのだとしたら、それは勘弁したかった。自己満足であるが。

 他にも記憶がないことによる苦労がしばらく続きそうなのは目に見えている。内心溜息をつきながらも、しかしこの世界が前世より面白く生きられるものであればいいなという期待も同時に自分の中で膨らんでいることも分かっていた。

 そんな少し複雑な思いを胸に秘めながら、小さな少女は食事を終えたのであった。

 

 

 食事後は自由になった。色々聞きたいこともあるが、今尋ねても不審がられるだろう。こういうのは何か会話の流れに乗った時に持ち出す方がいいと思っていた霊夢は、一旦自分で調べられるところまでは調べてみようと思いひとまず外に出ることにした。

 

 縁側に自分の物と思わしき靴が並んであった。草履とワンストラップシューズ、実際博麗霊夢が履いていた靴である。

 徐々に確信を持ち始めるがいやまだだ、まだ弱い。

 心の奥底では博麗霊夢になれて何か嬉しい気持ちもあったりするが、それを心の中で全力で否定する。自分に嘘は憑きたくないやら何やら言った気がするが今回は話が別である。認めてしまってはいけないような気がしたのだ。

 

 裸足だったのでいったん草履を履いて縁側から外に出て、横から建屋を確認する。なかなか立派な和風建築の家である。昨日まではこんな家は神社などに行かないと見られなかった。もっとも、これが神社の社である可能性は既にかなり高まっているのだが。

 

 そのまま、前へ向いて歩きだす。目線が異様に低い。身長は110cmもあるだろうか。まあ1m強といったところだろう。つい昨日まで身長は170cm以上もあったのだから、実に60cm以上目線が下がったことになる。

 足元も少し覚束ない。まだ足の発育が中途半端なのか、どうしても少し足取りが不安定になる。

 慣れない身体環境の中、なんとか建屋の前まで少女は辿りついた。

 

「はあ……」

 

 着いたやいなや幼い少女に似つかわしくない、大きな溜息を吐く。この世界に来てまだ1時間程しか経っていないが、一体何回目の溜息なのだろうか。既に数えるのは諦めた。

 しかし、溜息を吐くのも無理はない。原因は言わずもがな少女の目の前で広がっている光景。小さくはないけれど、かといって大きいわけでもない社が建っており、真ん中には「賽銭」とでかでかと書かれた賽銭箱が置かれてある。

 そして観念したかのように後ろを向くと、朱色の鳥居に目が引かれる。上の板に堂々と書かれているのは「博麗神社」の4文字。中々思うようには世界はうまくいかないものだと、霊夢は軽く眉を曇らせた。

 

 

 彼女は、正真正銘「博麗霊夢」だったのだ。

 

 

 自分が「博麗霊夢」であることを認めざるを得なくなったと同時に、あることを思い出す。

 服装である。よく考えたらまだ寝間着のままだったのだ。

 危なかった。もし参拝者がいたら寝間着姿を見られるところであった。とりあえず小走りでさきほどの縁側に戻り、靴を脱いで中に上がる。

 しかし着替えの場所が分からない。とりあえず寝室に戻ろうかと歩き出そうとしたが、それは呼び声によって妨げられた。

 

「霊夢、着替えー」

 

「……いまいくー」

 

 ナイスタイミング。こういう時に限っては幸運だった。この幸運をもっといいところで使えたらいいのになと思うと何か悲しくなる。

 

 方向を転換し、居間へと足を進める。

 

「着替え、置いときますよ」

 

「ん、ありがと」

 

 居間にはちゃんと着替えが置いてあった。もう、博麗霊夢と分かった以上着替えの服には驚かない。これくらいで一々驚いていたらキリがない。寿命が30年くらい縮みそうだ。

 目の前に畳んで置かれていた服に着替える。生憎、彼女はいわゆる「ロリ」には2次元でも一切興味がなかったので、裸になっても何も思わない。というかこの歳だとまだ男と女の身体的な差など顔と股間くらいしかない。特に気にする必要もない。「気にする」という発想が出てくる時点でいけないのかもしれないが。

 下着はドロワーズ、ここも予想通り。博麗霊夢として生まれ変わった以上何らかの戦闘はほぼ確実に待ち構えているだろう。これなら見られても心配はない。これでパンツだったら投げ捨てるところであった(やらないが)。

 

 頭のリボンと髪飾りもちゃんと完備されている。ご丁寧なことだと霊夢は呆れ半分、感心半分で思う。リボンの構造を見て大体のつけ方は理解できたが、まだ歳が幼いせいで腕が短く、自分で付けるのは難しかった。仕方なく老婆に助けを求める。

 

 そうして着替え終わったときには「1/1.5モデル博麗霊夢」が完成していた。

着替え終わった後一旦自室に戻り自分の姿を確かめてみたのだが、鏡に映る少女はそれはもう本当にロリ版博麗霊夢その人だった。スカートと腋が露出しているのがものすごく気になる。スースーするのが全く慣れない。

 しかし、実際にこの服に着替えてみるとどこか少しやる気が出てくる。

 

「この服でずっとやっていかないといけないもんね」

 

 口調も意識して女の子らしいものにし、「博麗霊夢」として生きる決意をする。とりあえず状況は少しづつだが読めてきた。逃げても仕方がないし、どうしようもできない。願いが叶ってしまったのだから、存分に満喫しないと損でもある。

 

「……よし!」

 

 可愛らしい少女の、その小さなかけ声には、しかし、現実から逃げないという強い意志が感じられた。




「NARUTO」の成分が1mmも入っていないうえ話がなかなか進みませんがしばらくはご容赦ください……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。