忍の世に降り立つ博麗の巫女   作:しゅれー

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大変お待たせいたしました。言うて話はそこまで進みません


第二一話 ―霧の鬼人―

 少なくとも、この契約違反は任務中断となって当然のものだった。Cランク任務は忍との戦闘を前提としないものであるが、忍の戦闘を含めるとそれはBランク以上のものとなる。

 いくら上忍が二名ついているとはいえ、忍になったばかりの下忍を引き連れた班構成である。忍と戦うには少々無理があった。

 

 しかし、彼らも鬼ではない。込み入った事情があるのだろうと判断したカカシとカクルは、結局とりあえずは任務を続行させることとした。ナルトが強い続行の意志を見せたことも一因としてある。

 そして一行は波の国へ入るための渡し船に乗り、一旦の目的地である波の国の境界へと近付いていた。

 現在、彼らの目の前にはその境界となる橋が目の前に大きく聳え立っている。光が遮られ薄暗く、四方とも霧で包まれ、文字通り「五里霧中」という状態から突然視界に飛び込んできた人気のない建設途中のそれはあまりに不気味で、近づくのを躊躇ってしまう。

 

「うおー、でけーッ!」

 

 しかし、船頭でそれを眺めていた金髪の少年、ナルトはそうは感じないらしい。波の国に入ろうとしていると言うことで気分が高揚したのか、大声で騒ぎ始めた。

 

「こ、こら、静かにしてくれ! この霧に隠れて船出してんだ、エンジン切って手漕ぎでな……。『奴ら』に見つかったら、大変なことになる!」

 

 そんなナルトも、漕ぎ手である男の言葉で一気に静まった。その言葉で、一気に引き締められ緊迫した空気が流れ始める。

 どうもやはり大きな事情が背後に潜んでいるらしい、皆がそう悟り始める。そしてさらに追い打ちをかけるかのようにカカシが尋ねる。

 

「タズナさん、舟が桟橋に着く前に聞いておかなければならないことがあります。貴方を襲う者のの正体と、そのワケを……でなければ我々の任務は、タズナさんが上陸した時点で終了となります」

 

 カカシの言葉を受け、皆の視線がタズナへ集中する。その言葉に、もうこれ以上隠しきるのは不可能だと判断したらしい。俯き諦めたような表情を見せた後彼は顔を上げた。

 

「どうやら話すしかないようじゃな、いや是非聞いてもらいたい――」

 

 

 

 

 

 

 衝撃の内容であった。タズナによると、波の国は海運の一大企業、「ガトーカンパニー」により危機的状況に立たされていると言う。ガトーカンパニーの社長、ガトーは表向きはただの海運会社の社長でしかないが裏では麻薬取引や密輸品、更には企業や国の乗っ取りにより大金を儲けている。

 そしてガトーは数カ月前よりこの波の国に目を始めたのだと言う。財力と権力により瞬く間にすべての海上交通を牛耳った彼であったが、そんな彼が唯一恐れたのが今彼らの目の前で聳え立つ建設中の大橋であったのだ。それを食い止める為にガトーは忍を雇うことで建設の中心に立つタズナの命を狙っているというわけだった。

 しかし、護衛を付けようにも忍が襲い掛かることが前提のBランクとなると依頼料が嵩む。波の国の庶民にとってそれを安々と出せるほどの経済的な余裕もなく、安めに済むCランクと誤魔化したということだった。

 

「まあお前らが任務をワシの上陸と共に取りやめれば、ワシは確実に殺されるじゃろう、家に辿り着く前にな。なぁに、気にすることはない。ワシが死んでも8歳になる可愛い孫が……泣いて泣いて泣きまくるだけじゃ!」

 

 突然の吹っ切れたようなその言葉に呆気を取られる一行。どうも同情を誘って続行へ導く作戦であるらしいことは安易に読み取ることができたが、タズナはそれでは終わらない。極めつけのようにその脅しのような言葉を続ける。

 

「あぁ、それにワシの娘も木の葉の忍者を一生恨んで恨んで恨みまくって寂しく生きていくだけじゃ! いやなに、お前らのせいじゃない!」

 

 立て続けに続く念を押す傲慢な言葉で一行のメンバーも頭を抱えてしまう。この歳になるとやはり性格も変に歪んで曲がってしまうのか――、というか何故ここまで横柄な態度を取れるのかが謎でただ驚き呆れるばかり。霊夢自身も流石にこれには怒りすら湧かなかった。ここまで白々しいと逆に清々しくも思えてくる。

 

 

「……まあ、続行すればいいんじゃないの、もう」

 

 

 その霊夢の言葉に皆ただ同意することしかできなかった。

 

 一行はそのまま船を降り、波の国へと足を踏み入れることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 いよいよタズナの家も近付き、一旦の行程が終わると思われた矢先のことだった。

 

 唐突だった。一瞬、謎の気配を霊夢は感じ取ったのだ。

 

「そこだァ!!」

 

 そしてそれを感じ取った次の瞬間、霊夢――ではなくナルトがクナイを横にあった茂みへ突然投擲した。

 

 違う、そこじゃない。

 突然の投擲を注意するカカシ達を無視しつつ、小気味よくくるっと後ろへ振り返り、勘の指し示す方角へと咄嗟に生成した針を数本ふっと投げ飛ばした。

 その方向にあるのは普通の木の上方にある、少し太めの枝。ナルトの行動に直後で一瞬驚きに包まれる一行だったが、霊夢だけはその投げた方向を、視線で枝を貫かんとするがごとく、しっかりと注視していた。 

 

 霊夢の勘はやはり当たっていた。針が木の茂みへと消えた瞬間、そこから何者かが飛び上がってきたのだ。それを見て一瞬だけ気を取られたものの、すぐに警戒態勢に入る。

 そしてその影はすたんと霊夢の目の前に降り立ち、その全貌を露わにした。

 包帯のようなもので覆われた口元に、鬼のような目付き。常人が見るとそれだけで気を失ってしまいそうなほどの怒気を常に発している。そして何よりも目に付くのが背中に背負われた、「刀」というにしては大きすぎる、まるで人を捌く為の中華包丁のような図体を誇る刀。その存在が、彼の「異常」さを更に増長させている。

 

 違う。格が違う。

 

 それを察知するのはいとも容易いことだった。一瞬で分かる、この存在の規格外さ。怯えこそしないが、確かに感じるモノがある。

 鬼の巨人と華の巫女、あまりに違いすぎる体躯を持つ二人の視線が交錯する。片や感心した目で、片や警戒する目で。

 

「ほう……この小娘、なかなかやるじゃねえか」

 

「殺気をここまでぶちまけつつ言われるなんて、まったく光栄としか言いようがないわね」

 

 そう悠長に、大幣とともに数枚の札を指で挟みを構えつつ返してはいるが、実際の所あまり余裕はなかった。これまで相手にしてきたどれよりも包む雰囲気が鋭い。一瞬でも油断すると、目の前の鬼に首を獲られる。それほどまでの存在感。

 そんなことを露も知らないナルトは先の戦いでの「遅れ」を取り戻そうと駆けだしたが、それをカカシは腕を払い制止させた。

 

「霊夢、下がれ! 流石にお前でもそいつは厳しい!」

 

 最終的にその睨み合いに終止符を打ったのは背後からのカクルの呼び声だった。カカシと共に霊夢の前へと庇うように歩み寄り、前の鬼人と対峙する。

 

「いやはや、ある程度は予想してたけどここまでの敵が出てくるとは想定してなかったかなあ」

 

「勘弁してほしいよ……霧の鬼人、桃地再不斬!」

 

 まったくやれやれと言った様子で言い放つカカシとカクルだが、やはり霊夢と同様その内心に余裕は殆どなかった。

 

 桃地再不斬。水影暗殺・国家転覆のクーデターを企てるも失敗し逃亡したA級犯罪者であり、その名は今や各国で通用するほどの知名度を誇る。当然、この上忍2人もその名も、そしてその危険さも十分に理解していた。

 

「……写輪眼のカカシか。もう1人上忍もいるみたいだが、まあ問題はないだろう。……悪いが、ジジイを渡してもらおうか?」

 

 ゆっくりとした、余裕味のある言葉。しかしその言葉の圧力に皆軽く圧倒されてしまう。木の葉の上忍2人を敵にしてもこの余裕――相手の力量がただならないことが霊夢にはヒシヒシと伝わってきた。

 

「カクル、お前は俺と共にコイツの相手をするぞ。そして他のお前らは卍の陣でタズナさんを守れ、戦いには加わるな!」

 

 しかし、その程度で気圧される上忍ではない。一番の熟練者であるカカシが、左眼を隠す額当ての布に手を掛けつつ的確に指示を各メンバーへ飛ばす。しかしその光景を見る鬼人の目は少し幻滅した様子だ。

 

「そいつぁ残念だな。俺はそこの巫女の小娘にも興味があるんだけどな」

 

「霊夢、乗るんじゃないぞ。お前が相当に強いことはカクルからも聞いているが……お前なら分かるだろう?」

 

「……分かってるわよ、まあヤバそうだったら札か針くらい投げてあげるわ」

 

「ハハ、心強いな。まあ、俺もそんなに軽口は叩いていられんが……」

 

 そう言いつつ、手にかけていた布を上へずり戻す。

 そこに宿るのは、隠されていた紅蓮の瞳。黒い瞳孔のまわりには3つの勾玉模様が等間隔で浮かび、あからさまに異様さを主張する。一般人だと見るだけで怯んでしまいそうな程の光を有するその眼には、それを喜々とする鬼人の姿が映る。

 

 写輪眼。うちは一族しか持ちえないはずのそれが、そこにはあった。その瞳を見た各メンバーに衝撃がほとばしる。

 霊夢も同様だった。しかしその衝撃の内容は他とは少し違う、サスケと同じものだった。

 

 なぜ、こいつが写輪眼を……?

 

「ほう、噂に聞く写輪眼を早速見られるとは、光栄だね」

 

 その一方で鬼は実に嬉しそうにニヤリと笑う。口元は隠れているが、その目だけでしかとそれが伝わってくる。

 

「さっきからシャリンガン、シャリンガンって……!! なんだぁ、それ!?」

 

 しかし、その雰囲気にいい意味でも悪い意味でもナルトは屈しない。空気を読まないともいうが、このような状況でこのようなことを聞けるのは流石だと霊夢は呆れつつ横目でその姿を捉えた。

 そして、その質問に答えたのは当のうちは一族の生き残り、サスケだった。

 

「写輪眼――眼光が生み出し、瞳が発する力。いわゆる瞳術の使い手は、全ての幻術・体術・忍術を瞬時に見通し、跳ね返す眼力を持つと言う……。写輪眼とは、その瞳術使いが特融に備え持つ瞳の種類の一種。しかし、写輪眼の持つ能力はそれだけじゃない」

 

「え……?」

 

「クク……ご名答。ただそれだけじゃない」

 

 サスケが残した続きを代弁したのは敵対する再不斬の方だった。彼は続ける。

 

「それ以上に怖いのは、その目で相手の技を見極めコピーしてしまうことだ。俺様が霧隠れの暗殺部隊にいた頃、携帯していた手配帳(ビンゴブック)にお前の手配情報が載ってたぜ? それにはこうも記されていた。――千以上の術をコピーした男――コピー忍者のカカシとな」

 

 ここで漸く霊夢を含めた下忍メンバーの、カカシへの認識が180度変わった。ただのマスクの不審者だと思っていた上忍が、どうもとんでない凄腕忍者だったらしいという事実が判明したのだ。敵の言葉で分かるなどと言うことは何とも情けないことではあるが――。

 

「っと、お話はそれぐらいにしておこうぜ、俺はそこのジジイをさっさと殺んなきゃならねえ」

 

 そう再不斬が言うにつれて、まわりには霧が立ち込めてきた。視界が不安定になりゆく中、彼がそう言ったと同時に咄嗟に下忍たちは霊夢とサスケを先頭に配置しつつタズナを中心に卍の陣を組み警戒態勢に入った。

 

「つってもカカシとそこのお前、まずはお前らを殺んなきゃならねぇようだがなァ」

 

 そう言うと再不斬は後ろの池へと跳ね退き、水面にその巨体を浮かばせつつ印を組んだ。それと同時に彼の身体のまわりに水流が絡みつくように回り、生じ始め、徐々にその姿が水流に飲み込まれていく。そしてついに、その姿は水流と共に忽然と消えてしまった。

 周りをいくら見渡してもあるのはただ霧だけ。いつ、どこから襲ってくるのか全く予想がつかないこの状況に、各々の緊張感が極限状態にまで高まってゆく。特に戦闘慣れしていない霊夢以外のメンバーには、既に額に微かな脂汗が滲む。

 

「……あいつ、何者なの?」

 

 その中、後ろで警戒していた霊夢がカクルへ尋ねた。他のメンバーの目線も無言で彼の方へ集中する。

 

「桃地再不斬――霧の暗殺部隊で、『サイレントキリング』の達人として名声を上げていたヤツだよ」

 

「無音暗殺術とも言うが……静寂の中一瞬で相手の命を刈り取ってしまう殺人術だ。気付けば仏様ってことも少なくない」

 

 背中を嫌な寒気が走り去った。各々が生唾を飲み込む。ごくりという音がやけに大きく頭中に響く。脂汗がさらに湧き出て、頬を伝う。

 更に霧は濃くなっていく。まさに五里霧中と言うべき状況で、前にいるはずのカカシとカクルの姿すら視認が難しくなってしまった。

 

「8か所だ」

 

 突然場に響き渡る鬼の言葉で肩が小さく震える。

 

「喉頭、脊柱、肺、肝臓、頸動脈に鎖骨下動脈、腎臓、心臓……さて、どの急所がいい」

 

 場を満たす殺気が更に輪をかけて増してゆく。クナイを持つ手はカタカタと震え、極限状態に視界は歪む。いつ体を刈り取られるか分からない恐怖が全てを支配する。

 上忍2人としても、この状況はまずかった。無音殺人術と言いつつこのようなことを口走るのは失策と捉えられかねないが、そうではない。

 戦闘慣れしていない、アカデミー卒業ほやほや、若干12、3歳の子供にとってこのような言葉をかけることは精神圧迫に直結する。戦闘・殺気慣れしている上忍には効果がないが、タズナを守っている下忍たちにとってはこの上ない精神攻撃となり、攻撃の成功率が更に増すこととなるのだ。

 

(流石プロと言ったところか……心理攻撃までキチンと把握してやがる)

 

 相手の策に思わずカクルは奥歯を噛み締めた。ギシギシと嫌な摩擦音が響く。まずは殺気のぶつかり合いによる極限状態から脱させることが第一だと彼は考えた。

 それはカカシも同様だった。2人とも同時に印を組み身体からチャクラを放出することによって霧散させ、まずは自身の姿をメンバーに視認させる。

 

「安心しろ、お前たち。お前らは死んでも俺が守る」

 

 カカシの言葉は、彼らのその切り詰められた心中に透き通ってよく浸みわたってゆく。黒中に落ちる一滴の白いインクのように、ゆったりと安心感が広がってゆく。

 

「俺の仲間は――絶対に死なせやしない」

 

 重みが違った。ただの責任感のない言葉ではない。過去に友を失くし、守りきれなかったからこその心からの言葉には、自ずと段違いの説得力が籠る。

 少しだけ気持ちが楽になったかと思った、次の瞬間だった。

 

「クク、それはどうかな?」

 

「ッ!?」

 

 遂にその時はやって来た。霊夢、サスケの真後ろ、タズナの目の前。巨大な首切り包丁を軽々と左手で後ろで構えつつ現れた再不斬。上忍2人を狙うものと思っていたばかりに、あまりに唐突なことで対処しきれない。

 

「終わりだ」

 

 そして全員の命を諸とも奪い去ろうとその巨大に鉄の塊を大きく横に薙ぎ払おうと体を動かす。裏を掻かれた上忍2人が咄嗟にその攻撃を阻止しようと動くが、その巨大さからは想像もつかぬ速さで間に合いそうにもない。

 抵抗の余地すらなく全員皆殺しかと思われたが、とうとうそれはなされなかった。

 

「くっ……」

 

「ほう……首切り包丁を受け切るとは、やはり普通じゃねえな、この小娘」

 

 たった一人の少女が、その果てしなく重い斬撃を受け止めきっていたのだ。




【大切なお知らせ】
活動報告にも書かせていただいておりますが、当方はこれより、さらに厳しい受験モードに突入することとなります。したがって、この小説の更新速度もかなり低下するものと思われます。
夏休みとは言いますが、毎日学校に行っては自習する日々です。また当方は他にも動画制作等様々な創作活動に従事していることもあり、以前ほどの更新速度を維持することがかなり厳しい状況です(動画の更新は既に一時休止していますが)。今回更新できたのもお盆休みでやっと休みが取れたことによります。
出来るだけはやく更新したいとは思っておりますが、限界もあります。どうかご理解いただきますようよろしくお願い致します。
受験が終われば、以前ほどとは行かないかもしれませんがある程度更新は速くなると思います。

――

読んでて気付かれた方もいるかと思いますが、ここの再不斬は原作よりもかなり強めに設定してあります。ルナティックってやつですね。
霊夢にプラスして上忍2人も相手なので、再不斬さんには頑張っていただこうと思う所存であります。

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