忍の世に降り立つ博麗の巫女   作:しゅれー

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今回は早く出せましたね。まあ話は進まないんですけど
そしてついに初の霊夢一人称視点が入ります。一人称視点で書くのは相当久しぶりだったんですが、まあいつも霊夢中心の三人称なので似たようなもんですね。


第二二話 ―なんなんだ―

「くっ……」

 

 キツい。今の状況を端的に表すならそれだ。

 

 突然真後ろに現れた巨人、桃地再不斬による薙ぎ払いをなんとか大幣で受け止めている状況だが、はっきり言ってあまり耐えきれそうにもない。腕の超越した筋肉と、この包丁なのか刀なのかよく分からない巨大な鉄の物体の重量の2つが合わさった結果、先程の斬撃のエネルギーはとんでもないことになっていた。

 限界まで霊力で筋肉を活性化させ、大幣には霊力を纏わせ、更に札を使った小規模の結界まで展開しているのに相手はまるでビクともしない。はっきり言って、受け止められただけでもマシと言ったところだ。

 筋肉活性も長時間は使えない。無理に能力を上げている分、身体へのの負担も大きいのだ。普段は瞬間的に活性化させることでそのデメリットを実質的に無にしているのだが、このような拮抗状態になるとどうしても分が悪い。

 

「ほう……首切り包丁を受け切るとは、やはり普通じゃねえな、この小娘」

 

 相手は何か言っているが、こちらにそれを答える余裕はない。

 まず、この状況から一刻も早く脱さなければ両腕の筋肉が早くも限界を迎えてしまう。まわりの他の面子は――だめだ、突然のことに反応できてない。なんとか四方に散らばることは出来ているけれど、クナイか刀を持ったまま、まるでオブジェのように静止してしまっている。

 自力で何とかせざるを得ないらしい。幸い相手は身体も刀自体も大きいため小回りは全く利かない。対して自分は身体も小さく、小回りがよく利く。なにより重力を無視した動きを取れる。

 

 腕は固定したままそれを軸として、腕より下のみを空中に僅かに浮かせ、勢いを付けて刀で死角となっている下腹部へ両足で蹴り込みを入れる。しかし、それは空いていた右腕で軽々と受け止められてしまった。

 両腕両足、四肢全てを封じ込まれてしまった状況、一見すればただの悪手で追い詰められているようにしか見えないが、そうではない。今度はその両足の部分を軸にして回転する。

 いくらこちら側に刀を押し付けて来ようが、鉛直方向への動きは殆ど制限されない。拮抗状態にあった大幣を上半身と共に、仰け反るような体勢になりつつ下へずり動かし、刀からの接触をなくす。

 本来常人ならできないような体勢、空を飛ぶという能力が備わっている私だからできる芸当だ。

 

 突然抗力を与える物体が無くなった結果、その刀の重量によって持ち主である再不斬の体勢も崩れる。いくら筋肉が強く、身体が大きいとしてもここまで大きな鉄の塊が急に動き出したら咄嗟には対応できまい。右腕に私の足からの力が加わっているので結果、上半身が鉄塊に引っ張られ大きく前へ引っ張り出される形となった。

 

「うおあっ!」

 

 そしてちょうど浮いている私の真上には鬼人の上半身がある。後はもう簡単だ。

 

「神技・八方龍殺陣」 

 

 目の前で血が飛び散るのは嫌だったので今回は焦がすことにした。

 詠唱と共に地面に複雑な、黄金に輝く八卦陣が展開される。そしてそこからは間髪入れず即座に天まで伸びる攻撃結界が形成される。体勢を崩した彼に、避ける術はない。

 そしてそのまま金の半透明の檻が鬼の身体を焼き焦がす。――いや、焼き焦がすはずだった。 しかし、実際の結果はそれとは異なっていた。 

 

「消失した……?」

 

 結界内で彼の姿がフェードアウトしてしまったのだ。奇妙な現象に結界の展開をやめてみたのだが、地面を見ることでその原因が判明した。

 

 地面が、軽く湿っていた。

 

 ここで漸く、こいつがただの分身体に過ぎないことに気付いた。

 しまった、咄嗟に蹴ったままの体勢で首だけ横へ曲げると、既に本体と思わしきモノがカカシ、カクルと交戦を開始していた。

 いや――正しくは本体と思わしきものともう一体の分身とで2人と応戦している。応援に行くべきかと思ったが――。

 周りを見渡す。突然再不斬が現れてからこの分身体を倒すまでものの数秒の出来事ではあったが、未だに他の面子の反応性は怪しい。ここの守りを手薄にしては依頼主が殺されて元も子もなくなりそうだ。ここは守りに徹するべきか。

 

「夢符・二重結界」

 

 ちゃちゃっと札を生成し霊力を送り込むと、まわりに2つの立方体の形に広がった、赤みかかった結界が一方が他方を包み込むように重なって展開された。

 

 二重結界。この技自体は、本来なら結界と言いつつも攻撃でよく使う術なのだが、単純な防御結界として使用することもできる。

 霊力の込め方によりその強度は上下するが、今回の場合は警醒陣レベルの強度の結界が2つ重なった、完全上位互換として機能するように調整した。まあこの結界があれば簡単には死にはしないだろう、少なくとも時間稼ぎにはなる。

 

 一旦の迎撃態勢の支度が終わったところで、次にやらねばならないことは――これか。

 

「なにいつまでぼさっと突っ立ってんのよ、生きてる?」

 

 いくら依頼主が生きていたところで他の面子に死なれてもらっては困る。こいつらを再起動させるべきだ。

 まあ……あの殺気からの突然の斬撃、呆然としても不思議じゃない。そのような精神攻撃を寄せ付けない自分が特殊体質なだけなのは重々承知済みだ。

 

 しかし、そこから返って来た返答は予想からえらく斜めにずれたものだった。

 

「なんで……」

 

「ん?」

 

 ナルトの僅かに震えた声。どうしたのかと振り向いてみると、俯いて身体を震わせる彼の姿があった。

 

「どうしてお前は……平然とそんなことができるんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、再不斬を相手取っていたカカシとカクルは苦戦を強いられていた。

 1対2と、数的にはこちら側の方が有利なのだが、如何せん分身を出して数を補われている。そして何より、その分身が水分身ではなく影分身だということで苦戦を強いられていた。

 

「クソ、なんでこんな巨大な刀を操ってんのに素早いんだ!」

 

「余計なことを口走るな、カクル!」

 

 結果的に、2人はほぼ別々で単独戦を強いられていた。カカシは本体と、カクルは水分身と。援護をしようにも、援護をする暇がない。少しでも不用意に隙を見せると首を獲られる。

 

「クク、写輪眼のカカシと聞いてどんなもんかと期待してたが、こんなもんかァ」

 

 対する鬼人、再不斬は未だ余裕と言った様子だ。なにより、このようなことを話す余裕があるところ自体に、大きな「差」があることが伺える。

 

「これなら、あそこの巫女の小娘の方がやりがいがあるんじゃねェか? アイツ、なかなかいいモノを持ってるみたいだがよォ」

 

 分身体がやられたことを傍目で察知しつつ、敵対する2人を嘲笑う。

 再不斬としても想定外の出来事だった。こちらの気配を感じ取り、的確に針を投げてきた時点であの紅い巫女が他とは違うということはだいたい察することができたが、とはいえまさか水分身をこうも簡単に潰されるとは思ってもみなかった。

 

 確かに水分身の力というものは、オリジナルに比べては遥かに劣る。チャクラの練り込む量によってそれも変わってはくるし、実際向こうへの奇襲に使った水分身はチャクラの量は少なめではあったが、それでも特に問題なく皆殺しに出来ると油断していたのだ。しかし、蓋を開けてみればこれだ、見事にやられてしまった。

 

「あんまり好き勝手言うなよ」

 

 そんな再不斬の態度に、流石のカカシの表情も僅かに不機嫌さを帯びたものとなる。

 少し離れたところでカクルが分身相手に苦戦している、本体と相手をしているこちらが早くケリを付けなければ厳しそうだ。

 しかしこの再不斬という巨人、その体躯からは考えられないほど動きが繊細でかつ速い。そこに更に刀による強烈な斬撃が入るせいで隙がなく避けるだけで忙しい。そしてジリジリと体力も削られる。写輪眼である程度行動が先読みできるからいいものの、それでも少々辛い。

 しかし一方であそこまで大きい鉄塊を振り回し続けている再不斬には汗すら浮かんでいない、桁違いの体力も有しているようだ、このままでは本当にまずい。

 いつ反撃に出るか――そう考え始めたのすら失策だった。

 

 後ろへと徐々に追いやられている状況。背後の状況など一切分からない。そしてそこに思考が加わると、どうしてもある場所へ意識が行き届かなくなる。

 

 足元だ。

 

「ぬおっ!」

 

「もらったァ!」

 

 あまりに単純なことだった。切り返す方法を考えているうち足元に注意が全く行かなくなった結果、先程カカシが潰した水分身でぬかるんだ土壌に足を取られ体勢を大きく仰け反る形で損ねてしまったのだ。

 とても上忍とは思えないミス、しかし所詮は人間。全てに注意を置くことはできない。

 少々意外な形だったが、当然相手もこの好機を見逃すはずがない。

 

「ぐっ!」

 

 大きく、鉛直方向に薙がれた鉄包丁。それが眼前へ迫る。

 ただのクナイではだめだ。それではこれだとバラバラに砕け散ってしまう。雷の性質変化を纏わせたクナイでなんとか身体に接触するのだけは避けるが、その勢い自体はとても抑えきれない。結果的に、地面に完全仰向けとなる形となってしまった。

 下半身こそ自由だが、上半身は鉄塊で抑え込まれている状況なので起き上がることができない。

 

「……これまでだな。水牢の術!」

 

 首切り包丁の柄を腕で抱え込み、カカシの動きを束縛したまま即座に印を組む。

 すると、すぐ傍らにあった池から水が自ずと導かれるようにカカシのまわりへ集い始め、大きな水球を形成し始めた。瞬間的なことで成す術もなく、カカシは容易くその中に封じ込まれてしまった。

 

「カカシ!!」

 

「余所見するとは、えらく余裕だな」

 

「しまっ……!!」

 

 そして水牢に囚われたカカシの姿に気を取られカクルにも大きく隙が出来てしまった。まるで将棋倒しである。 その脚の筋肉を惜しげなく使った蹴りは、いくら影分身と言えど威力は計り知れない。

 カクルの鳩尾に喰いこんだその蹴りにより、カクルは放物線の軌道を描きつつ上空へ弾き飛ばされた。声にもならない呻き声を出す彼の軌道上にあるのは、本体が待機している池。

 

「フン」

 

 その姿を捉えた本体も、水牢を水分身に託しつつ、彼を仕留める為に上空へ跳躍する。池へと撃墜させんと空中で軽く一回転して繰り出された回転蹴りに対し、腹からの猛烈な痛みの中なんとか思考回路を機能させて腕を交差させる。

 それによってなんとか身体へのダメージは防ぐことができたが、それでもやはり「撃墜」という本来の目的を退けることはできない。一直線に墜落した彼を待ち受けていたのは相当なチャクラが既に練り込まれていた池。

 最終的にどうしようもなく墜落したカクルも、鬼人の前で呆気なく水牢に囚われてしまった。

 

「上忍二人が仲良く水牢ったあ、情けねえよなあ?」

 

 そう言う再不斬の表情は嘲笑そのものだ。

 正直言って、見当違いだった。各国で名を馳せ恐れられた「写輪眼のカカシ」。一体どのような相手か、その姿を木の枝から見たときは内心期待していたのだが――その実態がこれとは。想像していたものとの差に落胆してしまう。

 実際の所、ここ最近は特に平和な時期だったこともありカカシの危険意識も緩まっていた。修行も少々サボり気味だったのも事実で、全盛期ほどの力を出せていなかった。そしてその結果がこれだ、足を取られて捕まるとはなんという大失態。

 

「お前らとの決着は一旦後回しだ――まずはあのガキ共を殺る。あの小娘も気になるしな」

 

 池の上には3体の再不斬。そのうち2つは分身体で、各々水牢の維持に回っている。本体はその2つの水牢の前で、水面上にその巨体を浮かせつつ霊夢たちの方へと顔を向き直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、って……」

 

 突然のナルトからの、質問、というよりは訴えに近いような言葉で、返答に困ってしまう霊夢。

 気持ちは分かる。先の戦いで思いっきり足手まといとなってしまった挙句、挽回しようとしたら次はこれ。そして殺気でやられ戦闘は自分の独断場――いくらなんでもひよっこの下忍でここまで動けるのが怪奇と思えるのは仕方ないことだろうとは察せる。恐らく口にしていないだけで、第七班だけじゃなく、ヒカルですら内心では同じことを思っているだろう。

 

「……今は関係のないことよ。それより場に注意を向けなさい」

 

 しかし、なぜあの殺気を諸ともせず、的確な判断を下せるか――今の彼らを納得させるような答えを提示することはできない。答えた所で、その後の展開なんてすぐ読める。グダグダと言い合いをしたところで、その隙を取って結局全員首を掻っ攫われてさようなら、だろう。

 

「クッ……」

 

「それを――それを知ったところで、何も変わらないわ」

 

 

 

 酷く冷たく、ナルトには見えた。

 目の前で悠然と立っている紅き巫女。しかしその言葉は、その雰囲気は、あまりに冷たく、「蒼い」。まるで深海の水のように、光も差さない極寒の極地のように、蒼々と冷めきっている。

 これが本当に同年齢の、同期の卒業メンバーなのか。たった12歳の子供なのか――怪奇だとか悔しいだとか、それ以上に、「恐怖」。

 眼前の、自分より少しだけ身長が高い程度の少女は実は人間でないのではないか。もっと別の何かではないのか――そうとさえ思えてくる。

 

「……お前は――」

 

 自ずと湧き出て来た恐怖を抑えつつ、しかしそれでも上擦った声で尋ねる。

 

「お前は――なんなんだよ!」

 

「!」

 

 その問いを聞き、前を注視したままだった霊夢の顔が漸くナルトの方へ向けられる。

 

 

 

 その時の顔を、どう形容すればいいのだろうか。

 いや、表現するのは簡単だった。しかし――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――なぜ、そこまで悲しそうな顔をするんだ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナルトは知らない。いや、誰も知らない。

 

 その問いが、彼女にとって、「博麗霊夢」という少女にとって、どれほど意味があるのかを。

 

 誰も、知りはしないのだ。

 

 

 

「……そうね」

 

 その質問を返すのに、少し時間が必要だった。一体なぜ、そんな単純明快な、質問した側にすら返しが即座に予想できてしまいそうな質問の返事にここまで時間がかかるのか、分からない。

 またも視線を外して前を向きつつ、呟いた。

 

 

 

 

 

「私は――『私は』、博麗霊夢よ。14代博麗の巫女、博麗霊夢」

 

 

 

 

 返答であるのにも関わらずまるで自分に言い聞かせるような口付きが、ナルトの記憶にびっちりと焦げ付いて離れなくなった。

 

 

 

 

 

 そして何より、前を向いていても分かってしまった、悲愴で歪んだ目元が――何より、それが――忘れられなかった。

 

 

 

 

 

 ひとつの風が、霊夢とナルトの間を駆け抜けた。 

 

 

 

 

 

 

「……さてと、グダグダと話す時間もそろそろ終わりみたいね」

 

 しかし、その表情も一瞬のものだった。即座にいつもの無表情に戻しつつ、池の上に浮き立つ巨人を見つめる。その背後には2体の水分身と、それに捕えられている上忍2人。

 

「逃げろ、お前ら! こいつ、お前らじゃ相手にならない! 水分身も本体からある程度離れると消滅する、此処は一刻も早く逃げろ!!」

 

 カカシが逃げるようにこちらへ叫んでいるが、少なくともそれはできそうにない。

 向こうは影分身も使えるらしい。影分身は水分身と違い本体から離れていても機能する術、こちらを追いかけるなら影分身を置いて行けばいいだけの話だ。逃げるにしろ、おそらく逃げ切れるのは空中へ脱出できる霊夢ただ一人で、それ以外はまず逃げ切れない。

 結局のところ、自分たちでこの状況を打破しない限り未来はない。

 そして更にそれに追い討ちをかけるように、鬼人は辺りに殺気を撒き散らした。

 

「ククク、それを許すと思ったか、カカシィ?」

 

「ぐっ……」

 

 一気に動きが束縛される、動こうと思っても体が言うことを聞かない。まるで無効に心臓を鷲掴みされている感覚。すぐにでも捻り潰せる、即座に殺すことができる――先程以上の悍ましい殺気が彼らを襲う。

 

「……やっぱり、あの小娘だけは違うみたいだがな」

 

 しかし、その殺気を前にしても霊夢ただ一人だけは全く怖気つかず、再不斬の姿を確かに睨み付けていた。大きなルビーのような瞳には、ただ相手の再不斬の姿以外、余計なものは何も映っていない。

 

「この殺気でも怖気付かないその精神、素直に褒めてやろう。……そしてその栄光を称えて――」

 

 再不斬の姿が途端に忽然と消え失せる。カカシとカクルの顔が焦燥で歪む。

 

「――真っ先に殺してやるよ」

 

 次の瞬間、霊夢の防御結界と再不斬の首切り包丁が、火花散らし激しく衝突した。

 

 




次回、ルナティック再不斬VS霊夢
この話に入れたら余裕で1万字越えそうだったので分割。下手クソなりに描写を細かくするとテンポ悪くなっちゃいますね、やっぱり。どうしたらいいんでしょうか。



たとえここまで原作霊夢化が進んだとしても、彼女なりに自身について思うところはあります。この話の続きは後々に。

書いてて思ったんだけど、やっぱりカカシさんどんくさすぎる
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