黄金に輝く防御結界と、銀白に輝く巨大な鉄包丁が激しく衝突し、拮抗する。
一つ、先の分身との戦いで分かったことがあった。それ非常に単純かつ苦しい事実。
私では、筋力勝負じゃこの巨人には勝てないと言うこと。
水分身と霊力で筋力を限界まで水増しした私でやっと同等なのだ。おそらくは水分身の方もその中に練り込まれていたチャクラの一部を使って少しは活性化していたのだろうが、どちらにせよ本体の数分の一とかの力を持たない水分身と互角だったという事実に変わりはない。本体と勝負したところですぐに弾き飛ばされる。
よってまずは近接戦から中・遠距離戦に持っていくことが必要だろう。相手はA級戦犯、そうなっても相応の技は持っているだろうが少なくとも近接戦よりはずっと勝機がある。
距離を取る方法なら簡単だ。相手の能力を逆に使用してやればいい。
「かてぇ結界だ、鬱陶しい」
そんなこと言わずともすぐに展開終了してやるっての。
即座に結界を消失させる。抗力を失った刀はこちらを目掛けて猛スピードで襲い掛かってくるが、それを先程と同様に大幣で受け止める。
しかし踏ん張りはしない。その力を使い敢えて吹っ飛ばされることにより距離を取ればいい。こちらは空中も全て自由に動き回れるから、吹き飛ばされて無防備になってしまうということもない。
算段通り再不斬の刀によって吹っ飛ばされた私は、即座に空中で体勢を立て直しつつ反撃に出る。
まずはショット攻撃。両手を前に構え、夥しい量の札を相手目掛け狭角で射出する。そもそも弾幕攻撃としての利用が多いこの攻撃を一点集中的に繰り出しているのだから、ショットと言えどその威力は馬鹿にならない。
本当ならば弾幕攻撃にして逃げ場を完全に上空のみに絞らせたかったのだけれど、下には仲間がいるからそれは出来なかった。
「フン、水遁・水陣壁!」
しかし、出鼻から私の作戦は挫かれてしまった。再不斬が印を組むとすぐ背後の池の水が彼の下へ誘き寄せられ、守る盾となって私の攻撃の前に立ちはだかった。
いくら集中しているとはいえ、一つだけ取ってみるとその威力なんて所詮紙のカッターでしかない、しかもそこに水という邪魔が入られると……やはり完全にだめだ。いとも容易く全て防がれてしまった。そもそも、あの水壁を通れたところでずぶ濡れでふにゃふにゃになった札がぺたりと体にくっ付いて終わりだろう。
水に耐性を付けた札も作ることはできるのだが……霊力を纏わせてコーティングするという構造が故ショットなのに霊力消費が少し激しくなる。それくらいならば針を使う。
「ほぉ……、空を飛べるとは流石に驚いたな。もっとも、そんな攻撃じゃ俺には通用しねえけどなァ」
そう向こうは愉快そうにクククと笑う。
その眼は、私をあくまで娯楽の対象としてしか捉えていない。どれほど動けるか、いつまで床を跳ねていられるか――まるで壊れかけの玩具のようにしか私を扱っていないらしい。しかもそれを大切にしようとする気は更々ないようだ。
「お返しだ、受け取れ。水遁・水牙弾!」
瞬時に印を組んだ途端、その背後の池から数十もの螺旋回転を描いた水の塊が私に飛び掛かってきた。それは勢いを殺すことなく空中で浮遊している私へと一気に距離を縮める。
「警醒陣!」
その応酬に対し下手に避けると厄介と判断した。ショット程度で相殺も出来なさそうなので咄嗟に札を生成し結界を展開し対抗する。
そして向こうの水塊は難なく結界とぶつかり、霧散する――はずだった。しかし、その挙動は目論見から外れていた。
結界に衝突してもそれ自体にヒビ等は入らなかったのだが、その数多の水の塊がそれと同時に破裂したのだ。
「なっ……!?」
どうも無理に水に圧縮回転をかけ不安定な状態にしていたらしい。結界という硬い壁にぶつかったことにより形を留め切れず破裂したそれにより視界は分厚い、チャクラのせいで粘っこい水で一瞬だが完全に使い物にならなくなってしまった。
まずい、来る。脳内のアラートが鳴り響く。
「ウォラァ!!」
「ッ!?」
そしてその警鐘の寸秒後に迫ってきたのは再不斬本体――もっとも、私の視界が最初に捉えたのはあの鉄の刀だ。
ある程度高い位置にいるはずなのにそれをもろともせず跳躍し、高速で近付きつつ大きく薙ぎ払われたその鉄包丁が結界と衝突したのだ。
ピキ、という断裂音が徐々に大きく響いてゆく。
(まずい、結界が持たない……!)
あそこまでエネルギーを持った斬撃を喰らってしまうと、警醒陣どころか二重結界でも危うい。水分身との戦いでアレだったのだ、本体となるとシャレにならない、しかも避ける時間すら与えてくれない――クソッ、仕方ない。
「これは使いたくなかったんだけどね!」
手から生成するのではなく袖から1枚の特製の札を取り出し、向かってきた再不斬に向けて少し霊力を札に送ってやる。
札が淡い青の光に包まれたと思うと、突如としてそれは大きく、周囲を巻き込みつつ破裂
「ぐっ!?」
「きゃっ!」
霊撃。専用の「霊撃札」を使用し、その札から霊撃波を発生させることでまわりのものを全て吹っ飛ばし場をリセットさせるという攻防一体の技だ。
便利そうな技だが、しかしデメリットも存在する。それは方向関係なく全てを吹っ飛ばしてしまうが故に、使用者自体も吹っ飛ばしてしまうという点だ。しかも専用の札が必要なうえ範囲もさほど広くないと言うこともあり、あまり使用したくなかったのだ。
不発してしまったりタイミングを見誤ること、それはすなわち相手にとっての絶好の隙を作ることに他ならない。
吹き飛ばされ空中を一回転しつつもなんとか体勢を元に戻し状況を再確認する。再不斬は――地上で足をついているしまっている。空中でバランスを失わせた結果少し足に痛手をやることができたか、詳しくは分からないがとりあえず場をリセットするという目的はなされたらしい。
そして下を覗くとそこには二重結界と、その中で八卦炉を構えている魔理沙の姿が――ん? 八卦炉?
「なにやってんのよあいつら!?」
あまりの事に叫んでしまった直後、極太の白い光線が特異な音とともに私の二重結界は呆気なく打ち壊れてしまっていた。
◇
霊夢が空中に浮遊しつつ再不斬と対峙している間、結界内に取り残された少年少女5名も何ができるか話し合っていた。
霊夢が張った結界によって彼らの安全もある程度確保されていたから、そして内側からこれを破ることができる彼女の唯一無二の親友がいるからこそできたことだ。親友の気遣いの結界を親友が破るとは、何とも皮肉なものではあるが――。
「まず、なんとかしてあの2人を水牢から解放させることが第一だ」
サスケの言葉に皆が頷く。
結界の中から霊夢と再不斬の戦いを冷静に眺めていた彼には、この戦いではどうやら霊夢の方が若干だが劣勢にあるということは容易く理解できた。勿論、その圧倒的な実力差に対して悔しさも感じていたのだが――今はそちらの環状に傾倒している場合ではない。そんなことくらい頭脳明晰な彼には分かっている。仮にもナンバー2だったのだから。
霊夢がいない今、この面子を引っ張ることができるのは彼しかいない。
今の所霊夢と再不斬の戦いはほぼジリ貧だ。
「悔しいが、今の俺達が真っ向から攻めてもあの霊夢の足元にも及ばない。当然あの再不斬とかいう野郎にも、だ」
サスケの冷静な的を得た指摘に、各々僅かに歯を噛み締める。
事実だった。たとえこの5人で霊夢に真っ向から襲い掛かったとしても、服に傷一つ付けることは成し得ないだろう。
ナンバー1とナンバー2の差は、山と谷ほど大きく、隔たりのある物だった。それは彼も承知している。
「……だが、それは『真っ向から、本体と戦えば』の話だ。あの囚われている2人を助けるだけなら、俺達でもできるかもしれない」
『!』
サスケが他と一線を画しているところはこ
他がこの、体験したことのない状況でどうすればいいのか慌ててふためいている中彼だけはそのうちは譲りの洞察眼を用いつつ戦況を把握し続けていた。実際の所、アカデミーを出てホヤホヤの下忍が初めての場で冷静にこの行為を行うのは難しい。
ナンバー1と2の差は大きいがそれは霊夢があまりに、規格外にも程があるというだけでありナンバー2でも十分規格外なのだ。相対的には霊夢と劣っていたとしても、絶対的に見れば明らかに上を行っていたことに変わりはないのだ。
「けどどうしろって言うんだぁ!? 霊夢が張った結界のせいで出ることすらできねーじゃねえか!」
「それなら私がどうにかするさ」
ナルトの疑問に答えたのは魔理沙だった。その右手にあるのは至る所に細かいひっかき傷がついた宝物、八卦炉。
「私のマスパがあればこれくらいなら破れる」
「……確かお前のそれは連発できないんだったな」
「そうだな、特にいくら破れるとは言っても、霊夢の二重結界となると相当チャクラを使わないと破れない……一回やるとしばらくは撃てないぜ」
「……」
彼女の言葉を聞き無言で軽く俯きつつ考えを纏めていく。全く、敵にとっても味方にとっても厄介結界を張ってくれたものだ、と心中で溜息を吐いた。
つまりは、魔理沙は戦力として使えないと言うことだ、これははっきり言って痛手だ。確かに撃つまでのラグをカバーする必要があるとはいえ、上手くいったときの破壊力はとてつもない。かすりさえすれば、あの影分身は消滅するだろう、しかしそれが使えないとなると、少々プランを変える必要があるか。
別にあの2体を同時に相手にしなくていい、1体さえ消滅させることすら必要ない、あの水牢から腕さえ抜ければ――解放された上忍が影分身を消せる。一気にこの展開を打開できる。
となればやはり狙い目はカカシについている方だろう。未だに軽く信じられないがあれでも相当なやり手らしい。
面子を改めて振り向き見回す。――まあ、お世辞にもいいとは言えない面々だ。その中でも特に面識のなかった一人に声を掛ける
「ヒカル、とか言ったな。お前は何ができる」
ぶっきらぼうな問いかけ。"ナンバー2"に僅かに嫌悪感を感じつつも、仕方なく答える。
「……一応刀術をある程度。遠距離に関しては察してくれ……あと言っとくがあの怪人には敵わんぞ」
「んなことは言われなくても分かってる」
少し怒気の強いサスケの言葉にヒカルも流石に少し顔を顰めるが、彼はそんなことお構いなしに顔を戻し熟考を再開する。
魔理沙が使えない以上全体的に近接寄りだ、ある程度遠距離に回れるのは自分のみ。しかも防御面を考えると魔理沙とサクラはタズナのもとに残す必要もあるだろう。
少なくともこのヒカルという奴はそれなりに動くことは出来そうだ。ナルトと合わせたこの3人の能力を利用して、何か策はできまいか。相手を欺ける、この盤面をひっくり返せる何かは――――。
「俺に一つ、考えがあるってばよ」
そこで想い掛けぬ方向から声がかかった。金の髪を揺らす少年、ナルトだ。
「策、だと? お前がか?」
「ああ、そうだ」
自信の籠った目。ふむ、聞く価値はあるだろう。
「……いいだろう、今すぐ話せ」
◇
再不斬本体が地に片膝をつけ隙を見せたと同時に、霊夢の二重結界が中から木端微塵に破壊された。そして突然で予想すぎることに一瞬茫然としてしまっている彼女を余所に3人が水牢からの解放へ行動を開始する――一瞬のドミノの最初の一枚が倒れ始めた。
サスケの手にあったのは4枚刃の巨大な風魔手裏剣。それを速度稼ぎの為上空へ跳躍しながら大きな挙動で一気に振り下ろした。
「ふっ……」
しかし再不斬の顔に焦りはない。それどころか笑みすらも浮かんでいる。
それもあまりに不自然で、不敵な笑みだ。
「この隙を利用してあの2人を助けようとする算段なんだろうがァ……甘ぇ」
ゆっくりと立ち上がる。しかし手裏剣は既に再不斬の横を通過している、着実に距離を詰めている。霊夢もいつでも動ける体勢にある今、最早止めようとしても間に合いはしない。
何が彼を、こうさせているのか?
サスケの算段としては霊夢の即応力を見込み、再不斬が動いたとしても彼女が一瞬だけでも食い止める事を前提としていた。しかし、箱を開けてみれば動きすらしない。一抹の疑問が彼の中に生じる。
とはいえ今更歩みを止められはしない。このまま作戦を通してやるしかない。
「たぁっ!」
そして手裏剣の後に続くようにしてヒカルがカカシのもとへ動く。しかしやはり再不斬は立ちあがったまま動かない。走りゆくその黒髪の少年の姿を傍目で見送るのみで、腕一つ動かそうともしない。
一体何を考えているんだ、余りに上手くいきすぎている展開にサスケの中で違和感と焦りが増大する。自分が動かずともなんとかなるとただ油断しているのか――予想がつかない。
風魔手裏剣は表面を鈍く輝かせつつ、サスケの絶妙なコントロールによってカカシを捕える影分身の背後へ順調に回り込んでいた。そして前方にはヒカルがクナイ数本を握りしめつつ接近する。
そして手裏剣の軌道がその分身体に向いたと同時に、ヒカルもクナイを一気に、鉛直方向に展開しつつ投擲した。
後ろからは巨大な手裏剣、前方からはクナイの大群。
「背後と前方、双方から挟み撃ちにしようとするつもりなのだろうが……決定打とタイミングに欠ける」
がその攻撃は空振りに終わる。高速で飛来した手裏剣を強靭な腕の筋肉を以って素手で受け止め、さらにそれで目の前のクナイを全て容易く跳ね返してしまったのだ。
「まだだ!」
けれどこれで終わらない。接近していたヒカルがそのまま長刀・楼観刀を大きく薙ぎつつ真っ向から分身体へ突っ込んでいったのだ。
「バカがァ! ついに気がおかしくなったか!」
当然、そのような攻撃など元霧の暗部の再不斬に通用するはずもない。呆気なく薙ぎ払いを避けたと思うとその刀を逆に奪い取り、心臓目掛けて至近距離から突き出した。
上空で様子を見ていた霊夢の顔色が変わる。しかし、動けない。この上空での警戒は本体のタズナ・魔理沙方への攻撃の牽制も兼ねている以上、下手に動くとがら空きになったところをやられてしまう可能性があった。共倒れだけは起こしてはならない。
結局、彼女の心配は杞憂に終わる。胸を貫かれた瞬間、小さく爆裂音を生じさせつつカクルと刀が共に煙となり消失したのだ。
「影分身……だとォ!?」
影分身の術。取得難易度Aに相当する、本体とほぼ遜色ない分身体を作り出す高等忍術をこの小さな下忍が使用した――この事実に、ついに今再不斬が初めての動揺を露わにした。
正体はナルトの影分身+変化の術である。影分身に変化を重ねるという器用な芸当は通常に忍にはまずできないものなのだが、彼はその至難の業を当然のごとくやってのけたのだ。
加えて、ナルトの影分身が即座に再不斬へ突っ込んでいった理由は動揺を誘うことのみに留まらずもう一つあった。それは、意識をそちら側に向けさせるためだ。
「ッ!?」
「それ」に気付いたときには最早手遅れだった。
風魔手裏剣に隠れていたもう一枚の手裏剣が、またも背後からこちら側へ切迫していた。その距離は既に3mを切り、あと残り寸秒で衝突するところまで来ている。
そう、最早「手遅れ」だったのだ、何もなければ。ドミノは、最後の板にまでやって来ていたのだ。
場の全員が、勝利を確信した。
唯一人、桃地再不斬――その人を除けば。
「……だから、甘いつってんだ」
突如水中から出て来た、4
あれ、なんでここまで長期戦化してんだこれ、どうしよう……。なんかもうこの戦いがラストでいい感漂ってる。
つ、次には終わります。