忍の世に降り立つ博麗の巫女   作:しゅれー

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第二四話 ―決着―

「残念だったな。いい線は行っていたが、まだ足りねえ」

 

 水中から突如として現れた4体目の再不斬の分身体、水分身がその身体を使い、身を呈してもう一枚の手裏剣の飛来を受け止めていた。

 役目を終えたそれは形を崩し、水と化して池へと溶け出てゆく。同時に刺さっていた手裏剣も刺さるものが無くなり、そのまま水の上に「浮いた」。

 

「さて、結界もなくなったことだ。いい加減ケリをつけさせてもらうか」

 

 結界にポッカリと空いた穴、中には下忍が5名、水牢に囚われたままの上忍二名、そして上空には一人霊夢が漂っている。

 

「全ての手は封じた。上のあの巫女も、俺がいれば好きに身動きは出来まい」

 

 霊夢も今になっては特に障害ではない。水分身一体あれば結界内の人間は全員殺せる。それまでほんの少し本体が時間稼ぎさえすれば、それで終わりだ。

 今回の目的は「目標の殺害」でしかない、木の葉の忍を殺すことが目的ではないのだ。

 

 しかし、どうも向こうの――結界内の様子がおかしい。

 この絶望的状況、死が一歩手前までに近づいている状況で全員が正気を保ったまま、慌てる様子なども一切見せずただ一重にこちらを見つめてきているのだ。

 何かがおかしい、そう思っていると結界内から声がかかった。キザギザヘアが特徴的な――先程まで霊夢に代わって指揮を執り行った、サスケだ。

 

「お前は俺達の事を『甘い』と、そう言っていたな」

 

 話す言葉もそうだ。言葉に震えも、動揺すらも一切ない。

 まるで全て相手の手中で――あの少年の掌で踊っているだけのような感覚。

 

「……そうだ、お前たちは甘い、弱い。俺の足元にも及ばねえガキの集団だ」

 

「フッ……」

 

「何が面白い」

 

 語気が僅かに荒くなる。しかしサスケは一切動じない。あたかも――先程の自分を見ているかのようだ

 

「……そうだ。確かに俺達は『真っ向から』ならばお前に手も足も及ばない、それは素直に認める」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――だが、その事実に足元を掬われるのは他でもないお前だったみたいだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのサスケの言葉とともに小気味よい、小さな炸裂音が場に響き渡った。音は池の方から――そう、あの防がれてしまった手裏剣からだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん……だとォ……!?」

 

「ふっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年が小さく嗤い、怪人が後ろを振り向く。

 その怪人の目に入った光景は、その想像をはるかに上回るものだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼人、捕えたり……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 池に浮いた一人の少年が、刀で鬼人の分身を串刺しにしていたのだから――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その怪人は、桃地再不斬は確かに油断していたのだ。

 

 錆びを一切見せない輝く細い刀身が分身を貫き天へ突き出る。勿論、いくら影分身と言えどここまでやられると形を維持できない。呆気なく煙と化し無に帰す。同時に水牢も崩壊し、中で囚われていたカカシが解放された。

 ドミノの最後の一枚は、確かに倒されたのだ。

 

「霊夢、お前はカクルの解放に向かえ! 今度は俺が本体とやる」

 

 ようやく自由の身になった彼は、拘束からの解放の直後であるのにも関わらず狼狽えることなく的確な指示を出していく。ここに上忍としての、数々の命懸けの戦闘をこなしてきた熟練の忍としての能力が見える。

 

 そしてカカシの指示に無言で頷いた彼女は素直にそれに従いカクルの救出へ目標を変えた。

 

(とはいえ――遠距離技でゴリ押すと中のカクルまで被害出ちゃうわね)

 

 被害の少ない体術で攻めるしかないか。解放させるだけなら腕を引っこ抜けばいいだけなのでいくらでもやりようがあるが――この後のことを考えても影分身ごと消滅させておいた方がいいだろう。ある程度衝撃を与えさえすれば影分身でも消滅してしまうのだ。

 

 もう一体の分身へ急降下する。それに対し分身側も簡単に迎撃態勢を取るが、片腕を水牢に突っ込んでいるせいでとても迎撃できるようなものではない。

 

 重力に身を任せ、狂ったように直線的に加速していく霊夢。距離もそれに合わせ急速に近づいてゆく。そしてよもや衝突するかと思われた直前、霊夢の姿が唐突に忽然と消えてしまった。

 高速移動ではない、文字通り「消えた」のだ。

 

「なっ!?」

 

「遅い!」

 

 そして彼女が消えた数瞬後、分身体である彼の背後を激しい衝撃が襲う。瞬間的に霊力で活性された、飛び蹴り――とも言えない蹴りが背に吸い込まれるようにして炸裂したのだ。

 亜空穴。身体が接触しかけた瞬間に空間を背後の空間と繋ぎ移動したのだ、その勢いはそのままに。

 

 勿論そのような攻撃を受けて分身が耐え切れるわけもなく、衝撃が伝わった次の瞬間には姿は消失していた。続いて水牢も呆気なく崩れ去りカクルも解放される。

 

「済まないな霊夢、恩に着るぞ」

 

「全く、弛んでるんじゃないの?」

 

 少し溜息を吐きつつ、呆れ顔で指摘する霊夢に対しカクルは苦笑でしか返すことができない。

 確かに指摘された通りだ、実際に動いていた時から薄々理解していた事ではあったのだが――身体が鈍っている。ここ最近、九尾事件から大きな動乱がなかったためか。ここまで切羽詰まる命の駆け引きはしばらく経験していなかった。

 結局この少女から――同じ班の部下に救出されてしまうとは、我ながら情けなく彼は思う。

 

「……とりあえずは何とかなったしもういいけど――」

 

 そう話題を変えつつ視線をカクルの方から外し、身体ごと後ろへ向ける。彼女の視界に入ったのは作戦が上手くいき各々喜び、ハイタッチをもしている4人の姿。ヒカルも池から顔を出し僅かに笑みを浮かべている。

 

 

「――成長してるわね」

 

「……!」

 

 

 純粋に、少しだが驚いた。

 

 この気難しい少女が、素直に班員の成長を認めるとは――。

 

「まあ、流石にアイツが刺された時はヒヤッとしたけどね」

 

 そう霊夢は言っているが、顔はいつもの無表情ではない。彼女もその様子を見て微笑ましく思っているらしい――そのいつもはまず見せない少しやれやれといった、見守るような安堵の顔を見ればすぐ分かる。

 しかし、初めて見た。

 

「お前たち、よくやったぞ! 成長したな!」

 

 カカシも各々へ心からの笑みを向ける。担当している第七班だけでなく、九班からも成長が感じられる。

 作戦だけではない。一人一人の能力も、連携も、全てが着実に進化していっているのがよく分かる。現にこの再不斬という数段も格上の忍を見事に出し抜き、自身の解放を成功させたのだから。

 

 

 しかし場を流れる平穏も一瞬の物だ。

 

 

 まだ相手に痛手は殆ど何も負わせていないのだから。

 

「あまり調子に乗るなよ」

 

「ッ!」

 

 甘い雰囲気を鬼人の怒涛が一気に緊迫で締め上げる。笑っていたカカシに向かって再不斬の斬撃が襲い掛かったのだ。

 しかしカカシも先程までとは違う。その重い斬撃をクナイ2本を束ねた上で受け止めきっていたのだ。

 

「悪いが、ここからはこちらが主導権を握らせてもらう」

 

「なんだと……?」

 

 そのまま刀を押し切ると同時に背後の池に跳躍し距離を取る。相手もそれに合わせ池へ跳び、改めて対峙する。

 

「フンッ」

 

 そして再不斬が高速で印を組み始める。

 目にも止まらぬ速度で長く複雑な印を結んでゆく彼だったが、しかし、それ以上に衝撃だったのは向かい側にいるカカシの行動だった。

 

(こいつ……この印をリアルタイムでコピーしていやがるってのか!?)

 

 コピー忍者のカカシ――左眼に宿る写輪眼により、これまで数え切れぬ程の死地を経験した中で術に遭遇しては獲得していったことにより付けられた通り名が、正に真なる物であったことを裏付けるのには十分な光景であった。

 

 彼の視界に映るのは、自分と全く同じ印を、全く同じタイミングで結んでいるカカシの姿だった。

 

 コピーするにしても、それをする上自分より遅くないとおかしいはずなのに――彼は、完全に同じタイミングで印の構築を行っているのだ。

 

『水遁・水龍弾の術!』

 

 そして、同じ瞬間に構築が完了し術が展開される。

 現れるのは、水の龍。チャクラの練られた池の水で形取られた双龍が、彼らの背後でまた睨み合う。

 危機を悟った、陸から離れた場所でその光景を眺めていたヒカルが池からの脱出を試みるが、異様に粘っこいチャクラの練り込まれた水のせいで上手くいかない。もがき苦しむところにカクルの助けが入る。

 

「すまない……」

 

「気にするな、よくやったよ」

 

 沈みゆく重力に抗い引っ張り上げて肩を持たせ、陸地まで瞬身の術を以って移動し下ろしてやる。

 しかしカクルもぼけっとはしていられない。欠かさず次にカカシの援護に入る。

 

「雷遁・感激波!」

 

 カカシ側の水流の更に背後に降り立った彼は、雷遁のチャクラをそれに纏わせ攻撃力を大幅に増加させる。

 雷と水は相性は悪いが、要はバランスだ。絶妙な量加減で組み合わせてやれば更なる攻撃量の増加が見込める。しかも相手も水遁、勿論雷は水に対して優なことには変わりがない。

 

 雷を従えた龍が他方のそれに襲いかかってゆく。互いを喰らわんと犇(ひしめ)き拮抗はするが、忍術の性質変化の摂理・優越には抗えない。

 

「何だと……ォ!?」

 

 結果雷龍はただの水龍を喰らい尽くしてしまい、更に再不斬の元へと襲い掛かった。

 

「チィッ!」

 

 その猛攻をなんとか跳躍して一回は避け切ったものの、それは勢いをそのままに再び空中の鬼人に襲い掛かる。空中で行動が制限されている今、自身の身体より何倍も大きいそれを避ける術も、また対抗する術を発動させる時間も、ない。

 

 成す術もないまま鬼は龍に蝕まれてゆく。声にもならないような叫び声を上げつつ悶え苦しんだ挙句、雷に侵食され全身を焦がされる。

 全てが果たされ残されたのは、身体のあちこちに火傷の跡を残し地に横たわる再不斬の姿のみだった。

 

「今のお前にあるのは死、それだけだ――」

 

 そして念のためにカカシがその心臓を目掛けとクナイを振り下ろそうした、その時だった。突然あらぬ方向から千本が飛来し、首に数本が刺さってしまったのだ

 

 各々に衝撃が走る。千本に似た針は霊夢が使ってはいるが、彼女自身も突然の事に僅かに顔を顰めていた。何もしていないことは明白だった。

 

 仕方なくカカシは動作を中断し、代わりにしゃがんで脈を計る。

 

 ない。死んでいる。

 

 次いで飛来した方向へ皆が顔を向けると、そこには一人の少年――なのか少女なのか分からないが、少々幼げな体躯の人間が佇んでいた。整えられつつ伸ばされた長い漆黒の、艶のある髪は和式人形を彷彿とさせるが、声はわずかに低め。恐らくは男なのだろう。

 顔には暗部の面を装備していて、そこはかとなく不気味だ。

 

「ふふっ、本当に死んじゃった」

 

 その言葉の裏に隠れた、仮面が覆う表情は一体何なのか、窺い知ることは一切許されない。

 

「ありがとうございました。――確実に再不斬を殺す機会を窺っていた者です」

 

「その面……お前、霧隠れの追い忍か」

 

 彼(彼女?)の姿を見てカカシが尋ねる。対して相手側は素直にそれを首肯する。

 

「流石、よく分かっていらっしゃる……」

 

 成程、と事情を理解した各面々が頷く。尤も一人、ナルトだけは『追い忍』という言葉の意味を知らず喚いていたが同じ班のサクラにバカにされつつも教えられ、渋々、と言った風にではあるが一応納得したらしい、意味を聞かされるとそのまま黙りこくった。

 

 

 そして、無意識に恐怖すらも覚えていた。何故だ、向こうが敵ではないのは歴然としているのに――どうしてこの目の前の人間に恐怖しているんだ――。

 再不斬と対峙しているときにも感じなかった、本質的にベクトルの異なる恐怖。

 

 

「追い忍ねえ。私と同じくらいなはずなのに、ずっと追い掛けてたなんてご苦労様としか言えないわ」

 

 

 その答えは、間近にあった。

 霊夢のその冷静な言葉を聞いて、理解したのだ。

 

 

 

 この恐怖は、さっきこの少女によるものだ。

 

 

 

 ――『私と同じくらいなはず』の紅白の巫女の、その決定的なほどの実力差と蒼々たる姿に心を揺らされ、恐怖したあの時の物と、全く同じ物ではないか――。

 

 

 

 そうだ、確かにそうだ。

 目の前の木の枝で突っ立っているこの少年の纏うこの雰囲気は、この異常さは――『博麗霊夢』という存在に纏うそれと、偽りなく合致しているではないか。

 

「クッ……!!」

 

 気付かない内に走り出していた、その少年の方向へ。しかし何を言い出せばいいものか、分からない。何をどう、このまるで、『博麗霊夢』の生き写しのような人間に語ればよいのか、ナルトという幼き少年には思い浮かびはしなかった。

 

「お前は――一体何なんだよ!!」

 

 代わりに口から現れたのは、「あの時」と同じ問いかけだった。解決法の分からぬ恐怖に苛まれ、咄嗟に出てきたあの言葉を繰り返すことしか、彼に成す術はなかった。

 

 しかし向こうからの返事は、ない。仮面に隠されたその表情を窺い知ることもできない。ただ目に入るのは無機質な、白に赤が彩られた素性を隠すそれだけだ。

 

「落ち着けナルト、奴は敵じゃない」

 

「んなことは分かってんだッ! 俺は……!」

 

 彼のぶっきらぼうに問いにまわりは誤解する。彼のその苦しみを勘付ける者は、理解し得る者は、今この場に誰一人としていない。

 

「この世界にはお前と同じくらいの年で圧倒的に強い奴もザラにいる――俺より強い奴も、だ。お前もよく知っているだろう」

 

 違う。そんなことは判っている、その例が自分の真後ろにいるのだから。

 

 ――俺が言いたいのは、そんなことじゃない……――

 

 追い忍の少年はその様子を軽く一瞥だけするとフッと姿を風に任せ溶かし、横たわる再不斬の横へふっと移動する。

 そしてその明らかに重々しい身体を持ち上げつつ、彼らに告げる。

 

「この死体には秘密が多い――処理をいろいろしなければならないのです。申し訳ありませんが、ここで失礼します。退治していただいたこと、感謝いたします」

 

 それだけ言い残すと、彼はまた風に吹かれつつどことなく消えてしまった。呆然とするナルトと、他の七・九班の面子が場に残される。

 先程まで確かに居た場所へナルトは走り寄るが、当然のようにそこには何も残されていない。釈然としないこの紋々とした、そしてこの恐怖を一体どうすればいいのか。拳を握りしめることしかできない。

 そんなナルトに対しカカシはぽさっと荒っぽく頭に手を乗せる。

 

「悔しいのなら、奇怪なら、それこそこんなところでグズグズしてる場合じゃあないだろう」

 

「……」

 

 正しい。

 そうだ。恐怖するならば、自分が恐怖しなくてもいいように、追い越せるように強くなればいい、単純な話だ。恐怖なぞ、抱いている場合ではない。

 

「……まだ任務は終わっちゃいない。まだ護衛は続いてるからな」

 

「そう、だってばよ……」

 

 立ち止まっている場合ではないのだ。勿論、未だに恐怖は残るけれどそれに足を引っ張られていてはいつまでも挫けたままだ。

 

 ゆっくりと立ち上がり、前を見据える。行ける。

 その姿を見たカカシも僅かに顔が笑みを含んだものへ変わる。頭から手を放しつつ他のまわりに告げる。

 

「よーし、元気に行くぞー!!」

 

 そう言い歩き始めた直後に写輪眼の多用による疲労で倒れ、やっぱりなとぼやきつつカクルが介抱することになったのはまた別の話だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 タズナの家は土地代が実質的にないことや、自身が大工なこともあってか思いのほか広く、8人が押し掛けても特に苦にならないような、それほどの広さを誇っていた。

 

 その日は到着して各々が休息を取ることとなった。いくら倒したとはいえどあの再不斬という人間を前にしたことによる身体的・精神的疲労は、特に下忍にとっては計り知れない。

 肝のカカシが倒れていたこともあり、晩飯だけ食べるとほぼ全員が床に就いてしまった。

 皆が寝静まった夜深く、リビングに残されたのはカクルと霊夢、2人のみ。

 

 

 

「――『写輪眼』って奴は確かに高機能なんだが、うちはの血を継いでいない人間が使うと物凄く効率の悪い武器にもなるんだ。適正体じゃないって言うのかね」

 

「なるほどねぇ、そうそう使えるってもんでもないわけね」

 

「ある程度訓練すれば身体も慣れて持続時間が伸びるらしいんだけどな……」

 

「しばらく使う機会がなくて鈍っていた、と」

 

「ま、そんなところだろうな」

 

 そう言いカクルはテーブルに置かれたコップを手に取り水を喉に流し込んだ。彼にも思う節があるのだろう、その動作は少し乱暴だ。

 

「――しかし、お前も少しは変わったじゃないか」

 

「なによ、突然」

 

「珍しいじゃないか、あの連携を見て『素直に』褒めるなんて」

 

 霊夢の眉が僅かに、ピクリと動く。

 

「……『変わってる』のは、私だけじゃないのよ」

 

 妙に含ませ気のある言葉に少し疑問が浮かぶ。そんなカクルの一方で彼女はそこまで話し終えた所でおもむろに立ち上がったと思うと、家の玄関のドアノブに手をかけた。

 

「どこに行くんだ?」

 

「……別に、少し屋根から月でも眺めようと思っただけよ」

 

「いくらお前でも直接戦ったんだ、疲れてるだろう。早く寝た方がいいぞ」

 

「分かってるわよ、すぐに戻るわ。あんたこそ早く寝ときなさいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上まで浮いて移動し、適当なところに腰掛け、空を見上げる。

 

 澄んだ空気に、煌々とした三日月が聳える。そしてそれを取り囲むようにして夜空の星々が気ままに輝き、光に飢えた地を潤すかのように照らす。周囲には森が広がっており、時々響くコオロギの音が情緒深く心地良い。

 

 こんなところに一人で来たのなんて、理由はない。――理由はない、と言いたいが、そうも行かない。

 理由なんて、大アリだ。そうでもなければ素直に寝ている。けれど、あの金髪の少年が言い放ったあの言葉が、寝るのを許してくれない。

 本人としては考えなしに放った言葉なのかもしれないが、彼女にとっては重要な問題なのだ。

 

 それは彼女、「博麗霊夢」という存在そのものの意義を揺るがす根底的な――意図的に胸中に押し込め誤魔化していた哲学的な大問題、もっと言えば『地雷』に近いものだった。

 

 

 

 

「『お前は誰か』だなんて……私にも、分かんないわよ……」




葛藤するのは、ナルトだけではない。

次回はそんなお話です。

連絡先をプロフにて公開しました。公にしたくない質問や挿絵提供等がもしありましたらそちらに書いてある連絡先にまでお願いします
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