ごめんなさい
「よっと」
空を飛びながら木の幹に設置された的に向けて、手から札を生成し放つ。
木々に設置されたの的に、それぞれにキッチリ10枚の札を当てる修行。霊力コントロールを上げると同時に、札の的中精度も上げ、空中での行動にも慣れていく練習である。
霊夢の空を飛ぶ能力が一体どこから遺伝してきたものなのかは分からないが、少なくとも空を飛べることは大きいと神奈も判断していた。それを使わない手はない。
「ふむ……、やはりまだまだ修行が足りませんね」
まわりの的を見渡してみるが、まだまだ外している札があったり、当てていても10枚に足りていないものや、逆に当てすぎという的も散見される。
「キッチリ10枚」というところが難しい所で、空中を動きながらで集中力が削がれてしまう中、過不足なく札を生成し、正確な方向に当てるというのは霊夢の才能をもってしてもなかなかに難航していた。
「うーん、なっかなかうまくいかないわねえ」
「けど焦ったらもっと精度が低まりますよ。時間も別にまだありますし、じっくり行きましょう」
地上に降りて腕を組み唸る霊夢と、それを宥める神奈。しかし、それでも霊夢の成長の速さは目を見張るものがあった。
神奈自身飛べないので何とも言えないが、「飛びながらの投擲」というのは非常に難しいと予想している。いくら飛べるとは言えど地上と違い空中というのは不安定な物。地上からの投射と違いそれは更に3次元的な動きであり、常人以上の空間把握能力が必要とされている、と神奈は予想していた。
それでも彼女は、空中戦という更なる負荷を抱えているのにもかかわらず自分と同じくらいのペースで成長を続けている。やはり天才か。
「もう一回……!!」
「その意気です」
どうもこの修行をなかなか抜け出せないことを少し悔しく思っているらしい。いつもと少し違って積極的に修行的に臨む霊夢を、穏やかな目で神奈は見つめていた。
さて、それとは別に神奈は少し霊夢に対し不安に思っているところがあった。彼女に、友達と言える友達がいないのである。
彼女は少し変わった子だと、神奈は思っていた。
6歳だというのに女の子らしい幼児的な遊び――例えばおままごとや人形ごっこ――に一切興味を示さなかった。かといって男の子らしい遊びに対しても興味を示すことがなく、里に買い出しに付いて行ったときも公園で遊んだりしようとしなかった。
確かに喜怒哀楽の感情に関して乏しいわけではないのだが、どうも人付き合いを避けている奥手な娘――それが神奈の抱く霊夢の印象だった。
その原因は彼女が元々は男性の大学生であり、そういう幼児的な遊びをする気がいくら身体が小さくなったとはいえ流石に起きなかった、というものなのだが神奈がそれを知る由は当然ない。
忍者アカデミーに入学させようにもまだ幼い。戦争当時は即戦力が必要だったため入学年齢の制限は取っ払われていたものの、今はそうはいかない。忍アカデミーは4年制の学校で入学最低年齢が8~9歳。まだ少し年齢が足りなかった。
しかし、この歳で友達がいないというのは後々大きな影響を及ぼす。彼女も、多くなくていいから信用できる親友を作っておいて欲しいと、そう切に願っていた。
それに対して神奈が全く手を打たなかったわけではない。
博麗は規模は小さいが一応は「一族」である。そのため、里の他の一族との交流もあった。奈良、山中、秋道、犬塚、油女等がそうである。
しかもそれらの一族には皆霊夢と同じ年代の子供を有していた。彼らと接触させてみるというのは当然の発想だった。そのため彼女は時々その一族に尋ねては彼女を子供たちと遊ばせるように仕組ませてみたのだ。
実際付き合いは悪くないようで、基本的には皆仲良くやらせてもらっているわけだが、どうも彼女は「友達」とまでは認識していないらしい、そんな雰囲気だった。知り合い以上、友達未満と言えばいいのだろうか。
その一族の子供が山中家以外皆男だということも原因なのかもしれないが、仲良くはなったものの里の公園へ彼らと遊びに行くなどと言うことは依然としてなかった。
そして、それは霊夢も気にしていた事だった。
生前読んだ本に僕は友達がなんたらとかいう本があったが、それが今まさに現実と化そうとしている。いや、既になっている。どうしたものか。
何やら色々な家を巡らされて色んな同年代の子供と触れ合わされたのだが、どうも気乗りしない、もしくは気乗りされない。
奈良の子にはめんどせえと一蹴され、秋道の子にはポテチを渡されるだけで「お、おう」としか反応できず、犬塚のは飼っていた犬――赤丸というらしい――に突然噛みつかれノックダウン、油女に至っては身体から虫から這い出ていて生理的に受け付けてくれなかった。最初会ったとき失礼ながら悲鳴を上げてしまい神奈に叱られてしまったし、彼も心底落ち込んでいたようだったが仕方ないものだったと彼女は割り切っている。前世からああいうものは苦手なのだ。
しかも親と神奈の話の内容を聞いているとこの娘は可愛らしいだとか、是非うちの息子に嫁いでもらいたいものだとか言っていて霊夢は(形だけ)遊んでいる最中冷や汗が止まらなかった。こんなキャラが濃い面々と結婚だなんて死んでも勘弁だと心底思う。そもそも彼女は元々男なわけで、男に興味など一切湧かない。
唯一マシだったと言えたのが山中家の娘であった。彼女は霊夢にとっての唯一の良心とも言える「女性」であり、可愛い、と抱きつかれ人形みたいだ、と騒がれるだけで済んだ。
心の中の前世が男だったときのプライドがバキバキと折られる中人形ごっこだとか色々される羽目にもなったが、まあ他の男どもに比べたらずっとマシだと思い遊びに付き合ってもやった。彼女の家にだけは時々今でも邪魔させてもらっており、彼女だけは友達と言えるのかもしれない。
しかし本当に「友達」と言える友達は依然としていないわけで、彼女も彼女で頭を抱えていた。
しかし、そんな霊夢に遂に「出会い」が訪れる。
それは境内をいつものように掃除しているときだった。
余談になるが、いつか、神奈にこんな誰も来ない神社に清掃の意味はあるのか、と訊いてみたことがあったのだが、これも修行の一環だとか、綺麗にすることで神様への――だとか言われてしまい反論できなかった。
もっとも、彼女自身修行がないときは暇なので別に構わないのだが。
さてそんな中、珍しく参拝者が現れた。
常に静寂が流れゆく博麗神社の境内に響く、軽やかな石段を上る足音。霊夢もそれに気付き、珍しいと思いながら鳥居の先を注視していた。
そして石段を上り切り、霊夢の目の前に現れたのは、金髪の、霊夢と同じくらいの身長の少女だった。
金髪とは珍しいと思いつつ、幼い身体には酷な石段のせいで頭を下げ、手を膝へやり肩で息をしているその少女の姿を眺めていたのだが、どうも霊夢にはその面影にどこか見覚えがあった。
金髪の頭頂部と服しか見えず情報量が少なすぎてよく分からないが、どこかよく見知ったような――そんな感覚。そしてしばらくして頭を上げた少女の顔を見て、霊夢は驚愕した。
ウェーブのかかった金色のロングヘアー、身体の前に下がっている2束の髪のうち1つは三つ編みにされているのが特徴的だ。その三つ編みには小さく緑のリボンの髪留めが付けられていて、いいチャームポイントとなっている。
瞳も髪と同じく金色で、大きく幼児的なかわいさで溢れており、将来の美少女化が約束されたような顔立ち。
しかし、そんな容姿とは裏腹においおい嘘だろ、と霊夢は心中で激しくそう思っていた。しかしそれも無理はない。
――彼女の目の前にいる少女は、服装こそ違うものの「霧雨魔理沙」そのものではないか――
霧雨魔理沙。東方Projectの主人公の一人であり、霊夢と対になる人物である。
金髪に魔女を意識したような黒い服・帽子ににエプロンのようなものを付けており、紅白が目立つ霊夢に対し「白黒」などと呼ばれる。
霊夢と魔理沙は「腐れ縁」という設定となっており、実際原作にて魔理沙と霊夢が共闘したことは一度もないのだが、ちょくちょく博麗神社に遊びに行くし、霊夢もそれに対してはまんざらでもない様子なのでやはり仲はいいのだろう。「霊夢がいないと死んでしまう」と評されるが、それだけ魔理沙が霊夢を信頼し、依存しているということの表れと言える。
そんな自分と対になる、本来この世にいない人物が、今目の前にいる。
「世界の歪み」
その単語が霊夢の中で浮かんだ。
本来この世界に「博麗神社」は存在しない。博麗神社という本来東方Projectに存在するはずのものをこの世界に持ち出してきたことによる歪みが更なる歪みを作ってしまった――その結果が彼女なのかもしれない、と。
「……おーい」
一方で箒を持ったまま硬直状態の霊夢に彼女は痺れを切らし声をかけていた。これで呼ぶのは3度目である。
「えっ!?あっ、え、えっと……なに?」
漸く3回目にしてその呼び声に気付きはっと慌てて霊夢は我に戻った。しかしその言動は明らかに動揺を隠せていない。
「あの……私の顔になんかついてるのか?」
「あっいや、何もない何もない!ちょっと考え事してただけで……」
「ふーん……」
必死に誤魔化す霊夢を少しジト目で見つめる彼女。まさか「前世であなたを見ました、画面の中でですけど」なんて口が裂けても言えまい。とりあえずまず知るべきなのは彼女の名だろう。
「でさ、あんたがこの神社の『巫女さん』ってやつなのか?」
幼く可愛らしい顔を霊夢の目の前にまで近づけて尋ねてくる彼女に対し、少したじろいでしまう。
「え、ええそうね、まあ見習いってとこだけど。それがどうかしたの?」
「いや……」
顔を離し、まじまじと霊夢の身体を眺める。
「な、なによ」
その様子に困惑する霊夢。一体初対面で全身を舐めるように眺めてどうするというのか、理解が出来ない。
「……巫女さんのくせにちっちぇなあと」
「あんたも同じようなもんでしょうが!」
予想外の失礼なことを言われ反射的に彼女の頭を横から軽くバシッと箒で叩く。いってぇ……と叩かれたところを抑えながら彼女は霊夢を睨んだ。
「初対面なくせに失礼な奴ね、名を名乗りなさい」
落ち着いた様子で名を名乗るように促すが、そうすることで自然と核心へ迫る彼女の目は、焦りや期待、不安などが色々と混じっておりとても「落ち着いた」ものではなかった。
「私か?私の名は『霧雨魔理沙』。魔理沙って呼んでくれ。あんたは?」
「……霊夢、『博麗霊夢』よ。霊夢と呼んで。よろしくね」
世界というものは時に優しく、時に残酷だ。
これは優しさなのだろうか、残酷さなのだろうか。
これは自分へのプレゼントなのか、挑戦状なのか。
この世界の創造神様は何を思っているか分からないが、「博麗神社」・「博麗一族」というイレギュラーに飽き足らず神はまた新たなイレギュラーを生み出してしまったらしい。目の前で、自分もよく分かっていない博麗神社の神に祈りを捧げている少女の背中を見つめながら、霊夢はこの世界に来て何度目か分からない溜息を吐いた。
しかし、嬉しくもあった。たった一人、自分だけが元々異世界の住人だったはずなのが、仲間がいた。勝手にこちらが異世界の人間と彼女を決めつけて仲間に引き入れているだけで、彼女自身は転生者でもなんでもないはずだが。
それでも、同じ東方の世界の住人が服装は違えどこの世界にいる、ということは彼女を安心させてくれた。
「しかし珍しいわね。里にも神社はたくさんあるでしょうに、なんでここを選んだのかしら?」
祈りが終わった後、改めて対面し素直に疑問を述べる。
博麗神社は里の外れにあり、中心部から離れている。代わりとなる神社は里の中にいくらでもある。
それがこの神社が閑散としている原因なのだが、どうして彼女がこの神社をセレクトしたのかが疑問だった。
「まあ、なんとなくだよ。私と同じくらいのちっこい巫女さんがいるって聞いて気になってたしな!」
無邪気な笑みで答える魔理沙に、うっと軽く霊夢は反応に詰まってしまう。
思わず見惚れてしまった。本当に、こういう美少女の無邪気な笑顔ってやつは反則だなと改めて思わされる。
「それは嬉しいわね」
その後何かを思い少し下を向き黙った霊夢だったが、しばらくして再び顔を上げ、口を開いた。
「あの、さ」
「ん、なんだ?」
相変わらず可愛らしい笑顔を顔をこちらに向けながら答える魔理沙。その笑顔が、霊夢にはどこか眩しく感じられた。
「よ、よければ、でいいんだけど、これからも此処に通ってきてくれないかしら?」
「えっ?」
少々意外なお願いで軽く動揺する魔理沙。霊夢も気恥ずかしいのか少し声が上擦っていた。
「この神社、正直暇なのよね。話し相手が欲しいのよ」
「……友達とか他にいないのか?」
痛いところを突かれた。答えられない。腑抜けな顔をしてしまう。
「……まあ、いいよ別に」
霊夢の返答を聞かず先に魔理沙が答えた。意外そうな顔をする霊夢に対し彼女は言葉を続ける。
「確かに階段は少ししんどいけど、お前と会話してて悪い気はしないしな」
そう言ってニカッと笑う魔理沙に対し一瞬涙腺が緩んでしまうが、なんとか涙が出るのだけは抑える。
やはり心の奥底では友達を切に欲していた。元大学生としての落ち着きを以ってその欲を無意識に対処していたが、その「施錠」をいとも容易くその笑顔で解錠されてしまったらしい。
「……ありがと。これからもよろしくね」
なんとか表情を笑顔のまま保ち、スッと手を差し出す霊夢。
「ああ、こちらこそよろしく!」
それに応じ、笑顔のまま、魔理沙がその手を握ってくれる。幼い彼女の手の温もりが、霊夢の、容姿と異なりある程度成熟したその心を癒してくれる。やはり友がいないと人間はやっていけないのだなと、改めて痛感させられる。
――ありがとう――
口にはとても出せないけれど、心の中でだけでも。
彼女のその気持ちが、彼女の「枠」を出ることはない。
しかし、大きく、強く、枠の中いっぱいに――、彼女に対し感謝するのだった。
「霊夢ー、来てやったぜー」
「魔理沙じゃない、今日はどうしたの?」
「いやお前が来いつったから来たんだろ」
「あら?そんなこといつ言ったかしら?」
「お、お前なあ……!」
「冗談よ、冗談」
それ以来、高頻度で魔理沙は博麗神社に遊びに来るようになった。
2人の少女の会話を遠目で見ながら、神奈もそれを微笑ましく思っていた。
経緯は知らないが、霊夢に「友」と言える存在が出来てくれた。そして彼女が、久しく見せなかった純粋な笑みを魔理沙との会話で浮かべているのが、何より嬉しかった。
友達は多くなくていい、けど、一人だけでも、多分に信用できるって親友を作ってほしい、その願いは霊夢に届いてくれた。きっと、この魔理沙という子は霊夢にとってかけがえのないものとなる、そう確信できた。
きっと天国の親も喜んでくれるだろう――天に想いを馳せながら、彼女は2人の姿をただ、見守るのだった。
改めてごめんなさい。けどどうしてもやりたかったんです許してください。
心理的クッションにするために霊夢に関しては憑依転生にしたのにそのままその直後に魔理沙が転生者でもない半オリキャラとしてそのまま出てくるとか舐め腐ってますよね、本当に。なんの憑依転生だったんだと(憑依転生にした意味は他にもありますけどね)。
魔理沙が嫌いだとかそういうわけじゃ断じてないです。そもそもそんな嫌いなら出しません。
ただやはり、「魔理沙ありきの霊夢」だと思うのです。後々の展開からしてどうしても霊夢の相方になるキャラが必要で、なら軽いクロスオーバーにしようか――と思いまして。
霊夢と違いここの魔理沙は原作の技を使うことはできません。身体・性格は同じで能力が忍術になると考えてください(ただある程度は原作の技を再現させようかとは思っています)。
私が一番求めていたのは魔理沙というキャラの「立ち位置」「性格」であり、「性能」は極端に言えば二の次です。彼女は本文で示唆している通りの存在となっていきます。
「霊夢・魔理沙が人を殺すのは見たくない、理解できない」と思われる方はここで素直に読むのをやめていただく方がいいかと思います。殺す人間は基本的にはクズだらけなので、「悪い人型妖怪を退治している」と思っていただけたらまだ心理的負担は抑えられるかもしれませんが、まあなかなか難しいですよね。ちなみに私はそう思ってやってます。
賛否両論あるかと思いますが、やはりこの展開は自分がやりたかったんです。
作者の勝手で大変恐縮ですが、ご理解いただければと思います。