忍の世に降り立つ博麗の巫女   作:しゅれー

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第七話 ―アカデミー―

この里の闇は深い。

 

目の前で行われている光景を黙って見つめながら、霊夢は心中でそう静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

霊夢がこの世界にやって来て、気付けば2年が経過していた。そして8歳になった彼女は、そのまま忍者アカデミーに入学することとなった。

神奈が言うには「老いぼれた自分では体術などの修行には限界がある」ということだったのだが、その真の狙いはどちらかというと交友関係の拡張、ということの方が大きかった。

当然、「博麗の巫女」の習わしとして彼女を強くせねばならないという事情も含まれているのだが、既に彼女のレベルは体術でも、当然その他技に関してでも、少なくとも他の下忍は軽く捻れてしまうような力を既に身につけていたので、それは「忍者アカデミーを経由しないと忍になれない」という事情の物で、あまり割合を大きく占めているわけではない。

 

魔理沙との関係は非常に良好だった。偶に喧嘩したりはするものの、喧嘩するほど仲がいい、だとか雨降って地固まる、という諺があるように、彼女たちの関係はとても潤滑なもので、共に相手を信頼し合っていた。

しかし、とは言えども友達が少ないのに変わりはない。信頼できる親友を作ってほしいとは思っていたが、とはいえ他にも何人か普通の友達を作ってほしかったことには変わりなかったのだ。

 

さてそんなわけで里に出向く機会が大幅に増えた霊夢だったが、アカデミーに行くことによりとある「闇」が目につくようになった。

 

「お、俺も仲間に入れてくれってばよ」

 

「やだよ、お前とは遊んじゃいけないってお母さんから言われてんだ!」

 

「そうだそうだ。お前となんて絶対遊ばねーよ!どっかいけ!」

 

休み時間にアカデミーに隣接された運動場でサッカー――この世界では蹴鞠と言うべきなのだろうか――をして遊ぶ男子集団に混じろうとする1人の金髪の少年と、それを払いのけるメンバーたち。それを彼女、霊夢は少し離れたところで黙って見つめていた。

 

金髪の少年の彼の名は「うずまきナルト」。彼女が密かに注目している人物である。

理由は単純で、彼こそがこの世界、この「NARUTO」という物語の主人公であるから、である。好きだからではない。絶対に。

 

彼は明らかな迫害を受けていた。

大人たちには化け物だと暴言を吐かれ、落ちている石を投げられては傷つけられ。子供たちは親が遊ばないようにと警告されており、それを単純に信じ込んでいる。まだ幼い子供。親の言い付けこそ正しいと思うのは当然のことだ。だからこそタチが悪い。

しかも、ナルトは傷つけらけても石ころによってできた程度の傷ならすぐに治癒してしまうのだ。それが「化け物である」ということの証明になってしまい、皮肉なことに更に迫害を助長させていた。

さらに、彼はそれに抗う力もなかった。

アカデミーでも既に最下位の実力しかなく、体術にしろ、忍術にしろ、その他の技術にしろダメダメだった。

 

そして、抗ってもいけなかった。

もし抗う力があればどうなるだろうか。それは、「化け物が自分たちへの復讐のために力を付けた」と捉えられ、更に残酷な運命に晒されることに繋がるのだ。下手をすれば殺されかねない。

 

完全なる、どうしようもない無限ループだった。

 

霊夢も霊夢で彼が将来的な主人公になるから今の様子を観察しているのであって、彼をこの迫害の無限連鎖から解き放させようとしているわけではない。自分にそのような資格はないし、そのようなことをする勇気もないし、できるとも思えない、そう彼女は思っていた。

自分には才能がある。「博麗霊夢」としての、多大なる様々な方面に対する、自分の物とも、他人の物とも言えない様なセンスが備わっていた。そのような才能ある自分が、英雄を気取って彼を助けるなど、あまりにふざけた話、綺麗事。しかも、それで間に入ったとすると自分もその迫害と対象となるだろう。流石にそれを受け止め続ける精神力も治癒力も備えていない。

 

しかし、里などで迫害を受けているナルトの姿を見るたびにこの里の闇は深く、どの世界でも人間というのは変わらないものなのだなと、思わされているのは確かだった。

 迫害の原因は彼女は分かっている。いくら原作を読んでいなかったとはいえ、それが「九尾」とかいう怪物のせいだということくらいは――。

しかし、分かっていたところでどうしようもないというのがなかなかに歯がゆく感じられていた。

 

「気になるのか?」

 

 ふと、後ろから声がかかった。いつも聞き慣れている声だ。

 

「……まあね。あんたはどうしたのよ、魔理沙」

 

 分かり切っているので振り向く事すら必要ない。ナルトの姿を木の陰で観察したまま、そう霊夢は答えた。

 

「……」

 

 黙って、その瞳だけをこちらに向ける。答えなくても分かるだろ、ということなのだろう。

 

「まあ、なかなかに酷いもんよね。」

 

「だな。しっかもどうしようもないってのがな。ていうかそもそもうちの学年は中々に『面倒』な奴だらけだぜ、アイツ以外にも」

 

「ほんとよね。クラス最下位はこの有様、そして最上位は最上位であのオーラだもの」

 

「ま、お前も『面倒』なうちの一人なんだがな」

 

「そりゃどうも。お返しにあんたを面倒リストの1ページ目にデカデカと載せておくわ」

 

 そう言って軽く笑いあう2人。彼女たちは決してそのようなことを思っていない。

 精神的に既に成熟している霊夢の隣に居続けているうちに、彼女も周りより精神面では少し速い成長の仕方を見せていた。だからこそ言える皮肉り合い。

 

 このクラスの最上位は霊夢ではない。少なくとも霊夢の修行による実力と、前世で勝ち抜いてきた受験世界で養った頭脳とがあればこの学校の「紙の」試験など、造作もない簡単なものだった。

 しかし、それはペーパーテストに限った話だった。彼女は、忍の要である「忍術」がかなり苦手だったのだ。

 霊夢の霊力の器は、確かに恐るべきものだったのだが、その代償としてチャクラの器が絶望的と言っていいほどに小さかった。その絶望的なチャクラ量のため、彼女は忍術の面の成績においてはかなり下、最下位に近い成績だったのだ。

 そのため、クラスでは上の下、と言った評価でしかなかった。

 

 第一位の名は「うちはサスケ」。そしてそのサスケこそが、霊夢の所属する学年・クラスを厄介なものにしていたもう1つの原因であった。

 

 彼は「うちは一族」と呼ばれる木の葉の中でもトップレベルの才能・力を誇る一族に所属していた。「していた」のだ。

 しかし、その一族はある日を境に彼を除いて全員この世から消え去った。いや、彼と彼の兄のみを除いて――。

 サスケの兄、うちはイタチ。彼こそがうちは一族の弟以外全員を、この世から葬り去った犯人である。

 

「力を得る為に、お前だけは生かせてやる」

 

 その言葉だけ残し里から失踪した兄に復讐するためだけに、彼は、そのうちはとしての才能を使い今、生きている。そしてそんな彼から醸し出される負のオーラが、どことなくクラスの重しとなって乗っかっているのだ。

 もっとも、そんな彼のクールな雰囲気に引かれたクラスの女共はそんな雰囲気は露知らずと言った様子でサスケの争奪戦を行っているのだが。当然霊夢や魔理沙は、そのようなものに惹かれることもなく、見てて鬱陶しいなと思いつつ過ごしている。

 

 

 

 時計を見ると、もう休み時間は終わりかけていた。

 少し瞳を細めてナルトの様子を見つめる霊夢の姿を見て、魔理沙の口角がわずかに上がった。

 

(観察だとか何だとか言って、やっぱり心配なんじゃないか)

 

 そう少し微笑ましく、素直じゃないなあと思いつつ、魔理沙は黙って振り返り教室に戻っていく。それに気づいた霊夢も、小走りで魔理沙の後ろを追いかけ教室に戻って行った。

 

 

 

「しっかし、めんどくせえな」

 

 別の日の休み時間、とある少年の口からポツリと呟かれたその言葉に霊夢は反応した。

 

「そうよねえ」

 

「ま、てめえも似たようなもんだけどな」

 

 そう軽く笑って答える彼の名は奈良シカマル。奈良一族の末裔であり、一族間の交流から霊夢とも面識がある人間の一人である。

 彼と彼女の視線の先にあるのは、うちはサスケとそこに集って騒いでいる女のクラスメイト達。

 

「おめーはあっちに行かなくていいのかよ」

 

 そのシカマルの言葉に無言で瞳を動かし軽く睨む霊夢。

 

「……私があんなのに興味が引かれると思ってるのかしら?」

 

「けど、悔しいけど冷静沈着で顔にも才能にも恵まれてて、正直羨ましいよ」

 

 話に割り込んできた彼の名は秋道チョウジ。常にポテチを口の中に入れている、自称ポッチャリ系の少年で、シカマルと同様霊夢と面識がある人間だ。

 ちなみにデブと言ったらキレる。一度デブと霊夢がからかって冗談半分で言い放ってみたことがあったのだが、色々大変なことになった。「空を飛ぶ程度の能力」を有する彼女にとって逃げることなど造作のないことだったのだが。

 

「けどねえ……少なくとも私は惹かれないわ」

 

「理由は?」

 

 だるそうに、しかし即座に質問するシカマル。

 「元男だからです」というのが本音なのだが、それは言えない。少し考え、咄嗟に思い付いたことを話す。

 

「あんな性格だと骨が折れすぎて全身粉々になっちゃうわね」

 

 しかしそれも、本音であった。

 

「復讐」

 そのことについて、彼女が一々とやかく言うつもりは毛頭なかったし、言う権利もないと考えていた。

 復讐は悪だとか何とか言われるが、本当にそうなのだろうか、という問いに対して彼女は「悪ではない」と答える。

 サスケの事情については知っている。慕っていた兄が、突然殺人鬼と化して仲間を皆殺しにし、「強くなれ、俺の為に」と言って里を抜けた。霊夢はそんな境遇の彼に復讐をやめろなんてとても言えないし、逆にやって当然だと思っている。

 復讐で頭がいっぱいになるのも当たり前の話なのだ。多分、親を殺しただけでも復讐しようと煮え切り立つだろう。それなのに一族を皆殺しにされてしまっては――自分が想像し得ないほどの絶望、恐怖、怒りなどが湧き立つに違いない。それを簡単に「収めろ」などと言ってしまうのはあまりに滑稽で、愚かな話だと判断していた。

 たとえ、その虐殺の真実を知っていても――。

 

 しかし、それは分かっていても、自分のタイプなどとは別の話である。こんな奴と一緒にいたら3日で精神崩壊を招きそうだ。とても勘弁したい。ついさっきも勇敢な少年がサスケに話しかけようとしたが、来るな格下が、と一蹴されていた。

言われた方の精神的負荷はなかなかに大きいだろう。

 

「見た目の容姿やらかっこいい性格やらで人を判断するのは間違いよ。その後のこととか、本当の内面とか、そういうのをちゃんと考えないと……」

 

 そう霊夢は言いつつ細く整った人差し指を人集りに向け伸ばす。

 

「ああなるわけよ」

 

 少し軽蔑の念を含んだ霊夢の視線を当てるが全く気付く事もなく、クラスの女子は騒ぎ続けている。しばらくそのまま無言で見つめるが、少しわざとらしい大きな溜息を吐くと、視線をシカマル達の方へ戻した。

 

「ほんとに、何がいいんだろうな」

 

「あら魔理沙。あんたもあの集団に入ってきたらどう?」

 

 次に後ろから話に混じってきたのは、霊夢の親友である霧雨魔理沙だった。彼女もあまりこのことを良くは思っていない。

 

「それは『中心』を殴れってことか?」

 

「ま、それでもいいけど、あんたにそれは出来ないと思うわよ?」

 

「言ってくれるじゃねえか」

 

 まあ悔しいけどそうなんだけどな、そう言いつつ、やれやれと言った感じで霊夢の隣に座る。

 

「まったく、なんでてめーはあそこまで強いんだ。戦っててめんどくせえんだよ、戦った後に親父に『あんな女の子に負けるとは情けない』とかなんとか言われるしよ、本当は分かってるくせに」

 

「あらシカマル、あんたの影真似ってやつも相当めんどくさくて困ってるのよ?飛んでも意味ないから」

 

「おめーに言われると嫌味にしか感じねえわ」

 

「素直に褒めてるのに」

 

 気怠そうな表情を変えずに淡々と答えるシカマルに対し少し不服そうな表情をする霊夢。

 

「けど本当にすごいよね霊夢は。僕なんて全然敵わないや」

 

 チョウジもシカマルに同意する。それに少し目を細めながら霊夢は答えた。

 

「あんたは動きが直線的すぎんのよ。折角デカくなって押し潰せるっていういい術持ってんのに、直線しか動けなかったらそれはただのデカい猪よ」

 

「うっ」

 

 痛いところを突かれてしまい反論できない。必死に言い訳を考えるがそんなことお構いなしに霊夢は続ける。

 

「なーに、豚と言われないだけマシと思いなさい。それとも豚の方が良かったかしら?」

 

「そ、そんなことないよ!」

 

 小馬鹿にされたようなことを言われ必死に反論するチョウジ。しかし、それ以上の言葉は依然として出てこない。

 

「冗談よ。あんたに本気でそんなこと言うわけないでしょ」

 

「相変わらず、厳しい奴だな」

 

 少しジト目で霊夢を見ながら突っ込む魔理沙。

 

「そもそも空を飛べるお前がチョウジに押し潰されるも負けるもクソもねーだろ」

 

「……あんたもあんたで残酷よ」

 

 霊夢の呆れたような言葉に対し疑問の表情を浮かべる魔理沙。しかし、自分のちょっとした失言に気付く様子はない。

 チョウジに軽く目をやると、明らかに落ち込んでいた。ポテチを食べる手が止まっていたのが何よりの証拠である。

 シカマルに助け、という名の押し付けを求め目をやるがわざとらしく目を逸らされる。クソ、裏切り者が。

 霊夢は軽く溜息を吐き、この場の収拾に努めるのだった。

 

 

 

 「圧倒的な実力差」。それが霊夢と面識のある彼らの持っている霊夢への印象である。

 強い。一族が集まり行われる模擬戦でも、飛びながら、忍術ではない、よくわからない技を使って翻弄してくる。体術に関しても軽い身ごなしで攻撃が当たらず、一方的に当てられ続ける。

 まさに「格が違う」。

 

 霊夢自身が、あまり目立つことを避けるため、そして何より面倒なため、全くアカデミーでの実技系統では本気を出していない上、忍術が苦手と言うことで今年の一番はサスケだと普通は言われるが、それは完全に間違っている。明らかにトップは霊夢だ。彼女の力量が分かっている人間には分かってしまう。

 あのうちはの生き残り、うちはサスケなどをも軽くあしらってしまえそうな実力の持ち主。それが博麗霊夢という少女だった。

 

 しかし、彼らですら霊夢の本当の実力、というものは分かっていない。本当の実力を知っているのはこの中では唯一、魔理沙だけだった。

 彼女だけは、霊夢の普段の修行光景をよく見ているうえ、霊夢も彼女だけは信頼して色々教えていた。

 能ある鷹は爪を隠す、と言うように彼女は本当の実力を他人に見せるのを嫌う。それは面倒だから、だけではない。力を相手に全て見せるのは愚の骨頂だと彼女は考えている。そういうものは限界まで取っておき、相手のレベルに合わせた技の使用で留めるべきなのだ。

 力とは情報である。その情報は漏れれば漏れるほど厄介になる。なので、決して他人の前で実力を見せびらかしたりはしない。

 しかし、魔理沙だけは例外だった。それだけ、彼女の事だけは信頼していたのだ。

 

 休み時間も終わったらしい。教室内にチャイムの音が響く。

 次の授業は忍の歴史についてらしい。算数などよりは聞き応えのある授業だろう。

既に成熟しきった彼女の元大学生の頭脳にとって、アカデミーの授業というものはとても億劫なものだった。

 難しすぎるのも困ったものだが簡単すぎてつまらないものも同様だなと思いつつ、霊夢はトボトボと自席に戻るのだった

 

 

 

 

 

 

 さてある日、忍組手が行われた。

 クナイなどの凶器は使用禁止。忍術は一応可。基本は体術で、とのことだった。霊力使用については何も言われなかったが、多分いいのだろう。まあ、使うことはないだろうと霊夢は踏んでいたが。

 

金髪の少女が威勢よく突っ込んでいった金髪の少年を一方的に、いわゆる「フルボッコ状態」で攻め上げる様子を容赦ないなあと思いながら、誰と当たるのかと考えていると、霊夢の番が来た。

彼女たちの属するクラスの担任、うみのイルカが組を読み上げる。

 

「次、うちはサスケと博麗霊夢!」

 

――さて、これはどうすべきなのか。

 予想していなかった組み合わせに、溜息を吐く。何も知らない生徒には、その溜息は「勝てるわけがない」という諦めの溜息に聞こえ、同情するのだろうが、事情を知っている少数の生徒にとってはその溜息は違う意味に捉えられた。

 

「あのプライドの塊に対して、勝てばいいのか、負ければいいのか」

 

 そのような溜息に聞こえ、同情するのだ。

 

「まあ、なんだ。その、頑張れよ」

 

 色々とな、そう付けたした親友の、励ましというよりは同情の念の方が多く込められた言葉が霊夢の耳元で囁かれる。

 

「はあ……どうしてこんなことに」

 

 その霊夢の呟きは、魔理沙以外の耳に入ることはなく、儚く騒がしい空に霧散していった。

 

 

 

 

 

 黙って相対しあう2人。

 

うるさい。

 

 女子の、サスケに対する歓声がやかましくて霊夢は軽く不機嫌だった。「サスケくん頑張れー」なの、「あんな巫女風情ぶっとばしちゃえー」なの――。

 不機嫌さが増してくる。巫女風情とはなんだ巫女風情とは。

 霊夢の身体から無意識に溢れ出る霊力。それは殺気と化し周りに伝播する。

 明らかにいつもと違う雰囲気、殺気を醸し出す霊夢に気付き、徐々にやかましい歓声が収まっていく。そして、彼女のことを知る面々は察した。

 

――こりゃダメだ――

 

 魔理沙が視線で「殺気と力は抑えろ」と訴えてくるが、勝手に出てしまうものなのだから仕方ない。イライラする。

 もういい、とりあえず目の前のヤツを倒してストレス発散にしよう――

 明らかなとばっちりであるが、間接的な原因は彼であるから仕方ないのかもしれない。

 

 サスケもその雰囲気の変化に気付いていた。

 しかし、所詮格下だと信じて疑わなかった。自分に、うちは一族に、勝てるはずがない、と――

 目の前に、とんでもない「脅威」があることに気付いていないのは憐れ、としか言いようがないだろう。しかし、仕方ないのかもしれない。初見で「これ」に対処しろと言うのも無茶な話である。

 

「両者、対立の印を」

 

 利き手の人差し指と中指を伸ばし、胸の前にやる。忍組手を行う際の礼儀作法の1つである。前世で言う柔道に似ている。

 行為自体にはっきり言ってほとんど意味はない、形骸化したものだが、今思えば案外こういう決まった前座があるから力を出せるのかもしれないと、霊夢は思う。

 

 歓声が消え、静寂が流れる中両者睨みあう。そんな2人を心配そうにイルカは顔を覗きこむが、今更止められもしない。

 

「……では、はじめッ!」

 

 イルカの叫び声が、その静寂を打ち破った。




これはサスケくん可哀想ですわ
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