忍の世に降り立つ博麗の巫女   作:しゅれー

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第八話 ―「うちは」として―

「……では、はじめッ!」

イルカの掛け声により、霊夢とサスケの組手が始まった。

――始まったのであるが、どうも様子がおかしい。両者とも、睨みあっただけで動かないのだ。

霊夢はそもそも動こうとしていない。腕を組んで不動の体勢で、サスケはその体勢に何か裏があると見て何も仕掛けず様子を見ているのだ。

そして、そのまたしばらく流れていた静寂を破ったのはサスケの方だった。

 

「おい、お前」

 

依然として睨んだまま、霊夢の不機嫌が伝染ったのか彼も不機嫌そうに彼女を呼ぶ。

 

「……何かしら?私、結構イライラしてるんだけど」

 

彼女の反応も淡白な物だった。明らかに不機嫌さを隠せていないし、隠そうともしていない。

あえて、わざと不機嫌さを身に染みだしているのを我慢せずに放出しているのだ。まわりへの威圧の為に。

 

「俺をそんなに睨むことはないだろ、俺がお前に何かしたか?」

 

「まあ、あんたは何もしてないかもしれないけどね」

 

そう言い左腕をサスケの横で騒いでた女生徒の群れの方向へ向け、指差す。

 

「あいつらがうっさくてね。まあ間接的な原因はあんたなわけだし」

 

指差された女生徒集団の表情が険しいとなり、同時に軽いブーイングがまた湧き起こる。先ほどに比べては明らかに規模が小さく、ヒソヒソ声に近いものだったが。

大方、あの最初級忍術も出来ない巫女もどきが最強のサスケに向かって何を大口を叩いているんだ、と言ったところだろうと霊夢は予想する。

 

「随分と迷惑で勝手な押し付けだな、所詮忍術も出来ない屑が」

 

「あら、言ってくれるじゃない。これ以上機嫌を損ねさせるのはやめておいた方がいいわよ?」

 

相変わらず冷酷なサスケに対し笑顔で答える霊夢。それはまさに「美少女」と言える可憐で、可愛らしいものだったが、残念ながら目は全く笑っていない。「悪魔の天使のような笑顔」、もしくは「天使の悪魔のような笑顔」、いや「悪魔の悪魔のような笑顔」なのだろうか。なんにせよ、その笑みから溢れ出るオーラというものは禍々しさの塊とも言えるものだった。

 

そして、それは霊夢からの「最後通牒」だった。そこで素直に引き下がれば、彼女は何も叩きのめしたりはしなかったのだ。

しかし、サスケにとってそのような通牒に、意味はない。

 

 

 

「こりゃ、ダメだな」

 

そう、外野にいたシカマルは呟く。他の、霊夢を知る面子も言葉には出さないが頷いて同意する。

 

「そりゃこれじゃ霊夢はもうダメよね」

 

「バーカ、サスケの方だよ」

 

シカマルの言葉を誤解して捉えた、ピンク色のセミロングヘアーが特徴の彼女の名は春野サクラ。先ほどまでサスケ側の集団の中にいた女生徒の1人だったが、先ほどの霊夢の殺気でバラバラになり、霊夢の方まで移動してきたのだ。

 

「はあ?サスケ君が負けるわけないでしょ!?あんな忍術が一切できない頭以外ダメな巫女が!」

 

言っていることが理解できないといった様子で無意識にだろうが霊夢への罵言雑言を並べるサクラ。その姿を彼らは呆れたような目で見つめる。

お前も脳筋だろ、と突っ込みを入れたい気分に駆られるが、それは野暮なものなのだろう。

 

「……まあ、お前が知るわけないわな。霊夢の『実力』を」

 

その中から代表して答えたのは魔理沙だった。

 

「はあ?」

 

「まあ、見てれば分かるさ。多分、とんでもないことになるぜ」

 

そう言い軽くニヤリと笑う魔理沙。

サクラは、そんなこと有り得ない、戯言もいい加減にしろと言った表情をしながらサスケの方へ振り返った。

サスケ君は絶対に負けない、負けるわけがない、そう信じ込みながら――。

 

 

 

「フン、そういう脅しってのは相手への勝ち目がないからするもんだ。テメェにされたところで何もない」

 

「……そう、分かったわ」

 

最後通牒を切られた。

もう、「許し」はない。残酷なものだが、それが「博麗霊夢」、いや幻想郷の住人に共通する理不尽さというものだ。

 

「そっちから来い、精々頑張ることだな」

 

更に挑発していくサスケ。それが、更に身を滅ぼす行為ととなっていることも露知らず。

霊夢も霊夢で、この挑発に容易く乗るほど子供ではない。しかし、自分が動かないと試合も動いてくれなさそうだ。仕方ない。

 

「どうも、なら……」

 

そういいつつ地からわずかに浮上する。

彼女のテリトリーは「空」である。空を使わせると彼女に敵う者はいない。その自由自在な、物理法則・重力を無視した動きに付いていけないのだ。

そしてそれは、「容赦はしない」という意志の表れでもある。

 

霊夢を知る面々もそれに対し反応し、同情した――サスケに対して。

しかし、ある意味楽しみでもあった。うちはの「プライドの塊」が根から折れる瞬間を今から、目の当たりにすることができるのだから。

 

「先に行かせてもらうわよ!」

 

浮上し、空を切り猛烈な勢いで加速していく霊夢。

様々な思いが交錯する試合の火蓋が、ついに切って落とされた。

 

 

 

 

 

一部を除いた生徒全員が、その試合に唖然としていた。

 

「なによ、大口叩いて所詮そんなものなのかしら。『第一位』さん?」

 

「クソッ……!!」

試合の流れは、完全に霊夢の手中にあった。

サスケは完全に油断していた。猛スピードでの先制攻撃に対応しきれず一発受けた時点で、勝負の結果は決まっているようなものだった。

 

無言で霊夢から繰り出される、左脚を軸とした回転蹴り。それを両手を交差させなんとか踏ん張り、逆にカウンターを狙い足を掴みに行くが、その作戦はいとも容易く破られる。

即座に先ほどまで使っていた左脚で足払いをされたのだ。

 

「なにッ!?」

 

重い左脚による足払い。そのままバランスを崩すサスケを霊夢が見過ごすわけがない。

浮いたまま、身体の中心を軸にして一回転し、鳩尾へ向かって回転の勢いをつけた踵落としを放つ。胸の前で交差したままの腕が、それを守ることはできず、見事に鳩尾に踵が吸い込まれる。

 

「ガハッ」

 

それと同時に地面に背中が接触し、とてつもない衝撃がサスケを襲う。霊夢自身が踵落としをかなり手加減していたので内蔵系統に傷はないが、それでも多大なる痛みがサスケを襲った。

 

サスケは弱いわけではなかった。むしろ強いことに変わりはない。しかし、それ以上に霊夢が規格外だったのだ。

霊夢の動きに、規則性はない。そして、物理法則が通用すると信じ込んでいればいるほど、彼女の信じられない動きに翻弄されるのだ。

彼女の所有する能力である「空を飛ぶ程度の能力」は、自分にかかる重力を調整することができる、ということも含まれている。

つまり、自分にかける重力の強さ、ベクトルを調整し、浮力や回転力などにすることによって常人では考えられない体の動きを可能にしているのだ。それに、サスケは一切ついていけなかった。それは初見では仕方ないことだった。

 

「グッ……まだだ……!!」

 

「あら、案外しぶといのね」

 

苦痛の表情を浮かべるサスケに対し、霊夢の表情はまだまだ余裕と言ったところだった。しかし、その紅の瞳の表すものは「冷血」そのものであった。

 

「さ、サスケ!これ以上は!」

 

そろそろまずいと思いイルカが間に入り、試合を終わらせようとするが、サスケは全くそれに対し耳を貸さない。

 

印を組む。忍術の使用は「可」だった。イルカの意図としてはそれは「分身の術」や「変わり身の術」などの初歩的な忍術の使用のみを前提としたものだったが、サスケにとっては違う。

うちはの末裔、生き残りとしての才能は、生半可なものではなかった。遅い、子供らしい速度だったが、その印を組み終え、術を発動させる。

 

それは、うちはの誇りの術。

それは、自分が初めて扱えるようになった大技。

それは、自分のプライドの表れとも言える術。

「火遁・豪火球の術!」

 

サスケの口から、その体の何倍もある火の球が放たれる。

アカデミー生が扱えるとは思えない様な、とても巨大な、灼熱の炎の塊が、霊夢を襲う。

 

「れ、霊夢!避けろ!」

 

イルカが叫ぶ。まずい、いくらここまで一方的な展開を広げた霊夢でもこの術はまずい、直感が告げた。今更術の使用の範囲をはっきりと言わなかった少し前の自分を後悔するが、それどころではない。

 

しかし、霊夢は動かない。いや、動けなかった。

 

(避けるのは簡単だけど、避けたら……)

 

後ろに軽く目をやる。そこにいるのは、普通の一般生徒。シカマルあたりなどだけなら遠慮なく避けられるのだが、この普通の生徒がこれを避けられるとは思えなかった。

喰らったら、一溜りもない。

 

一方でサスケは勝利を確信していた。体術では押されてしまったが、忍術の使えない彼女にこの技を防ぐ手札はない。

もし当たったらどうするのかと突っ込みたくなるが、まだ幼い少年だ、そこまで考えが至らないのも致し方ない。

 

「仕方ないわね」

 

しかし、霊夢は表情を一切変えることはなかった。この術に対応できる防御技を展開すればいいだけなのだ。

 

手から4枚ほど霊力を込めた札を生成し、霊夢の前方に、その火球が収まるように四方に投擲する。そして、右腕を前に付きだし、同時に呟く。それだけだった。

 

「警醒陣」

 

その言葉と同時に出現したのは、その札を頂点とする長方形の、少し青みかかった結界。そして生成されたと直後に、その巨大な火球がその結界に衝突した。

 

しかし、サスケは余裕に思っていた。彼女がどうやってあの結界を展開したかは知らないが、所詮その程度の結界だろう。そんなもので自分の豪火球が破られるわけがない、と。

しかし、その余裕は一瞬で崩されてしまう。

 

その巨大な火球が、その結界より前に出ることはとうとうできなかった。

どんどんと勢いを失い、小さくなってゆくそれは、そして、呆気なく結界の前で鎮火してしまった。霊夢の顔色を、一切変えることなく。

 

「全く、手間かけさせるんじゃないわよ」

 

そう少し怒ったように霊夢はサスケに向かって言い放つ。しかし、サスケにその言葉は耳に入らない。絶望と怪奇が、彼の心中を支配した。

 

「あのね、後ろには普通のクラスメイトもいるのよ!?それなのにあんたはあんな術を……」

 

霊夢のその軽い説教も、サスケの耳をただ通り過ぎるだけだった。自分の、一番だと思っていた術がいとも容易く破られてしまったのだ。しかも、この頭しか働かないと思っていた巫女風情の女に。

なにが、どうなっているんだ。なんであんなものに、自分の全てをぶつけたあの術が負けてしまったんだ。まぐれだと思いたいが、彼女のあの余裕の表情を見るに、まぐれではない。

 

完全に、自分が負けたのだ。うちはの生き残りで、才能に溢れていると思っていた自分が、あんな女に。

 

信じられない、信じたくない。しかし、信じざるを得ない。

 

「……うおおおおおおお!」

 

気付けば走っていた。自分を打ち負かして、余裕をこいている目の前の女に。

 

「やめときなさい、あんたじゃ私には勝てないわよ」

 

しかし、そのような言葉は今のサスケには通じない。なんとかして抵抗しないと、「それ」を信じ込んでしまったら、自分の「何か」が壊れてしまうような気がして――。

 

闇雲に繰り出されたその左腕のパンチは、霊夢に届くことは決してない。そのまま、その綺麗な右手で腕を掴まれ、即座にカウンターの膝蹴りがまた一発、鳩尾に入る。

 

「ガハッ……」

 

無言で、痛みで悶える少年を見つめる彼女の目は、冷徹さで満たされていた。

 

「や、やめろ霊夢!」

 

咄嗟にイルカが止めに入る。これ以上はサスケの命に関わると判断した。

 

「とっくの前にやめてるわよ。向こうが勝手に突っ掛って来たんじゃないの」

 

「し、しかしだな……!!」

 

イルカの注意にも何知らぬという顔で霊夢は応じる。

 

「『正当防衛』ってやつよ。ほら、立てる?」

 

そう言い目の前で蹲っているサスケに腕を伸ばすが、無言で跳ね除けられた。

霊夢を睨みつけるその瞳に映るものは、絶望、不可思議、そして何より悔しさ。

手を差し伸べられたことが、一層その悔しさを増幅させていることに、霊夢は気付いていない。優しさと見せかけた残酷さというものは、想像以上に精神を抉り取るものだ。

 

ただ、その場を静寂がまた支配した。

 

 

 

 

「あーあ、やっちまった」

 

シカマルが予想通り、しかしやれやれと言った様子で呟く。

 

「容赦ないよね霊夢も。ちょっとサスケが可哀想だよ」

 

そう、ポテチを貪りながら反応したのはチョウジだった。まわりの声援が逆に破滅へ追い込むという、皮肉で理不尽な結果になってしまったのは事実だ。

 

「まあけど、予想通りの面白いものが見れたな。これから先どうなるか楽しみだぜ」

 

霊夢は楽しみの犠牲になるだろうけどな、そう付けたし魔理沙はクククと笑った。

それを、霊夢を知る面々は苦笑しながらも同じことを想うのだった。

 

 

 

そして、その試合の様子を見て人一倍複雑な気持ちを抱く生徒もいた。そんな少女の名は山中いの。彼女は山中家の末裔で、霊夢と面識のある人間の一人であり、同時にサスケのファンの一人でもあった。

 

彼女が霊夢とサスケとで組手を行うと聞いたとき、どうしようもない気持ちに駆られていた。彼女は霊夢の事も気に入っており、同時にシカマル達と同様霊夢の力の強さも知っている。いくらサスケでも霊夢には敵わない、ということも――。

好きな人同士がぶつかり、しかも結果が見えてしまっている。しかしそれを他方は分かっていない。これほど、彼女にとって心が締め付けられることもなかった。

しかもその直後に霊夢に殺気を当てられ怯えてしまった。嫌われてしまったかもしれない、と。

 

試合もとても見ていられるようなものではなかった。説明など今更不要だろう。

一体自分は、どうすればいいのか。ただそれを考えながら、どこか悔しさを感じながら、霊夢に一方的にやられるサスケの姿を見ていたのだった。

 

 

 

「……両者、和解の印を」

 

しばらくしてサスケが立ち上がれるほどまで回復した後、イルカは改めて和解の印を結ばせる。忍組手におけるもう一つの礼儀作法で、対立の印と同じ手で相手の方へ差し出し、握手のような形で絡ませることで「戦いの恨みはなく、和解した」ということを示すのだ。

 

礼儀に則りサスケに向かって腕を伸ばす霊夢だったが、どうもサスケの方はそれに応じない。

 

「……時間遅延してんのよ。はやくしなさい」

 

再びサスケを鋭く睨み付ける霊夢。サスケを一方的に攻撃し続けた霊夢だったが、相手の態度が態度なため、イライラはさらに増えるばかりだった。

 

「サスケ!はやく和解の印を!」

 

イルカの方も痺れを切らし、サスケに向かって怒鳴る。クラス最上位で、冷静沈着なサスケに向かって大声で叱るなど、これが初めてだった。

 

その直後だった。無言でその霊夢の腕を跳ね除けたのだ。

 

「サスケ!お前それがどういうことか、分かっているのか!」

 

怒気が一層高まる。礼儀作法、つまりルールを破ることは、忍の世界では厳しく罰せられるものだ。

サスケもそれについては理解しているはずだが、それでも彼は和解の印を結ぼうとはしなかった。自身の、うちはとしてのプライドが根から折られたことによるショックは、生半可なものではなかった。

 

「……いいわ」

 

埒が明かないと踏んだ霊夢が口を開いた。その発言に少し不思議そうな表情をするイルカ。

 

「この勝負、お預けにしましょ」

 

「……は?」

 

霊夢の提案に、呆気を取られるイルカ。それはまわりの生徒も同様だった。

 

「私の勝利が気に入らないなら、別に負けでもいいわよ。そんな形式上の結果なんて、興味はないわ」

 

無言で、俯きながら身体を少し小刻みに震わせながらその提案を聞き続ける。

 

「けど、それじゃ納得しないんでしょう?なら、続きはまた今度、もっとあんたが成長したときに……ね」

 

改めて、サスケへ強い視線を当てる。返事はない。悔しさで体は震えたままだが、しかし、不服ということでもなさそうだ。

 

「し、しかし霊夢」

 

「もうこれじゃ埒が明かないってわかってんでしょ。本人がいいつってるんだし、これでいいじゃないの」

 

それだけイルカに言い、サスケと彼に背を向けて彼女は外野の方へ歩き出す。それをただ、動かず無言で見届けたサスケの中では、ある一つの目標が出来ていた。

 

言うまでもない。

 

 

 

「博麗霊夢に、打ち克つ」。

 

 

 

ただ、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




サスケ君が嫌いなわけではないんや、けど霊夢という規格外の天才がいる以上遅かれ早かれいずれこういう時は来るんや。

正直執筆してて「うわあこっから先色々大変そう」と思ったんだけど、まあ逃れられない運命だから諦めたよ。

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