忍の世に降り立つ博麗の巫女   作:しゅれー

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少し数日忙しくなりそうなので先に投下


第九話 ―いのの葛藤―

「あーもうどうしたらいいのよこれ……」

 

薄い金髪の少女、山中いのは悩んでいた。自分の、あまりに微妙すぎる狭間の中にある立場によって――。

 

 

 

 

その試合の直後から、霊夢が学年トップのうちはの生き残りを打ち負かしたという情報はアカデミー中に、即座に広がった。

それにより霊夢へのまわりからの扱いというものも大きく変わった。

 

まずクラスの女子からは、以前以上に嫌われるようになった。たとえ霊夢に負けたとしてもサスケ信仰が揺らぐことはなく、逆にサスケに恥をかかせた霊夢が悪者扱いとなってしまったのだ。

しかし、信仰心というものは恐ろしいものだと思わされたが、かといって霊夢はそれを気にすることもなかった。そもそもサスケに集っている連中は基本的にいのを除いて馬が合わないと思っていた。それが悪化しただけであるし、サスケを打ち負かしたほどの力を持っているということが制止力となり、向こうから手を出すこともできないと踏んでいた。別にいくら束で手を出してきても即座に追い返せる程度の力は持ち合わせている。

実害はなかったから、特に問題はなかった。

 

しかし、問題だったのは男子からの反応だった。

クラスの重しとなっていたプライドの塊を打ち負かし、女だというのにトップに君臨したのだ。

しかも、はっきり言ってその容姿の可憐さは里でもトップレベルだった。性格は可憐からはほど遠いものであるが。

つまりは、文武両道、才色兼備。どうなるかなど、言う必要はないだろう。

 

「付き合ってください!」

 

「いや、ないわ」

 

勇気を振り絞って廊下で告白したのにも関わらず、霊夢は容赦なくそれを切り裂いていく。後ろでは魔理沙が腹を抱えて爆笑している。もう慣れた光景だ。

 

「な、なんでダメなんですか!」

 

涙目になって訴える一般男子生徒。しかし、そんな質問に対し霊夢は軽く一蹴する。

 

「いやあのね、見知らぬ男に突然告白されてオーケー出す方がおかしいわ」

 

まあ、かといってアタックされても引くだけだけどね、と苦笑しながら付け足され彼の心は更に抉りに抉られていた。なんだこいつは、鬼か。悪魔か。

 

「ハハハ、やめとけって、こんな奴と付き合っても3日で精神朽ち果てるぜ、あーおかし」

 

「……あのねえ魔理沙」

 

腹を抱えて涙目になりながら彼に対し忠告する魔理沙を横目に、呆れたように呟く。その魔理沙の言葉も彼にとっては棘として降りかかり、そのままその「勇者」は無言で立ち去って行く。

 

これが、日常になっていた。

 

霊夢としても非常に困っていた。自分は腐っても元男だ。男からの告白を受け続けるというのは非常に辛いものがある。自分の博麗霊夢としての容姿には確かに自信があったが。

しかもからかわれ続ける。シカマルやチョウジにすらからかわれる。

 

 

 

「はあ」

 

「なんだか色々疲れ気味みたいね、霊夢」

 

「いの……」

 

机でぐったりしている霊夢に後ろから気遣いの言葉をかけたのはいのだった。

 

「ごめんね、うちの女共があんたのこと毛嫌いしてて」

 

いのは、サスケファンのトップ、纏め役という立ち位置だったが、同時にそのメンバーが妬み恨んでいる霊夢とも親交があり、霊夢の事を気に入ってもいた。

その可愛らしい容姿に巫女服というのが彼女の嗜好にかっちり嵌ってしまっていたらしい。初対面したしとき思わず抱きつきに行ったのも今思えばいい思い出だ。ちなみに、その時の霊夢の反応も満更なものではなかった。

 

「いいのよ、別に興味ないし。私としてはこの謎の告白ラッシュの方をなんとかしてもらいたいわ」

 

本当に精神的に疲れるのよ、と霊夢は付け足す。

 

「ま、まあ、サスケ君倒しちゃったしねえ」

 

少し苦笑しながら答えるいの。しかし、その言葉は少し詰まっていて、ギクシャクしていた。

霊夢とサスケについての話題を話すのは、彼女にとって少し辛かった。

サスケは好きだ。それに変わりないし、霊夢が好きなことも変わりない。しかし、霊夢はサスケを本当に破ってしまった。結果は前々から分かってしまっていたけれども、しかしそこから来る複雑な思いは、未だにいのを悩ませ続けていた。

 

 

 

 

「いの!こんなところでなにやってるのよ!」

 

「……なによサクラ」

 

突然背後から声がかかった。後ろへ振り向くと、そこには少し怒った表情をしたサクラがいた。

サクラは霊夢を軽く、軽蔑するように一瞥すると、そのままいのの隣まで移動してヒソヒソ声で会話し始めた。霊夢もつまらないものを見るような目でそれを眺める。

 

「なんで霊夢なんかと喋ってんのよ、サスケ君運動場行っちゃったわよ!?」

 

サクラにとって、友達であるいのが霊夢と話しているのが許せなかったらしい。サスケファンの長(?)が、サスケに恥をかかせた女と一緒にいるなど言語道断だと、彼女は考えていた。

 

サクラは、霊夢といのとの関係が自分といのとの関係より長く、深いことを知らない。

 

いのもサクラを大切な友達として認識していたが、霊夢をバカにされたことはたとえサクラでも簡単に許容できたものではなかった。

 

「……黙りなさいサクラ」

 

「えっ……?」

 

いつものいのではありえない様な、静かだが怒気の含ませた声でサクラに警告する。

 

「霊夢は私の大切な『友達』なのよ、いくらサクラでも貶すのは許さない」

 

その言葉で黙り込むサクラ。しかし、その表情は驚きで満たされていた。いのと霊夢が友達だったこと、いのが霊夢をとても大切に思っていること。自分にとって大切なサスケを打ちのめした存在を――。

 

「分かったなら、去りなさい」

 

抗えなかった。そのいのの、重くのしかかってくる言葉に。そのまま無言でその場を離れ、サスケのいる運動場へ向かうサクラ。

相変わらず霊夢への視線は彼女を蔑むものに変わりはなかったが。

 

 

 

サクラが教室が去ってしばらくした後、ずっと黙っていた霊夢が口を開いた。

 

「ごめん」

 

霊夢が突然、短くだが謝罪の言葉を述べたのだ。顔も少し、苦虫を潰したような表情になっている。冗談半分な謝罪ならこれまで何回も聞いてきたが、彼女の今の言葉は、短かったが真剣なものだった。

あまりに珍しかった。いのの表情が困惑と驚愕が混じったものになる。

 

「えっ、なにを……」

 

「いや、私あんたに無理させてるんじゃないかって思ってね」

 

霊夢の、核心を突いた発言に言葉を詰まらせるいの。

霊夢も、あの試合の後からいのの様子が少しおかしいことに気付いていた。いのがサスケの事が好きなのは知っていた。彼女の心中は、簡単に察することができた。しかし、どう声掛けすればいいのか分からなかった。

 

「……ビンゴみたいね。なんていうか、本当にごめん」

 

彼女も、どうすればいのの中にある「癌」を取り出せるのかわからなかった。

ただ、謝ることしかできなかった。自分でも情けなく思うが、どうしようもない。

 

そして、そんな様子を見ていたいのは、驚愕と困惑から一変してどこか可笑しく感じられていた。

 

「……ハハハ!」

 

突然笑い出したいのに対し呆然とする霊夢。

 

可笑しかった。なんだか、悩んでいた自分がバカらしく感じられてしまった。

霊夢に殺気を当てられ怯え、そして霊夢とサスケの関係の狭間に置かれ悩んでい自分が。こんなことで何故か珍しく謝っている彼女の姿を見ていると、どうでもいいことのように思えた。

 

いいじゃないか。霊夢は霊夢で、サスケはサスケだ。私はサスケが好きで、そして霊夢が好きだ。たとえ霊夢がサスケを破っても、それを下の女連中が良く思わなくても、それに揺らぎはない。

 

「あーあ、なんかバカらしくなっちゃった」

 

何か吹っ切れたように言ういの。しかし霊夢は依然として困惑したままだ。

 

「悩んでたわよ、あんたがサスケ君より強いのは分かってたけど、実際それを目の当たりにしたときは辛かったわよ。サスケくん側で応援してた時に殺気を当てられて不安にもなったわ、嫌われたんじゃないかって」

 

少し過去の思い出の球を捻り出しては、潰していくように、しかし体に染み込ませるようにして、いのは続ける。

 

「けどね、あんたが突然謝るの見たらどうでもよく思えちゃったのよ、ほんと可笑しいわ」

 

そうしてまた少し下品にだが笑う。

一方で霊夢は困惑が広がり続けていた。なんだそりゃ、結局どういうことだよ、と。

 

「私はサスケ君のファンで、そして霊夢の友達。たとえあんたがサスケ君を負かしたって、下の集団があんたを嫌ったって、それは変わらないじゃない。悩む必要なんて、無かったのよ」

 

自分へ語りつけるようにして話すいの。そのまま、座っている霊夢に対ししゃがんで抱き締める。

 

「ちょ、ちょっと」

 

軽く霊夢も抵抗するが、その力はいつもの霊夢に比べたらとてもか弱いもので、簡単に抗うことができた。満更でもないらしい。

 

驚くほど小さく、華奢な身体。その身体から出てくる温かさが、全身で感じられる。

ああ、懐かしい、変わってない。初めて会ったときのままだ。この抱き締めたときの感覚、温かさ。何も変わっていない。

 

「ありがとう」

 

いのの言葉にはっとさせられる。どうやら、いのに一本取られたらしい。こんなことは初めてだ。まさかこんなところでいのに「負ける」とは――。

自分は既に、何もしていないつもりで「異変解決」を成し遂げていたらしい。これはやられた。

 

「一本、取られたわね」

 

いのの胸中で、ぽつりと呟く。素直に霊夢が負けを認めるなんて、これまた珍しくて、可笑しい。

 

「今日は、勝ちでいいかしら?」

 

そういい、霊夢に向けて満面の笑みを浮かべるいの。――だめだ、勝てない。完敗だ。

 

「それでいいわよ、いいけど――」

 

「けど?」

 

 その霊夢の言葉に、さっきとは裏腹に疑問の表情を浮かべる。

 

「そろそろ抱き締めてくれるのやめてくれると嬉しい」

 

 まわりガン見してる、と付け加えた。あたりを見渡すと、クラス中のメンバーがこちらを凝視している。

 数秒後、いのの顔が一気に赤くなり、同時にバッと離された。そして自分の先ほどまでの行動が思い出され、さらに顔が赤くなる。

 しかしそれとは対照的に霊夢は感心していた。

 

「ちょ、ちょっと!なんで感心したみたいな表情してるのよ!」

 

「人ってここまで一気に顔を赤くできるものなんだなあって」

 

「淡々と言うな!」

 

 顔を赤らめたまま、拳を胸の前に持っていく。少しばかり怒っているのか、それともただの照れ隠しか。多分後者なのだろう。

 

「ま、けど、これで元に戻ったわね」

 

「え?」

 

 平常時の無表情で呟く霊夢。それに対しいのが疑問の言葉を投げる。

 

「前までの『山中いの』に」

 

 今度は自分がはっとさせられた。なんだそれは、自分が勝ったと思い込んでいたけれども、実はやっぱり負けていたのではないか。

 しかも、それに霊夢は気付いていない。無意識でこのような展開に持ち込んでいると、そう思わされてしまった。

 

「はあ」

 

 溜息を吐くいの。それに対し霊夢は少し不満そうな表情を浮かべた。

 

「なによ、謝罪して抱き締めて顔赤らめて照れ隠しして次は溜息って、相変わらず忙しいわね」

 

「別にー?」

 

 そう言いそっぽを向くいの。それを見た霊夢も心中で溜息を吐いた。しかし、安心もした。まあ過程はどうであれ、どうやら普段の調子に戻ったらしい。

 自分も、やはりずっといのの悩んでいる姿を見るのは辛かった。なにせ、自分が原因なのは確実なのだから。

 しかし、どうやらその「癌」は自分の手によって消滅してくれたらしい。

 

「まあ、いいか」

 

 そう、いのにも聞こえない様な小声で霊夢は呟いた。

 

 

 

 その後、霊夢を校内で抱き締めたということでシカマルがいのをからかった結果、出血多量で死にかけたというのは蛇足だろう。




まあ、悩みと言ってもそこまで深いものではないので、こういう軽い締め方もいいかなと。
サクラは今はただのサスケ軍団の一味でしかないので、はい

ここの霊夢と原作霊夢との大きな違いがここで現れた、と言ってもいいかと思います。人間関係等については憑依人格が大きく影響されています。

追記
挿絵が欲しいけど絵が描けないんですよ(チラッチラッ)
傲慢でした反省してますはい
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