久しぶりの投稿。
「くそう!こんなはずじゃっ!!」
暗く人気の少ない夜道を一人歩く男がいた。輪郭が変わってしまうと錯覚するほど怒りで顔を染め上げ暴言を撒き散らしている。
数日前までは期待の大型ルーキーとして活躍し観客を魅了、実力も折り紙つき、名実ともに将来を期待され第二の赤馬零児とまで言われていた親鬼真司その人だ。
街を歩けば彼を知らぬ者などいない有名人、皆が彼を憧れ、期待、そして尊敬の目で見ていた。
しかし、数日前の公式戦での敗北が彼の取り巻く環境を変えた。
デュエルモンスターズが長く続くこの時代の中でLO、ライブラリアウトと呼ばれるEXWINは歴史を遡っても数えられるほどしかない。
そのLOと呼ばれるEXWINをいとも簡単に行われ、何の抵抗もなく負けた。
もしこの世界にデュエルモンスターズ以外のカードゲームがあったのならば、LOなど珍しくもなかっただろう。しかし、この世界ではデュエルモンスターズ以外に無い。
そしてたった一回のデュエルでの結果がデュエリストの全ての評価に繋がってしまう残酷な世界だったことが彼の全てを変えてしまった。
翌日の新聞、週刊誌の一面を飾る彼の試合。
『大型ルーキー、敗北』
『煉獄女王、新たな伝説を作る』
『親鬼プロ、歴史的敗北』
どの試合も彼を称えることも、慰めることもない。藤原雪乃の新伝説を大きく取り上げるか、彼の評価は過剰評価だったと記載する記事ばかりだった。
街での彼を見る目も変わった。落胆、軽蔑、怒り。余りにも理不尽な視線が彼を襲い続けた。多少彼を擁護する人もいた。だが彼がそれに気づくことはなかった。そんな余裕は彼にはなかったのだ。
だがこの世界ではこの程度のことは当たり前であり、プロともなればそれを乗り越えることこそプロの証でもあった。だが彼は・・・・・・・
「どうしてだよっ!!この世界はARC-Ⅴの世界でスタンダード次元のはずだろっ!!」
彼は転生者と呼ばれる人間だったのだ。
前世で理不尽にもその生涯を終えてしまった彼は、神と呼ばれるモノに前世の記憶と彼が持つカードを貰いこの世界で新たな生命を受けた人間。
転生した彼は考えていた。この世界で最強になり前世での理不尽な環境理論によって味わった怒り、苦しみを発散しようと。
カジュアルプレイヤーという部類の彼は好きなカードで最強になるという目標を掲げCSと呼ばれる大会や店舗予選に参加していた。
だが待っているのは環境デッキの理不尽な蹂躙。その度に友人からデッキの変更を勧められた。それが彼にとっては何より嫌だった。ムカついた。
環境デッキで優勝する連中が喜んでいるのが何より不愉快だった。
『そんな模造品ばかりのデッキで勝って何が嬉しいんだ』と。彼は理解できなかったのだ。
勝つことが楽しいと思う人たちの気持ちを。ある種の憎悪にも似た感情を彼は抱き続けていたのだ。
だから、この世界に来たとき彼は歓喜した。環境デッキという模造品が無い世界。それぞれがオリジナルのデッキで戦う遊戯王の世界に来たことを。
他よりも知識があった。戦略を知っていた。だから此処でなら自分は最強である。主人公キャラも好敵手キャラも、悪役キャラも倒せる。敵はいない。
彼も気づかぬうちに彼は自分以外を見下し、最強になったつもりでいた。だからプロリーグに殴り込み連戦連勝を繰り返し知名度も、名声も手に入れた。本来いるはずのないキャラがいたとき、驚きはしたが問題視はしていなかった。そのキャラのデッキは知っている。どういう動きをしていたのかも知っている。しかも記録にデッキやその動きまで書かれている。
負けるわけがない。そう結論づけていたのだ。
だが・・・・・蓋を開ければその全てが覆された。見たことも聞いたこともないカード、LOというEXWINを食らうという屈辱。
もし彼がデュエルマスターズを知っていればまた少し違ったのかも知えない。だが彼は遊戯王しか知らなかった。興味がわかなかったから知ろうともしなかった。
「くそうくそうくそう!!!」
再び沸上がってくるのは環境デッキによって味わったあの感情。黒い感情は途切れることもなく彼を支配するがごとく埋め尽くしていく。だからこそだろ。この時このタイミングで彼の耳に悪魔の囁きが聞こえてきたのは。
「いいよ・・・君のその顔、その感情・・・・僕が求めているものだ」
「っ!?誰だよ!!?」
暗い夜道の反対側から、黒いフードを被った少年がその口元を釣り上げてやってきた。
「誰だよお前!お前も僕を馬鹿にするのか!!」
彼は他の奴らと同じだと判断し怒りのままに怒鳴りつける。少年にとってはそれがなによりも嬉しかったらしくさらにケタケタと笑い出す。
「ヒャヒャヒャ!いいよ!!その怒り!!君こそふさわしい!!僕の主にふさわしい!!」
この少年(ガキ)何かおかしい。そう思う反面、僕の主という一言が気になって仕方なかった。
「気になる?ねぇ気になるよね?でも!!教えてあげない!!君が僕を受け入れるというまでねぇ!!」
なぜ考えていることがわかったのか、不思議で、それでいて恐ろしいはずなのに、不思議と恐怖は感じなかった。この時に逃げていれば、彼の運命はまた違ったかもしれない。だが・・
「教えろよ!!お前の主って奴になれば僕は最強になれるのか!?」
今彼を渦巻く感情を払拭できるなら、再び最強の座に近づけるなら。それ以外の思考が今の彼にはなかった。
「いい!!いいよ君!!僕の目に狂いはなかった!!」
「いいから答えろよ!!!」
「なれるとも!!最強の中の最凶に!!君は世界を支配できるほどの力を手に入れる!!僕の!!この僕の主となるならね!!」
数日後の新聞、週刊誌の一面はとある公式戦の記事で埋め尽くされた。
『親鬼真司、リベンジ成功。煉獄女王完全敗北』
彼が使役していたモンスターは神と呼ばれた2体のモンスターだった。
二体の神、一体何なんでしょうかね