そろそろ話を進めていかないと。
今日も週刊誌は親鬼真司の特集だった。どうやらまた勝ったらしい。完全勝利、ライフを削られることもなく圧倒的な実力差を見せつけてプロリーグの順位を一気に上げ現在2位。
次回の公式戦では零児との試合となっている。
零児を除き現在親鬼とデュエルをしていないのはプロリーグではチャンピオンのストロング石島のみとなっている。それも全戦全勝。
敗北は以前の雪乃との1戦のみとなる。零児に勝てば親鬼はランキング1位となりチャンピオンへの挑戦権を得る。
リーグの詳しいことは知らないがそういうことらしい。
「ふーん・・・この親鬼って奴なんかあれだよね。なんか前と違ってマジ怖い。顔つきとか」
「・・・・・・雪乃が怒らせた?」
望佳と恵は再放送中の親鬼の試合を見ながらその変化を煎餅片手にまじまじと見ていた。
確かに変わりすぎだとは思うが、敗北して人が変わることはたまによくある事だ。負けたくないという意思が強くなって強くなる。カードプレイヤーにとっては割とあることだ。
「だからそこまで落ち込まなくてもいいんじゃないのか?」
「・・・・・・・・・うん・・・・そうね・・・・・」
台所で絶賛皿洗い中の俺の足にしがみつく雪乃にはいつもの色気も、生気もなく、とんでもなく落ち込んでいた。
言葉とは裏腹に相当ショックなのかどんよりしたまま俯く雪乃。この前負けてからずっとこの調子だ。
「一回負けたくらいだろ?それにこの前お前だって酷い勝ち方したんだから仕方ないんじゃないのか?」
「・・・・・・・・うん・・・・そうね・・・・・」
「次勝つために後で久しぶりにデュエルするか?」
「・・・・・・・・うん・・・・そうね・・・・・」
「俺が雪乃愛してるとか言ったらどうする?」
「・・・・・・・・うん・・・・そうね・・・・・」
「愛してるよ雪乃」
「・・・・・・・・うん・・・・そうね・・・・・」
だめだこりゃ。相当ショックだったみたいだ。これは手に負えん。
そのまま放置しておいてさっさと皿洗いを済ませてしまおう。
・・・・・・今夜の夕飯は雪乃の好物のカルボナーラでも作ってやろうか。
「うひゃー!兄ちゃんカルボナーラとか作れたんだ!ヤヴァイ美味そう!!」
「・・・・見た目に騙されると危険?」
「はっ!?まさかっ!?だが万が一もあるっ!!」
「レシピ見ながら作ったし味見もしたから大丈夫だ。食わないなら俺が食うぞ?」
「「いただきまーす!!」」
取り敢えず一通りのことをやって満足したらしく美味そうにカルボナーラを食べ始める二人。一方雪乃は
「・・・・・いただきます・・・・・・」
好物のはずのカルボナーラの麺を一本ずつ逆に器用に口に運びながら食べていた。感情は相変わらず暗い。
「おりょ?ユキノンまだ元気ないっぽい?」
「・・・・・落ち込み過ぎ?」
「・・・・・・」
何かを返すこともなくちゅるちゅる麺を口に運んでいく。不謹慎だが可愛いと思った俺は悪くないはずだ。
「うむむ・・・このままじゃユキノンが廃人になってしまう!ここはウチが嫌われ役を勝手でましょう!!ユキノン覚悟!!」
「・・・・・あ・・・・」
望佳は雪乃から皿ごと奪い取り蕎麦でも食べるようにズゾゾゾゾと音を立てながら食べ始めた。流石にそれは不味いだろうに・・・
「ゲップ!流石にこれならば反応を・・・・・ありゃ?」
「・・・・・・ごちそうさま・・・・・」
目の前から皿が消えると、そう言ってまた俺の膝に来て顔を埋めて寝転ぶ。
「・・・・・・・怒りが突破していじけた?」
「嘘まじでっ!?ユキノンごめん!!ウチの皿あげるから許して!!ホントにごめん!!!」
「・・・・・お腹減ってない・・・・・だから平気・・・・・・ごめん・・・先に寝てるわ・・・」
フラフラしながら雪乃はいつも通り俺の寝室に入っていく・・・あぁ、そこは変わらないのね。
「「「・・・・・・」」」
なんでだろう。普通なら心配になるはずなのに俺の寝室に迷いなく入っていくあたりただいじけた様にしか思えないから不思議だ。流石に引き摺り過ぎだとは思うが。
数日前に流石に心配になって病院に連れて行ったが体に異常はなかった。だが流石に心配でもある。しかしそれ以外の行動は全くいつも通りなので何とも言えないのだ。
けど、もしトラウマとかになってたら・・・いやまさかそんなわけ無い・・・・よな?
一応明日聞いてみるか。
「ねぇメグミン?」
「・・・・・ピ○ミンみたいに言わないで。何?」
「ちょい提案があるの。耳かして」
「・・・・・何?」
二人がゴニョゴニョと話している。何故だろう?すごく寒気がするんだが?気のせいだよな?気のせいだと言ってくれ。おい頼むから。二人共その怪しい笑みを浮かべてこっちを見ないでくれない?
ちょっ!?ジリジリ寄ってくるな!?なんか怖い!!
あ・・・アァーーーーッ!!!!!
あぁ・・・・・・いつの間にか寝ていたみたい。
今日も気が付けば一日が終わっているのね。明日望佳に謝らないと。
恵にも謝らないとダメね。
最近最低限のことしかしていないわ。それ以外は先生にくっついているか、寝ているかのどちらか。
そうしないと心が折れそうなの。負けたことは悔しい。けどそれ以上に怖い。あの恐怖を忘れたい。考えないようにすればするほど浮かぶあの光景。
足を掴まれて谷に体を放り出されているような感覚が払拭できない。
少しでも気を抜けば飲み込まれる。
恐怖・絶望
ただ負けただけなのに、この感覚が拭えない。
あの日から私はカードに触れることが、見ることすらできないの。デュエルが怖い。カードが怖い。
私のデッキのモンスターたちが私に牙を剥き襲ってくる。『魂を寄越せ』と幻聴まで聞こえてくる。
私のデッキが怒っているのかもしれない。墓地に・・・魂を墓場に送るから、まるで駒のように彼らを扱うから・・・・・
・・・・・・・やめよう。考えれば考えるほど怖くなる。ならどうすればいいか。
考えるのをやめてしまおう。
でも考えてしまう。なら・・・・・
デュエルモンスターズを捨てよう。
そうしたらこの恐怖から解放されるかもしれない。少なくとも少しはマシになるはず。
先生・・・・なんて言うかな?怒る?泣く?引き止める?少なくとも反対するわねきっと。
『一回負けたくらいで凹みすぎるなよ』が口癖みたいな先生だもの。
「・・・・・喉・・・・乾いたわ」
外は暗いし家の中も静か。まだ夜中みたい。みんなを起こさないように静かにしないと・・
先生は今日もリビングのソファーで寝てるのかしら?なら余計に気を付けないと。
ムギュュ
「オボロシャバラヴァ!?」
「ひっ!?」
「ギャビラバ!?!」
足に伝わる何かを踏んだ柔らかい感覚、そのあと聞こえてきた人のような声。
ベットの上に飛び乗り、とうとう私は呪われたのかと覚悟を決めた。
怖かったけど足元を見ると・・・・
「あびゃ・・・・ふぁ・・・」
きっとコメディだったならチーンと効果音が流れそうな表情をした先生が縛られてころがされていた。
『これ食べて元気出して by望佳』と紙を付けられて何故か全身青いツナギと着ていて上半身だけ全開だったけれど・・・・
「一瞬天国のお婆ちゃんが見えたぜ・・・・追い返されたけど」
「・・・・・・ごめんなさい・・・・」
少し経って先生と並ぶようにベットに座る。懸命の処置で意識を取り戻してくれて良かったわ。
「あいつら・・・明日の飯は納豆しか出してやらねぇから覚えとけよ」
「・・・・出してはあげるのね・・・・」
―――キュゥ・・・・・
「・・・・・あ・・」
お腹は減っているみたい。そう言えばほとんど食べていなかったわね。
「悪い腹減ったから食物とってくるわ」
「・・・・・・いらない・・・・」
「いや・・・今の俺の腹の音聞こえたろ?俺もあのあとすぐあの状態にされたからほとんど食ってないんだわ」
「・・・・・そう・・・」
同時にお腹なってたのね。不思議なこともあるのね。そのおかげで私の方は気づかれてないみたいだけど。
「雪乃も何か食べるよな」
「・・・・いらな「おにぎりでいいよな。作ってくるわ」・・・・」
そう言って人の話も聞かず先生は部屋から出ていってしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・ついてこ
「うまい?」
「・・・・・普通・・・・・」
後についてきた雪乃はおにぎりを渡すと最初は口にしなかったものの最終的に少しずつ食べ始めた。
「テレビ付けてもいいか?」
「・・・・・だめ」
「ちぇ・・・この時間帯ならなんか深夜アニメかなんかありそうなのになぁ・・・しらんけど」
寝てる二人に迷惑とかそういう理由もあるだろうけど、やっぱりそれ以上にもしかして・・・・・・・
「デュエル見るの怖い?」
「っ」
くっついている雪乃がブルっと大きく震えた。当たっちゃってたか・・・・
「まさかとは思ってたけど・・・もしかしてトラウマ?」
「・・・・・・悪い?・・・・」
少し機嫌悪そうに雪乃は俺のことを睨みつけていた。けれどそれ以上にとても怯えていた。
そこにはいつものような凛々しさも魅惑の顔もない。ただ何かに怯えている年相応の子供の顔だった。
「そっか・・・ならよ。そのトラウマの払拭方法教えてやろうか?」
「知ってるのっ!?」
すがり付くように這い上がり俺の胸元に飛び込んできた。その表情は悪いが最近の中では一番輝いていた。
「けど多分お前この方法言ったら怒るぞ?」
「それでもいいの!教えて!!お願い!!」
余りにも必死で、目に涙も浮かべながら言い寄ってくる。だから俺もはっきり言ってやった。ビンタの一つも覚悟しながら。
「デュエル辞めれば解決するぞ。もう直接関係しなくなるわけだから」
「・・・・・・・・・え・・・・・?」
辞めれば関わらない。
ある意味最高で最悪の手段